説明

吸湿時に通気性が低下する織編物および繊維製品

【課題】吸湿時に捲縮率が向上する繊維を用いてなる、吸湿時に通気性が低下する織編物および該織編物を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】吸湿時に通気性が低下する織編物であって、下記(1)と(2)の要件を同時に満足する捲縮繊維Aを含むことを特徴とする吸湿時に通気性が低下する織編物。
(1)捲縮繊維Aが、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型に接合された複合繊維である。
(2)吸湿時における捲縮繊維Aの捲縮率HCと、乾燥時における捲縮繊維Aの捲縮率DCとの差(HC−DC)が0.5%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿時に織編物の通気性が可逆的に低下する織編物、および該織編物を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
吸湿時と乾燥時とで織編物の空隙率が可逆的に変化することにより通気性が可逆的に変化する織編物は感湿布帛とも称され、近年種々提案されている。例えば、吸湿時に通気性が低下する織編物としては、ポリエステル成分とポリアミド成分がサイドバイサイド型に接合された複合繊維であって、吸湿時に捲縮率が低下する(みかけ長さが長くなる。)繊維を用いた織編物(例えば、特許文献1参照)や、吸水自己伸長糸を用いたもの(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
【0003】
これらの吸湿時に通気性が低下する織編物によれば、かかる織編物を用いた衣服を着用すると、雨や雪が衣服にかかった際に衣服の通気性が低下することにより保温性が向上したり、耐漏水性が向上するという効果が得られる。
なお、本出願人は、特願2007−183224号において、吸湿時に捲縮率が向上する捲縮繊維を提案した。
【0004】
【特許文献1】特開2006−118062号公報
【特許文献2】特開2005−060918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、吸湿時に捲縮率が向上する(みかけ長さが短くなる。)繊維を用いてなる、吸湿時に通気性が低下する織編物および該織編物を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリエステル成分とポリアミド成分がサイドバイサイド型に接合された複合繊維において、ポリエステル成分を特定の共重合ポリエステルで形成することにより、吸湿時に捲縮率が向上する(みかけ長さが短くなる。)繊維が得られること、また、かかる複合繊維を用いて織編物を織編成すると吸湿時に通気性が低下する織編物が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「吸湿時に通気性が低下する織編物であって、下記(1)と(2)の要件を同時に満足する捲縮繊維Aを含むことを特徴とする吸湿時に通気性が低下する織編物。」が提供される。
(1)捲縮繊維Aが、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型に接合された複合繊維である。
(2)吸湿時における捲縮繊維Aの捲縮率HCと、乾燥時における捲縮繊維Aの捲縮率DCとの差(HC−DC)が0.5%以上である。
【0008】
ただし、乾燥時とは、試料を温度20℃、湿度65%RH環境下に24時間放置した後の状態であり、一方、吸湿時とは、試料を温度20℃、湿度90%RH環境下に24時間放置した後の状態である。
【0009】
その際、前記ポリエステル成分が、ポリエステルを構成する繰り返し単位中60〜99.9モル%をエチレンテレフタレート単位が占め、0.5〜40モル%をエチレンイソフタレート単位が占める共重合ポリエステルからなり、かつ該ポリエステル成分にポリエーテルエステルアミドがポリエステル重量に対して5〜55重量%含まれることが好ましい。
【0010】
また、本発明の織編物において、他の繊維として、非捲縮または吸湿時に捲縮率が変化しない捲縮を有する繊維Bが含まれることが好ましい。かかる繊維Bしてはポリエステル繊維であることが好ましい。また、かかる繊維Bが単糸繊度1dtex以下かつ単糸数30本以上のマルチフィラメントであることが好ましい。また、かかる繊維Bが破断伸度300%以上の弾性繊維であることが好ましい。
【0011】
またその際、前記捲縮繊維Aと繊維Bとが引き揃えられて、織物の経糸および/または緯糸、または編物に配されていることが好ましい。また、前記捲縮繊維Aと繊維Bとが織編物の構成糸条として、両者が交互に配されていることが好ましい。また、前記捲縮繊維Aと繊維Bとが、捲縮繊維Aが芯部に位置しかつ繊維Bが鞘部に位置する芯鞘型複合糸として織編物に含まれることが好ましい。また、織編物が2層以上の多層構造を有する多層構造織編物であって、少なくとも1層において該層を構成する総繊維重量のうち30重量%以上が前記捲縮繊維Aであることが好ましい。
【0012】
本発明の織編物において、織編物が下記に定義するカバーファクターCFが2000〜4500の範囲内の織物であることが好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0013】
また、織編物が、40ウエール/2.54cm以上かつ50コース/2.54cm以上の編物であることが好ましい。また、織編物に加熱加圧加工が施されていることが好ましい。また、織編物に撥水加工が施されていることが好ましい。また、乾燥時における織編物の通気性が50cc/cm/s以下であることが好ましい。また、下記式で定義する、吸湿時における織編物の通気性低下率が10%以上であることが好ましい。
通気性低下率(%)=(APD−APH)/APD×100
ただし、APDは乾燥時における織編物の通気性(cc/cm/s)であり、APHは吸湿時における織編物の通気性(cc/cm/s)である。
【0014】
また、織編物の漏水性が2000cc以下であることが好ましい。ただし、漏水性はJIS L 1092、6.3(雨試験A法)のブンデスマン雨試験装置を用いて、総水量7L/minに設定し10分間の漏水量を測定するものとする。
