説明

吸着剤

【課題】 通水処理の如く動的吸着においても、吸着性能に優れる吸着剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の吸着剤は、細孔径が100Å以下の細孔容積に対して、
細孔径20Å〜100Åの細孔容積比率が5〜50%であり、
細孔径10Å以下の細孔容積比率が45%以上である多孔質炭素を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤に関するものであり、より詳細には、浄水用吸着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料水用の水道水には、殺菌のため塩素が添加されるが、残留塩素は、殺菌作用以外に有機物の酸化分解作用も有しており、発ガン性物質であるトリハロメタン類或いはその他の有機塩素系化合物を生成する。トリハロメタン類は、分子量が小さく比較的沸点が低いうえ、水道水中に含まれる濃度は極めて希薄である。このため、従来の活性炭では、これらの有害物質を十分除去することが困難であることから、一般に、吸着容量を高めるために比表面積の高い活性炭が使用されてきた。賦活方法としては、ガス賦活として水蒸気賦活されたものが圧倒的に多いが、近年では水酸化アルカリで賦活された薬品賦活も行われてきており、特定成分の吸着特性を得るために、細孔径分布の制御や表面性状の制御が検討されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、直径6〜8Åの細孔の100Å以下の細孔容積に対する割合が、65vol%以上である活性炭が開示され,静的吸着力である平衡吸着量が大きくなることが示されている。また、特許文献2には、表面酸性官能基が、0.1meq/g以下の活性炭が開示されている。表面酸性官能基量が多く親水性が高すぎると、水溶液中の吸着では水分子の吸着が優先され、有機塩素系化合物の吸着能を減少させるためとされている。
【0004】
ところで、近年、フラーレン、フラーレンを含有する煤やこれからフラーレンを抽出した残渣などの新たな炭素材料が注目されている。(例えば、非特許文献1)
【特許文献1】特開平9−110409号公報
【特許文献2】特開平8−281099号公報
【非特許文献1】Minato Egashira et al、“Carbon framework structure produced in the FUllerene related material(フラーレン関連物質に製造される炭素骨格構造)”“Carbon(炭素) 38(2000)615−621”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本来の通水処理では、動的吸着であるため、吸着容量は平衡吸着量より相当低くなってしまう。すなわち、通水処理では吸着速度が重要な要素となっている。例えば、特許文献1のように直径が6〜8Åの小さな細孔を形成させると、平衡吸着量は大きくなるものの、細孔内での拡散速度が非常に遅くなるので、通水処理では十分に吸着できないという課題がある。また、特許文献2のように表面酸性官能基を減少させてしまうと、従来のような細孔範囲での吸着剤では、水分子の細孔内での拡散速度が極端に遅くなり、通水処理では、水中のトリハロメタン類の吸着速度が極端に遅くなるという課題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、通水処理の如く動的吸着態様においても、吸着性能に優れる吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできた本発明の吸着剤とは、細孔径が100Å以下の細孔容積に対して、細孔径20Å〜100Åの細孔容積比率が5〜50%であり、細孔径10Å以下の細孔容積比率が45%以上である多孔質炭素を含有することを特徴とする。
【0008】
