説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法

【課題】表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】mass%で、C:0.0005〜0.0100%、Si:0.10%以下、Mn:0.05〜0.50%、P:0.030%以下、S:0.008〜0.030%、Ti:0.020〜0.050%、Al:0.010〜0.080%、N: 0.0050%以下、Cu:0.03%以下であり、かつ、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)で示されるTi*を、0<Ti*<0.02を満たす範囲で含有し、残部はFeおよび不可避的不純物から成る鋼組成である。さらに、(S%)≧0.008+(0.8×(Cu%)−0.01)を満足する鋼板の表面に、合金化溶融亜鉛めっき層を具える。ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)、(Cu%)は、それぞれTi、N、S、C、Cuの含有量(mass%)を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の外装板等に使用される、外観ムラが発生しない表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の外装板としては、引張り強さが350MPa未満と軟質で、加工性に優れた冷延鋼板や合金化溶融亜鉛めっき鋼板が多く使用されている。例えば、軟質で加工性に優れた冷延鋼板としては、炭窒化物形成元素を含有する極低炭素鋼を熱間圧延し、熱延鋼板の段階で炭窒化物を生成させ、鋼中の固溶Cおよび固溶Nを低減させた後、冷間圧延および再結晶焼鈍を経て製造される冷延鋼板、いわゆるIF(Interstitial Free)鋼板が知られている。
【0003】
このようなIF鋼板のうち、炭窒化物形成元素としてTiを添加したIF鋼板は、特に深絞り性などの加工性に優れるという特徴がある。しかしながら、Tiは炭窒化物のみならず、硫化物や炭硫化物を形成し、これらのうち、微細な析出物が再結晶および再結晶後の粒成長を阻害することがあるため、部分的に未再結晶粒が残存するという問題があった。合金化溶融亜鉛めっきを施す際に、鋼板表層部に未再結晶粒の残存部が存在すると、合金化速度にムラが生じ、外観ムラの原因ともなる。
これらの問題を解決する手法として、例えば、特許文献1には、溶融亜鉛めっき処理を行うに際し、鋼板表面に、炭素化合物、窒素化合物およびホウ素化合物の中から選択される1種または2種以上をC、N、B量として0.1〜1000mg/m2付着させ、かつ硫黄または硫黄化合物をS量として0.1〜1000mg/m2付着させた後、水素を含む非酸化性雰囲気で680℃以上の温度で焼鈍する方法が開示されている。
また、特許文献2には、スジムラと呼ばれる表面外観不均一を解決するために、連続鋳造直後のスラブをその表面温度が1000℃以上になるように保持して仕上圧延工程に導き、Ar3点以上の温度で仕上げる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-50221号公報
【特許文献2】特開平9-296222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、硫黄または硫黄化合物をS量として0.1〜1000mg/m2付着させる工程が必要となり、生産性の低下やコストの増大を招くという問題がある。
特許文献2に記載の方法では、スラブの表面を溶削するなどして表面欠陥を防止する、いわゆるスラブ手入れを行うことができず、特に美麗な表面外観を要求される自動車外装板用途に用いるには不適当である。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、深絞り性に優れたTi添加IF鋼板において、特殊な処理を施さずに、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記問題点を解決するため、表面欠陥として現出する欠陥の発生メカニズムと抑制対策について、鋭意研究調査を重ねた。
その結果、上記問題を生じる鋼板には、極表層に未再結晶粒が残存すること、そしてこれらの未再結晶粒を調査した結果、鋼板表面から10μmの領域における析出物の析出状態に特徴があることを見出した。
