説明

合成繊維の製造方法

【課題】
走行糸条の毛羽、また巻き取られたチーズに存在する糸条毛羽情報を正確かつ詳細に提供する。すなわち、高速下での走行糸条の毛羽、またはチーズ状の毛羽を非接触、すなわち光学的に精度よく毛羽を検知すること、また2000m/分以上の高速巻取りで、かつ2つ以上のチ−ズ上の糸条毛羽を同時に精度よく検知しながら巻き取る合成繊維の製造方法を提供することにある
【解決手段】
溶融紡糸した合成繊維糸条を複数のゴデットローラーで延伸・熱処理しチーズ捲きパッケージに巻き取る合成繊維の製造方法において、延伸部および/または巻取装置にレーザー式毛羽検知装置を配置し、走行糸条および/またはチーズ捲きパッケージ表面の糸条の毛羽にレーザー光を照射し、毛羽を検知しながら巻き取ることを特徴とする合成繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速・多糸条の製糸プロセスにおいて、巻取装置によって糸条をチーズ捲きパッケージに巻き取りつつ、糸条の毛羽を精度よく検知するために改善された合成繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エアバック、シートベルト、重布、テント、およびターポリン等産業用資材用織物の分野において、製織準備工程や製織工程の生産効率をあげるため、工程省略や高速化が進んでいる。高強度で太繊度の産業資材用繊維と言えども、衣料用繊維と同レベルの高次加工工程における生産効率の向上が求められ、また最終製品の一層の品位向上が求められている。
【0003】
そして、それらを阻害している最大の原因が毛羽であることから、産業資材用繊維の毛羽を一層減少させることが強く求められている。産業資材用繊維の毛羽は、通常は単糸の切断によるものであるが、この単糸の切断は主に、高強度糸を生産するための過酷な高倍率熱延伸と、太繊度・多フィラメント糸条からなるための単糸間ばらつきに起因するものである。産業資材用繊維の毛羽を減少させることは基本的に困難な課題であると考えられていた。
【0004】
産業資材用繊維の毛羽を更に減少させるためには、先ず毛羽が発生する原因を追及する必要があり、また、何らかの改善策を講じたら、その効果を評価する必要がある。また、製造工程能力が十分でなく、満足できる毛羽レベルを達成できない場合は、用途に応じて製品を毛羽レベルで区分する等のアクションをとる必要がある。すなわち、先ず毛羽の評価が最も重要であり、精度、確度が高く信頼できる毛羽検知方法およびその検知装置の開発が強く求められてきた。特に、近年産業資材用繊維の製造プロセスの発達は著しく、高速・多糸条プロセスに適した信頼できる毛羽検知方法および検知装置が求められていたが、満足できるものはなかった。
【0005】
従来の毛羽検知方法の一つに、毛羽を検出針等に接触させ、該検出針の振動による機械的変位を電気的に変換して検知する方法および装置が特許文献1に開示されている。特許文献1は製糸工程における走行糸条の毛羽を、走行糸条の走行路と交叉して配置し、正常糸条と近接し、走行糸条の被検出毛羽と接触するように配置した毛羽検出針と、毛羽との接触により発生する毛羽検出針の振動を被検出毛羽として検出する振動検出器とを具備する走行糸条の毛羽検出方法および装置に関するものである。
【0006】
また、特に、糸条に発生した毛羽をチーズ捲きパッケージに巻き取る工程で、チーズ捲きパッケージに巻かれつつある糸条の毛羽を光学センサーを用いて検知する方法およびその検知装置が特許文献2に開示されている。すなわち特許文献2には、合成繊維糸条をワインダーの紙管に巻取ながら、製糸工程で糸条に発生した毛羽を、巻取チーズの表面層で検知する巻取工程において、ワインダーヘッドに発光ダイオードと受光ダイオードを、該発光ダイオードと受光ダイオードとの光軸がチーズの表面に近接するように取付られた装置によって検知する事が記載されている。特許文献2の技術は、糸条をチーズ捲きパッケージに巻取りながら光学的に毛羽を検知するため、最終製品としてのチーズ捲きパッケージの毛羽を検知できること、光学的方法を用いて非接触で検知していること、およびチーズ捲きパッケージ表面の毛羽が巻取糸条によって被覆されるまでの数秒間繰り返して検知できることから信頼性が高い等のメリットがある。
【0007】
