合金鋼金属粉末及びその焼結体
【課題】合金鋼金属粉末及びその焼結体の提供。
【解決手段】合金鋼金属粉末は、鉄を主成分とし、重量パーセンテージ1.4〜2.0の炭素、重量パーセンテージ1.0以下のシリコン、重量パーセンテージ1.0のマンガン、重量パーセンテージ11.0〜13.0のクロム、重量パーセンテージ0.3〜2.3のチタン、重量パーセンテージ0.75以下のニッケルと銅の組み合わせ、及び少なくとも重量パーセンテージ5.0以下の強化元素を含み、焼結時には、チタンは、炭素とチタン炭化物を生成し、結晶粒粗化の発生を抑制でき、これにより焼結ウィンドウ50℃前後にまで高めることができる。
【解決手段】合金鋼金属粉末は、鉄を主成分とし、重量パーセンテージ1.4〜2.0の炭素、重量パーセンテージ1.0以下のシリコン、重量パーセンテージ1.0のマンガン、重量パーセンテージ11.0〜13.0のクロム、重量パーセンテージ0.3〜2.3のチタン、重量パーセンテージ0.75以下のニッケルと銅の組み合わせ、及び少なくとも重量パーセンテージ5.0以下の強化元素を含み、焼結時には、チタンは、炭素とチタン炭化物を生成し、結晶粒粗化の発生を抑制でき、これにより焼結ウィンドウ50℃前後にまで高めることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合金鋼金属粉末及びその焼結体に関し、特に粉末冶金に用いる合金鋼金属粉末、及びこの粉末により製造される焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末製造工程は、各種金属製品の製造に広く用いられている。
その内、機械構成部材を主とする伝統的な粉末冶金製造工程では、まず、焼結しようとする金属粉末を混合し、それに加圧して成型体を形成し、続いて高温で焼結する。
これにより、粉末間は、原子の拡散により相互に粘着して結合し、構造が緻密な焼結体を最終的に得ることができる。
しかし、テクノロジーが発展するに従い、機械構成部材の形状は複雑度を増し、サイズ制御に対する要求も高くなるに連れて、金属射出成型(Metal injection molding、MIMと略称)プロセスが開発された。
それは、粉末冶金とプラスチック射出成型プロセスを結びつけたもので、これにより焼結体が高密度で優良な機械性質を擁するという前提のもと、複雑性が高い物件を製造することができるようになった。
【0003】
金属射出成型プロセスは、まず、金属粉末と粘着結合剤を混合して原料(feedstock)とし、それを射出成型機により成型体に成型する。
次に、脱脂を経て、高温で焼結し、こうして焼結体を製造する。
しばしば見られるこの種の製造工程を用いる材料は、低合金鋼とステンレスで、電子製品のパーツの製造に適しており、熱処置を経た後の硬度は非常に高い必要がない。
しかし、物件の用途が、機械性質の要求が比較的高いものである時には、一般に、工具鋼を用いる。
例えば、ノートPCの上蓋開閉位置に用いるピボットなどでは、その硬度は通常は、HRC58に達することが求められる。
【0004】
通常用いられる工具鋼は、日本工業規格(Japanese industrial standards、JISと略称)のSKD11、或いは米国鋼鉄協会(American iron and steal institute、AISIと略称)のD2工具鋼である。
この種の合金鋼のベースは、マルテンサイト(Martensite)で、しかも大量の炭化物を含むため、硬度、或いは耐磨耗性などの機械性質共に優れている。
工具鋼の好ましい焼結方式は、スーパソリダス液相焼結(Supersolidus liquid phase sintering、SLPSと略称)方法である。
これは、相図(phase diagram)中の固相線上方と液相線下方との間の温度で、工具鋼粉末に焼結を行うもので、工具鋼の焼結に適した温度区間は、5〜10℃の範囲内である。
この温度区間より低い時には、液相が生成されず、これによりそのベースは拡散速度が比較的遅いオーステナイト(Austenite)となり、密度が低くなってしまう。
一方、この温度区間より高い時には、液相が過多となり、この時の焼結体には変形が発生し、しかも鋼状炭化物はベース中に溶解してしまい、また結晶が粗化し、最終的な焼結体の機械性質が悪くなってしまう。
すなわち、上記したように、SKD11とD2工具鋼には、焼結ウインドウ(Sintering window)が狭過ぎ、焼結体の歩留まりが比較的低いという問題が存在する。
【0005】
よって、特許文献1は焼結性を改善する金属射出成型用合金鋼粉末及びその焼結体を開示する。
それは、重量パーセンテージが0.1〜1.8の炭素、0.3〜1.2のケイ素、0.1〜0.5のマンガン、11.0〜18.0のクロム、2.0〜5.0のニオブを含み、他は鉄と雑質である。
これにより、合金鋼粉末の焼結温度区間は、約50℃前後まであげることができる。
しかし、一般によく見られる金属元素に比べ、ニオブの取得は比較的困難で、しかもその重量パーセンテージは少なくとも2.0であるため、相対的に全体的なコストを引き上げてしまう。
よって、この種の合金鋼製造工程により金属物件を製造していては、コストパフォーマンスが低くならざるを得ない。
本発明は、従来の合金鋼製造工程の上記した欠点に鑑みてなされたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公告第US7,211,125号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、従来の合金鋼金属粉末において、焼結温度区間を高めるためには、重量パーセンテージが2.0〜5.0のニオブを使用する必要があり、このため原料コストを大きく引き上げているという問題を解決可能な合金鋼金属粉末及びその焼結体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記の合金鋼金属粉末及びその焼結体を提供する。
合金鋼金属粉末及びその焼結体の合金鋼金属粉末は、鉄を主成分とし、
重量パーセンテージ1.4〜2.0の炭素、重量パーセンテージ1.0以下のシリコン、重量パーセンテージ1.0のマンガン、重量パーセンテージ11.0〜13.0のクロム、重量パーセンテージ0.3〜2.3のチタン、重量パーセンテージ0.75以下のニッケルと銅の組み合わせ、及び少なくとも重量パーセンテージ5.0以下の強化元素を含み、
焼結時には、チタンは、炭素とチタン炭化物を生成し、結晶粒粗化の発生を抑制でき、これにより焼結ウィンドウ50℃前後にまで高めることができ、
