説明

含フッ素樹脂を用いた光導波路用材料および光導波路

【課題】光導波路材料において、信号電送が電気の場合の従来の要求性能(高耐熱性、高透明性、低屈折率性、低吸水性)に加え、低誘電率性、感光性、低温処理性などが要求されるが、それを満たす材料がない。
【解決手段】繰り返し単位中に、フルオロアルキル基が置換した複素環を含有した含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料および該光導波路用材料を用いて形成された光導波路。含フッ素樹脂を用いることで、低誘電率性、感光性、低温処理性などを満たすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルキル基が置換した複素環を含有した含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料および該光導波路用材料を用いて形成された光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検討されている光導波路材料としては、石英(ガラス)と樹脂に大別される。石英で構成された光導波路は、低光損失、高耐熱性などの利点を有するため、光ファイバーや光通信デバイスなどの分野において利用されている。
【0003】
一方で、樹脂で構成された光導波路は、石英で構成された光導波路よりも光損失、耐熱性の点で劣るものの、作成および大面積化が容易であるため、樹脂光導波路は複雑な成型加工が必要とされる分野(家庭用、オフィス用)で利用されている。
【0004】
光導波路用の樹脂材料としては、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリベンズオキサゾールなどが挙げられる。光透過性を高める目的で、フッ素や脂環構造の導入も検討されている。
【0005】
なかでも脂環構造を導入した含フッ素ポリイミドは、高耐熱(ガラス転移温度290℃以上、熱分解温度480℃以上)、低屈折率(1.49以下)、低光透過損失(0.3dB/cm、0.85μm帯)であることが報告されている(特許文献1)。
【0006】
また一方で、含フッ素ポリベンズオキサゾールも光導波路用の樹脂材料として検討されている。ポリベンズオキサゾールはポリイミドとほぼ同等の耐熱性を維持しつつ、ポリイミドに比べて高透明、低屈折、低吸水性を示すことが報告されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003‐313294号公報
【特許文献2】特開2004‐59761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、携帯電話やパソコンなどに用いられる電子材料基板で、信号伝送速度を高める目的で、一部LSI間の信号伝送を、従来の電気ではなく光を用いる要求が高まっている。LSI間の信号伝送に光導波路を用いる場合、従来の要求性能(高耐熱性、高透明性、低屈折率性、低吸水性)に加え、低誘電率性、感光性、低温処理性なども光導波路材料に要求される。
【0008】
従来のポリイミド、ポリベンズオキサゾールなどの縮合系材料は耐熱性では優れるものの、それぞれの前駆体樹脂を用いて成型加工後、最終的に320‐350℃での加熱処理が必要で、前述の電子材料基板用途では、熱応力の緩和、LSI素子不良の低減の観点から、250‐280℃ぐらいが望ましく、既存の樹脂では、全ての要求性能を満たすことが困難になってきている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、本発明は、光導波路材料に、一般式(1)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂を用いるものであり、また該光導波路材料を用いた光導波路である。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中Rは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の4価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良い。式中Xは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良く、さらには水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されてもよい。)
【0012】
さらに本発明は、一般式(2)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂前駆体を縮合閉環してなる、一般式(1)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂を用いた光導波路用材料であり、また該光導波路材料を用いた光導波路である。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中Rは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の4価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良い。式中Xは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良く、さらには水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されてもよい。式中R及びRは水素または1価の有機基を示し、酸不安定性基を含有しても良い。)
【0015】
さらに、本発明は一般式(3)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料である。
【0016】
【化3】

【0017】
(式中Rは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の3価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良い。式中Xは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良く、さらには水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されてもよい。)
【0018】
さらに、本発明は一般式(4)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂前駆体を縮合閉環してなる、一般式(3)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料である。
【0019】
【化4】