また、本発明によれば、前記の織編物を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、およびインナー用衣料からなる群より選択される繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吸湿時に捲縮率が向上する(みかけ長さが短くなる。)繊維を用いてなる、吸湿時に通気性が低下する織編物および該織編物を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の織編物は、下記(1)と(2)の要件を同時に満足する捲縮繊維Aが含まれることにより、吸湿時に捲縮繊維Aの捲縮率が向上することにより、捲縮繊維Aのみかけ長さが短くなる。その結果、吸湿時に織編物全体の面積が小さくなるため、織編物の空隙率が低下し織編物の通気性が低下する。一方、乾燥時には、捲縮繊維Aの捲縮率が低下することにより、捲縮繊維Aのみかけ長さが長くなる。その結果、乾燥時に織編物全体の面積が大きくなるため、織編物の空隙率が増大し織編物の通気性が向上する。
(1)捲縮繊維Aが、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型に接合された複合繊維である。
(2)吸湿時における捲縮繊維Aの捲縮率HCと、乾燥時における捲縮繊維Aの捲縮率DCとの差(HC−DC)が0.5%以上(好ましくは5%以上)である。
【0017】
ただし、乾燥時とは、試料を温度20℃、湿度65%RH環境下に24時間放置した後の状態であり、一方、吸湿時とは、試料を温度20℃、湿度90%RH環境下に24時間放置した後の状態である。
【0018】
ここで、吸湿時における捲縮繊維Aの捲縮率HCと、乾燥時における捲縮繊維Aの捲縮率DCとの差(HC−DC)が0.5%未満では、吸湿時に織編物の通気性があまり低下せず好ましくない。なお、乾燥時における捲縮繊維Aの捲縮率DCとしては50〜80%の範囲内であることが好ましい。一方、吸湿時における捲縮繊維Aの捲縮率HCとしては60〜90%の範囲内であることが好ましい。
【0019】
前記捲縮繊維Aとしては、以下のようなポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型に接合された複合繊維であって、潜在捲縮性能が発現してなる捲縮構造を有する捲縮繊維であることが好ましい。
【0020】
すなわち、前記ポリアミド成分としては、主鎖中にアミド結合を有するポリマーであり、例えばナイロン4、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66等が挙げられる。特にコスト面、汎用性、製糸性等の観点からナイロン6、ナイロン66が好ましい。なお、これらのポリアミド成分をベースに公知の成分を共重合せしめても良く、又はこれらのポリアミド成分に酸化チタンやカーボンブラック等の顔料、公知の抗酸化剤、帯電防止剤、耐光剤等を含有させても良い。
【0021】
一方、前記ポリエステル成分は、そのポリエステルを構成する繰り返し単位中60〜99.5モル%をエチレンテレフタレート単位が占め、0.5〜40モル%をエチレンイソフタレート単位が占める共重合ポリエステルから構成されることが好ましい。通常、ポリエステルの熱収縮率はポリアミドよりもかなり低いが、ポリエステルとしてこのような共重合ポリエステルを採用することによりポリエステルの熱収縮率をポリアミドに近づけることが可能となる。その結果、乾燥時の捲縮曲がり構造において、吸湿時の捲縮曲がり構造において、膨潤したポリアミド成分が外側に位置し、ポリエステル成分が内側に位置する構造になりやすくなり捲縮率が向上しやすい。ここで、エチレンテレフタレート単位が60モル%未満であると、得られる複合繊維の強伸度等の基本物性が十分に保持できないため好ましくない。エチレンテレフタレート単位が99.5モル%を超えたり、エチレンイソフタレートが0.5モル%未満であると、複合繊維が吸湿したときに捲縮率があまり向上せず(捲縮糸の見かけ長さが短くならず)、布帛にしたときに十分な通気性の低下が得られないおそれがある。エチレンイソフタレートが40モル%を越えると、複合繊維の強伸度等の基本物性が保持できず、また熱安定性にも劣り、製糸工程において分解性異物により紡糸口金部の濾過圧(パック圧)上昇が著しくなるおそれがある。
【0022】
かかるポリエステルは任意の方法で製造されたものでよく、例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させる、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとを直接エステル化反応させる、又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるなどして、テレフタル酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させる。次いでこの生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造される。
【0023】
なお、このポリエステルは、ポリエステルを構成するエチレンテレフタレート成分及びエチレンイソフタレート成分以外に、第三成分が共重合されていてもよく、第三成分は、ジカルボン酸成分又はグリコール成分のいずれでもよい。かかるジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族ジカルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸の如き二官能性脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を挙げることができる。また上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分で置き換えてもよく、かかるグリコール成分としては例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール,ビスフェノールA,ビスフェノールS、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−(2−ハイドロキシエトキシ)フェニル)プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。更に、上述のポリエステルに必要に応じて他のポリマーを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸等の鎖分岐剤を少量使用したものであってもよい。このほか本発明のポリエステルは通常のポリエステルと同様に二酸化チタン、カーボンブラック等の顔料他、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤が添加されていても勿論良い。
【0024】
