説明

含フッ素ポリマー水性分散液

【課題】 アンモニアやアミン系の臭気をさせることなく、分散安定性に優れ、種々の用途に適用することができる含フッ素ポリマー水性分散液を提供する。
【解決手段】 本発明は、25℃でのpHが6.0〜8.0であり、含フッ素ポリマーの固形分濃度が40〜75質量%であることを特徴とする含フッ素ポリマー水性分散液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ポリマー水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマー水性分散液の製造方法として、一般に、乳化重合による製造方法が挙げられる。乳化重合では、界面活性剤、主としてフッ素を含むアニオン界面活性剤(以下、「含フッ素アニオン乳化剤」という。)が用いられている。
【0003】
含フッ素アニオン乳化剤としては、パーフルオロオクタン酸又はその塩(以下、両者をまとめて「PFOA」という。)等のパーフルオロカルボン酸又はその塩、パーフルオロオクチルスルホン酸又はその塩(以下、両者をまとめて「PFOS」という。)等が挙げられる。
【0004】
一般に製品として流通している含フッ素ポリマー水性分散液では、乳化重合によって得られた水性分散液に、安定化の為に非イオン性界面活性剤を添加している。乳化重合によって得られる水性分散液中に含まれる含フッ素ポリマー濃度は、通常、水性分散液に対して15〜40質量%であるが、製品として流通している含フッ素ポリマー水性分散液中の含フッ素ポリマー濃度は水性分散液に対して45〜70質量%である。上記製品として流通している含フッ素ポリマー水性分散液は、乳化重合によって得られた含フッ素ポリマー水性分散液を濃縮することによって得られるものである。濃縮する方法としては、例えば、非イオン界面活性剤の曇点を利用した方法、水分を蒸発させる方法、限外濾過膜を用いた方法等がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
含フッ素ポリマー水性分散液は、通常、濃縮工程の後、分散安定性の向上のため、アルカリを添加してpHが9〜10となるように調整される(非特許文献1参照。)。ここで用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウムやアンモニア水等の一般的なアルカリ性の試薬が用いられている。
【0006】
近年、含フッ素ポリマーの乳化重合に用いられているアニオン乳化剤、特に含フッ素アニオン乳化剤は、削減あるいは除去する傾向にある。
【0007】
含フッ素アニオン乳化剤の削減または除去方法としては、イオン交換樹脂処理を行う方法(特許文献2参照。)、曇点を利用した濃縮を繰り返す方法(特許文献3参照。)などがある。
【0008】
含フッ素アニオン乳化剤を削減したフッ素樹脂水性分散液においても、上記と同様の理由で、濃縮した後にpHが9〜10となるように調整される。
【0009】
また、イオン交換樹脂処理を行う方法では、通常陰イオン交換樹脂を用いて処理しているが、処理後の水性分散液はアルカリ性になる。また必要に応じて、上記と同様に一般的なアルカリ性の試薬を用いてpHの調整を行っている。
【0010】
特許文献2及び4には、イオン交換樹脂処理を行う前に分散液のコロイド安定性を向上させるため、pH値を高めても良いことが記載されている。また特許文献5では、イオン交換樹脂処理時のpHを2〜9に調整すると、含フッ素アニオン乳化剤の除去の効率が良好である旨が記載されている。
【0011】
しかし、上記pHはイオン交換樹脂処理時の値であり、濃縮された含フッ素ポリマー水性分散液のpH値は記載されていない。また、PFOA濃度等以外の水性分散液の物性については一切検討されていない。
【0012】
特許文献6では、少なくとも8のpHを有する濃縮後のディスパージョンを、酸もしくは塩基の添加により所望のpHに調整することができると記載されている。しかしながら、実施例ではアルカリ性にpHを調整した後に濃縮したことしか記載されていない。また、濃縮後のpHの調整については一切検討されていない。
【0013】
上述した含フッ素ポリマー水性分散液は、アンモニアやアミン系の臭いが生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭55−120630号公報
【特許文献2】特表2002−532583号公報
【特許文献3】国際公開第2004/050719号パンフレット
【特許文献4】特開2005−187824号公報
【特許文献5】国際公開第2008/004660号パンフレット
