説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法

【課題】成形性を備えながら界面密着強度を向上させることが可能な合金化溶融亜鉛めっき鋼板及び生産性を向上させることが可能な合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】鋼板母材の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備え、鋼板母材が、質量%で、C:0.25%以下、Si:0.030%以上0.15%以下、Mn:0.030%以上3.0%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上0.80%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有し、合金化溶融亜鉛めっき層に、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.080%以上0.50%以下、が含有されるとともに、η相が存在せず、合金化溶融亜鉛めっき層と鋼板母材との界面剥離部における、鋼板母材側の粒径剥離面積率が5.0%以上である、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関する。より具体的には、主として、家電、建材、及び自動車等の分野で用いられる、合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家電、建材、及び自動車等の分野において溶融亜鉛めっき鋼板が大量に使用されており、とりわけ、経済性、防錆機能、塗装後の性能等の点で優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板が、広く用いられている。
【0003】
この合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、通常、次のようにして製造される。鋼板を溶融めっき前に予熱炉において加熱し、露点を−20℃以下に調整したH+Nの還元雰囲気中で焼鈍し、次いでめっき浴温前後に冷却した後、溶融亜鉛めっきを施す。そして、この溶融亜鉛めっきを施した鋼板を、熱処理炉において鋼板温度が480〜600℃となる条件で30秒間に亘って加熱することにより、Fe−Zn合金めっき層を形成する。
【0004】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下において、単に「鋼板」ということがある。)をプレス加工する場合、めっき表層に、Fe含有量が比較的低い軟質な合金層(ζ相)が備えられると、めっき表層と金型表面との凝着現象等により、めっき剥離(以下「フレーキング」という。)や鋼板のプレス割れ等が生じることがある。これに対し、めっき層中のFe含有量が高い場合には、鋼板とめっき層との界面近傍に硬質なΓ、Γ1、δ1c相が形成されるため、鋼板をプレス加工する場合にめっき層の粉化(以下「パウダリング」という。)が発生しやすくなる。パウダリングが発生すると、金型に剥離片が付着して押し込み疵が生じることになる。
【0005】
一方、非特許文献1には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を自動車車体に適用する際の問題点として、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は他のめっき鋼板と比較して耐チッピング性に劣ることが挙げられている。これは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層と母材との界面に、硬質なFe−Znの金属間化合物層が厚く形成されるため、他のめっき種に比べ、めっき層−母材界面の界面密着強度が低いことによると考えられる。
【0006】
このような問題点を解決するため、これまで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関して様々な提案がなされてきている。例えば、特許文献1には、目付量45〜90g/mのめっき層を少なくとも片面に有する耐パウダリング性および耐フレーキング性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が提案されている。特許文献1で開示されている鋼板では、めっき層中のFe含有量を8〜12%、同Al含有量を0.05〜0.25%に管理して、めっき層表面にη、ζ相を存在させず、母材とめっき層との界面のΓ相を1.0μm以下にしている。
【0007】
また、特許文献2には、皮膜中のFe含有量が8〜12%となるように合金化処理を行う合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、亜鉛めっき浴中のAl量を0.13%以上に管理するとともに、母材となる鋼板の侵入材温と浴中Al量とを制御してめっきを行い、めっき後に高周波誘導加熱炉出側の板温を適正範囲に管理して所定時間保持後に冷却する、プレス成形性および耐パウダリング性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、母材の化学組成がC:0.01%以下、Si:0.03〜0.3%、Mn:0.05〜2%、P:0.017〜0.15%、Al:0.005〜0.1%、Ti:0.005〜0.1%、Nb:0.1%以下、B:0.005%以下を含み、めっき層が接している母材表面の平均結晶粒径が12μm以下であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法が提案されている。
【0009】
特許文献4には、母材となる鋼板の化学組成を、質量%で、C:0.05%以上0.20%以下、Si:0.02%以上0.70%以下、Mn:0.50%以上3.0%以下、P:0.005%以上0.10%以下、S:0.1%以下、sol.Al:0.10%以上2.0%以下、N:0.01%以下で、且つ、Si(%)+Al(%)≧0.5を満足すると共に残部がFeおよび不純物から成り、母材がオーステナイト相を体積%で1%以上含有し、さらに、めっき皮膜は、Fe濃度が8質量%以上15質量%以下であり、且つ、めっき皮膜におけるΓ相平均厚み:2μm以下、厚み方向の最大Γ1相長さ:1.5μm以下であって、最大Γ1相長さ/Γ相厚み≦1.0の関係を満足する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が提案されている。さらに、特許文献4では、当該鋼板に、750℃以上870℃以下で還元焼鈍を行い、次いで350℃以上550℃以下の温度に20s以上滞留させ、その後、溶融亜鉛めっきを行ってから、特定の合金化温度と滞留時間で合金化処理を行う合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。特許文献4にかかる発明では、母材となる鋼板中にオーステナイト(γ)相を1体積%以上残存させることによって、当該鋼板に優れた局部延性及び高強度を付与している。そして、皮膜中のFe量を8〜15質量%に規定するとともに、めっき層におけるΓ相平均厚みを2μm以下、厚み方向の最大Γ1相長さを1.5μm以下、そして、最大Γ1相長さとΓ相厚みとの比を1以下に規定することによって、耐パウダリング性を改善している。
