説明

含油排水処理用の分離膜モジュール、含油排水処理方法および含油排水処理装置

【課題】含油排水の濾過に適して分離膜モジュールを提供する。
【解決手段】高濁度あるいは/および高温の含油排水から非水溶性油分を分離する含油排水処理用の分離膜モジュールであって、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PSF(ポリスルホン)およびPES(ポリエーテルスルホン)から選択される耐アルカリ性を備えた多孔質膜からなり、抗張力が30N以上である中空糸膜を用い、該中空糸膜および該中空糸膜の端末封止材の熱変形温度は100℃以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含油排水処理用の分離膜モジュール、これを用いた含油排水処理方法および分離膜モジュールの洗浄装置を付設した含油排水処理装置に関し、長期に渡り、含油排水から非水溶性油分を効率良く分離するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、非水溶性油分を含む含油排水から非水溶性油分を除去する処理装置および処理方法が提供されている。
含油排水の一種として油田随伴水があり、この油田随伴水から非水溶性油分を除去する必要がある。すなわち、原油採掘の際、海水を地層の油層に注入して、非水溶性油分の圧力を高め、生産量を確保することが一般的に行われている。このような原油採掘に使用された排水である「油田随伴水」は非水溶性油分を多く含むため、非水溶性油分の除去処理がなされた後に廃棄されている。
しかしながら、近年、海洋・湖沼等の汚染を引き起こす要因となることから、排水中の非水溶性油分含有量の規制が強化されてきており、最も厳格な国や地域では5mg/L未満の非水溶性油分含有量とすることが要求されている。
【0003】
通常、油田随伴水は、重力差分離、固/液ハイドロサイクロン等による固体分離の後、板フィルター、液/液ハイドロサイクロン等による一次処理、凝集沈殿・加圧浮上等による二次処理を経たのち、濾過や活性炭処理等の三次処理が行われるが、一次、二次、三次処理と高次処理になればなる程、処理水量が低下するため、大量に排出される油田随伴水の処理に追いつかなくなる問題がある。その結果、大量排出される油田随伴水の処理においては、精密な分離手段は、その処理速度の点から適用できず、結果的に、実用上は非水溶性油分含有量20mg/Lまでの処理が限界と言われている。また、処理コストも問題である。
【0004】
そこで、含油排水の処理に分離膜モジュールを利用することが有望とされている。分離膜モジュールは高い処理水量を確保でき、高度な水処理を行うことができるという利点がある。例えば、特開平5−245472号公報(特許文献1)では、図9に示すように、含油排水100を油粒子よりも小さな平均細孔径のセラミック分離膜101を備えた濾過装置102の一次側S1に供給し、セラミック分離膜101の二次側S2から処理水を取り出すと共に一次側の濃縮水が所定濃度になるまで濾過装置の一次側に濃縮水を循環供給するようにする処理方法を提供している。
【0005】
【特許文献1】特開平5−245472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、含油排水の継続的な処理においては、分離膜の膜面への非水溶性油分付着により流量の低下が起こる。そのため、通常、非水溶性油分を分解除去し、継続的に濾過を行うために水酸化ナトリウム等の強アルカリ性薬剤を用いた化学洗浄が必須である。しかし、分離膜にセラミック膜を用いている特許文献1では、非水溶性油分の洗浄に有効な高濃度のアルカリ性水溶液に対する耐久性が十分でないため膜面の化学洗浄が十分に行えない問題がある。また、オリジナルの物理的強度は強いものの、前記アルカリ等による薬液洗浄の累積頻度が上がってくると徐々に強度劣化がはじまり、逆洗、散気などの物理洗浄実施時の微量とはいえ負荷される衝撃などの影響を受け、その衝撃によりクラック等のトラブルも発生しやすくなる。さらに、特許文献1では分離膜を平膜としているため、処理水量も制限され、大量に排出される含油排水の継続的処理には適さない。
【0007】
また、現在、耐薬品性に優れるとして市販されているポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる分離膜も前記のセラミック膜同様、高濃度のアルカリ性水溶液に対する耐久性がなく、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる分離膜は物理的強度が不足する問題がある。
【0008】
また、加温された含油排水を温度を低下させずに分離処理する装置では、耐熱性および、停止時の低温と加熱時の高温とが周期的に繰り返され、含油排水処理装置の設置場所が例えば寒冷地で低温と高温の差が100℃以上であるヒートサイクルに対しても耐性を有することが要求される。
しかしながら、従来、油水分離処理用として汎用されている樹脂製の濾過膜は耐熱性が十分ではない。
例えば、PP、PE、PVDEでは、常時60℃以上の加熱含油排水が供給されると、軟化して孔径が変化し、PEでは破断が発生しやすい。
さらに、従来用いられている高温の油水分離装置として、セラミック粉末焼結体で形成している場合もあるが、この場合は耐熱性を有するが重量が増加する等の問題があり、かつ、前記ヒートサイクルでの温度変化時に熱的障害を受けてクラック等が発生しやすい。
かつ、セラミック製の分離装置を備えた従来装置は、膜面積あたりの膜エレメント容積が大きいため、設置面積が多く必要である一方それが故に膜装置を多段にする場合があるが、装置全体の重量が大きく大型の装置となり、洗浄時や調査の為に、濾過装置を取り外しにくい問題がある。
【0009】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、含油排水に対する高性能な濾過性能を有し、かつ、非水溶性油分除去に効果的なアルカリに対する耐久性を有して繰り返しの再生を可能とし、さらに耐熱性に優れ、長期に渡り高性能濾過を持続させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、第一の発明として、高濁度あるいは/および高温の含油排水から非水溶性油分を分離する含油排水処理用の分離膜モジュールであって、
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PSF(ポリスルホン)およびPES(ポリエーテルスルホン)から選択される耐アルカリ性を備えた多孔質膜からなり、抗張力が30N以上である中空糸膜を用い、
前記中空糸膜の熱変形温度は100℃以上であり、
前記該中空糸膜の端末封止材は、熱変形温度が100℃以上の熱硬化性樹脂、または融点が使用温度の1.5倍以上である熱溶融性樹脂からなることを特徴とする含油排水処理用の分離膜モジュールを提供している。
【0011】
本発明者らは、高濁度、高温の含油排水から非水溶性油分を分離する場合において、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PSF(ポリスルホン)、PES(ポリエーテルスルホン)から選択される多孔質分離膜の中空糸または平膜を用いた分離膜モジュールは、極めて優れた非水溶性油分除去性能と耐薬品性、特に、耐アルカリ性を備え、かつ耐久(正常な濾過性能を発揮する使用可能期間)とを兼ね備えることを知見した。その結果、5mg/L未満、さらには1mg/L未満の低濃度にまで非水溶性油分含有量を低減できる高性能濾過を実現しながら、膜面に付着した非水溶性油分はアルカリ性水溶液による化学洗浄により溶解除去して繰り返し再生が可能であるので、高性能濾過を長期に渡り持続させることができる。
【0012】
前記濾過膜を構成するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PSF(ポリスルホン)、PES(ポリエーテルスルホン)は抗張力が30N以上の強度を備えている。そのため、高濃度のアルカリ性洗浄液で繰り返し濾過しても、濾過性能及び強度が低下することがなく、かつ、長期に渡り、高性能濾過を持続することができる。抗張力は、好ましくは50N以上であり、上限は150N程度である。
なお、抗張力はJIS K 7161に準拠し、試験体としては中空糸膜そのものを用いた。試験時の引張速度は100mm/分、標線間距離は50mmとして測定した。
【0013】