本発明において、細孔径が100Å以下の細孔容積に対して、細孔径20Å〜100Åの細孔容積比率を5〜50%とするのは、比較的大きな細孔の割合を高めて、動的吸着力を高めるためである。一方、静的吸着力である平衡吸着量を高める必要もあることから、静的平衡吸着量に有効な細孔径10Å以下の細孔容積比率を45%以上とする。上記のような構成とすることによって、静的吸着力と動的吸着力とを両立することができる。また、前記細孔径10Å以下の細孔容積比率の上限は85%とすることが好ましい。さらに、前記細孔径20Å〜100Åの細孔容積比率を5〜30%とすることも好ましい態様である。10Å以下の細孔容積と20Å〜100Åの細孔容積とを一定比率にすることによって、静的吸着力と動的吸着力のバランスが良好になるからである。また、前記多孔質炭素のBET比表面積は、350〜1450m2/gであることが好ましい。
【0009】
本発明で使用する多孔質炭素は、特異的な炭素質物質を賦活して得られる新たな多孔質炭素であり、フラーレン、フラーレン含有煤、及び、フラーレン含有煤からフラーレンの少なくとも一部を実質的に抽出して得られる抽出残渣物よりなる群から選択される少なくとも1種の炭素質物質を賦活して得られたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸着剤は、動的吸着力と静的吸着力との両方に優れる。特に、通水処理における浄水用吸着剤として好適であり、トリハロメタン類或いはその他の有機塩素系化合物を吸着するのに優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の吸着剤は、細孔径が100Å(10nm)以下の細孔容積に対して、細孔径20Å(2nm)〜100Å(10nm)の細孔容積比率が5〜50%であり、細孔径10Å(1nm)以下の細孔容積比率が45%以上である多孔質炭素を含有することを特徴とする。細孔径が20Å以上100Å以下の細孔は、被吸着物質の多孔質炭素内部への拡散速度を早めて、動的吸着力を高めるのに有効であると考えられるものであり、本発明では、細孔径が100Å以下の細孔容積に対する20Å〜100Åの細孔容積比率を5%以上とする。細孔径20Å〜100Åの細孔容積比率が低くなりすぎると、被吸着物質の多孔質炭素内部への拡散速度が低くなって、動的吸着力が低下する。一方、細孔径20Å〜100Åの細孔容積比率が高くなりすぎると、その反面で、静的吸着力(平衡吸着量)を高めるのに有効な比較的小さな細孔(例えば、細孔径10Å以下)の細孔容積比率が低下して、吸着量が低下する場合がある。そのため本発明では、細孔径が100Å以下の細孔容積に対する20Å〜100Åの細孔容積比率を50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下とする。
【0012】
また、多孔質炭素における細孔径10Å以下の細孔は、静的吸着力(平衡吸着量)を高めるのに有効であると考えられる細孔であり、本発明では、細孔径が100Å以下の細孔容積に対する10Å以下の細孔容積比率を45%以上とし、より好ましくは50%以上とする。細孔径10Å以下の細孔容積比率が45%未満であると、静的吸着力(平衡吸着量)が低下しすぎるからである。一方、細孔径が100Å以下の細孔容積に対する10Å以下の細孔容積比率は、85%以下、より好ましくは80%以下とする。10Å以下の細孔容積比率が高くなりすぎると、その反面で、動的吸着力に効果を奏する細孔径20Å〜100Åの細孔容積比率が小さくなりすぎて、多孔質炭素全体としての吸着量が低下するからである。
【0013】
本発明で使用する多孔質炭素の全細孔容積に対する細孔径100Å以下の細孔容積比率は、55%以上、より好ましくは60%以上であることが好ましい。細孔径100Å以下の細孔は、静的あるいは動的な吸着力を高める作用を有するものであり、これらの細孔を多孔質炭素が一定比率有することによって、多孔質炭素全体としての吸着量が高くなるからである。
【0014】
また本発明で使用する多孔質炭素の全細孔容積に対する細孔径100Å以下の細孔容積比率は、従来の活性炭と比べてそれ程高くないという傾向があり、その上限は、特に限定されるものではないが、96%程度であり、より好ましくは90%程度である。
多孔質炭素の細孔容積は、マイクロメリティックス社製ASAP−2400の窒素吸着装置を使用して測定でき、窒素相対圧と吸着量とから、ある細孔範囲の細孔容積を求めることができる。
【0015】