該ポリエステル成分にはポリエーテルエステルアミドが含まれることが好ましい。ポリエステル成分にポリエーテルエステルアミドが含まれていると、ポリエステル成分が柔らかくなり、吸湿時において、ポリアミド成分が膨潤する際にポリエステル成分が追従しやすくなり、吸湿時に捲縮率が向上しやすくなるため好ましい。該ポリエーテルエステルアミドのポリエステル成分への添加量はポリエステル成分重量に対して5〜55重量%であることが好ましい。5重量%未満では、複合繊維が吸湿したときに、捲縮率があまり向上せず(捲縮繊維の見かけ長さが短くなりにくく)、布帛にしたときに十分な通気性の低下が得られないおそれがある。また、55重量%を超えると、安定的に紡糸ができなくなるおそれがある。
【0025】
該ポリエーテルエステルアミドは、好ましくは、両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5,000のポリアミド(a)と数平均分子量1,600〜3,000のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(b)から誘導される。「誘導」とは両成分を反応させて得られるの意味であり、共重合して得られるとも捉えることができる。
【0026】
両末端にカルボキシル基を有するポリアミド(a)は、ポリアミド部分と分子量調節剤からなる事が好ましい。そのポリアミド部分は(1)ラクタム開環重合体、(2)アミノカルボン酸の重縮合体、若しくは(3)ジカルボン酸とジアミンの重縮合体の少なくともいずれか1つからなる。このうち、(1)のラクタムとしては、ブチロラクタム、バレロラクタム、カプロラクタム、エナントラクタム、ラウロラクタム、ウンデカノラクタムなどが挙げられる。(2)のアミノカルボン酸としては、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノペルゴン酸、ω−アミノカプリン酸,11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などが挙げられる。(3)のジカルボン酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジ酸、ドデカンジ酸,イソフタル酸などが挙げられる。また(3)のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミンなどが挙げられる。以上これらのラクタム、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンを総称してポリアミド部分形成性モノマーと称する。
【0027】
上記の両末端にカルボキシル基を有するポリアミド(a)のポリアミド部分形成性モノマーとして例示したものは、2種以上を併用してもよい。これらのうち好ましいものは、カプロラクタム,12−アミノドデカン酸及びアジピン酸−ヘキサメチレンジアミンであり、特に好ましいものは、カプロラクタムである。
【0028】
上記の両末端にカルボキシル基を有するポリアミド(a)は、更に炭素数4〜20のジカルボン酸成分を分子量調整剤として使用し、これの存在下に上記ポリアミド部分形成性モノマーを常法により開環重合あるいは重縮合させることによって得られる。炭素数4〜20のジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジ酸、若しくはドデカンジ酸などの脂肪酸ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、若しくはナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、若しくはジシクロヘキシル−4,4−ジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸;又は5−スルホイソフタル酸ナトリウム、若しくは5−スルホイソフタル酸カリウムなどの5−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩などが挙げられる。これらのうち、好ましいものは、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び5−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩である。より好ましいものはアジピン酸、テレフタル酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウムである。
【0029】
ポリアミド部分形成性モノマーを常法により開環重合あるいは重縮合させる際には、その平均重合度は2〜10である場合が好ましく、より好ましくは平均重合度が3〜8である。その結果このポリアミド部分の数平均分子量は100〜1,000、より好ましくは300〜700である。
【0030】
更に上記両末端にカルボキシル基を有するポリアミド(a)は、分子量調整剤である炭素数4〜20のジカルボン酸成分の両末端にポリアミド部分が付与されている成分、片末端にポリアミド部分が付与されている成分、又は両末端にポリアミド部分が付与されている成分及び片末端にポリアミド部分が付与されている成分の混合物であっても良い。混合物である場合には、片末端にポリアミド部分が付与されている成分が1モルに対して、両末端にポリアミド部分が付与されている成分が1〜10モルとなるモル比が好ましい。より好ましくは片末端に付与されている成分1モルに対して、両末端に付与されている成分3〜8モルである。そして両末端にカルボキシル基を有するように上述のポリアミド部分形成性モノマーのカルボキシル基を有する成分の量を適宜調整する。ポリアミド部分形成性モノマーとしてラクタム及び/又はアミノカルボン酸のみ使用するならば分子量調節剤がジカルボン酸成分なので、容易に両末端がカルボキシル基を有するポリアミド(a)を
製造することができる。ポリアミド部分形成性モノマーとしてジカルボン酸とジアミンの重縮合体を用いる場合には、例えば重合体の最後にジカルボン酸を改めて反応させる等の方法を用いる事で両末端がカルボキシル基を有するポリアミド(a)を製造することができる。
【0031】
上記両末端にカルボキシル基を有するポリアミド(a)の数平均分子量は、通常、500〜5,000、好ましくは500〜3,000である。数平均分子量が500未満ではポリエーテルエステルアミド自体の耐熱性が低下し、一方、5,000を超えると反応性が低下するためポリエーテルエステルアミド製造時に多大な時間を要する。数平均分子量をこの範囲とするためには、分子量調節剤となる炭素数4〜20のジカルボン酸成分の選択、ポリアミド部分の重合の際における反応条件を適宜設定することによって可能となる。
【0032】
