説明

吸水性フィルムおよびそれを用いた包装材料

【課題】フィルム外部又は内部に存在する水分に対しては、処理出来ないので、吸水膜を形成して水蒸気バリア性を向上させ、且つ、フィルムの両側の湿度を調節することが出来る吸水性フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】プラスチックフィルム基材の少なくとも片面に、吸水剤を主成分とする吸水性層、その上に無機酸化物からなる蒸着薄膜層を設けたことを特徴とする調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水蒸気バリアを必要とする物や場面、また、水分を発生するものや事柄に対して、吸水する対処法で、水蒸気バリア性の低い基材の水蒸気バリア性を向上させ、且つ、フィルムを隔てた両側の湿度を調節可能にすることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
水蒸気バリアを必要とする場面は日常生活において数多いが、日用品の材質や食品などの包装材では、不充分であることが多く、特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、強いてはバリア性が比較的高いと言われているポリエステル系フィルムでさえ、不足していることがある。
【0003】
ポリプロピレン、ポリエステルは、透明性、光学特性、引張り特性、ヤング率に代表される機械特性、並びに無毒性、無臭性などを含めて、多くの望ましい特性を備えている。そのため、ポリプロピレンやポリエステルのフィルムは、食品、医薬品、農薬、化粧品、トイレタリー用品などの包装材料として拡く用いられている。またポリエチレンは、機械特性や耐熱性に優れ、特に高いヒートシール性から、シーラントとして多く用いられている。
【0004】
近年、このポリプロピレンやポリエステルのフィルムにガスバリア性を付与するために、塩化ビニリデン系共重合体などをコーティングしたり、酸化ケイ素や酸化アルミニウムなど無機酸化物の薄膜を形成したりしてきた。
【0005】
特許文献は以下の通りである。
【特許文献1】特開平10−020457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のようなガスバリア性の付与方法は、製膜技術及び条件が厳しく、加工が難しい。また、フィルム外部又は内部に存在する水分に対しては、処理出来ない。
【0007】
本発明では、吸水膜を形成して水蒸気バリア性を向上させ、且つ、フィルムの両側の湿度を調節することが出来る吸水性フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためのもので、請求項1に係る発明は、プラスチックフィルム基材の少なくとも片面に、吸水剤を主成分とする吸水性層、その上に無機酸化物からなる蒸着薄膜層を設けたことを特徴とする調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルムである。
【0009】
請求項2に係る発明は、プラスチックフィルム基材の少なくとも片面に、無機酸化物からなる蒸着薄膜層、その上に吸水剤を主成分とする吸水性層を設けたことを特徴とする調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルムである。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記吸水性層がコーテイングにより設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルムである。なお、このときの吸水性層の吸収剤が高分子組成物であるのが好ましい。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記高分子組成物が、食用糖類、ポリアルキレンオキシド、架橋ポリアクリル酸及びその塩から選ばれ、これを主成分することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルムである。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記無機酸化物からなる蒸着薄膜層が、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム或いはそれらの混合物であり、その厚みが5〜300nmであることを特徴とする請求項1乃至4記載のの何れかに調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルムである。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記請求項1乃至5の何れかに記載の調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルムを用いた包装材料である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、水蒸気バリア性の低いプラスチックフィルムにコーティングすることによって、水蒸気を遮断・吸収という2つの手段で透過を低減することが出来る。本発明のフィルムを用いることにより、食品はもとより、衛生用品、医療医薬品、光学用途、農・園芸用品など、酸素・水蒸気バリアまたは防湿・保湿を必要とする分野に適切な包装部材を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を、図面を用いて詳細に説明する。
図1及び2は、本発明の吸水性フィルムを説明する断面図である。
図1及び2における基材1はポリプロピレン系樹脂からなるフィルムであり、その少なくとも片面上に、食用糖類、ポリアルキレンオキシド、架橋ポリアクリル酸及びその塩などから選ばれ、これを主成分する吸水性層2、更にその上にガスバリア性被膜層3を積層したものである。
上述した基材1は、前述したような各種特性を持ち合わせたポリプロピレン系樹脂からなるフィルムである。フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体、及び他の共重合性単量体、例えば、エチレン、1−ブテン、3−メチルペンテン、4−メチルペンテンなどとの共重合体の何れであってもよい。共重合体の場合、光学特性を損なわないために、プロピレン以外の含有率は1%以下であるのがよく、好ましくは0.5%未満、さらには0.3%未満が好ましい。
【0016】