従来の技術に比べ、本発明のチタンの添加量は、重量パーセンテージ0.3〜2.3に過ぎず、すなわち製品の歩留まりを上げられると同時に、原料コストを圧縮することができ、
加えて、本発明は焼結体の結晶粒を細化することができ、こうして強度、硬度、弾力性などの機械性質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の合金鋼金属粉末及びその焼結体は、チタンにより、焼結時に炭素とチタン炭化物を生成し、これにより焼結時に発生する結晶粒粗化を抑制することができ、こうして、合金鋼金属粉末は幅広い焼結温度区間において、高密度の焼結体を焼結することができ、同時に優れたサイズ安定性を擁することができ、さらに焼結ウィンドウを50℃まで高めることができる。しかも、従来の技術に比べ、本発明のチタンの添加量は、重量パーセンテージ0.3〜2.3に過ぎず、すなわち使用量を大幅に減らすことができ、そればかりかチタンは手に入りやすいため、原料コストを圧縮することができる。加えて、本発明は焼結体の結晶粒を細化することができ、こうしてその機械性質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明第一実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図2】本発明第二実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図3】本発明第三実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図4】本発明第四実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図5】本発明第五実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図6】本発明第六実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図7】本発明第一比較例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図8】本発明第二比較例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図9】本発明第三比較例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図10】本発明第四比較例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図11】本発明第一実施例に1260℃で焼結を行い得られた焼結体の電子顕微鏡写真である。
【図12】本発明第一比較例に1240℃で焼結を行い得られた焼結体の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明合金鋼金属粉末は、鉄を主成分とし、重量パーセンテージ1.4〜2.0の間の炭素、重量パーセンテージ1.0以下のシリコン、重量パーセンテージが1.0のマンガン、重量パーセンテージが11.0〜13.0のクロム、重量パーセンテージが0.3〜2.3の間のチタン、重量パーセンテージが0.75以下のニッケルと銅の組み合わせ、及び少なくとも重量パーセンテージが5.0以下の強化元素を含む。
強化元素は、モリブデン、バナジウム、タングステン、或いはその混合物で、しかも好ましい強化元素の重量パーセンテージは、0.2〜1.5の範囲内である。
【0012】
本発明において、合金鋼金属粉末は、チタン金属粉末、或いはチタンを含む炭化物粉末をチタンのソースとして使用することができる。
チタンを含む炭化物は、炭化チタン粉末、タングステンを混合した炭化チタン粉末、或いはバナジウムを混合した炭化チタン粉末である。
しかも、チタンを含む炭化物粉末の好ましい平均粒径は、5μm以下である。
この他、炭素のソースは、グラファイト、或いはカーボンブラックである。
【0013】
本発明において、チタンは、炭素とチタン炭化物を形成することができ、合金鋼金属粉末の焼結時の結晶粒の粗化を、大幅に抑制することができ、これにより高温焼結後の焼結体の深刻な変形を回避することができる。
よって、合金鋼金属粉末は、より広い焼結温度区間において、焼結を行うことができ、高い相対密度を達成することができる。
しかも、焼結体のサイズの安定性を維持可能で、さらに結晶粒細化により、その機械性質(強度、硬度、弾力性など)を向上させることができる。
内、チタンの重量パーセンテージが0.3以下である時、その効果は明確ではなく、チタンの重量パーセンテージが2.3以上である時、合金鋼金属粉末は、緻密に焼結されにくい。
【0014】
炭素、及び炭化物は、合金鋼金属粉末焼結後の硬度及び強度を高めることができる。
炭素の重量パーセンテージが1.4以下である時には、クロム炭化物の生成量が低すぎるため、その焼結体の耐摩耗性が低下する。
炭素の重量パーセンテージが2.0以上である時には、焼結体の弾力性が低下する。
マンガンは、高い硬化能力を備えるため、焼結体の硬度を高めることができる。
しかし、マンガンの含量が多すぎると、合金鋼金属粉末を噴霧法で製造する時、マンガンと酸素が結合し、粉末の酸素含量が高くなり、粉末の成形性が悪くなってしまい、同時に粉末が焼結時に脱炭素の現象が起きる。
よって、マンガンの重量パーセンテージは1.0以下とする。
【0015】
焼結時には、固溶方式により、ベースの中に存在するクロムは、焼結体の抗腐食性を改善することができる。
クロムは、炭素とクロム炭化物を形成することができ、これにより焼結体の硬度を高めることができ、その好ましい重量パーセンテージは、11.0〜13.0の間である。
ニッケルと銅は、ベースの中に固溶させることができ、固溶強化の方式により、焼結体の強度を高めることができる。
ニッケルと銅の重量パーセンテージの和は、0.75以下であることが好ましい。
シリコンは、噴霧法により、合金鋼金属粉末を製造する時、粉末表面に緻密な気化層を生成するため、粉末がそれ以上長時間気化することを防止できる。
但し、シリコンの含量が多すぎると、酸化層の厚みが増加し、粉末の焼結を阻害するため、シリコンの重量パーセンテージは、1.0以下であることが好ましい。
【0016】
モリブデン、バナジウム、タングステン、或いはその混合物である強化元素は、炭素と炭化物を生成することができ、これにより焼結体の硬度を向上させることができる。
