説明

含硫アミノ酸またはその塩の製造方法

【課題】含硫アミノ酸の新たな製造方法の提供。
【解決手段】遷移金属触媒の存在下、式(2)


(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)で示される含硫2−ケトカルボン酸またはその塩と、アンモニアおよび水素とを反応させる工程を有する式(1)


(式中、Rおよびnはそれぞれ上記で定義した通り。)で示される含硫アミノ酸またはその塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含硫アミノ酸またはその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチオニンやS−アルキルシステイン等の含硫アミノ酸は、全ての生物に普遍的に存在し、多くの重要な生物反応に有用な成分である。特に、メチオニンは必須アミノ酸であり、飼料添加剤としても用いられる重要な化合物である。
【0003】
含硫アミノ酸の製造方法として、例えば非特許文献1には、アクロレインにメタンチオールを付加させて得られる3−メチルチオプロピオンアルデヒドとシアン化水素とを反応させて2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリルを得、これを炭酸アンモニウムと反応させて置換ヒダントインに導いた後、置換ヒダントインをアルカリで加水分解する方法が記載されている。また、非特許文献2には、2−クロロアクリル酸メチルエステルにメタンチオールを付加させ、得られた付加体をアジ化ナトリウムと反応させた後、酸性条件下で水素添加する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】工業有機化学、東京化学同人、273〜275頁(1978年)
【非特許文献2】Chem.Ber.,第121巻,2209〜2223頁(1988年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載される方法は、取り扱いに注意を要するシアン化水素を原料として用いる必要がある。非特許文献2に記載される方法も、取り扱いに注意を要するアジ化ナトリウムを原料として用いる必要がある。
かかる状況下、取り扱いに注意を要するシアン化水素やアジ化ナトリウム等を原料として用いることのない含硫アミノ酸の新たな製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討し、本発明に至った。
【0007】
即ち本発明は、以下の通りである。
〔1〕 遷移金属触媒の存在下、式(2)
【0008】
【化1】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)で示される含硫2−ケトカルボン酸またはその塩と、アンモニアおよび水素と
を反応させる工程を有する式(1)
【0009】
【化2】

(式中、Rおよびnはそれぞれ上記で定義した通り。)
で示される含硫アミノ酸またはその塩の製造方法。
〔2〕 前記工程において、さらに溶媒の存在下に前記式(2)で示される含硫2−ケトカルボン酸またはその塩と、アンモニアおよび水素とを反応させる前記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕 溶媒がメタノールまたは水である前記〔2〕記載の製造方法。
〔4〕 遷移金属触媒が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびイリジウムからなる群より選ばれる一種以上を担体に担持させた触媒である前記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の製造方法。
〔5〕 担体が、活性炭、アルミナ、シリカおよびゼオライトからなる群より選ばれる一種以上である前記〔4〕記載の製造方法。
〔6〕 遷移金属触媒が、スポンジニッケル触媒、スポンジコバルト触媒およびスポンジ銅触媒からなる群より選ばれる一種以上である前記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の製造方法。
〔7〕 前記工程において、前記式(2)で示される含硫2−ケトカルボン酸またはその塩と、アンモニアおよび水素とを、0〜100℃の範囲から選ばれる温度で反応させる前記〔1〕〜〔6〕のいずれか記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、取り扱いに注意を要するシアン化水素やアジ化ナトリウム等を原料として用いることのない含硫アミノ酸の新たな製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、式(2)で示される含硫2−ケトカルボン酸またはその塩、および式(1)で示される含硫アミノ酸またはその塩について説明する。
【0012】
式(2)で示される含硫2−ケトカルボン酸の塩は、式(2)において−COOHで表される基から解離し得るHが任意の陽イオンに置き換わってなる塩を意味する。かかる陽イオンとしては、例えばリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンの4級アンモニウムイオン;およびアンモニウムイオンが挙げられる。
以下、式(2)で示される含硫2−ケトカルボン酸と、式(2)で示される含硫2−ケトカルボン酸の塩とを総称して、化合物(2)と記載することがある。
【0013】
式(1)で示される含硫アミノ酸の塩は、式(1)で示される含硫アミノ酸と、塩酸、安息香酸、酒石酸等の任意の酸との塩、または式(1)において−COOHで表される基から解離し得るHが任意の陽イオンに置き換わってなる塩を意味する。かかる陽イオンとしては、例えばリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンの4級アンモニウムイオン;およびアンモニウムイオンが挙げられる。