【0020】
(式中Rは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の3価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良い。式中Xは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良く、さらには水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されてもよい。式中Rは水素または1価の有機基を示し、酸不安定性基を含有しても良い)。
【発明の効果】
【0021】
本発明の複素環含有含フッ素樹脂を用いた光導波路用材料は、耐熱性、低光損失、低誘電率に優れた光導波路を、低温処理で提供することが可能である。また、本発明の光導波路は、光ファイバー、光通信デバイス、および携帯電話やパソコンなどに用いられる光、電気混載型電子材料基板などの有用な用途に使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について詳述する。
【0023】
本発明の式(1)で表される含フッ素樹脂は、ヘキサフルオロイソプロパノールが置換したジアミン化合物またはそれらのエステル化合物やエーテル化合物などの誘導体と、2価の基を有するジカルボン酸化合物とから合成される。式(2)で表される含フッ素樹脂前駆体は、酸クロリド法、活性エステル法などで合成される。ポリリン酸法では前駆体を単離することなく直接、式(1)で表される含フッ素樹脂が合成される。
【0024】
本発明に用いる式(1)および式(2)中のRで表される有機基としては、[化5]で表されるものを好適に挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
【化5】

【0026】
本発明に用いる式(3)および式(4)中のRで表される有機基としては、[化6]で表されるものを好適に挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
【化6】