同様に、糸条に発生した毛羽をチーズ捲きパッケージに巻き取る工程で検知する方法であって、チーズ捲きパッケージに巻かれつつある糸条の毛羽を画像的に検知する方法および検知装置が、特許文献3に開示されている。すなわち特許文献3は、高速・多糸条の製糸プロセスにおいて、糸条に発生した毛羽を巻取装置上で精度よく検知するため、巻取装置によってチーズ捲きパッケージに巻き取られる糸条の表面を、巻取チーズ捲きパッケージの回転速度とほぼ同期させたストロボで光照射し、チーズ捲きパッケージ表面に観察される毛羽を画像的に検知する方法である。特許文献3記載の技術も、糸条をチーズ捲きパッケージに巻取りながら毛羽を検知するため、製品としてのチーズ捲きパッケージの毛羽を検知できること、CCDカメラによって非接触で検知していること、およびチーズ捲きパッケージ表面の毛羽が巻取糸条によって被覆されるまでの数秒以上繰り返して検知できることから信頼性の高い毛羽情報が得られるメリットがある、優れた方法といえる。
【特許文献1】特許2003−301369号公報
【特許文献2】特開平5−178541号公報
【特許文献3】特開平11−350338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の検出方法は、簡便な装置を用いることができる有用な方法ではあるが、正常糸条と毛羽の分離を糸条の方向変換による遠心力によって行っていること、および糸条は高速で走行しているため瞬間的に検知するため、糸条の毛羽を精度よく検知することができないという欠点があった。また、毛羽検出針が、接触した毛羽によって変形したり破損しやすいため、その管理が煩雑であるという欠点も有していた。
【0009】
また、特許文献2の検知方法のメリットは検知装置の精度および確度が十分で、かつ実用上操作およびメンテナンスも容易な装置が提供されないと上記目的は達成されない。特許文献2において、装置上最も重要な光学的検知部に用いられている発光ダイオードと受光ダイオードを用いた装置は、以下の欠点があり、実用的に前記目的を達成するのは困難であることが分かった。すなわち、発光ダイオードは光路が見えにくいため、光軸調整が極めて困難で、初期の光軸設定は勿論、測定中に光軸がずれても分からないという問題があった。また、発光ダイオードは光軸を細くできないため、細い毛羽が検知し難いが、実際に通常の毛羽検知能力も十分でないという問題もあった。更に、発光ダイオードは距離によって減光してしまうため、2以上のチーズ捲きパッケージを検知しようとした場合、チーズ捲きパッケージの位置によって感度差が生じ、毛羽検知精度が異なるという問題もあった。
【0010】
さらに特許文献3の技術は、巻取装置毎にCCDカメラおよび画像処理システムを必要とするため、装置化コストが高く、研究装置としては有用されるものの、生産に用いる汎用の毛羽検知装置としては適切なものではなかった。
【0011】
すなわち、以上の通り、前記従来技術では、(1)走行糸条および該糸条をチーズ捲きパッケージに巻取りながら毛羽を検知し、製品チーズ捲きパッケージの毛羽情報が得られること、(2)非接触で精度よく毛羽を検知できること、(3)高速でかつ2つ以上の走行糸条および該糸条のチーズの巻取りにおいて、毛羽検知ができること、(4)取扱いが簡便でメンテナンスが容易なことと、(5)生産機用として適用可能な低価格であること、等を同時に満足する毛羽検知方法および装置を提供できなかった。
【0012】
本発明の課題は、前記従来技術によって達成することができなかった、走行糸条の毛羽、また巻き取られたチーズ捲きパッケージに存在する糸条毛羽情報を正確かつ詳細に提供する。すなわち、高速下での走行糸条の毛羽、またはチーズ捲きパッケージの毛羽を非接触、すなわち光学的に精度よく毛羽を検知すること、また2000m/分以上の高速巻取りで、かつ2つ以上のチ−ズ捲きパッケージ上の糸条毛羽を同時に精度よく検知しながら巻き取る合成繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の合成繊維の製造方法は、溶融紡糸した合成繊維糸条を複数のゴデットローラーで延伸・熱処理しチーズ捲きパッケージに巻き取る合成繊維の製造方法において、延伸部および/または巻取装置にレーザー式毛羽検知装置を配置し、走行糸条および/またはチーズ捲きパッケージ表面の糸条の毛羽にレーザー光を照射し、毛羽を検知しながら巻き取ることを特徴とする。