【特許文献6】特公昭52−21532号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】ふっ素樹脂ハンドブック 編者:里川孝臣 日刊工業新聞社(1990年)、33頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記現状に鑑み、アンモニアやアミン系の臭気をさせることなく、分散安定性に優れ、種々の用途に適用することができる含フッ素ポリマー水性分散液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、25℃でのpHが6.0〜8.0であり、含フッ素ポリマーの固形分濃度が40〜75質量%であることを特徴とする含フッ素ポリマー水性分散液である。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、25℃でのpHが6.0〜8.0である。pHが上記範囲であることにより、アルカリ性の含フッ素ポリマー分散液を用いることができない種々の用途に適用することができ、アンモニアやアミン系の臭いを避けたい用途にも用いることができる。
【0020】
本発明における含フッ素ポリマーとしては、特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕、TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕共重合体〔PFA〕、エチレン/TFE共重合体〔ETFE〕、ポリビリニデンフルオライド〔PVDF〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕等が挙げられる。
【0021】
上記PTFEは、テトラフルオロエチレン〔TFE〕ホモポリマーであってもよいし、変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕であってもよい。本明細書において、変性PTFEとは、TFEと微量単量体とを重合して得られる非溶融加工性の含フッ素ポリマーを意味する。上記微量単量体としては、例えば、HFP、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のフルオロオレフィン、炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つフルオロ(アルキルビニルエーテル);フルオロジオキソール;パーフルオロアルキルエチレン;ω−ヒドロパーフルオロオレフィン等が挙げられる。
【0022】
上記含フッ素ポリマーとしては、パーフルオロポリマーが好ましく、なかでも、TFEホモポリマー、変性PTFEがより好ましい。
【0023】
上記変性PTFEは、コアシェル構造のPTFEであってもよい。上記コアシェル構造のPTFEは、含フッ素ポリマー粒子が、高分子量のPTFEのコアと、該高分子量のPTFEより低分子量のPTFEまたは変性PTFEのシェルとを含むものである。上記コアシェル構造のPTFEとしては、例えば、特表2005−527652に記載されるPTFEが挙げられる。
【0024】
上記含フッ素ポリマーは、標準比重(SSG)が2.120〜2.250であることが好ましく、2.145〜2.220であることがより好ましい。上記SSGの下限は、2.150であることが更に好ましい。
【0025】
上記SSGは、ASTM D1457−69に基づいて測定する。
【0026】
上記含フッ素ポリマーは、平均一次粒子径が50〜400nmであることが好ましい。上記平均一次粒子径の下限は、150nmであることがより好ましく、180nmであることが更に好ましい。また、上記平均一次粒子径の上限は、350nmであることがより好ましく、320nmであることが更に好ましい。
【0027】
上記平均一次粒子径は、超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−700(堀場製作所社製)を用いて測定する値である。
【0028】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、上記含フッ素ポリマーの粒子が水性媒体に分散したものである。上記水性媒体は、特に限定されないが、例えば、水、水と公知の水溶性溶媒との混合液等が挙げられる。
【0029】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、使用時のpHが上記範囲内の値を示すものであれば、重合後非イオン性界面活性剤で安定化させた状態のものでもよく、含フッ素界面活性剤の除去工程後のものでもよく、濃縮後のものでもよく、濃縮後濃度調整されたものであってもよいが、工程の簡素化面から濃縮後濃度調整されたものであることが好ましい。