また、前記濾過膜を構成するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PSF(ポリスルホン)、PES(ポリエーテルスルホン)は熱変形温度が100℃以上である。具体的には、PTFEは121℃、PSFは181℃、PESは210℃である。該熱変形温度は、処理する含油排水温度に応じて、上記膜を選択することができる。
また、濾過膜の端末封止材も前記濾過膜の形成材と同様な熱変形温度が100℃以上の樹脂、あるいは熱溶融性樹脂では耐熱温度が高いフッ素系樹脂を用いて形成している。
このように、濾過膜および端末封止材を耐熱性としているため、加熱含油排水の濾過膜として経年使用しても熱劣化が発生しにくいものとすることができる。
【0014】
前記濾過膜で濾過される前記含油排水は、20℃における粘度0.1〜5.0mPa・sの非水溶性油分を含有する含油排水に好適に用いられ、前記濾過膜による濾過処理済み水の油分含有量を10mg/L〜0.1mg/Lとしている。一方、排水の温度が100℃等の高温の場合は粘度が下がるため常温ベースでの粘度がさらに大きいものでも濾過可能となる。
【0015】
本発明の含油排水処理用分離膜モジュールにより処理される含油排水の20℃における粘度を0.1〜5.0mPa・sとしているのは、含有非水溶性油分の粘度が5.0mPa・sを超えると多孔質材料への付着力が大きくなり、不可逆的な膜の目詰まりが生じて十分な処理水量を確保しにくいことによる。一方、粘度0.1mPa・s未満であると微小な非水溶性油分同士が結合して粗大化、粒子化しにくいことによる。
含油排水に含有される非水溶性油分としては前記粘度範囲で、かつ、水中で水と分離して粒子を形成する非水溶性物質であれば問わないが、ナフサ等の主に石油系の炭化水素系溶剤が挙げられる。
前記含油排水は後述するように重量分離等で分離できる浮上油等は予め除去しておき、非水溶性油分含有量が10〜2000mg/Lに調整され、前記非水溶性油分はミクロンからサブミクロンオーダーの粒径の微粒子として分散油の状態で水中に存在しているものであることが好ましい。
なお、前記非水溶性油分の粘度は、20℃において英弘精機製レオメーターを用いて測定したものである。
【0016】
また、前記濾過膜で濾過される前記含油排水は、懸濁物質の濃度が5〜20000mg/L、特に、100mmg/L以上の高濁度の含油排水に好適に用いられる。
【0017】
また、前記濾過膜で濾過される前記含油排水の温度が60〜200℃の加熱された高温含油排水である場合にも好適に用いられる。前記のように、含油排水の温度に応じて濾過膜および端末封止材は含油排水温度で熱変形が発生しない耐熱温度を有するものとしている。
【0018】
前記中空糸膜は、単層、または支持層と該支持層の少なくとも外側に積層する濾過層を備えた多孔質複層あるいは非対称濾過膜のいずれでもよい。
前記濾過膜の平均空孔径は0.01〜1μmとしていることが好ましい
【0019】
前記中空糸膜は、中空糸膜全体で内径0.3〜12mm、外径0.8〜14mm、バブルポイント50〜400kPa、膜厚0.2〜1mm、気孔率30〜90%、最大許容膜間差圧は0.1〜1.0MPaの耐圧性を備えたものとすることが好ましい。
【0020】
バブルポイントは前述同様、イソプロピルアルコール(IPA)を用いて、JIS K 3832に記載の方法に準拠し、試験体としては中空糸膜そのものを用いた。
中空糸膜の気孔率はアルキメデス法により求めた。算出の際、PTFEの比重は2.17とした。
最大許容膜間差圧の測定は、内圧濾過式の場合は、中空糸膜面にシリコングリス等を塗布し加圧面を非多孔化したあと、1500mg/lの水酸化鉄粒子が分散された水を媒体として内圧を負荷した。負荷前後での膜の寸法が実質的に変化しない範囲での膜の1次側/2次側の圧力差を10kPaごとに測定した。
外圧濾過式の場合は、所定の長さで中空糸膜の両端を拘束状態で固定し、チューブ内側に透過した水が両端から抜き出せる状態において、チューブ外面に同じくシリコングリスを塗布した状態で、これを密閉されたハウジング内におさめ水圧をかけた。そのとき、チューブが負荷圧力を開放したあと、加圧前の外径に復帰するときの最大圧力を10kPaごとに測定した。
【0021】
前記中空糸膜は耐アルカリ性を備えると共に、前記したバブルポイント、気孔率、最大許容膜間差圧を有するものであれば、前記のように単層、複層のいずれの中空糸膜でも良い。該中空糸膜は、特に、耐アルカリ性があり、かつ、強度、耐久性に優れた点で、多孔質延伸PTFE製であることが好ましい。
【0022】
前記中空糸膜は抗張力が30N以上150N以下、IPAバブルポイントを50kPa以上400kPa以下としていることが好ましい。
前記中空糸膜のIPAバブルポイントを50kPa以上400kPa以下としているのは、50kPaを下回ると孔径が大き過ぎて液状の非水溶性油分が前記多孔質膜の孔を通過してしまい非水溶性油分含有量が5mg/L未満の処理済み水を得ることができないことによる。一方、400kPaを超えると、孔径が小さすぎて処理水量の確保が困難になること、および膜の化学洗浄に使用する洗浄液の浸透性が悪いため洗浄回復性が悪いからである。
IPAバブルポイントの下限値は好ましくは80kPa以上、さらに好ましくは100kPa以上であり、上限値は好ましくは380kPa以下、さらに好ましくは350kPa以下である。
なお、IPAバブルポイントは、イソプロピルアルコール(IPA)を用いて、JIS K 3832に記載の方法に準拠し、試験体としては中空糸膜そのものを用いた。
【0023】
前記中空糸膜とし、支持層とする多孔質延伸PTFEチューブに、濾過層とする多孔質延伸PTFEシートを巻き付けた多孔質複層中空糸膜が好適に用いられる。
前記PTFE多孔質複層中空糸膜において、外層である濾過層をシートの巻き付け構造としているのは、多孔質シートは1軸延伸、2軸延伸共に行いやすく、表面の空孔の形状や大きさ等の調整が容易である上に、薄膜での積層が容易であるためである。内層の支持層は押出成形されたチューブとすることで、成形性も良く、ある程度の厚みを有し十分な強度を持たせやすく、空孔率も大きくしやすくなる。
【0024】
支持層、濾過層共に、少なくとも1軸方向に延伸されていれば良く、チューブの軸方向や周方向、径方向等に延伸することができ、軸方向等の1軸、又は軸方向と周方向の2軸等とすることができる。延伸倍率は、適宜設定することができるが、押出成形チューブの場合、軸方向には50%〜700%、周方向には5%〜100%、多孔質シートの場合、長手方向には50%〜1000%、横方向には50%〜2500%とすることができる。特に、多孔質延伸PTFEシートを用いると、横方向の延伸が容易であるため、チューブ状に巻きつけたときに、周方向の強度を向上することができ、散気等による膜の揺れや逆洗浄による圧力負荷に対する耐久性を向上することができる。
さらに、多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層と濾過層は一体化され、互いの空孔が三次元的に連通しているため、良好な透過性を得ることができる。
【0025】
濾過層の外周面に多数存在する各空孔の平均最大長さは、支持層中に多数存在する繊維状骨格により囲まれた各空孔の平均最大長さより小さくしている。具体的には、濾過層の空孔の平均長さを、前記支持層の空孔の平均長さの1%〜30%としているのが良く、できるだけ小さくしている方が良い。これにより、外周面側から内周面側への透過性を高めることができる。
【0026】
濾過層の外表面において、該外表面の全表面積に対する前記空孔の面積占有率が、画像処理で測定して、30%〜90%であることが好ましい。空孔の最大長さが小さくても、空孔の面積占有率がある程度大きいと、流量を減らすこともなく、効率良く、濾過性能を向上することができる。
【0027】
具体的には、濾過層の空孔率は30%〜80%、支持層の空孔率は50%〜85%であることが好ましい。これにより、強度とのバランスを保ちながら、中空糸膜の外周面側から内周面側への透過性をさらに高めることができる。空孔率が小さすぎると流量が低下しやすく、空孔率が大きすぎると強度が低下しやすい。
【0028】
濾過層の厚みは5μm〜100μmであることが好ましい。これは、前記範囲より小さいと濾過層の形成が困難であり、前記範囲より大きくしても濾過性能向上への影響は望み難いためである。支持層の厚みは0.1mm〜5mmであることが好ましい。これにより、軸方向、径方向、周方向のいずれにおいても良好な強度を得ることができ、内外圧や屈曲等に対する耐久性を向上することができる。なお、支持層の内径は0.3mm〜12mmであることが好ましい。
【0029】
本発明の含油排水処理用の分離膜モジュールは、外圧式、外圧循環式、内圧式、内圧循環式、浸漬式のいずれでもよい。
具体的には、前記中空糸膜を複数本備えた集束体とし、該集束体を外筒内に収容し、
