説明

合金の潤滑圧延方法および合金の潤滑圧延装置

【課題】同一種類の潤滑油を用いながら被圧延材の噛み込み性を向上させることができるようにする。
【解決手段】粗圧延機3において潤滑圧延が行われる前に、被圧延材10であるアルミニウム合金の先端部が加熱炉2により加熱される。これにより、アルミニウムおよびマグネシウムの拡散係数や酸化物の生成しやすさ等から、先端部の最表層にマグネシウムが偏析される。よって、粗圧延機3における潤滑圧延時に潤滑油が用いられた際に、先端部の最表層の油性効果が変化され、先端部の摩擦係数が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油を用いて合金を潤滑圧延する合金の潤滑圧延方法および合金の潤滑圧延装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱間圧延ラインに潤滑剤供給装置を具備した熱間圧延機列を配置し、ワークロールに潤滑油を供給しつつ、被圧延材を圧延する潤滑圧延が行われている。
【0003】
潤滑圧延における潤滑性の制御は、材料の表面品質や圧延性に重要な影響を及ぼすことが知られている。アルミニウムの熱間圧延(潤滑圧延)工程などでは、通常、様々な事前評価の結果に基づいて、予め最適な潤滑油を1種類選定しておき、これをリサーキュレーション、或いは、油水混合供給により使用して、潤滑圧延を行っている。潤滑油においては、材料の最表層との関係が重要であり、潤滑油の潤滑性能を向上させるために、通常、潤滑油には、油性剤、極圧剤等が添加されている。
【0004】
また、金属の圧延工程では、多くの場合、1種類の潤滑油が使用されており、1種類の潤滑油で目的に応じた潤滑性の制御を行うために、潤滑油の供給方法が工夫されている。
【0005】
例えば、特許文献1に開示されている潤滑剤供給方法においては、圧下量及びワークロール直径から演算した接触弧長と、ワークロールの周速度とに基づいて、ロールバイト入側に供給する潤滑剤の供給量を決定している。また、被圧延材の噛み込みスリップの発生を防止するために、被圧延材の噛み込みを開始した時点で、決定した供給量より少ない供給量の潤滑剤がワークロール表面に供給された状態になるようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−272379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
潤滑圧延においては、特許文献1にも記載されているように、被圧延材の噛み込み性を向上させることが望まれている。そこで、噛み込みが開始される先端部のみに潤滑油を落として噛み込み性を向上させることが考えられるが、この場合、一時的に圧延速度や油供給量を変化させる必要があるとともに、被圧延材の先端部が噛み込んだ後には、通常の圧延速度や油供給量に戻す必要があり、生産効率が非常に悪い。
【0008】
また、複数種類の潤滑油を必要に応じて使い分けることも考えられるが、潤滑油の使い分けは煩雑であり、潤滑油を使い分けたとしても、潤滑油同士が混ざり合うことによってリサーキュレーションが困難になる。
【0009】
そこで、同一種類の潤滑油を供給することで、被圧延材の定常部の潤滑性を低下させることなく、被圧延材の噛み込み性を向上させることが望まれる。
【0010】
本発明の目的は、同一種類の潤滑油を用いながら被圧延材の噛み込み性を向上させることが可能な合金の潤滑圧延方法および合金の潤滑圧延装置を提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
本発明の合金の潤滑圧延方法は、主成分に副成分が添加された合金を潤滑油を用いて潤滑圧延する合金の潤滑圧延方法であって、前記潤滑圧延を行う前に、前記合金の特定部分を加熱することによって、当該特定部分の最表層に前記副成分を偏析させることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、潤滑圧延が行われる前に、被圧延材である合金の特定部分、例えば、合金の先端部が加熱されることによって、主成分および副成分の拡散係数や酸化物の生成しやすさ等から、特定部分の最表層に副成分が偏析される。これにより、潤滑圧延時に潤滑油が用いられた際に、特定部分の最表層の油性効果が変化され、特定部分の摩擦係数が高くなる。