【0030】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、含フッ素ポリマーの固形分濃度が含フッ素ポリマー水性分散液に対して40〜75質量%である。75質量%を超えると含フッ素ポリマー粒子が凝集するおそれがある。また、40質量%未満であると移送時のコスト面で不利である場合がある。上記固形分濃度の下限は、45質量%であることがより好ましく、50質量%であることが更に好ましい。上記固形分濃度の上限は、70質量%であることがより好ましく、65質量%であることが更に好ましい。
【0031】
含フッ素ポリマーの固形分濃度(P)は、試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥し、更に300℃、1時間乾燥した加熱残分(Z)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定するものである。
【0032】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、非イオン性界面活性剤を含有するものであってもよい。上記非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、プロピレングリコール−プロピレンオキシド共重合体、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、2−エチルヘキサノールエチレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0033】
上記含フッ素ポリマー水性分散液は、また、アニオン界面活性剤を含有するものであってもよい。上記アニオン界面活性剤としては、酸もしくは塩の状態で界面活性能を有する化合物であれば特に限定されないが、酸基を有し、pKaが4未満であるアニオン性界面活性剤であることが好ましい。上記アニオン界面活性剤としては、フッ素非含有アニオン界面活性剤が好ましい。上記含フッ素ポリマー水性分散液は、アニオン界面活性剤を1種あるいは複数種含有するものであってもよい。
【0034】
上記フッ素非含有アニオン界面活性剤は、好ましくは、金属イオンを含まないアニオン界面活性剤である。上記金属イオンとしては、例えば、K、Na等が挙げられる。
【0035】
非イオン性界面活性剤の添加量は、通常、含フッ素ポリマーに対して0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.2〜20質量%、更に好ましくは1〜10質量%である。界面活性剤の添加量が少なすぎるとフッ素樹脂粒子の分散が均一にならず、一部浮上するおそれがある。一方、界面活性剤の添加量が多すぎると焼成による界面活性剤の分解残渣が多くなり成形体に着色が生じるおそれがあり、被覆膜の耐熱性、非粘着性が低下するおそれがある。
【0036】
フッ素非含有アニオン界面活性剤の添加量は、含フッ素ポリマーに対して0.00001〜1質量%、好ましくは0.00005〜0.5質量%、より好ましくは0.0001〜0.1質量%である。フッ素非含有アニオン界面活性剤の添加量が少なすぎると、含フッ素ポリマー水性分散液の粘度が高く使用しにくい。また添加量が多すぎても、粘度が上昇するおそれがある。
【0037】
上記含フッ素ポリマー水性分散液は、粘度が100cps以下であることが好ましい。より好ましくは、50cps以下、更に好ましくは、30cps以下である。粘度が上記範囲であることによって、種々の用途に、より使用しやすい含フッ素ポリマー水性分散液となる。粘度の下限は特に制限されないが、例えば、1cpsである。
上記粘度の値は、例えば、B型回転粘度計(東京計器社製)を用い、JIS K 6893に準拠して、25℃又は35℃で測定する値である。
【0038】
上記含フッ素ポリマー水性分散液は、機械的安定性を改善する点から、水溶性高分子を含むものであってもよい。上記水溶性高分子は、水への溶解度が0.1mg/100ml以上であり、分子量が1000〜2000万である化合物である。上記水溶性高分子は、水への溶解度が1mg/100ml以上であるものが好ましい。
【0039】
上記含フッ素ポリマー水性分散液は、機械的安定性指数が10%以下であることが好ましい。機械的安定性指数の上限としては、8%であることがより好ましく、6%であることが更に好ましい。機械的安定性指数の下限としては特に限定されないが、例えば、0.01%であってもよい。