前記中空糸膜は一端開口、他端閉鎖とし、前記外筒内に前記含油排水を導入する導入部と、前記中空糸膜の一端開口と連通した濾過済み処理液の導出部と、濾過されなかった非濾過液の排出部を前記外筒に連通して備えた外圧濾過式または外圧循環濾過式としている。
または、前記中空糸膜を両端開口とし、該中空糸膜の一端開口に前記含油排水を導入する導入部と、他端開口から濾過されなかった非濾過液を排出する排出部と、前記外筒内と連通した濾過済み処理液の導出部を備えた内圧濾過式または内圧循環濾過式としている。
浸漬濾過式とする場合は、前記中空糸膜を複数本備えた集束体とし、該集束体を前記含油排水の浸漬槽中に配置し、前記中空糸膜は一端開口、他端閉鎖とし、前記中空糸膜の一端開口と連通した濾過済み処理液の導出部を備えたものとしている。
【0030】
前記外圧濾過式または外圧循環濾過式として用いる前記中空糸膜は、外径1〜5mm、内径0.5〜4mm、気孔率30〜90%であることが好ましい。
前記内圧濾過式または内圧循環式として用いる前記中空糸膜は、外径1.3〜20mm、内径1〜10mm、気孔率30〜90%であることが好ましい。
【0031】
前記中空糸膜の集束体は、耐薬品性と非水溶性油分の濾過性能に優れる中空糸膜を500〜8000程度の多数本備えたものとしている。
該集束体における中空糸膜充填率は20〜60%程度とし、隣接する中空糸の寸法を広げ、含油排水の流通路を確保できるようにしていることが好ましい。
分離膜モジュールを、中空糸膜の外側から内側に向けて含油排水を通過させる外圧濾過式、濾過されなかった含油排水を再度分離膜モジュールに循環させる外圧循環式とした場合、被処理液の流れで中空糸膜の膜面の汚れを剥ぎ取ることができる。よって、被処理液の非水溶性油分含有量や懸濁物質の濃度が高くても膜面の汚れや目詰まりを抑制しながら濾過を継続させることができる。液の濾過が容易で目詰まりしにくい場合は、被処理液を循環させない全濾過の外圧式としてもよい
一方、原水中の粒子が支持層の孔径に比べ十分大きい場合などは、中空糸膜の内側から外側に向けて処理済み水を透過させる内圧濾過、あるいは内圧循環濾過式としてもよい。
【0032】
処理対象の含油排水が高濁度で且つ高温である場合には、前記集束体における中空糸膜間の寸法平均値が0.5mm〜5mmと比較的広くすることが好ましい。
また、前記集束体の断面積に対する前記中空糸膜の充填率が20%〜60%とすることが好ましい。
このように中空糸膜間の離間寸法を比較的大きくとることで、高濁度の含油排水を中空糸膜間に詰まりの発生を抑制しながら流すことができる。
【0033】
本発明では、後述するように、中空糸膜をアルカリ性水溶液で洗浄するため、中空糸膜以外の固定材、集水ヘッダー、封止用樹脂、被処理液導入管および外筒等の他部材も耐アルカリ性樹脂で形成することが望ましい。
具体的には、中空糸膜の一端開口を閉鎖すると共に集束体として固定する封止材、中空糸膜の他端開口を開口状態として固定する固定材については、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂(ゴム)、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいはポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂が用いられる。
前記外筒については、ステンレスなどの金属材料やABS樹脂、PVC、FRP、PTFE、PSF、PES及びPEEKなどのエンジニアリングプラスチックで成形していることが好ましい。
配管やその付属部品などは同じくステンレス、PVCなどで構成される。
前記中空糸膜モジュールを構成する部材は、熱硬化性樹脂の場合は熱変形温度が100℃以上の耐熱性を有するものとし、または、熱溶融性樹脂の場合は、その融点が使用温度の1.5倍を有するものとしている。
【0034】
また、本発明の分離膜モジュールは、垂直方向に配置した中空糸膜の集束体の下部に散気用空気配管を配置し、かつ、前記処理済み液の導出部より中空糸膜の内部に該処理済み液を逆洗浄液を加圧送液する逆洗浄手段を備えていることが好ましい。
上記散気用空気配管を備えることで、通常の濾過運転時に、分離膜モジュールの下部またはモジュール下部に接続される配管から散気用のエアーのバブリングを発生させ、中空糸膜を揺動させることで中空糸膜の外面に付着する微粒子をふるい落とすことができる。
また、定期的に分離膜モジュールの中空糸膜の内部に処理済み液を逆洗浄水として加圧送液し、逆洗浄することにより、濾過性能の持続を図ることができる。
【0035】
第二の発明として、前記含油排水処理用分離膜モジュールを用いた含油排水処理方法を提供している。該含油排水処理方法は、
非水溶性油分含有量(n−ヘキサン値)が3〜5000mg/Lである含油排水を、前記中空糸膜のIPAバブルポイントが50kPa以上100kPa未満で膜間差圧50kPa以下、前記IPAバブルポイントが100kPa以上150kPa未満で膜間差圧100kPa以下、前記IPAバブルポイントが150kPa以上400kPa以下で膜間差圧200kPa以下の濾過条件とし、含油排水の非水溶性油分含油量が10mg/L以上2000mg/L以下の場合は濾過処理済み水の非水溶性油分含有量を5mg/L未満、含油排水の非水溶性油分含油量が3mg/L以上10mg/L未満の場合は濾過処理済み水の非水溶性油分含有量を1mg/L未満としていることを特徴とする。
【0036】
本処理方法では、中空糸膜のIPAバブルポイントと膜間差圧のバランスを取ることにより、中空糸膜の多孔質膜の孔に非水溶性油分が透過せず、効率的に含油排水から非水溶性油分を除去することができるよう調整している。
前記中空糸膜のIPAバブルポイントの各条件において、規定の膜間差圧の上限値を超えると多孔質膜の孔に非水溶性油分が透過しやすくなり、5mg/L未満または1mg/L未満の非水溶性油分含有量が得られにくくなるため好ましくない。
前記中空糸膜のIPAバブルポイントが50kPa以上100kPa未満の場合の膜間差圧は、50kPa以下とすることが好ましい。
前記IPAバブルポイントが100kPa以上150kPa未満の場合の膜間差圧は、100kPa以下とすることが好ましい。
前記IPAバブルポイントが150kPa以上400kPa以下の場合の膜間差圧は、200kPa以下とすることが好ましい。
下限値についてはより低圧を維持するのが望ましいが、濾過の継続とともに徐々に差圧があがってくる。前記記載の圧力まで上昇した時点でアルカリ性水溶液等の薬品洗浄を実施するのが望ましい。
なお、膜間差圧は、運転中の分離膜モジュール直近の原水入口圧力P1およびモジュール透過水出口直近の圧力P2を測定し、これらの値から(P1−P2)を算出している。
【0037】
本処理方法において、濾過膜で処理する含油排水を非水溶性油分含有量(n−ヘキサン値)を3〜2000mg/Lとしているのは、2000mg/Lを超えると含有非水溶性油分量が多過ぎて、中空糸膜が目詰まり等を起こし易くなり、処理水量の確保が困難となるからである。
一方、3mg/L未満であると非水溶性油分が極めて小さい粒子として分散する場合、膜内部で微小な粒子が会合し粗大化しにくいため、膜内部での安定的な補足ができず、確実に除去できないからである。
本処理方法の処理する含油排水の非水溶性油分含有量は、10〜2000mg/Lが好ましく、特に、20〜1000mg/Lであることが好ましい。
本発明の含油排水処理用分離膜モジュールは、非水溶性油分含有量が希薄な、具体的には30mg/L未満の含油排水であれば、5mg/L以下は当然のこと、1mg/L未満に処理することができる。
非水溶性油分含有量は、JIS K 0102 24.2に準拠した測定方法によるn−ヘキサン値により得られたものである。
【0038】
前記含油排水のJIS K 0102 14.1で測定される懸濁物質(SS)の濃度は5〜2000mg/Lであると、通常、含油排水は懸濁物質を含み、不均一系分散状態となっている。なお、処理する含油排水の温度は、通常、25〜90℃程度である。
【0039】
また、本発明の含油排水の処理方法では、含油排水の非水溶性油分含有量が3〜200mg/Lで、かつ懸濁物質(SS)の濃度が100mg/L以下の場合は、被処理液の全量を中空糸膜を通過させる外圧式の全濾過で行うことが好ましい。
非水溶性油分含有量が200mg/Lを超えて2000mg/L以下、懸濁物質(SS)が100〜20000mg/Lの場合は、被処理液を循環して流す外圧循環式または内圧循環式のクロスフロー方式で行うことが好ましい。
特に、非水溶性油分が1000mg/L以上もしくは懸濁物質が500mg/L以上の場合は循環濾過で濾過することが好ましい。