よって、噛み込み性が要求される部分を特定部分とすることによって、同一種類の潤滑油を用いながら、定常部の潤滑性を低下させることなく、即ち、定常部の表面性や圧延性などを維持しつつ、被圧延材である合金の噛み込み性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の合金の潤滑圧延方法において、前記主成分がアルミニウムであってよい。上記の構成によれば、合金の主成分をアルミニウムとすることによって、アルミニウムの拡散係数や酸化物の生成しやすさ等から、加熱された特定部分の最表層に副成分を好適に偏析させることができる。
【0014】
また、本発明の合金の潤滑圧延方法において、前記潤滑油が、エステル、脂肪酸、および、アルコールの1つ以上を含有していてよい。上記の構成によれば、潤滑油がエステル等の油性剤を含有していることによって、加熱された特定部分における摩擦係数を好適に高めることができる。
【0015】
また、本発明の合金の潤滑圧延方法において、前記特定部分の加熱温度が420℃以上620℃以下であってよい。上記の構成によれば、合金の特定部分を420℃以上620℃以下、好ましくは480℃以上540℃以下で加熱することにより、特定部分の最表層に副成分を十分に偏析させることができる。
【0016】
また、本発明の合金の潤滑圧延方法においては、加熱後の前記特定部分の最表層において、主成分の成分量をM(wt%)、副成分の成分量をM(wt%)とすると、M/M>0.4の関係を満たしていてよい。上記の構成によれば、M/M>0.4の関係を満たすように、特定部分の最表層に副成分を偏析させることで、特定部分の摩擦係数を十分に高めることができる。
【0017】
また、本発明の合金の潤滑圧延方法において、前記副成分が、マグネシウム、マンガン、亜鉛、銅、および、シリコンの1つ以上であってよい。上記の構成によれば、合金がマグネシウム等の副成分を含有していることで、加熱された特定部分の最表層に副成分を好適に偏析させることができる。
【0018】
また、本発明の合金の潤滑圧延方法において、前記特定部分が、前記合金の先端部および/又は後端部であってよい。上記の構成によれば、合金の先端部および/又は後端部といった噛み込み性が要求される箇所を特定部分として加熱することによって、被圧延材である合金の噛み込み性を好適に向上させることができる。
【0019】
また、本発明の合金の潤滑圧延装置は、主成分に副成分が添加された合金を潤滑油を用いて潤滑圧延する合金の潤滑圧延装置であって、前記潤滑圧延を行う潤滑圧延手段と、前記潤滑圧延手段の上流側に設けられ、前記合金の特定部分の最表層に前記副成分が偏析するように、前記特定部分を加熱する加熱手段と、を有することを特徴とする。
【0020】
上記の構成によれば、潤滑圧延手段において潤滑圧延が行われる前に、被圧延材である合金の特定部分、例えば、合金の先端部が加熱手段により加熱されることによって、主成分および副成分の拡散係数や酸化物の生成しやすさ等から、特定部分の最表層に副成分が偏析される。これにより、潤滑圧延手段における潤滑圧延時に潤滑油が用いられた際に、特定部分の最表層の油性効果が変化され、特定部分の摩擦係数が高くなる。よって、噛み込み性が要求される部分を特定部分とすることによって、同一種類の潤滑油を用いながら、定常部の潤滑性を低下させることなく、即ち、定常部の表面性や圧延性などを維持しつつ、被圧延材である合金の噛み込み性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明に係る合金の潤滑圧延方法および合金の潤滑圧延装置について説明する。
【0022】
(潤滑圧延装置1の構成)
本実施の形態における合金の潤滑圧延装置(以下、潤滑圧延装置)1は、図1に示すように、潤滑油を用いて合金を潤滑圧延するものである。本実施の形態においては、アルミニウムを主成分とし、マグネシウムが副成分として添加された5000系アルミニウム合金を被圧延材10として使用するものとして説明する。また、本実施の形態において、潤滑油には、オレイン酸等の油性剤が含まれている。
【0023】
図1に示すように、潤滑圧延装置1は、被圧延材10を加熱する加熱手段としての加熱炉2を上流側に有し、加熱炉2の下流側に潤滑圧延(粗ミル)を行う潤滑圧延手段としての粗圧延機3を有している。なお、粗圧延機3の下流側には、潤滑圧延(仕上ミル)を行う仕上げ圧延機(図示せず)が設けられている。