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]mass%で、C:0.0005〜0.0100%、Si:0.10%以下、Mn:0.05〜0.50%、P:0.030%以下、S:0.008〜0.030%、Ti:0.020〜0.050%、Al:0.010〜0.080%、N: 0.0050%以下、Cu:0.03%以下であり、かつ、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)で示されるTi*を、0<Ti*<0.02を満たす範囲で含有し、残部はFeおよび不可避的不純物から成る鋼組成を有し、以下の式(1)を満足する鋼板の表面に、合金化溶融亜鉛めっき層を具えることを特徴とする加工後の表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(S%)≧0.008+(0.8×(Cu%)−0.01) 式(1)
ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)、(Cu%)は、それぞれTi、N、S、C、Cuの含有量(mass%)を示す。
[2]前記[1]において、さらに、mass%で、Nb : 0.001〜0.010%、B : 0.0002〜0.0015%のうち、いずれか一種または二種を含有することを特徴とする冷延鋼板。
[3]前記[1]または[2]に記載の成分組成を有する鋼を連続鋳造によりスラブとし、該スラブに対して、加熱温度が1000℃以上1200℃未満で、かつ、1000℃以上の温度域での加熱時間が4.0時間以下の条件で加熱し、スケール除去および粗圧延を施し、次いで、鋼板表面温度が(Ar3変態点−300℃)以上Ar3変態点以下の範囲となるよう冷却した後、仕上げ圧延終了時の鋼板表面温度がAr3変態点以上の温度となるように仕上げ圧延し、650℃以上の温度で巻取り、次いで、酸洗、冷間圧延後、焼鈍し、溶融亜鉛めっきおよび合金化処理を行うことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべてmass%である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の詳細を説明する。
従来の自動車の外装板用のTi添加IF鋼板(合金化溶融亜鉛めっき鋼板)では外観ムラが生じる場合があった。
そこで、このような外観ムラが生じる鋼板について詳細に調査した。その結果、上記問題が生じる鋼板には、板厚表層部に部分的に未再結晶粒が残存することを知見した。また、未再結晶粒が表層付近に残存した場合には、合金化処理時に合金化速度が局部的に異なるため外観ムラが生じることもわかった。
上記知見を受けて、本発明者らは、次に、表層付近に未再結晶粒が残存する原因を詳細に検討した。その結果、未再結晶粒が残存する部分には大きさが20nm未満のごく微細な析出物が多く存在することがわかった。このような微細な析出物は、自動車外装板用鋼板に施される一般的な焼鈍条件では固溶せずに残存し、残存することでいわゆるピン止め効果によって表層付近では再結晶が容易に進まず、未再結晶粒が残存するものと考えられる。
そこで、このような問題を解決するために、様々な製造条件での実験を繰返し実施して種々の鋼板を得、得られた鋼板について表層付近の状態を調査した。そうしたところ、特定の組成の鋼では、表層付近に未再結晶粒が多く残存せず、合金化溶融亜鉛めっき鋼板における外観ムラが生じないことを見出した。そして、この鋼板の板厚最表層付近、具体的には鋼板両面の表面から10μmまでの領域では、20nm未満の析出物量が低減され、未再結晶粒が多く残存しない鋼板を得られることを知見した。
【0010】
特に、鋼中(S)含有量(mass%)が鋼中(Cu)含有量に対して下記の式(1)を満足する事によって外観ムラ発生を大きく低減できる事がわかった。なお、式(1)は、発明者らが、後述するTiやCuの析出物と外観ムラとの検討結果に基づき、鋼中のCu含有量、S含有量と外観ムラとの関係について検討した結果、得たものである。
(S%)≧0.008+(0.8×(Cu%)−0.01) 式(1)
ただし、(S%)、(Cu%)は、それぞれS、Cuの含有量(mass%)を示す。
熱間圧延冷却工程では、Ti(Mn)S、CuS、Ti4C2S2、TiCの順で析出する。CuSが析出した後に、Sの量が充分であればTi4C2S2が次に析出される。しかし、Sの量が不足した場合、析出されるTi4C2S2は減少してしまい、固溶Tiが余ることになる。そして、この余剰Tiにより、次いで析出するTiCの量が増大する。このTiCは微細析出物であり、表層付近に存在する。そのため、表層付近はこのTiCのピン止め効果によって再結晶が容易に進まず、未再結晶粒が残存することになり、結果として、合金化溶融亜鉛めっき鋼板における外観ムラが生じることになる。