【0014】
さらに次の(1)〜(7)の条件がより好ましい態様である。
(1)前記レーザー光が可視光線の赤色レーザーであること。
(2)前記糸条が少なくとも2本以上の多糸条であること。
(3)前記レーザー光を、走行糸条から0.1〜20mm離れた位置で、糸条方向に対して交叉するように照射すること。
(4)前記レーザー光をWチーズ捲きパッケージ表面から0.1〜20mm離れた位置で、トラバース方向に対して平行に照射すること。
(5)前記チーズ捲きパッケージが少なくとも2個以上直列に並んだ多コップ捲きパッケージであり、該チーズ捲きパッケージの糸条毛羽を一つのレーザー光で同時に検知すること。
(6)前記糸条の巻取速度が2000m/分以上であること。
(7)前記合成繊維の繊度が100〜5000dtex、強度が6〜10cN/dtexの高強度マルチフィラメントであること。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特に2000m/分以上の高速、2糸条以上の多糸条用合成繊維の製造方法において、最終製品として巻き取られる糸条の毛羽情報を精度良く知ることができる。このことによって、毛羽品位のレベルに応じた製品区分方法としても活用することができ、高品位を必要とする用途においては、特品を選別して供給することも可能となる。特に、多糸条の製糸プロセスにおいて、糸条の毛羽を一括して検知することで、精度よく毛羽を検知し、毛羽発生原因の究明および製品チーズの等級区分を可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明の合成繊維の製造方法は主として以下の構成を有する。すなわち、溶融紡糸した合成繊維糸条を複数のゴデットローラーで延伸・熱処理し、チーズ捲きパッケージに巻き取る方法において、延伸部および/または巻取装置にレーザー式毛羽検知装置を配置し、走行糸条および/またはチーズ捲きパッケージ表面の糸条の毛羽にレーザー光を照射し、毛羽を検知しながら巻き取ることを特徴とする。
【0017】
ここで言う糸条毛羽とは糸条の単糸切れの他に、糸条からはみ出した単糸タルミやループ状の突起物などを総称して表現したものであり、また延伸部とは、図5に示す口金18より紡糸したあとのゴデットローラー22から巻取装置13のトラバースチップ11までの工程を示す。
【0018】
次に本発明で使用するレーザー式毛羽検知装置の好ましい様態について述べる。図1は走行糸条の毛羽を検知する方法の一態様の概略斜視図、図2は毛羽検知装置を装備した巻取装置の一態様を示す概略斜視図であり、図3は毛羽検知装置を装備した巻取装置の一態様を示す概略側面図であり、図4は本発明で使用するレーザー式毛羽検知装置の一態様を示す概略フロー図であり、図5は合成繊維の製糸方法の一態様を示す概略正面図である。
【0019】
本発明で使用するレーザー式毛羽検知装置は、照射部と受光部から成り立ち、光路を遮蔽するものがあると、受光部が受けている光量が変化し、これを毛羽と検知する。該毛羽検知装置におけるレーザー光は受光部との位置調整が容易であるなど使用面で赤色や青色等の可視レーザー光が使用できるが、中でも赤色レーザー光が識別し易さやコストの面でより好ましく使用される。
【0020】
また、レーザー光の断面は円形、三角、四角等どのような形状でも良いが、一般には丸断面が使用される。しかしながら、レーザー光の断面積は必要以上に大きいと、単糸径の小さな毛羽がレーザー光を遮光したとき、受光部から流れる光電流の変化率が小さくなり毛羽検知能力が下がる。また、反対にレーザー光の断面積を極端に小さくすると、毛羽の大小の判別が出来ないことがある。
【0021】
従ってレーザー光の断面が円形であれば、直径は0.5〜5mm程度に使用することで、単糸繊度が3dtex以下の毛羽でも精度よく検知することができる。
【0022】
また、レーザー光の特徴として白色ランプのように集光する必要がなく、直進性も高く、射出されたレーザー光は拡散しないため、照射部と受光部の距離の自由度はかなり大きい。この特徴を用いることで、1つのレーザー光で複数のチーズ状巻糸体の毛羽を同時に検知することができる。例えば、1つのスピンドルに4つの紙管を装備することができる4コップ型巻取装置に1セットのレーザー式毛羽検知器を装備することで4つの巻糸体の毛羽を同時に検知することができる。ここで4つの紙管に合成繊維を巻取ることで形成されるチーズ捲きパッケージの断面径は常に同径に巻取る事が、高い毛羽検知精度を得る重要な条件となる。上述したとおり照射部と受光部の距離はレーザー式毛羽検知装置を設定する場所やマシンスペースに合わせて任意に設定されるが、毛羽の検出精度や光軸調整の煩雑となることを考慮すると、2m以内で設定するのが好ましい。
