説明

吸水により立体的に構造変化する多層構造体および繊維製品

【課題】2以上のシート状物が貼り合わさるか縫い合わされてなる多層構造体であって、吸水により構造体表面に凹凸が発現したり、厚みが増加したり、あるいは通気性が向上することにより、ベトツキ感、ムレ感、冷え感を低減することが可能な、吸水により立体的に構造変化する多層構造体および繊維製品を提供する。
【解決手段】織編物、不織布、およびフィルムから選択されるいずれかのシート状物が2以上貼り合わされか縫い合わされてなる多層構造体であって、該多層構造体に、吸水時に乾燥時よりも面積が10%以上大きくなるか、および/または厚みが10%以上大きくなる吸水変化層と、吸水時の乾燥時に対する面積変化率および厚み変化率が3%以下である非吸水変化層が含まれることを特徴とする吸水により立体的に構造変化する多層構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上のシート状物が貼り合わされるか縫い合わされてなる多層構造体であって、吸水により構造体表面に凹凸が発現したり、厚みが増加したり、あるいは通気性が向上することにより、ベトツキ感、ムレ感、冷え感を低減することが可能な、吸水により立体的に構造変化する多層構造体および繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維や天然繊維などからなる織編物を、スポーツウエアーやインナーウエアーなどの衣服として用いると、肌からの発汗によりムレやベトツキが発生するという問題があった。
【0003】
このような発汗によって生じるムレやベトツキを解消する方法として、発汗時に織編物の通気性が向上することにより衣服内に滞留する水分を効果的に放出させ、一方、発汗が停止すると、織編物の通気性が低下することにより水分の過剰な放散による寒気を抑制し、常に着心地を快適に保つことができる通気性自己調節織編物が提案されている。例えば、ポリエステルとポリアミドの異質ポリマーを貼り合せたサイドバイサイド型複合繊維を用いたもの(例えば、特許文献1参照)、吸湿性ポリマーからなり加撚された合成繊維マルチフィラメント糸条を用いたもの(例えば、特許文献2参照)、アセテート繊維を用いたもの(例えば、特許文献3参照)などが知られている。また、本発明者らは、先に特願2004−003986号において、吸水自己伸張糸を用いた通気性自己調節織編物を提案した。
【0004】
しかしながら、これらの通気性自己調節織編物は、吸水により通気性が向上するものの、寸法変化も起こるため、かかる織編物からなる繊維製品を着用すると、乾燥時と吸水時とでサイズが変わるという問題があった。
【0005】
他方、2以上のシート状物が貼り合わされた多層構造体は、ボンデッドファブリックとも称され、広く知られている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、吸水により立体的に構造変化する多層構造体は、これまであまり提案されていない。
なお、特許文献5には、吸水により構造体表面に凹凸が発現する単層の織編物が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−41462号公報
【特許文献2】特開平10−77544号公報
【特許文献3】特開2002−180323号公報
【特許文献4】特開2004−169262号公報
【特許文献5】特開2005−36374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、2以上のシート状物が貼り合わされるか縫い合わされてなる多層構造体であって、吸水により構造体表面に凹凸が発現したり、厚みが増加したり、あるいは通気性が向上することにより、ベトツキ感、ムレ感、冷え感を低減することが可能な、吸水により立体的に構造変化する多層構造体および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、吸水時に面積および/または厚みが大きくなるシート状物と、吸水時に面積や厚みがほとんど変化しないシート状物とを貼り合わせるか縫い合わせることにより、吸水により立体的に構造変化する所望の多層構造体が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば「織編物、不織布、およびフィルムから選択されるいずれかのシート状物が2以上貼り合わされか縫い合わされてなる多層構造体であって、該多層構造体に、吸水時に乾燥時よりも面積が10%以上大きくなるか、および/または厚みが10%以上大きくなる吸水変化層と、吸水時の乾燥時に対する面積変化率および厚み変化率が3%以下である非吸水変化層が含まれることを特徴とする吸水により立体的に構造変化する多層構造体。」が提供される。
【0010】
ただし、乾燥時とは、温度20℃、湿度65%RHの環境下に試料を24時間放置した直後の状態であり、一方吸水時とは、乾燥後の試料表面に霧吹きにより水を噴霧し、乾燥時の試料重量に対して含水率70重量%となるまで水を付与した直後の状態である。
【0011】
その際、多層構造体が、吸水変化層と非吸水変化層とが貼り合わされか縫い合わされてなる2層構造体であって、前記非吸水変化層がメッシュ状のシート状物からなることが好ましい。また、多層構造体が、吸水変化層と非吸水変化層とが貼り合わされか縫い合わされてなる2層構造体であって、前記吸水変化層と非吸水変化層とが接着もしくは縫着された部分と、接着も縫着もされていない部分を有することが好ましい。さらに、多層構造体が、中間層が吸水変化層であり、表裏の層が非吸水変化層である3層構造体であって、前記吸水変化層と非吸水変化層とが接着もしくは縫着された部分と接着も縫着もされていない部分を有することが好ましい。
【0012】
本発明の多層構造体において、前記吸水変化層が、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる織編物であって、乾燥時における該織編物中の吸水自己伸張糸の糸長を(A)、他方、非自己伸張糸の糸長を(B)とするとき、A/Bが0.9以下であることが好ましい。
【0013】
その際、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる織編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、丸編組織の複合ループを形成していることが好ましい。また、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、引き揃えられて織組織の経糸および/または緯糸を構成していることが好ましい。また、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、各々織編物の構成糸条として、1本交互にまたは複数本交互に配列していることが好ましい。さらに、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、複合糸として織編物中に含まれることが好ましい。なお、吸水自己伸張糸としては、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維であることが好ましい。一方、非自己伸張糸としては、ポリエステル繊維であることが好ましい。
【0014】
本発明の多層構造体において、前記吸水変化層が、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型に接合され、かつ潜在捲縮性能が発現してなる捲縮を有する複合繊維を含む織編物であってもよい。
本発明の多層構造体において、前記非吸水変化層が、ポリエステル繊維からなる織編物であることが好ましい。
【0015】
本発明の多層構造体において、吸水時の通気性が乾燥時よりも10%以上大きくなることが好ましい。また、吸水時の厚みが乾燥時よりも10%以上大きくなることが好ましい。さらに、非接着部もしくは非縫着部が文字または幾何学模様となっており、吸水時に文字または幾何学模様が立体的に浮かび上がることが好ましい。
【0016】