前記ポリプロピレン系樹脂のアイソタクティック指数は、通常90%以上であり、好ましくは95%以上である。前記アイソタクティック指数は重合触媒等の重合条件によりコントロールできる。また、ポリプロピレン系樹脂の融点は、通常150℃以上であり、MFR(メルトフローレート)は、通常0.5〜20g/10分、好ましくは2〜10g/10分程度である。
【0017】
基材1におけるポリプロピレン系樹脂の結晶化度は、50〜70%である。結晶化度が小さすぎると、高い剛性やバリア性を得られにくくなる。結晶化度は、重合触媒などの重合条件の他、フィルムの製膜条件(冷却条件や延伸倍率など)、結晶核剤の添加などにより調整できる。
【0018】
またこの基材1の内部に、周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤などが使用されていても良く、コーティング剤の塗布効率を良くするために、前処理としてコロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理を施しておいても良く、さらに薬品処理、溶剤処理、AC処理などを施しても良い。
上述した内容はポリプロピレンフィルムにおける条件であるが、基材1とするフィルムはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンスルフィド等の
ポリエステル樹脂フィルムやポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルムなど特に限定されるものではなく、用途に応じて使い分けるのが好ましい。
基材1の厚さは特に制限を受けるものではないが、各種用途としての適切であればよいが、フィルム加工性やフィルム特性の維持を考慮すると、実用的には10〜100μmとすることが好ましい。
また、量産性を考慮すれば、連続的に各層を形成できるように長尺フィルムとすることが望ましい。
【0019】
次に、吸水性層2について説明をする。本発明の吸水性層2における吸水剤としては、コーティング剤として基材1に塗工出来れば制限はない。
【0020】
対象分野が食品や医療医薬品であるなら、高分子吸水剤やマルトース・ショ糖・異性化糖・ブルラン・グルコース・フルクトース・マンニール・ソルビトール・マルゲトールなどの食用糖類の水溶液やグリセリン・プロピレングリコールなどの化合物を用い、これらに増粘剤としてアルギン酸・アルギン酸ソーダ・アルギン酸プロピレングリコールエステル・マンナン質・デンプン・澱粉リン酸エステルナトリウム・カラギーナン・グルテン・グアガム・アラビアゴム・トラカンゴム・ローカストビーンガム・澱粉グルコール酸ソーダ・繊維素グルコール酸ソーダなどの天然多糖類及びその誘導体、カゼイン・カゼインソーダなどの天然タンパク質、ポリアクリル酸ソーダ・メチルセルロース・カルボキシメチルセルロースソーダなどの合成高分子を添加/混合したものが使用できる。
【0021】
その他の分野においては、塩化ナトリウム・塩化カルシウム・塩化亜鉛・塩化アンモニウム・硫酸アンモニウム・硫酸ナトリウム・硫酸マグネシウム・リン酸水素ナトリウム・二リン酸ナトリウム・ピロリン酸ナトリウム・ピロリン酸カリウム・五酸化リン・炭酸カリウム・硝酸ナトリウムなどの無機塩、オルトギ酸メチル・オルト酢酸メチル・テトラエトキシシラン・澱粉アクリル酸ソーダグラフト重合体・澱粉アクリロニトリルグラフト重合体の加水分怪物・ポリイソブチレン無水マレイン酸共重合体・メタクリル酸メチル酢酸ビニル共重合体・ポリエチレンオキシド変性物等の高吸水性樹脂、などが挙げられる。
【0022】
前述した物質類を吸水剤として吸水性コーティング液を得、吸水性層2とする。用いられる物質は1種類でもそれ以上でも構わない。
【0023】
吸水性コーティング液の調液は、前記成分を、水及び/又は親水性有機溶媒中に加え、溶解・分散することによって得られる。親水性有機溶媒としては、メタノール・エタノール・n−プロパノール・i−プロパノール・n−ブタノール・2−ブタノール・t−ブタノールなど1価アルコール、エチレングリコール・ジエチレングリコール・トリエチレングリコール・エチレングリコールモノブチルエーテル・酢酸エチレングリコールモノエチルエーテルなどの2価アルコール、を挙げることが出来る。
【0024】
調湿は、ここでの吸水剤の種類や吸水剤の濃度やコーティング液の粘度などの仕様によって、調節することが出来る。なお、調節方法としては、濃度が高くなったり粘度が上がったりすれば、吸水作用が強まり相対湿度を低くすることが可能な場合もあるが、一般的にはその吸水剤の種類を選択することによって調節するのが一般的である。
【0025】
吸水性層2を基材1にコーティングする方法としては、基材1の少なくとも片面にマイクログラビアコーターなどのロールコート・スクリーン印刷・スプレーコート・スピンコート・ディッピング・刷毛・バーコート・アプリケーターなど公知の塗布方法により、1回あるいは複数回の塗布で、膜厚が0.1〜10μmの塗膜を形成することが出来、通常、70〜200℃の温度で1〜10分間加熱乾燥することにより、層が形成される。
【0026】
無機酸化物からなる蒸着薄膜層3は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化マグネシウム、或いはそれらの混合物などの無機酸化物の蒸着膜からなり、透明性を有しかつ酸素、水蒸気等のガスバリア性を有するものであればよい。その中でも、特に酸化アルミニウム及び酸化珪素、酸化マグネシウムが酸素透過率及び水蒸気透過率に優れるので好ましい。ただし本発明の蒸着薄膜層は、上述した無機酸化物に限定されず、上記条件に適合する材料であれば用いることができる。
【0027】
蒸着薄膜層3の厚さは、用いられる無機化合物の種類・構成により最適条件が異なるが、一般的には5〜300nmの範囲内が望ましく、その値は適宜選択される。ただし膜厚が5nm未満であると均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない場合がある。また膜厚が300nmを越える場合は薄膜にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じるおそれがある。好ましくは、5〜100nmの範囲内である。
【0028】