一般に、多孔質炭素の細孔は、細孔径が20Å未満であるミクロ孔と、細孔径が20Å〜500Å未満であるメソ孔と、細孔径が500Å以上であるマクロ孔とに大別される。本発明の多孔質炭素は、上記ミクロ孔と上記マクロ孔とがメソ孔領域で効率よく連通するような構造をとっているものと考えられ、ミクロ孔からマクロ孔までの細孔全体の有効利用率が格段に高くなっているものと推定される。その結果、吸着性能に優れるものと考えられる。
【0016】
すなわち、本発明の多孔質炭素として好ましいのは、窒素吸着法により細孔分布を測定し、縦軸をdV/dlog(D)(dV/dlog(D)は、細孔の頻度(若しくは、細孔量)を指標するものであり、Vの単位はcc/gである)、横軸を細孔径D(Å)とした細孔分布図において、細孔径Dが10Å、30Å、40Å、及び、100ÅのときのdV/dlog(D)の値をそれぞれV10、V30、V40、及び、V100としたときに、V100/V10、V100/V30、及び、V100/V40が下記条件を満足するものである。ここで、V100/V10、V100/V30、及び、V100/V40はそれぞれ、多孔質炭素中の細孔径が10Å、30Å、40Åである細孔量に対する細孔径100Åの細孔量の割合を示すものである。前記V100/V30は、0.5以上であり、より好ましくは0.7以上である。また、V100/V40は、好ましくは0.6以上であり、0.8以上であり、さらに好ましくは0.9以上である。V100/V30、及び、V100/V40を一定以上とすることによって、ミクロ孔とマクロ孔とがメソ孔領域で効率よく連通し、例えば、吸着剤として使用した際には、被吸着物の多孔質炭素内部への拡散速度が早くなり、その結果、多孔質炭素全体の吸着量が高くなると考えられる。一方、V100/V30、及び、V100/V40が小さくなりすぎると、細孔径が20Å未満であるミクロ孔への通路となるようなメソ孔領域(特に細孔径が100Å)の細孔量の割合が小さくなるので、ミクロ孔を有効に活用できない虞がある。また、V100/V30、及び、V100/V40の上限は、特に限定されるものではないが、好ましくは2.0であり、より好ましくは1.5程度である。
【0017】
また上述したように、静的吸着力に影響を及ぼす細孔径が10Å程度の細孔量を一定範囲とすることも好ましい態様であり、本発明ではV100/V10を0.08以上、より好ましくは0.13以上、0.35以下、より好ましくは0.3以下とすることが望ましい。またV100を0.05以上、より好ましくは0.06以上として、100Å近辺の細孔の絶対量を一定以上とすることも好ましい態様である。
【0018】
多孔質炭素の細孔分布は、マイクロメリティックス社製ASAP−2400の窒素吸着装置を使用して測定し、島津製作所解析ソフト中のBARRETT−JOYNER−HALENDA法(BJH法)で解析できる。
【0019】
本発明で使用する多孔質炭素の表面酸性官能基量は、特に限定されるものではないが、0.5meq/g以下、より好ましくは0.3meq/g以下、さらに好ましくは0.2meq/g以下であることが好ましい。
【0020】
上述したように水溶液中の吸着では、表面酸性官能基量が高くなると水分子が優先的に吸着されるので、トリハロメタン類或いはその他の有機塩素系化合物などの被吸着物質の吸着量が低下する場合があるからである。多孔質炭素の表面酸性官能基量は、既定量の強アルカリNaOEt(ナトリムエトキシド)を吸着させた後、その上澄み液を分離し、塩酸を用いて滴定し、アルカリ吸着量を算出することにより求めることができる。前記表面酸性官能基としては、例えば、カルボキシル基、エステル基、ヒドロキシル基、ケト基などを挙げることができる。
【0021】
本発明で使用する多孔質炭素のBET比表面積は、特に限定されるものではないが、350m2/g以上、より好ましくは400m2/g以上であって、1450m2/g以下、より好ましくは1300m2/g以下、さらに好ましくは900m2/g以下であることが望ましい。BET比表面積が350m2/g未満では、細孔発達が不十分となる場合があり、1450m2/g超では、密度が下がりすぎる場合があるからである。
【0022】
本発明で使用する多孔質炭素の細孔容積は、特に限定されるものではないが、0.3cc/g以上、より好ましくは0.4cc/g以上であることが望ましい。細孔容積が小さすぎると、吸着量が低下するからである。細孔容積の上限も特に限定されるものではないが、1.0cc/g、より好ましくは0.7cc/gであることが望ましい。