また、本発明によれば、前記の多層構造体を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、靴材、おしめや介護用シーツ等の医療・衛生用品、寝装寝具、椅子やソファー等の表皮材、カーペット、カーシート地、インテリア用品からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、2以上のシート状物が貼り合わされか縫い合わされてなる多層構造体であって、吸水により構造体表面に凹凸が発現したり、厚みが増加したり、あるいは通気性が向上することにより、ベトツキ感、ムレ感、冷え感を低減することが可能な、吸水により立体的に構造変化する多層構造体および繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の多層構造体は、織編物、不織布、およびフィルムから選択されるいずれかのシート状物が2以上(好ましくは2〜5、特に好ましくは2〜3)貼り合わされか縫い合わされてなる多層構造体である。そして、該多層構造体に、吸水時に乾燥時よりも面積が10%以上大きくなるか、および/または厚みが10%以上大きくなる吸水変化層と、吸水時の乾燥時に対する面積変化率および厚み変化率が3%以下の非吸水変化層が含まれる。層数は特に限定されないが、2〜5層が好ましく、立体構造変化を得る上で2〜3層が特に好ましい。
【0019】
ただし、乾燥時とは、温度20℃、湿度65%RHの環境下に試料を24時間放置した直後の状態であり、一方吸水時とは、乾燥後の試料表面に霧吹きにより水を噴霧し、乾燥時の試料重量に対して含水率70重量%となるまで水を付与した直後の状態である。好ましい態様としては、下記の態様1〜3があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
まず態様1としては、図1に模式的に示すように、メッシュ状の織編物または不織布からなる非吸水変化層と、フラットな吸水変化層とが貼り合わされか縫い合わされてなる多層構造体があげられる。かかる多層構造体において、吸水時には、吸水変化層が当該開口部から厚み方向に凸部となり立体的に構造変化する。また、乾燥時には、元のフラットな状態に戻る。
【0021】
次に態様2としては、図2に模式的に示すように、フラットな吸水変化層とフラットな非吸水変化層とが、互いに接着もしくは縫着した部分と接着も縫着もしていない部分を有して貼り合わされか縫い合わされてなる多層構造体があげられる。かかる多層構造体において、接着していない部分の吸水変化層が厚み方向に凸部となって立体的に構造変化する。かかる接着していない部分の形状を、幾何学模様、絵、文字などにしておくと、吸水時に柄が浮かび上がり、乾燥時に元のフラットな状態に戻る。
【0022】
次に態様3としては、図3に模式的に示すように、フラットな吸水変化層が3層構造中の中間層を形成し、一方フラットな非吸水変化層が表裏の2層を形成し、吸水変化層と非吸水変化層とが、互いに接着もしくは縫着した部分と、接着も縫着もしていない部分を有して貼り合わされか縫い合わされてなる多層構造体があげられる。かかる多層構造体において、接着も縫着もしていない部分の吸水変化層が厚み方向に凸部となり、その結果、非吸水変化層である表層および/または裏層も前記中間層によりおしあげられ、立体的に構造変化する。
【0023】
前記の吸水変化層としては、吸水時に乾燥時よりも面積が10%以上(好ましくは20〜40%)大きくなるか、および/または厚みが10%以上(好ましくは20%以上、特に好ましくは30〜200%)大きくなるシート状物であれば、特に限定されない。すなわち、吸水時に乾燥時よりも面積が10%以上大きくなるか、厚みが10%以上大きくなるか、少なくともどちらかの要件を満足する必要がある。特に、吸水時に乾燥時よりも面積が10%以上大きくなることが好ましい。吸水時に乾燥時よりも面積が10%以上大きくなるシート状物としては、下記の吸水変化シート状物1または吸水変化シート状物2が好適である。
【0024】
すなわち、吸水変化シート状物1は、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる織編物であって、乾燥時における該織編物中の吸水自己伸張糸の糸長を(A)、他方、非自己伸張糸の糸長を(B)とするとき、A/Bが0.9以下(好ましくは0.9〜0.2、特に好ましくは0.8〜0.3)である織編物である。
【0025】
ここで、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸は以下に定義する糸である。すなわち、枠周:1.125mの巻き返し枠を用いて荷重:0.88mN/dtex(0.1g/de)をかけて一定の速度で巻き返し、巻き数:10回のかせを作り、かせ取りした糸を温度20℃、湿度65RH%の環境下に24時間放置し、これに非弾性糸の場合は1.76mN/dtex(200mg/de)、弾性糸の場合は0.0088mN/dtex(1mg/de)の荷重をかけて測定した糸長(mm)を乾燥時の糸長とする。該糸を水温20℃の水中に5分間浸漬した後に水中より引き上げ、該糸に乾燥時と同様に非弾性糸の場合は1.76mN/dtex(200mg/de)、弾性糸の場合は0.0088mN/dtex(1mg/de)の荷重をかけて測定した糸長(mm)を湿潤時の糸長とする。なお、前記非弾性糸とは破断伸度が200%以下の糸であり、前記弾性糸とは破断伸度が200%より高い糸である。そして、下記式で求められる繊維軸方向の膨潤率が5%以上のものを吸水自己伸張糸と定義する。他方、該膨潤率が5%未満のものを非自己伸張糸と定義する。
膨潤率(%)=((湿潤時の糸長)−(乾燥時の糸長))/(乾燥時の糸長)×100
ここで、吸水自己伸張糸としては、前記の膨潤率を有するものであれば特に限定されないが、6%以上(より好ましくは8〜30%)の膨潤率を有するものであることが好ましい。
【0026】
かかる吸水自己伸張糸としては、例えば、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維や、ポリアクリル酸金属塩、ポリアクリル酸およびその共重合体、ポリメタアクリル酸およびその共重合体、ポリビニルアルコールおよびその共重合体、ポリアクリルアミドおよびその共重合体、ポリオキシエチレン系ポリマーなどを配合したポリエステル繊維、5−スルホイソフタル酸成分を共重合したポリエステル繊維などが例示される。なかでも、かかる吸水自己伸張弾性繊維として、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維が好適に例示される。
【0027】
上記ポリブチレンテレフタレートは、ブチレンテレフタレート単位を少なくとも70モル%以上含有することが好ましい。ブチレンテレフタレートの含有率は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。酸成分は、テレフタル酸が主成分であるが、少量の他のジカルボン酸成分を共重合してもよく、またグリコール成分は、テトラメチレングリコールを主成分とするが、他のグリコール成分を共重合成分として加えてもよい。
【0028】
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、例えばナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1、4−シクロヘキサンジカルボン酸のような芳香族、脂肪族のジカルボン酸成分を挙げることができる。さらに、本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で、トリメリット酸、ピロメリット酸のような三官能性以上のポリカルボン酸を共重合成分として用いても良い。
【0029】
また、テトラメチレングリコール以外のジオール成分としては、例えばトリメチレングリコール、エチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコールのような脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物を挙げることができる。更に、本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのような三官能性以上のポリオールを共重合成分として用いてもよい。
【0030】
一方、ポリオキシエチレングリコールは、オキシエチレングリコール単位を少なくとも70モル%以上含有することが好ましい。オキシエチレングリコールの含有量は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で、オキシエチレングリコール以外にプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリンなどを共重合させても良い。