上記機械的安定性指数は、例えば、35℃に保持した100mlの含フッ素ポリマー水性分散液を、内径8mm、外径11mmの塩化ビニルチューブを備えたダイヤフラムポンプで1500ml/分の条件で20分循環後、200メッシュSUS網を用いてろ過した際のメッシュアップ量を、用いたフルオロポリマー水性分散液に含まれる含フッ素ポリマー量に占める割合(質量%)として測定する値である。
【0040】
上記水溶性高分子としては、例えば、国際公開第2007/026822号パンフレットに記載の水溶性高分子が挙げられる。
【0041】
含フッ素ポリマー水性分散液のpHは、例えば、酸性の試薬を加える方法、陽イオン交換樹脂で処理する方法等により調整することができる。また、アルカリ性の化合物を加える方法、陰イオン交換樹脂と接触する方法によって、pHを調整することも可能である。上記アルカリ性の化合物としては、特に制限されないが、例えば、アンモニア、アミン等が挙げられる。
【0042】
上記酸性の試薬としては特に限定されず、一般的な酸を用いることができる。一般的な酸としては、有機酸及び/又は無機酸を用いることができる。また、複数種類の試薬を組み合わせて用い、pHを調整することもできる。
【0043】
上記含フッ素ポリマー水性分散液は、また、緩衝作用を有する化合物を含むものであってもよい。上記緩衝作用を有する化合物は、pH調整剤として用いることができる。上記含フッ素ポリマー水性分散液に緩衝作用を有する化合物を添加することによって、水性分散液と他の化合物とを混合した場合のpHの変動を少なくすることができる。上記緩衝作用を有する化合物としては特に限定されないが、pH6〜9に緩衝域がある化合物が好ましく、25℃でのpKaが6〜9の化合物がより好ましい。上記緩衝作用を有する化合物としては、例えば、リン酸、イミダゾール−HCl、トリエタノールアミン−HCl、トリス−HCl等が挙げられる。
【0044】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、含フッ素界面活性剤の含有量が、含フッ素ポリマー水性分散液に対して100ppm未満であることが好ましく、50ppm未満であることがより好ましく、30ppm未満であることが更に好ましい。
【0045】
含フッ素界面活性剤は、相分離濃縮法、イオン交換樹脂法、限外ろ過法、電気濃縮法等の公知の方法により100ppm未満に低減することができる。
【0046】
上記含フッ素界面活性剤は、分子量が1000未満であって、フッ素原子を少なくとも1個含有するものであれば特に限定されないが、炭素数7〜10であるものが好ましく、炭素数7〜10の含フッ素アニオン性界面活性剤であることがより好ましい。
【0047】
上記含フッ素アニオン性界面活性剤としては、例えば、パーフルオロオクタン酸又はその塩〔PFOA〕、パーフルオロオクチルスルホン酸又はその塩〔PFOS〕等の含フッ素有機酸又はその塩等が挙げられる。また、これら以外の公知の含フッ素アニオン性界面活性剤であってもよい。
【0048】
上記含フッ素アニオン性界面活性剤としては、また、例えば、米国特許出願公開第2007/0015864号明細書、米国特許出願公開第2007/0015865号明細書、米国特許出願公開第2007/0015866号明細書、米国特許出願公開第2007/0276103号明細書、米国特許出願公開第2007/0117914号明細書、米国特許出願公開第2007/142541号明細書、米国特許出願公開第2008/0015319号明細書、米国特許第3250808号明細書、米国特許第3271341号明細書、特開2003−119204号公報、国際公開第2005/042593号パンフレット、国際公開第2008/060461号パンフレット、国際公開第2007/046377号パンフレット、国際公開第2007/119526号パンフレット、国際公開第2007/046482号パンフレット、国際公開第2007/046345号パンフレットに記載されたものを用いることができる。
【0049】
上記含フッ素アニオン性界面活性剤としては、また、下記一般式(I)〜(III)で表される1種又は2種以上のフルオロエーテルカルボン酸が挙げられる。
一般式(I):
CF−(CF−O−(CF(CF)CFO)−CF(CF)COOX (I)
(式中、mは1〜10の整数、nは0〜5の整数、Xは水素原子、アンモニウム基又はアルカリ金属原子を表す。)
一般式(II):
CF−(CF−O−(CF(CF)CFO)−CHFCFCOOX (II)