このように非水溶性油分や懸濁物質の濃度に応じて、処理方法を変更することで効率的に処理を行うことができ、処理水量を確保することができる。
【0040】
前記した含油排水処理方法は、油田随伴水を前処理して非水溶性油分含有量(n−ヘキサン値)を低減した後の含油排水を前記分離膜モジュールで精密濾過する場合に用いられる。
【0041】
また、前記含油排水処理用の分離膜モジュールを用いた含油排水処理方法であって、
含油排水が、油含有量が20〜2000mg/L、懸濁成分の含有量が100〜10000mg/L、60〜200℃の高温である場合、この高温の含油排水を前記分離膜モジュールで濾過処理して、処理水中の非水溶性油分含有量を5mg/L以下、懸濁成分含有量0〜1mg/Lとしている含油排水処理方法を提供している。
【0042】
さらに、第三の発明として、前記含油排水処理用の分離膜モジュールを備えた含油排水処理装置を提供している。
該含油排水処理装置は、前記分離膜モジュールの中空糸膜の表面に付着した非水溶性油分除去用として、アルカリ性水溶液からなる洗浄液を前記中空糸膜の表面に送液する洗浄手段を備えていることを特徴とする。
【0043】
本発明で用いる含油排水処理用の分離膜モジュールはPTFE等で中空糸膜を形成し、極めて優れた耐アルカリ性を有するものとしているため、4質量%水酸化ナトリウム水溶液(1mol/L)のような高濃度アルカリ溶液の洗浄液を送液しても、中空糸膜は損傷されず、高性能な濾過性能を維持することができる。そのため、表面に付着した捕捉非水溶性油分を十分に溶解・除去し、繰り返し多孔質膜を再生利用することができる。
【0044】
本発明の含油排水処理装置は、含油排水貯留槽と、前記洗浄手段の洗浄液貯留槽と、前記含油排水貯留槽および洗浄液貯留槽と前記分離膜モジュールの導入部とを連通すると共にポンプを介設した導入用配管と、前記含油排水貯留槽および洗浄液貯留槽と前記分離膜モジュールの非処理液の排出部とを連通する循環用配管とを備え、
前記導入用配管の分岐管および循環用配管の分岐管を、それぞれ前記含油排水貯留槽と洗浄液貯留槽と連通した構成としていることが好ましい。
【0045】
前記のように、含油排水を含油排水貯留槽と分離膜モジュールとの間に循環用配管を設けて、循環式に被処理液の含油排水を分離膜モジュールに供給して濾過している。また、アルカリ性水溶液からなる洗浄液を貯留する洗浄液貯留槽と分離膜モジュールとの間にも循環用配管を設けて、洗浄液を分離膜モジュールに循環して供給している。
前記被処理液の循環と洗浄液の循環とは交互に行い、分離膜モジュールの濾過性能の低下を防止している。
【0046】
前記導入用配管に介設した前記ポンプの吐出圧力は50〜300kPaとすることが好ましい。かつ、前記分岐管の分岐位置に切替弁を介設し、被処理液と洗浄液とを分離膜モジュールに切り替えて送液している。
【0047】
前記のように、含油排水を分離膜モジュールに循環するクロスフロー方式とすることにより、非水溶性油分含有量が200mg/Lを超えて2000mg/L以下、懸濁物質(SS)が100〜20000mg/Lである被処理液でも5mg/L未満まで、懸濁物質(SS)、非水溶性油分が少ない場合には1mg/L未満まで処理することができる。
また、前記含油排水をポンプの吐出圧力を50〜300kPaとして供給することにより、前述したIPAバブルポイントを有する中空糸膜の膜間差圧を前述した範囲とすることができる。
さらに、前記洗浄手段を備えることにより、含油排水の導入用配管をアルカリ性水溶液の洗浄液の導入用配管に切替を行うことができ、中空糸膜の膜面の捕捉非水溶性油分の除去を定期的に行うため、濾過膜の再生を容易に行うことができる。
【0048】
本発明の含油排水処理装置は、油田随伴水を前処理して、非水溶性油分含有量を低減し、例えば、非水溶性油分含油量(n−ヘキサン値)を10〜2000mg/Lとした後に、該含油排水を精密濾過する装置として好適に用いることができる。
具体的には、油田随伴水を既存の油水分離処理手段で粗大な非水溶性油分と含油水分とに分離し、分離された含油水分を電気凝集・浮上手段で非水溶性油分と金属分を凝集させて粗く除いた後の含油排水を被処理液として精密濾過する含油排水処理装置として用いている。
【0049】
油田随伴水の原水は、通常、浮上油等の大量の油が存在すると共に汚泥を含むため、予め油水分離処理手段及び電気凝集・浮上手段で非水溶性油分を粗く除いた後の含油排水を精密濾過する本発明の装置に用いている。このときの含油量は10〜100mg/Lである。
本構成とすれば、浮上油等の大部分の非水溶性油分を予め除去しているので、処理水量を確保しながら、清澄な処理済み水を得ることができ、得られた処理済み水は、例えば、灌漑用水として利用することができる。
【0050】
前記高温の含油排水処理用として用いる中空糸膜型の分離膜モジュールでは、集束体における中空糸膜間の寸法平均値が0.5mm〜5mmと比較的広くし、かつ、集束体の断面積に対する前記中空糸膜の充填率が20%〜60%とすることが好ましい。
このように、中空糸膜間の寸法を広くとると端末封止材にクラックもしくはひずみによるリークが発生しやすくなる。これに対して、本発明は、多数本の中空糸膜と、その少なくとも一端を連結固定する端末封止材とを固定する製造方法として、下記の方法を用いて、端末封止材にクラックが発生しないようにしている。
【0051】
(熱硬化性樹脂を封止材として用いる場合)
例えば容器内に熱変形温度が120℃以の耐熱エポキシ樹脂(芳香族アミン系硬化剤)を注入、充填し、50℃〜60℃で予備加熱した後、常温で少なくとも3時間以上、好ましくは6時間以上保持して予備硬化する。
ついで、使用温度以上で熱変形温度である120℃以下の温度(100℃で使用する場合100℃以上120℃以下)で1時間以上加熱する。
その後、少なくとも6時間以上かつ1℃/分の温度勾配で持って除冷する。
(熱溶融性樹脂を封止材として用いる場合)
予め端末形状に成型されたロッドの所定位置に中空糸膜のサイズにあわせて穴をあけ、そこへ中空糸膜を挿入し所定間隔をあけて配列した状態で、加熱し端末封止材の実体温度が樹脂の融点以上の温度になるまで予備加熱し、さらにその溶融温度で1時間以上加熱し、その後、少なくとも6時間以上かつ1℃/分の温度勾配で持って除冷する。
【0052】
このように、予備加熱した後に所定時間保持し、その後に加熱成形し、かつ、加熱後に所要時間をかけて除冷している。この方法で製造した中空糸膜分離モジュールでは、100℃程度の温度差でヒートサイクルが繰り返されても、端末封止材自体および端末封止材と中空糸との間にクラックが生じるのを防止できることを、本発明者は実験により知見している。
【発明の効果】
【0053】
前述したように、本発明の分離膜モジュールを用いると、含油排水を、5mg/L未満、さらには1mg/L未満の低濃度にまで非水溶性油分含有量を低減できる高性能濾過を実現できる。
【0054】
また、本発明の含油排水処理方法によれば、油田随伴水の含油排水や加温された高温の含油排水を前記分離膜モジュールを用いて処理すると、非水溶性油分が透過せず、効率的に含油排水から非水溶性油分を除去し、処理水量を低下させずに清浄な処理済み液を得ることができる。
【0055】
また、本発明の含油排水処理装置によれば、定期的に分離膜モジュールを洗浄する洗浄手段を備え、中空糸膜の膜面に付着した非水溶性油分をアルカリ性水溶液による化学洗浄により溶解除去して繰り返し再生しているため、含油排水の高性能濾過を長期に渡り持続させることができる。
【0056】
油田随伴水の含油排水処理に用いた場合、浮上油等の大部分の非水溶性油分を予め除去した後に分離膜モジュールで精密濾過しているため、高い処理水量を確保しながら、5mg/L未満、さらに非水溶性油分含有量が少ない場合には1mg/L未満の清澄な処理済み液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1実施形態の含油排水処理用の分離膜モジュールの断面図である。
【図2】第1実施形態の分離膜モジュールを備えた含油排水処理装置を示す全体図である。
【図3】(A)(B)は、多孔質複層中空糸膜の概略構成図である。
【図4】第2実施形態の含油排水処理用の分離膜モジュールの断面図である。
【図5】第2実施形態の分離膜モジュールを備えた含油排水処理装置を示す全体図である。
【図6】第3実施形態の含油排水処理用の分離膜モジュールの断面図である。
【図7】第3実施形態の分離膜モジュールを備えた含油排水処理装置を示す全体図である。
【図8】(A)(B)は第4実施形態の分離膜モジュールの断面図である。