【0023】
次に図4に示した本発明のレーザー式毛羽検知装置フロー図の一態様について説明する。半導体レーザー素子4を内蔵したレーザー光3を射光する照射器1より照射されたレーザー光3線を受光器2により受光しており、ここに毛羽端が通過した場合には、一定の光量を受けていた受光部2から流れる、光電流が減少する方向に変化する。この光電流変化を制御回路14にて電圧変換後、増幅する。増幅された電圧は、比較回路15にて設定電圧と比較され、増幅された電圧の方が大きい場合に、表示部16に毛羽として出力およびカウントされる。また、感度調節器17により、制御回路14にて増幅される電圧を調整することができる。ここで、チーズ捲きパッケージ表面の毛羽を検知する場合には、チーズ捲きパッケージ上に巻き取られた毛羽端は、チーズ捲きパッケージ表面から巻き取られる遠心力に従い分離し、その後、続いて巻き取られる糸条によって、被覆されるまでの数秒間該チーズ表面より分離し続ける。このため、チーズに巻き取られた糸条毛羽によるレーザー光3の遮光状態が糸条毛羽の大きさ、糸条繊度、巻取速度やトラバースの設定等により0.01〜十数秒間検出される。このため、合成繊維の製造条件に合わせ、糸条毛羽を検出後ある設定時間検出した毛羽を1個として、認知するプログラムをデータ表示部16に組み込み設定出来るようにする。このことによって、巻取糸条の毛羽を検知する場合において、1つの毛羽を何度も検出するが、これを1つとしてカウントすることができる。
【0024】
本発明の合成繊維の製造方法における糸条毛羽の検知に使用されるレーザー式毛羽検知装置は延伸部の糸条延伸部に設けて単独で使用するか、または巻取装置に設けて単独で使用する場合が主であるが、より毛羽検出の精度を上げる目的では延伸部と巻取装置両方を同時に使用することが好ましい。
【0025】
次に本発明の合成繊維の製造方法における糸条延伸部の走行糸条毛羽を検知する方法について述べる。
【0026】
合成繊維の製造工程において、毛羽の発生が最も多い箇所は、延伸部である。よって、延伸部以降の走行糸条を検知することで、巻き取ったチーズ捲きパッケージに含まれる毛羽数を知ることができる。発生した毛羽は、糸条本体より分離していることが多く、走行糸条の毛羽を検知する場合において、ターン部に限定して前記毛羽検知装置を配置する必要はない。従って、延伸部の走行糸条の毛羽を検知する場合においては前記毛羽検知装置は任意に配置することができる。
【0027】
レーザー光は、走行糸条から0.1〜20mm離れた位置で、糸条方向に対して交叉するように照射されることが好ましい。より好ましくは0.5〜10mmである。糸条とレーザー光との距離が0.1mm以下であると、糸条の張力の変動や気流等の外乱により走行糸条が揺れ、走行糸条がレーザー光を遮光し毛羽として検知してしまうことが考えられ、20mm以上離れている場合には、単糸タルミや小さな毛羽はレーザー光を遮光することができないため、検知能力が低下してしまう。
【0028】
走行糸条の毛羽を検知する方法は図1に示すように、2本以上の走行糸条5に対して、照射器1および受光器2を設置し、該糸条に対して交叉するようにレーザー光3を照射し、毛羽6によりレーザー光3を遮光することにより糸条毛羽を検知する。ここで、照射器1・受光器2の設置場所の制限は無いが、好ましくは延伸部の走行糸条の揺れが少ない部分に設置することが望ましい。実際には、巻き取り直前の走行糸条の張力が高い箇所、または、延伸部最終ローラーのターン部などの糸揺れが少ない箇所に、レーザー式毛羽検知装置を設置するのが好ましい。
【0029】
次に本発明の合成繊維の製造方法におけるチーズ捲パッケージ表面上の糸条毛羽を検知する方法について述べる。
【0030】
巻取装置のチーズ捲パッケージ表面の糸条毛羽を検知する際は、毛羽端は遠心力によって糸条本体から分離し、チーズ捲パッケージ表面上に飛び出しているため、レーザー光を照射することで、レーザー光路を毛羽端が遮光する確率が高く極めて高い信頼性をもって毛羽を検知することができる。特に、糸条毛羽端はチーズの回転と共に繰り返しレーザー光を遮光し、毛羽端が続いて巻取られる糸条によって被覆されるまで検知する。