(式中、mは1〜10の整数、nは0〜5の整数、Xは水素原子、アンモニウム基又はアルカリ金属原子を表す。)
一般式(III):
CF−(CF−O−(CF(CF)CFO)−CHCFCOOX (III)
(式中、mは1〜10の整数、nは0〜5の整数、Xは水素原子、アンモニウム基又はアルカリ金属原子を表す。)
【0050】
これらの含フッ素アニオン性界面活性剤は、上記方法により含フッ素ポリマー水性分散液中の含フッ素界面活性剤の含有量を低減した後、含フッ素ポリマーを水性媒体に分散させるための分散剤としても用いることができる。
【0051】
上記含フッ素界面活性剤が塩である場合、該塩を形成する対イオンとしては、アルカリ金属イオン又はNH4+等が挙げられ、アルカリ金属イオンとしては、例えば、Na、K等が挙げられる。
【0052】
本明細書において、含フッ素界面活性剤濃度は、測定する水性分散液に等量のメタノールを添加してソックスレー抽出を行ったのち、後述する高速液体クロマトグラフィー〔HPLC〕を行うことにより求めるものである。
【0053】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液中に含まれる金属イオンの含有量は、含フッ素ポリマー水性分散液に対して100ppm未満であることが好ましく、50ppm未満であることがより好ましく、10ppm未満であることが更に好ましい。上記金属イオンの含有量が多いと、含フッ素ポリマー水性分散液を使用する条件や用途によっては、使用環境を汚染する可能性がある。
【0054】
上記金属イオンの含有量は、分析前に測定サンプルの灰化を1000℃で4分行った後、フレームレス原子吸光にて測定する値である。
【0055】
上記金属イオンは、通常、重合開始剤、粘度調整用に含フッ素ポリマー水性分散液に添加する界面活性剤、イオン交換樹脂等に由来するものである。上記金属イオンとしては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、重金属イオン等が挙げられる。
【0056】
上記アルカリ金属イオンとしては特に限定されず、ナトリウムイオン、カリウムイオン等を挙げることができる。上記重金属イオンとしては鉄イオン、クロムイオン、ニッケルイオン等を挙げることができる。
【0057】
上記金属イオンの含有量は、陽イオン交換体による処理、粘度調整用界面活性剤の選択、イオン交換樹脂の純度の向上等により低減することができる。また、陰イオン交換樹脂で水性分散液を処理する事によって含フッ素アニオン性界面活性剤を除去している場合、陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂を混床にして用いる事によっても除去可能である。
【0058】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、そのまま又は各種添加剤を加えてコーティング、キャストフィルム、含浸体などに加工することができる。上記キャストフィルムを作製する際に用いる基材としては特に限定されず、例えば、キャストフィルム作製時に焼成を行わない場合、一般に耐熱性がないとされる材料からなるもの、例えば、ポリイミド、ポリエチレン[PE]等の汎用樹脂からなる成形板等をも用いることができる。
【0059】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液の用途としては、例えば、半導体用途、オーブン内張り、製氷トレー等の調理器具、電線、パイプ、船底、高周波プリント基板、搬送用ベルト、アイロン底板における被覆材;繊維基材、織布・不織布等が挙げられる。上記繊維基材としては特に限定されず、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維(ケブラー(登録商標)繊維等)を被含浸体とする含浸物;等に加工することができる。上記含フッ素ポリマー水性分散液の加工は、従来公知の方法にて行うことができる。紡糸用組成物、防塵用添加剤、ドリップ防止用添加剤、摺動性付与剤、加工助剤などとしての樹脂用添加剤として用いることもできる。
【0060】
また、一般に、アルカリ性であると、アンモニアやアミン系の臭いが生じ得るので、本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、臭いを避けたい用途に用いることができる。
【発明の効果】
【0061】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、上述した構成よりなるので、pHが中性域であっても安定性に優れ、種々の用途に適用することができ、アンモニアやアミン系の臭いを避けたい用途に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0063】