そこで、本発明では、上記検討結果を鑑み、(Cu)含有量に対して、上記式(1)を満たす範囲に(S)含有量を調整することによって、Cuの量に対して当量以上で、かつ、Ti4C2S2が充分に析出されるSの量を含有することとする。その結果、TiCの生成増大を抑止し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板における外観ムラが防止できる。
【0011】
次に、本発明の鋼板の成分組成(鋼組成)の限定理由について説明する。
C:0.0005〜0.0100%
Cは、固溶強化元素であり、降伏強度の上昇に寄与し、面内剛性の向上には有利であるが、優れた深絞り性を得るためには、極力低減することが好ましい。しかし、0.0005%未満では、結晶粒径が著しく粗大化して降伏強度が大きく低下するため、面内剛性が低下して腰折れなどの欠陥が発生しやすくなる。また、脱炭コストの増大を招く。よって、0.0005%を下限とする。一方、Cを多量に含有すると鋼中でのTiC量が増加し、表層部での析出物量が増加して、未再結晶粒の残存量が増大するため、0.0100%を上限とする。
【0012】
Si:0.10%以下
Siは、加工性を劣化することなく固溶強化により鋼を強化するのに有用な元素であるが、本発明のような溶融亜鉛めっき鋼板では焼鈍時に表面に濃化して溶融亜鉛めっき性を著しく阻害するため、0.10%以下とする。
【0013】
Mn: 0.05〜0.50%
Mnは、固溶強化元素として鋼強度を増大させる。鋼板剛性確保のため、0.05%以上の添加が必要である。所望の強度を得るために適宜添加することができるが、過剰な添加は加工性を阻害するため、0.50%以下とする。
【0014】
P:0.030%以下
Pは固溶強化元素であり、鋼の強化と降伏強度向上には有効である。しかし、過度に添加すると、熱間、冷間割れの原因となるばかりでなく、溶融亜鉛めっきの合金化反応を阻害するため、0.030%以下とする。
【0015】
S:0.008〜0.030%
Sは本発明において重要な元素である。Sは通常、不可避的不純物として鋼中に存在し、極力低減すべきものとされるが、本発明では敢えてその存在量を0.008%以上確保する。すなわち、0.008%未満では、上述したように、鋼中Cuと容易に結びついてCuSが生成した後に、S量不足によりピン止め効果となりやすい微細なTiCが比較的多量に析出し、外観ムラの原因となる。このような微細析出物の影響を低減するため、0.008%以上とする。好ましくは0.010%以上である。一方0.030%超えでは、鋼板製造時の熱間割れが生じ易くなり、生産性が阻害されるとともに表面性状を劣化させる。よって、0.030%以下とする。
【0016】
Ti:0.020〜0.050%、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)で示されるTi*を、0<Ti*<0.02
Tiは本発明における最も重要な元素のひとつである。Tiは、鋼中のC、N、Sを析出物として固定することにより、加工性向上効果を有する。0.020%未満では、このような効果を得ることができない。一方、Tiを0.050%を超えて添加してもそれ以上の効果が望めないばかりでなく、板内部に異常組織の形成を招き、加工性を低下させる。
また、前述したように、鋼中のTiは、鋼中のC、N、Sと析出物を形成するため、これらの成分に対して、当量以上添加することにより、加工性を向上させることができる。そのためには、下記(1)式で示されるTi*を0より大きくする必要がある。一方で、固溶Tiを過剰に存在させると、微細なTiCを生成する場合があり、この微細なTiCは表層において未再結晶粒残存を助長するため好ましくない。よって、Ti*を0.02未満とする必要がある。
Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)・・・(1)
ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)は、それぞれTi、N、S、Cの含有量(mass%)を示す。
【0017】
Al:0.010〜0.080%
Alは脱酸剤として添加する元素であり、0.010%以上必要であるが、多量に添加してもより一層の脱酸効果は得られずコストアップにつながるため、0.080%以下とする。