【0031】
実際には1つの毛羽を何度も検知するが、かかる連続して検知される毛羽を1つの毛羽として処理するよう、デ−タ表示部に内蔵されている処理器で処理される。従って、1つの毛羽を何回も繰り返して検知する本発明の毛羽検知方法は、走行糸条の毛羽を瞬間的に検知する従来の毛羽検知方法に比べ極めて精度が高く、信頼性の高いデ−タが得られる。
【0032】
チーズ表面の毛羽検知においては、レーザー光が、チーズ表面から0.1〜20mm離れた位置で、トラバース方向に対し平行に照射されることが好ましい。より好ましくは0.5〜10mmである。
【0033】
該チーズ表面とレーザー光との距離が0.1mm以下であると、高速回転しているスピンドルの振動により、巻取りチーズが振動し、レーザー光が振動したチーズ表面に接触して毛羽として判定してしまうことがある。一方20mm以上離れている場合には、単糸タルミや小さな毛羽はレーザー光を遮光することができないため、検知能力が低下してしまうことがある。
【0034】
次に、毛羽検知装置を装備した巻取装置の一態様について図2および図3を用いて説明する。2個以上の紙管10を挿入することができるスピンドル9とローラーベイル8、トラバースチップ11を格納したワインダーヘッド12を装備した巻取装置の一端にレーザー光照射器1より照射したレーザー光3と、巻取りチーズ7表面の毛羽検知領域を介して、他端に該レーザー光受光器2を設置することによって、巻取糸条の毛羽6がレーザー光を遮光時、該糸条の毛羽を検知しつつ合成繊維を製造する。該巻取装置のトラバース機構として、トラバースチップ11を用いているが、その他にも、セラミックス素材などを用いた羽根トラバース機構による、巻取装置でも同様の毛羽検知装置を配備した、合成繊維の製造を行うことができる。
【0035】
ここで、チーズ7は時間の経過と共に直径が大きくなり、ワインダーヘッド12はそれに伴い垂直方向へ押し上げられるように移動していく。図3のように、照射器1・受光器2をワインダーヘッド12に取り付ることにより、ワインダーヘッド12の移動と同じく移動する。ここで重要なことは、巻取りチーズ捲きパッケージ7表面とレーザー光3との距離が、0.1〜20mmの間に調整できることであり、さらに最も重要なことは、最終製品に含まれる毛羽を巻取装置にて検知することで、正確に把握することができることである。
【0036】
本発明の合成繊維の製造方法は、糸条の毛羽を精度よく検知するものであり、繊維素材、繊度、物性、糸条数、および巻取速度等について、あらゆる分野に適用可能であるが、特に従来の方法・装置では適用できなかった用途、条件などにも適用できることが特徴である。
【0037】
次に本発明の合成繊維の製造方法の特に好ましい態様の例について述べる。
繊維素材は、ポリヘキサメチルアジパミド、ポリカプロラクタム、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドおよびポリ乳酸等の産業資材用マルチフィラメント繊維の製造に有用される。そして、特に、2000m/分以上、好ましくは3000m/分以上の高速で巻取り、かつ2糸条以上、好ましくは4糸条以上の多糸条で効率的に製糸するプロセスに有用である。
【0038】
産業資材用繊維は、高強度、高タフネス、高耐久性等が必要であるが、特に重要な高強度を達成するために高倍率延伸・高温熱処理をして製糸するため、糸条の一部フィラメントが切断し、毛羽が発生し易い。しかし、特に織物用として、合理化された整経、製織工程での効率と収率向上、およびエアバッグ、シ−トベルト、重布、テント、タ−ポリン等の最終製品の品位、特に毛羽に起因する欠点を最小にすることが重要な課題になっている。
【0039】
従って、本発明は、特に高強度織物用原糸、具体的には繊度が100〜5000dtex、フィラメント数が20〜1500、強度が6〜10cN/dtexの産業資材繊維用の毛羽検知方法として有用される。すなわち、太繊度、多フィラメント、および高強度糸に適用するほど本発明の効果が得られる。しかしながら、繊度が5000dtexを越えたり、フィラメント数が1500を越えたり、強度が10cN/dtexを越える場合は、通常は毛羽の数が相当多いため、特に本発明の精度の良い毛羽検知方法を適用する必要もない。