【0010】
特許文献5には、質量%で、C:0.05%以上0.20%以下、Si:0.01%以上1.50%以下、Mn:0.5%以上3.0%以下、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以上2.0%以下、N:0.01%以下、且つ、Si(%)+Al(%)≧0.5を満足し、残部不純物およびFeから成る化学組成を有する、オーステナイト相を体積%で1%以上含有し、引っ張り強度Ts(MPa)×伸びEl(%)≧20000を満たす鋼板を母材とし、上記鋼板を、あらかじめ、780℃以上870℃以下で焼鈍した後、さらに、700℃から550℃までの温度範囲を平均30℃/s以上の冷却速度で冷却し、次いで、350℃以上550℃以下の温度範囲に20s以上滞留させ、そして常温まで冷却し、得られた母材に、Ni、Fe、CuおよびCoのうち1種または2種以上、付着させ、再び、780℃以上870℃以下で5s以上500s以下滞留させて還元焼鈍を行い、そのときの到達温度からめっき浴温度近傍まで冷却してから、めっきを行い、520℃以下で合金化処理を行い、7%以上15%以下のFe濃度の皮膜を形成させることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。特許文献5にかかる発明では、母材となる鋼板中にオーステナイト(γ)相を体積%で1%以上含有させることによって、母材となる鋼板に引張り強度Ts(MPa)×伸びEl(%)≧20000を満足する高強度と高延性とを付与している。そして、皮膜中のAl量を0.20%以上0.40%以下、同Fe量を8%以上15%以下に規定して、1回目の焼鈍後のNi、Cu、Co量を増加させ、合金化を促進させることで、耐パウダリング性及び耐フレーキング性を改善している。
【0011】
特許文献6には、加工性及びめっき密着性等に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板として、質量%で、C:0.0001〜0.004%、Si:0.001〜0.1%、Mn:0.01〜0.5%、P:0.001〜0.015%、S:0.015%以下、Al:0.1〜0.5%、Ti:0.002〜0.1%、N:0.0005〜0.004%を含有し、必要に応じて、さらに、質量%で、Nb:0.002〜0.1%を含有し、さらに、B:0.0002〜0.003%を含有させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を開示しており、さらに、Al:0.05〜0.5%、Fe:7〜15%、残部がZnおよび不可避的不純物からなる合金化溶融亜鉛めっき層を形成させることが記載されている。
【0012】
特許文献7には、鋼板表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記鋼板が質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.02〜0.20%、Mn:0.5〜3.0%、S:0.01%以下、P:0.035%以下およびsol.Al:0.01〜0.5%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、かつ前記合金化亜鉛めっき層が質量%で、Fe:10〜15%およびAl:0.20〜0.45%を含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有するとともに、前記鋼板と前記合金化亜鉛めっき層との界面密着強度が20MPa以上であることを特徴とする高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。
【特許文献1】特開昭64−68456号公報
【特許文献2】特開平4−276053号公報
【特許文献3】特開平10−81948号公報
【特許文献4】特開2002−30403号公報
【特許文献5】特開2002−47535号公報
【特許文献6】特開2003−96540号公報
【特許文献7】特開2006−97102号公報
【非特許文献1】日本接着協会誌、Vol.25、No.8、p.306(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、最近は、自動車車体を製造する際の鋼材の接合技術として、溶接ではなく接着剤による接合(以下、「接着」という。)が適用される部位が増加してきている。しかしながら、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を接着構造部材に適用した場合、他のめっき鋼板に比べ、接着強度が低い。具体的には、他のめっき鋼板では接着剤自身の凝集破壊が生じるのに対し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、めっき層−鋼板母材界面での剥離が生じやすい。この理由は、前述したように、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層−鋼板母材界面の界面密着強度(以下、単に「界面密着強度」という場合は、めっき層−鋼板母材界面の密着強度を意味する。)が低いため、当該界面で剥離が生じることによる。耐チッピング性や、耐パウダリング性の改善においても、界面密着強度を高くすることが有効であり、接着構造材料として適合する場合はより高い界面密着強度が求められる。
【0014】
ここで、特許文献1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板や、特許文献2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法によって得られる合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に関して、めっき層中の合金相を規定している。ところが、めっき層中の合金相は、上記耐フレーキング性や耐パウダリング性には影響するものの、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の界面密着強度向上にはほとんど影響しない。したがって、特許文献1又は特許文献2に記載の技術では、高い界面密着強度を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られ難いという問題があった。
【0015】
