説明

含リン化合物とその製造方法

【課題】立体障害のより小さい含リン化合物とその製造方法の提供。
【解決手段】


式中、R、R、RとRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、ハロゲン化アルキル基、又はアルコキシル基を示す。該含リン化合物は4,4'−ジヒドロキシ−ビフェノール基とリン原子との結合を利用して、ヒドロキシル基に対する含リンヘテロシクロ化合物分子の立体障害を防止することが可能となったので、後続する反応の反応性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含リン化合物とその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、立体障害のより小さい含リン化合物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂複合素材は、その構造自体に二つ以上の反応性エポキシ化合物を有し、その反応性、強靭性又は柔軟性などにおいて優れた特性を示し、かつ、その加工性の便利、安全性の高いこと、機械特性と化学特性に優れていることから、例えば、塗装、電気絶縁、土木建築用材料、接着剤や積層品等の領域で、幅広く使用されている。
【0003】
米国特許第4,618,693号には、有機リン化合物の難燃剤が開示されているが、これは、耐燃性樹脂の原料である9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスホフェナントレン−10−オキサイド(DOPO)と1,4−ベゾキノン(BQ,1,4−Benzoquinone)との合成反応が利用され、10−(2’,5’− ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスホフェナントレン−10−オキサイド(DOPO−BQ)が得られているが、このDOPO−BQは、その分子構造が多環性を示し、高い灰分残留量(char yield)を生じるので、優れた難燃性を有し、難燃剤として利用されている。又、DOPO−BQは、二つのヒドロキシ官能基を有しているので、各種樹脂の原料、例えば、エポキシ樹脂合成の際に反応化合物として使用されている。
【0004】
しかし、DOPO−BQが有するヒドロキシ官能基は、分子構造上比較的小さいベンゼン環があるため、樹脂合成の際、比較的構造の大きいDOPOの立体障害により、反応性に影響されやすい。
【0005】
それ故、この分野では、立体障害のより小さい含リン化合物の提供が期待され、難燃性エポキシ樹脂の合成効率を高めることが望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の技術的欠点にかんがみ、立体障害のより小さい含リン化合物を提供することを課題とする。
【0007】
又、本発明は、前記の課題とその他の関連する目的を解決すべく、下記式(I)で表される含リン化合物を提供することを課題とする。
【0008】
【化1】

式中、R、R、RとRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、ハロゲン化アルキル基及びアルコキシル基よりなる群から選ばれるものを示す。ハロゲン化アルキル基又はアルコキシル基の好ましい炭素数はそれぞれC〜Cである。
【0009】
又、本発明は、前記式(I)に示される構造を有する含リン化合物の製造方法をも提供することを課題とする。
すなわち、本発明は、触媒と有機溶剤の存在下で、下記式(II)の化合物と
【0010】
【化2】

下記式(III)の化合物(DOPO)とを反応させて、
【0011】
【化3】

下記式(I)に示される含リン化合物を得るものであり、
【0012】
【化4】

式中、R、R、RとRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、ハロゲン化アルキル基及びアルコキシル基よりなる群から選ばれるものを示す。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ビフェノール基を用いてDOPO分子に結合させて、ヒドロキシル基に対するDOPO分子の立体障害を免かれ、後続する反応の際の反応性を高めるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、特定した具体例により本発明の実施方法を詳細に説明するが、この分野の技術を熟知する者にとっては、本発明の明細書に記載された内容により、本発明のその他の特性と効果とをたやすく理解できると考えられる。
本発明は、下記式(I)で表される含リン化合物を提供する:
【0015】
【化5】

式中、R、R、RとRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、ハロゲン化アルキル基及びアルコキシル基よりなる群から選ばれるものを示す。
【0016】
本発明中、具体的な実施例において、R、R、RとRはすべてC〜Cアルキル基を示し、更に具体的には、R、R、RとRはすべてメチル基を示す。
【0017】
又、本発明の前記式(I)で表される含リン化合物を得るため、本発明は、さらに前記式(I)で示される含リン化合物の製造方法をも提供する。すなわち、触媒と有機溶剤の存在下で、下記式(II)の化合物と
【0018】
【化6】