また、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(b)において、ビスフェノール類としては、ビスフェノールA(4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン)、ビスフェノールF(4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン)、ビスフェノールS(4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン)及び4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタンなどが挙げられ、これらのうちビスフェノールAが好ましい。
【0033】
上記のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(b)は、これらのビスフェノール類にエチレンオキシドを常法により付加させることにより得られる。また、エチレンオキシドと共に他のアルキレンオキシド(プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,4−ブチレンオキシドなど)を併用することもできるが、他のアルキレンオキシドの用いる量は用いる全エチレンオキシドの重量に基づいて、通常、10重量%以下である。
【0034】
また上記付加物(b)はビスフェノール類の2つのヒドロキシル基に対して、平均で20〜70モルのエチレンオキシド、他のアルキレンオキシド(以下、エチレンオキシド等という)が重合されている場合が好ましい。より好ましくは32〜60モルのエチレンオキシド等が重合されている場合である。すなわちビスフェノールの1つのヒドロキシル基に対して10〜35モル、より好ましくは16〜30モル、更に好ましくは16〜20モルのエチレンオキシド等が重合(付加)されている付加物であることである。
【0035】
上記付加物(b)の数平均分子量は、通常、1,600〜3,000であり、特にエチレンオキシド付加モル数が32〜60のものを使用することが好ましい。数平均分子量が1,600未満では、帯電防止性が不十分となり、一方、3,000を超えると反応性が低下するためポリエーテルエステルアミド製造時に多大な時間を要する。数平均分子量は、好ましくは1,800〜2,400、エチレンオキシド等の付加モル数は、さらに好ましくは32〜40である。数平均分子量をこの範囲にするには、ビスフェノール類の分子量を考慮したうえで、エチレンオキシド等の付加モル数をその調整することにより達成する事ができる。
【0036】
以上の付加物(b)は、ポリエーテルエステルアミド中の上記(a)と(b)の合計重量に基づいて20〜80重量%の範囲で用いられる。付加物(b)の量が20重量%未満ではポリエーテルエステルアミドの帯電防止性が劣り、一方、80重量%を超えるとポリエーテルエステルアミドの耐熱性が低下するために好ましくない。より好ましくは、付加物(b)は上記(a)と(b)の合計重量に基づいて40〜70重量%の範囲で用いられる。
【0037】
本発明に用いられるポリエーテルエステルアミドの相対粘度は、1.5〜3.5(0.5重量%、m−クレゾール溶液、25℃)、好ましくは、2.0〜3.0である。1.5未満では、混練するベースポリマー成分(ポリアミド成分及びポリエステル成分)との溶融粘度差が大きくなるために導管内や紡糸パック内で滞留しやすくなり、長時間にわたる紡糸を実施すると吐出異常が起こりやすく、得られる複合繊維の品質が安定しない。一方、3.5を超える範囲では、製糸の際の断糸の原因となる。
【0038】
該ポリエーテルエステルアミドのポリアミド成分への添加量は0重量%が最適である。少量でも添加すると、ポリアミド成分の吸湿伸長性が低下し、本発明の目的である吸湿時に捲縮が発現してみかけ糸長が縮むという機能が損なわれる。
【0039】
前記のサイドバイサイド型複合繊維においては、任意の繊度、断面形状、複合形態をとることができるが、単糸繊度としては、1.5〜5.0dtex程度が適当である。さらに、本発明の複合繊維を中空複合繊維とすると湿度に対する感度も大きく、かつ嵩高性も大きくなる。また、ポリアミド成分とポリエステル成分の複合繊維の横断面における面積比は、ポリアミド成分/ポリエステル成分=30/70〜70/30の範囲が好ましく、より好ましくは40/60〜60/40の範囲である。
【0040】
前記の複合繊維を単糸数本のマルチフィラメントとした場合の、そのマルチフィラメントの総繊度は特に限定されないが、通常の衣料用素材として用いられる40〜200dtexの範囲で用いることができる。なお、必要に応じて交絡処理が施されていてもよい。
【0041】
前記の複合繊維は潜在捲縮性能を有しており、後記のように、染色加工等で熱処理を受けると潜在捲縮性能が発現する。そして吸湿時に、ポリアミド成分が膨潤、伸張し、ポリエステル成分はほとんど長さ変化を起こさないため、捲縮率が向上する(捲縮繊維Aの見かけの長さが短くなる。)。一方、乾燥時にはポリアミド成分が収縮し、ポリエステル成分はほとんど長さ変化を起こさないため、捲縮率が低下する(捲縮繊維Aの見かけの長さが長くなる。)。
【0042】
前記の捲縮繊維Aは、吸湿時に、容易に捲縮率が向上する上で、無撚糸、または300T/m以下の撚りが施された甘撚り糸であることが好ましい。特に、無撚糸であることが好ましい。強撚糸のように、強い撚りが付与されていると、吸湿時に捲縮率が向上しにくく好ましくない。なお、交絡数が20〜60ケ/m程度となるようにインターレース空気加工および/または通常の仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0043】
本発明の織編物において、前記の捲縮繊維Aが織編物重量に対して10重量%以上含まれていることが好ましい。織編物が前記の捲縮繊維Aのみで構成されていてもよいし、前記の捲縮繊維A以外に、他の繊維として非捲縮または吸湿時に捲縮率が変化しない捲縮を有する繊維Bが含まれていてもよい。かかる繊維Bは1種類でもよいし、2種類以上であってもよい。ここで、「吸湿時に捲縮率が変化しない」とは、吸湿時における捲縮率HCと乾燥時における捲縮率DCとの差(HC−DC)が0.5%未満のものをいう。
【0044】
