説明

吸着固定用シート

【課題】優れた表面平滑性を維持しつつ、通気性が改善された吸着固定用シートを提供する。
【解決手段】吸着固定用シート50は、吸引ユニットから吸引作用を受けるべき吸引面21aを有する多孔質層21と、吸引面21aに開口が位置するように機械的または化学的な孔開け加工によって多孔質層21に設けられた複数の孔THと、複数の孔THを挟んで吸引面21aとは反対側に位置し、吸着固定するべき部品に接触する作業面23bとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品の吸着固定に使用されるシートに関する。
【背景技術】
【0002】
板状またはシート状の部品、例えば、ディスプレイ用ガラス基板、セラミックグリーンシート、半導体ウェーハを搬送するための手法の一つとして、吸着搬送がある。吸着搬送を行うための装置は、図8に示すように、例えば、真空引き機能を持った吸引ユニット10と、吸引ユニット10に装着された吸着固定用シート11とを含むものである。部品12は、吸着固定用シート11を介して吸引ユニット10に固定および支持される。
【0003】
上記のような吸着固定用シートには、吸着力発現の要請から、通気性を有した多孔質シートが用いられる。吸着固定用シートに要求される他の重要な特性として、表面平滑性が挙げられる。吸着固定用シートの表面平滑性が高いと、吸着の対象である部品にダメージが及びにくいので好ましい。通気性および表面平滑性に優れた吸着固定用シートとしては、平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレン粉末の焼結体からなる多孔質シートが知られている(特許文献1〜3)。
【特許文献1】特公平5−66855号公報
【特許文献2】特開平9−174694号公報
【特許文献3】特開2006−26981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ディスプレイ用ガラス基板の大面積化、半導体ウェーハの大径化、セラミックグリーンシートの薄肉化が進んでいる。吸着の対象の大型化に伴い、吸着力不足に起因した搬送ミスが生じやすくなりつつある。セラミックグリーンシートの薄肉化が進むと、グリーンシート自身が通気性を持つようになり、吸着搬送に必要な吸着力はむしろ増大することがある。こうした事情のもと、表面平滑性を低下させることなく、吸着に必要な通気性を向上させた吸着固定用シートが望まれている。
【0005】
本発明は、優れた表面平滑性を維持しつつ、通気性が改善された吸着固定用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、
吸引ユニットから吸引作用を受けるべき吸引面を有する多孔質層と、
吸引面に開口が位置するように機械的または化学的な孔開け加工によって多孔質層に設けられた複数の孔と、
複数の孔を挟んで吸引面とは反対側に位置し、吸着固定するべき部品に接触する作業面と、
を備えた、吸着固定用シートを提供する。
【0007】
他の側面において、本発明は、
吸引ユニットから吸引作用を受けるべき吸引面を有する本体層と、
吸引面に一方の開口が位置するとともに本体層を厚さ方向に貫通するように、機械的または化学的な孔開け加工によって本体層に設けられた複数の貫通孔と、
複数の貫通孔の他方の開口を塞ぐ形で本体層に積層された、通気性を有する結合層と、
複数の貫通孔を挟んで吸引面とは反対側に位置し、吸着固定するべき部品に接触する作業面と、
を備えた、吸着固定用シートを提供する。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明の吸着固定用シートの前者によれば、機械的または化学的な孔開け加工によって多孔質層に複数の孔を設けたものである。多孔質層に備わっている微孔は、通常、不規則な孔であり、通気方向に選択性は見られない。これに対し、機械的または化学的な孔開け加工によって形成された孔によれば、吸引面が吸引作用を受けたときに多孔質層の通気方向に選択性を生じさせる。そして、このような多孔質層を備えた吸着固定用シートは、部品に対して強い吸着力を発揮する。また、孔開け加工を行うことによって吸着固定用シートの表面に開口が形成されることはあっても、表面平滑性が損なわれることはない。
【0009】