かかるポリオキシエチレングリコールの数平均分子量としては、400〜8000が好ましく、なかでも1000〜6000が特に好ましい。
【0031】
前記のポリエーテルエステルエラストマーは、たとえば、テレフタル酸ジメチル、テトラメチレングリコールおよびポリオキシエチレングリコールとを含む原料を、エステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させ、ビス(ω−ヒドロキシブチル)テレフタレート及び/又はオリゴマーを形成させ、その後、重縮合触媒及び安定剤の存在下で高温減圧下にて溶融重縮合を行うことにより得ることができる。
【0032】
ハードセグメント/ソフトセグメントの比率は、重量を基準として30/70〜70/30であることが好ましい。
かかるポリエーテルエステル中には、公知の有機スルホン酸金属塩が含まれていると、さらに優れた吸水自己伸張性能が得られ好ましい。
【0033】
ポリエーテルエステル繊維は、前記ポリエーテルエステルを、通常の溶融紡糸口金から溶融して押し出し、引取速度300〜1200m/分(好ましくは400〜980m/分)で引取り、巻取ドラフト率をさらに該引取速度の1.0〜1.2(好ましくは1.0〜1.1)で巻取ることにより製造することができる。
【0034】
他方、非自己伸張糸としては、木綿、麻などの天然繊維やレーヨン、アセテートなどのセルロース系化学繊維、さらにはポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレートに代表されるポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル、ポリプロピレンなどの合成繊維が例示される。なかでも、通常のポリエステル繊維が好ましく例示される。
【0035】
前記吸水自己伸張糸及び非自己伸張糸の繊維形態は特に限定されず、短繊維でもよいし長繊維でもよい。繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状が採用できる。吸水自己伸張糸及び非自己伸張糸の総繊度、単糸繊度、フィラメント数も特に限定されないが、風合いや生産性の点で総繊度30〜300dtex、単糸繊度0.6〜10dtex、フィラメント数1〜300本の範囲が好ましい。
【0036】
吸水変化シート状物1は、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる。その際、両者の重量比として、前者:後者で10:90〜60:40(より好ましくは20:80〜50:50)の範囲であることが好ましい。
【0037】
織編物の構造としては、その織編組織、層数は特に限定されるものではない。例えば、平織、綾織、サテンなどの織組織や、天竺、スムース、フライス、鹿の子、デンビー、トリコットなどの編組織が好適に例示されるが、これらに限定されるものではない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層であってもよい。
【0038】
吸水自己伸張糸と非自己伸張糸との糸配列としては、以下の糸配列が好適に例示される。
まず、その1として、吸湿自己伸張糸と非自己伸張糸とが引き揃えられて、編物のニードルループや、織物の経糸および/または緯糸を構成する糸配列があげられる。例えば、図6に示すように、吸湿自己伸張糸と非自己伸張糸とが丸編組織の複合ループ(2本の糸条で、同時にニードルループを形成する。添え糸編みとも言われる。)を形成してなる糸配列や、図7に示すように、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、引き揃えられて織組織の経糸および/または緯糸に配された糸配列が例示される。
【0039】
その2として、吸湿自己伸張糸と非自己伸張糸とが、織編物の経糸および/または緯糸において1本交互(1:1)や複数本交互(2:2、3:3など)に配された糸配列があげられる。例えば、図8に示すように、丸編物中に吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが1:1に配された糸配列、図9に示すように、織物中に吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが1:1に経糸および緯糸に配された糸配列などが例示される。
【0040】
その3として、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、混繊糸、複合仮撚捲縮加工糸、合撚糸、カバリング糸などの複合糸として織編物を構成する態様があげられる。
【0041】
ここで、糸長の測定は以下の方法で行うものとする。まず、織編物を温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中に24時間放置した後、該織編物から、30cm×30cmの小片を裁断する(n数=5)。続いて、各小片から、吸水自己伸張糸及び非自己伸張糸を1本ずつ取り出し、吸水自己伸張糸の糸長A(mm)、非自己伸張糸の糸長B(mm)を測定する。その際、非弾性糸の場合は1.76mN/dtex(200mg/de)、弾性糸の場合は0.0088mN/dtex(1mg/de)の荷重をかけて測定する。そして、(糸長Aの平均値)/(糸長Bの平均値)をA/Bとする。ここで、小片から取り出す吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とは織編物中において同一方向のものである必要がある。例えば、吸水自己伸張糸を織物の経糸(緯糸)から取り出す場合、他方の非自己伸張糸も経糸(緯糸)から取り出す必要がある。また、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、複合糸として織編物を構成する場合には、裁断された小片(30cm×30cm)から複合糸を取り出し(n数=5)、さらに複合糸から吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とを取り出して前記と同様にして測定するものとする。
【0042】
前記のように、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸との糸長差をもうける方法としては、以下の方法が例示される。
例えば、その1として、前記の織編物を製編織する際、吸水自己伸張糸として、前記の弾性を有するポリエーテルエステル繊維を使用し、該ポリエーテルエステル繊維をドラフト(延伸)しながら非自己伸張糸と引き揃え、同一の給糸口に給糸して製編織する方法があげられる。その際、ポリエーテルエステル繊維のドラフト率としては、10%以上(好ましくは20%以上300%以下)が好ましい。なお、該ドラフト率(%)は、下記式で求められる。
ドラフト率(%)=((引き取り速度)−(供給速度))/(供給速度)×100
ポリエーテルエステル繊維は、通常弾性性能を有しているため、織編物中において、ポリエーテルエステル繊維は、弾性回復してその糸長が短くなり、他方の非自己伸張糸との糸長差をもうけることができる。
【0043】
その2として、前記の織編物を製編織する際、吸水自己伸張糸の沸水収縮率を非自己伸張糸の沸水収縮率よりも大きくする方法があげられる。かかる織編物を通常の染色加工工程に供することにより、吸水自己伸張糸の糸長が短くなり、他方の非自己伸張糸との糸長差をもうけることができる。
【0044】
その3として、非自己伸張糸をオーバーフィード(過供給)させながら吸水自己伸張糸と引き揃えて、通常の空気混繊加工、撚糸、カバリング加工なより複合糸を得て、該複合糸を用いて織編物を製編織する方法があげられる。
【0045】
次に、吸水変化シート状物2は、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型に接合され、かつ潜在捲縮性能が発現してなる捲縮を有する複合繊維を含む織編物である。
【0046】
