説明

吸着材、および吸着材を適用した断熱材

【課題】酸素に対して高い吸着性能を有する吸着材であって、かつ環境適正の高い有機物を主剤として用いながらも、酸化反応時の発熱を抑制した吸着材と断熱性能に優れた断熱材を得る。
【解決手段】断熱材1は、芯材2と、外被材3と、吸着材4と、水分吸着材5から構成されている。ここで、吸着材4は、セルロース誘導炭素前駆体6と無機粉体7の混合体である。断熱材1は、芯材2が外被材3内部に配置され、また、吸着材4および水分吸着材5は、芯材2部分に配置され、外被材3内部は減圧密封されている。上記セルロース誘導炭素前駆体は高い酸素吸着性能を有する。また、無機粉体との混合体とすることによって、酸化反応時の発熱を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着材、および断熱材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品や医療品などの品質保持を目的として、酸素吸着材を密閉包装体に封入する方法が広く用いられている。酸素吸着材の中でも、鉄粉やアスコルビン酸類を主剤とするものがよく知られている。
【0003】
鉄粉を主剤とするものには、鉄粉、酸化促進物質、フィラー、および水分2%含有時に相対湿度55%以上を示す吸着特性を有する珪藻土に水分を含有させた水分供与体よりなる酸素吸収剤がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、アスコルビン酸を主剤とするものには、アスコルビン酸またはその塩、水酸化アルカリまたは/および炭酸アルカリからなるアルカリ性物質、潮解性物質および第一鉄化合物または/および活性炭からなる添加物からなる鮮度保持剤がある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
どちらも主剤の酸化反応を利用したものであり、水分を付与することによって反応を促進している。
【0006】
また、主剤としてアスコルビン酸を用いた脱酸素剤において、脱酸素剤が大量に集積された状態で酸素吸収を行うと酸化反応による生成熱が蓄熱されることや、これらの脱酸素剤が少量であっても、雰囲気温度が高くなれば、酸化反応が加速されて急激な発熱が起こることから、発熱を抑制した酸素吸着材として、アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩が酸素吸収用の主剤であり、この他にアルカリ金属の炭酸塩、金属化合物、水および無機フィラーを含む酸素吸収剤がある(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
これは、酸素吸収剤を上記構成にすることによって、発熱を抑制したものである。
【0008】
また、上記以外にもニッケル化合物と硫酸根を含む物質とが担持された固体状の無機担体を還元して得られる、酸素吸収剤がある(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
これは、主剤を無機材料にすることによって、上記のようなリスクを回避している。
【特許文献1】特開平5−237374号公報
【特許文献2】特公昭58−29069号公報
【特許文献3】特開平5−269376号公報
【特許文献4】特開2005−52693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載の構成では、酸素吸着に水分が必要であるため、微量の水分も嫌う用途での使用が不可能であり、適用用途が制限されてしまうという課題を有していた。
【0011】
また、特許文献2に記載の構成では、上記課題に加え、吸収した酸素とほぼ同量の炭酸ガスを発生する性質があるため、炭酸ガスの発生が悪影響となる用途での使用が不可能であり、適用用途が制限されてしまうという課題を有していた。
【0012】
また、特許文献3に記載の構成では、主剤がアスコルビン酸であるために、特許文献2同様の課題を有していた。
【0013】
また、特許文献4に記載の構成では、主剤が無機粉体であるから、発熱の抑制が可能であるが、ニッケル化合物はPRTRにおける指定物質であり、環境や人体に対する影響が懸念されるという課題を有していた。
【0014】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、酸素に対して高い吸着性能を有する吸着材であって、かつ、環境適正の高い有機物を主剤として用いながらも、主剤の酸化反応時の発熱を抑制した吸着材を提供することを目的とするものである。
【0015】
また本発明は、上記吸着材を適用することにより、長期に渡って優れた断熱性能を有する断熱材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の吸着材は、アルカリ金属を含むセルロースを炭化処理することにより得られる物質と、無機粉体との混合体からなる。
【0017】
まず、原料であるセルロースは、我々の身近なところで幅広く使用されている物質であり、人体や環境に対する悪影響を懸念することなく使用可能である。
【0018】
アルカリ金属を含むセルロースを炭化処理することにより得られる物質(以下セルロース誘導炭素前駆体と称す)が酸素を吸着するメカニズムは明らかではないが、原料となるセルロースを、アルカリ金属を含む水溶液で含浸処理した後、固液分離し、風乾して改質セルロースとし、それをさらに非酸素環境下で加熱処理することで部分炭化することにより、特異的に酸素を化学吸着する特性を発現することを確認した。
