説明

含マンガン極低炭素鋼の溶製方法

【課題】 本発明は、金属Mnの使用量を従来より低減し、且つ真空脱ガス装置内での処理を鋳造開始予定時間内で行うことの可能な含マンガン極低炭素鋼の溶製方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 目標Mn濃度が0.3〜3.0質量%である含マンガン極低炭素鋼の溶製方法を改良した。その内容は、前チャージの連続鋳造が終了する時間を鋳造速度で予測して今回チャージの鋳造開始予定時刻を定めると共に、真空脱ガス処理開始時に、現時点から前記鋳造開始予定時刻までの余裕時間を算出し、該余裕時間から、真空脱ガス処理におけるキルド処理所要時間、真空脱ガス処理終了から連続鋳造設備への溶鋼の搬送所要時間及び鋳造準備時間を差し引いた時間を脱炭処理可能時間とし、該脱炭処理可能時間内に脱炭処理が可能となるように、処理開始前に溶鋼中に添加するFe−Mn合金の投入量を決定し、投入後の溶鋼中の予想Mn濃度と製品鋼材の目標Mn濃度との差分を前記キルド処理時に溶鋼中に金属Mnを添加して調整するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含マンガン極低炭素鋼の溶製方法に係わり、特に、含マンガン極低炭素鋼の生産性を従来より向上させると共に、マンガン含有量(以下、濃度ともいう)の調整に添加する金属マンガンの使用量をも減少させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マンガン(以下、元素記号のMnで表す)を含有し、炭素(元素記号:C)の濃度が150ppm以下の極低炭素鋼は、炭素濃度が3.8〜4.5質量%の高炉溶銑を転炉で一次脱炭精錬を行い、炭素濃度を0.04〜0.06質量%程度の溶鋼として取鍋に出鋼後、真空脱ガス装置の減圧下でさらに酸素吹錬により脱炭処理(二次精錬ともいう)して溶製していた。その際、溶鋼中のMn成分の含有量は、転炉からの出鋼中若しくは前記真空脱ガス装置での処理時に、Fe−Mn合金を溶鋼に添加して調整するのが一般的であった。
【0003】
ところが、Mnを0.3質量%以上含有させた溶鋼を真空脱ガス装置で酸素吹錬により脱炭処理すると、溶鋼中Mnの酸化が起き、多量のMnOを形成してスラグへ移行する。その結果、溶製した高Mn含有の極低炭素鋼を連続鋳造機で鋳造して鋼鋳片とする時に、スラグに移行した上記MnOが溶鋼中のアルミニウム(元素記号:Al)と反応してMnになるが、Alが形成され、鋼鋳片に該Al系の非金属介在物に起因した欠陥が増加する。つまり、溶製した高Mn含有の極低炭素鋼の清浄度が低下するという問題が生じる。
【0004】
そこで、真空脱ガス装置での上記脱炭処理後の溶鋼上に浮いているスラグに還元剤を散布し、該スラグ中の金属酸化物を還元する方法(特許文献1参照)が開発されたが、その方法を用いても、0.3質量%以上の高Mn含有の極低炭素鋼の場合には、MnO含有量が多すぎて、該MnOの還元が十分に行われなかった。また、前記真空脱ガス装置で酸素吹錬による脱炭処理時に起きるMnの酸化を抑制するため、真空度を高め、且つ酸素ガスではなく不活性ガス雰囲気中で希釈脱炭を行う技術もあるが(特許文献2参照)、脱炭速度が遅くなり、脱炭処理時間が延長し、精錬効率の低下を招くという問題があった。そのため、本出願人は、さらなる技術改良を検討し、転炉出鋼後の溶鋼を真空脱ガス装置で減圧下で酸素吹錬により脱炭処理して、Mnを0.3〜3質量%含有する極低炭素鋼を溶製するに際して、前記脱炭処理前の溶鋼中Mn濃度を0.3質量%以下に抑えて脱炭処理してから脱酸処理を行うと共に、該脱酸処理後に、前記真空脱ガス装置内圧力を1330〜6670Paに維持しつつ金属Mnを添加して溶鋼中Mn濃度を所望値に調整する含マンガン極低炭素鋼の製造方法を開発し、実用している(特許文献3参照)。
【0005】