かかる繊維Bとしては、ポリエチレンタレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、アクリル、パラ型もしくはメタ型アラミド、およびそれらの変性合成繊維、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、ポリウレタン系弾性糸、非吸水性ポリエーテルエステル系弾性糸、吸水性ポリエーテルエステル系弾性糸など衣料に適した繊維であれば自由に選択できる。なかでも、吸湿時の寸法安定性や、前記捲縮繊維Aとの相性(混繊性、交編・交織性、染色性)の点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンタレフタレートや、これらに前記共重合成分が共重合された変性ポリエステルからなるポリエステル繊維が好適である。また、繊維Bが、ポリウレタン系弾性糸、非吸水性ポリエーテルエステル系弾性糸、吸水性ポリエーテルエステル系弾性糸などの破断伸度300%以上の弾性繊維であると、弾性繊維の弾性回復性能を利用して織編物の密度を上げ、乾燥時の通気性を下げることができ好ましい。例えば、弾性繊維を伸長させた状態で織編物を製編織すると、弾性繊維の弾性回復作用により収縮するため織編物の密度が向上する。また、かかる繊維Bの単糸繊度、単糸数(フィラメント数)としては特に限定されないが、織編物の吸水性を高め、吸湿時に通気性を性能よく下げる上で、単糸繊度0.1〜5dtex(より好ましくは1dtex以下、さらに好ましくは0.1〜1dtex)、単糸数1〜200本(より好ましくは30本以上、さらに好ましくは30〜100本)の範囲内であることが好ましい。特に、単糸繊度1dtex以下かつ単糸数30本以上のマルチフィラメントが好ましい。また、交絡数が20〜60ケ/m程度となるようにインターレース空気加工および/または、捲縮率が5〜40%となるよう通常の仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0045】
本発明の織編物において、織編物の構造としては、その織編組織、層数は特に限定されるものではない。例えば、平織、綾織、サテンなどの織組織や、天竺、スムース、フライス、鹿の子、そえ糸編、デンビー、ハーフなどの編組織が好適に例示されるが、これらに限定されるものではない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層であってもよい。
【0046】
本発明の織編物において、前記の吸湿時に捲縮率が向上する捲縮繊維Aと、非捲縮または吸湿時に捲縮率が変化しない捲縮を有する繊維Bとが含まれる場合の、前記捲縮繊維Aと繊維Bの配置の好ましい実施態様について下記に説明する。
【0047】
まず、実施態様(1)において、前記捲縮繊維Aと繊維Bとが引き揃えられて、織物の経糸および/または緯糸、または編物に配されている。かかる構造では、吸湿時に捲縮繊維Aのみかけ長さが短くなるため、織編物の密度が向上し(空隙率が低下し)通気性が低下する。
【0048】
次に、実施態様(2)において、前記捲縮繊維Aと繊維Bとが織編物の構成糸条として、両者が交互に配されている。その際、捲縮繊維Aと繊維Bとが1本交互、複数本交互、1本:複数本交互、複数本:1本交互、これらの組合せなどいずれの配置であってもよい。かかる構造では、吸湿時に捲縮繊維Aのみかけ長さが短くなるため、織編物の密度が向上し(空隙率が低下し)通気性が低下する。
【0049】
次に、実施態様(3)において、前記捲縮繊維Aと繊維Bとが、捲縮繊維Aが芯部に位置しかつ繊維Bが鞘部に位置する芯鞘型複合糸として織編物に含まれる。かかる構造では、吸湿時に捲縮繊維Aのみかけ長さが短くなるため、織編物の密度が向上し(空隙率が低下し)通気性が低下する。
【0050】
次に、実施態様(4)において、織編物が2層以上の多層構造を有する多層構造織編物であって、少なくとも1層において該層を構成する総繊維重量のうち30重量%以上が前記捲縮繊維Aである。かかる構造では、吸湿時に捲縮繊維Aのみかけ長さが短くなるため、織編物の密度が向上し(空隙率が低下し)通気性が低下する。
【0051】
本発明の織編物は、例えば下記の製造方法によって容易に得ることができる。
まず、すなわち、前記のポリアミド成分とポリエステル成分とをサイドバイサイド型に複合紡糸する。その際、例えば、特開2000−144518号公報に記載されているような、高粘度成分側と低粘度成分側の吐出孔を分離し、かつ高粘度側の吐出線速度を小さくした(吐出断面積を大きくした)紡糸口金を用い、高粘度側吐出孔に溶融ポリエステルを通過させ低粘度側吐出孔側に溶融ポリアミドを通過させて接合させ、冷却固化させる方法によって紡糸糸条を得ることができる。なお本発明においては、この際に紡糸口金を適切に設計する事により、サイドバイサイド型の中空複合繊維としても良い。紡糸して得られた糸条は、一旦巻き取った後これを延伸して更に必要に応じて熱処理を行う、いわゆる別延方式のほか、未延伸糸を一旦巻き取らないで延伸して更に必要に応じて熱処理を行う、いわゆる直延方式のどちらの方法も採用することができる。上記紡糸における紡糸速度としては、例えば通常採用されている1000〜3500m/分程度の紡糸速度のものを採用することができる。また、延伸、熱処理は、延伸後の切断伸度が10〜60%、通常は20〜45%程度になるように条件を設定するのが、捲縮の発現、製織編性などから好ましい。
【0052】
次いで、前記複合繊維単独で用いるか、または前記複合繊維と、非捲縮または吸湿時に捲縮率が変化しない繊維Bとを同時に用いて織編物を織編成した後、染色加工を施し、染色加工の際の熱により前記複合繊維の潜在捲縮を発現させる(捲縮繊維Aとする)。
ここで、織編物を織編成する際、織編組織は特に限定されず、前述のものを適宜選定することができる。
【0053】
前記染色加工の温度としては100〜140℃(より好ましくは110〜135℃)、時間としてはトップ温度のキープ時間が5〜40分の範囲内であることが好ましい。かかる条件で、織編物に染色加工を施すことにより、前記複合繊維は、ポリエステル成分とポリアミド成分との熱収縮差により捲縮を発現する。
【0054】
染色加工が施された織編物には、通常、乾熱ファイナルセットが施される。その際、乾熱ファイナルセットの温度としては120〜200℃(より好ましくは140〜180℃)、時間としては1〜3分の範囲内であることが好ましい。かかる、乾熱ファイナルセットの温度が120℃よりも低いと、染色加工時に発生したシワが残り易く、また、仕上がり製品の寸法安定性が悪くなるおそれがある。逆に、該乾熱ファイナルセットの温度が200℃よりも高いと、染色加工の際に発現した複合繊維の捲縮が低下したり、繊維が硬化し生地の風合いが硬くなるおそれがある。
【0055】
かくして得られた織編物において、乾燥時の通気性を小さくして防風性や耐漏水性を高める上で織編物が下記に定義するカバーファクターCFが2000〜4500の範囲内の織物であるか、40ウエール/2.54cm以上(より好ましくは、50ウエール/2.54cm以上)かつ50コース/2.54cm以上(より好ましくは、60コース/2.54cm以上)の編物であることが好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0056】