ここで、ポリエステル成分としては、他方のポリアミド成分との接着性の点で、スルホン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属、ホスホニウム塩を有し、かつエステル形成能を有する官能基を1個以上もつ化合物が共重合された、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンタレフタレート等の変性ポリエステルが好ましく例示される。なかでも、汎用性およびポリマーコストの点で、前記化合物が共重合された、変性ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。その際、共重合成分としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびそのエステル誘導体、5−ホスホニウムイソフタル酸およびそのエステル誘導体、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどがあげられる。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が好ましい。共重合量としては、2.0〜4.5モル%の範囲が好ましい。該共重合量が2.0モル%よりも小さいと、優れた捲縮性能が得られるものの、ポリアミド成分とポリエステル成分との接合界面にて剥離が生じるおそれがある。逆に、該共重合量が4.5モル%よりも大きいと、延伸熱処理の際、ポリエステル成分の結晶化が進みにくくなるため、延伸熱処理温度を上げる必要があり、その結果、糸切れが多発するおそれがある。
【0047】
一方のポリアミド成分としては、主鎖中にアミド結合を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−46、ナイロン−12などがあげられる。なかでも、汎用性、ポリマーコスト、製糸安定性の点で、ナイロン−6およびナイロン−66が好適である。
【0048】
なお、前記ポリエステル成分およびポリアミド成分には、公知の添加剤、例えば、顔料、顔料、艶消し剤、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、耐光剤、紫外線吸収剤等が含まれていてもよい。
【0049】
前記のサイドバイサイド型に接合された複合繊維は、任意の断面形状および複合形態をとることができ、サイドバイサイド型や偏心芯鞘型であってもよい。さらには、三角形や四角形、その断面内に中空部を有するものであってもよい。なかでも、サイドバイサイド型が好ましい。両成分の複合比は任意に選定することができるが、通常、ポリエステル成分とポリアミド成分の重量比で30:70〜70:30(より好ましくは40:60〜60:40)の範囲内であることが好ましい。
【0050】
前記複合繊維の単糸繊度、単糸数(フィラメント数)としては特に限定されないが、単糸繊度1〜10dtex(より好ましくは2〜5dtex)、単糸数10〜200本(より好ましくは20〜100本)の範囲内であることが好ましい。
【0051】
また、前記複合繊維は、潜在捲縮性能が発現してなる捲縮構造を有している必要がある。異種ポリマーがサイドバイサイド型に接合された複合繊維は、通常、潜在捲縮性能を有しており、後記のように、染色加工等で熱処理を受けると潜在捲縮性能が発現する。捲縮構造としては、ポリアミド成分が捲縮の内側に位置し、ポリエステル成分が捲縮の外側に位置していることが好ましい。かかる捲縮構造を有する複合繊維は、後記の製造方法により容易に得ることができる。複合繊維がこのような捲縮構造を有していると、湿潤時に、内側のポリアミド成分が膨潤、伸張し、外側のポリエステル成分はほとんど長さ変化を起こさないため、捲縮率が低下する(複合繊維の見かけの長さが長くなる。)。一方、乾燥時には、内側のポリアミド成分が収縮し、外側のポリエステル成分はほとんど長さ変化を起こさないため、捲縮率が増大する(複合繊維の見かけの長さが短くなる。)。このように、湿潤時に、複合繊維の捲縮率が可逆的に低下し見かけの糸長が増大するため、織編物の寸法が大きくなる。
【0052】
前記の複合繊維は、湿潤時に、容易に捲縮が低下しみかけの糸長が増大する上で、無撚糸、または300T/m以下の撚りが施された甘撚り糸であることが好ましい。特に、無撚糸であることが好ましい。強撚糸のように、強い撚りが付与されていると、湿潤時に捲縮が低下しにくく好ましくない。なお、交絡数が20〜60ケ/m程度となるようにインターレース空気加工および/または通常の仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0053】
織編物構造としては、その織編組織、層数は特に限定されるものではない。例えば、平織、綾織、サテンなどの織組織や、天竺、スムース、フライス、鹿の子、そえ糸編、デンビー、ハーフなどの編組織が好適に例示される。特に丸編物またはメッシュ状の織編物が好ましい。
【0054】
かかる織編物は、例えば下記の製造方法によって容易に得ることができる。
まず、固有粘度が0.30〜0.43(オルソクロロフェノールを溶媒として35℃で測定)の、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が2.0〜4.5モル%共重合された変性ポリエステルと、固有粘度が1.0〜1.4(m−クレゾールを溶媒として30℃で測定)のポリアミドとを用いてサイドバイサイド型に溶融複合紡糸する。その際、ポリエステル成分の固有粘度が0.43以下であることが特に重要である。ポリエステル成分の固有粘度が0.43よりも大きいと、ポリエステル成分の粘度が増大するため、複合繊維の物性がポリエステル単独糸に近くなり好ましくない。逆に、ポリエステル成分の固有粘度が0.30よりも小さいと、溶融粘度が小さくなりすぎて製糸性が低下するとともに毛羽発生が多くなり、品質および生産性が低下するおそれがある。
【0055】
溶融紡糸の際に用いる紡糸口金としては、特開2000−144518号公報の図1のような、高粘度側と低粘度側の吐出孔を分離し、かつ高粘度側吐出線速度を小さくした(吐出断面積を大きくした)紡糸口金が好適である。そして、高粘度側吐出孔に溶融ポリエステルを通過させ、低粘度側吐出孔に溶融ポリアミドを通過させ冷却固化させることが好ましい。その際、ポリエステル成分とポリアミド成分との重量比は、前述のとおり、30:70〜70:30(より好ましくは40:60〜60:40)の範囲内であることが好ましい。
【0056】
また、溶融複合紡糸した後、一旦巻き取った後に延伸する別延方式を採用してもよいし、一旦巻き取らずに延伸熱処理を行う直延方式を採用してもよい。その際、紡糸・延伸条件としては、通常の条件でよい。例えば、直延方式の場合、1000〜3500m/分程度で紡糸した後、連続して100〜150℃の温度で延伸し巻き取る。延伸倍率は最終時に得られる複合繊維の切断伸度が10〜60%(好ましくは20〜45%)、切断強度が3.0〜4.7cN/dtex程度となるよう、適宜選定すればよい。
【0057】
ここで、前記の複合繊維が、下記の要件(1)および(2)を同時に満足することが好ましい。
(1)乾燥時における複合繊維の捲縮率DCが1.5〜13%(好ましくは2〜6%)の範囲内である。
(2)捲縮率DCと、乾燥時における複合繊維の捲縮率HCとの差(DC−HC)が0.5%以上(好ましくは1〜5%)である。
【0058】
ただし、乾燥時とは、試料を温度20℃、湿度65%RH環境下に24時間放置した後の状態であり、一方、湿潤時とは、試料を温度20℃の水中に2時間浸漬した直後の状態であり、乾燥時における捲縮率DCおよび湿潤時における捲縮率HCは、下記の方法で測定した値を用いることとする。
【0059】
まず、枠周:1.125mの巻き返し枠を用いて、荷重:49/50mN×9×トータルテックス(0.1gf×トータルデニール)をかけて一定の速度で巻き返し、巻き数:10回の小綛をつくり、該小綛をねじり2重の輪状にしたものに49/2500mN×20×9×トータルテックス(2mg×20×トータルデニール)の初荷重をかけたまま沸水中に入れて30分間処理し、該沸水処理の後100℃の乾燥機にて30分間乾燥し、その後さらに初荷重をかけたまま160℃の乾熱中に入れ5分間処理する。該乾熱処理の後に初荷重を除き、温度20℃、湿度65%RH環境下に24時間以上放置した後、前記の初荷重および98/50mN×20×9×トータルテックス(0.2gf×20×トータルデニール)の重荷重を負荷し、綛長:L0を測定し、直ちに重荷重のみを取り除き、除重1分後の綛長:L1を測定する。さらにこの綛を初荷重をかけたまま温度20℃の水中に2時間浸漬した後取り出し、ろ紙にて0.69mN/cm(70mgf/cm)の圧力で軽く水を拭き取った後、初荷重および重荷重を負荷し綛長:L0’を測定し、直ちに重荷重のみを取り除き、除重1分後の綛長:L1’を測定する。以上の測定数値から下記の計算式にて、乾燥時の捲縮率(DC)、湿潤時の捲縮率(HC)、乾燥時と湿潤時の捲縮率差(DC−HC)を算出する。