この技術によれば、確かに非金属介在物の量が減り、清浄度に関しては満足できる含マンガン極低炭素鋼の溶製が可能になった。しかしながら、高価な金属Mnの使用で製造コストが高くなるし、脱炭処理時間が長くなり、得られた溶鋼を次工程の連続鋳造機に送っても、鋳造開始予定時間に間に合わなくなるという欠点がある。つまり、連続鋳造に遊び時間が生じ、生産性が低下する。そのため、特許文献3記載の技術にもまだ改良の余地が残されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−256836号公報
【特許文献2】特開平6−271923号公報
【特許文献3】特開2003−253324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑み、金属Mnの使用量を従来より低減すると共に、真空脱ガス装置内での脱炭処理等を鋳造開始予定時間内で行うことの可能な含マンガン極低炭素鋼の溶製方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願人は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ね、その成果を本発明に具現化した。
【0009】
すなわち、本発明は、転炉出鋼後の溶鋼にFe−Mn合金を投入後、真空脱ガス装置で酸素吹錬により脱炭処理し、該脱炭処理後の溶鋼中の予想Mn濃度と製品鋼材の目標Mn濃度との差分をキルド処理時に溶鋼中へ金属Mnを添加して製品鋼材中の目標Mn濃度を0.3〜3.0質量%に調整する含マンガン極低炭素鋼の溶製方法において、
前チャージの連続鋳造が終了する時間を鋳造速度で予測して今回チャージの鋳造開始予定時刻を定めると共に、真空脱ガス処理開始時に、現時点から前記鋳造開始予定時刻までの余裕時間を算出し、該余裕時間から、真空脱ガス処理におけるキルド処理所要時間、真空脱ガス処理終了から連続鋳造設備への溶鋼の搬送所要時間及び鋳造準備時間を差し引いた時間を真空脱ガス処理での脱炭処理可能時間とし、該脱炭処理可能時間内に脱炭処理が終了し、前記金属Mnの添加量が最小となるように、脱炭処理開始前に溶鋼中に添加するFe−Mn合金の投入量を決定することを特徴とする含マンガン極低炭素鋼の溶製方法である。
【0010】
この場合、前記Fe−Mn合金の添加量を下記(1)及び(2)式で決定するのが好ましい。
【0011】
kt=ln(Co−Ce) ・・(1)
Co=C+WFe−Mn[%CFe−Mn]/Wsteel ・・(2)
ここで、k:速度定数
t:脱炭処理可能時間(分)
Co:脱炭処理前の溶鋼中炭素濃度(質量%)
:Fe−Mn合金の添加前の溶鋼中炭素濃度の分析値(質量%)
Ce:溶鋼の脱炭処理時の温度における溶鋼の平衡炭素濃度(質量%)
Fe−Mn:添加するFe−Mn合金の質量(トン)
Fe−Mn:添加するFe−Mn合金中の炭素濃度(質量%)
steel:溶製する溶鋼の質量(トン)
また、前記真空脱ガス装置をRH方式とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、真空脱ガス装置内での処理を連続鋳造機の鋳造開始予定時間内で行うことができ、含マンガン極低炭素鋼の溶製時間が短縮し、生産性も向上する。また、Fe−Mn合金を許容し得る最大限の量で使用できるので、金属Mnの使用量を従来より低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】脱炭処理開始時の溶鋼中炭素濃度及びマンガン濃度と該溶鋼の推定脱炭処理可能時間との関係の一例を示す図である。
【図2】本発明の内容を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明をなすに至った経緯をまじえ、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