【図9】従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3に本発明の第1実施形態の含油排水処理用の分離膜モジュール1を示す。
該第1実施形態の分離膜モジュール1は、油田随伴水を予め粗分離処理してなる含油排水を精密に分離処理するものとして用いている、なお、該油田随伴水に限定されず、工場排水や生活排水を含め、粘度0.1〜5.0mPa・sの非水溶性油分を含有する含油排水から非水溶性油分を分離するために用いることができるものである。
前記分離膜モジュール1は、非水溶性油分含有量が3〜2000mg/Lの含有排水から、非水溶性油分含有量1mg/L未満の処理済み水を得るものとしている。
【0059】
分離膜モジュール1は、前記含油排水を循環して流す外圧循環濾過方式(外圧クロスフロー方式)に用いるものとしている。
中空糸膜2を複数本(本実施形態では3500本)束ねた集束体3を備え、該集束体3の下端を封止材4で封止し、各中空糸膜2の下端開口を閉鎖している。集束体3の上端は中空糸膜2の上端開口2aは開口状態として、固定材5で固定している。
前記集束体3を外筒6内に収容している。外筒6の上端に上部キャップ7を接着して取り付け、該上部キャップ7の内部を各中空糸膜2の中空部と連通させた導出口7aを設け、該導出口7aを処理液取出用の導出用配管8と接続している。
前記外筒6の下端に下部キャップ9を接着固定し、該下部キャップ9に含油排水からなる被処理液の導入口9aを設け、該導入口9aを被処理液を導入する導入用配管10と接続している。
集束体3の下端の封止材4と外筒6の内壁との間には空間Sを確保し、前記導入口9aから導入される含油排水を外筒6内において集束体3へすみやかに流れるようにしている。
また、外筒6の上端近傍の周壁に、濾過されなかった非処理液の排出口11を設け、該排出口11を循環用配管12と連通している。
【0060】
さらに、外筒6の下部周壁から散気用空気導入管14を挿入し、集束体3の内部に通している。図2に示すように、散気用空気導入管14はブロア15と接続している。該散気用空気導入管14に必要時にブロア15より所定量の空気を導入し、集束体3の各中空糸膜2に向けて散気している。これにより、中空糸膜2を振動させて、その外周面に付着した含油排水中に含まれる固形分等をふるい落としている。
【0061】
さらに、上部の固定材5と下部の封止材4との中央部を補強棒16で連結している。該補強棒16は剛性のない中空糸膜2が下部からの含油排水の水流の力で持ち上げられてしまうのを防ぎ、鉛直性を確保するためである。
なお、外筒6、上部キャップ7、下部キャップ9はABS樹脂、固定材5、封止材4はエポキシ樹脂、連通棒16はステンレスまたは耐熱樹脂としモジュール全体として耐アルカリ性に優れたものとしている。
【0062】
中空糸膜2は、図3に示すように、多孔質延伸PTFE製のチューブ2bからなる支持層と、該支持層の外表面に多孔質膜延伸PTFEシート2cからなる濾過層を備えた多孔質複層中空糸膜からなる。
中空糸膜2は、中空糸膜全体で内径0.3〜12mm、外径0.8〜14mm、IPAバブルポイント50kPa以上400kPa以下、膜厚0.2〜1mm、気孔率50〜90%、最大許容膜間差圧0.1〜1.0MPaの耐圧性を備えたものとしており、抗張力は30〜150Nとしている。なお、これら物性は前記した方法と同様の方法で測定している。
【0063】
前記多孔質複層中空糸膜からなる中空糸膜2は、押出成形により得られた多孔質延伸PTFEチューブ2bの外周面に多孔質延伸PTFEシート2cを巻き付けて形成している。
具体的には、多孔質延伸PTFEチューブ2bの外周面を火炎処理等により凹凸を設けた後に多孔質延伸PTFEシート2cを位置ずれなく全周に巻き付けた後にダイス等を通して荷重を付加して密着させ、その後、PTFEの融点以上の温度で加熱焼結して、両者を融着一体化している。
【0064】
前記分離膜モジュール1を備えた含油排水処理装置20は、図2に示す構成としている。
含油排水OLが配管19から連続投入される含油排水貯留槽21と、アルカリ性水溶液の洗浄液(以下、アルカリ洗浄液と略す)ALを貯留する洗浄液貯留槽22と、含油排水貯留槽21および洗浄液貯留槽22と分離膜モジュール1の被処理液の導入口9aとを連通すると共に、ポンプ23と切替弁24を介設した前記導入用配管10と、含油排水貯留槽21および洗浄液貯留槽22と分離膜モジュール1の濾過されなかった非処理液の排出口11とを連通する前記循環用配管12とを備えている。
【0065】
前記導入用配管10はポンプ23の上流に切替弁24を備え、該切替弁24で配管を分岐し、分岐管10Aを含油排水貯留槽21と接続し、分岐管10Bを洗浄液貯留槽22と接続している。また、導入用配管10にはポンプ23の下流で切替弁25を介して逆洗浄水の排出管10Cと接続している。
前記洗浄液経路となる循環用配管12も分岐し、分岐管12Aを含油排水貯留槽21と接続し、分岐管12Bを洗浄液貯留槽22と接続している。かつ、該分岐位置に切替弁29を介設して、濾過されなかった非処理液を含油排水貯留槽21へ戻し、アルカリ洗浄時にはアルカリ洗浄液を洗浄液貯留槽22に戻して循環している。
【0066】
前記ポンプ23の吐出圧力は50〜300kPaとし、含油排水OLとアルカリ洗浄液ALとを加圧して分離膜モジュール1へ送液している。
ポンプ23の吐出圧力は50〜300kPaとして、中空糸膜2のIPAバブルポイントの膜間差圧に調整している。
このように、本装置では、分離膜モジュール1に、アルカリ洗浄液ALと含油排水OLとは定期的に交互に供給し、定期的にアルカリ洗浄液ALで中空糸膜2を洗浄している。
アルカリ洗浄液ALとしては、0.5〜20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いている。
【0067】
濾過済みの処理液の導出口7aと接続して処理液を取り出す導出用配管8は処理液貯留槽26と接続している。かつ、該処理液貯留槽26に貯留された処理液を逆洗浄水として利用するため、逆洗用ポンプ27を介設した逆洗水の配管28を処理液貯留槽26と前記導出用配管8との間に接続している。
【0068】
次に、前記分離膜モジュール1を備えた含油排水処理装置の作用について説明する。
前記含油排水貯留槽21に連続的に供給される含油排水OLは、油田随伴水の油水分離処理手段で非水溶性油分と含油水分とに分離し、分離された含油水分を電気凝集・浮上手段で非水溶性油分と金属分を凝集させて粗く除いた後の非水溶性油分含有量(n−ヘキサン値)が約1000mg/L以下の含油排水からなる。
【0069】
含油排水貯留槽21から含油排水OLがポンプ23で加圧されて導入用配管10から分離膜モジュール1の下端の導入口9aに導入される。導入された含油排水OLは外筒6内で上向きに流れ、その間に集束体3内の中空糸膜2の外周へと流入していく。中空糸膜2の外周から中空糸膜2の中空部へと外圧濾過される。
【0070】
濾過された処理液SLは中空糸膜2の中空部から上端の導出口7aを通って導出用配管8を通り、処理液貯留槽26に貯留される。
一方、濾過されてなかった非処理液は排出口11から循環用配管12へと排出され、分岐管12Aを経て含油排水貯留槽21または洗浄液貯留槽22へと戻している。
【0071】
前記のように、含油排水OLを中空糸膜2で濾過する際、中空糸膜2としてIPAバブルポイントが50kPa以上100kPa未満のものを用いた場合は、膜間差圧を50kPa以下に調整している。
IPAバブルポイントが100kPa以上150kPa未満のものを用いた場合は、膜間差圧を100kPa以下に調整している。
IPAバブルポイントが150kPa以上200kPa以下の場合は膜間差圧を超えて200kPa以下の濾過条件としている。
【0072】
このように中空糸膜2のIPAバブルポイントと膜間差圧のバランスを取ることにより、中空糸膜2の孔に非水溶性油分が透過することがなく、効率的に含油排水OLから非水溶性油分を除去し、非水溶性油分含有量1mg/L未満の処理済み水を得ることができる。
【0073】
なお、含油排水貯留槽21に含油排水OLを連続供給する代わりに、間歇的に供給してもよい。その場合、含油排水OLは循環濾過を複数回繰り返すことで、濾過が進行して濃縮されていく。含油排水OLの濃度が、例えば2000mg/L付近になったところで、含油排水貯留槽21内の残存する被処理液を排出して、新たに含油排水OLを入れ変えてもよい。
また、別の運転方法として、新たに投入される非水溶性油分、固形分の量の総量と等しい量を含む濃縮排水を系外に排出する等して一定の非水溶性油分、固形分を維持しながら継続して濾過してもよい。
【0074】