乾燥時の捲縮率DC(%)=((L0−L1)/L0)×100
湿潤時の捲縮率HC(%)=(L0’−L1’)/L0’)×100
前記の湿潤時における複合繊維の捲縮率HCとしては、0.5〜10.0%(好ましくは1〜3%)の範囲内であることが好ましい。
【0060】
ここで、乾燥時における複合繊維の捲縮率DCが1.5%よりも小さいと、湿潤時の捲縮変化量が小さくなるおそれがある。逆に、乾燥時における複合繊維の捲縮率DCが13%よりも大きい場合は、捲縮が強すぎて湿潤時に捲縮が変化しにくくなるおそれがある。
【0061】
次いで、前記複合繊維を単独で用いるか、他の繊維も同時に用いて織編物を織編成した後、染色加工などの熱処理により前記複合繊維の捲縮を発現させる。
ここで、織編物を織編成する際、前述のように、重量基準で織編物全重量に対して、10重量%以上(好ましくは40重量%以上)であることが肝要である。また、織編組織は特に限定されず、前述のものを適宜選定することができる。
【0062】
前記染色加工の温度としては100〜140℃(より好ましくは110〜135℃)、時間としてはトップ温度のキープ時間が5〜40分の範囲内であることが好ましい。かかる条件で、織編物に染色加工を施すことにより、前記複合繊維は、ポリエステル成分とポリアミド成分との熱収縮差により捲縮を発現する。その際、ポリエステル成分とポリアミド成分として、前述のポリマーを選定することにより、ポリアミド成分が捲縮の内側に位置する捲縮構造となる。
【0063】
染色加工が施された織編物には、通常、乾熱ファイナルセットが施される。その際、乾熱ファイナルセットの温度としては120〜200℃(より好ましくは140〜180℃)、時間としては1〜3分の範囲内であることが好ましい。かかる、乾熱ファイナルセットの温度が120℃よりも低いと、染色加工時に発生したシワが残り易く、また、仕上がり製品の寸法安定性が悪くなるおそれがある。逆に、該乾熱ファイナルセットの温度が200℃よりも高いと、染色加工の際に発現した複合繊維の捲縮が低下したり、繊維が硬化し生地の風合いが硬くなるおそれがある。
【0064】
また、かかる織編物に吸水加工を施すことが好ましい。織編物に吸水加工を施すことにより、少量の汗でも通気性が向上しやすくなる。かかる吸水加工としては特に限定されず、ポリエチレングリコールジアクリレートやその誘導体、または、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体などの吸水加工剤を織編物に、織編物の重量に対して0.25〜0.50重量%付着させることが好ましく例示される。吸水加工の方法としては、例えば染色加工時に染液に吸水加工剤を混合する浴中加工法や、乾熱ファイナルセット前に、織編物を吸水加工液中にデイッピングしマングルで絞る方法、グラビヤコーテング法、スクリーンプリント法といった塗布による加工方法等が例示される。
【0065】
次に、吸水時に乾燥時よりも厚さが10%以上大きくなるシート状物としては、下記の吸水変化シート状物3、吸水変化シート状物4、および吸水変化シート状物5が好適である。なお、本発明でいう織編物の厚さとは、織編物の最大厚さ(最上端から最下端までの垂直距離)である。
【0066】
すなわち、吸水変化シート状物3は、単層構造の織編物であって、図10に模式的に示すように、非自己伸張糸のみで構成される部分が格子状に連続し、前記吸水自己伸張糸と前記非自己伸張糸とで構成される部分が飛び島状に散在する織編組織パターンで吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが配されていると、該織編物の厚み方向の断面形状は、乾燥時には、図11の(1)に示すようにフラットであるが、湿潤時には、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分が伸張し、凹凸が発生する(すなわち、厚さが厚くなる)。
【0067】
また、吸水変化シート状物4は、多層構造の織編物であって、図12の(1)に織編物の厚み方向の断面形状を示すように、1層(X層)を前記非自己伸張糸だけで構成し、他層(Y層)を吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成し、その際、Y層において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分はX層から浮かせ、かつ、非自己伸張糸で構成される非自己伸張部分をX層と結合させることにより、湿潤時に、図12の(2)に示すように、Y層の吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分が伸張し凸状となり、その結果、厚さが厚くなる。
【0068】
また、吸水変化シート状物5は、図13に示すように前記複合繊維のみで構成される層とと、通常の繊維のみで構成される層を有し、両層は部分的に結接されている。湿潤時に、図13の(2)に示すように、凸状となり、その結果、厚さが厚くなる。
【0069】
本発明の多層構造体において、非吸水変化層は、吸水時の乾燥時に対する面積変化率および厚み変化率がともに3%以下(より好ましくは2%以下)の非吸水変化シート状物である。
【0070】
かかる非吸水変化シート状物としては、従来から知られている通常の繊維からなる通常の織編物でよい。例えば、繊維の種類としては、綿、羊毛、麻などの有機天然繊維、ポリエステル、ナイロン、及びポリオレフィン繊維などの有機合成繊維、セルロースアセテート繊維などの有機半合成繊維及、ビスコースレーヨン繊維などの有機再生繊維から選ばれるものであり、特にその種類は限定されない。
【0071】
なかでも、繊維強度や取り扱い性の点でポリエステル繊維が好適である。ポリエステル繊維は、ジカルボン酸成分と、ジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としは、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステルには、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。
【0072】
かかる繊維には、必要に応じて艶消し剤(二酸化チタン)、微細孔形成剤(有機スルホン酸金属塩)、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモン)、蛍光増白剤、着色顔料、制電剤(スルホン酸金属塩)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコール)、抗菌剤、その他の無機粒子の1種以上を含有させてもよい。
【0073】
かかる繊維の形態は特に限定されず、長繊維(マルチフィラメント)、短繊維いずれでもよいが、柔軟な風合いを得る上で長繊維が好ましい。さらには、通常の仮撚捲縮加工、撚糸、インターレース空気加工が施されていてもよい。繊維の繊度は特に限定されないが、柔軟な風合いを得る上で単繊維繊度は0.1〜3dtex、フィラメント数は20〜150、総繊度は30〜300dtexであることが好ましい。単繊維の断面形状には制限はなく、通常の円形断面のほかに三角、扁平、十字形、六様形、あるいは中空形の断面形状を有していてもよい。
【0074】
非吸水変化層を形成する織編物の組織も特に限定されず、通常のものでよい。例えば、織物の織組織としては、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。
【0075】
本発明の多層構造体において、2以上のシート状物を貼りあわせる方法は特に限定されず、直接重ねたシート状物を熱融着させる方法、貼りあわせるシート状物の間にウレタンフォームや低融点ナイロン不織布などをはさんで融着させる融着法、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系あるいは溶融性パウダなどの接着剤を用いて接着する方法があげられる。接着剤を用いて接着する方法には、ドクター方式、ローラ方式、反転方式、スプレー方式などがあり、これらの手段を適宜選択することができる。また、通常の方法により縫い合わされていてもよい。
【0076】