【0023】
次に、本発明で使用する多孔質炭素の製造方法について説明する。
【0024】
本発明で使用する多孔質炭素は、フラーレン、フラーレン含有煤、及び、フラーレン含有煤から溶媒を用いてフラーレンの少なくとも一部を実質的に抽出して得られる抽出残渣物よりなる群から選択される少なくとも1種の炭素質物質を賦活することにより得ることができる。
【0025】
フラーレンとは、周知の如く、5員環と6員環とのネットワークで閉じた中空殻状の構造を有する炭素分子であり、例えば、C60、C70、C76、C78、C80、C82、C84、C86、C88、C90、C92、C94、C96、C180、C240、C320、C540、または、これらの混合物を挙げることができる。そして、フラーレン含有煤とは、フラーレンを製造する際にできる煤であれば、特に限定されない。フラーレンの製造方法としては、例えば、グラファイト電極などを用いてアーク放電により原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、紫外レーザーを黒鉛に照射する方法(レーザー蒸発法)、ベンゼンなどの炭素含有化合物を不完全燃焼させる方法(燃焼法)などが挙げられ、いずれの方法によってもフラーレンを含有する煤が得られる。前記フラーレン含有煤には、上述したフラーレンの他、例えば、フラーレンのような閉環構造には至らなかったフラーレンの前躯体、グラファイトやグラファイト構造を有する炭素、非晶質炭素、不定形炭素、カーボンブラック、多環芳香族炭化水素などが含有されている(非特許文献1)。
【0026】
前記フラーレン含有煤の具体例としては、アーク放電法若しくはレーザー蒸着法によって得られるC60を10%以上含有するフラーレン含有煤やトルエン可溶のフラーレンを5質量%以上含むフラーレン含有煤を挙げることができる。
【0027】
また本発明では、前記フラーレン含有煤から溶媒を用いてフラーレンの少なくとも一部を実質的に抽出した抽出残渣物を使用することができる。フラーレン含有煤から溶媒を用いてフラーレンの少なくとも一部を実質的に抽出した抽出残渣物とは、フラーレン含有煤に含まれるフラーレン成分の内、溶媒に可溶なフラーレン成分を実質的に抽出した残渣物を意味する。例えば、炭素数がC60〜C70などのフラーレンは、後述する溶媒に可溶であり、フラーレン含有煤から溶媒で抽出される。そして、前記フラーレン含有煤から溶媒を用いてフラーレンの少なくとも一部を実質的に抽出して得られる抽出残渣物には、前記のフラーレンの前躯体、グラファイトやグラファイト構造を有する炭素、非晶質炭素、不定形炭素、カーボンブラックやC70以上の高次のフラーレンなどが含まれていると考えられる。
【0028】
非特許文献1によると、黒鉛電極を用いてアーク放電法で作ったフラーレン含有煤中のトルエン可溶分は10%であり、C60:70%、C70:22%、小量のC76〜C120の高次フラーレンからなり、トルエン不溶分中にはC70からC400のC60、C70と類似の構造のクラスターがある。更にトルエン不溶分にアセトンを加えるとグラファイト様物質が分離するが、その量はフラーレン含有煤の15%となる。
【0029】
フラーレン含有煤から溶媒を用いてフラーレンの少なくとも一部を実質的に抽出する際に使用する溶媒としては、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、塩素化炭化水素などの有機溶媒が挙げられる。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、1−メチルナフタレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、テトラリン等の芳香族系有機溶媒が挙げられ、これらの中では、トルエンが好適である。トルエンを使用すれば、C60〜C120程度のフラーレンを抽出することができる。
【0030】