上記本発明の吸着固定用シートの後者においては、本体層に複数の貫通孔が設けられる。そのため、本体層は、多孔質であってもよいし無孔であってもよい。機械的または化学的な孔開け加工によって形成された貫通孔によれば、吸引面が吸引作用を受けたときに本体層の通気方向に選択性を生じさせる。そして、このような本体層を備えた吸着固定用シートは、部品に対して強い吸着力を発揮する。また、本体層に設けられた貫通孔の他方の開口を塞ぐ形で、通気性のある結合層が設けられているので、作業面に開口が露出することを回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかる吸着固定用シートの断面模式図である。吸着固定用シート20は、多孔質層21と、多孔質層21に設けられた複数の孔THとを備えている。複数の孔THは、多孔質層21を厚さ方向に貫通する貫通孔THによって構成されている。
【0012】
このような吸着固定用シート21は、例えば、図8に示す搬送装置の吸引ユニット10に装着して使用される。多孔質層21の上面21aは、搬送装置の吸引ユニット10から吸引作用を受けるべき吸引面21aである。多孔質層21の下面21bは、複数の貫通孔THを挟んで吸引面21aとは反対側に位置し、吸着固定するべき部品に接触する作業面21bである。
【0013】
多孔質層21は、多孔質シートによって構成することができる。多孔質シートとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、超高分子量ポリエチレン、フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン)、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステルなどの高分子材料によって構成されたものが好適である。特に、超高分子量ポリエチレン粉末の焼結体からなる多孔質シートを多孔質層21として用いることが好ましい。以下、本明細書において、超高分子量ポリエチレンを「UHMWPE(Ultra High Molecular Weight Poly-ethylene)」と略記する。
【0014】
UHMWPE粉末の焼結体は、例えば、特公平5−66855号公報や特開2006−26981号公報に記載されているように、金型に充填したUHMWPE粉末(平均粒径30〜200μm)をUHMWPEの融点付近の温度で焼結させることによって得られる。得られた焼結体は、通常、ブロック状である。ブロック状の焼結体を切削加工によってシート状に成形すれば、多孔質層21として利用できる多孔質シートを得ることができる。多孔質シートは、帯電防止のために、界面活性剤や導電性ポリマーなどの添加剤を含んでいてもよい。
【0015】
UHMWPE粉末の焼結体からなる多孔質シートは、耐薬品性、耐摩耗性、離型性などUHMWPEの優れた特性を保持している。また、多孔質化することで、通気性、クッション性、摺動性などの特性も獲得している。上述した製造方法によれば、気孔率が20〜50%の多孔質シートが得られる。多孔質層21として利用する多孔質シートの好適な気孔率は、例えば30〜40%である。気孔率は、例えば、水銀ポロシメータ法によって測定できる。さらに、上述した製造方法によれば、ブロック状の焼結体を多孔質シートへと連続成形できるので、生産コストの面でも有利である。
【0016】
なお、UHMWPEとは、平均分子量50万以上のポリエチレンのことをいう。UHMWPEの平均分子量は、通常、200〜1000万の範囲である。平均分子量は、例えば、ASTM D4020(粘度法)に規定された方法によって測定することができる。
【0017】
多孔質層21の厚さD1は、必要とされる吸着力に応じて調節すればよく、例えば、0.1mm〜2.0mmの範囲にあるとよい。また、多孔質層21の表面平滑性が高いことが好ましく、特に、作業面21bの表面粗さ(Ra)が0.5〜1.0μmの範囲にあるとよい。なお、表面粗さ(Ra)は、JIS B0601(2001)に規定された算術平均粗さを意味する。
【0018】
次に、多孔質層21に設けられた複数の貫通孔THについて説明する。貫通孔THは、多孔質層21の上面21a(吸引面)に開口が位置するように、孔開け加工によって多孔質層21に形成されうる。貫通孔THを形成するための孔開け加工方法は、機械的であってもよいし、化学的であってもよい。機械的な加工方法としては、パンチング、ドリリング、レーザー加工を例示できる。化学的な加工方法としては、リソグラフィー技術を応用したエッチングを例示できる。