なお、貼り合わせまたは縫着の前および/または後に、前述のように染色加工、吸水加工、さらには、常法の起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤、撥水剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0077】
本発明の多層構造体において、吸水変化層と非吸水変化層とが接着していない個所の吸水変化層が吸水により凸状に変化し、厚みが増加したり、あるいは通気性が向上する。かかる厚みとしては、吸水時に乾燥時よりも10%以上(好ましくは20〜200%)大きくなることが好ましい。また、通気性としては、吸水時に乾燥時よりも10%以上(好ましくは20〜200%)大きくなることが好ましい。
【0078】
かかる多層構造体を、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、靴材、おしめや介護用シーツ等の医療・衛生用品、寝装寝具、椅子やソファー等の表皮材、カーペット、カーシート地、インテリア用品などの繊維製品として使用すると、ベトツキ感、ムレ感、冷え感を低減することが可能となる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
【0080】
<通気性変化率>JIS L 1096−1998、6.27.1、A(フラジール型通気性試験機法)により乾燥時の通気性(cc/cm/s)と吸水時の通気性(cc/cm/s)を測定した。ただし、乾燥時とは、試料を温度20℃、湿度65%RH環境下に24時間放置した後の状態であり、一方、吸水時とは、試料に含水率が70%になるよう霧吹きにて水を付与した状態であり、それぞれ通気性(n数=5)を測定し、その平均を求めた。そして、通気性の変化率を下記式により算出した。
通気性の変化率(%)=((吸水時の通気性)−(乾燥時の通気性))/(乾燥時の通気性)×100
<面積変化率>試料を温度20℃、湿度65RH%の環境下に24時間放置した後に小片(経20cm×緯20cmの正方形)を試料と同じ方向に裁断し、乾燥時の面積(cm)とする。一方、該小片に含水率が70%になるよう霧吹きにて水を付与した後、該小片の面積を測定し、吸水時の面積(cm)とする。そして、下記式で定義する面積変化率により面積変化率(%)を算出した。
面積変化率(%)=((吸水時の面積)−(乾燥時の面積))/(乾燥時の面積)×100
<厚み変化率>
試料を温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中に24時間放置した後、該試料から、10cm×10cmの小片を裁断する(n数=5)。続いて、上記試料を平らな板の上に置き、圧力0.13cN/cm(0.13g/cm)の荷重をかけ、ミツトヨ社製デジマチックハイトゲージ(HDS−HC)を用いて、試料の厚みTDを計測する。
更に、この小片に含水率が70%になるよう霧吹きにて水を付与し、1分経過後に当該滴下部に前記と同様に圧力0.13cN/cm(0.13g/cm)の荷重下にて厚みTWを計測する。
以上の測定数値から下記の計算式にて、厚み変化率を算出する。
厚み変化率(%)=(TW−TD)/TD×100
<沸水収縮率>JIS L 1013−1998、7.15で規定される方法により、沸水収縮率(熱水収縮率)(%)をn数3で測定した。
<糸長の測定>織編物を温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中に24時間放置した後、該織編物から、経緯の方向が織編物と同じになるよう30cm×30cmの小片を裁断する(n数=5)。続いて、各々の小片から、吸水自己伸張糸及び非自己伸張糸を1本ずつ取り出し、弾性糸である吸水自己伸張糸には0.0088mN/dtex(1mg/de)の荷重をかけ、非弾性糸である非自己伸張糸には1.76mN/dtex(200mg/de)の荷重をかけて吸水自己伸張糸の糸長A(mm)、非自己伸張糸の糸長B(mm)を測定する。そして、(糸長Aの平均値)/(糸長Bの平均値)をA/Bとする。
【0081】
[実施例1]
ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを49.8重量部、ソフトセグメントとして数平均分子量4000のポリオキシエチレングリコール50.2重量部からなるポリエーテルエステルを、230℃で溶融し、所定の紡糸口金より吐出量3.05g/分で押出した。このポリマーを2個のゴデットロールを介して705m/分で引取り、さらに750m/分(巻取りドラフト1.06)で巻取り、44デシテックス/1フィラメントの弾性を有する吸水自己伸張糸を得た。この吸水自己伸張糸の吸水時の繊維軸方向への膨潤率は10%であり、沸水収縮率は8%であった。
また、非自己伸張糸として沸水収縮率が10%であり、吸水時の膨張率が1%以下である、通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸(84デシテックス/24フィラメント)を用意した。
【0082】
次いで、28ゲージのシングル丸編機を用いて、上記吸水自己伸張糸を延伸倍率2.7倍で引張りながら上記非自己伸張糸と同時に該編機に給糸することにより、81コース/2.54cm、37ウェール/2.54cmの編密度にて天竺組織の丸編地を編成した。ついで、この丸編地を常法の染色仕上げ方法にて加工を行うことにより、吸水時に通気性が向上する編地を得た。得られた丸編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで丸編組織の複合ループが形成されており、A/Bが0.54であった。また、得られた編地は、乾燥時では、通気性52cc/cm/sであり、吸水時には、通気性109cc/cm/s(通気性変化率110%)と、吸水により通気性が大きく向上するものであった。
また、上記編地の面積変化率は22%(タテ11%、ヨコ10%)、厚み変化率は−3%と吸水時に面積が大きくなるものであり、この編地を吸水変化層として用いることにした。
【0083】
次に、22ゲージトリコット編機にてバック筬にポリエステルマルチフィラメント糸(84デシテックス36フィラメント)をフルセットし、ミドル筬にバック筬と同じ糸を3in3outでセットし、フロント筬もバック筬と同じ糸を3out3inでセットし、バック:01−10、ミドル:(10−34)×2(67−43)×2、フロント:(67−43)×2(10−34)×2の編組織で、機上コース数21コース/インチの編条件で、メッシュ構造の編地を試作した。この編地を常法の加工条件で染色仕上げ加工を行った。得られた編地の乾燥時と吸水時の面積変化率は0.1%、厚み変化率は0.1%以下であり、この編地を非吸水変化層として用いることにした。
【0084】
次に上記で得られた吸水変化層と非吸水変化層の接着を行った。先ず、メッシュ構造の非吸水変化層に対して、市販のアイロン接着シート(低融点ナイロン製不織布、(株)キャンドゥ製)を該非吸水変化層より一回り大きく裁断し、両者を重ね合わせ、130℃に設定したアイロンにて圧着し、生地が完全に冷えた後、接着シートをめくるようにして剥がした。
【0085】
これにより、非吸水変化層と接着シートが接触していた箇所にのみ、接着シートが残った。このようにして得られた、接着剤が付与された非吸水変化層に対し、前述の吸水変化層を重ね合わせ、先ほどと同様130℃に設定したアイロンにて圧着し、その結果、吸水変化層と非吸水変化層が貼り合わされた2層構造体が得られた。
得られた2層構造体の評価結果は表1に示す通りで、吸水により厚みが33%向上し、通気性も29%向上し満足なものであった。
【0086】
[実施例2]
36ゲージトリコット編機にてバック筬にポリエステルモノフィラメント糸(22デシテックス1フィラメント)をフルセットし、フロント筬にバック筬と同じ糸をフルセットし、バック:10−12、フロント:12−10のダブルデンビ組織で、機上コース数100コース/インチの編条件で、編地を試作した。この編地を常法の加工条件で染色仕上げ加工を行った。得られた編地の乾燥時と吸水時の寸法変化率は、タテ0.0%、ヨコ0.0%、厚み変化率は0.1%以下であり、この編地を非吸水変化層として用いることにした。一方、実施例1で吸水変化層として使用した天竺編地を吸水変化層とした。
【0087】
次いで、上記の非吸水変化層と吸水変化層を接着し、その際、直径3cmの円が中心間距離4.5cmでタテおよびヨコに並んでいるパターンで該2層の非接着部を設けた(図4参照)。