下記式(III)の化合物とを反応させて、
【0019】
【化7】

下記式(I)の化合物を得る。
【0020】
【化8】

式中、R、R、RとRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、ハロゲン化アルキル基及びアルコキシル基よりなる群から選ばれるものを示す。
【0021】
本発明中、前記式(I)で表わされる含リン化合物を製造する方法において、触媒として、アルカリ性触媒が用いられ、該触媒の具体例としては、例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルホスフィン(triphenyl phosphine)、カリウムターシャリーブトキシド(KOt−Bu)又は1,8−ジアザジシクロ〔5.4.0〕ウンデカ−7−エンなどが挙げられるが、これらに限られたものではない。本発明において、その具体的な実施例中、触媒としてはトリエチルアミンが使用される。
【0022】
次に、前記式(II)の化合物と式(III)の化合物とを反応させる前に、有機溶剤を用いて該式(II)の化合物および/又は該式(III)の化合物とを先に溶解させる。本発明において、溶剤の種類は、特に制限はないが、通常、有機溶剤としてトルエン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラヒドロフラン、キシレン、ベンゼン、ジメチルホルムアミドなどが使用されるが、これらに限られるものではなく、これらの溶剤は単独で用いても良く、又混合して用いても良い。すなわち、本発明の有機溶剤としては、トルエン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラヒドロフラン、キシレン、ベンゼンとジメチルホルムアミドよりなる群から選ばれた一つ又は多種の溶剤が使用される。
【0023】
本発明において、該式(I)で表わされる含リン化合物の製造方法中、該式(II)の化合物と該式(III)の化合物との反応時間は、1〜4時間であり、反応温度は25〜100℃であり、より好ましくは30〜50℃である。
【0024】
本発明において、該式(II)の化合物を得るためには、ハロゲン化銅触媒の存在下で、下記式(IV)の化合物を3〜8時間で酸化反応させることにより該式(II)の化合物を合成する。
【0025】
【化9】