【0018】
N: 0.0050%以下
Nは少ないほど加工性には有利であるので、少ないほど望ましい。0.0050%を超えて、過剰に添加すると、成形性の著しい低下と固溶Ti量の低下につながるので、上限を0.0050%とする。
【0019】
Cu:0.03%以下
Cuは本発明における最も重要な元素の1つである。Cuは通常は不可避的不純物として鋼中に存在する。しかし、近年CO2ガス排出規制に伴う製鋼工程でのスクラップ配合率の上昇により、Cu含有量は高くなる傾向がある。特にH2と呼ばれる品位の低い市中屑の使用比率が高いとその傾向は顕著である。
Cu含有量が高くなると、CuSを多く析出することになり、微細析出物であるTiCが析出しやすい傾向となる。その結果、鋼板表層部に未再結晶粒が残存する原因となる。よって、この影響を低減させるには0.03%以下とするのが好ましい。Cu含有量は低いほど好ましいが、あまりに低くすると、製造コストが非常に大きくなるため、Cu含有量の下限は例えば0.01%程度とすることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明では、次の添加元素からいずれか一種または二種を添加することが好ましい。
Nb : 0.001〜0.010%
NbはTiと同様に炭窒化物を形成して加工性を向上させるのに有利な元素である。特に、前述した(1)式のTi*が0.005未満の場合には添加することが望ましく、加工性向上効果を得るためには、0.001%以上添加する必要がある。しかし、0.010%を超えて添加すると、結晶粒が微細化され、深絞り性などの加工性を劣化させる場合がある。よって、添加する場合は、0.001%以上0.010%以下とする。
B : 0.0002〜0.0015%
B はIF鋼板の粒界強化に有効な元素であり、耐二次加工脆性が必要とされる場合に0.0002%以上添加すると効果的である。しかし、過剰に添加すると、鋼板製造時の表面性状を劣化させる恐れがあるため、添加する場合は0.0015%以下とする。
【0021】
残部はFeおよび不可避的不純物である。
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、上記した成分組成の鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を具えるものである。
【0022】
次に、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0023】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、上記のような成分組成を有する鋼を連続鋳造によりスラブとし、該スラブに対して、加熱温度が1000℃以上1200℃未満で、かつ1000℃以上の温度域での加熱時間が4.0時間以下の条件で加熱し、スケール除去および粗圧延を施し、次いで、鋼板表面温度が(Ar3変態点−300℃)以上Ar3変態点以下の範囲となるよう冷却した後、仕上げ圧延終了時の鋼板表面温度がAr3変態点以上の温度となるように仕上げ圧延し、冷却し、650℃以上の温度で巻取り、次いで、酸洗、冷間圧延後、焼鈍し、溶融亜鉛めっきおよび合金化処理を行うことにより得られる。
【0024】
加熱温度が1000℃以上1200℃未満で、かつ1000℃以上の温度域での加熱時間が4.0時間以下の条件でスラブ加熱
熱間圧延工程で上記条件でスラブを加熱する。加熱温度が1000℃未満では、圧延温度が低下して仕上げ圧延後の鋼板表面温度をAr3変態点以上とすることが困難である。一方、加熱温度が1200℃を超えると、連続鋳造時に生成したTiMnSなどのTiを含有する硫化物が短時間で多く固溶し、後に続く工程において微細析出物が多く生成するため、好ましくない。
さらに、加熱温度が1200℃未満であっても、長時間保持すると、上記同様に、Tiを含有する硫化物の固溶が進み、後に続く工程において微細析出物が多く生成するため好ましくない。よって、1000℃以上の温度域での加熱時間は4.0時間以下とする。
【0025】
鋼板表面温度が(Ar3変態点−300℃)以上Ar3変態点以下の範囲となるよう冷却
加熱されたスラブに対して、スケール除去および粗圧延を施した後、仕上げ圧延を行う前に表面温度が(Ar3変態点−300℃)以上Ar3変態点以下の範囲となるように冷却する。