【0019】
貫通孔THの形状は特に限定されず、開口形状が円形、多角形であるとよい。開口形状が円形の貫通孔THの直径(開口径)は、必要とされる吸着力に応じて調節すればよく、例えば、0.5〜1.0mmの範囲とすることができる。開口形状が多角形の場合は、その多角形と面積が等しい円の直径を考慮すればよい。貫通孔THの配列は、特に限定されず、吸引面21aに現れる開口の中心を結ぶ線分が格子をなすような配列とすることができる。好ましくは、縦横等間隔で形成されていることである。また、隣り合う2つの貫通孔TH,THの中心間隔、すなわち、貫通孔THのピッチは、例えば、1.0〜4.0mmの範囲にあるとよい。また、本実施形態では、吸着固定用シート20の厚さ方向と貫通孔THの軸線方向とが一致しているが、このことは必須ではない。貫通孔THの軸線は、吸着固定用シート20の厚さ方向に対して傾いていてもよい。つまり、貫通孔THが斜め孔であってもよい。
【0020】
貫通孔THを設けることにより、吸着固定用シート20の厚さ方向の通気性が大幅に向上するので、強い吸着力が発揮される。多孔質層21に備わっている微孔は緻密かつ不規則であり、気体の流通方向に選択性は見られず、通気抵抗も大きい。一方、貫通孔THを設けると、孔を開けた方向に気体が通りやすくなる。すなわち、気体の流通方向に選択性が生ずる。
【0021】
また、図6に示すように、貫通孔THには、貫通孔THの周辺部の多孔質部分からも空気が流れ込む。そのため、吸着の瞬間は貫通孔THが設けられている部分の吸着力が強くなるものの、作業面21bに部品が吸着された状態では、作業面21bの全体が概ね均一な吸着力を発揮する。そのため、安定した吸着固定を行うことが可能となる。これに対し、無孔の樹脂シートに貫通孔を設けただけの場合は、貫通孔のある部分のみが吸着力を発揮するので、面内方向に関する吸着力のバラつきが大きく、安定した吸着固定を実現しにくくなる。
【0022】
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態にかかる吸着固定用シートの断面模式図である。吸着固定用シート30は、多孔質層21と、多孔質層21に設けられた複数の孔BHとを備えている。本実施形態において、複数の孔BHは、多孔質層21を貫通していない有底孔BHによって構成されている。
【0023】
有底孔BHによれば、貫通孔TH(図1)ほどの通気性の向上は期待できないものの、作業面21bに開口が形成されないという点で優れている。作業面21bに開口が存在しないので、吸着の対象である部品に対し、吸着力が面内方向で均一に働きやすく、より安定した吸着固定を行うことが可能となる。多孔質層21の厚さ方向に関する有底孔BHの深さD2は、必要とされる吸着力応じて調節すればよく、例えば、多孔質層21の厚さD1の1/4〜1/2の範囲とするとよい。
【0024】
(第3実施形態)
図3は、第3実施形態にかかる吸着固定用シートの断面模式図である。吸着固定用シート40は、多孔質層21と、多孔質層21に設けられた複数の孔BHと、粒子層23とを備えている。複数の孔BHは、有底孔BHによって構成されている。粒子層23は、プラスチック微粒子を主体に構成され、多孔質層21の吸引面21aとは反対側の主面上に直接積層された、通気性のある層である。この粒子層23の表面23bによって、吸着固定するべき部品に接触する作業面23bが構成されている。
【0025】
多孔質層21として利用できる多孔質シートは、UHMWPEの焼結体を切削加工によってシート状に成形する前述の方法によって製造できる。この場合において、多孔質シートの表面粗さ(Ra)は切削加工の精度に依存するので、満足できる表面粗さが得られない可能性がある。そこで、表面平滑性を改善するために、本実施形態のように、粒子層23を設けることができる。このような粒子層23は、例えば、プラスチック微粒子としてUHMWPE微粒子を含む。
【0026】