測定条件
(1)含フッ素ポリマー固形分濃度(P)
試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥し、更に300℃、1時間乾燥した加熱残分(Z)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定した。
【0064】
(2)非イオン性界面活性剤の含有量(N)
試料約1g(Xg)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃にて1時間で加熱した加熱残分(Yg)、更に、得られた加熱残分(Yg)を300℃にて1時間加熱した加熱残分(Zg)より、式:N=[(Y−Z)/X]×100(%)から算出した。
【0065】
(3)粘度
B型回転粘度計(東京計器社製)を用い、JIS K 6893に準拠して、25℃又は35℃における粘度を測定した。
【0066】
(4)機械的安定性指数
35℃に保持した100mlのフルオロポリマー水性分散液を、内径8mm、外径11mmの塩化ビニルチューブを備えたダイヤフラムポンプで1500ml/分の条件で20分循環後、200メッシュSUS網を用いてろ過した際のメッシュアップ量を、用いたフルオロポリマー水性分散液に含まれるフルオロポリマー量に占める割合(質量%)として測定した。
【0067】
(5)含フッ素アニオン性界面活性剤濃度
得られた水性分散液に等量のメタノールを添加してソックスレー抽出を行ったのち、高速液体クロマトグラフィー〔HPLC〕を以下の条件にて行うことにより求めた。なお、含フッ素界面活性剤濃度算出にあたり、既知の濃度の含フッ素界面活性剤濃度について上記溶出液及び条件にてHPLC測定して得られた検量線を用いた。
カラム;ODS−120T(4.6φ×250mm、トーソー社製)
展開液;アセトニトリル/0.6質量%過塩素酸水溶液=1/1(vol/vol%)
サンプル量;20μL
流速;1.0ml/分
検出波長;UV210nm
カラム温度;40℃
【0068】
(6)標準比重(SSG)
ASTM D1457−69に基づいて求めた。
【0069】
(7)pH
JIS K6893に基づいて25℃で測定した。
【0070】
(8)平均一次粒子径
超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−700(堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0071】
(9)金属イオン濃度測定
分析前に測定サンプルの灰化を1000℃で4分行った後、フレームレス原子吸光にて測定した。測定限界は、サンプル中に含まれる量に換算すると0.01ppmである。
【0072】
実施例
(調整例1)
乳化重合によって得られたPTFE水性分散液(平均一次粒子径230nm、SSG2.182、PFOA3500ppm/Polymer)に、非イオン性界面活性剤TDS80(商品名、第一工業製薬社製)をポリマーに対して5質量%となるように添加後、陰イオン交換樹脂IRA4002OH(商品名、Rohm and Haas社製)を2L充填、純水10Lを通液したカラムにSV=1で通液した。通液後の水性分散液はpH10.3で、PFOAは検出限界未満(10ppm/Polymer未満)であった。この得られた水性分散液にTDS80と水を追加して、含フッ素ポリマー濃度が25質量%、非イオン性界面活性剤濃度が15質量%/Polymerとなるように調整した。調整後のディスパージョンを65℃に保温、8時間後に上澄み相と濃縮相を分離した。濃縮相の含フッ素ポリマー濃度は70質量%、非イオン性界面活性剤濃度は2.8質量%/Polymer、pHは9.5であった。この水性分散液に、TDS80、水、デカン酸を加えて、含フッ素ポリマー濃度が61質量%、非イオン性界面活性剤濃度が6質量%/Polymer、デカン酸500ppm/Polymerとなるように調整した。このときのpHは8.95であった。
【0073】
(実施例1)
調整例1で得られたこの水性分散液に、リン酸水溶液を水性分散液に対して225ppmを加えpHを7.35に調整した。粘度は25℃で23cps、機械的安定性指数は3.2%であった。金属塩濃度は、水性分散液に対し、Caは0.01ppm未満、Naは0.44ppm、Kは1ppmであった。臭気は感じられなかった。
【0074】
(実施例2)