強化元素の重量パーセンテージが0.2以下である時、硬度の向上は限界があり、もし強化元素の重量パーセンテージが1.5以上である時には、その硬度向上に対する効果は、含量に従い徐々に低下する。
よって、強化元素の重量パーセンテージは、0.2〜1.5の範囲内であることが好ましい。
【0017】
以下に実施例を参照しながら、本発明についてさらに詳細に説明する。
これら実施例は、説明の目的に用いるだけで、本発明の範囲を制限するものではない。
内、第一実施例から第六実施例、及び第一比較例から第四比較例は、表1に示す化学組成を使用し、金属射出成型(Metal injection molding、MIMと略称)プロセスを行う。
測定する性質は、各焼結温度における焼結体の密度、及びその変形程度の判断である。
【0018】
以下の各実施例と比較例において、まず金属粉末と適量の粘着結合剤を、Z型ミキサー(Z-blade mixer)により混合し、顆粒状のフィードストック(feedstock)を得る。
使用する粘着結合剤の、合金鋼金属粉末に対する重量パーセンテージは7.0である。
混合の温度は、150℃で、時間は1時間である。
続いて、射出成型機により、円柱状の試験片を成型する。
それは直径が、12.5mm、高さが20mmである。
その後、試験片を真空焼結炉中に入れ、まず毎分5℃の速度で温度を650℃まで上げ、1時間その温度を維持し脱脂する。
続いて、毎分10℃の速度で温度を特定の焼結温度まで上げ、1時間その温度を維持して焼結を行う。
最後に、温度を下げ、焼結体を得る。
ここでは、MIMプロセスを例として説明したが、実際の応用においては、本発明の合金鋼金属粉末はドライプレス成型、或いは他の粉末冶金プロセスを用いて、焼結体を製造することができる。
【0019】
焼結体の密度は、アルキメデス法を用いて測定する。
図1〜6、及び図7〜10は、本発明の第一〜第六実施例、及び第一〜第四比較例を、さまざまな焼結温度において焼結した際の焼結密度を表すグラフで、その結果は表2の通りである。
さらに、計算により得られた理論密度に対応して、その相対密度を計算し、その結果は表3に示す。
変形程度の判断は、試験片両端の直径を測定し、その差が1%以上であれば、Xと標示し、焼結体のサイズが不合格であることを表す。
反対に、1%以下であれば、Oと標示し、焼結体のサイズが合格であることを表す。
結果は表4の通りである。
別に以下は、焼結体の密度が98%の相対密度に達し、しかも変形程度が合格したものの焼結温度区間により、真空焼結炉内の約±5℃の温度差を考慮し、焼結ウィンドウの範囲を見積もる。
【0020】
表1は第一〜第六実施例及び第一〜第四比較例の化学組成(重量パーセンテージ)である。
【表1】
【0021】
表2は第一〜第六実施例及び第一〜第四比較例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度及びその理論密度(g/cm3)である。
【表2】
【0022】
表3は第一〜第六実施例及び第一〜第四比較例のさまざまな焼結温度における相対密度である。
【表3】
【0023】
表4は第一〜第六実施例及び第一〜第四比較例のさまざまな焼結温度における変形評価である。
【表4】
【0024】
実施例1
本実施例は、噴霧法により調製したプレ合金粉末を使用する。
その焼結特性は図1に示す。
焼結温度が約1230℃〜1280℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1230℃〜1270℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは50℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.6である。
【0025】
実施例2
本実施例は第一比較例のプレ合金粉末と重量パーセンテージ1.0のTiC粉末混合を使用する。
その焼結特性は図2に示す。
焼結温度が約1240℃〜1270℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃〜1260℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは30℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.54である。
【0026】
実施例3
本実施例は第一比較例のプレ合金粉末と重量パーセンテージ2.0のTiC粉末混合を使用する。
その焼結特性は図3に示す。
焼結温度が約1240℃〜1290℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃〜1280℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは50℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.68である。
【0027】
実施例4
本実施例は第一比較例のプレ合金粉末と重量パーセンテージ2.0のチタンを含む炭化物粉末混合を使用する。
チタンを含む炭化物は、TiCとWCが各50%の重量パーセンテージを占めるプレ合金粉末である。
その焼結特性は図4に示す。
焼結温度が約1240℃〜1260℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃〜1250℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは20℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.53である。
【0028】
実施例5
本実施例は第二比較例のプレ合金粉末と重量パーセンテージ2.0のTiC粉末混合を使用する。
その焼結特性は図5に示す。
焼結温度が約1240℃〜1290℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃〜1280℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは50℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.64である。
【0029】
実施例6
本実施例は第一比較例のプレ合金粉末と重量パーセンテージ2.0のチタン金属粉末混合を使用する。
その焼結特性は図6に示す。