また、特許文献3には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐チッピング性を改善する手段として、鋼板母材にSiを0.03〜0.3%添加することが記載されている。鋼板母材にSiを含有させることは、界面密着強度の改善に有効であるが、鋼板母材のSi含有量を多くすると、合金化速度が遅くなり、生産性が低下する虞がある。また、Siは、一般に、鋼板の強度を高める一方で、伸びを低下させ、成形性を低下させる元素である。したがって、鋼板に成形性が要求される場合等には、そもそも鋼板母材にSiを多量に含有させることができず、特許文献3に記載の技術によっても、高い界面密着強度を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られ難いという問題があった。
【0016】
また、特許文献4又は特許文献5で提案された合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板母材のSi含有量及びP含有量が比較的多い鋼種である上に、その製造のために複雑な還元焼鈍ヒートパターンで熱処理を行う必要がある。さらに、特許文献4又は特許文献5で提案された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得るためには、長い合金化処理時間が必要とされる。したがって、特許文献4又は特許文献5に記載の技術では、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の生産性が低下しやすいという問題があった。
【0017】
また、特許文献6では、鋼板母材のAl含有量を多くすることにより、鋼板の強度をほとんど上昇させずに合金化速度を遅くし、鋼板の加工性とめっき密着性とを満足することができる、とされている。しかしながら、特許文献6にいう密着性とは、その従来技術欄の記載や実施例の評価方法(鋼板のV字曲げ)等から見て、耐パウダリング性を意味するものであって、本発明が目的とする界面密着強度については何ら記載がない。したがって、特許文献6に記載の技術では、高い界面密着強度を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られ難いという問題があった。
【0018】
また、特許文献7では、鋼板母材のC含有量が多いため、加工性に劣るという問題があった。また、鋼板母材のSi含有量の上限値を0.20%としているが、鋼板母材のSi含有量が高いと、合金化速度が遅くなるという問題があった。
【0019】
そこで、本発明は、成形性を備えながら界面密着強度を向上させることが可能な合金化溶融亜鉛めっき鋼板、及び、生産性を向上させることが可能な合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、鋭意研究の結果、成形性を備えながら界面密着強度を向上させるには、鋼板母材にSiを少量含有させるとともに、Alを複合的に含有させることが有効であることを見出した。さらに、界面密着強度が高いものは、強制的にめっき層−鋼板母材の界面で剥離させた場合の剥離形態に特徴があることを見出した。加えて、鋼板母材の組成及び製造工程を工夫することにより、生産性を維持しながら、上記剥離形態を備える鋼板を製造可能であることを見出した。本発明は、このような新たな知見に基いてなされたものである。
【0021】
以下、本発明について説明する。
【0022】
本発明の第1の態様は、鋼板母材の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、鋼板母材が、質量%で、C:0.25%以下、Si:0.030%以上0.15%以下、Mn:0.030%以上3.0%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上0.80%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有し、合金化溶融亜鉛めっき層に、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.080%以上0.50%以下、が含有されるとともに、該合金化溶融亜鉛めっき層にη相が存在せず、合金化溶融亜鉛めっき層と鋼板母材との界面剥離部における、鋼板母材側の粒径剥離面積率が5%以上であることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0023】
ここに、「sol.Al:0.10%以上0.80%以下」とは、鋼板母材に、固溶状態のAlが、0.10質量%以上0.80質量%以下含まれることを意味する。さらに、「合金化溶融亜鉛めっき層に、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.080%以上0.50%以下、が含有されるとともに、η相が存在せず」とは、合金化溶融亜鉛めっき層(以下、単に「めっき層」ということがある。)に8.0質量%以上15質量%以下のFe及び0.080質量%以上0.50質量%以下のAlが備えられるとともに、当該めっき層にη相が存在していないことを意味する。加えて、「粒径剥離面積率」とは、「めっき層と鋼板母材との界面でこれらを強制的に剥離させた場合に、剥離後の鋼板母材に備えられる、ほぼ結晶粒径単位の大きさで剥離した部分が観察視野全体に占める割合」をいう。以下においても同様である。
【0024】
本発明の第2の態様は、鋼板母材の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、鋼板母材が、質量%で、C:0.010%以下、Si:0.030%以上0.15%以下、Mn:0.030%以上1.5%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上0.80%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有し、合金化溶融亜鉛めっき層に、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.080%以上0.50%以下、が含有されるとともに、η相が存在せず、合金化溶融亜鉛めっき層と鋼板母材との界面剥離部における、鋼板母材側の粒径剥離面積率が5%以上であることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0025】
本発明の第1の態様又は本発明の第2の態様において、鋼板母材に含有されるFeの一部に代えて、質量%で、Ti:0.0040%以上0.50%以下、及び/又は、Nb:0.0040%以上0.50%以下、並びに、B:0.0050%以下、の添加元素が含有されることが好ましい。
【0026】