以下、式(1)で示される含硫アミノ酸と、式(1)で示される含硫アミノ酸の塩とを総称して、化合物(1)と記載することがある。
【0014】
式(2)および式(1)において、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、nは1〜4の整数を表す。
【0015】
式(2)および式(1)において、Rで表される置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基における、炭素数1〜12のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、オクチル基およびデシル基が挙げられ、置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基における、炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基が挙げられる。
【0016】
炭素数1〜12のアルキル基が有していてもよい置換基および炭素数3〜12のシクロアルキル基が有していてもよい置換基としては、例えば、
フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基等の炭素数6〜20のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基;フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基等の炭素数6〜20のアリールオキシ基;トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基等の炭素数1〜6のペルフルオロアルキルオキシ基;およびフッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも一種の基が挙げられる。
ここで、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基および炭素数6〜20のアリールオキシ基は、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基および炭素数6〜20のアリールオキシ基からなる群から選ばれる基をさらに有していても良い。
【0017】
で表される置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基およびRで表される置換基を有する炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、具体的には例えば、ベンジル基、ナフタレン−1−イルメチル基、ナフタレン−2−イルメチル基、4−メチルベンジル基、3,4−ジメチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、3,4−ジメトキシベンジル基、4−フェニルベンジル基、4−フェノキシベンジル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、イソプロピルオキシメチル基、ブチルオキシメチル基、イソブチルオキシメチル基、sec−ブチルオキシメチル基、tert−ブチルオキシメチル、フェノキシメチル基、2−メチルフェノキシメチル基、4−メチルフェノキシメチル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−(ナフタレン−1−イル)エチル基、1−(ナフタレン−2−イル)エチル基、1−(4−メチルフェニル)エチル基、1−(3,4−ジメチルフェニル)エチル基、1−(4−メトキシフェニル)エチル基、1−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル基、1−(4−フェニルフェニル)エチル基、1−(4−フェノキシフェニル)エチル基、2−(メトキシ)エチル基、2−(エトキシ)エチル基、2−(イソプロピルオキシ)エチル基、2−(ブチルオキシ)エチル基、2−(イソブチルオキシ)エチル基、2−(sec−ブチルオキシ)エチル基、2−(tert−ブチルオキシ)エチル、2−(フェノキシ)エチル基、2−(2−メチルフェノキシ)エチル基、2−(4−メチルフェノキシ)エチル基、2−フェニルシクロプロピル基および4−フェニルシクロヘキシル基が挙げられる。
【0018】
は、好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基またはベンジル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0019】
化合物(2)としては、具体的には例えば、3−メチルチオ−2−オキソプロピオン酸、3−tert−ブチルチオ−2−オキソプロピオン酸、3−ベンジルチオ−2−オキソプロピオン酸、3−エチルチオ−2−オキソプロピオン酸、4−メチルチオ−2−オキソ酪酸、4−エチルチオ−2−オキソ酪酸、2−オキソ−4−プロピルチオ酪酸、4−ベンジルチオ−2−オキソ酪酸、5−メチルチオ−2−オキソペンタン酸、5−(エチルチオ)−2−オキソペンタン酸、2−オキソ−5−(プロピルチオ)ペンタン酸、5−(ベンジルチオ)−2−オキソペンタン酸、6−メチルチオ−2−オキソヘキサン酸、6−(エチルチオ)−2−オキソヘキサン酸、2−オキソ−6−(プロピルチオ)ヘキサン酸、6−(ベンジルチオ)−2−オキソヘキサン酸およびそれらの塩が挙げられる。