【0024】
加熱炉2と粗圧延機3との間、粗圧延機3と仕上げ圧延機との間には、被圧延材10を搬送する搬送手段(図示せず)が設けられている。なお、この搬送手段は、複数の駆動ロール又はフリーロールが連設されて構成されていてよい。
【0025】
加熱炉2は、潤滑圧延を行う前の被圧延材10をホットチャージ(常温よりも高い温度に温められた状態にすること)するものであるが、本実施の形態においては、ホットチャージを行う構成に加えて、被圧延材10の特定部分(本実施の形態では先端部)の位置を検知する位置センサ31と、被圧延材10の先端部の温度を検知する温度センサ32と、被圧延材10の先端部を加熱するバーナー33とを有している。
【0026】
ここで、マグネシウムが添加されたアルミニウム合金においては、マグネシウムがアルミニウムよりも酸化されやすいことや、マグネシウムの拡散係数がアルミニウムの拡散係数よりも大きいことにより、アルミニウム合金の最表層において、マグネシウムの濃化が起こることが知られている。本実施の形態の加熱炉2は、アルミニウム合金である被圧延材10の先端部をバーナー33で加熱することによって、先端部の最表層に副成分であるマグネシウムを強制的に偏析させる構成にされている。ここで、最表層とは、被圧延材10の表面から0.2μmの深さの部分を指す。
【0027】
加熱炉2におけるホットチャージ以外の動作は、制御装置50により制御されている。制御装置50は、CPU51と、ROM(Read Only Memory)52と、RAM(Random Access Memory)53と、インターフェイス回路54と、タイマ55と、バーナー33を制御する加熱制御回路56とを備えている。
【0028】
CPU51は、加熱炉2におけるホットチャージ以外の動作を制御する。ROM52には、CPU51により実行されるプログラム等や、恒久的に用いるデータ等が記憶されている。RAM53には、CPU51が処理を行う際に用いるデータやプログラム等が一時的に記憶される。例えば、被圧延材10の先端部の位置や、バーナー33による加熱を開始してから経過した時間や、被圧延材10の先端部の温度が記憶される。
【0029】
CPU51は、インターフェイス回路54を介して位置センサ31から入力された信号に基づいて、被圧延材10の先端部をバーナー33の真上に位置させる。そして、CPU51は、加熱制御回路56を制御することによって、所定時間が経過するまで、所定温度で被圧延材10の先端部をバーナー33で加熱させる。本実施の形態において、所定温度は420℃以上620℃以下であり、好ましくは480℃以上540℃以下である。また、本実施の形態において、所定時間は1時間以上である。
【0030】
また、CPU51は、加熱が行われている間、インターフェイス回路54を介して温度センサ32から入力された信号に基づいて、被圧延材10の先端部の温度を所定温度に保つように加熱制御回路56を制御する。そして、CPU51は、タイマ55からの信号に基づいて、所定時間が経過したと判定した場合に、加熱制御回路56を制御して、バーナー33による加熱を停止させる。
【0031】
粗圧延機3は、被圧延材10を狭持して所定の圧延荷重で圧下する一対のワークロール42と、ワークロール42による圧下を補強する一対のバックアップロール41と、ワークロール42の表面に潤滑油を噴射するスプレーノズル43と、ワークロール42を回転させるモータ(図示せず)とを有している。被圧延材10は、まず最初にその先端部が一対のワークロール42によって噛み込まれ、ワークロール42の回転によって、先端部から後端部にわたって潤滑圧延(粗ミル)されることになる。なお、粗ミルされた被圧延材10は、一対のワークロールと一対のバックアップロールとを複数有する仕上げ圧延機において何度も往復通過されることにより、所望の板厚に潤滑圧延(仕上ミル)される。
【0032】
(潤滑圧延装置1の動作)
次に、図2の潤滑圧延処理ルーチンを用いて、潤滑圧延装置1の動作について説明する。まず、被圧延材10を加熱炉2に投入する(S1)。そして、図1に示すように、被圧延材10の先端部がバーナー33の真上になるように位置決めする(S2)。次に、被圧延材10の先端部をバーナー33で所定時間が経過するまで所定温度で加熱する(S3)。これにより、アルミニウムよりも酸化されやすく、アルミニウムよりも拡散係数が大きいマグネシウムが先端部の最表層に偏析される。