本発明の第3の態様は、質量%で、C:0.25%以下、Si:0.030%以上0.15%以下、Mn:0.030%以上3.0%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上0.80%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有するスラブを、熱間圧延して鋼板とする、熱間圧延工程と、該熱間圧延工程後に鋼板を600℃以下の温度で巻き取る巻き取り工程と、該巻き取り工程後に鋼板を酸洗する酸洗工程と、該酸洗工程後に鋼板を冷間圧延する冷間圧延工程と、該冷間圧延工程後に鋼板を還元雰囲気中で焼鈍する還元焼鈍工程と、該還元焼鈍工程後に、鋼板を、質量%で0.080%以上0.14%以下のAlを含有する溶融亜鉛めっき浴へ浸漬する浸漬工程と、該浸漬工程後に鋼板表面の亜鉛付着量を制御する付着量制御工程と、該付着量制御工程後に鋼板を530℃以下の温度で合金化処理する合金化処理工程と、を備え、合金化処理工程において、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.080%以上0.50%以下、を含有するとともに、η相が残存しない合金化溶融亜鉛めっき層、が形成されることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0027】
本発明の第4の態様は、質量%で、C:0.010%以下、Si:0.030%以上0.15%以下、Mn:0.030%以上1.5%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上0.80%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有するスラブを、熱間圧延して鋼板とする、熱間圧延工程と、該熱間圧延工程後に鋼板を600℃以下の温度で巻き取る巻き取り工程と、該巻き取り工程後に鋼板を酸洗する酸洗工程と、該酸洗工程後に鋼板を冷間圧延する冷間圧延工程と、該冷間圧延工程後に鋼板を還元雰囲気中で焼鈍する還元焼鈍工程と、該還元焼鈍工程後に、鋼板を、質量%で0.080%以上0.14%以下のAlを含有する溶融亜鉛めっき浴へ浸漬する浸漬工程と、該浸漬工程後に鋼板表面の亜鉛付着量を制御する付着量制御工程と、該付着量制御工程後に鋼板を530℃以下の温度で合金化処理する合金化処理工程と、を備え、合金化処理工程において、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.080%以上0.50%以下、を含有するとともに、η相が残存しない合金化溶融亜鉛めっき層、が形成されることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0028】
本発明の第3の態様又は本発明の第4の態様において、スラブに含有されるFeの一部に代えて、質量%で、Ti:0.0040%以上0.50%以下、及び/又は、Nb:0.0040%以上0.50%以下、並びに、B:0.0050%以下、の添加元素が含有されることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の第1の態様又は本発明の第2の態様によれば、成形性を備え、かつ、めっき層と鋼板母材との界面密着強度を向上させることが可能な、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供できる。かかる効果を奏する合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車分野や家電分野に好適である。
【0030】
本発明の第3の態様又は本発明の第4の態様によれば、成形性を備え、かつ、めっき層と鋼板母材との界面密着強度を向上させ得る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の、生産性を向上させることが可能な、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0032】
1.合金化溶融亜鉛めっき鋼板
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、詳細に説明する。以下、「%」は、特に断りがない限り、「質量%」を意味する。また、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を単に「鋼板」と表記し、表面にめっき層が備えられる鋼板母材を「母材」と表記する。
【0033】
1.1.母材
(1)C:0.25%以下
本発明の鋼板は、成形性を重視する用途を対象とするため、Cは、本発明においては不純物であり、その含有量は少ないほど良い。母材に多量のCを含有させると、鋼板の加工性を低下させる。したがって、Cの含有量は0.25%以下とする。好ましくは、0.010%以下である。
【0034】
(2)Si:0.030%以上0.15%以下
Siは、合金化処理工程において、めっき層と母材との界面密着強度を増加させる重要な元素である。母材にSiが含有されることによる界面密着強度の増加メカニズムとして、「鉄と鋼、Vol.89、No.1(2003)、第46頁及至第53頁」には、Si含有により、合金化時にめっき層中のZnが母材の粒界へ拡散するのを助長し、母材とめっき層との界面の凹凸を増加させるとともに、剥離流路が迂回されてエネルギーが吸収されるためであることが提案されている。
Siの含有量が少ないと界面密着強度の向上効果が十分に得られない。そのため、Siの含有量は0.030%以上とする。好ましくは、0.040%以上である。一方、Siの含有量が多すぎると、鋼板の成形性に悪影響を及ぼす。また、合金化速度が著しく低下するため、合金化処理時間が長時間化し、生産性の低下や設備の長大化を招く。そのため、Siの含有量は0.15%以下とする。好ましくは、0.10%以下である。
【0035】
(3)Mn:0.030%以上3.0%以下
Mnの含有量が多すぎると、鋼板が脆化する。そのため、Mnの含有量は3.0%以下とする。好ましくは、2.5%以下である。さらに、伸びの過度の低下や、TiCの析出を低減して降伏点が必要以上に上昇することを防止する観点から、より好ましくは1.5%以下である。一方、Mn含有量が少なすぎると母材が脆化することがある。そのため、Mnの含有量は0.030%以上とする。
【0036】
(4)P:0.050%以下
Pは、本発明においては不純物であり、その含有量は少ないほど良い。Pの含有量が多すぎると、Siと同様に、伸びが小さくなる等、鋼板の成形性に悪影響を及ぼす。また、合金化速度も低下するため、合金化処理時間を長時間化し、生産性の低下や設備の長大化を招く。したがって、Pの含有量は0.050%以下とする。好ましくは、0.030%以下である。
【0037】
(5)S:0.010%以下
Sは、本発明においては不純物であり、その含有量は少ないほど良い。Sの含有量が多すぎると、MnSの析出が顕著になり、鋼板の延性を低下させる。そのため、Sの含有量は0.010%以下とする。好ましくは、0.0050%以下である。
【0038】
(6)sol.Al:0.10%以上0.80%以下