焼結温度が約1260℃〜1290℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1260℃〜1280℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは30℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.52である。
【0030】
比較例1
本比較例は噴霧法により調整するプレ合金粉を使用する。
その成分は、一般的な商用のSKD11工具鋼に近い。
その焼結特性は図7に示す。
焼結温度が約1240℃〜1250℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃前後では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは10℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.52である。
【0031】
比較例2
本比較例は噴霧法により調整するプレ合金粉を使用する。
その成分は、一般的な商用のD2工具鋼に近い。
その焼結特性は図8に示す。
焼結温度が約1240℃〜1250℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃前後では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは10℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.48である。
【0032】
比較例3
本比較例は元素粉を使用する。
タングステンのソースは、重量パーセンテージ2.0のWC粉末である。
その焼結特性は図9に示す。
焼結温度が約1210℃〜1220℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1210℃前後では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは10℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.47である。
【0033】
比較例4
本比較例は元素粉を使用する。
クロムのソースは、重量パーセンテージ2.0のCr3C2粉末である。
その焼結特性は図10に示す。
焼結温度が約1240℃〜1250℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃前後では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは10℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.55である。
【0034】
上記から明らかなように、本発明が行う第一〜第六実施例に基づき、焼結ウィンドウは20℃から50℃の間にまで高めることができ、第一〜第四比較例の焼結ウィンドウは共に、10℃前後である。
この他、本発明第一実施例に1260℃で焼結を行い得られた焼結体の電子顕微鏡写真である図11に示すように、計算により得られた結晶粒の大きさは、平均11μmである。
さらに、本発明第一比較例に1240℃で焼結を行い得られた焼結体の電子顕微鏡写真である図12に示すように、計算により得られた結晶粒の大きさは、平均86μmである。
よって、本発明は、チタンを添加することで、結晶粒の成長を効果的に抑制することができる。
【0035】
上記したように、本発明合金鋼金属粉末及びその焼結体は、チタンにより、焼結時に炭素とチタン炭化物を生成し、これにより焼結時に発生する結晶粒粗化を抑制することができる。
こうして、合金鋼金属粉末は幅広い焼結温度区間において、高密度の焼結体を焼結することができ、同時に優れたサイズ安定性を擁することができ、さらに焼結ウィンドウを50℃まで高めることができる。
しかも、従来の技術に比べ、本発明のチタンの添加量は、重量パーセンテージ0.3〜2.3に過ぎず、すなわち使用量を大幅に減らすことができ、そればかりかチタンは手に入りやすいため、原料コストを圧縮することができる。
加えて、本発明は焼結体の結晶粒を細化することができ、こうしてその機械性質を向上させることができる。
【0036】
上記の本発明名称と内容は、本発明技術内容の説明に用いたのみで、本発明を限定するものではない。本発明の精神に基づく等価応用或いは部品(構造)の転換、置換、数量の増減はすべて、本発明の保護範囲に含むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は特許の要件である新規性を備え、従来の同類製品に比べ十分な進歩を有し、実用性が高く、社会のニーズに合致しており、産業上の利用価値は非常に大きい。
【技術分野】
【0001】
本発明は合金鋼金属粉末及びその焼結体に関し、特に粉末冶金に用いる合金鋼金属粉末、及びこの粉末により製造される焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末製造工程は、各種金属製品の製造に広く用いられている。
その内、機械構成部材を主とする伝統的な粉末冶金製造工程では、まず、焼結しようとする金属粉末を混合し、それに加圧して成型体を形成し、続いて高温で焼結する。
これにより、粉末間は、原子の拡散により相互に粘着して結合し、構造が緻密な焼結体を最終的に得ることができる。
しかし、テクノロジーが発展するに従い、機械構成部材の形状は複雑度を増し、サイズ制御に対する要求も高くなるに連れて、金属射出成型(Metal injection molding、MIMと略称)プロセスが開発された。
それは、粉末冶金とプラスチック射出成型プロセスを結びつけたもので、これにより焼結体が高密度で優良な機械性質を擁するという前提のもと、複雑性が高い物件を製造することができるようになった。
【0003】
金属射出成型プロセスは、まず、金属粉末と粘着結合剤を混合して原料(feedstock)とし、それを射出成型機により成型体に成型する。
次に、脱脂を経て、高温で焼結し、こうして焼結体を製造する。
しばしば見られるこの種の製造工程を用いる材料は、低合金鋼とステンレスで、電子製品のパーツの製造に適しており、熱処置を経た後の硬度は非常に高い必要がない。
しかし、物件の用途が、機械性質の要求が比較的高いものである時には、一般に、工具鋼を用いる。
例えば、ノートPCの上蓋開閉位置に用いるピボットなどでは、その硬度は通常は、HRC58に達することが求められる。
【0004】