化合物(2)は、市販品でもよいし、例えば「Bull.Agr.Chem.Soc.Japan,第21巻,第6号,333〜336頁(1957年)」、「Jounal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals,第XXXVI巻,第5号,431〜437頁(1995年)」に記載される方法に準じて製造することもできる。
【0020】
化合物(1)としては、具体的には例えば、2−アミノ−3−(メチルチオ)プロピオン酸、2−アミノ−3−(tert−ブチルチオ)プロピオン酸、2−アミノ−3−(ベンジルチオ)プロピオン酸、2−アミノ−3−(エチルチオ)プロピオン酸、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸(即ち、メチオニン)、2−アミノ−4−(エチルチオ)酪酸、2−アミノ−4−(プロピルチオ)酪酸、2−アミノ−4−(ベンジルチオ)酪酸、2−アミノ−5−(メチルチオ)ペンタン酸、2−アミノ−5−(エチルチオ)ペンタン酸、2−アミノ−5−(プロピルチオ)ペンタン酸、2−アミノ−5−(ベンジルチオ)ペンタン酸、2−アミノ−6−(メチルチオ)ヘキサン酸、2−アミノ−6−(エチルチオ)ヘキサン酸、2−アミノ−6−(プロピルチオ)ヘキサン酸、2−アミノ−6−(ベンジルチオ)ヘキサン酸およびそれらの塩が挙げられる。
【0021】
次いで、遷移金属触媒の存在下、化合物(2)と、アンモニアおよび水素とを反応させる工程を説明する。かかる工程において、化合物(2)は化合物(1)に変換される。
【0022】
遷移金属触媒は、例えば還元ニッケル触媒、スポンジニッケル触媒(ラネー(登録商標)ニッケル)等のニッケル触媒;還元コバルト触媒、スポンジコバルト触媒(ラネー(登録商標)コバルト)等のコバルト触媒;スポンジ銅触媒((ラネー(登録商標)銅))等の銅触媒;並びにルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびイリジウム等の貴金属触媒が挙げられる。なお、還元ニッケル触媒、還元コバルト触媒等の還元金属触媒は、金属酸化物又は金属水酸化物を還元することにより調製される触媒、或いは担体に担持された金属酸化物又は担体に担持された金属水酸化物を還元することにより調製される触媒である。また、スポンジニッケル触媒、スポンジコバルト触媒、スポンジ銅触媒等のスポンジ金属触媒は、ニッケルとアルミニウムとの合金、コバルトとアルミニウムとの合金、銅とアルミニウムとの合金に水酸化ナトリウム水溶液を作用させてアルミニウムを溶解して調製される触媒である。
遷移金属触媒は、好ましくは、スポンジ金属触媒または貴金属触媒であり、より好ましくは、スポンジニッケル触媒、スポンジコバルト触媒およびスポンジ銅触媒からなる群より選ばれる一種以上の触媒、或いは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびイリジウムからなる群より選ばれる一種以上を担体に担持させた触媒である。担体としては、例えば活性炭、アルミナ、シリカおよびゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。なかでも、遷移金属触媒は、活性炭に担持されたパラジウムまたは活性炭に担持されたロジウムであることが好ましい。
【0023】
遷移金属触媒は市販品でもよいし、任意の公知の方法により調製されたものでもよい。
遷移金属触媒の使用量は、化合物(2)1重量部に対して、遷移金属原子が好ましくは2重量部以下であり、より好ましくは0.0001〜0.2重量部含まれる範囲の量であり、さらに好ましくは0.001〜0.1重量部含まれる範囲内の量である。
【0024】
アンモニアとしては、液体アンモニア、アンモニアガスまたはアンモニア溶液のいずれの形態でも用いることができるが、好ましくはアンモニア溶液であり、より好ましくアンモニア水またはアンモニア−メタノール溶液が用いられる。アンモニア水を用いる場合、その濃度は10〜35重量%であることが好ましい。また、アンモニアは、例えば塩酸、硫酸等の無機酸、またはギ酸、酢酸等のカルボン酸と塩を形成していてもよい。
アンモニアの使用量は、化合物(2)1モルに対して、1モル以上であることが好ましい。アンモニアの使用量の上限は限定されず、化合物(2)1モルに対して、例えば500モルである。
【0025】
水素は、市販の水素ガスを用いることもできるし、例えばギ酸またはその塩から、任意の公知の方法により発生させて用いることもできる。水素ガスを用いる場合、その分圧は、好ましくは10MPa以下であり、より好ましくは0.01〜5MPaの範囲内であり、さらに好ましくは0.02〜2MPaの範囲内であり、より一層好ましくは0.05〜0.8MPaの範囲内である。
【0026】
化合物(2)と、アンモニアおよび水素との反応は、好ましくは溶媒の存在下で行われる。かかる溶媒は、反応に対して不活性なものであることが好ましく、例えば、ペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、イソノナン、デカン、イソデカン、ウンデカン、ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、イソペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、イソヘキシルアルコール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、イソペプチルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノtert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert−ブチルエーテル等のアルコール溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル等のエステル溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリジノン等の非プロトン性極性溶媒;水;それらの混合物が挙げられる。なかでも、好ましくはアルコール溶媒または水であり、より好ましくはメタノールまたは水である。溶媒の使用量は、化合物(2)1gに対して、好ましくは1〜200mLの範囲内であり、より好ましくは10〜150mLの範囲内である。