Alは、Siと同様に、めっき層と母材との界面密着強度を増加させる重要な元素である。その効果を発現させるため、Alは固溶状態で0.10%以上含有させる。好ましくは、0.20%以上である。一方、Alを固溶状態で多量に含有させても、その効果は飽和する上、めっきライン通板時に鋼帯同士を溶接する場合の溶接性が低下するため、その上限を0.80%とする。sol.Alの好ましい含有量は、0.20%以上0.60%以下である。
【0039】
(7)N:0.0060%以下
Nは、鋼板の成形性を低下させる。そのため、少ないほど良く、本発明では、Nの含有量を0.0060%以下とする。
【0040】
(8)Ti:0.0040%以上0.50%以下、Nb:0.0040%以上0.50%以下、B:0.0050%以下
これらの元素は、任意添加元素である。Ti及び/又はNbを0.0040%以上0.50%以下添加することにより、C、Nを炭化物、窒化物として固定し、鋼板の成形性を向上させることが可能になる。ただし、Cの含有量が少なく、Ti及び/又はNbを添加した鋼板を成形した成形品は、低温で加工変形応力とは異なる方向の衝撃応力を加えられると、簡単に割れてしまうことがある。そこで、かかる割れを防止するため、Bを微量(0.0050%以下)添加することが好ましい。
【0041】
本発明において、鋼板母材の、上記元素を除く化学組成は、Fe及び不可避的不純物である。ただし、上記元素のほか、本発明の鋼板には、Mo、Cr、Cu、Ni、Cu、V等を少量含有させることも可能である。また、鋼板の集合組織は特に限定されない。強度よりも成形性を重視する場合、母材はフェライト組織とし、再結晶が十分に進行しているものが好ましい。
【0042】
1.2.めっき層
(1)Fe:8.0%以上15%以下、η相
めっき層表層部にη相が局所的に残存すると、プレス成形時に金型との焼きつきが生じやすくなるほか、鋼板表面に配設される接着剤とめっき層との界面における接着強度が低下し、当該界面で剥離が生じやすくなる。そのため、めっき層にη相が残存しない程度に、めっき層を十分に合金化させる必要がある。合金化度の目安として、めっき層のFeの含有量は、8.0%以上とする。好ましくは、9.0%以上である。一方、Feの含有量が多すぎると、耐パウダリング性が低下する。また、合金化に時間を要すため生産性の点でも不利である。そのため、Feの含有量は15%以下とする。好ましくは、14%以下、より好ましくは10%未満である。
【0043】
(2)Al:0.080%以上0.50%以下
めっき層のAlの含有量が少なすぎると、めっき付着量の制御が困難になる。そのため、Alの含有量は0.080%以上とする。一方、Alの含有量が多すぎると、合金化速度が低下し、鋼板の生産性が低下する虞がある。そのため、Alの含有量は0.50%以下とする。めっき層に含有されるAlは、後述するめっき浴中のAl濃度でほぼ決定されるが、めっき付着量や母材のAlによっても若干変動する。本発明では、Alを多く含有する母材をめっき基材として用いるので、Al含有量の少ない母材を基材に用いた場合と比較して、Alの含有量が多くなる傾向がある。本発明において、めっき層のAlの含有量は、めっき付着量が片面あたり40g/m〜60g/m程度の場合、0.25%以上0.50%以下とするのが好ましい。
【0044】
1.3.母材側の粒径剥離面積率
本発明の鋼板を、めっき層−母材界面で強制的に剥離させると、剥離後の母材側に、ほぼ結晶粒単位の大きさで剥離した箇所が観察される。
図1は、後述の条件で強制的にめっき層−母材界面で剥離させた時の、母材側剥離面のSEM像である。写真中に矢印で示した箇所が、ほぼ結晶粒単位の大きさで剥離した箇所であり、それぞれの視野における粒径剥離面積率は、(a)が1.0%以下、(b)が約7.0%である。
【0045】
図2に、めっき層と母材との界面で強制的に剥離させる際のサンプルの形態を概略的に示す。本発明では、約30MPa以上の接着せん断強さを有する接着剤20を使用して、2枚の鋼板10、10を張り合わせ、図2のようなせん断引張試験を行う。界面密着強度と粒径剥離面積率との間には相関が認められ、界面密着強度が高いほど、粒径剥離面積率の値が大きい。そして、界面密着強度を高くし、粒径剥離面積率を大きくすると、鋼板の耐チッピング性や耐パウダリング性を改善することができる。そのため、本発明の鋼板における、母材側の粒径剥離面積率は、5.0%以上とする。好ましくは、10%以上である。
【0046】
図3は、めっき層と母材との界面の断面を概略的に示す図であり、一部を拡大するとともに、結晶粒の形状を簡略化して示している。以下、図2及び図3を参照しつつ、説明を続ける。母材1とめっき層2とを備える本発明の鋼板10に対して、上記せん断引張試験を行うと、ほぼ結晶粒単位の大きさの剥離が、母材1側に観察される。これは、後述するように、本発明の鋼板10は、合金化処理の際に、母材1の結晶粒界へのZn侵入が促進されるため、母材1とめっき層2との界面でこれらを強制的に剥離させると、Znが侵入していない又はZnの侵入が不十分である結晶粒界を有する、母材表面近傍の結晶粒3、3、…の一部が、めっき層2側に付着して剥離するためと考えられる。
【0047】
2.鋼板の製造方法
(1)熱間圧延工程、巻き取り工程
本発明の製造方法では、上記母材と同じ化学組成を有するスラブを、例えば、加熱炉で加熱し、粗圧延機及び仕上圧延機にて熱間圧延する熱間圧延工程により、帯状の鋼板(ストリップ)とする。かかる熱間圧延工程で圧延された鋼板は、その後、巻取機でコイルに巻き取られる(巻き取り工程)。コイルに巻き取る際のコイル巻き取り温度は、界面密着強度の低下を防止する観点から、600℃以下とする。好ましくは、550℃以下である。一方、コイル巻き取り温度が480℃未満になると熱延後段の圧延荷重が高くなり、設備能力を超えてしまう虞がある。そのため、コイル巻き取り温度は480℃以上が好ましい。
本発明の製造方法では、後述する合金化処理工程において、母材のSiやAlの効果により、母材の結晶粒界へZnの侵入を助長し、めっき層と母材との界面密着強度を向上させる。そのため、母材に含まれるSi及びAlは、固溶状態で存在することが好ましい。本発明の製造方法では、コイル巻き取り温度を低めに設定することで、母材内部でのSi、Alの酸化が抑制されると考えられる。
【0048】
(2)酸洗工程
上記巻き取り工程で巻き取られた鋼板(鋼帯)は、表面にスケールが形成されている。それゆえ、このスケールを除去するため、鋼板を酸洗する。酸洗工程で使用する酸は、塩酸と硫酸が主流である。また、過酸洗を防止するため、ごく少量の抑制剤(例えば、酸腐食抑制剤(朝日化学工業株式会社製のイビット710N)等)を添加することができる。
【0049】
(3)冷間圧延工程
酸洗工程によりスケールを除去された鋼板は、引き続き、熱延鋼板から所定の板厚の冷延母材を得るために、冷間圧延が施される。モーターパワー・各スタンドの速度範囲・形状・板厚変動・作業性等の観点から、冷間圧延工程における圧縮率は40%以上95%以下とすることが好ましい。
【0050】
(4)還元焼鈍工程
冷延母材には、圧延油や鉄粉が付着している。それゆえ、めっき外観を向上させる等の観点から、冷間圧延工程後の鋼板をアルカリ脱脂槽へ入れてアルカリ脱脂することにより、洗浄しても良い。その後、水素を含有する還元雰囲気下で、鋼板を必要な温度(例えば、820℃)まで上昇させることにより、還元焼鈍を行う。
