説明

含フッ素エラストマー組成物

【課題】2,2-ビス(メルカプトフェニル)ヘキサフルオロプロパンの新規な用途を見出し、これを含フッ素エラストマーの架橋剤として用いた含フッ素エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】架橋性基としてハロゲノフェニル基を有する含フッ素エラストマーおよび一般式


(ここで、Rfは炭素数1〜10のパーフルオロアルキリデン基である)で表わされる架橋剤を含有する含フッ素エラストマー組成物。ハロゲノフェニル基を有する含フッ素エラストマーとしては、約30〜70モル%のテトラフルオロエチレン、約65〜25モル%のパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)および約0.1〜5モル%のハロゲノフェニル基含有ビニルエーテル化合物よりなる3元共重合体が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマー組成物に関する。さらに詳しくは、架橋性基としてハロゲノフェニル基を有する含フッ素エラストマーおよびその架橋剤よりなる含フッ素エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】


で表わされる2,2-ビス(メルカプトフェニル)ヘキサフルオロプロパン[2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン-ビスベンゼンチオール]がポリサルファイドポリマーおよびコポリマーの前駆物質として有効に用いられることが、下記特許文献に記載されている。
【特許文献1】米国特許第4,720,590号明細書
【特許文献2】特表昭60−500175号公報
【0003】
しかしながら、これらの特許文献については、2,2-ビス(メルカプトフェニル)ヘキサフルオロプロパンの用途についてこれ以上の記載は全くみられない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、2,2-ビス(メルカプトフェニル)ヘキサフルオロプロパンの新規な用途を見出し、これを含フッ素エラストマーの架橋剤として用いた含フッ素エラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる本発明の目的は、架橋性基としてハロゲノフェニル基を有する含フッ素エラストマーおよび一般式

(ここで、Rfは炭素数1〜10のパーフルオロアルキリデン基である)で表わされるビスチオフェノールパーフルオロアルキリデン化合物架橋剤を含有する含フッ素エラストマー組成物によって達成される。ハロゲノフェニル基を有する含フッ素エラストマーとしては、約30〜70モル%のテトラフルオロエチレン、約65〜25モル%のパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)および約0.1〜5モル%のハロゲノフェニル基含有ビニルエーテル化合物よりなる3元共重合体が用いられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、2,2-ビス(メルカプトフェニル)ヘキサフルオロプロパンがハロゲノフェニル基を有する含フッ素エラストマーの架橋剤として有効なことが見出され、これらの各成分を必須成分とする含フッ素エラストマー組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
含フッ素エラストマーの架橋剤として用いられる2,2-ビス(メルカプトフェニル)ヘキサフルオロプロパン〔ビスチオフェノールAF〕は、一般式

(ここで、Rfは炭素数1〜10のパーフルオロアルキリデン基である)で表わされるビス(クロロスルホニルフェニル)パーフルオロアルキリデン化合物を酸性条件下において亜鉛を用いて還元することによって、一般式

(ここで、Rfは前記定義と同じである)で表わされるビスチオフェノールAFとして得られる。
【0008】
上記[I]式において、炭素数1〜10のパーフルオロアルキリデン基としては、一般にパーフルオロイソプロピリデン基が用いられるので、この場合についてその製造法を説明する。2,2´-ビス(3-クロロスルホニルフェニル)ヘキサフルオロプロパン