フラーレン含有煤から溶媒を用いてフラーレンの少なくとも一部を実質的に抽出して、抽出残渣物を得る方法としては、例えば、次のような方法を挙げることができる。まず、フラーレン含有煤に約60倍の質量の溶媒を加えてフラーレン含有煤の分散液を作製し、この分散液を室温で1時間超音波で処理して、フラーレン含有煤の溶媒に可溶なフラーレン成分やその他の溶媒可溶分を溶媒に溶解させる。次いで、フラーレン含有煤の分散液をろ過して、更に、ろ液の着色がなくなるまでフラーレン含有煤を溶媒で洗浄し、溶媒に可溶なフラーレンの少なくとも一部やその他の溶媒可溶分を実質的に抽出して、得られた抽出残渣物を約60℃で真空乾燥することにより得られる。
【0031】
次に、本発明における炭素質物質を賦活する方法について説明する。
【0032】
本発明における「賦活処理」とは、上述した炭素質物質を多孔質化するための処理であって、前記炭素質物質の比表面積、或いは、細孔容積の少なくとも一方を増大させる処理であれば、特に限定されず、例えば、薬品賦活処理、ガス賦活処理などを採用することができる。前記薬品賦活処理は、例えば、上述した炭素質物質をアルカリ金属化合物で賦活する方法であり、炭素質物質とアルカリ金属化合物とを混合して熱処理することにより行うことができる。前記アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属の硫酸塩などや、その水溶液や水和物を挙げることができる。前記賦活剤として好ましいのは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水和物や濃厚な水溶液である。前記炭素質物質に対するアルカリ金属化合物の使用量は、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属化合物として水酸化カリウムを用いる場合は、無水基準で、水酸化カリウム/炭素質物質(質量比)=0.3以上4.0以下であることが好ましい。本発明では、アルカリ金属化合物/炭素質物質の質量比をさらに低くすることができ、例えば、アルカリ金属化合物として水酸化カリウムを用いる場合は、水酸化カリウム/炭素質物質の質量比を、無水基準で、2.5以下、より好ましくは1.5以下とすることができる。本発明によれば、アルカリ金属化合物の使用量を少なくできるので、経済的である。
【0033】
前記薬品賦活をする際の熱処理は、特に限定されるものではないが、例えば、500℃以上900℃以下で行うことができ、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気下で熱処理を行うことも好ましい態様である。
【0034】
本発明では、ガス賦活処理を行っても良く、ガス賦活処理は、例えば、上述した炭素質物質を750℃以上で酸化性ガスと接触することによって行われることが好ましい態様である。前記ガス賦活処理の温度は、800℃以上、より好ましくは850℃以上であって、1100℃以下、より好ましくは1050℃以下で行うことが望ましい。また、前記酸化性ガスとしては、例えば、炭酸ガス、水蒸気、酸素、燃焼排ガス、およびこれらの混合物などを使用することができる。
【0035】
また本発明では、上述した炭素質物質を単に加熱処理することによっても賦活することができる。上述した炭素質物質を単に加熱処理することのみによっても、BET比表面積で350m2/g以上、さらに好ましくは400m2/g以上であって、実用レベルの吸着量を有する多孔質炭素を得ることができる。本態様における加熱処理温度は、特に限定されるものではないが、750℃以上、より好ましくは800℃以上であって、1400℃以下、より好ましくは1300℃以下、さらに好ましくは1050℃以下であることが望ましい。加熱処理温度が低すぎると、細孔発達の程度が低くなりすぎるからであり、加熱処理温度が高すぎると、得られる多孔質炭素の吸着量が小さくなる場合がある。前記炭素質物質の加熱処理は、不活性雰囲気下で行うことが好ましく、例えば、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、酸化されやすい炭素からなる坩堝に入れて焼成するなど実質的に不活性な雰囲気下で行うことが好ましい。また、前記加熱処理は、例えば、減圧下で行うこともできる。
【0036】
本態様における加熱処理において、上述した酸化性ガスを併用すれば、上記加熱処理と上述した酸化性ガス賦活処理とが重畳的に行われることになる。また、加熱処理による賦活処理と酸化性ガスを用いるガス賦活処理とを適宜組合わせて賦活することもでき、例えば、加熱処理による賦活処理に続けて、酸化性ガスを用いるガス賦活処理を続けて行うことも好ましい態様である。