粒子層23の厚さD3は、必要とされる吸着力応じて調節すればよく、例えば、多孔質層21の厚さD1の1/20〜1/10の範囲とすることができ、例えば、100〜200μmの範囲とすることができる。粒子層23の表面粗さ(Ra)は、多孔質層21の表面粗さ(Ra)よりも小さくすることができる。具体的には、粒子層23における作業面23bの表面粗さ(Ra)が0.5μm未満、例えば、0.2〜0.3μmの範囲にあるとよい。作業面23bの表面粗さ(Ra)が十分小さければ、セラミックグリーンシートのような柔軟性のある部品に対しても作業面23bの凹凸がスタンプされるおそれがないので好ましい。また、吸着力も働きやすくなる。
【0027】
粒子層23は、その厚さ方向および面内方向の両方向に通気性を有しているとよい。そのような粒子層23は、以下の方法で形成することができる。まず、粒子層23を形成するための原料液として、UHMWPE微粒子が溶媒に分散した分散液を準備する。UHMWPE微粒子は、平均粒径(レーザー回折式粒度計による50%粒径)が30〜100μmの範囲のものが好適である。次に、分散液を多孔質層21の下面21bに直接塗布し、UHMWPE微粒子を含む塗膜を形成する。多孔質層21への分散液の塗布方法は、スプレーコーティング、カーテンコーティング、スピンコーティング、ディップコーティングなどの公知のコーティング方法を採用すればよい。最後に、UHMWPEの融点付近の温度(例えば130〜160℃)で塗膜を乾燥させることにより、吸着固定に必要な通気性が十分に確保された粒子層23を形成することができる。なお、このような粒子層23も多孔質構造を有するものでありうる。
【0028】
更なる表面平滑性の改善を図りたい場合には、まず、表面平滑性に優れる基材に上記分散液を塗布し、UHMWPE微粒子を含む塗膜を形成する。表面平滑性に優れる基材としては、ポリエチレンテレフタラートフィルムやポリイミドフィルムを例示できる。次に、基材の上に形成された塗膜に、多孔質層21としての多孔質シートを重ね合わせる。多孔質シートには、予め孔BHを形成しておくとよい。次に、基材、UHMWPE微粒子を含む塗膜および多孔質シートからなる積層体をUHMWPEの融点付近の温度で加熱する。加熱により、塗膜から溶媒が抜け、UHMWPE微粒子が網目状に結合し、粒子層23が形成される。最後に、粒子層23から基材を剥離することにより、孔BHが設けられた多孔質層21と、粒子層23とを備えた吸着固定用シート40が得られる。なお、粒子層23を形成するための具体的な方法については、特開2006−26981号公報にも開示されている。
【0029】
なお、“プラスチック微粒子を主体に構成されている”とは、プラスチック微粒子の層を形成するために必要とされるバインダや添加剤のような他の成分を、通気性、表面平滑性、摺動性などの各種特性が損なわれない程度に含んでいてもよいという趣旨である。
【0030】
(第4実施形態)
図4は、第4実施形態にかかる吸着固定用シートの断面模式図である。吸着固定用シート50は、多孔質層21と、多孔質層21に設けられた複数の孔THと、粒子層23と、結合層25とを備えている。複数の孔THは、多孔質層21を厚さ方向に貫通する貫通孔THによって構成されている。粒子層23は、多孔質層21の吸引面21aとは反対側に位置する通気性のある層である。結合層25は、多孔質層21と粒子層23との間に位置するとともに、多孔質層21と粒子層23とを結合する、通気性のある層である。
【0031】
多孔質層21に貫通孔THを設けた場合、粒子層23の一部が撓んで貫通孔THに入り込み、作業面23bに凹凸が生じる可能性がある。本実施形態のように、多孔質層21と粒子層23との間に結合層25を介在させると、貫通孔THの内部への粒子層23の侵入を阻止することができる。また、結合層25は、貫通孔THによって局所的に強くなる吸着力を面内方向に拡散させるための層(拡散層)であってもよい。
【0032】
結合層25の材料は、通気性を有するものであれば特に限定されない。例えば、不織布や多孔質シートを結合層25として用いることができる。多孔質シートとしては、UHMWPE微粒子の焼結体からからなる多孔質シートやフッ素樹脂からなる多孔質シートを例示できる。UHMWPE微粒子の焼結体からなる多孔質シートを結合層25として用いる場合、本実施形態の吸着固定用シート50は、実質的に、第3実施形態で説明した吸着固定用シート40と同一となる。ただし、有底孔BHの形成を回避することができるという点で本実施形態は有利である。有底孔BHは、パンチングのような生産性の良い方法で形成することが難しい。したがって、第1に、多孔質層21に貫通孔BHを形成し、第2に、貫通孔BHの一方の開口を結合層25で塞ぐという手順を採用すれば、有底孔BHを形成せずに済む。これにより、孔開け加工を行うことによる生産性の低下を最小限に食い止めることが可能である。