また、織編物にさらに加熱加圧加工(カレンダー加工)や撥水加工を施すと、乾燥時の通気性が小さくなり防風性や耐漏水性が高まり好ましい。さらに、常法のアルカリ減量加工、吸水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0057】
かくして得られた織編物において、織編物中に吸湿時に捲縮率が向上する(みかけ長さが短くなる。)繊維が含まれているので、吸湿時に織編物の密度が向上し(空隙率が低下し)通気性が低下する。一方、乾燥時には織編物の密度が低下し(空隙率が向上し)通気性が向上する。
【0058】
その際、乾燥時における織編物の通気性が50cc/cm/s以下(好ましくは40cc/cm/s以下)であることが好ましい。また、下記式で定義する、吸湿時における織編物の通気性低下率が10%以上(好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上)であることが好ましい。
通気性低下率(%)=(APD−APH)/APD×100
ただし、APDは乾燥時における織編物の通気性(cc/cm/s)であり、APHは吸湿時における織編物の通気性(cc/cm/s)である。
【0059】
また、本発明の織編物は、吸湿時に織編密度が向上するため優れた耐漏水性を有する。その際、織編物の漏水性が2000cc以下であることが好ましい。
ただし、漏水性はJIS L 1092、6.3(雨試験A法)のブンデスマン雨試験装置を用いて、総水量7L/minに設定し10分間の漏水量を測定するものとする。
【0060】
また、本発明によれば、前記の織編物を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、およびインナー用衣料からなる群より選択される繊維製品が提供される。かかる繊維製品には前記の織編物が含まれ、吸湿時に通気性が低下するので、かかる繊維製品を着用すると、雨や雪が繊維製品にかかった際に繊維製品の保温性が向上したり、耐漏水性が向上するという効果が得られる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
【0062】
<固有粘度(IV)>
ポリエチレンテレフタレートについては、サンプルを一定量計量し、o−クロロフェノールを溶媒に用いて、常法に従って35℃にて求めた。ナイロン6については、同様にフェノール/テトラクロロエタンの等質量混合溶媒を用いて、30℃にて測定を行った。
【0063】
<数平均分子量>
両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5,000のポリアミド(a)部分及びビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物(b)部分の数平均分子量は測定サンプルを重トリフルオロ酢酸/重クロロホルムの等質量の混合溶媒に溶解してNMRを測定した。その測定結果から、それぞれ部分の繰り返し単位を特定し、その結果から数平均分子量を求めた。
【0064】
<ポリエーテルエステルアミドの重量比率>
複合繊維製造時にギヤポンプによる条件を調整することによって制御する事ができるが、複合繊維を形成するポリアミド部分、ポリエステル部分を(7)に記載の方法に準じてNMR測定を行うことによっても、その結果を解析することによりポリアミド成分中又はポリエステル成分中のポリエーテルエステルアミドの重量比率を算出する事ができる。
【0065】
<織編物中の糸の捲縮率>
織編物を温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中に24時間放置した後、該織編物から、30cm×30cmの小片を裁断する(n数=5)。続いて、各々の小片から、吸湿により捲縮量が変化する糸(変性ポリエステルとポリアミドのサイドバイサイド型複合繊維)を取り出し、49/50mN×9×トータルテックス(100mg/de)の荷重をかけて糸長L0を測定し、除重1分後49/50mN×9×4/1000×トータルテックス(0.4mg/de)の荷重をかけて糸長L1を測定する。更にこの糸を温度20℃、湿度90%RHの雰囲気中に24時間放置した後、49/50mN×9×トータルテックス(100mg/de)の荷重をかけて糸長L0’を測定し、除重1分後49/50mN×9×4/1000×トータルテックス(0.4mg/de)の荷重をかけて糸長L1’を測定する。
以上の測定数値から下記の計算式にて、乾燥時の捲縮率(DC)、吸湿時の捲縮率(HC)および吸湿時と乾燥時との捲縮率差を算出する。
乾燥時の捲縮率DC(%)={(L0−L1)/L0}×100
吸湿時の捲縮率HC(%)={(L0’−L1’)/L0’}×100
吸湿時と乾燥時との捲縮率差(%)=HC−DC
【0066】
<通気性>
JIS L 1096−1998、6.27.1、A法(フラジール形通気性試験機法)により温度20℃、湿度65%RHに24時間放置し調湿した編地と、温度20℃、湿度90%RHに24時間放置し調湿した編地について、それぞれ通気性を測定(n数=5)し、次式により通気性低下率を算出した。
通気性低下率(%)=(APD−APH)/APD×100
ただし、APDは温度20℃、湿度65%RHにおける通気性であり、APHは温度20℃、湿度90%RHにおける通気性である。
【0067】
<漏水性>
JIS L 1092、6.3(雨試験A法)のブンデスマン雨試験装置を用いて、総水量7L/minに設定し10分間の漏水量を測定する
【0068】
<仮撚捲縮加工糸の捲縮率>
供試フィラメント糸条を、周長が1.125mの検尺機のまわりに巻きつけて、乾繊度が3333dtexのかせを調製した。
前記かせを、スケール板の吊り釘に懸垂して、その下部分に5.9cN(6gr)の初荷重を付加し、さらに588cN(600gr)の荷重を付加したときのかせの長さL0を測定する。その後、直ちに、前記かせから荷重を除き、スケール板の吊り釘から外し、このかせを沸騰水中に30分間浸漬して、捲縮を発現させる。沸騰水処理後のかせを沸騰水から取り出し、かせに含まれる水分をろ紙により吸収除去し、室温において24時間風乾する。この風乾されたかせを、スケール板の吊り釘に懸垂し、その下部分に、588cN(600gr)の荷重をかけ、1分後にかせの長さL1aを測定し、その後かせから荷重を外し、1分後にかせの長さL2aを測定する。供試フィラメント糸条の捲縮率(CP)を、下記式により算出する。
CP(%)=((L1a−L2a)/L0)×100