【0033】
ここで、加熱後の被圧延材10の先端部の最表層において、アルミニウムの成分量をM(wt%)、マグネシウムの成分量をM(wt%)とすると、M/M>0.4の関係を満たしている。
【0034】
その後、被圧延材10のホットチャージを行う(S4)。なお、ホットチャージを行う前に、被圧延材10の先端部を冷却してもよい。また、S4のホットチャージと、S3の被圧延材10の先端部の加熱とは、順番が逆であってもよい。そして、温められた被圧延材10を粗圧延機3に向かって送り出し、粗圧延機3において潤滑圧延(粗ミル)を行う(S5)。潤滑圧延(粗ミル)は、被圧延材10を一対のワークロール42で挟持して、所定の圧延荷重で圧下しながら下流に向かって搬送することにより行われる。潤滑圧延が行われている間、スプレーノズル43からワークロール42の表面に潤滑油が噴射される。
【0035】
ここで、先に加熱炉2において被圧延材10の先端部が加熱されて、先端部の最表層にマグネシウムが偏析しているので、先端部の最表層の油性効果が変化し、先端部の摩擦係数が高くなっている。これにより、先端部の噛み込み性が向上されているから、一対のワークロール42による被圧延材10の先端部の噛み込みがスムーズに行われる。
【0036】
このように、潤滑圧延が行われる前に、被圧延材10であるアルミニウム合金の先端部が加熱されることによって、アルミニウムおよびマグネシウムの拡散係数や酸化物の生成しやすさ等から、先端部の最表層にマグネシウムが偏析される。これにより、潤滑圧延時に潤滑油が用いられた際に、先端部の最表層の油性効果が変化され、先端部の摩擦係数が高くなる。よって、同一種類の潤滑油を用いながら、定常部の潤滑性を低下させることなく、即ち、定常部の表面性や圧延性などを維持しつつ、被圧延材10であるアルミニウム合金の噛み込み性を向上させることができる。
【0037】
また、合金の主成分をアルミニウムとすることによって、アルミニウムの拡散係数や酸化物の生成しやすさ等から、加熱された先端部の最表層にマグネシウムを好適に偏析させることができる。
【0038】
また、潤滑油には、オレイン酸等の油性剤が含まれている。これにより、後述の試験結果で述べるように、加熱された被圧延材10の先端部における摩擦係数を好適に高めることができる。
【0039】
また、被圧延材10の先端部が420℃以上620℃以下、好ましくは480℃以上540℃以下で加熱される。これにより、後述の試験結果で述べるように、先端部の最表層にマグネシウムを十分に偏析させることができる。
【0040】
また、後述の試験結果で述べるように、M/M>0.4の関係を満たすように、先端部の最表層にマグネシウムを偏析させることで、先端部の摩擦係数を十分に高めることができる。
【0041】
また、被圧延材10であるアルミニウム合金がマグネシウムを副成分として含有していることで、加熱された先端部の最表層にマグネシウムを好適に偏析させることができる。
【0042】
また、噛み込み性が要求される被圧延材10の先端部を加熱することによって、被圧延材10であるアルミニウム合金の噛み込み性を好適に向上させることができる。
【0043】
その後、被圧延材10を仕上げ圧延機に送り出し、仕上げ圧延機において仕上げ圧延(仕上ミル)を行う(S6)。そして、本ルーチンを終了する。
【0044】
なお、被圧延材10の先端部の加熱は、粗圧延機3における潤滑圧延(粗ミル)の後であって、仕上げ圧延機における仕上げ圧延(仕上ミル)の前に行われる構成であってもよい。このような構成であっても、仕上げ圧延機において、被圧延材10の先端部の噛み込みをスムーズに行うことができる。
【0045】
また、被圧延材10の後端部についても、先端部と同様に、バーナー33で加熱されることによって、マグネシウムが後端部の最表層に偏析される構成であってもよい。また、被圧延材10の後端部のみがバーナー33で加熱される構成であってもよい。マグネシウムを後端部の最表層に偏析させることにより、被圧延材10が何度も往復通過される仕上げ圧延機において、被圧延材10の先端部だけでなく、被圧延材10の後端部の噛み込みをスムーズに行うことができる。
【0046】
(摩擦係数の測定結果)