【0033】
結合層25は、その厚さ方向および面内方向の両方向に通気性を有する材料で構成されているとよい。そうすれば、吸引ユニット10(図8参照)から受ける吸引力が面内方向に分散する形で粒子層23に伝わる。結合層25がこのような作用を有する場合、作業面23bにおける吸着力の面内方向の均一化を結合層25によって図ることができ、より安定した吸着固定に資することとなる。多孔質シートや不織布は、このような条件を満足するので、結合層25の材料として好適である。さらに、結合層25は、ホットメルト型粘着剤によって構成された、通気性のある粘着層であってもよい。そのような粘着層は、スプレー法のような方法で形成しうる。
【0034】
結合層25の厚さD4は、必要とされる吸着力に応じて調節すればよく、例えば、多孔質層21の厚さD1の1/20〜1/10の範囲とすることができ、例えば、100〜200μmの範囲とすることができる。不織布や多孔質シートで構成されうる結合層25は、貫通孔BHが設けられた多孔質層21に対し、例えば熱ラミネートによって簡単に貼り合わせることができる。良好な通気性が損なわれない限りにおいては、粘着剤を用いて多孔質層21と結合層25とを貼り合わせてもよい。粒子層23については、第3実施形態で説明した方法、すなわち、UHMWPE微粒子の分散液を直接塗布する方法や、PETフィルムのような基材を用いる方法によって形成することができる。
【0035】
また、多孔質層21がUHMWPE微粒子の焼結体からなる第1の多孔質シートによって構成され、結合層25が同じくUHMWPE微粒子の焼結体からなる第2の多孔質シートによって構成され、粒子層23がUHMWPE微粒子を主体として構成されている場合、各層を互いに強固に結合できる。結合層25は、粒子層23ほどの表面平滑性が必須でなく、通気性があれば足りるので、多孔質層21や多孔質層23よりも平均粒径の大きい粒子の焼結体で構成されていてもよい。
【0036】
なお、図4に示す吸着固定用シート50によれば、粒子層23および結合層25が面内方向と厚さ方向の両方向に通気性を有するので、これら粒子層23および結合層25によって作業面23bの吸着力の均一化が図られる。そうだとすれば、多孔質層21に代えて、無孔の本体層27を採用したとしても、作業面23bの吸着力は面内方向で十分均一となる。そのような無孔の本体層27は、樹脂シートによって構成できる。場合によっては、本体層27が金属シートからなっていてもよい。ただし、クッション性、耐薬品性などの特性が要求されることを考慮すれば、本体層27には樹脂シートの使用が推奨される。
【0037】
図7に示すように、吸着固定用シート50において、多孔質層21が比較的厚い場合、多孔質層21の側面21pからの空気漏れが起こりやすい。これに対し、多孔質層21に代えて、無孔の本体層27を採用する場合には、そうした空気漏れは生じず、吸着力の向上を図りやすくなる。もちろん、多孔質層21が薄い場合には、側面21pからの空気漏れの影響は小さく、吸着力向上の妨げとはならない。
【0038】
(第5実施形態)
図5は、第5実施形態にかかる吸着固定用シートの断面模式図である。吸着固定用シート60は、本体層27と、本体層27に設けられた複数の孔THと、結合層25とを備えている。複数の孔THは、本体層27を厚さ方向に貫通する貫通孔THによって構成されている。結合層25は、吸引面21aとは反対側において貫通孔THの開口を塞ぐ形で本体層27に積層された、通気性のある層である。吸着固定するべき部品に接触する作業面25bは、結合層25の表面によって構成されている。
【0039】
第4実施形態で説明したように、本体層27は、無孔の樹脂シートによって構成することができ、結合層25は、UHMWPE微粒子の焼結体からなる多孔質シートによって構成することができる。すなわち、本実施形態の吸着固定用シート60は、第4実施形態の吸着固定用シート50(図4参照)から粒子層23を省略したものである。本実施形態の吸着固定用シート60によれば、第4実施形態の吸着固定用シート50ほどの表面平滑性は得られないものの、作業面25bの吸着力や側面からの空気漏れ防止効果については、同等の性能を期待できる。また、粒子層23を省略しているので、生産コストの低減が期待できる。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