通常用いられる工具鋼は、日本工業規格(Japanese industrial standards、JISと略称)のSKD11、或いは米国鋼鉄協会(American iron and steal institute、AISIと略称)のD2工具鋼である。
この種の合金鋼のベースは、マルテンサイト(Martensite)で、しかも大量の炭化物を含むため、硬度、或いは耐磨耗性などの機械性質共に優れている。
工具鋼の好ましい焼結方式は、スーパソリダス液相焼結(Supersolidus liquid phase sintering、SLPSと略称)方法である。
これは、相図(phase diagram)中の固相線上方と液相線下方との間の温度で、工具鋼粉末に焼結を行うもので、工具鋼の焼結に適した温度区間は、5〜10℃の範囲内である。
この温度区間より低い時には、液相が生成されず、これによりそのベースは拡散速度が比較的遅いオーステナイト(Austenite)となり、密度が低くなってしまう。
一方、この温度区間より高い時には、液相が過多となり、この時の焼結体には変形が発生し、しかも鋼状炭化物はベース中に溶解してしまい、また結晶が粗化し、最終的な焼結体の機械性質が悪くなってしまう。
すなわち、上記したように、SKD11とD2工具鋼には、焼結ウインドウ(Sintering window)が狭過ぎ、焼結体の歩留まりが比較的低いという問題が存在する。
【0005】
よって、特許文献1は焼結性を改善する金属射出成型用合金鋼粉末及びその焼結体を開示する。
それは、重量パーセンテージが0.1〜1.8の炭素、0.3〜1.2のケイ素、0.1〜0.5のマンガン、11.0〜18.0のクロム、2.0〜5.0のニオブを含み、他は鉄と雑質である。
これにより、合金鋼粉末の焼結温度区間は、約50℃前後まであげることができる。
しかし、一般によく見られる金属元素に比べ、ニオブの取得は比較的困難で、しかもその重量パーセンテージは少なくとも2.0であるため、相対的に全体的なコストを引き上げてしまう。
よって、この種の合金鋼製造工程により金属物件を製造していては、コストパフォーマンスが低くならざるを得ない。
本発明は、従来の合金鋼製造工程の上記した欠点に鑑みてなされたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公告第US7,211,125号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、従来の合金鋼金属粉末において、焼結温度区間を高めるためには、重量パーセンテージが2.0〜5.0のニオブを使用する必要があり、このため原料コストを大きく引き上げているという問題を解決可能な合金鋼金属粉末及びその焼結体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記の合金鋼金属粉末及びその焼結体を提供する。
合金鋼金属粉末及びその焼結体の合金鋼金属粉末は、鉄を主成分とし、
重量パーセンテージ1.4〜2.0の炭素、重量パーセンテージ1.0以下のシリコン、重量パーセンテージ1.0のマンガン、重量パーセンテージ11.0〜13.0のクロム、重量パーセンテージ0.3〜2.3のチタン、重量パーセンテージ0.75以下のニッケルと銅の組み合わせ、及び少なくとも重量パーセンテージ5.0以下の強化元素を含み、
焼結時には、チタンは、炭素とチタン炭化物を生成し、結晶粒粗化の発生を抑制でき、これにより焼結ウィンドウ50℃前後にまで高めることができ、
従来の技術に比べ、本発明のチタンの添加量は、重量パーセンテージ0.3〜2.3に過ぎず、すなわち製品の歩留まりを上げられると同時に、原料コストを圧縮することができ、
加えて、本発明は焼結体の結晶粒を細化することができ、こうして強度、硬度、弾力性などの機械性質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の合金鋼金属粉末及びその焼結体は、チタンにより、焼結時に炭素とチタン炭化物を生成し、これにより焼結時に発生する結晶粒粗化を抑制することができ、こうして、合金鋼金属粉末は幅広い焼結温度区間において、高密度の焼結体を焼結することができ、同時に優れたサイズ安定性を擁することができ、さらに焼結ウィンドウを50℃まで高めることができる。しかも、従来の技術に比べ、本発明のチタンの添加量は、重量パーセンテージ0.3〜2.3に過ぎず、すなわち使用量を大幅に減らすことができ、そればかりかチタンは手に入りやすいため、原料コストを圧縮することができる。加えて、本発明は焼結体の結晶粒を細化することができ、こうしてその機械性質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明第一実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図2】本発明第二実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図3】本発明第三実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図4】本発明第四実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図5】本発明第五実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図6】本発明第六実施例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図7】本発明第一比較例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図8】本発明第二比較例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図9】本発明第三比較例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図10】本発明第四比較例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度を示すグラフである。
【図11】本発明第一実施例に1260℃で焼結を行い得られた焼結体の電子顕微鏡写真である。