【0051】
(5)浸漬工程
還元焼鈍工程を経た鋼板は、その後、めっき浴温近傍(例えば、470℃程度)まで冷却され、めっき浴に浸漬される(浸漬工程)。めっき浴中のAl濃度が低すぎると、めっき付着量の制御が難しい。そのため、めっき浴中のAl濃度は0.080%以上とする。好ましくは、0.090%以上である。一方、めっき浴中のAl濃度が高すぎると、めっき層−母材界面にFe−Al合金層が厚く形成され、後述する合金化処理工程において、所定の合金化度を得るために必要とされる処理時間が長くなり、生産性が低下する。そのため、めっき浴中のAl濃度は、0.14%以下とする。好ましくは、0.13%以下である。
めっき浴への浸漬時間は、1秒以上であれば、性能、操業性を阻害しない。その他のめっき条件は、一般的に採用されているものを用いることができる。めっき浴温は450℃以上470℃以下、侵入材温(還元焼鈍工程後に冷却された後の温度)は450℃以上480℃以下とすることができる。めっき浴中のAl以外の成分として、不可避不純物であるFe、Pb、Cd、Cr、Ni、W、Ti、Mg、Siのそれぞれが、0.10%以下含有されていても、鋼板の性能はほとんど変わらない。
【0052】
(6)付着量制御工程
上記浸漬工程後に、一般に製品として用いられる25g/m以上70g/m以下となるように、めっき層の付着量を制御する。
【0053】
(7)合金化処理工程
合金化処理温度を高くすると、母材の結晶粒内へのZnの拡散速度が大きくなり、Znが粒界よりも粒内へ拡散しやすくなる。その結果、めっき層と母材との界面密着強度が低下する。そのため、合金化処理温度は530℃以下とする。好ましくは、520℃以下である。
一方、合金化処理温度が低いと、Znの拡散速度が小さくなり、合金化処理時間が長くなる。かかる場合であっても、η層が存在しない程度にまで合金化処理を行えば、界面密着強度の鋼板が得られる。しかし、生産性の低下を防止する観点から、合金化処理温度は470℃以上とすることが好ましい。より好ましくは、480℃以上である。
本発明において、合金化処理温度までの昇温速度、合金化処理温度での保持時間及び保持後の冷却速度等は、特に制限されない。合金化処理における加熱手段は、めっき層の集合組織及び合金化度が上記構成となれば、輻射加熱、高周波誘導加熱、通電加熱等、何れの手段によっても良い。
【0054】
(8)後処理工程
上記工程を経て製造された鋼板の表面には、必要に応じて、防錆処理(例えば、クロメート処理やクロムフリー処理等)、リン酸塩処理、樹脂皮膜塗布等の後処理を施すことができ、防錆油を塗布することも可能である。
【0055】
少なくとも、熱間圧延工程、巻き取り工程、酸洗工程、冷間圧延工程、還元焼鈍工程、浸漬工程、付着量制御工程、及び、合金化処理工程を備える、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法(以下、単に「製造方法」という。)によれば、母材(スラブ)の化学組成を限定し、めっき浴のAl濃度を特定し、さらに、合金化処理温度を限定することで、生産性の低下を防止している。そして、当該製造方法により製造される鋼板は、優れた界面密着強度を有し、成形性が要求される用途にも用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を示しつつ、本発明についてさらに具体的に説明する。
1.供試材の作製
表1に、今回使用した供試材の化学組成をあわせて示す。本発明の技術的範囲に含まれる供試材を「実施例」、本発明の技術的範囲に含まれない供試材を「比較例」とした。
【0057】
【表1】


これらの成分を実験室にて溶製、鋳造し、板厚30mmのスラブを作製した。当該スラブを大気中(1150℃)で1時間に亘って保持し、粗圧延及び仕上圧延に供した。仕上圧延は950℃で行い、大気中にて巻き取り温度を適宜変更して巻き取った。熱延仕上げ厚みは、4.5mmとした。かかる厚みに調整後の鋼板を酸洗後、板厚が1.6mmとなるまで冷間圧延を行った。縦型溶融亜鉛めっき装置を用い、冷間圧延後の鋼板に対して、以下の条件でめっきを施した。
まず、板厚1.6mmの鋼板を75℃のNaOH溶液で脱脂洗浄し、雰囲気ガスがN+20%H(露点−40℃)、雰囲気温度820℃の還元雰囲気中で、1分間に亘って焼鈍した。焼鈍後、めっき浴温近傍(470℃)まで鋼板を冷却し、浴中Al濃度0.070%〜0.16%、浴温460℃の溶融亜鉛めっき浴に1.5秒間浸漬した後、ワイピング方式により、めっき付着量を調整した。その後、赤外線加熱装置を用いて合金化処理温度を適宜変更しながら、鋼板に合金化処理を施した。合金化処理後の片面あたりのめっき付着量は、50g/mであった。そして、合金化処理後に、圧延線荷重1.2MN/mで調質圧延を施した。
上記手順により得られた供試材に対し、以下に示す方法で分析・評価を行った。その結果を、巻き取り温度、浴中Al濃度、及び、合金化温度の値とともに、表2に示す。なお、表2の鋼種欄の数字は、表1の鋼種欄の数字と対応している。すなわち、表2の鋼種欄に「1」と記載されている場合には、表1の鋼種欄に「1」と記載されている供試材を用いて、以下の分析・評価を行ったことを意味している。
上記手順により得られた供試材に対し、以下に示す方法で分析・評価を行った。その結果を表2にあわせて示す。
【0058】
【表2】

【0059】
2.分析、評価
2.1.合金化処理性評価
表2に示す合金化処理温度で30秒間に亘って保持する合金化処理(保持後はエア吹き付けで空冷)を行った後、目視で「明らかにη相が残存(表面外観の金属光沢が高い)」と判断した供試材を「合金化遅延」と評価した。合金化遅延と評価された供試材には表2で「×」と表記するとともに、合金化遅延と評価されなかった供試材には表2で「○」と表記し、「合金化遅延」と判断した供試材に対しては、後述する分析、評価を行わなかった。なお、表2のNo.25は、合金化処理時間を短くし、あえてη相が残存するサンプルを作成したものであるため、合金化処理性については評価せず、「−」と記載した。
【0060】
2.2.めっき層の組成分析
合金化処理後の供試材から、25mmφの試料片を採取し、0.50体積%インヒビター(商品名「イビット710N」、朝日化学工業株式会社製)を含有した10%HCl水溶液でめっき層を溶解し、これを、誘導結合プラズマ(ICP)法で分析することにより、めっき層の組成を分析した。分析結果(「Fe濃度(%)」及び「Al濃度(%)」)を表2に示す。
【0061】
2.3.母材側粒径剥離面積率の測定
合金化処理後の供試材を、長手方向が圧延方向となるように、20mm×100mmに裁断し、一液加熱硬化型接着剤(商品名「EW2020」、住友スリーエム株式会社製)を接着剤として用い、重ね代:12.5mm、接着剤膜厚:200μm、焼付条件:170℃×30分間、引張速度:5.0mm/min、室温下の条件で、長手方向に引張試験を実施した。