【0040】
次に本発明の合成繊維製の製造方法について、産業用ナイロン66繊維の製糸方法の一態様を例に図5を用いて以下に説明する。
【0041】
硫酸相対粘度3.2〜3.8のナイロン66チップを用いてエクストルダー型紡糸機で溶融紡糸する。紡糸温度は280〜310℃とし、口金18細孔を通して紡糸する。紡出糸条5は、常温の10〜25℃の冷風装置19によって冷却固化される。ついで、該糸条は糸道規制ガイド20によって集束された後、平滑剤、静電剤、界面活性剤を主成分とする油剤をオイリング装置21にて付与され引き続き、ゴデットローラー群22〜26に捲回され、所定の引取速度で引取り、引き揃えられる。引取速度は300〜3000m/分、通常は500〜2000m/分である。引取糸条は一旦巻き取ることなく、順次高速で回転する複数の対ゴデットローラー27〜28に捲回させ、該ローラの速度差によって延伸する。通常は2段以上の多段延伸したのち、弛緩処理をして巻き取る。延伸はガラス転移温度以上で熱延伸を行い、最終の延伸および熱セット温度は通常230〜250℃の高温で行う。延伸倍率は通常2〜6倍の範囲で行う。なお、巻取速度は通常2000〜6000m/分であり、巻取張力が通常20〜250gfの条件下で巻取装置にてチーズ状に巻き上げる。ここで、毛羽検知装置はゴデットローラー群22〜30の走行糸条近傍またはターン部近傍および巻取装置13に配置し、合成繊維を製造する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明の態様をより具体的に説明する。なお、実施例中の糸条の繊度、強度および伸度は、いずれもJIS L−1017に準拠して測定した。
【0043】
(実施例1)
硫酸相対粘度3.7のナイロン66チップをエクストルダー型紡出機から295℃で溶融紡糸した。口金は孔径0.3mmφで68ホールを2群配置したものを用いた。口金を擁する四個の紡糸パックから8糸条を紡出し、直接紡糸延伸プロセスで420デニール、68フィラメントのエアバック用原糸を製糸した。
【0044】
延伸条件としては、2段延伸熱処理−リラックスプロセス、すなわち給油ローラー、給糸ローラー、1段延伸ローラー、2段延伸/熱処理ローラー、および張力調整ローラーなどを順次通過させ、延伸熱処理およびリラックス処理を行う条件を適用し、次いで4糸条づつに分割し、各糸条毎に交絡処理を施して集束性を付与した後、4コップ型巻取装置にて15kgチーズ捲きパッケージ(278千m/チーズ捲きパッケージ)として巻き取った。
【0045】
そして、延伸部において、4糸条づつに分割後の最終ローラーターン部に1セットづつ計2台の大広社製レーザー式毛羽検知装置(KH−600−TUP)を設置し、走行糸条から、2mm離れた毛羽検知領域に丸断面の直径1mmφの赤色レーザー光を照射し、糸条の毛羽およびループが該赤色レーザー光を遮光した時、それを毛羽として4糸条を一括に検知させた。得られた4チーズの毛羽個数を測定した結果を表1に示した。
【0046】
表1の結果から明らかなように、実施例1においてチーズ状に巻かれた最終製品の毛羽情報を知ることができる。
【0047】
(実施例2)
実施例1と同条件で合成繊維を製造し、1つのスピンドルに4つの紙管を装備し巻き取る事が出来る4コップ型巻取装置2台に、1セットづつ計2台の実施例1と同仕様のレーザー式毛羽検知装置を設置した。この時、照射器と受光器は1.5m離れており、レーザー光の条件は実施例1と同じとした。但し、同一の毛羽を何度も検知することを防ぐため、7秒間連続して検知した毛羽を1個の毛羽と認知するプログラムを作成し設定した。このようにして得られた4チーズの毛羽個数の測定結果を表1に示した。表1の結果から明らかなように、実施例2において走行糸条の毛羽情報を知ることができる。
【0048】
(実施例3)
実施例1と同じ延伸部と実施例2と同じ巻取装置の両方に実施例1,2と同じレーザー式毛羽検知装置設置し、走行糸条とチーズ上の糸条毛羽を測定しその結果を表1に示した。その他の製造条件は実施例1、2と同じ条件とした。表1の結果から明らかなように、実施例3において走行糸条の毛羽情報を更に精度良く知ることができる。
【0049】
(比較例1〜3)