まず、発明者は、従来技術の問題点である「真空脱ガス装置内での脱炭処理等を鋳造開始予定時間内で行えない」ということについての対策を検討した。そして、図2に示すように、前チャージの連続鋳造が終了する時間を鋳造速度で予測して今回チャージの鋳造開始予定時刻を定めることにした。そのようにすれば、真空脱ガス処理開始時に、現時点から前記鋳造開始予定時刻までの余裕時間が算出でき、該余裕時間から、予め定めることの可能な、真空脱ガス処理におけるキルド処理所要時間、真空脱ガス処理終了から連続鋳造設備への溶鋼の搬送所要時間及び鋳造準備時間を差し引いた時間を真空脱ガス処理での脱炭処理可能時間とすることができるからである。したがって、該脱炭処理可能時間内に脱炭処理が終了すれば、前記問題点は解決することになる。
【0016】
そのためには、この脱炭処理時間を公知の脱炭反応速度式から推定することになるが、脱炭反応速度式としては種々のものがあり、本発明では特に限定しない。ただし、簡便性の観点では、下記の(1)式を用いるのが好ましい。
【0017】
(1)式は、脱炭反応速度が一次式で近似できるとし、その式を積分して導出し得たものである。つまり、(1)式によれば、速度定数:kは過去の操業データとして含Mn溶鋼の場合の値として既知なので、脱炭処理可能時間(分):tを、脱炭処理前の溶鋼中炭素濃度(質量%):Coと溶鋼の脱炭処理時の温度における溶鋼の平衡炭素濃度(質量%):Ceとの差の関数として求められる。
【0018】
kt=ln(Co−Ce) ・・(1)
ここで、t:脱炭処理可能時間(分)
Co:脱炭処理前の溶鋼中炭素濃度(質量%)
Ce:溶鋼の脱炭処理時の温度における溶鋼の平衡炭素濃度(質量%)
この場合、Ceは、脱炭処理時の温度が決まると過去の公知データから定まるので、Coを決める必要がある。このCoは、(2)式で表すことができるので、Fe−Mn合金の添加前の溶鋼中炭素濃度:C、添加するFe−Mn合金中の炭素濃度(質量%):CFe−Mn、溶製する溶鋼の質量(トン):Wsteel:がわかれば良い。Cは事前に分析することで容易に把握でき、CFe−Mn及びWsteelは定まるが、(1)式の脱炭処理時間を推定するには、添加するFe−Mn合金の質量(トン):WFe−Mnを知る必要がある。ところが、この添加するFe−Mn合金の質量(トン):WFe−Mnは、どうしても未知として残ってしまう。
【0019】
Co=C+WFe−Mn[%CFe−Mn]/Wsteel ・・(2)
ここで、C:Fe−Mn合金の添加前の溶鋼中炭素濃度の分析値(質量%)
Fe−Mn:添加するFe−Mn合金の質量(トン)
Fe−Mn:添加するFe−Mn合金中の炭素濃度(質量%)
steel:溶製する溶鋼の質量(トン)
そこで、発明者は、脱炭処理時間を推定のではなく、(1)式及び(2)式を組み合わせて、tに前記脱炭処理可能時間を代入し、添加するFe−Mn合金の質量(トン):WFe−Mnを求めるようにすれば、脱炭処理可能時間内に脱炭処理が終了できると考え、その考えを本発明に具現化したのである。ちなみに、脱炭処理開始時のMn濃度を、0.1、0.2及び0.3質量%と仮定した場合の脱炭処理開始時のC濃度とその脱炭処理時間との関係は、計算によると図1のようになる。
【0020】
次に、前記金属Mnの添加量が最小となるようにする必要がある。そのために、発明者は、転炉出鋼後の溶鋼にFe−Mn合金をできる限り多く投入することにして、真空脱ガス装置で酸素吹錬により脱炭処理し、該脱炭処理後の溶鋼中の予想Mn濃度と製品鋼材の目標Mn濃度との差分を金属Mnの添加で調整するようにしたのである。ただし、Fe−Mn合金の投入量は、溶鋼中のMn濃度が0.3質量%以下に抑えるのが好ましい。脱炭処理時での酸化を防止するためである。
【0021】
なお、本発明を具体的に実施するには、真空脱ガス装置が必要であるが、実績のあるRH方式のものを使用するのが好ましい。
【実施例】
【0022】
転炉で一次脱炭した溶鋼(C:0.04質量%)322トンを取鍋へ出鋼し、RH真空脱ガス装置にて酸素吹錬で二次脱炭してから連続鋳造にて高Mn極低炭素鋼(C:0.0020mass%以下、Mn:0.65〜0.75mass%)のスラブを製造する。その際、本発明に係る高Mn極低炭素鋼の溶製方法を適用した。
【0023】