図3は、摩擦係数の測定結果を示したものである。本試験では、マグネシウムを副成分として含有するアルミニウム合金(A5182)を用い、潤滑油としてドデカンを用いて、ドデカン中におけるアルミニウム合金の摩擦係数を、加熱処理前後で測定した。また、油性剤としてオレイン酸又はエステル(ステアリン酸ブチル)を用い、これを5wt%添加したドデカン中におけるアルミニウム合金の摩擦係数を、加熱処理前後で測定した。加熱は540℃で7時間行った。なお、摩擦係数の測定は、高千穂精機製ボールオンディスク型摩擦摩耗試験機を使用して行った。
【0047】
図3に示すように、オレイン酸又はエステルをドデカンに添加した場合、加熱処理を行っていないアルミニウム合金において摩擦係数の低減効果がみられた。一方、加熱処理を行ったアルミニウム合金においては、摩擦係数にほとんど違いがなかった。このことから、油性剤を添加した潤滑油においては、加熱処理を行っていないアルミニウム合金よりも、加熱処理を行ったアルミニウム合金の方が、摩擦係数が高くなることがわかる。なお、油性剤は、オレイン酸以外の脂肪酸やアルコールであってもよい。
【0048】
(表面組成の分析結果)
表1は、表面組成の分析結果を示したものである。本試験では、マグネシウムを副成分として含有するアルミニウム合金を用い、加熱処理を行っていないアルミニウム合金の最表層(アルミニウム合金の表面から0.2μmの深さの部分)の金属組成と、加熱処理を行ったアルミニウム合金の最表層の金属組成とを、それぞれ測定した。加熱は540℃で7時間行った。なお、表面の金属組成の測定は、Nikon製ESEM−2700/EDAX低真空走査型電子顕微鏡を使用し、加速電圧5kV、倍率100倍で行った。
【0049】
【表1】

【0050】
加熱処理により、アルミニウム合金の被加熱部の最表層におけるマグネシウムの割合(wt%)が大きく増加していることがわかる。
【0051】
図4は、加熱条件を異ならせて、アルミニウム合金の被加熱部の最表層におけるアルミニウムとマグネシウムの割合を測定した結果を示したものである。加熱処理を行っていないアルミニウム合金(未加熱材)においては、マグネシウムの割合が10%未満であった。一方、加熱条件が420℃で1時間のアルミニウム合金(420℃×1h)においては、マグネシウムの割合が30%以上であった。加熱条件が540℃で7時間のアルミニウム合金(540℃×7h(1)、540℃×7h(2))においては、1回目(540℃×7h(1))では、マグネシウムの割合が60%以上であったが、2回目(540℃×7h(2))では、マグネシウムの割合が30%以上で、加熱条件が420℃で1時間のアルミニウム合金と大差がなかった。
【0052】
ここで、アルミニウム合金の加熱温度の上限値は620℃である。これは、アルミニウム合金の加熱温度が620℃以上であれば、アルミニウムが軟化することによって、マグネシウムの成分が被加熱部の最表層に偏析しにくくなるからである。よって、アルミニウム合金の加熱温度を420℃以上620℃以下とすることにより、マグネシウムの成分が被加熱部の最表層に好適に偏析する。また、アルミニウム合金の加熱温度は、480℃以上540℃以下が好ましい。加熱温度が480℃以上であれば、図4に示すように、マグネシウムの成分が50%以上、被加熱部の最表層に偏析する。また、加熱温度が540℃以下であれば、アルミニウム合金の被加熱部の加熱を好適に実施することができる。以上から、アルミニウム合金を420℃以上620℃以下、好ましくは、480℃以上540℃以下で1時間以上加熱させれば、マグネシウムの成分を被加熱部の最表層に十分に偏析させることができることがわかる。
【0053】
図5は、図4のグラフを、Mg/Alの比で表わしたグラフである。加熱処理を行っていないアルミニウム合金(未加熱材)においては、Mg/Alの比が0.1未満である一方、加熱条件が420℃で1時間のアルミニウム合金(420℃×1h)においては、Mg/Alの比が0.4以上である。このことから、アルミニウムの成分量をM(wt%)、マグネシウムの成分量をM(wt%)とすると、M/M>0.4の関係を満たすように、マグネシウムの成分を被加熱部の最表層に偏析させることで、被加熱部の摩擦係数を十分に高めることができることがわかる。
【0054】
(本実施の形態の概要)