含油排水OLの濾過運転を一定時間行い、処理流量の低下が見られた時点で、ポンプ23の作動を停止し、切替弁24をアルカリ洗浄用の流路に切り替る。その後、ポンプ23を再作動し、アルカリ洗浄液ALを導入用配管10を通して、分離膜モジュール1の導入口9aにアルカリ洗浄液ALを導入している。
該アルカリ洗浄液ALは外筒6内に流入し中空糸膜2の表面に付着堆積した捕捉非水溶性油分を洗浄除去している。該アルカリ洗浄液ALは排出口11より循環用配管12へ排出され、該循環用配管12より洗浄液貯留槽22に循環している。
このように、含油排水OLの濾過とアルカリ洗浄液ALによる洗浄とを、定期的に交互に行っている。
【0075】
また、定期的に処理液貯留槽26より濾過済みの処理液SLを導出用配管8より中空糸膜2の中空部に圧送し、中空糸膜2を内側から逆洗浄している。該逆洗浄水は、切替弁25を切り替えて排出管10Cを通して排出している。
なお、濾過された処理液に変えて、アルカリ洗浄液を逆洗浄水として用い、短時間、たとえば1時間程度放置してもよい。
【0076】
含油排水OLの非水溶性油分含有量(n−ヘキサン値)が3〜200mg/Lと希薄で、特に膜への付着性の少ない含油排水を処理する場合は、導入口9aから含油排水を供給し、集束体3の上端側に向かって流れながら中空糸膜2により濾過し、非水溶性油分が除去された処理済み水は中空糸膜2の内周側を流通させて導出口7aより導出用配管8へと導出し、含油排水OLを全濾過して、循環させない外圧濾過式とすることが好ましい。
【0077】
前記外圧濾過式とする場合、例えば、30分に1回逆洗ポンプ27を稼働させ、濾過済みの処理水を使って分離膜モジュール内の中空糸膜2に逆圧(内圧)をかけ外表面に堆積する固形分などを払拭している。
その際、同時にブロア15より空気を送り込み、中空糸膜2を振動させて同じく固形分を払拭している。その後、分離膜モジュール1の下部より固形分を含む被処理液をドレンしている。このときの逆洗圧力は、例えば、200kPa、時間は30秒。空気の量は50L/minで20秒である。このように、非水溶性油分含有量が希薄な含油排水の場合は、全量濾過することが好ましい。
【0078】
図4および図5に、第2実施形態の内圧循環濾過式の含油排水処理装置30を示す。
該含油排水処理装置30は、油田随伴水用ではなく、油分を含有する工場排水の油水分離用として用いている。なお、第1実施形態と同様に油田随伴水用の含油排水処理装置として用いてもよい。
図4に示す分離膜モジュール31は、中空糸膜32の両端を開口とし、中空糸膜32の中空部に被処理液の含油排水OLを通し、中空糸膜32の内側から外側に向けて濾過して、中空糸膜32の外側に濾過済みの処理液を透過させる内圧循環濾過式のモジュールとしている。
【0079】
具体的には、前記両端開口とした中空糸膜32の集束体33を外筒6に収容している。集束体33の上下両側は中空糸膜32の両端開口を開口状態として固定材34、35で固定している。上端の固定材34に、濾過されていない非処理液の排出口37aを設けた上部キャップ37を接着固定し、上部キャップ37と循環用配管12を排出口37aと接続している。
下端の固定材35は外筒6の内周面に密着固定すると共に、下部キャップ36と固定し、該下部キャップ36に含油排水からなる被処理液の導入口36aを設け、該導入口36aを導入用配管10と接続している。
また、外筒6の上端近傍の周壁に濾過された処理液の導出口6cを設け、該導出口6cを処理液取出用の導出用配管8と接続している。
【0080】
前記内圧循環濾過式の分離膜モジュール31を備えた含油排水処理装置30は図5に示すように、分離膜モジュール31の導入口36aに接続した導入用配管10は、第1実施形態と同様に、ポンプ23、切替弁24、分岐管10A、10Bを介して含油排水貯留槽21、洗浄液貯留槽22と接続している。
分離膜モジュール31の排出口37aに接続する循環用配管12も第1実施形態と同様に、分岐管12A、12Bを含油排水貯留槽21、洗浄液貯留槽22と接続している。
濾過済みの処理液の導出口6cに接続する導出用配管8も、第1実施形態と同様に処理液貯留槽26に接続し、該処理液貯留槽26と逆洗用ポンプ27を介して逆洗用の配管28を導出用配管8と接続している。前記逆洗用ポンプ27を間歇的に作動して、外筒6の内部に処理液を逆洗浄液として導入して、中空糸膜32の外周面に向けて噴射して逆洗浄を行うようにしている。
さらに、ブロア15と接続した散気用空気導入管14を、分離膜モジュール31の導入口36aに近接した配管10内に挿入し、散気用空気を各中空糸膜32の内部へ供給している。
【0081】
本第2実施形態の中空糸膜32は第1実施形態の図3と同様に、多孔質延伸PTFE製の単層チューブからなる。該多孔質中空糸膜32は内径1〜12mm、外径1.6〜14mm、IPAバブルポイント50kPa以上400kPa以下、膜厚0.2〜1mm、気孔率50〜90%、最大許容膜間差圧0.1〜1.0MPaの耐圧性を備えている。これら物性は前記した方法と同様の方法で測定している。
【0082】
前記分離膜モジュール31は、非水溶性油分含有量(n−ヘキサン値)が1000〜2000mg/Lの含油排水OLを循環処理している。内圧循環濾過方式としている点で、第1実施形態の外圧循環濾過方式と相違する。
含油排水OLは、図中矢印に示すように、導入口36aから中空糸膜32の内部に導入され、集束体33の上端側に向かって流れる。この流通過程で中空糸膜32により濾過され、非水溶性油分が除去された濾過済みの処理水は中空糸膜32の外周側を透過し、外筒6の周壁に設けた処理液の導出口6cから導出用配管8へと導出される。
また、非水溶性油分や固形粒子等を含む濾過されていない非処理液は、上部キャップ37に設けられた排出口37aから循環用配管12に排出される。
内圧循環方式の場合、同じ循環流量でも、分離膜モジュール31内を流れる流路断面積が小さいため流速が上がり、中空糸膜32の表面に堆積する固形分、非水溶性油分の剥離効果が大きくなるため、特に、非水溶性油分濃度の大きい領域において有効である。
【0083】
本第2実施形態では、高濃度の非水溶性油分含有量の含油排水OLを被処理液とし、一度の濾過で5mg/L未満の非水溶性油分含有量の処理済み液を得ることができる。
他の構成及び効果は第1実施形態と同様のため、同一の機能及び作用を有する部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0084】
図6および図7に、第3実施形態の分離膜モジュール40および含油排水処理装置60を示す。
含油排水処理用の分離膜モジュール40は、中空糸膜41の集束体42を含油排水OLを貯留した浸漬槽50内に浸漬配置し、中空糸膜41の内側から含油排水OLを吸引することにより中空糸膜41の外側から内側に向けて含油排水OLを透過させる浸漬型のモジュールとしている。
【0085】
中空糸膜41の集束体42の状態は第1実施形態と同様に、中空糸膜の上端開口を開口した状態で固定材5で固定し、該固定材5を上部キャップ7と固定し、該上部キャップ7を濾過済みの処理液を取り出す導出用配管8と接続している。
集束体42の下端も第1実施形態と同様に、中空糸膜41の下端開口を閉鎖した封止材4で固定している。上端の固定材5と下端の封止材4との外周部を連結棒43で連結し、集束体42を鉛直方向に保持すると共に補強している。
前記下端の封止材4と連結棒43の下端とをスカート材46に固定している。該スカート材46の下部にブロア15と接続した散気用空気導入管14の散気口を配置している。濾過運転時には常時下方から散気して、そのバブリングにより、浸漬槽50内の含油排水OLに上向きの循環流れを生じさせている。
【0086】
図7に示すように、処理液取り出し用の導出用配管8は、第1実施形態と同様に、処理液貯留槽26に接続している。該処理液貯留槽26に逆洗用ポンプ27を介設した逆洗用の配管28を接続し、該配管28を導出用配管8と接続している。
さらに、アルカリ洗浄液ALを貯留した洗浄液貯留槽22を配管45を介して浸漬槽50の内部に導入し、浸漬槽50内の含油排水OLを除去した後にアルカリ洗浄液ALを浸漬槽50内に導入して、集束体42を所要時間浸漬して洗浄するようにしている。
【0087】
本第3実施形態の中空糸膜41は、第1実施形態の中空糸膜2と同様に、多孔質延伸PTFE製のチューブからなる支持層と、該支持層の外表面に多孔質膜延伸PTFEシートからなる濾過層を備えた多孔質複層中空糸膜としている。
中空糸膜41の内径は0.3〜2.0mm、外径は0.8〜3.0mm、内面に円筒状ネットなどの支持体を用いる場合は最大外径20mmとしている。