【0027】
反応試剤の混合順序は特に規定されず、例えば、化合物(2)とアンモニアと遷移金属触媒とを混合し、得られた混合物に水素を加える方法や、化合物(2)とギ酸アンモニウムとを混合し、必要に応じてギ酸を添加して任意のpHに調整した後、得られた混合物に遷移金属触媒を加える方法が挙げられる。
【0028】
反応温度は、好ましくは0〜100℃の範囲から選ばれ、より好ましくは20〜90℃の範囲から選ばれる。反応時間は、反応温度、反応試剤や溶媒の使用量、水素分圧等にもよるが、例えば1〜24時間の範囲内である。反応の進行度合いは、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の分析手段により確認できる。
【0029】
反応終了後、得られる反応混合物を、必要に応じて温度調整した後、例えば、濾過、中和、抽出、水洗等の後処理、蒸留、結晶化及び固液分離等の単離処理に供することにより、化合物(1)を取り出すことができる。具体的には、例えば、得られる反応混合物を、室温付近等に温度調整した後又は温度調整することなく、ろ過することにより遷移金属触媒を除去した後、得られたろ過液を中和することにより化合物(1)を析出させ、析出した化合物(1)をろ過等により回収することができる。中和は、例えば、得られる反応混合物が塩基性を示す場合には、反応混合物と塩酸、炭酸等の酸とを混合することにより行われ、得られる反応混合物が酸性を示す場合には、反応混合物と炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の塩基とを混合することにより行われる。ろ過により除去した遷移金属触媒やろ過等により回収した化合物(1)は、上述の溶媒で洗浄することもできる。また、回収した化合物(1)は、減圧乾燥等により乾燥することもできる。反応混合物にアンモニアが含まれる場合には、例えば、反応混合物中に窒素ガスを吹き込むことにより、アンモニアを反応混合物から取り除くことができる。
単離された化合物(1)は、再結晶;抽出精製;蒸留;活性炭、シリカ、アルミナ等への吸着処理;シリカゲルカラムクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法等の精製処理により、精製することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
実施例1〜11において、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)を用いて下記分析条件により反応混合物を分析し、下式に基づいて転化率および選択率を算出した。また、実施例12において、別途調製した2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸を内部標準物質として使用し、高速液体クロマトグラフィー内部標準法により、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の含量を決定した。
<分析条件>
LCカラム :Lichrosorb−RP−8
カラム温度 :40℃
移動相 :アセトニトリル/水=5/95
添加剤 1−ペンタンスルホン酸ナトリウム
添加剤濃度 2.5mmol/L
移動相のpH 3(40%リン酸を添加して調整)
流速 :1.5mL/分
検出波長 :210nm
測定時間 :60分
<転化率の算出>
転化率(%)=100(%)−(化合物(2)のピーク面積(%))
<選択率の算出>
選択率(%)=(化合物(1)のピーク面積)/(全生成物のピーク面積)X100
【0031】
<実施例1>
内容量60mLのオートクレーブに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウム50mg、7mol/L アンモニア−メタノール溶液12.6mLおよび5重量%Pd/C(和光純薬工業株式会社製)32mgを入れ、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに水素を圧入して0.5MPaG(ゲージ圧)、即ち水素ガスの分圧を0.5MPaとした後、50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は99%以上であり、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は90%であった。
【0032】
<実施例2>
内容量60mLのオートクレーブに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウム50mg、7mol/L アンモニア−メタノール溶液12.6mLおよび5重量%Pd/C(和光純薬工業株式会社製)32mgを入れ、得られた混合物を攪拌した。混合物を、水素雰囲気(常圧)下、50℃で6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は99%以上であり、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は83%であった。