【図12】本発明第一比較例に1240℃で焼結を行い得られた焼結体の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明合金鋼金属粉末は、鉄を主成分とし、重量パーセンテージ1.4〜2.0の間の炭素、重量パーセンテージ1.0以下のシリコン、重量パーセンテージが1.0のマンガン、重量パーセンテージが11.0〜13.0のクロム、重量パーセンテージが0.3〜2.3の間のチタン、重量パーセンテージが0.75以下のニッケルと銅の組み合わせ、及び少なくとも重量パーセンテージが5.0以下の強化元素を含む。
強化元素は、モリブデン、バナジウム、タングステン、或いはその混合物で、しかも好ましい強化元素の重量パーセンテージは、0.2〜1.5の範囲内である。
【0012】
本発明において、合金鋼金属粉末は、チタン金属粉末、或いはチタンを含む炭化物粉末をチタンのソースとして使用することができる。
チタンを含む炭化物は、炭化チタン粉末、タングステンを混合した炭化チタン粉末、或いはバナジウムを混合した炭化チタン粉末である。
しかも、チタンを含む炭化物粉末の好ましい平均粒径は、5μm以下である。
この他、炭素のソースは、グラファイト、或いはカーボンブラックである。
【0013】
本発明において、チタンは、炭素とチタン炭化物を形成することができ、合金鋼金属粉末の焼結時の結晶粒の粗化を、大幅に抑制することができ、これにより高温焼結後の焼結体の深刻な変形を回避することができる。
よって、合金鋼金属粉末は、より広い焼結温度区間において、焼結を行うことができ、高い相対密度を達成することができる。
しかも、焼結体のサイズの安定性を維持可能で、さらに結晶粒細化により、その機械性質(強度、硬度、弾力性など)を向上させることができる。
内、チタンの重量パーセンテージが0.3以下である時、その効果は明確ではなく、チタンの重量パーセンテージが2.3以上である時、合金鋼金属粉末は、緻密に焼結されにくい。
【0014】
炭素、及び炭化物は、合金鋼金属粉末焼結後の硬度及び強度を高めることができる。
炭素の重量パーセンテージが1.4以下である時には、クロム炭化物の生成量が低すぎるため、その焼結体の耐摩耗性が低下する。
炭素の重量パーセンテージが2.0以上である時には、焼結体の弾力性が低下する。
マンガンは、高い硬化能力を備えるため、焼結体の硬度を高めることができる。
しかし、マンガンの含量が多すぎると、合金鋼金属粉末を噴霧法で製造する時、マンガンと酸素が結合し、粉末の酸素含量が高くなり、粉末の成形性が悪くなってしまい、同時に粉末が焼結時に脱炭素の現象が起きる。
よって、マンガンの重量パーセンテージは1.0以下とする。
【0015】
焼結時には、固溶方式により、ベースの中に存在するクロムは、焼結体の抗腐食性を改善することができる。
クロムは、炭素とクロム炭化物を形成することができ、これにより焼結体の硬度を高めることができ、その好ましい重量パーセンテージは、11.0〜13.0の間である。
ニッケルと銅は、ベースの中に固溶させることができ、固溶強化の方式により、焼結体の強度を高めることができる。
ニッケルと銅の重量パーセンテージの和は、0.75以下であることが好ましい。
シリコンは、噴霧法により、合金鋼金属粉末を製造する時、粉末表面に緻密な気化層を生成するため、粉末がそれ以上長時間気化することを防止できる。
但し、シリコンの含量が多すぎると、酸化層の厚みが増加し、粉末の焼結を阻害するため、シリコンの重量パーセンテージは、1.0以下であることが好ましい。
【0016】
モリブデン、バナジウム、タングステン、或いはその混合物である強化元素は、炭素と炭化物を生成することができ、これにより焼結体の硬度を向上させることができる。
強化元素の重量パーセンテージが0.2以下である時、硬度の向上は限界があり、もし強化元素の重量パーセンテージが1.5以上である時には、その硬度向上に対する効果は、含量に従い徐々に低下する。
よって、強化元素の重量パーセンテージは、0.2〜1.5の範囲内であることが好ましい。
【0017】
以下に実施例を参照しながら、本発明についてさらに詳細に説明する。
これら実施例は、説明の目的に用いるだけで、本発明の範囲を制限するものではない。
内、第一実施例から第六実施例、及び第一比較例から第四比較例は、表1に示す化学組成を使用し、金属射出成型(Metal injection molding、MIMと略称)プロセスを行う。
測定する性質は、各焼結温度における焼結体の密度、及びその変形程度の判断である。
【0018】
以下の各実施例と比較例において、まず金属粉末と適量の粘着結合剤を、Z型ミキサー(Z-blade mixer)により混合し、顆粒状のフィードストック(feedstock)を得る。
使用する粘着結合剤の、合金鋼金属粉末に対する重量パーセンテージは7.0である。
混合の温度は、150℃で、時間は1時間である。
続いて、射出成型機により、円柱状の試験片を成型する。
それは直径が、12.5mm、高さが20mmである。
その後、試験片を真空焼結炉中に入れ、まず毎分5℃の速度で温度を650℃まで上げ、1時間その温度を維持し脱脂する。
続いて、毎分10℃の速度で温度を特定の焼結温度まで上げ、1時間その温度を維持して焼結を行う。
最後に、温度を下げ、焼結体を得る。
ここでは、MIMプロセスを例として説明したが、実際の応用においては、本発明の合金鋼金属粉末はドライプレス成型、或いは他の粉末冶金プロセスを用いて、焼結体を製造することができる。
【0019】
焼結体の密度は、アルキメデス法を用いて測定する。
図1〜6、及び図7〜10は、本発明の第一〜第六実施例、及び第一〜第四比較例を、さまざまな焼結温度において焼結した際の焼結密度を表すグラフで、その結果は表2の通りである。
さらに、計算により得られた理論密度に対応して、その相対密度を計算し、その結果は表3に示す。
変形程度の判断は、試験片両端の直径を測定し、その差が1%以上であれば、Xと標示し、焼結体のサイズが不合格であることを表す。
反対に、1%以下であれば、Oと標示し、焼結体のサイズが合格であることを表す。
結果は表4の通りである。
別に以下は、焼結体の密度が98%の相対密度に達し、しかも変形程度が合格したものの焼結温度区間により、真空焼結炉内の約±5℃の温度差を考慮し、焼結ウィンドウの範囲を見積もる。
【0020】
表1は第一〜第六実施例及び第一〜第四比較例の化学組成(重量パーセンテージ)である。
【表1】
【0021】
表2は第一〜第六実施例及び第一〜第四比較例のさまざまな焼結温度における焼結体の密度及びその理論密度(g/cm3)である。
【表2】
【0022】
表3は第一〜第六実施例及び第一〜第四比較例のさまざまな焼結温度における相対密度である。
【表3】
【0023】
表4は第一〜第六実施例及び第一〜第四比較例のさまざまな焼結温度における変形評価である。