IPAバブルポイントは50kPa以上400kPa以下、膜厚は0.2〜1mm、気孔率は50〜90%、最大許容膜間差圧(外圧)0.1MPaの耐圧性を備えたものとしている。なお、これら物性は前記した方法と同様の方法で測定している。本第3実施形態の浸漬型は、非水溶性油分含有量(n−ヘキサン値)が10〜200mg/Lの含油排水OLの処理用として用いている。
【0088】
浸漬槽50に配管19を介して、含油排水OLを供給している。配管19から浸漬槽50への含油排水OLの供給は間歇的に行っている。
具体的には、浸漬槽50内の含油排水OLが濾過されて、濾過されていない含油排水OLの非水溶性油分含有量が200mg/Lになると、浸漬槽50から系外へ排出して、新たな含油排水OLを浸漬槽50内に供給している。
あるいは、非水溶性油分含油量が100mg/Lになると、浸漬槽50内に希薄濃度の含油排水OLを投入し、浸漬槽50内で非水溶性油分含油量が100mg/Lの所定量溜ると、系外に短時間で排出している。
例えば、含油排水を1000リットル投入し、投入される含油排水の非水溶性油分5000mgであると、浸漬槽50内の非水溶性油分100mg/Lとして、50リットルだけ排出している。このバランスが保てるように運転して浸漬槽50内の非水溶性油分を一定に保ちながら連続している。
【0089】
本第3実施形態の浸漬型では、濾過運転時に、常時、集束体42の下部に散気用空気挿入管14より空気を噴射し、そのバブリングにより浸漬槽50内の含油排水OLを上昇させる循環流を発生させ、中空糸膜41を振動しつつ、中空糸膜41の膜面に非水溶性油分および固形分を付着し、付着した固形分および非水溶性油分をふるい剥ぎ取っている。
また、前記したように、定期的に浸漬槽50から含油排水を系外へ排出し、排出後にアルカリ洗浄液ALを配管45を通して浸漬槽50に供給し、集束体42をアルカリ洗浄液ALに浸漬して洗浄を行っている。さらに、逆洗用ポンプ27を駆動して、濾過済みの処理液SLを逆洗浄液として中空糸膜41の内部に導入し、中空糸膜41を逆洗浄している。
【0090】
前記のように定期的に洗浄することにより、アルカリ洗浄液ALにより中空糸膜42の膜面に付着堆積した捕捉非水溶性油分を除去し、中空糸膜の濾過性能をほぼ完全に回復させることができる。
その結果、非水溶性油分含有量5mg/L未満、さらには1mg/Lとなる処理済み液を処理水量を低下させずに長期に渡り持続的に得ることができ、油田随伴水の処理装置として優れている。このようにして得られた処理済み液は、例えば灌漑用水として利用することができる。
本第3実施形態の含油排水処理装置は油田随伴水用、油分を含有する工場排水等、いずれの分野の含油排水処理装置として用いることができる。
【0091】
図8(A)(B)に第4実施形態の高温の含油排水処理装置を示す。
処理する含油排水は温度60〜200℃、油含有量が20〜2000mg/L、懸濁成分の含有量が100〜10000mg/Lであり、分離膜モジュール62を備えた濾過装置(含油排水処理装置)63で精密濾過している。
【0092】
前記濾過装置63の分離膜モジュール62は前記第1実施形態と同様な延伸PTFE多孔質チューブからなる中空糸膜2を用い、濾過装置63の全体構成は前記図1に示す構成とし、散気手段も配置しており、同一符号を付して説明を省略する。
【0093】
前記分離膜モジュール62の各中空糸膜2は単層、複層のいずれでもよく、各中空糸膜2は、前記外圧濾過式または外圧循環濾過式として用いる場合、外径1〜5mm、内径0.5〜4mm、濾過面の気孔率30〜90%、好ましくは40〜80%としている。
前記内圧濾過式または内圧循環式としている用いる場合は、外径1.3〜20mm、内径1〜10mm、濾過面の気孔率30〜90%、好ましくは40〜80%としている。
【0094】
また、前記中空糸膜2の抗張力を30N以上150N以下、IPAバブルポイントが50kPa以上400kPa以下としている。
【0095】
多数本の中空糸膜2を集束した集束体3を備えた分離膜モジュール62は、図8(B)に示すように、比較的高粘度の含油排水を流通させるため、該分離膜モジュールの断面積に対して中空糸膜の充填面積は20〜60%としている。
本実施形態では分離膜モジュール62は、中空糸膜2を束ねた集束体3の下端の封止材4および上端開口をあけて封止する固定材5(上端封止材)は直径100〜500mmの円形とし、隣接する中空糸膜2の間隔(中空糸膜の離間寸法)を汎用されている中空糸膜型分離膜モジュールの離間寸法は0.5mm〜5mmと広くし、含油排水の流路を確保している。
【0096】
前記下端の封止材4および上端開口をあけて封止する固定材5(上端封止材)、集束体3を収容する外筒6、上部キャップ7、下部キャップ9は、熱変形温度が120℃以上の耐熱性樹脂で形成している。
該耐熱性樹脂としては、芳香族アミン硬化系エポキシ樹脂、PFA、PEF、PVDE等を用いている。連結棒16はSUSとしている。前記外筒もSUS等の金属製としてもよい。
また、上下キャップ7、9と外筒6との間に介在するOリングはテフロン、バイトン、金属とテフロン併用型として、耐熱性を持たせている。
【0097】
前記中空糸膜モジュール62を備えた濾過装置63で、加温された含油排水を前記第1実施形態と同様に濾過処理し、該分離膜モジュール62を透過した処理液を、処理水中の非水溶性油分含有量を5mg/L以下、懸濁成分含有量0〜1mg/Lとしている。
また、中空糸膜モジュール62を第1実施形態と同様に洗浄処理している。
【0098】
前記した分離膜モジュール62は、停止時と稼働時との温度差が大きいヒートサイクルとなるため、中空糸膜2の離間距離を大きくしているため、上下封止材にクラックが発生しやすくなる。
よって、本実施形態の分離膜モジュール62は下記の方法で製造している。
【0099】
容器内に複数本の中空糸膜2を所定間隔をあけて配置する。其の際、前記のように、中空糸膜間の離間距離L1を0.5〜5mmとして比較的広くあける。
前記容器内に、前記熱変形温度が120℃以上の熱硬化性樹脂を充填し、50℃で予備加熱したあと、常温で少なくとも6時間保持して予備硬化する。
ついで、使用時の100℃の温度以上で且つ熱変形温度120℃以下の温度条件で1時間以上加熱する。
その後、少なくとも6時間以上かつ1℃/分の温度勾配をもって除冷する。
【0100】
前記のように、分離膜モジュールを製造することで、使用時に前記ヒートサイクルで使用してもクラックの発生を低減または防止でき、かつ、中空糸膜間の離間距離を広くしても封止材にクラックが入らないことを、本発明者は実験によって確認した。
【0101】
前記構成からなる加温含油排水処理装置では、中空糸膜を耐熱性を有するPEFEで形成しているため、軟化して孔径が変化することが防止でき、かつ、繰り返し負荷されるサーマルショックで破断やクラックが発生するのを防止できる。さらに、中空糸膜と上下の封止材との間や、該封止材自体にクラックが生じにくくすることができる。
さらに、従来用いられている処理装置と比較して軽量化および小型化でき、設置スペースをとらない。かつ、洗浄や膜状態の調査時に、分離膜モジュールを容易に取り出すことができる利点も有する。
【0102】
本発明は前記実施形態に限定されず、中空糸膜として、支持層と濾過層とからなる複層もしくは非対称の中空糸膜を用いても良いし、1つの均一な多孔質チューブからなる単層としてもよい。また、中空糸膜をU字状に屈曲し、上端の両側を開口して固定材で固定した集束体としてもよい。さらに、洗浄液はアルカリ洗浄液を用いて洗浄することが好ましいが、処理済み液を用いた逆洗浄だけとしてもよい。
本発明の要旨を越えない範囲の種々の形態が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に用いる被処理液としては、実施形態で述べた油田随伴水の処理用として好適に用いられるが、切削油剤等を含む工業排水の処理のほか、非水溶性油分を含む食品排水等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1、31、40、62 含油排水処理用の分離膜モジュール
20、30、60 含油排水処理装置
2、32、41 中空糸膜
3、33、42 集束体
6 外筒
8 導出用配管
10 導入用配管
12 循環用配管
21 含油排水貯留槽
22 洗浄液貯留槽
23 ポンプ
26 処理液貯留槽
OL 含油排水
AL アルカリ洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濁度あるいは/および高温の含油排水から非水溶性油分を分離する含油排水処理用の分離膜モジュールであって、
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PSF(ポリスルホン)およびPES(ポリエーテルスルホン)から選択される耐アルカリ性を備えた多孔質膜からなり、抗張力が30N以上である中空糸膜を用い、