は、出発物質としての2,2´-ビスフェニルヘキサフルオロプロパンを過剰モル数のクロロスルホン酸中に約0〜20℃で撹拌条件下に滴下し、滴下終了後約40〜100℃、好ましくは約50〜70℃で約1〜24時間加熱することにより、ほぼ定量的に取得することができる。
【0009】
このようにして得られる2,2´-ビス(3-クロロスルホニルフェニル)ヘキサフルオロプロパンは新規物質であり、これをベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素が好んで用いられる溶媒中に溶解させた後、そこに過剰モル数の亜鉛末を加え、濃塩酸を滴下するなどの酸性条件下で反応させる。滴下終了後、約40℃以下、好ましくは約20℃以下で約1〜10時間、好ましくは約1〜3時間撹拌した後、約50〜100℃、好ましくは約60〜70℃で約1〜10時間、好ましくは約2〜3時間加熱することにより、クロロスルホニル基のメルカプト基への還元反応を完結させる。この工程での収率は、約60%以上である。
【0010】
反応生成物たる2,2´-ビス(3-メルカプトフェニル)ヘキサフルオロプロパンは、架橋性基としてハロゲノフェニル基を有する含フッ素エラストマーの架橋剤としても有効に用いられることが新たに見出された。この化合物は、ジカリウム塩等としても用いられ、含フッ素エラストマー100重量部当り約0.1〜5重量部(各実施例では3重量部)という一般的な使用割合で用いられる。
【0011】
架橋性基としてハロゲノフェニル基を有する含フッ素エラストマーとしては、一般に約30〜70モル%のテトラフルオロエチレン、約65〜25モル%のパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)および約0.1〜5モル%のハロゲノフェニル基含有ビニルエーテル化合物よりなる3元共重合体が用いられる。
【0012】
パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)としては、一般にはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)が用いられる。また、パーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)としては、例えば次のようなものが用いられ、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCnF2n+1 (n:1〜5)
CF2=CFO(CF2)3OCnF2n+1 (n:1〜5)
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mCnF2n+1 (n:1〜5、m:1〜3)
CF2=CFO(CF2)2OCnF2n+1 (n:1〜5)
これらの中で、特にCnF2n+1基がCF3基であるものが好んで用いられる。
【0013】
また、架橋サイト単量体としてのハロゲノフェニル基含有ビニルエーテル化合物としては、次のようなものが用いられる。

X:ハロゲン原子
n:1〜5の整数
【0014】
かかるビニルエーテル化合物は、CF2=CFO(CF2)nCOORに塩素または臭素(Y)を付加させ、得られたCF2YCFYO(CF2)nCOORの加水分解および酸クロライド化反応を行い、それをモノハロゲノベンゼンと反応させた後、SF4と反応させて−CO−を−CF2−に変換させ、脱塩素反応または脱臭素反応させる方法あるいは CF2=CFO(CF2)nCOORの加水分解および酸クロライド化反応を行い、それをモノハロゲノベンゼンと反応させた後、SF4と反応させて−CO−を−CF2に変換させる方法により製造される。
【0015】
以上の成分を必須成分とする3元共重合体中には、共重合反応を阻害せずかつ加硫物性を損なわない程度(約20モル%以下)のフッ素化オレフィン、オレフィン、ビニル化合物などを共重合させることもできる。
【0016】
組成物の調製は、以上の各必須成分に加えて第4級ホスホニウム塩等の架橋助剤、酸化マグネシウム等の受酸剤、その他の必要な成分を適宜添加し、2本ロールゴムミル等を混練した後、この種の含フッ素エラストマーに適用される加硫条件、すなわち約150〜250℃で約5〜60分間程度(各実施例では180℃、30分間)のプレス加硫(一次加硫)を行った後、窒素ガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気中で、約200〜300℃で約24〜72時間程度のオーブン加硫(二次加硫)することによって加硫が行われる。オーブン加硫(二次加硫)は、段階的に加硫温度を上げながら行われることが好ましく、各実施例では90℃で4時間、次いで90℃から204℃に6時間かけて昇温させた後、204℃で18時間、次いで204℃から288℃へ6時間かけて昇温させた後、288℃で18時間のオーブン加硫(二次加硫)が行われている。
【実施例】
【0017】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0018】
参考例
クロロスルホン酸85g(0.73モル)を仕込んだ反応容器中に、2,2´-ビスフェニルヘキサフルオロプロパン27g(0.09モル)を10〜12℃で撹拌条件下に15分間かけて滴下した。滴下終了後、混合物を50℃で3時間加熱し、その後氷水中に注ぎ、固体残渣をロ別した。2,2´-ビス(3-クロロスルホニルフェニル)ヘキサフルオロプロパンが、殆んど定量的に得られた。