実施例1の比較例として、赤色レーザーの代わりに、発光ダイオード式および光電管式毛羽検知装置を用いた。またレーザー式毛羽検知装置の代わりに、接触式のピアノ線付き振動検出装置を設置し、毛羽およびループがピアノ線に接触した時に、その振動を検出し毛羽として検知させた場合の毛羽検知データを示した。表1の結果から、比較例1〜3では、非常に大きな毛羽のみを検知することができ、正確にチーズ状に巻き取られた最終製品の毛羽情報を知ることができなかった。
【0050】
(比較例4、5)
実施例2との比較例として、赤色レーザーの代わりに、発光ダイオード式および光電管式毛羽検知装置を用いた場合の毛羽検知データを示した。表1の結果から、比較例4、5では、非常に大きな毛羽のみを検知することができ、正確にチーズ状に巻き取られた最終製品の毛羽情報を知ることができない。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の合成繊維の製造方法における走行糸条の毛羽を検知する方法の一態様の概略斜視図である。
【図2】本発明の合成繊維の製造方法における毛羽検知装置を装備した巻取装置の一態様を示す概略斜視図である。
【図3】本発明の合成繊維の製造方法における毛羽検知装置を装備した巻取装置の一態様を示す概略側面図である。
【図4】本発明の合成繊維の製造方法における毛羽検知装置の一態様を示す概略フロー図である。
【図5】本発明の合成繊維の製造プロセスの一態様を示す概略正面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 照射器
2 受光器
3 レーザー光
4 半導体レーザー素子
5 糸条
6 糸条毛羽
7 チーズ
8 ローラーベイル
9 スピンドル
10 紙管
11 トラバースチップ
12 ワインダーヘッド
13 巻取装置
14 制御回路
15 比較回路
16 表示部
17 感度調節部
18 口金
19 冷風装置
20 糸道規制ガイド
21 オイリング装置
22〜30 ゴデットローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融紡糸した合成繊維糸条を複数のゴデットローラーで延伸・熱処理しチーズ捲きパッケージに巻き取る合成繊維の製造方法において、延伸部および/または巻取装置にレーザー式毛羽検知装置を配置し、走行糸条および/またはチーズ捲きパッケージ表面の糸条の毛羽にレーザー光を照射し、毛羽を検知しながら巻き取ることを特徴とする合成繊維の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光が可視光線の赤色レーザーであることを特徴とする請求項1に記載の合成繊維の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光を、走行糸条から0.1〜20mm離れた位置で、糸条方向に対して交叉するように照射することを特徴とする請求項1または2記載の合成繊維の製造方法。
【請求項4】
前記レーザー光を、チーズ捲きパッケージ表面から0.1〜20mm離れた位置で、トラバース方向に対して平行に照射することを特徴とする請求項1または2記載の合成繊維の製造方法。
【請求項5】
前記チーズ捲きパッケージが少なくとも2個以上直列に並んだ多コップ捲きパッケージであり、該チーズ捲きパッケージの糸条毛羽を一つのレーザー光で同時に検知することを特徴とする請求項1、2、4のいずれか1項記載の合成繊維の製造方法。
【請求項6】
前記糸条の巻取速度が2000m/分以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の合成繊維の製造方法。
【請求項7】
前記合成繊維の繊度が100〜5000dtex、強度が6〜10cN/dtexの高強度マルチフィラメントであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の合成繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−56697(P2006−56697A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242417(P2004−242417)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】