【0037】
本発明では、前記炭素質物質を賦活した後に、さらに、酸、水、および、有機溶剤よりなる群から選択される少なくとも1種で洗浄して得られる多孔質炭素を使用することも好ましい態様である。特にアルカリ金属水酸化物などで薬品賦活をした場合には、酸および/又は水による洗浄によって、多孔質炭素内に存在する未反応の賦活剤や反応の結果生じたアルカリ金属化合物(例えば、カリウム化合物)などを除去することが好ましい。また、洗浄して得られた多孔質炭素を乾燥することにより、多孔質炭素中に含まれる酸および/又は水を除去することも好ましい態様である。
【0038】
賦活処理後の多孔質炭素には、有機溶剤可溶分が含まれている場合がある。多孔質炭素を浄水用吸着剤として使用する際には、この有機溶剤可溶分を予め除いておくこととも好ましい態様である。多孔質炭素から有機溶剤可溶分を除去するための有機溶剤としては、トルエン、ベンゼンなどを使用することが好ましい。また、有機溶剤による抽出または洗浄をした多孔質炭素を真空乾燥することにより、多孔質炭素中に含まれる有機溶剤を除去することも好ましい態様である。
【0039】
本発明において、前記洗浄後や賦活処理後に、さらに不活性ガス雰囲気下で熱処理して得られる多孔質炭素を使用することも好ましい態様である。多孔質炭素の表面の酸性官能基量を調整できるからである。前記洗浄後や賦活処理後の熱処理としては、賦活直後の多孔質炭素を不活性ガス雰囲気下で熱処理する態様;賦活直後の多孔質炭素を、酸および/または水で洗浄した後、不活性ガス雰囲気下で熱処理する態様;賦活直後の多孔質炭素を有機溶剤で洗浄した後、不活性ガス雰囲気下で熱処理する態様;賦活直後の多孔質炭素を酸および/または水で洗浄して、不活性ガス雰囲気下で熱処理を行った後、さらに有機溶剤で洗浄して、不活性ガス雰囲気下で熱処理を行う態様などを挙げることができる。前記不活性ガスとしては、例えば、アルゴン、窒素、ヘリウムなどを使用することができる。また、前記熱処理温度は、特に限定されないが、好ましくは400℃以上1000℃以下である。
【0040】
本発明で使用する多孔質炭素の細孔容積比率、細孔容積、BET比表面積などは上記賦活条件を適宜変更することによって、所望の範囲とすればよい。また、本発明の吸着剤は、上述した多孔質炭素に加えて、所望の性能を低下させない範囲であれば、さらに従来の活性炭などを含有してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0042】
[多孔質炭素の細孔容積の測定方法]
マイクロメリティックス社製ASAP−2400の窒素吸着装置により、吸着等温線を求める。全細孔容積は、飽和蒸気圧に近い圧力における吸着ガス量を、液体に換算した値として示す。相対圧0.016のときの吸着量より10Å以下の細孔容積を、相対圧0.168のときの吸着量から20Å以下の細孔容積を、相対圧0.350のときの吸着量より30Å以下の細孔容積を、相対圧0.484の吸着量より40Å以下の細孔容積を、相対圧0.787のときの吸着量から100Å以下の細孔容積を求めた。
【0043】
[BET比表面積測定方法]
炭素質物質、及び、多孔質炭素のBET比表面積は、マイクロメリティックス社製ASAP−2400窒素吸着装置を用いて測った。
【0044】
[吸着試験(通水試験)]
通水試験は、トリハロメタン類の中で最も除去が困難とされているクロロホルムを選んで実施した。内径15mmφのカラムに得られた吸着剤を10mmの層高で充填し、このカラムに、クロロホルム濃度を50ppbに調整した試験水を空間速度1000h-1で通水し、排出水をガスクロマトグラフ質量分析装置により分析した。試験水に対する排出水のクロロホルム濃度が20%以上になる点を破過点として、通水可能量とした。
【0045】
[X線回折測定]
X線回折測定は、以下の条件で行った。
X線回折測定装置:Spectris社製X’Pert PRO型
X線源:Cu−Kα線(波長1.54Å)、出力:40KV40mA、操作軸:θ/2θ、測定モード:Continuous、測定範囲:2θ=5〜80°、取り込み幅:0.01°、走査速度:5.0°/min.