この引張試験で、めっき層と母材との界面で剥離に至ったものについて、鋼板側の剥離面を200倍で、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。母材側粒径剥離面積率は、剥離面のうち、ほぼ結晶粒単位での剥離が観察される部分の面積の視野全体に対する面積比率で表した。一の供試材について、SEM観察を3箇所で行い、3箇所の粒径剥離面積率の平均値を代表値とした。各供試材の代表値を、表2に示す。
【0062】
2.4.皮膜剥離試験
合金化処理後の供試材を、長手方向が圧延方向となるように、30mm×100mmに裁断したサンプルに、防錆油(商品名「550HN」、日本パーカライジング株式会社製)を刷毛塗りし、ブランクホルダー圧フリー(ダイスとポンチとの間に板厚以上のスペースを確保)のハット成形試験を室温で行った。ハット成形試験の模式図を図4に示す。ここで、「ハット成形試験」とは、図4(a)に試験装置の一部を拡大して示すように、所定の間隔を開けて備えられるダイ41、41の上に、成形前の供試材42を載せ、当該供試材42の上方からポンチ43を下方へ移動させることにより、成形された供試材44(図4(b)参照)とする試験を意味する。このようにして供試材44へ成形した後、供試材44の縦壁部45にテープ(JIS Z−1522に準ずる、ニチバン株式会社製のセロテープ。「セロテープ」はニチバン株式会社の登録商標。)を貼り、その後、当該テープを剥離して、テープ剥離後の成形品の質量を測定した。そして、テープ剥離後の成形品の質量と、成形前の供試材41の質量とを比較することにより、1サンプルあたりのめっき層の剥離量を算出した。その他の条件は、ポンチ平行部:28mm、ダイス平行部:30mm、ポンチ肩R:3.0mm、ダイス肩R:5.0mm、成形速度:60mm/minとした。めっき層の剥離量の結果を、表2に示す。
【0063】
3.結果
母材側粒径剥離面積率を測定する際の引張試験では、No.25を除き、めっき層−母材界面での剥離が認められた。一方、No.25では、めっき層と接着剤とが剥離した。
【0064】
母材中のSi含有量が0.030%未満、又は、sol.Al含有量が0.10%未満であることにより、本発明の技術的範囲に含まれないスラブ(鋼種No.1、10、11)を用いた供試材(No.1、10、11)は、いずれも、粒径剥離面積率が2%程度であった。さらに、表2に示すように、これらは、めっき層が25mg以上剥離し、耐フレーキング性が劣っていた。また、母材中のSi含有量が0.15%を超える(鋼種No.6)、又は、P含有量が0.050%を超える(鋼種No.9)ことにより、本発明の技術的範囲に含まれないスラブを用いた供試材(No.6、9)は、所定の合金化度を得るために長い合金化処理時間が必要とされ、合金化遅延と評価された。なお、Si含有量又はP含有量が多いと、成形性も低下すると考えられる。
これに対し、本発明の技術的範囲に含まれるスラブ(鋼種No.2〜5、7〜8、12〜15)を用いた供試材(No.2〜5、7〜8、12〜15)は、母材側の剥離面の粒径剥離面積率が5.0%以上であり、めっき層の剥離量は概ね20mg程度、又は、20mg以下と良好な結果が得られた。なお、sol.Al含有量が0.80%であるスラブ(鋼種No.15)を用いた供試材(No.15)は、性能上の悪影響、又は、製造面での悪影響は認められないものの、sol.Al含有量を増加させることにより得られる効果(界面密着強度向上効果)が飽和する傾向が認められた。
【0065】
表2のNo.16〜20は、本発明の技術的範囲に含まれるスラブ(鋼種No.3)を用い、めっき浴中Al濃度を変更して製造した供試材である。浴中Al濃度が0.080%未満であることにより、本発明の製造方法の技術的範囲に含まれないNo.16は、めっき層の剥離量が41mgであり、耐フレーキング性が劣っていた。また、浴中Al濃度が0.14%を超えることにより、本発明の製造方法の技術的範囲に含まれないNo.19、20は、所定の合金化度を得るために長い合金化処理時間が必要とされ、合金化遅延と評価された。これに対し、浴中Al濃度が0.080%以上0.14%以下であり、本発明の製造方法の技術的範囲に含まれるNo.17、18は、粒径剥離面積率が5.0%以上であるとともに、めっき層の剥離量が20mg以下であり、良好な結果が得られた。
【0066】
表2のNo.21〜24は、本発明の技術的範囲に含まれるスラブ(鋼種No.3)を用い、合金化処理温度を変更して製造した供試材である。合金化処理温度が530℃を超えることにより、本発明の製造方法の技術的範囲に含まれないNo.23、24は、粒径剥離面積率が5%未満となった。これに対し、合金化処理温度が530℃以下であり、本発明の製造方法の技術的範囲に含まれるNo.21、22は、粒径剥離面積率が5.0%以上であるとともに、めっき層の剥離量が20mg以下であり、良好な結果が得られた。
【0067】
表2のNo.25〜29は、本発明の技術的範囲に含まれるスラブ(鋼種No.3)を用いて、合金化度の影響を調査したものである。上述のように、No.25は、めっき層と接着剤との間で剥離が生じたものであるが、めっき層をX線回折で分析すると、η相のスペクトルが観察された。なお、合金化度の目安となる、No.25の供試材における、めっき層のFe含有量は、7.0%であった。一方、めっき層のFe含有量が15%を超える16%まで合金化処理を行ったNo.29の供試材は、耐パウダリング性が低下し、めっき層の剥離量が多かった。これに対し、めっき層のFe含有量が15%以下であり、本発明の製造方法の技術的範囲に含まれるNo.26〜28は、粒径剥離面積率が5.0%以上であるとともに、めっき層の剥離量が20mg以下、又は、20mgをやや超える程度であり、良好な結果が得られた。
【0068】
表2のNo.30〜34は、本発明の技術的範囲に含まれるスラブ(鋼種No.16〜20)を用い、本発明の製造方法の技術的範囲に含まれる条件で製造した供試材である。表2に示すように、これらの供試材は、いずれも、粒径剥離面積率が5.0%以上であるとともに、めっき層の剥離量が20mg以下であり、良好な結果が得られた。
【0069】
表2のNo.35〜37は、本発明の技術的範囲に含まれるスラブ(鋼種No.3)を用いて、巻き取り温度の影響を調査したものである。巻き取り温度が高くなると、粒径剥離面積率が低下するとともに、めっき層の剥離量が増加する傾向が認められ、巻き取り温度が600℃を超えることにより、本発明の製造方法の技術的範囲に含まれないNo.37は、粒径剥離面積率がほぼゼロであった。これに対し、巻き取り温度が600℃以下であり、本発明の製造方法の技術的範囲に含まれるNo.35〜36は、粒径剥離面積率が5.0%以上であるとともに、めっき層の剥離量が20mg以下、又は、20mgをやや超える程度であり、良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】強制的にめっき層−母材界面で剥離させた時の、母材側剥離面のSEM像である。
【図2】めっき層と母材との界面で強制的に剥離させる際の形態を示す図である。