【0026】
又、別な実施例中、該式(II)の化合物は、ハロゲン化銅触媒の存在下で、前記式(IV)の化合物を3〜4時間で酸化反応させることにより合成される。
【0027】
本発明の該式(II)の化合物の製造方法において、その具体的な実施例中、該ハロゲン化銅触媒としては、例えば、塩化第一銅(I)、塩化第二銅又は臭化第一銅(I)が用いられるが、これらに限られるものではなく、より好ましくは、塩化第一銅(I)が使用される。塩化第一銅(I)触媒を用いて該式(II)の化合物を製造する際、該式(IV)の化合物を3〜4時間酸化反応することにより、約96重量%の該式(II)の化合物を得ることができる。
【0028】
本発明において、該式(IV)の化合物の酸化温度は45〜100℃であり、具体的な実施例中、該式(IV)の化合物の酸化反応は、50〜60℃で行われる。
【0029】
本発明中、該式(II)の化合物の具体的な製造例において、該ハロゲン化銅触媒の含有量としては、通常、該式(IV)化合物の0.05〜10重量%であり、より好ましくは、該式(IV)化合物の0.05〜2重量%が使用される。
【実施例】
【0030】
合成例1 化合物(式(II))の製造
塩化第一銅(CuCl)0.1g(1重量%)をオートクレーブ内で、100mLのジメチルホルムアミド(DMF)溶液中に加え、1時間攪拌を続け、塩化銅第一銅が完全に溶解した後、式(IV)の化合物として2,2’,6,6’−テトラメチルビフェノール(TMBP、Songwong社)10gを加え、続いて酸素ガスを導入して、TMBPの酸化反応を行う。反応時間は3〜4時間、反応温度は50〜60℃であり、反応終了後、反応液をろ過し、濃赤色の目的物を得る。該化合物中、そのR、R、RとRは、すべてメチル基を示し、収率は96%であった。
1H NMR (δ, D-MeOH): 7.7 (s, 4H), 2.1 (s, 12H)
【0031】
合成例2 化合物(式(II))の製造
塩化第二銅(CuCl)1g(10重量%)をオートクレーブ内で、100mLのジメチルホルムアミド(DMF)溶液中に加え、1時間攪拌を続け、塩化第二銅が完全に溶解した後、2,6−ジメチルフェノール(2,6−DMP,Acros社)10gを加え、次に、酸素ガスを導入して、2,6−ジメチルフェノールのカップリング酸化反応を行う。反応時間は2〜3時間、反応温度は80〜90℃であり、反応終了後、反応液(DMF溶液)をろ過して、濃赤色の生成物を得る。収量は35%であった。
【0032】
合成例3 化合物(式(II))の製造
塩化第二銅(CuCl)1g(10重量%)をオートクレーブ内で、100mLのジメチルホルムアミド(DMF)溶液中に加え、1時間攪拌し、塩化第二銅が完全に溶解した後、TMBP10gを加え、次に、酸素ガスを導入して、酸化反応を行う。反応時間は7〜8時間、反応温度は50〜60℃であり、反応終了後、反応液(DMF溶液)をろ過して濃赤色の生成物を得る。収量は93%であった。
【0033】
前記合成例1と合成例2により、原料としてTMBPを用いた場合、その収量は原料に2,6−DMPを使用した場合に比べて良く、且つ、必要とする反応時間も短かく、反応温度も低くてすむ。又、反応時間は使用した触媒と反応温度により決まるため、前記合成例1と合成例3により、原料として同じくTMBPを用いた場合、同じ反応温度で、触媒として塩化第一銅を使用することで、塩化第二銅を用いたものに比べて、反応時間を短縮でき、触媒の使用量も少なくてすむことが明らかにされ、原料としてTMBPを使用し、かつ、触媒に塩化第一銅を利用することで、より好ましい収量が得られることが判った。
【0034】
実施例1 本発明における含リン化合物の製造
前記式(III)に示す化合物(DOPO、台湾全峰工業株式会社)50gを200mLのジクロロメタンに溶解させた後、前記式(II)に示す化合物50gと触媒のトリエチルアミン2.3gとを、順次添加し、変色するまで1時間攪拌する。反応に所用した時間は1.5時間、反応温度は30℃であり、次に、反応系の温度が緩やかに室温になった後、ろ過により溶剤を除去して、黄色の前記式(I)に示す含リン化合物を得る。該式中、R、R、RとRはそれぞれメチル基を示し、収量は73%である。
1H NMR (δ, D-MeOH): 7-8 (m, 8H), 6.0-6.7 (s, 3H), 1.5-3.0 (s, 12H)
【0035】
図1により、該生成物はIR分析で、波長1207cm−1において、ホスホロソ二重結合(−P=O)が存在することを示す吸収ピークと、波長2919cm−1において、−CHを示す吸収ピーク、さらに波長1596cm−1と1583cm−1において、ベンゼン環を示す吸収ピークがあることを確認する。
【0036】
<実施例2>
DOPO10gを50mLのトルエンに溶解させ、前記式(II)に示す化合物10gを加え、反応液が変色するまで1時間攪拌する。反応所用時間は4時間、反応温度は110℃であり、反応系が緩やかに室温まで下がった後、ろ過して溶剤を除去し、下記式(V)に示す黄色の含リン化合物を得る。該式中、R、R、RとRは、それぞれメチル基を示し、収量は42.3%である。
1H NMR (δ, D-CDCl3): 7.2-8.2 (m, 8H), 7.09 (s, 4H), 4.7-4.9 (s, 1H), 2.26 (s, 12H)
【0037】
図2により、該生成物はIR分析で、波長1191cm−1において、ホスホロソ二重結合(−P=O)が存在することを示す吸収ピークと、波長3288cm−1にヒドロキシ基(−OH)を示す吸収ピーク、波長2916cm−1と2968cm−1に−CHを示す吸収ピークがあり、さらに波長1597cm−1と1585cm−1にベンゼン環の存在を示す吸収ピークがあることを確認した。
【0038】
【化10】