【0046】
[実施例1]
東京プログレスシステム社より購入したMTR社製混合フラーレン(C60:50%、C70:40%、高分子フラーレン:10%)を小型のロータリーキルンに入れて、窒素雰囲気下950℃に昇温した後、該温度において、水蒸気/窒素=50/50(体積比)の雰囲気下で10分間保持して賦活処理を行った。その後、窒素雰囲気下で放冷して、多孔質炭素を製造した。得られた多孔質炭素の賦活直前の炭素質物質に対する歩留を求めたところ83質量%であった。得られた多孔質炭素の特性、及び、吸着試験の結果を表1に示した。尚、前記歩留は、下記式によって定義される。
歩留(%)=100×(賦活直後の多孔質炭素の質量/賦活直前の炭素質物質の質量)
【0047】
[実施例2]
東京プログレスシステム社より購入したフラーレン含有煤(C60:10%以上)を小型のロータリーキルンに入れて、実施例1と同様に多孔質炭素を製造した。得られた多孔質炭素の賦活直前の炭素質物質に対する歩留を求めたところ79質量%であった。得られた多孔質炭素の特性、及び、吸着試験の結果を表1に示した。
【0048】
東京プログレス(株)製フラーレン含有煤(C60:10%以上含有品)についてX線回折を測定した結果を図3に示した。27°、44°、55°付近に黒鉛に由来するピークが認められ、11°、17°、21°付近にはフラーレンC60に由来すると考えられるピーク、更には、非晶質、不定形の炭素に由来すると考えられる台地状のベースラインの上昇が認められた。
【0049】
[実施例3]
実施例2で使用したフラーレン含有煤を箱型焼成炉に入れて、窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で1400℃まで昇温し、該温度で4時間保持し、その後放冷して多孔質炭素を製造した。加熱処理前の炭素質物質に対する加熱処理後の多孔質炭素の歩留は、84質量%であった。得られた多孔質炭素の特性、及び、吸着試験の結果を表1に示した。
【0050】
[実施例4]
実施例2で使用したフラーレン含有煤に60倍の質量のトルエンを加え、1時間超音波をかけた後、ろ過した。更にろ液の着色が無くなるまでトルエンで洗浄し、90%収率でフラーレン含有煤からトルエンを用いてフラーレンの少なくとも一部を実質的に抽出した抽出残渣物を得た。これを小型のロータリーキルンに入れて、窒素雰囲気下950℃に昇温した後、該温度において、水蒸気/窒素=50/50(体積比)の雰囲気下で10分間保持して賦活処理を行った。その後、窒素雰囲気下で放冷して、多孔質炭素を製造した。得られた多孔質炭素の賦活直前の炭素質物質に対する歩留を求めたところ84質量%であった。得られた多孔質炭素の特性、及び、吸着試験の結果を表1に示した。
【0051】
上記フラーレン含有煤から溶媒を用いてフラーレンの少なくとも一部を実質的に抽出して得られる抽出残渣物についてX線回折を測定した結果を図4に示した。図4より、フラーレンC60に由来すると考えられる11°、17°、21°付近のピークの高さが、黒鉛由来のピークと比べて、図3よりも相対的に低くなっていることが認められる。この結果より、得られた抽出残渣物は、フラーレン含有煤からフラーレンの少なくとも一部としてC60が実質的に抽出されているものであることが分かる。
【0052】
[比較例1]
市販の椰子殻水蒸気賦活活性炭(カーボンテック社製ダイヤソーブ、BET比表面積:1150m2/g、平均直径150μm)を吸着剤として使用した。該活性炭の特性、及び、これを用いた吸着試験の結果を表1に示した。
【0053】
[比較例2]
平均直径110μmの鐘紡社製球状フェノール樹脂を、700℃で炭化したものを賦活原料とし、実施例7と同様にしてアルカリ賦活し、さらに、表面酸性官能基量を低減するために、窒素雰囲気下900℃で2時間熱処理した。得られた活性炭の特性、及び、これを用いた吸着試験の結果を表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1より、実施例1〜4の吸着剤は、細孔径が100Å以下の全細孔容積に対して、