【0028】
本発明に用いる式(1)、(2)、(3)および(4)中のXで表されるジカルボン酸化合物としては、その構造は特に限定されないが、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、3,3’‐ジカルボキシルジフェニルエーテル、3,4’‐ジカルボキシルジフェニルエーテル、4,4’‐ジカルボキシルジフェニルエーテル、3,3’‐ジカルボキシルジフェニルメタン、3,4’‐ジカルボキシルジフェニルメタン、4,4’‐ジカルボキシルジフェニルメタン、3,3’‐ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、3,4’‐ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、4,4’‐ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、3,3’‐ジカルボキシルジフェニルスルホン、3,4’‐ジカルボキシルジフェニルスルホン、4,4’‐ジカルボキシルジフェニルスルホン、3,3’‐ジカルボキシルジフェニルスルフィド、3,4’‐ジカルボキシルジフェニルスルフィド、4,4’‐ジカルボキシルジフェニルスルフィド、3,3’‐ジカルボキシルジフェニルケトン、3,4’‐ジカルボキシルジフェニルケトン、4,4’‐ジカルボキシルジフェニルケトン、2,2‐ビス(3‐カルボキシフェニル)プロパン、2,2‐ビス(3,4’‐ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2‐ビス(4‐カルボキシフェニル)プロパン、2,2‐ビス(3‐カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2‐ビス(3,4’‐ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2‐ビス(4‐カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3‐ビス(3‐カルボキシフェノキシ)ベンゼン、1,4‐ビス(3‐カルボキシフェノキシ)ベンゼン、1,4‐ビス(4‐カルボキシフェノキシ)ベンゼン、3,3’‐(1,4‐フェニレンビス(1‐メチルエチリデン))ビス安息香酸、3,4’‐(1,4‐フェニレンビス(1‐メチルエチリデン))ビス安息香酸、4,4’‐(1,4‐フェニレンビス(1‐メチルエチリデン))ビス安息香酸、2,2‐ビス(4‐(3‐カルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2‐ビス(4‐(4‐カルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2‐ビス(4‐(3‐カルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2‐ビス(4‐(4‐カルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4‐(3‐カルボキシフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4‐(4‐カルボキシフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4‐(3‐カルボキシフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4‐(4‐カルボキシフェノキシ)フェニル)スルホン、5‐(パーフルオロノネニルオキシ)イソフタル酸、4‐(パーフルオロノネニルオキシ)フタル酸、2‐(パーフルオロノネニルオキシ)テレフタル酸、4‐メトキシ‐5‐(パーフルオロノネニルオキシ)イソフタル酸などのパーフルオロノネニルオキシ基含有のジカルボン酸、5‐(パーフルオロヘキセニルオキシ)イソフタル酸、4‐(パーフルオロヘキセニルオキシ)フタル酸、2‐(パーフルオロヘキセニルオキシ)テレフタル酸、4‐メトキシ‐5‐(パーフルオロヘキセニルオキシ)イソフタル酸などのパーフルオロヘキセニルオキシ基含有のジカルボン酸、等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。
【0029】
本発明に用いる式(2)および式(4)中のR、RおよびRは水素または1価の有機基を示し、酸不安定性基を含んでも良い。使用できる酸不安定基の例としては、光酸発生剤や加水分解などの効果で脱離が起きる基であれば制限なく使用できる。具体的な例を挙げるとするならば、tert‐ブトキシカルボニル基、tert‐アミルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルキコキシカルボニル基、メトキシメチル基、エトキシエチル基、ブトキシエチル基、シクロヘキシルオキシエチル基、ベンジルオキシエチル基等のアセタ‐ル基、トリメチルシリル基、エチルジメチルシリル基、メチルジエチルシリル基、トリエチルシリル基のシリル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、バレリル基、ピバロイル基等のアシル基等を挙げることができる。
【0030】
重合反応の一例として、例えば本発明に用いる式(1)および式(2)中のRで表されるジアミン化合物と上記のジカルボン酸を反応させると、式(1)および(2)で示される高分子化合物が得られる。
【0031】
また本発明に用いる式(3)および式(4)中のRで表されるジアミン化合物と上記のジカルボン酸を反応させると、式(3)および(4)で示される高分子化合物が得られる。
【0032】
上記重合反応の方法、条件については特に制限されない。例えば、前記ジアミン成分と前記ジカルボン酸のアミド形成性誘導体を150℃以上で相互に溶解(溶融)させて無溶媒で反応させる方法、また有機溶媒中高温(好ましくは150℃以上)で反応させる方法、−20〜80℃の温度で有機溶媒中にて反応する方法があげられる。
【0033】
使用できる有機溶媒としては原料の両成分が溶解すれば特に限定されないが、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、N‐メチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N‐メチル‐2‐ピロリドン等のアミド系溶媒、ベンゼン、アニソール、ジフェニルエーテル、ニトロベンゼン、ベンゾニトリル等の芳香族系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2‐ジクロロエタン、1,1,2,2‐テトラクロロエタン等のハロゲン系溶媒、γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトン、δ‐バレロラクトン、γ‐カプロラクトン、ε‐カプロラクトン、α‐メチル‐γ‐ブチロラクトン等のラクトン類などを例示することができる。このような有機溶媒とともに、酸受容体、例えば、ピリジン、トリエチルアミンなどを共存させて反応を行うことが効果的である。特に上記のアミド系溶媒を用いるとこれらの溶媒自身が酸受容体となり高重合度のポリアミド樹脂を得ることができる。
【0034】
本発明に用いる式(1)、(2)中のRで表されるジアミン化合物および、式(3)、(4)中のRで表されるジアミン化合物は、他のジアミン、ジヒドロキシアミンなどと併用した共重合体とすることも可能である。併用できるジアミン化合物としては、その構造は特に限定されないが、例えば、3,5‐ジアミノベンゾトリフルオリド、2,5‐ジアミノベンゾトリフルオリド、3,3’‐ビストリフルオロメチル‐4,4’‐ジアミノビフェニル、3,3’‐ビストリフルオロメチル‐5,5’‐ジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)‐4,4’‐ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルキル)‐4,4’‐ジアミノジフェニル、ジクロロ‐4,4’‐ジアミノジフェニル、ジブロモ‐4,4’‐ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルコキシ)‐4,4’‐ジアミノジフェニル、ジフェニル‐4,4’‐ジアミノジフェニル、4,4’‐ビス(4‐アミノテトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、4,4’‐ビス(4‐アミノテトラフルオロフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’‐ビナフチルアミン、o‐、m‐、p‐フェニレンジアミン、2,4‐ジアミノトルエン、2,5‐ジアミノトルエン、2,4‐ジアミノキシレン、2,4‐ジアミノジュレン、ジメチル‐4,4’‐ジアミノジフェニル、ジアルキル‐4,4’‐ジアミノジフェニル、ジメトキシ‐4,4’‐ジアミノジフェニル、ジエトキシ‐4,4’‐ジアミノジフェニル、4,4’‐ジアミノジフェニルメタン、4,4’‐ジアミノジフェニルエーテル、3,4’‐ジアミノジフェニルエーテル、4,4’‐ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’‐ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’‐ジアミノベンゾフェノン、3,3’‐ジアミノベンゾフェノン、1,3‐ビス(3‐アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4‐(3‐アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2‐ビス(4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2‐ビス(4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2‐ビス(4‐(3‐アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2‐ビス(4‐(3‐アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2‐ビス(4‐(4‐アミノ‐2‐トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2‐ビス(4‐(3‐アミノ‐5‐トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2‐ビス(4‐アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2‐ビス(3‐アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2‐ビス(3‐アミノ‐4‐ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2‐ビス(3‐アミノ‐4‐メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’‐ビス(4‐アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’‐ジアミノベンズアニリド等が例示できるが、本発明は、これらに限定されるものではない。これらを2種以上併用することもできる。
【0035】
本発明に用いる式(1)、(2)、(3)および(4)中のXで表されるジカルボン酸化合物は、他のテトラカルボン酸二無水物と併用した共重合体とすることも可能である。かかるテトラカルボン酸二無水物としては、その構造は特に限定されないが、例えば、ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸ニ無水物;PMDA)、トリフルオロメチルベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ビストリフルオロメチルベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ジフルオロベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水化物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、タ‐フェニルテトラカルボン酸二無水物、ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、オキシジフタル酸ニ無水物、ビシクロ(2,2,2)オクト‐7‐エン‐2,3,5,6‐テトラカルボン酸二無水物、2,2‐ビス(3,4‐ジカルボキシフェニル)フェキサフルオロプロパン酸二無水物(6FDA)、2,3,4,5‐チオフェンテトラカルボン酸二無水化物、2,5,6,2’,5’,6’‐ ヘキサフルオロ‐ 3,3’,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水化物、ビス(3,4‐ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水化物、3,4,9,10‐ペリレンテトラカルボン酸二無水化物等などが挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0036】
上述の含フッ素樹脂溶液あるいは含フッ素前駆体樹脂溶液を、シリコン、ポリイミド、石英、ガラスなどの光学用基板上にスピン塗布法や印刷法などにより塗布し、加熱装置により乾燥・硬化することで含フッ素樹脂膜を形成することが可能である。これらの膜は必要に応じ、フォトリソグラフィー、反応性イオンエッチングを用いた公知の方法によりパターニングすることが可能であり、所定の形に形成することで光導波路となる。得られた光導波路は目的に応じて、コア層およびクラッド層に用いることが可能である。
【0037】
さらに、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂およびアクリレ‐ト樹脂をコア層もしくはクラッド層のどちらか一方に用い、上記の光導波路と組み合わせて用いることも可能である。この場合、屈折率の低い樹脂をクラッド層に、屈折率の高い樹脂をコア層に用いる限り、特に制限はない。
【0038】
エポキシ樹脂を具体的に例示するならば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o‐クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂および脂環式エポキシ樹脂などが挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。これらの材料は単独、または複数を組み合わせて使用することが出来る。
【0039】
以下、実施例により説明する。
【0040】
熱分解温度(重量が10%減少する温度)は窒素気流下10℃/分の昇温速度で測定した。フィルムの屈折率および光透過損失はプリズムカップリング式屈折率計(メトリコン社製2010型)を用いて測定した。屈折率は22℃、波長0.83μm、TEモ‐ドで測定した。光透過損失はポリマーフィルムにカプラプリズムを通して波長0.83μmのレーザ光を透過させ、このときに発生する散乱光の強度をフィルム面に垂直な方向から測定し、透過経路に沿う散乱光強度の変化から光透過損失を計算し求めた。また、リッジ型直線光導波路の光伝播損失はマルチモ‐ド、波長0.85μmでカットバック法により求めた。
【実施例1】
【0041】
三口フラスコ中に3,3’‐ビス(1‐ヒドロキシ‐1‐トリフルオロメチル‐2,2,2‐トリフルオロエチル)‐4,4’‐オキシジアニリン(13.30g、0.025mol)、1,4‐ジカルカルボキシルシクロヘキサン(4.30g、0.025mol)とポリリン酸100gを加えた。この混合物を窒素雰囲気下、200℃で5時間攪拌した。得られた混合物溶液を水に投入し、白色沈殿を得た。得られた沈殿を10%‐炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後、水で洗浄し、圧力0.1kPaで乾燥し、式(5)の構造のポリマーを得た(16.1g、96%収率)。得られた式(5)のポリマーをγ‐ブチロラクトンに溶解し(濃度15wt%)、シリコンウェハ上にキャストし、オーブン中、70℃で1時間、150℃で1時間加熱処理し、ポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムの熱分解温度は470℃、屈折率は1.474、光透過損失は0.3dB/cmであった。また、LCRメ‐タ‐で測定した1MHzでの誘電率は2.38であった。
【0042】
【化7】