【0039】
前記実施例2において、アルカリ性触媒の非存在下、かつ、より高温の条件下で、前記式(III)の化合物のリン原子と、前記式(II)の化合物中の酸素原子は反応してホスホロソ結合(−P=O)をつくる傾向があることが判る。それに対して、前記実施例1において、例えば、トリエチルアミンなどのアルカリ性触媒を添加することにより、より低い反応温度下で含リン化合物を生成し、かつ、前記式(III)の化合物中リン原子と結合する水素原子を脱離するのを助けて、該式(III)化合物の求核性を高め、リンと炭素結合をつくる傾向が示され、反応性を高め、より良い収量が得られることが判る。
【0040】
本発明において、前記式(V)の含リン化合物は、一つだけのヒドロキシル官能基を有しているが、高い灰分残留量を生じる多環状構造、例えば、DOPO基グループを有するので、エポキシ樹脂の樹脂硬化剤として利用することができ、又、樹脂自体の難燃性を向上させることができる。
【0041】
前記実施例は、本発明の原理と効果を説明するための例挙に留まり、本発明を限定するまでもない。本発明の精神と原理から離脱しない範囲において、この分野における通常知識を持っている者にとっては、前記実施例をさらに修飾、又は変化させることが可能であり、これらも下記する本発明の請求の範囲内に当然含有されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の式(I)で表される含リン化合物のIRスペクトルを示す。
【図2】本発明の式(V)で表される含リン化合物のIRスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される含リン化合物:
【化1】

式中、R、R、RとRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、ハロゲン化アルキル基及びアルコキシル基よりなる群から選ばれるものを示す。
【請求項2】
前記R、R、RとRは、メチル基である請求項1に記載の含リン化合物。
【請求項3】
触媒と有機溶剤の存在下で、下記式(II)の化合物と
【化2】

式(III)の化合物とを反応させることを特徴とする
【化3】

下記式(I)の含リン化合物の製造方法。
【化4】

式中、R、R、RとRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、ハロゲン化アルキル基及びアルコキシル基よりなる群から選ばれるものを示す。
【請求項4】
前記触媒は、アルカリ性触媒である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記触媒は、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルホスフィン(triphenyl phosphine)、カリウムターシャリーブトキシド(KOt−Bu)、及び1,8−ジアザジシクロ〔5.4.0〕ウンデカ−7−エンよりなる群から選ばれるものである請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応時間が1〜4時間である請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記式(II)の化合物と式(III)の化合物との反応温度が25〜100℃である請求項3に記載の製造方法。
【請求項8】
前記反応温度が30〜50℃である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記式(II)の化合物は、ハロゲン化銅触媒の存在下で、下記式(IV)の化合物を3〜8時間で酸化して得られるものである請求項3に記載の製造方法。
【化5】

【請求項10】
前記ハロゲン化銅触媒は、塩化第一銅(I)、塩化第二銅、及び臭素化第一銅(I)よりなる群から選ばれるものである請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ハロゲン化銅触媒は、塩化第一銅(I)である請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記式(II)の化合物は、塩化第一銅(I)触媒の存在下で、前記式(IV)の化合物を3〜4時間で酸化して得られるものである請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記式(IV)の化合物の酸化温度は、45〜100℃である請求項9に記載の製造方法。
【請求項14】
前記式(IV)の化合物の酸化温度は、50〜60℃である請求項9に記載の製造方法。
【請求項15】
前記有機溶剤は、トルエン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラヒドロフラン、キシレン、ベンゼンとジメチルホルムアミドよりなる群から選ばれる一種又は多種の溶剤である請求項3に記載の製造方法。
【請求項16】
前記ハロゲン化銅触媒含量は、前記式(IV)の化合物の0.05〜10重量%である請求項9に記載の製造方法。
【請求項17】
前記ハロゲン化銅触媒含量は、前記式(IV)の化合物の0.05〜2重量%である請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
下記式(V)で表される含リン化合物:
【化6】

式中、R、R、RとRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C〜Cアルキル基、ハロゲン化アルキル基、及びアルコキシル基よりなる群から選ばれるものを示す。
【請求項19】
前記R、R、RとRは、メチル基である請求項18に記載の含リン化合物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−100618(P2010−100618A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232078(P2009−232078)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(595009383)長春人造樹脂廠股▲分▼有限公司 (23)
【Fターム(参考)】