通常の製造方法では、熱間圧延工程における仕上げ圧延後に冷却することでフェライト変態が始まる。しかし、本発明では、仕上げ圧延前に鋼板表面を冷却して表面温度を一旦Ar3変態点以下とする。このように仕上げ圧延前に所定の温度まで表面を冷却することで、表層部のみはフェライト変態を開始してTi4C2S2析出物が生成し始め、粗大に成長しやすくなる。その結果、微細析出物の析出物量が低減され、未再結晶粒が多く残存することなく、均一な外観を有し、かつ、プレス加工後の形状均一性に優れた冷延鋼板が得られることになる。
なお、仕上げ圧延中に、表層部は、板厚中央からの復熱および加工発熱によって温度上昇する。
仕上げ圧延前の表面温度が低すぎると、仕上げ圧延終了時の表面温度がAr3変態点以下となり表層部に加工フェライト組織が生成し均一性が損なわれるため、仕上げ圧延前の表面温度は(Ar3変態点−300℃)以上とする必要がある。
このように仕上げ圧延前に表面を一旦冷却して表面温度を制御することは、本発明の製造方法において特に重要な要件であり、特徴である。
仕上げ圧延前に表面を冷却する方法としては、例えば、通常スケール除去に用いられる高圧水噴射装置などを用いて、表面が適切な温度域となるよう冷却することができる。
なお、Ar3変態点は以下のようにして求めることができる。各組成の鋼を1000〜1200℃の温度に加熱し、その後冷却しながら温度と体積変化を測定することによりオーステナイト→フェライト変態による体積膨張が生じる温度(Ar3変態点)を得ることができる。
【0026】
仕上げ圧延終了時の鋼板の表面温度がAr3変態点以上の温度となるように仕上げ圧延
仕上げ圧延終了時の鋼板表面温度がAr3変態点を下回ると、鋼板表層部に加工フェライト組織が生成し、均一性が損なわれる。このため、仕上げ圧延終了時の鋼板表面温度がAr3変態点以上となるように、制御する必要がある。
なお、仕上げ圧延終了後に鋼板表面温度がAr3変態点以上に長時間保持されると、成長した比較的粗大な析出物が再固溶して、微細析出物量が増加しやすくなるため好ましくない。そのため、鋼板表面温度がAr3変態点以上の温度で仕上げ圧延が終了した後、ただちに冷却してフェライト変態を促進することが好ましい。冷却開始までの時間は、好ましくは1秒以内である。
【0027】
650℃以上で巻取り
冷却後、650℃以上で巻取る。巻取り温度が650℃を下回ると、析出物の成長速度が小さくなり、微細析出物量が増加する。巻取り温度の上限は特に規定するものではないが、高すぎると表層のスケールが成長して表面欠陥の原因となりやすいため、800℃未満とすることが望ましい。
【0028】
巻取り後、酸洗、冷間圧延、洗浄した後、焼鈍、溶融亜鉛めっき、合金化処理を行う。
酸洗、冷間圧延および焼鈍条件は特に限定する必要は無く、常法に従えばよい。
例えば、巻き取り後の鋼板は、表面に生成したスケールを除去するために酸洗し、次いで冷間圧延を行うが、冷間圧延率(冷間圧延圧下率)は自動車用外板を製造する際に通常行われている50%〜90%程度とすればよい。なお、冷間圧延率は加工性(r値)向上の観点からは70%以上とするのが望ましい。次いで、冷間圧延後の鋼板は、圧延油の脱脂や汚れを除くため洗浄した後、再結晶焼鈍される。なお、焼鈍温度は、Ac3変態点を超えると加工性(r値)が低下しやすいため、Ac3変態点以下とすることが好ましい。なお、下限温度は、700℃程度とすることが、再結晶焼鈍を行う上で好ましい。焼鈍後、引き続き溶融亜鉛めっきおよび合金化処理を行う。なお、焼鈍前に軽酸洗を行ってもよい。溶融亜鉛めっき条件、合金化条件は特に限定する必要は無く、常法に従えばよい。
また、合金化処理後、表面粗度の調整などのため調質圧延を行うことが好ましい。この際、調質圧延の圧延率(伸長率)は、0.5%〜1.5%程度とすることが好ましい。
以上により、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
【実施例1】
【0029】
以下に本発明による効果を具体的に示す。
まず、表1に示す成分組成からなる溶鋼を、真空脱ガス処理後、連続鋳造によりスラブとした。次いで上記スラブを加熱し、スケール除去後、板厚40mmまで粗圧延した。次いで、スケール除去装置で鋼板表層を冷却した後、3.5mm厚まで仕上げ圧延し、巻取り温度700℃でコイルに巻き取った。なお、この時のスラブの加熱条件、仕上げ圧延前の冷却後の鋼板表層温度、仕上げ圧延温度を表2に示す。なお、仕上げ圧延温度(仕上げ圧延時の鋼板表面温度)は全てAr3変態点以上の温度とし、B4、C4以外は、仕上げ圧延前冷却後表面温度は(Ar3変態点−300℃)〜Ar3変態点の温度域内の温度とした。