【実施例2】
【0043】
三口フラスコ中に3,3’‐ビス(1‐ヒドロキシ‐1‐トリフルオロメチル‐2,2,2‐トリフルオロエチル)‐4,4’‐オキシジアニリン(13.30g、0.025mol)、シクロヘキサン‐1,4‐ジカルボキシルクロリド(5.23g、0.025mol)、N,N‐ジメチルアセトアミド(105g)を加えた。この混合物を窒素雰囲気下、室温で5時間攪拌した。得られた混合物溶液を水/メタノール混合物(50/50)に投入し、白色沈殿を得た。得られた沈殿を圧力0.1kPaで乾燥し、式(6)の構造のポリマーを得た(16.0g、96%収率)。得られた式(6)のポリマーをγ‐ブチロラクトンに再溶解し(濃度15wt%)、シリコンウェハ上にキャストし、オーブン中、70℃で1時間、150℃で1時間、250℃で1時間加熱処理し、式(15)の構造を有するポリマーフィルムを得た。従来のポリイミド、ポリベンズオキサゾールよりも低温で縮合脱水閉環することを確認した。このポリマーフィルムの熱分解温度は468℃、屈折率は1.471、光透過損失は0.3dB/cmであった。1MHzでの誘電率は2.39であった。
【0044】
【化8】