以上のように、本実施の形態の合金の潤滑圧延方法は、主成分に副成分が添加された合金を潤滑油を用いて潤滑圧延する合金の潤滑圧延方法であって、潤滑圧延を行う前に、合金の特定部分を加熱することによって、特定部分の最表層に副成分を偏析させる構成にされている。
【0055】
上記の構成によれば、潤滑圧延が行われる前に、被圧延材である合金の特定部分、例えば、合金の先端部が加熱されることによって、主成分および副成分の拡散係数や酸化物の生成しやすさ等から、特定部分の最表層に副成分が偏析される。これにより、潤滑圧延時に潤滑油が用いられた際に、特定部分の最表層の油性効果が変化され、特定部分の摩擦係数が高くなる。よって、噛み込み性が要求される部分を特定部分とすることによって、同一種類の潤滑油を用いながら、定常部の潤滑性を低下させることなく、即ち、定常部の表面性や圧延性などを維持しつつ、被圧延材である合金の噛み込み性を向上させることができる。
【0056】
また、本実施の形態の合金の潤滑圧延方法において、主成分がアルミニウムである構成にされている。上記の構成によれば、合金の主成分をアルミニウムとすることによって、アルミニウムの拡散係数や酸化物の生成しやすさ等から、加熱された特定部分の最表層に副成分を好適に偏析させることができる。
【0057】
また、本実施の形態の合金の潤滑圧延方法において、潤滑油が、エステル、脂肪酸、および、アルコールの1つ以上を含有している構成にされている。上記の構成によれば、潤滑油がエステル等の油性剤を含有していることによって、加熱された特定部分における摩擦係数を好適に高めることができる。
【0058】
また、本実施の形態の合金の潤滑圧延方法において、特定部分の加熱温度が420℃以上620℃以下である構成にされている。上記の構成によれば、合金の特定部分を420℃以上620℃以下、好ましくは480℃以上540℃以下で加熱することにより、特定部分の最表層に副成分を十分に偏析させることができる。
【0059】
また、本実施の形態の合金の潤滑圧延方法においては、加熱後の特定部分の最表層において、主成分の成分量をM(wt%)、副成分の成分量をM(wt%)とすると、M/M>0.4の関係を満たしている構成にされている。上記の構成によれば、M/M>0.4の関係を満たすように、特定部分の最表層に副成分を偏析させることで、特定部分の摩擦係数を十分に高めることができる。
【0060】
また、本実施の形態の合金の潤滑圧延方法において、副成分が、マグネシウム、マンガン、亜鉛、銅、および、シリコンの1つ以上である構成にされている。上記の構成によれば、合金がマグネシウム等の副成分を含有していることで、加熱された特定部分の最表層に副成分を好適に偏析させることができる。
【0061】
また、本実施の形態の合金の潤滑圧延方法において、特定部分が、合金の先端部および/又は後端部である構成にされている。上記の構成によれば、合金の先端部および/又は後端部といった噛み込み性が要求される箇所を特定部分として加熱することによって、被圧延材である合金の噛み込み性を好適に向上させることができる。
【0062】
また、本実施の形態の合金の潤滑圧延装置は、主成分に副成分が添加された合金(被圧延材10等)を潤滑油を用いて潤滑圧延する合金の潤滑圧延装置(潤滑圧延装置1等)であって、潤滑圧延を行う潤滑圧延手段(粗圧延機3等)と、潤滑圧延手段の上流側に設けられ、合金の特定部分の最表層に副成分が偏析するように、特定部分を加熱する加熱手段(加熱炉2等)と、を有する構成にされている。
【0063】
上記の構成によれば、潤滑圧延手段において潤滑圧延が行われる前に、被圧延材10である合金の特定部分、例えば、合金の先端部が加熱手段により加熱されることによって、主成分および副成分の拡散係数や酸化物の生成しやすさ等から、特定部分の最表層に副成分が偏析される。これにより、潤滑圧延手段における潤滑圧延時に潤滑油が用いられた際に、特定部分の最表層の油性効果が変化され、特定部分の摩擦係数が高くなる。よって、噛み込み性が要求される部分を特定部分とすることによって、同一種類の潤滑油を用いながら、定常部の潤滑性を低下させることなく、即ち、定常部の表面性や圧延性などを維持しつつ、被圧延材10である合金の噛み込み性を向上させることができる。
【0064】
(本実施の形態の変形例)
以上、本発明の実施例を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0065】