図1に示す吸着固定用シート20を次のようにして作製した。UHMWPE粉末の焼結体からなる多孔質シート(日東電工社製 サンマップ(登録商標)HP−5320 厚さ1.9mm)に、φ1.5mmのドリルを用いて貫通孔を形成した。貫通孔のピッチは2.5mm、配列は格子状とした。
【0041】
(実施例2)
図2に示す吸着固定用シート30を次のようにして作製した。実施例1と同一の多孔質シートに、φ1.5mmのドリルを用いて有底孔を形成した。有底孔の深さは1.5mm、ピッチは2.5mm、配列は格子状とした。
【0042】
(実施例3)
図4に示す吸着固定用シート50を次のようにして作製した。まず、ポリアミド樹脂からなる無孔シート(日本ポリペンコ社製MC901 厚さ2.0mm)に、φ1.0mmのドリルで貫通孔を形成した。貫通孔のピッチは1.5mm、配列は、格子状とした。次に、貫通孔を形成した無孔シートの一方の主面に、貫通孔の開口を塞ぐ形で結合層としての多孔質シート(日東電工社製 サンマップ(登録商標)HP−5320 厚さ0.5mm)を熱ラミネートにて貼り合わせた。次に、第3実施形態で説明した方法により、UHMWPE微粒子(三井化学社製 ミペロンXM−220(登録商標) 平均分子量200万、融点136℃、平均粒径25〜55μm、粒子形状:球状)を主体とする粒子層を結合層の上に形成した。
【0043】
(比較例1)
実施例1で使用した多孔質シート(日東電工社製 サンマップ(登録商標)HP5320 厚さ1.9mm)を比較例1の吸着固定用シートして準備した。
【0044】
(比較例2)
ポリアミド樹脂からなる無孔シート(日本ポリペンコ社製MC901 厚さ2.0mm)に、φ1.0mmのドリルで貫通孔を形成し、比較例2の吸着固定用シートとして準備した。貫通孔のピッチは1.5mm、配列は格子状とした。
【0045】
(通気度)
実施例および比較例の吸着固定用シートの通気度をJIS L1096(1999)に準じ、フラジール試験機(TOYOSEIKI社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、貫通孔を設けた実施例1および比較例2の吸着固定用シートは、大きい通気度を示した。ただし、比較例2の吸着固定用シートは、無孔シートに貫通孔を設けただけのものなので、作業面全体が吸着力を発揮するわけではなく、吸着固定用シートとして利用価値が低い。
【0048】
実施例2および実施例3の吸着固定用シートは、いずれも、比較例1の吸着固定用シート(サンマップ単独)の2倍程度の通気度を示した。実施例3の吸着固定用シートには無孔の樹脂シートが用いられているが、結合層および粒子層が十分な通気性を有するので、比較例1よりも高い通気度を示した。
【0049】
実施例1の吸着固定用シートは、作業面に開口が形成されていても差し支えない用途に対し、多大な利用価値がある。他方、作業面に開口が形成されていると問題がある用途に対し、実施例2および実施例3の吸着固定用シートは、多大な利用価値がある。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の吸着固定用シートは、セラミックグリーンシート、ディスプレイ用ガラス基板、半導体ウェーハのような部品を搬送するための装置に好適に採用できる。さらに、本発明の吸着固定用シートは、研磨装置、ダイシング装置、露光装置のような加工装置にも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる吸着固定用シートの断面模式図
【図2】第2実施形態にかかる吸着固定用シートの断面模式図
【図3】第3実施形態にかかる吸着固定用シートの断面模式図
【図4】第4実施形態にかかる吸着固定用シートの断面模式図
【図5】第5実施形態にかかる吸着固定用シートの断面模式図
【図6】多孔質層に設けられた孔による作用の説明図
【図7】多孔質層の作用の説明図
【図8】吸着搬送装置の模式図
【符号の説明】