【0033】
<実施例3>
内容量60mLのオートクレーブに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウム50mg、28重量%アンモニア水5.4gおよび5重量%Pd/C(和光純薬工業株式会社製)32mgを入れ、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに水素を圧入して1.0MPaG(ゲージ圧)、即ち水素ガスの分圧を1.0MPaとした後、50℃まで昇温し、50℃で6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は99%以上であり、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は34%であった。
【0034】
<実施例4>
内容量60mLのオートクレーブに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸44mg、28重量%アンモニア水5.4gおよび5重量%Pd/C(和光純薬工業株式会社製)32mgを入れ、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに水素を圧入して0.5MPaG(ゲージ圧)、即ち水素ガスの分圧を0.5MPaとした後、50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸の転化率は99%以上であり、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は70%であった。
【0035】
<実施例5>
10mLフラスコに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウム50mg、ギ酸アンモニウム370mgおよび水5.0gを加え、得られた混合物にギ酸を添加することによりpH5.0に調整した。この混合物に5重量%Rh/C(和光純薬工業株式会社製)60.5mgを加えた後、80℃まで昇温し、同温度で15時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は84%であり、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は42%であった。
【0036】
<実施例6>
内容量50mLのオートクレーブに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウム51mgおよび28重量%アンモニア水5.4gを入れ、得られた混合物を攪拌後、この混合物にラネー(登録商標)ニッケル(デグサ社製)51mg(湿重量)を加えた。オートクレーブに水素を圧入して0.5MPaG(ゲージ圧)、即ち水素ガスの分圧を0.5MPaとした後、50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は94%であり、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は10%であった。
【0037】
<実施例7>
内容量50mLのオートクレーブに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウム51mgおよび28重量%アンモニア水5.4gを入れ、得られた混合物を攪拌後、この混合物にラネー(登録商標)コバルト(アルドリッチ社製)51mg(湿重量)を加えた。オートクレーブに水素を圧入して0.5MPaG(ゲージ圧)、即ち水素ガスの分圧を0.5MPaとした後、50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は96%であり、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は27%であった。
【0038】
<実施例8>
内容量50mLのオートクレーブに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウム51mgおよび28重量%アンモニア水5.4gを入れ、得られた混合物を攪拌後、この混合物にラネー(登録商標)銅(ストレムケミカル社製)51mg(湿重量)を加えた。オートクレーブに水素を圧入して0.5MPaG(ゲージ圧)、即ち水素ガスの分圧を0.5MPaとした後、50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は93%であり、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は9.5%であった。
【0039】
<実施例9>
内容量60mLのオートクレーブに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウム50mgおよび7mol/L アンモニア−メタノール溶液12.6mLを入れ、得られた混合物を攪拌後、この混合物にラネー(登録商標)ニッケル(デグサ社製)51mg(湿重量)を加えた。オートクレーブに水素を圧入して0.5MPaG(ゲージ圧)、即ち水素ガスの分圧を0.5MPaとした後、50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は95%であり、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は50%であった。
【0040】
<実施例10>