【0019】
ベンゼン180mlに溶解させた2,2´-ビス(3-クロロスルホニルフェニル)ヘキサフルオロプロパン50g(0.1モル)と亜鉛末96.5g(1.48モル)の混合物を仕込んだ反応容器中に、濃塩酸380mlを撹拌条件下に滴下した。この間の反応混合物の温度は、20℃より高くはならないようにした。この混合物を、20℃で2時間、次いで60〜70℃で3時間加熱した後室温迄冷却し、反応生成物をベンゼンで抽出した。抽出液を、Na2S2O4 0.5gを溶解させた脱ガス水溶液300mlで洗浄した後ベンゼンを留去し、2,2´-ビス(3-メルカプトフェニル)ヘキサフルオロプロパン[ビスチオフェノールAF] 22.95g(収率62.3%)を得た。

純度:83%(ヨウ素酸化滴定法による)
元素分析:
実測値;C 48.96%、H 2.70%、F 31.09%
計算値;C 48.91%、H 2.72%、F 30.98%
【0020】
注)A:次式で示されるビス-チオール型の分子イオンと考えられる

B:次式で示されるビス-ジサルファイド型の分子イオンと考えられる

【0021】
実施例1
テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)-4-(4´-フルオロフェニル)-パーフルオロ(ブチルビニルエーテル) (モル比63.2:35.3:1.5)3元共重合体[パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)の1重量%溶液について35℃で測定した還元粘度ηsp/c:1.86ml/g] 100重量部に、
MTカーボンブラック 20重量部
ビスチオフェノールAF二カリウム塩 3 〃
ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド 1 〃
酸化マグネシウム 4 〃
を加え、2本ロールゴムミル上で混練し、混練物について180℃、30分間のプレス加硫(一次加硫)を行った後、窒素ガス雰囲気中で次の加熱条件下でのオーブン加硫(二次加硫)を行った。なお、一次加硫だけでも加硫トルクの上昇が認められ、加硫反応の進行が確認された。
90℃で4時間
90℃から204℃へ6時間かけて昇温
204℃で18時間
204℃から288℃へ6時間かけて昇温
288℃で18時間
【0022】
得られた加硫成形品について200℃または250℃での圧縮永久歪を測定すると、それぞれ66%および68%という値が得られた。
【0023】
なお、この実施例で用いられたテトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)-4-(4´-フルオロフェニル)-パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)3元共重合体は、次のようにして製造された。
【0024】
容量3Lのステンレス鋼製オートクレーブ内に、蒸留水1.8L、パーフルオロオクタン酸アンモニウム23.7g、Na2HPO4・12H2O 14.3gおよびNaH2PO4・2H2O 0.67gを仕込んだ後、内部を窒素ガス置換し、次いで減圧した。そこに、テトラフルオロエチレン25g、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)55gおよび4-(4´-フルオロフェニル)-パーフルオロ(ブチルビニルエーテル) 7.2gを順次仕込み、50℃に昇温させた後、亜硫酸ナトリウム1.66gおよび過硫酸アンモニウム9.08gをそれぞれ50mlの水溶液として仕込み、重合反応を開始させた。
【0025】
重合反応中、テトラフルオロエチレンを12.8g/hr、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)を16.5g/hr、また4-(4´-フルオロフェニル)-パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)を2.2g/hrの流量で分添し、オートクレーブ内の圧力を9kg/cm2Gに保った。重合開始から19時間後に分添を停止し、更に1時間そのままの状態を保った。オートクレーブを冷却し、残ガスをパージして、固形分濃度20重量%の水性ラテックスを取り出した。
【0026】
取り出された水性ラテックスを、70℃の飽和食塩水20L中に加え、生成重合体を凝析させた。凝析物をロ過、水洗した後、70℃、常圧下、12時間-120℃、減圧下、12時間の乾燥を行い、白色のゴム状3元共重合体を560g得た。赤外線吸収スペクトルでは、1520cm-1および1615cm-1に吸収がみられ、共重合体中にパーフルオロ[4-(4´-フルオロフェニル)ブチルビニルエーテル]が共重合されていることが確認された。
【0027】
実施例2
テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)-4-(4´-クロロフェニル)-パーフルオロ(ブチルビニルエーテル) (モル比72.8:25.7:1.5)3元共重合体[パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)の1重量%溶液について35℃で測定した還元粘度ηsp/c:1.80ml/g] 100重量部に、
MTカーボンブラック 20重量部
ビスチオフェノールAF二カリウム塩 3 〃
ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド 1 〃
酸化マグネシウム 4 〃
を加え、2ロールゴムミル上で混練し、混練物について180℃、30分間のプレス加硫(一次加硫)を行った後、窒素ガス雰囲気中で次の加熱条件下でのオーブン加硫(二次加硫)を行った。なお、一次加硫だけでも加硫トルクの上昇が認められ、加硫反応の進行が確認された。
90℃で4時間
90℃から204℃へ6時間かけて昇温
204℃で18時間
204℃から288℃へ6時間かけて昇温
288℃で18時間
【0028】
得られた加硫成形品について200℃たまは250℃での圧縮永久歪を測定すると、それぞれ48%および57%という値が得られた。
【0029】
なお、この実施例で用いられたテトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)-4-(4´-クロロフェニル)-パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)3元共重合体は、次のようにして製造された。
【0030】
容量3Lのステンレス鋼製オートクレーブ内に、蒸留水1.7L、パーフルオロオクタン酸アンモニウム54.6gおよびKH2PO4・2H2O 23.7gを仕込んだ後、内部を窒素ガス置換し、次いで減圧した。そこに、テトラフルオロエチレン31g、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)45gおよび4-(4´-クロロフェニル)-パーフルオロ(ブチルビニルエーテル) 5.6gを順次仕込み、60℃に昇温させた後、亜硫酸ナトリウム0.18gおよび過硫酸アンモニウム1.0gをそれぞれ50mlの水溶液として仕込み、重合反応を開始させた。
【0031】
重合反応中、テトラフルオロエチレンを9.6g/hr、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)を9.6g/hr、また4-(4´-クロロフェニル)-パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)を0.94g/hrの流量で分添し、オートクレーブ内の圧力を9kg/cm2Gに保った。重合開始から5時間6分後に分添を停止し、更に1時間そのままの状態を保った。オートクレーブを冷却し、残ガスをパージして、固形分濃度10.6重量%の水性ラテックスを取り出した。
【0032】
取り出された水性ラテックスを、70℃の飽和食塩水20L中に加え、生成重合体を凝析させた。凝析物をロ過、水洗した後、70℃、常圧下、12時間-120℃、減圧下、12時間の乾燥を行い、白色のゴム状3元共重合体を125g得た。赤外線吸収スペクトルでは、1490cm-1および1600cm-1に吸収がみられ、共重合体中にパーフルオロ[4-(4´-クロロフェニル)ブチルビニルエーテル]が共重合されていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性基としてハロゲノフェニル基を有する含フッ素エラストマーおよび一般式

(ここで、Rfは炭素数1〜10のパーフルオロアルキリデン基である)で表わされるビスチオフェノールパーフルオロアルキリデン化合物架橋剤を含有してなる含フッ素エラストマー組成物。
【請求項2】
ハロゲノフェニル基を有する含フッ素エラストマーが、30〜70モル%のテトラフルオロエチレン、65〜25モル%のパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)およびハロゲノフェニル基含有ビニルエーテル化合物よりなる3元共重合体である請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。

【公開番号】特開2006−9026(P2006−9026A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201385(P2005−201385)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【分割の表示】特願平7−196108の分割
【原出願日】平成7年7月7日(1995.7.7)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】