次いで、巻取り後の鋼板を酸洗後、0.70mmまで冷間圧延(冷間圧延率:80%)して供試材とし、前処理として脱脂、酸洗した後、溶融亜鉛めっきラインで焼鈍、溶融亜鉛めっき処理、合金化処理、伸長率1.0%の調質圧延を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。なお、前記焼鈍時の雰囲気は水素を含む非酸化性ガスとし、各供試材の焼鈍温度はAc3変態点以下である830℃とした。溶融亜鉛めっき処理は、Alを0.12%含む460℃亜鉛めっき浴を用いて、侵入板温460℃、浸漬時間3秒にて行った。合金化処理は、めっき後、N2ガスワイパーを用いて亜鉛付着量を片面当たり60g/m2に調整し、510℃で20秒で行った。合金化処理を行った鋼板に伸長率1.0%の調質圧延を施し、加工後形状均一性評価および外観評価を行った。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
上記の製造方法により得られた合金化溶融亜鉛鋼板に対して、下記の評価を行った。
【0033】
機械的特性
成形性は、引張特性とr値の機械的特性により評価した。引張特性は、JISZ 2201記載の5号試験片に加工した後、JISZ 2241記載の試験方法に従って行った。また平均r値は、15%の引張予歪を与えた後、3点法にて測定し、鋼板の圧延方向に対して、90°方向、45°方向、0°方向のr値の平均=(r(0°)+2×r(45°)+r(90°))/4として求めた。
【0034】
めっき後外観
合金化溶融亜鉛めっきを施したものについては、外観ムラの有無を目視にて観察し、ムラの生じたものを×、ムラなく均一な外観であったものを○とした。
【0035】
【表3】

【0036】
本発明例は、深絞り性の指標である平均r値が1.5以上であり、かつ、外観ムラがなく均一で自動車外装板用途に適した性能を有していた。
一方、比較例では、外観が劣り、自動車外装板用途に適した性能を満足しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の鋼板は、自動車の外装板を中心に、優れた成形後表面品質を必要とする各種電気機器、自動車などの部品に対して好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
mass%で、C:0.0005〜0.0100%、Si:0.10%以下、Mn:0.05〜0.50%、P:0.030%以下、S:0.008〜0.030%、Ti:0.020〜0.050%、Al:0.010〜0.080%、N: 0.0050%以下、Cu:0.03%以下であり、かつ、Ti*=(Ti%)−3.4×(N%)−1.5×(S%)−4×(C%)で示されるTi*を、0<Ti*<0.02を満たす範囲で含有し、残部はFeおよび不可避的不純物から成る鋼組成を有し、以下の式(1)を満足する鋼板の表面に、合金化溶融亜鉛めっき層を具えることを特徴とする加工後の表面外観に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(S%)≧0.008+(0.8×(Cu%)−0.01) 式(1)
ただし、(Ti%)、(N%)、(S%)、(C%)、(Cu%)は、それぞれTi、N、S、C、Cuの含有量(mass%)を示す。
【請求項2】
さらに、mass%で、Nb : 0.001〜0.010%、B : 0.0002〜0.0015%のうち、いずれか一種または二種を含有することを特徴とする請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼を連続鋳造によりスラブとし、該スラブに対して、加熱温度が1000℃以上1200℃未満で、かつ、1000℃以上の温度域での加熱時間が4.0時間以下の条件で加熱し、スケール除去および粗圧延を施し、次いで、鋼板表面温度が(Ar3変態点−300℃)以上Ar3変態点以下の範囲となるよう冷却した後、仕上げ圧延終了時の鋼板表面温度がAr3変態点以上の温度となるように仕上げ圧延し、650℃以上の温度で巻取り、次いで、酸洗、冷間圧延後、焼鈍し、溶融亜鉛めっきおよび合金化処理を行うことを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2011−231373(P2011−231373A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103047(P2010−103047)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】