【実施例3】
【0045】
三口フラスコ中に3,3’‐ビス(1‐ヒドロキシ‐1‐トリフルオロメチル‐2,2,2‐トリフルオロエチル)‐4,4’‐オキシジアニリン(13.30g、0.025mol)、シクロヘキサン‐1,4‐ジカルボキシルクロリド(2.62g、0.0125mol)、テレフタル酸クロリド(2.54g、0.0125mol)N,N‐ジメチルアセトアミド(105g)を加えた。この混合物を窒素雰囲気下、室温で5時間攪拌した。得られた重合溶液をシリコンウェハ上にキャストし、オーブン中、70℃で1時間、150℃で1時間、250℃で1時間加熱処理し、式(7)の構造を有するポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムの熱分解温度は475℃、屈折率は1.51、光透過損失は0.4dB/cmであった。1MHzでの誘電率は2.49であった。
【0046】
【化9】

【実施例4】
【0047】
三口フラスコ中に3,3’‐ビス(1‐ヒドロキシ‐1‐トリフルオロメチル‐2,2,2‐トリフルオロエチル)‐4,4’‐オキシジアニリン(6.650g、0.0125mol)、2,2’‐ビス(3‐アミノ‐4‐ヒドロキシフェニル)‐ヘキサフルオロプロパン(4.575g、0.0125mol)、シクロヘキサン‐1,4‐ジカルボキシルクロリド(5.24g、0.025mol)、N,N‐ジメチルアセトアミド(105g)を加えた。この混合物を窒素雰囲気下、室温で5時間攪拌した。得られた重合溶液をシリコンウェハ上にキャストし、オーブン中、70℃で1時間、150℃で1時間、250℃で1時間、320℃で1時間加熱処理し、式(8)の構造を有するポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムの熱分解温度は480℃、屈折率は1.51、光透過損失は0.4dB/cmであった。1MHzでの誘電率は2.52であった。
【0048】
【化10】