例えば、本実施の形態におけるアルミニウム合金は、マグネシウムの代わりに、マンガン、亜鉛、銅、および、シリコンの1つ以上を副成分として含有していてよい。アルミニウム合金が副成分を含有していることで、加熱された特定部分において副成分を特定部分の表面に好適に偏析させることができる。
【0066】
また、本実施の形態における合金は、主成分がアルミニウムであるが、加熱により副成分が最表層に偏析され、被加熱部における摩擦係数が高くなるのであれば、アルミニウム以外の金属であってもよい。
【0067】
また、本実施の形態における潤滑圧延装置1において、加熱炉2が被圧延材10のヒートチャージを行うとともに、被圧延材10の先端部の加熱を行う構成にされているが、ヒートチャージを行う加熱炉と、被圧延材10の先端部の加熱を行う加熱手段とが別体であってもよい。
【0068】
また、本実施の形態における合金の潤滑圧延方法は、潤滑圧延に適用されているが、プレス等、圧延以外の金属加工において、同一材料で部分的に潤滑性を変える方法として利用することができる。即ち、必要に応じて副成分を被加熱部の最表層に偏析させて、最表層の油性効果を変化させることにより、潤滑制御を行いやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】潤滑圧延装置の構成を示す図。
【図2】潤滑圧延処理ルーチンのフローチャート。
【図3】摩擦係数の測定結果を示すグラフ。
【図4】アルミニウムとマグネシウムの割合の測定結果を示すグラフ。
【図5】図4のグラフを、Mg/Alの比で表わしたグラフ。
【符号の説明】
【0070】
1 潤滑圧延装置
2 加熱炉
3 粗圧延機
10 被圧延材
31 位置センサ
32 温度センサ
33 バーナー
41 バックアップロール
42 ワークロール
43 スプレーノズル
50 制御装置
51 CPU
52 ROM
53 RAM
54 インターフェイス回路
55 タイマ
56 加熱制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分に副成分が添加された合金を潤滑油を用いて潤滑圧延する合金の潤滑圧延方法であって、
前記潤滑圧延を行う前に、前記合金の特定部分を加熱することによって、当該特定部分の最表層に前記副成分を偏析させることを特徴とする合金の潤滑圧延方法。
【請求項2】
前記主成分がアルミニウムであることを特徴とする請求項1に記載の合金の潤滑圧延方法。
【請求項3】
前記潤滑油が、エステル、脂肪酸、および、アルコールの1つ以上を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金の潤滑圧延方法。
【請求項4】
前記特定部分の加熱温度が420℃以上620℃以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の合金の潤滑圧延方法。
【請求項5】
加熱後の前記特定部分の最表層において、主成分の成分量をM(wt%)、副成分の成分量をM(wt%)とすると、M/M>0.4の関係を満たしていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の合金の潤滑圧延方法。
【請求項6】
前記副成分が、マグネシウム、マンガン、亜鉛、銅、および、シリコンの1つ以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の合金の潤滑圧延方法。
【請求項7】
前記特定部分が、前記合金の先端部および/又は後端部であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の合金の潤滑圧延方法。
【請求項8】
主成分に副成分が添加された合金を潤滑油を用いて潤滑圧延する合金の潤滑圧延装置であって、
前記潤滑圧延を行う潤滑圧延手段と、
前記潤滑圧延手段の上流側に設けられ、前記合金の特定部分の最表層に前記副成分が偏析するように、前記特定部分を加熱する加熱手段と、
を有することを特徴とする合金の潤滑圧延装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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