細孔径20Å〜100Åの細孔容積比率が5〜50%の範囲にあり、細孔径10Å以下の細孔容積比率が45%以上であった。この結果より、実施例1〜4の吸着剤は、比較例1及び2のような従来の吸着剤と比べて特異的な細孔容積特性を有していることがわかる。また、実施例1〜4の吸着剤は、通水可能量がいずれも48(l/g)以上と優れており、浄水性能が極めて高くなった。
【0056】
一方、比較例では静的吸着力に有効な10Å以下の細孔容積比率が80%超と高いが、動的吸着力に有効である20Å〜100Åの細孔容積比率が10%未満であるために、通水可能量が低下したものと考えられる。
【0057】
実施例1、実施例4、及び、比較例2で用いた多孔質炭素の細孔分布を図1に、累積細孔容積を図2に示した。図1および図2より、本発明で使用する多孔質炭素は、従来の多孔質炭素に比べて、細孔径が20Å未満の細孔の割合が比較的小さくなっている一方で、動的吸着力に有効な細孔径が20〜100Åの細孔の割合が大きくなっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の吸着剤は、水中のトリハロメタン類(クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、ブロモホルム)、或いは、その他の有機塩素系化合物(トリクロロエチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、塩化メチレンなど)の除去に好適であり、水道水、井戸水などの飲料用水の浄化に好適であり、さらに、下水、工業用排水などの浄化にも適用できると考えられる。また、本発明の吸着剤は、例えば、家庭用蛇口直結型浄水器カートリッジや業務用大型カラム等に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】多孔質炭素の細孔分布を例示するグラフ。
【図2】多孔質炭素の累積細孔容積を示すグラフ。
【図3】本発明で使用するフラーレン含有煤のX線回折パターンである。
【図4】本発明で使用するフラーレン含有煤から溶媒を用いてフラーレンの少なくとも一部を実質的に抽出して得られる抽出残渣物のX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔径が100Å以下の細孔容積に対する、
細孔径20Å〜100Åの細孔容積比率が5〜50%であり、
細孔径10Å以下の細孔容積比率が45%以上である多孔質炭素を含有することを特徴とする吸着剤。
【請求項2】
前記細孔径10Å以下の細孔容積比率が85%以下である請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
前記細孔径20Å〜100Åの細孔容積比率が5〜30%である請求項1又は2記載の吸着剤。
【請求項4】
前記多孔質炭素の全細孔容積に対する細孔径100Å以下の細孔容積比率が55〜96%である請求項1〜3のいずれかに記載の吸着剤。
【請求項5】
前記多孔質炭素のBET比表面積は、350〜1450m2/gである請求項1〜4のいずれかに記載の吸着剤。
【請求項6】
前記多孔質炭素は、フラーレン、フラーレン含有煤、及び、フラーレン含有煤からフラーレンの少なくとも一部を実質的に抽出して得られる抽出残渣物よりなる群から選択される少なくとも1種の炭素質物質を賦活して得られるものである請求項1〜5のいずれかに記載の吸着剤。
【請求項7】
前記賦活処理は、前記炭素質物質を750℃以上で酸化性ガスと接触させることにより行われるものである請求項6に記載の吸着剤。
【請求項8】
前記賦活処理は、前記炭素質物質を不活性雰囲気下で750℃以上に加熱処理することにより行われるものである請求項6に記載の吸着剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の浄水用吸着剤。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−247527(P2006−247527A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67748(P2005−67748)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【Fターム(参考)】