【実施例5】
【0049】
三口フラスコ中に2,2’‐ビス(1‐ヒドロキシ‐1‐トリフルオロメチル‐2,2,2‐トリフルオロエチル)‐4,4’‐メチレンジアニリン(13.26g、0.025mol)、テレフタル酸クロリド(5.08g、0.025mol)N,N‐ジメチルアセトアミド(105g)を加えた。この混合物を窒素雰囲気下、室温で5時間攪拌した。得られた重合溶液をシリコンウェハ上にキャストし、オーブン中、70℃で1時間、150℃で1時間、250℃で1時間加熱処理し、式(9)の構造を有するポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムの熱分解温度は475℃、屈折率は1.54、光透過損失は0.4dB/cmであった。1MHzでの誘電率は2.60であった。
【0050】
【化11】

【実施例6】
【0051】
リッジ型直線光導波路を作成した。4インチシリコンウェハに実施例2で得られた式(16)の構造を有するポリマーのN,N‐ジメチルアセトアミド溶液(15wt%)をキャストし、オーブンオーブン中、70℃で1時間、150℃で1時間、250℃で1時間加熱処理し、式(5)の構造を有するポリマーフィルム(40ミクロン膜厚、下部クラッド層)を製膜した。この下部クラッド層上に、実施例3で得られた重合溶液(N,N‐ジメチルアセトアミド溶液)を下部クラッド層と同様に塗布、焼成してコア層を30ミクロン製膜した。このコア層上にマスク層としてシリコンをマグネトロンスパッタにより1.2ミクロンに製膜した。このマスク層上には更にレジスト層を製膜し、アライナを用いて光導波路パタ‐ンを露光し、パターニングしたレジスト層を形成した。次にレジスト層に保護されていないマスク層のシリコンをRIE装置を用いて、CFガスを流入させながらエッチングした。引き続いてOガスを流入させてマスク層のシリコンに保護されていないコア層部分をエッチングにより除去し、長さ70mm、幅30ミクロン、高さ30ミクロンの直線コアパタ‐ンを形成した。次に、基板を希フッ酸に浸漬しマスク層を除去した。さらに下部クラッド層と同様、実施例2で得られた式(6)の構造を有するポリマーのN,N‐ジメチルアセトアミド溶液(15wt%)を用いて上部クラッド層を40ミクロン厚で形成した。作成した直線光導波路に0.85μmの光を通してカットバック法にて光伝播損失を測定したところ、0.3dB/cmであり、0.85μm帯用光導波路として低損失で耐熱性のある好適な光導波路が得られた。
【実施例7】
【0052】
実施例3で得られたN,N‐ジメチルアセトアミドの重合反応溶液に、ジ‐t‐ブチル‐ジ‐カーボネ‐ト(5.45g、0.025mol)、ピリジン(2.17g、0.028mol)を加え室温で3時間攪拌した。得られた混合物溶液を水/メタノール混合物(50/50)に投入し、白色沈殿を得た。得られた沈殿を圧力0.1kPaで乾燥し、式(10)の構造のポリマーを得た(18.5g、96%収率)。
【0053】
【化12】