まず、いずれのチャージも前チャージの連続鋳造が終了する時間を鋳造速度で予測して今回チャージの鋳造開始予定時刻を定める。この場合、鋳造速度は1.7m/minで一定であったので、前チャージの連続鋳造が終了する時間は容易に予測でき、次回チャージの鋳造開始予定時刻を定めることができた。そして、真空脱ガス処理開始時に、図2に示すように、現時点から前記鋳造開始予定時刻までの余裕時間を算出すると同時に、該余裕時間から、真空脱ガス処理におけるキルド処理所要時間、真空脱ガス処理終了から連続鋳造設備への溶鋼の搬送所要時間及び鋳造準備時間を差し引いた時間を真空脱ガス処理での脱炭処理可能時間とした。具体的には、真空脱ガス処理におけるキルド処理所要時間は8分、真空脱ガス処理終了から連続鋳造設備への溶鋼の搬送所要時間は10分及び鋳造準備時間は2分で一定とした。
【0024】
次に、脱炭処理開始前に溶鋼中に添加するFe−Mn合金の投入量を決定する必要があるが、それは、前記したように、溶鋼中の炭素濃度を定量した後、(1)及び(2)式を組み合わせることで求めた。そして、溶鋼中炭素濃度を該Fe−Mn合金を取鍋内の溶鋼に投入し、RH真空脱ガス装置で減圧下二次脱炭を行ってから、引き続きアルミニウムを添加してキルド脱酸を行った。このキルド脱酸時に、前記金属Mnの添加量が最小となるように、脱炭処理後の溶鋼中の予想Mn濃度と製品鋼材の目標Mn濃度との差分を調整する金属Mnを添加して製品鋼材中の目標Mn濃度に合うようにした。その結果、表1及び表2に示すように、真空脱ガス装置内での処理を連続鋳造機の鋳造開始予定時間内で行うことができ、含マンガン極低炭素鋼の溶製時間が短縮し、生産性が向上したばかりでなく、Fe−Mn合金を許容し得る最大限の量で使用できるので、金属Mnの使用量を従来より低減できた。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉出鋼後の溶鋼にFe−Mn合金を投入後、真空脱ガス装置で酸素吹錬により脱炭処理し、該脱炭処理後の溶鋼中の予想Mn濃度と製品鋼材の目標Mn濃度との差分をキルド処理時に溶鋼中へ金属Mnを添加して製品鋼材中の目標Mn濃度を0.3〜3.0質量%に調整する含マンガン極低炭素鋼の溶製方法において、
前チャージの連続鋳造が終了する時間を鋳造速度で予測して今回チャージの鋳造開始予定時刻を定めると共に、真空脱ガス処理開始時に、現時点から前記鋳造開始予定時刻までの余裕時間を算出し、該余裕時間から、真空脱ガス処理におけるキルド処理所要時間、真空脱ガス処理終了から連続鋳造設備への溶鋼の搬送所要時間及び鋳造準備時間を差し引いた時間を真空脱ガス処理での脱炭処理可能時間とし、該脱炭処理可能時間内に脱炭処理が終了し、前記金属Mnの添加量が最小となるように、脱炭処理開始前に溶鋼中に添加するFe−Mn合金の投入量を決定することを特徴とする含マンガン極低炭素鋼の溶製方法。
【請求項2】
前記Fe−Mn合金の添加量を下記(1)及び(2)式で決定することを特徴とする請求項1記載の含マンガン極低炭素鋼の溶製方法。
kt=ln(Co−Ce) ・・(1)
Co=C+WFe−Mn[%CFe−Mn]/Wsteel ・・(2)
ここで、k:速度定数
t:脱炭処理可能時間(分)
Co:脱炭処理前の溶鋼中炭素濃度(質量%)
:Fe−Mn合金の添加前の溶鋼中炭素濃度の分析値(質量%)
Ce:溶鋼の脱炭処理時の温度における溶鋼の平衡炭素濃度(質量%)
Fe−Mn:添加するFe−Mn合金の質量(トン)
Fe−Mn:添加するFe−Mn合金中の炭素濃度(質量%)
steel:溶製する溶鋼の質量(トン)
【請求項3】
前記真空脱ガス装置をRH方式とすることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の含マンガン極低炭素鋼の溶製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−67341(P2012−67341A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211964(P2010−211964)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】