内容量60mLのオートクレーブに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウム50mgおよび7mol/L アンモニア−メタノール溶液12.6mLを入れ、得られた混合物を攪拌後、この混合物にラネー(登録商標)コバルト(アルドリッチ社製)51mg(湿重量)を加えた。オートクレーブに水素を圧入して0.5MPaG(ゲージ圧)、即ち水素ガスの分圧を0.5MPaとした後、50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は91%であり、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は52%であった。
【0041】
<実施例11>
内容量60mLのオートクレーブに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウム50mgおよび7mol/L アンモニア−メタノール溶液12.6mLを入れ、得られた混合物を攪拌後、この混合物にラネー(登録商標)銅(ストレムケミカル社製)51mg(湿重量)を加えた。オートクレーブに水素を圧入して0.5MPaG(ゲージ圧)、即ち水素ガスの分圧を0.5MPaとした後、50℃まで昇温し、6時間攪拌した。得られた反応混合物の一部を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸ナトリウムの転化率は82%であり、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の選択率は13%であった。
【0042】
<実施例12>
内容量60mLのオートクレーブに、4−(メチルチオ)−2−オキソ酪酸カリウム水溶液(2.116g、含量14.5%)、28重量%アンモニア水1.58gおよび5重量%Pd/C(和光純薬工業株式会社製)95mgを入れ、得られた混合物を攪拌した。オートクレーブに水素を圧入して0.5MPaG(ゲージ圧)、即ち水素ガスの分圧を0.5MPaとした後、40℃まで昇温し、13時間攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、オートクレーブ内の圧力を開放して常圧とした後にろ過し、ろ過により除去された固形物を水で洗浄した。ろ過液および洗浄液を混合して得られた溶液7.921g中の2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸含量を高速液体クロマトグラフィー内部標準法により分析し、2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸の生成率を求めたところ、72.9%であった。
次いで、得られた前記溶液に炭素ガス(COガス)を30分間吹き込むことで、固体を析出させた。析出させた固体をろ過することにより回収し、回収したろ物を水0.5gで洗浄し、減圧乾燥することで2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸(即ち、メチオニン)0.121g(含量96%、収率68%)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、メチオニン等の含硫アミノ酸またはその塩の製造方法として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属触媒の存在下、式(2)
【化1】

(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数3〜12のシクロアルキル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)で示される含硫2−ケトカルボン酸またはその塩と、アンモニアおよび水素と
を反応させる工程を有する式(1)
【化2】

(式中、Rおよびnはそれぞれ上記で定義した通り。)
で示される含硫アミノ酸またはその塩の製造方法。
【請求項2】
前記工程において、さらに溶媒の存在下に前記式(2)で示される含硫2−ケトカルボン酸またはその塩と、アンモニアおよび水素とを反応させる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
溶媒がメタノールまたは水である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
遷移金属触媒が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびイリジウムからなる群より選ばれる一種以上を担体に担持させた触媒である請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
担体が、活性炭、アルミナ、シリカおよびゼオライトからなる群より選ばれる一種以上である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
遷移金属触媒が、スポンジニッケル触媒、スポンジコバルト触媒およびスポンジ銅触媒からなる群より選ばれる一種以上である請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程において、前記式(2)で示される含硫2−ケトカルボン酸またはその塩と、アンモニアおよび水素とを、0〜100℃の範囲から選ばれる温度で反応させる請求項1〜6のいずれか記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−106975(P2012−106975A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60299(P2011−60299)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】