得られた2層構造体の評価結果は表1に示す通りで、吸水により2層の非接着部が立体的に浮き上がり(非接着部が円形のため半球状に浮き上がる)、結果として厚みは292%変化し、通気性も33%向上し、本発明の目的である吸水により立体的に構造変化する多層構造体として満足なものであった。
【0088】
[実施例3]
実施例2で使用した吸水変化層と非吸水変化層を用いて、吸水変化層が中間層で非吸水変化層が表裏2層を形成する3層構造体となるよう3層を接着し、その際、格子巾3mmで格子が2cm角の正方形となるパターンで該3層を接着した(図5参照)。
得られた3層構造体の評価結果は表1に示す通りで、吸水により3層の非接着部が立体的に浮き上がり(格子のなかの部分)、結果として厚みは120%変化し、通気性も50%向上し、本発明の目的である吸水により立体的に構造変化する多層構造体として満足なものであった。
【0089】
[実施例4]
実施例2で使用した吸水変化層と非吸水変化層を用いて、吸水変化層と非吸水変化層を縫い合わせ、その際、タテ方向およびヨコ方向の縫い糸のピッチが3cmの間隔で格子状に並んでいるパターンで縫製した。(図15参照)
得られた2層構造体の評価結果は表1に示す通りで、吸水により2層の非縫製部が立体的に浮き上がり(格子のなかの部分)、結果として厚みは282%変化し、通気性も53%向上し、本発明の目的である吸水により立体的に構造変化する多層構造体として満足なものであった。
【0090】
[実施例5]
実施例1で用いたのと同じ吸水自己伸張糸を芯糸とし、沸水収縮率が10%であり、かつ湿潤時の膨張率が1%以下のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸(33デシテックス/12フィラメント)を鞘糸にし、芯糸のドラフト率30%(1.3倍)、鞘糸のカバリング数350回/m(Z方向)にてカバリング糸a(複合糸)を得た。該カバリング糸と、沸水収縮率が8%であり、湿潤時の膨張率が1%以下のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸b(84デシテックス/72フィラメント)を24ゲージダブル丸編機にて38コース/2.54cm、32ウェール/2.54cmの編密度で、図14に示す編組織で、編物を編成し、該編地を常法の染色仕上げ方法にて加工を行った。該編物においてA/Bが0.8であった。
【0091】
該編物において、厚み方向の断面は、図12の(1)に示すように、1層(X層)は非自己伸張糸(ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸b)だけで構成され、他層(Y層)においては、カバリング糸a(吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成)で構成される部分はX層から浮いており、かつ、非自己伸張部分はX層と結合していた。その際、Y層の非自己伸張部分は、緯方向に巾約7mmで連続していた。得られた編物において、乾燥時では、空隙率8%、通気性180cc/cm/s、厚み0.90mmであり、湿潤時には、布帛寸法が変化することなく、図12の(2)に示すように、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分が凸状となり、空隙率10%(空隙変化率25%)、通気性240cc/cm/s(通気性変化率33%)、厚み1.60mm(厚み変化率78%)であった。
【0092】
次いで、該編物を吸水変化層として用い、実施例1と同様に2層構造体を得た。得られた2層構造体の評価結果は表1に示す通りで、吸水により厚みが50%向上し、通気性も5%向上し満足なものであった。
【0093】
[比較例1]
28ゲージのトリコット編機を用いて、ナイロンマルチフィラメント糸(84デシテックス/24フィラメント)をバック筬およびフロント筬にフルセットし、バック:10−12、フロント:23−10のハーフ組織で、機上コース数80コース/インチの編条件で、編地を試作した。この編地を常法の加工条件で染色仕上げ加工を行った。得られた編地は、乾燥時と吸水時の寸法変化率が4%(タテ1.3%、ヨコ2.7%)、厚み変化率が−2%であり、この編地を吸水変化層として用いることにした。
【0094】
これに対し、非吸水変化層として実施例2で用いたトリコット編地を使用し、該非吸水変化層と前記の吸水変化層を実施例2と同じ方法で接着し、2層構造体を試作した。
得られた2層構造体の評価結果は表1に示す通りで、吸水により厚みが7%しか向上せず、通気性も8%しか向上せず満足ゆくものではなかった。
【0095】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、2以上のシート状物が貼り合わされか縫い合わされてなる多層構造体であって、吸水により構造体表面に凹凸が発現したり、厚みが増加したり、あるいは通気性が向上することにより、ベトツキ感、ムレ感、冷え感を低減することが可能な、吸水により立体的に構造変化する多層構造体および繊維製品が、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の多層構造体において採用することのできる態様を模式的に示すものであり、(1)表面、(2)断面を示す。
【図2】本発明の多層構造体において採用することのできる他の態様を模式的に示すものであり、(1)表面、(2)断面を示す。
【図3】本発明の多層構造体において採用することのできる他の態様を模式的に示すものであり、(1)表面、(2)断面を示す。
【図4】本発明の多層構造体において、非吸水変化層と吸水変化層との接着部、および非接着部が所定のパターンを形成する様子を模式的に示すものであり、(1)表面、(2)断面である。なお、円形部が非接着部である。
【図5】本発明の多層構造体において、非吸水変化層と吸水変化層との接着部、および非接着部が所定のパターンを形成する様子を模式的に示すものであり、(1)表面、(2)断面である。
【図6】本発明の多層構造体を構成する吸水変化層として採用することができる丸編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが丸編組織の複合ループを形成する糸配列を模式的に示すものであり、(1)乾燥時、(2)吸水時である。
【図7】本発明の多層構造体を構成する吸水変化層として採用することができる織物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、引き揃えられて織組織の経糸および緯糸を構成する糸配列を模式的に示すものであり、(1)乾燥時、(2)吸水時である。
【図8】本発明の多層構造体を構成する吸水変化層として採用することができる丸編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが1:1に配列されて丸編物を構成する糸配列を模式的に示すものであり、(1)乾燥時、(2)吸水時である。
【図9】本発明の多層構造体を構成する吸水変化層として採用することができる織物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが織物の経糸と緯糸に1:1に配列されて織物を構成する糸配列を模式的に示すものであり、(1)乾燥時、(2)吸水時である。
【図10】本発明の多層構造体を構成する吸水変化層として採用することができる織編物において、非自己伸張糸のみで構成される部分が格子状に連続する織編組織パターンを模式的に示したものである。
【図11】本発明の多層構造体を構成する吸水変化層として採用することができる織編物において、織編物が単層構造で、かつ非自己伸張糸のみで構成される部分が経方向および/または緯方向に連続している場合の織編物の厚み方向の断面図を模式的に例示したものであり、(1)乾燥時、(2)吸水時である。
【図12】本発明の多層構造体を構成する吸水変化層として採用することができる織編物において、織編物が2層構造であり、1層(X層)が非自己伸張糸だけで構成され、他層(Y層)が吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成され、その際、Y層において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分はX層から浮いており、かつ、非自己伸張糸で構成される非自己伸張部分がX層と結合している場合のの織編物の厚み方向の断面図を模式的に例示したものであり、(1)乾燥時、(2)吸水時である。