無機酸化物からなる蒸着薄膜層3を基材1上に形成する方法としては種々在り、通常の真空蒸着法により形成することができるが、その他の薄膜形成方法であるスパッタリング法やイオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などを用いることもできる。但し生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法による真空蒸着装置の加熱手段としては電子線加熱方式や抵抗加熱方式、誘導加熱方式等が好ましく、薄膜と基材の密着成及び薄膜の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いることも可能である。また、蒸着膜の透明性を上げるために蒸着の際、酸素ガスなど吹き込んだりする反応蒸着を行っても一向に構わない。
【0029】
更に、上記構成の積層体を包装体として用いる場合、最内層にシーラント層4が積層されてもよい。
【0030】
シーラント層4に特に制限はない。包装体を製袋する上でヒートシール出来れば問題はなく、厚さも一般的に使用される30〜100μmで良い。
【0031】
前述した吸水性層2と蒸着薄膜層3の積層順序を入れ替えても良い。吸水性層2が基材1側にある場合は、積層体の基材1側の水分捕獲及び調湿を可能にし、吸水性層2がシーラント層4側にある場合は、積層体のシーラント層4側の水分捕獲及び調湿を可能にしている。
【0032】
本発明である調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルムを、具体的な実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0033】
<実施例1>
基材1として厚さ20μmの延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、マルトース:グリセリン=7:3で混合し増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを0.5%添加した液体を、グラビアコート法により厚さ0.5μmの吸水性層2を形成した。さらにその上に、、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、金属アルミニウムを蒸発させそこに酸素ガスを導入し、厚さ15nmの酸化アルミニウムを蒸着して無機酸化物からなる蒸着薄膜層3を形成し吸水性フィルムAを得た。
【実施例2】
【0034】
<実施例2>
実施例1において、メタクリル酸メチル酢酸ビニル共重合体をグラビアコート法により
厚さ0.5μmの吸水性層2を形成したこと以外は同様にして、吸水性フィルムBを得た。
【実施例3】
【0035】
<実施例3>
実施例1において、吸水性層2と蒸着薄膜層3を逆に積層したこと以外は同様にして、吸水性フィルムCを得た。
【実施例4】
【0036】
<比較例1>
実施例1において、吸水性層2を設けなかったこと以外は同様にして、吸水性フィルムDを得た。
【実施例5】
【0037】
<比較例2>
実施例1において、蒸着薄膜層3を設けなかったこと以外は同様にして、吸水性フィルムFを得た。
実施例1〜3、比較例1,2で得られた吸水性フィルムA〜Fでの酸素透過度(ml/m2/24hr/atm)、水蒸気透過度(g/m2/day/atm)、吸湿率(%=(吸湿後重量―吸湿前重量)/吸湿前重量*100)、吸水率(%=(吸水後重量―吸水前重量)/吸水前重量*100)の評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0038】
<測定条件>
・酸素透過度:MOCON法、30℃−70%RH
・水蒸気透過度:MOCON法、40℃−90%RH
・吸湿率:得られたA〜Dの各フィルムを内寸10cm四方に切りだし、40℃−90%RH環境下に1週間間保存し、保存前後の重量から求めた。
・吸水率:得られたA〜Dの各フィルムを内寸10cm四方に切りだし、10分間蒸留水に浸漬し,取り出した後濾紙で水滴を除き、重量を測定した。
【0039】
以下に表を示す。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明は、水蒸気バリア性を必要とする食品、医薬品、農薬、化粧品、トイレタリー用品などの各種包装材料に関する産業に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の積層体の構成の一例を示す断面図である。
【図2】本発明である吸水性フィルムの断面図の一例である。
【符号の説明】
【0043】
1 ……基材
2 ……吸水性層
3 ……蒸着薄膜層
4 ……シーラント層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルム基材の少なくとも片面に、吸水剤を主成分とする吸水性層、その上に無機酸化物からなる蒸着薄膜層を設けたことを特徴とする調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルム。
【請求項2】
プラスチックフィルム基材の少なくとも片面に、無機酸化物からなる蒸着薄膜層、その上に吸水剤を主成分とする吸水性層を設けたことを特徴とする調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルム。
【請求項3】
前記吸水性層がコーテイングにより設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルム。
【請求項4】
前記高分子組成物が、食用糖類、ポリアルキレンオキシド、架橋ポリアクリル酸及びその塩から選ばれ、これを主成分することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルム。
【請求項5】
前記無機酸化物からなる蒸着薄膜層が、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム或いはそれらの混合物であり、その厚みが5〜300nmであることを特徴とする請求項1乃至4記載のの何れかに調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルム。
【請求項6】
前記請求項1乃至5の何れかに記載の調湿可能な水蒸気バリア性を持った吸水性フィルムを用いた包装材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−27204(P2006−27204A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212677(P2004−212677)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】