前記中空糸膜の熱変形温度は100℃以上であり、
前記該中空糸膜の端末封止材は、熱変形温度が100℃以上の熱硬化性樹脂、または融点が使用温度の1.5倍以上である熱溶融性樹脂からなることを特徴とする含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項2】
前記濾過膜で濾過される前記含油排水は、20℃における粘度0.1〜5.0mPa・sの非水溶性油分を3mg/L〜2000mg/Lを含有する含油排水であり、前記濾過膜による濾過処理済み水の油分含有量を0.1mg/L〜10mg/Lとする請求項1に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項3】
前記濾過膜で濾過される前記含油排水は懸濁物質の濃度は、5〜10000mg/Lである請求項1または請求項2に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項4】
前記濾過膜で濾過される前記含油排水の温度は60〜200℃である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項5】
前記中空糸膜は、単層、または支持層と該支持層の少なくとも外側に積層する濾過層を備えた多孔質複層あるいは非対称濾過膜である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項6】
前記中空糸膜は前記抗張力が30N以上150N以下であり、IPAバブルポイントが50kPa以上400kPa以下である請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項7】
前記中空糸膜は多孔質延伸PTFEチューブに、多孔質延伸PTFEシート巻き付けた多孔質複層中空糸膜である請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項8】
前記中空糸膜の平均空孔径は0.01〜1μmである請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項9】
前記中空糸膜を複数本備えた集束体とし、該集束体を外筒内に収容しており、
前記中空糸膜は一端開口、他端閉鎖とし、前記外筒内に前記含油排水を導入する導入部と、前記中空糸膜の一端開口と連通した濾過済み処理液の導出部と、濾過されなかった非濾過液の排出部を前記外筒に連通して備えた外圧濾過式または外圧循環濾過式とし、
または、前記中空糸膜を両端開口とし、該中空糸膜の一端開口に前記含油排水を導入する導入部と、他端開口から濾過されなかった非濾過液を導出する排出部と、前記外筒内と連通した濾過済み処理液の導出部を備えた内圧濾過式または内圧循環濾過式とし、
または、前記中空糸膜を複数本備えた集束体とし、該集束体を前記含油排水の浸漬槽中に配置し、前記中空糸膜は一端開口、他端閉鎖とし、前記中空糸膜の一端開口と連通した濾過済み処理液の導出部を備えた浸漬濾過式としている請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項10】
前記外圧濾過式または外圧循環濾過式として用いる前記中空糸膜は、外径1〜5mm、内径0.5〜4mm、気孔率30〜90%であり、
前記内圧濾過式または内圧循環式としている用いる前記中空糸膜は、外径1.3〜20mm、内径1〜10mm、気孔率30〜90%である請求項9に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項11】
前記集束体における中空糸膜間の寸法平均値が0.5mm〜5mmである請求項9または請求項10に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項12】
前記集束体の断面積に対する前記中空糸膜の充填率が20%〜60%である請求項9乃至請求項11のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項13】
垂直方向に配置した中空糸膜の集束体の下部に、もしくは分離膜モジュールの外筒下部に接続される配管に対して散気用空気配管を配置し、かつ、前記処理済み液の導出部より中空糸膜の内部に処理済み液を逆洗浄液として加圧送液する逆洗浄手段を備えている請求項9乃至請求項12のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュール。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュールを用いた含油排水処理方法であって、
非水溶性油分含有量(n−ヘキサン値)が3〜2000mg/Lである含油排水を、前記中空糸膜のIPAバブルポイントが50kPa以上100kPa未満で膜間差圧50kPa以下、前記IPAバブルポイントが100kPa以上150kPa未満で膜間差圧100kPa以下、前記IPAバブルポイントが150kPa以上400kPa以下で膜間差圧200kPa以下の濾過条件とし、含油排水の非水溶性油分含油量が10mg/L以上2000mg/L以下の場合は濾過処理済み水の非水溶性油分含有量を5mg/L未満、含油排水の非水溶性油分含油量が3mg/L以上10mg/L未満の場合は濾過処理済み水の非水溶性油分含有量を1mg/L未満としている含油排水処理方法。
【請求項15】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュールを用いた含油排水処理方法であって、
含油排水の非水溶性油分含有量が3〜200mg/L、かつ、懸濁物質(SS)の濃度が100mg/L以下は、被処理液の全量を中空糸膜を通過させる外圧式の全濾過とし、 含油排水の非水溶性油分含有量が200mg/Lを超えて2000mg/L以下、または懸濁物質(SS)が100〜20000mg/Lは、被処理液を循環させる内圧循環式または外圧循環式で濾過していることを特徴とする含油排水処理方法。
【請求項16】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュールを用いた含油排水処理方法であって、
油田随伴水を前処理して非水溶性油分含有量(n−ヘキサン値)を低減した後の含油排水を前記分離膜モジュールで精密濾過している含油排水処理方法。
【請求項17】
前記前処理が加圧浮上処理、電気凝集・電気浮上処理であり、その処理後のn−ヘキサン値が10〜100mg/Lである請求項16に記載の含油排水処理方法。
【請求項18】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュールを用いた含油排水処理方法であって、
前記含油排水は、加温含油排水は油含有量が20〜2000mg/L、懸濁成分の含有量が100〜10000mg/L、60〜200℃で加温されており、該含油排水を前記分離膜モジュールで濾過処理して、処理水中の非水溶性油分含有量を5mg/L以下、懸濁成分含有量を0〜1mg/Lとしている含油排水処理方法。
【請求項19】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の含油排水処理用の分離膜モジュールを備えた濾過装置であって、
前記分離膜モジュールの中空糸膜の表面に付着した非水溶性油分除去用として、アルカリ性水溶液からなる洗浄液を前記中空糸膜の表面に送液する洗浄手段を備えている含油排水処理装置。
【請求項20】
含油排水貯留槽と、前記洗浄手段の洗浄液貯留槽と、前記含油排水貯留槽および洗浄液貯留槽と前記分離膜モジュールの導入部とを連通すると共にポンプを介設した導入用配管と、前記含油排水貯留槽および洗浄液貯留槽と前記分離膜モジュールの非処理液の排出部とを連通する循環用配管とを備え、
前記導入用配管の分岐管および循環用配管の分岐管を、それぞれ前記含油排水貯留槽と洗浄液貯留槽に連通している請求項19に記載の含油排水処理装置。
【請求項21】
前記導入用配管に介設した前記ポンプの吐出圧力は50〜300kPaとし、かつ、前記分岐管の分岐位置に切替弁を介設している請求項20に記載の含油排水処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−36183(P2010−36183A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100379(P2009−100379)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】