【図3】めっき層と母材との界面の断面を概略的に示す図である。
【図4】図4(a)は、ハット成形試験装置の一部を拡大して示す模式図である。図4(b)は、成形後の供試材を示す側面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 母材(鋼板母材)
2 めっき層(合金化亜鉛めっき層)
10 合金化溶融亜鉛めっき鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板母材の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記鋼板母材が、質量%で、C:0.25%以下、Si:0.030%以上0.15%以下、Mn:0.030%以上3.0%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上0.80%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有し、
前記合金化溶融亜鉛めっき層に、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.080%以上0.50%以下、が含有されるとともに、η相が存在せず、
前記合金化溶融亜鉛めっき層と前記鋼板母材との界面剥離部における、前記鋼板母材側の粒径剥離面積率が5.0%以上であることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
鋼板母材の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記鋼板母材が、質量%で、C:0.010%以下、Si:0.030%以上0.15%以下、Mn:0.030%以上1.5%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上0.80%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有し、
前記合金化溶融亜鉛めっき層に、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.080%以上0.50%以下、が含有されるとともに、η相が存在せず、
前記合金化溶融亜鉛めっき層と前記鋼板母材との界面剥離部における、前記鋼板母材側の粒径剥離面積率が5.0%以上であることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記鋼板母材に含有される前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.0040%以上0.50%以下、及び/又は、Nb:0.0040%以上0.50%以下、並びに、B:0.0050%以下、の添加元素が含有されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
質量%で、C:0.25%以下、Si:0.030%以上0.15%以下、Mn:0.030%以上3.0%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上0.80%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有するスラブを、熱間圧延して鋼板とする、熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後に、前記鋼板を600℃以下の温度で巻き取る、巻き取り工程と、
前記巻き取り工程後に、鋼板を酸洗する、酸洗工程と、
前記酸洗工程後に、鋼板を冷間圧延する、冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後に、鋼板を還元雰囲気中で焼鈍する、還元焼鈍工程と、
前記還元焼鈍工程後に、鋼板を、質量%で、0.080%以上0.14%以下のAlを含有する溶融亜鉛めっき浴へ浸漬する、浸漬工程と、
前記浸漬工程後に、鋼板表面の亜鉛付着量を制御する、付着量制御工程と、
前記付着量制御工程後に、鋼板を、530℃以下の温度で合金化処理する、合金化処理工程と、を備え、
前記合金化処理工程において、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.080%以上0.50%以下、を含有するとともに、η相が残存しない合金化溶融亜鉛めっき層、が形成されることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
質量%で、C:0.010%以下、Si:0.030%以上0.15%以下、Mn:0.030%以上1.5%以下、P:0.050%以下、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、及び、sol.Al:0.10%以上0.80%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有するスラブを、熱間圧延して鋼板とする、熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後に、前記鋼板を600℃以下の温度で巻き取る、巻き取り工程と、
前記巻き取り工程後に、鋼板を酸洗する、酸洗工程と、
前記酸洗工程後に、鋼板を冷間圧延する、冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後に、鋼板を還元雰囲気中で焼鈍する、還元焼鈍工程と、
前記還元焼鈍工程後に、鋼板を、質量%で、0.080%以上0.14%以下のAlを含有する溶融亜鉛めっき浴へ浸漬する、浸漬工程と、
前記浸漬工程後に、鋼板表面の亜鉛付着量を制御する、付着量制御工程と、
前記付着量制御工程後に、鋼板を、530℃以下の温度で合金化処理する、合金化処理工程と、を備え、
前記合金化処理工程において、質量%で、Fe:8.0%以上15%以下、及び、Al:0.080%以上0.50%以下、を含有するとともに、η相が残存しない合金化溶融亜鉛めっき層、が形成されることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記スラブに含有される前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.0040%以上0.50%以下、及び/又は、Nb:0.0040%以上0.50%以下、並びに、B:0.0050%以下、の添加元素が含有されることを特徴とする、請求項4又は5に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−314858(P2007−314858A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148278(P2006−148278)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】