【表4】
【0024】
実施例1
本実施例は、噴霧法により調製したプレ合金粉末を使用する。
その焼結特性は図1に示す。
焼結温度が約1230℃〜1280℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1230℃〜1270℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは50℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.6である。
【0025】
実施例2
本実施例は第一比較例のプレ合金粉末と重量パーセンテージ1.0のTiC粉末混合を使用する。
その焼結特性は図2に示す。
焼結温度が約1240℃〜1270℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃〜1260℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは30℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.54である。
【0026】
実施例3
本実施例は第一比較例のプレ合金粉末と重量パーセンテージ2.0のTiC粉末混合を使用する。
その焼結特性は図3に示す。
焼結温度が約1240℃〜1290℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃〜1280℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは50℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.68である。
【0027】
実施例4
本実施例は第一比較例のプレ合金粉末と重量パーセンテージ2.0のチタンを含む炭化物粉末混合を使用する。
チタンを含む炭化物は、TiCとWCが各50%の重量パーセンテージを占めるプレ合金粉末である。
その焼結特性は図4に示す。
焼結温度が約1240℃〜1260℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃〜1250℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは20℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.53である。
【0028】
実施例5
本実施例は第二比較例のプレ合金粉末と重量パーセンテージ2.0のTiC粉末混合を使用する。
その焼結特性は図5に示す。
焼結温度が約1240℃〜1290℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃〜1280℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは50℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.64である。
【0029】
実施例6
本実施例は第一比較例のプレ合金粉末と重量パーセンテージ2.0のチタン金属粉末混合を使用する。
その焼結特性は図6に示す。
焼結温度が約1260℃〜1290℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1260℃〜1280℃の間では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは30℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.52である。
【0030】
比較例1
本比較例は噴霧法により調整するプレ合金粉を使用する。
その成分は、一般的な商用のSKD11工具鋼に近い。
その焼結特性は図7に示す。
焼結温度が約1240℃〜1250℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃前後では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは10℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.52である。
【0031】
比較例2
本比較例は噴霧法により調整するプレ合金粉を使用する。
その成分は、一般的な商用のD2工具鋼に近い。
その焼結特性は図8に示す。
焼結温度が約1240℃〜1250℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃前後では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは10℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.48である。
【0032】
比較例3
本比較例は元素粉を使用する。
タングステンのソースは、重量パーセンテージ2.0のWC粉末である。
その焼結特性は図9に示す。
焼結温度が約1210℃〜1220℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1210℃前後では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは10℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.47である。
【0033】
比較例4
本比較例は元素粉を使用する。
クロムのソースは、重量パーセンテージ2.0のCr3C2粉末である。
その焼結特性は図10に示す。
焼結温度が約1240℃〜1250℃の間では、98%以上の相対密度を達成することができる。
焼結温度が約1240℃前後では、その焼結体の変形は合格であるため、焼結ウィンドウは10℃で、しかも焼結体中の炭素の重量パーセンテージは1.55である。
【0034】
上記から明らかなように、本発明が行う第一〜第六実施例に基づき、焼結ウィンドウは20℃から50℃の間にまで高めることができ、第一〜第四比較例の焼結ウィンドウは共に、10℃前後である。
この他、本発明第一実施例に1260℃で焼結を行い得られた焼結体の電子顕微鏡写真である図11に示すように、計算により得られた結晶粒の大きさは、平均11μmである。