リン酸2水素アンモニウムを水性分散液に対して725ppm加えた以外は実施例1と同様に行い、pH7.3の水性分散液を得た。粘度は25℃で19cps、機械的安定性指数は5%であった。臭気は感じられなかった。
【0075】
(実施例3)
リン酸122ppmとリン酸2水素アンモニウム377ppmを含む水溶液を作成し、その水溶液を加えた以外は実施例1と同様に行い、pH7.3の水性分散液を得た。粘度は25℃で21cps、機械的安定性指数は3.2%であった。臭気は感じられなかった。
【0076】
(実施例4)
コハク酸を水性分散液に対して59ppm加えた以外は実施例1と同様に行い、pH7.3の水性分散液を得た。粘度は25℃で21cpsであった。臭気は感じられなかった。
【0077】
(実施例5)
クエン酸を水性分散液に対して64ppm加えた以外は実施例1と同様に行い、pH7.2の水性分散液を得た。粘度は25℃で19cpsであった。臭気は感じられなかった。
【0078】
(比較例1)
調整例1で得られたPTFEディスパージョンに、28質量%アンモニア水を加えpHを9.5に調整した。粘度は25℃で24cps、機械的安定性指数は4.8%であった。アンモニア臭が感じられた。
【0079】
(調整例2)
調整例1と同じ、乳化重合によって得られたPTFE水性分散液(平均一次粒子径230nm、SSG2.182、PFOA3500ppm/Polymer)を用い、非イオン性界面活性剤TDS80(商品名、第一工業製薬社製)をポリマーに対して5質量%となるように添加後、陰イオン交換樹脂IRA4002OH(商品名、Rohm and Haas社製)を2L充填し純水1Lを通液したカラムにSV=1で通液した。通液後の水性分散液はpH10.3で、PFOAは検出限界未満(10ppm/Polymer未満)であった。この得られた水性分散液にTDS80と水を追加して、含フッ素ポリマー濃度が25質量%、非イオン性界面活性剤濃度が15質量%/Polymerとなるように調整した。調整後のディスパージョンを65℃に保温、8時間後に上澄み相と濃縮相を分離した。濃縮相の含フッ素ポリマー濃度は70質量%、非イオン性界面活性剤濃度は2.8質量%/Polymer、pHは9.5であった。この水性分散液に、TDS80、水、ラウリル硫酸ナトリウム(商品名エマール2F、花王社製)を加えて調整した。含フッ素ポリマー濃度が61質量%、非イオン性界面活性剤濃度が6質量%/Polymer、ラウリル硫酸ナトリウム1200ppm/Polymerとなるように調整した。このときのpHは8.8であった。
【0080】
(比較例2)
調整例2で得られたPTFE水性分散液に、28質量%アンモニア水を加えpHを9.5に調整した。粘度は25℃で25cps、機械的安定性指数は5.0%であった。金属塩濃度は水性分散液に対し、Caは0.01ppm未満、Naは60ppm、Kは60ppmであった。アンモニア臭が感じられた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液は、半導体関連、樹脂用添加剤等、酸性やアルカリ性の含フッ素ポリマー分散液を用いることができない分野において好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃でのpHが6.0〜8.0であり、含フッ素ポリマーの固形分濃度が40〜75質量%であることを特徴とする含フッ素ポリマー水性分散液。
【請求項2】
含フッ素ポリマーの標準比重(SSG)が2.145〜2.220である請求項1記載の含フッ素ポリマー水性分散液。
【請求項3】
含フッ素界面活性剤の含有量が、含フッ素ポリマー水性分散液に対して100ppm未満である請求項1又は2記載の含フッ素ポリマー水性分散液。
【請求項4】
金属イオンの含有量が、含フッ素ポリマー水性分散液に対して100ppm未満である請求項1、2又は3記載の含フッ素ポリマー水性分散液。
【請求項5】
金属イオンは、アルカリ金属イオン、及び、アルカリ土類金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項4記載の含フッ素ポリマー水性分散液。
【請求項6】
含フッ素ポリマーの平均一次粒子径が50〜400nmである請求項1、2、3、4又は5記載の含フッ素ポリマー水性分散液。

【公開番号】特開2010−70741(P2010−70741A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70327(P2009−70327)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】