【図13】本発明の多層構造体を構成する吸水変化層として採用することができる織編物である。
【図14】実施例5で、用いた編成図である。ここで、1〜24は給糸配列、Cはシリンダー側、Dはダイアル側、aはカバリング糸、bはポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント、〇はダイアル側ニット、×はシリンダー側ニット、¥はシリンダー側タックである。
【図15】本発明の多層構造体において、非吸水変化層と吸水変化層との縫着部、および非縫着部が所定のパターンを形成する様子を模式的に示すものであり、(1)表面、(2)断面である。
【符号の説明】
【0098】
1,3,6,9,12,15,18,21,24 非吸水変化層
2,4,7,10,13,16,19,22,25 吸水変化層
5,11,14,17,23,26 接着部
8 非接着部
A−1,A−2,A−3,A−4,A−5,A−6,A−7,A−8 吸水自己伸張糸
B−1,B−2,B−3,B−4,B−5,B−6,B−7,B−8 非自己伸張糸
C−1,C−2,C−3,F−1,F−2 非自己伸張糸のみで構成される部分(非自己伸張部分)
D−1,D−2,D−3,G−1,G−2 吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される部分
E−1,E−2 非自己伸張糸のみで構成される層(X層)
27 通常の繊維のみで構成される層
28 結接層
29 複合繊維のみで構成される層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織編物、不織布、およびフィルムから選択されるいずれかのシート状物が2以上貼り合わされか縫い合わされてなる多層構造体であって、該多層構造体に、吸水時に乾燥時よりも面積が10%以上大きくなるか、および/または厚みが10%以上大きくなる吸水変化層と、吸水時の乾燥時に対する面積変化率および厚み変化率が3%以下である非吸水変化層が含まれることを特徴とする吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
ただし、乾燥時とは、温度20℃、湿度65%RHの環境下に試料を24時間放置した直後の状態であり、一方吸水時とは、乾燥後の試料表面に霧吹きにより水を噴霧し、乾燥時の試料重量に対して含水率70重量%となるまで水を付与した直後の状態である。
【請求項2】
多層構造体が、吸水変化層と非吸水変化層とが貼り合わされか縫い合わされてなる2層構造体であって、前記非吸水変化層がメッシュ状のシート状物からなる、請求項1に記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項3】
多層構造体が、吸水変化層と非吸水変化層とが貼り合わされか縫い合わされてなる2層構造体であって、前記吸水変化層と非吸水変化層とが接着もしくは縫着された部分と、接着も縫着もされていない部分を有する、請求項1または請求項2に記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項4】
多層構造体が、中間層が吸水変化層であり、表裏の層が非吸水変化層である3層構造体であって、前記吸水変化層と非吸水変化層とが接着もしくは縫着された部分と、接着も縫着もされていない部分を有する、請求項1に記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項5】
前記吸水変化層が、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる織編物であって、乾燥時における該織編物中の吸水自己伸張糸の糸長を(A)、他方、非自己伸張糸の糸長を(B)とするとき、A/Bが0.9以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項6】
前記の吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる織編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、丸編組織の複合ループを形成してなる、請求項5に記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項7】
前記の吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる織編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、引き揃えられて織組織の経糸および/または緯糸を構成してなる、請求項5に記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項8】
前記の吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる織編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、各々織編物の構成糸条として、1本交互にまたは複数本交互に配列してなる、請求項5に記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項9】
前記の吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる織編物において、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、複合糸として織編物中に含まれる、請求項5に記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項10】
吸水自己伸張糸が、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維である、請求項5〜9のいずれかに記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項11】
非自己伸張糸がポリエステル繊維である、請求項5〜10のいずれかに記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項12】
前記吸水変化層が、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型に接合され、かつ潜在捲縮性能が発現してなる捲縮を有する複合繊維を含む織編物である、請求項1〜4のいずれかに記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項13】
前記非吸水変化層が、ポリエステル繊維からなる織編物である、請求項1〜12に記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項14】
吸水時の通気性が乾燥時よりも10%以上大きくなる、請求項1〜13に記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項15】
吸水時の厚みが乾燥時よりも10%以上大きくなる、請求項1〜14に記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項16】
非接着部もしくは非縫着部が文字または幾何学模様となっており、吸水時に文字または幾何学模様が立体的に浮かび上がる、請求項3または4に記載の吸水により立体的に構造変化する多層構造体。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の多層構造体を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、靴材、おしめや介護用シーツ等の医療・衛生用品、寝装寝具、椅子やソファー等の表皮材、カーペット、カーシート地、インテリア用品からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−264309(P2006−264309A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374727(P2005−374727)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】