【0069】
[実施例1]
固有粘度(IV)が1.1のナイロン6(Ny6)と、ポリエーテルエステルアミド(ポリアミド(a)部分の数平均分子量1500、エチレンオキサイド付加物(b)部分の数平均分子量2000、相対粘度2.2)を40重量%添加したイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートチップ(イソフタル酸共重合比率0.5モル%、IV=0.65)とを常法により、紡糸温度290℃、紡糸速度1000m/minで紡糸し、ついで巻き取ることなく延伸温度60℃、延伸倍率2.5倍で延伸し、さらに130℃で熱セットして糸状を得た。ナイロン6とポリエーテルエステルアミドをブレンドしたポリエチレンテレフタレートとの重量比が50:50でサイドバイサイド型に接合された、56dtex/24filの複合繊維を得た。
【0070】
次に、36ゲージのトリコット編機を用いて、フロント筬に上記複合繊維(沸水処理されておらず、捲縮は発現していない。無撚糸)をフルセットし、バック筬に33dtex/36filのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(捲縮率20%)をフルセットし、フロント10−23、バック12−10のハーフ組織で、機上コース数96コース/2.54cmの編条件にてトリコット編地を編成した。得られた編地を130℃、キープ時間15分で染色加工し、複合繊維の潜在捲縮性能を顕在化させた後、100℃の温度で乾燥させ、次いで160℃、時間1分で乾熱ファイナルセットを行った。得られた編地の評価結果は表1に示す通りで、乾燥時の通気性39cc/cm/s、吸湿時の通気性22cc/cm/s、通気性の低下率44%と吸湿時に通気性が低下し、耐漏水性も1190ccで撥水加工無しの編地としては耐漏水性が高い編地が得られた。該編地において密度は70ウエール/2.54cm、79コース/2.54cmであった。また、編地から抜き取った複合繊維において、乾燥時の捲縮率DCが64%、吸湿時の捲縮率HCが77%、乾燥時と湿潤時の捲縮率差(HC−DC)が13%であった。
次いで、該編物を用いてTシャツ(スポーツ用衣料)を得て着用したところ、雨があたった時に通気性が低下し、快適であった。
【0071】
[実施例2]
実施例1において、編地を染色加工した後、フッ素樹脂系撥水加工処理液を用いてパデイング処理し、100℃の温度で乾燥させた後、温度160℃、時間1分で乾熱ファイナルセットを施した後、ロールカレンダー(由利ロール(株)製)機にてローラー温度160℃、ニップ圧588N/cm(60kgf/cm)にて加熱加圧加工して得られた編地の評価結果を表1に示す。乾燥時の通気性8cc/cm/s、吸湿時の通気性5cc/cm/s、通気性の低下率38%と吸湿時に通気性が低下し、耐漏水性も27cc耐漏水性が非常に高い編地が得られた。また、編地から抜き取った複合繊維において、乾燥時の捲縮率DCが62%、吸湿時の捲縮率HCが73%、乾燥時と湿潤時の捲縮率差(HC−DC)が11%であった。
【0072】
[実施例3]
36ゲージのトリコット編機を用いて、フロント筬に実施例1で用いた33dtex/36filのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(捲縮率20%)をフルセットし、バック筬に実施例1で用いた複合繊維56dtex/24filをフルセットし、フロント10−23、バック12−10のハーフ組織で、機上コース数106コース/2.54cmの編条件にてトリコット編地を編成した。得られた編地を130℃、キープ時間15分で染色加工し、複合繊維の潜在捲縮性能を顕在化させた後、100℃の温度で乾燥させ、次いで160℃、時間1分で乾熱ファイナルセットを行った。得られた編地の評価結果は表1に示す通りで、乾燥時の通気性17cc/cm/s、吸湿時の通気性12cc/cm/s、通気性の低下率29%と吸湿時に通気性が低下し、耐漏水性も1475ccで撥水加工無しの編地としては耐漏水性が高い編地が得られた。また、編地から抜き取った複合繊維において、乾燥時の捲縮率DCが65%、吸湿時の捲縮率HCが79%、乾燥時と湿潤時の捲縮率差(HC−DC)が14%であった。
【0073】
[実施例4]
実施例3において、編地を染色加工した後、フッ素樹脂系撥水加工処理液を用いてパデイング処理し、100℃の温度で乾燥させた後、温度160℃、時間1分で乾熱ファイナルセットを施した後、ロールカレンダー(由利ロール(株)製)機にてローラー温度160℃、ニップ圧588N/cm(60kgf/cm)にて加熱加圧加工して得られた編地の評価結果を表1に示す。乾燥時の通気性3cc/cm/s、吸湿時の通気性2cc/cm/s、通気性の低下率33%と吸湿時に通気性が低下し、耐漏水性も5cc耐漏水性が非常に高い編地が得られた。また、編地から抜き取った複合繊維において、乾燥時の捲縮率DCが61%、吸湿時の捲縮率HCが70%、乾燥時と湿潤時の捲縮率差(HC−DC)が9%であった。
【0074】
[比較例1]
36ゲージのトリコット編機を用いて、フロント筬に収縮率の異なる2種のポリエステルが50:50でサイドバイサイド型に接合された56dtex/24filの捲縮複合繊維をフルセットし、バック筬に実施例1で用いた33dtex/36filのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(捲縮率20%)をフルセットし、フロント10−23、バック12−10のハーフ組織で、機上コース数96コース/2.54cmの編条件にてトリコット編地を編成した。得られた編地を130℃、キープ時間15分で染色加工し、複合繊維の潜在捲縮性能を顕在化させた後、100℃の温度で乾燥させ、次いで160℃、時間1分で乾熱ファイナルセットを行った。得られた編地の評価結果は表1に示す通りで、乾燥時の通気性42cc/cm/s、吸湿時の通気性41cc/cm/s、通気性の変化率2%と吸湿時に通気性はほとんど変化せず、耐漏水性も3240ccと撥水加工無しの編地として通常レベルの耐漏水性の編地が得られた。また、編地から抜き取った複合繊維において、乾燥時の捲縮率DCが58%、吸湿時の捲縮率HCが58%、乾燥時と湿潤時の捲縮率差(HC−DC)が0%であった。
【0075】
[比較例2]
比較例1において、編地を染色加工した後、フッ素樹脂系撥水加工処理液を用いてパデイング処理し、100℃の温度で乾燥させた後、温度160℃、時間1分で乾熱ファイナルセットを施した後、ロールカレンダー(由利ロール(株)製)機にてローラー温度160℃、ニップ圧60kgf/cmにて加熱加圧加工して得られた編地の評価結果を表1に示す。乾燥時の通気性14cc/cm/s、吸湿時の通気性14cc/cm/s、通気性の低下率0%と吸湿時に通気性は変化せず、耐漏水性も120ccと撥水加工品としては通常レベルの耐漏水性の編地が得られた。また、編地から抜き取った複合繊維において、乾燥時の捲縮率DCが56%、吸湿時の捲縮率HCが56%、乾燥時と湿潤時の捲縮率差(HC−DC)が0%であった。