【0054】
得られた式(10)のポリマー、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネ‐ト、9‐アントラセンメタノール(重量比80/10/10)、γ‐ブチロラクトンに再溶解し(固形分濃度15wt%)、式(5)の構造を有するポリマーフィルム(40ミクロン膜厚、下部クラッド層)上に製膜した。フォトマスクを介して波長365nmで露光、2.38wt%テトラメチルアンモニウム水溶液で現像、水洗後に、70℃で1時間、150℃で1時間、250℃で1時間加熱処理することで、実施例6とは異なり、レジストを用いることなく、長さ70mm、幅27ミクロン、高さ24ミクロンの直線コアパタ‐ンを形成した。さらに下部クラッド層と同様、実施例2で得られた式(6)の構造を有するポリマーのN,N‐ジメチルアセトアミド溶液(15wt%)を用いて上部クラッド層を40ミクロン厚で形成した。作成した直線光導波路に0.85μmの光を通してカットバック法にて光伝播損失を測定したところ、0.4dB/cmであり、0.85μm帯用光導波路として低損失で耐熱性のある好適な光導波路が得られた。
(比較例1)
三口フラスコ中に2,2‐ビス(3‐アミノ‐4‐ヒドロキシフェニル)‐ヘキサフルオロプロパン(9.15g、0.025mol)、シクロヘキサン‐1,4‐ジカルボキシルクロリド(5.24g、0.025mol)、N,N‐ジメチルアセトアミド(81g)を加えた。この混合物を窒素雰囲気下、室温で5時間攪拌した。得られた重合溶液をシリコンウェハ上にキャストし、オーブン中、70℃で1時間、150℃で1時間、250℃で1時間、320℃で1時間加熱処理し、式(11)の構造を有するポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムの熱分解温度は480℃、ガラス転移温度は275℃、屈折率は1.53、光透過損失は0.6dB/cmであった。1MHzでの誘電率は2.61であった。
【0055】
【化13】

【0056】
(比較例2)
三口フラスコ中に2,2‐ビス(4‐アミノフェニル)‐ヘキサフルオロプロパン(8.35g、0.025mol)、1,2,3,4‐テトラカルボキキシシクロブタン酸二無水物(4.90g、0.025mol)、N,N‐ジメチルアセトアミド(75g)を加えた。この混合物を窒素雰囲気下、室温で5時間攪拌した。得られた重合溶液をシリコンウェハ上にキャストし、オーブン中、70℃で1時間、150℃で1時間、250℃で1時間、320℃で1時間加熱処理し、式(12)の構造を有するポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムの熱分解温度は470℃、屈折率は1.55、光透過損失は0.9dB/cmであった。1MHzでの誘電率は2.72であった。
【0057】
【化14】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、光通信分野における通信システムはもちろん、評価・測定など光伝送の応用分野にも利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位中に、フルオロアルキル基が置換した複素環を含有した含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料および該光導波路用材料を用いて形成された光導波路。
【請求項2】
一般式(1)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料。
【化1】


(式中Rは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の4価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良い。式中Xは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良く、さらには水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されてもよい)。
【請求項3】
一般式(2)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂前駆体を縮合閉環してなる、一般式(1)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料。
【化2】


(式中Rは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の4価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良い。式中Xは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良く、さらには水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されてもよい。式中R及びRは水素または1価の有機基を示し、酸不安定性基を含有しても良い)。
【請求項4】
一般式(3)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料。
【化3】


(式中Rは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の3価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良い。式中Xは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良く、さらには水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されてもよい)。
【請求項5】
一般式(4)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂前駆体を縮合閉環してなる、一般式(3)で表される繰り返し単位を含む含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料。
【化4】


(式中Rは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の3価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良い。式中Xは直鎖、分岐、脂環、芳香環、複素環から選ばれた一種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素、硫黄を含んでも良く、さらには水素の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、シアノ基で置換されてもよい。式中Rは水素または1価の有機基を示し、酸不安定性基を含有しても良い)。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載の含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料を用いて、コア層、クラッド層のいずれかが形成されたことを特徴とする光導波路。
【請求項7】
請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載の含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料を用いてコア層を形成し、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂を用いてクラッド層を形成してなることを特徴とする光導波路。
【請求項8】
請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載の含フッ素樹脂を用いることを特徴とする光導波路用材料を用いてクラッド層を形成し、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂を用いてコア層を形成してなることを特徴とする光導波路。

【公開番号】特開2009−128445(P2009−128445A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300831(P2007−300831)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】