さらに、本発明第一比較例に1240℃で焼結を行い得られた焼結体の電子顕微鏡写真である図12に示すように、計算により得られた結晶粒の大きさは、平均86μmである。
よって、本発明は、チタンを添加することで、結晶粒の成長を効果的に抑制することができる。
【0035】
上記したように、本発明合金鋼金属粉末及びその焼結体は、チタンにより、焼結時に炭素とチタン炭化物を生成し、これにより焼結時に発生する結晶粒粗化を抑制することができる。
こうして、合金鋼金属粉末は幅広い焼結温度区間において、高密度の焼結体を焼結することができ、同時に優れたサイズ安定性を擁することができ、さらに焼結ウィンドウを50℃まで高めることができる。
しかも、従来の技術に比べ、本発明のチタンの添加量は、重量パーセンテージ0.3〜2.3に過ぎず、すなわち使用量を大幅に減らすことができ、そればかりかチタンは手に入りやすいため、原料コストを圧縮することができる。
加えて、本発明は焼結体の結晶粒を細化することができ、こうしてその機械性質を向上させることができる。
【0036】
上記の本発明名称と内容は、本発明技術内容の説明に用いたのみで、本発明を限定するものではない。本発明の精神に基づく等価応用或いは部品(構造)の転換、置換、数量の増減はすべて、本発明の保護範囲に含むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は特許の要件である新規性を備え、従来の同類製品に比べ十分な進歩を有し、実用性が高く、社会のニーズに合致しており、産業上の利用価値は非常に大きい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を主成分とし、重量パーセンテージ1.4〜2.0の炭素、重量パーセンテージ1.0以下のシリコン、重量パーセンテージ1.0のマンガン、重量パーセンテージ11.0〜13.0のクロム、重量パーセンテージ0.3〜2.3のチタン、重量パーセンテージ0.75以下のニッケルと銅の組み合わせ、及び少なくとも重量パーセンテージ5.0以下の強化元素を含むことを特徴とする合金鋼金属粉末。
【請求項2】
前記強化元素は、モリブデン、バナジウム、タングステンにより組成するグループより選択することを特徴とする請求項1に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項3】
前記強化元素の重量パーセンテージは、0.2〜1.5の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項4】
前記炭素は、グラファイト、或いはカーボンブラックにより提供することを特徴とする請求項1に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項5】
前記チタンは、チタン金属粉末、或いはチタンを含む炭化物粉末により提供することを特徴とする請求項1に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項6】
前記チタンを含む炭化物粉末は、炭化チタン粉末、タングステンを混合した炭化チタン粉末、バナジウムを混合した炭化チタン粉末により組成する具ルームより選択することを特徴とする請求項5に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項7】
前記チタンを含む炭化物粉末の平均粒径は、5μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項8】
請求項1〜7中に記載するいずれかの合金鋼金属粉末により製造することを特徴とする合金鋼金属粉末の焼結体。
【請求項1】
鉄を主成分とし、重量パーセンテージ1.4〜2.0の炭素、重量パーセンテージ1.0以下のシリコン、重量パーセンテージ1.0のマンガン、重量パーセンテージ11.0〜13.0のクロム、重量パーセンテージ0.3〜2.3のチタン、重量パーセンテージ0.75以下のニッケルと銅の組み合わせ、及び少なくとも重量パーセンテージ5.0以下の強化元素を含むことを特徴とする合金鋼金属粉末。
【請求項2】
前記強化元素は、モリブデン、バナジウム、タングステンにより組成するグループより選択することを特徴とする請求項1に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項3】
前記強化元素の重量パーセンテージは、0.2〜1.5の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項4】
前記炭素は、グラファイト、或いはカーボンブラックにより提供することを特徴とする請求項1に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項5】
前記チタンは、チタン金属粉末、或いはチタンを含む炭化物粉末により提供することを特徴とする請求項1に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項6】
前記チタンを含む炭化物粉末は、炭化チタン粉末、タングステンを混合した炭化チタン粉末、バナジウムを混合した炭化チタン粉末により組成する具ルームより選択することを特徴とする請求項5に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項7】
前記チタンを含む炭化物粉末の平均粒径は、5μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の合金鋼金属粉末。
【請求項8】
請求項1〜7中に記載するいずれかの合金鋼金属粉末により製造することを特徴とする合金鋼金属粉末の焼結体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−87340(P2012−87340A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233452(P2010−233452)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(510276836)台耀科技股▲ふん▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(510276836)台耀科技股▲ふん▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】
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