【0052】
10 吸引ユニット
20,30,40,50,60 吸着固定用シート
21 多孔質層
21a 上面(吸引面)
23 粒子層
21b,23b 下面(作業面)
25 結合層
27 本体層
TH 貫通孔
BH 有底孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引ユニットから吸引作用を受けるべき吸引面を有する多孔質層と、
前記吸引面に開口が位置するように機械的または化学的な孔開け加工によって前記多孔質層に設けられた複数の孔と、
前記複数の孔を挟んで前記吸引面とは反対側に位置し、吸着固定するべき部品に接触する作業面と、
を備えた、吸着固定用シート。
【請求項2】
前記複数の孔は、前記多孔質層を厚さ方向に貫通する貫通孔によって構成されている、請求項1記載の吸着固定用シート。
【請求項3】
前記複数の孔は、前記多孔質層を貫通していない有底孔によって構成されている、請求項1記載の吸着固定用シート。
【請求項4】
プラスチック微粒子を主体に構成され、前記多孔質層の前記吸引面とは反対側の主面上に直接積層された、通気性のある粒子層をさらに備え、
前記粒子層の表面によって前記作業面が構成されている、請求項3記載の吸着固定用シート。
【請求項5】
プラスチック微粒子を主体に構成され、前記多孔質層の前記吸引面とは反対側に位置する、通気性のある粒子層をさらに備え、
前記粒子層の表面によって前記作業面が構成されている、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の吸着固定用シート。
【請求項6】
前記複数の孔は、前記多孔質層を貫通する貫通孔によって構成されており、
プラスチック微粒子を主体に構成され、前記多孔質層の前記吸引面とは反対側に位置する、通気性のある粒子層と、
前記多孔質層と前記粒子層との間に位置するとともに、前記多孔質層と前記粒子層とを結合する、通気性のある結合層とをさらに備え、
前記粒子層の表面によって前記作業面が構成されている、請求項1記載の吸着固定用シート。
【請求項7】
前記結合層は、その厚さ方向および面内方向の両方向に通気性を有する材料によって構成されている、請求項6記載の吸着固定用シート。
【請求項8】
前記多孔質層は、超高分子量ポリエチレン粉末の焼結体からなる多孔質シートによって構成され、
前記粒子層は、前記プラスチック微粒子として超高分子量ポリエチレン微粒子を含む、請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の吸着固定用シート。
【請求項9】
吸引ユニットから吸引作用を受けるべき吸引面を有する本体層と、
前記吸引面に一方の開口が位置するとともに前記本体層を厚さ方向に貫通するように、機械的または化学的な孔開け加工によって前記本体層に設けられた複数の貫通孔と、
前記複数の貫通孔の他方の開口を塞ぐ形で前記本体層に積層された、通気性を有する結合層と、
前記複数の貫通孔を挟んで前記吸引面とは反対側に位置し、吸着固定するべき部品に接触する作業面と、
を備えた、吸着固定用シート。
【請求項10】
プラスチック微粒子を主体に構成され、前記本体層の前記吸引面とは反対側に位置する、通気性のある粒子層をさらに備え、
前記結合層によって前記本体層と前記粒子層とが結合されており、
前記粒子層の表面によって前記作業面が構成されている、請求項9記載の吸着固定用シート。
【請求項11】
前記本体層は、無孔の樹脂シートによって構成され、
前記粒子層は、前記プラスチック微粒子として超高分子量ポリエチレン微粒子を含む、請求項10記載の吸着固定用シート。
【請求項12】
前記結合層は、その厚さ方向および面内方向の両方向に通気性を有する材料によって構成されている、請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載の吸着固定用シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−23777(P2009−23777A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187420(P2007−187420)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】