【0076】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、吸湿時に捲縮率が向上する(みかけ長さが短くなる。)繊維を用いてなる、吸湿時に通気性が低下する織編物および該織編物を用いてなる繊維製品が提供される。かかる繊維製品を着用すると、降雨時や降雪時に通気性が低下することにより保温性が向上し、また、衣服内への水の浸入が抑制できるといった効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿時に通気性が低下する織編物であって、下記(1)と(2)の要件を同時に満足する捲縮繊維Aを含むことを特徴とする吸湿時に通気性が低下する織編物。
(1)捲縮繊維Aが、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型に接合された複合繊維である。
(2)吸湿時における捲縮繊維Aの捲縮率HCと、乾燥時における捲縮繊維Aの捲縮率DCとの差(HC−DC)が0.5%以上である。
ただし、乾燥時とは、試料を温度20℃、湿度65%RH環境下に24時間放置した後の状態であり、一方、吸湿時とは、試料を温度20℃、湿度90%RH環境下に24時間放置した後の状態である。
【請求項2】
前記ポリエステル成分が、ポリエステルを構成する繰り返し単位中60〜99.9モル%をエチレンテレフタレート単位が占め、0.5〜40モル%をエチレンイソフタレート単位が占める共重合ポリエステルからなり、かつ該ポリエステル成分にポリエーテルエステルアミドがポリエステル重量に対して5〜55重量%含まれる、請求項1に記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項3】
織編物に他の繊維として、非捲縮または吸湿時に捲縮率が変化しない捲縮を有する繊維Bが含まれる、請求項1または請求項2に記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項4】
前記繊維Bがポリエステル繊維である、請求項3に記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項5】
前記繊維Bが単糸繊度1dtex以下かつ単糸数30本以上のマルチフィラメントである、請求項3に記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項6】
前記繊維Bが破断伸度300%以上の弾性繊維である、請求項3に記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項7】
前記捲縮繊維Aと繊維Bとが引き揃えられて、織物の経糸および/または緯糸、または編物に配されている、請求項3に記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項8】
前記捲縮繊維Aと繊維Bとが織編物の構成糸条として、両者が交互に配されている、請求項3に記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項9】
前記捲縮繊維Aと繊維Bとが、捲縮繊維Aが芯部に位置しかつ繊維Bが鞘部に位置する芯鞘型複合糸として織編物に含まれる、請求項3に記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項10】
織編物が2層以上の多層構造を有する多層構造織編物であって、少なくとも1層において該層を構成する総繊維重量のうち30重量%以上が前記捲縮繊維Aである、請求項1〜3のいずれかに記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項11】
織編物が下記に定義するカバーファクターCFが2000〜4500の範囲内の織物である、請求項1〜10のいずれかに記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【請求項12】
織編物が、40ウエール/2.54cm以上かつ50コース/2.54cm以上の編物である、請求項1〜10のいずれかに記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項13】
織編物に加熱加圧加工が施されている、請求項1〜12のいずれかに記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項14】
織編物に撥水加工が施されている、請求項1〜13のいずれかに記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項15】
乾燥時における織編物の通気性が50cc/cm/s以下である、請求項1〜14のいずれかに記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
【請求項16】
下記式で定義する、吸湿時における織編物の通気性低下率が10%以上である、請求項1〜15のいずれかに記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
通気性低下率(%)=(APD−APH)/APD×100
ただし、APDは乾燥時における織編物の通気性(cc/cm/s)であり、APHは吸湿時における織編物の通気性(cc/cm/s)である。
【請求項17】
織編物の漏水性が2000cc以下である、請求項1〜16のいずれかに記載の吸湿時に通気性が低下する織編物。
ただし、漏水性はJIS L 1092、6.3(雨試験A法)のブンデスマン雨試験装置を用いて、総水量7L/minに設定し10分間の漏水量を測定するものとする。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の織編物を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、およびインナー用衣料からなる群より選択される繊維製品。

【公開番号】特開2009−197356(P2009−197356A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38867(P2008−38867)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】