【0019】
また、セルロース誘導炭素前駆体が酸素を吸着する際には反応熱を伴うが、わずかな発熱であっても、できるだけ周囲に影響を及ぼさないよう、発熱を抑制させる必要がある。
【0020】
ここで、吸着材を無機粉体との混合体とすることより、その反応熱が抑制されることを確認した。この理由として、無機粉体が酸素との反応面積を小さくすることと、無機粉体が反応熱を吸収することなどが考えられる。
【0021】
また、本発明の断熱材は、上記本発明の吸着材を、外被材で覆って密封した断熱材であり、上記のように酸素吸着性能に優れた吸着材を適用することによって、外被材内に侵入する酸素を吸着する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の吸着材は、水分を必要とすることなく酸素吸着が可能であり、反応後炭酸ガスの発生もないために、従来の酸素吸着材が適用困難であった用途にも適用が可能となる。
【0023】
また、セルロースを主剤としているため、環境適合性が高い。
【0024】
また、無機粉体との混合体であることにより、セルロース誘導炭素前駆体の酸化反応時の発熱を抑制するため、わずかな発熱であってもできるだけ避けたい用途、例えば熱を遮断するために使用される断熱材、低温を保ち続けることが必要である冷蔵庫の野菜室などの用途にも適用可能となる。
【0025】
また、本発明の断熱材は、上記のように酸素吸着性能に優れた吸着材を適用することによって、長期に渡って断熱性能を確保することができる。
【0026】
さらに、本発明の吸着材は、断熱材以外にも適用可能であり、食品保鮮用途に使用した場合には、酸素を吸着するために、食品の酸化劣化防止が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
請求項1に記載の吸着材の発明は、吸着材が、アルカリ金属を含むセルロースを炭化処理することにより得られる物質と、無機粉体との混合体であることによって、高い酸素吸着性能を有しながらも発熱を抑制する。
【0028】
ここで、原料となるセルロースは特に指定するものではなく、また、アルカリ金属の種類も特に指定するものではない。
【0029】
また、炭化処理は、非酸素雰囲気下で熱処理を行うものであり、その方法や条件は特に指定するものではない。
【0030】
また、無機粉体との混合工程は、熱処理の前であっても、後であってもよい。
【0031】
また、無機粉体も特に指定するものではなく、例えば、シリカ、アルミナ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、珪藻土、パーライト、ゼオライト、マグネシア、水酸化アルミニウムなどが使用可能である。無機粉体は、2種以上併用してもよい。また、粒状であってもよいが、分散性が向上し、より高い発熱抑制効果を得るためには粉体状であることがより望ましい。
【0032】
ここで、無機粉体の混合割合は、無機粉体の混合割合が少なすぎると発熱を抑制する効果が小さくなり、多すぎると吸着材としての体積が増大してしまうため、少量の酸素吸着材で高い性能を確保するには、吸着材全体のうち5wt%以上50wt%以下であることが望ましい。
【0033】
また、無機粉体は嵩密度が高すぎると均一に分散させるのが難しくなり、小さすぎると粉が舞いやすくなることにより作業性が低下するため、50g/L以上1000g/L以下のものが望ましい。
【0034】
また、吸着材の使用形態も特に指定するものではなく、例えば、粉体状、ペレット状、シート状、あるいは別容器への収容といった使用方法などが考えられる。
【0035】
請求項2に記載の吸着材の発明は、請求項1に記載の吸着材において、無機粉体が、酸素との反応性が低い物質であることにより、セルロース誘導炭素前駆体の酸化反応時の発熱の抑制効果が高い。
【0036】
無機粉体が、酸素を吸着する特性を有し、かつ吸着時に大きな発熱反応を起こす物質であると、セルロース誘導炭素前駆体の酸化反応時の発熱を抑制することが困難になる。よって、無機粉体としては、酸素と反応しても発熱を起こさない物質であるか、酸素とは反応しない物質であることが望ましく、請求項2に記載の酸素との反応性が低い物質とは、こういった物質を指す。具体的には、シリカ、アルミナ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、珪藻土、パーライトなどが考えられるが上記物性を有する物質であれば特に指定するものではない。
【0037】
請求項3に記載の断熱材の発明は、請求項1または2に記載の吸着材を、外被材で覆って密封した断熱材である。
【0038】
外被材内部を減圧にすることによって、気体による伝熱が抑制されるため、常圧断熱材に比べて、高い断熱性能を確保することが可能である。このため、このような断熱材は高い省エネ性が必要な用途などに使用されるが、このような断熱材の場合、外被材内部が減圧であるために、外部との差圧により、経時的に外部からガスが侵入することで徐々に断熱性能が悪化するという特性も有する。しかし、請求項1または2に記載の吸着材を適用することにより、吸着材が外被材内部に侵入する酸素を吸着するために、経時断熱性能の向上が可能となる。
【0039】
また、上記断熱材を比較的真空度が低い領域で作製した場合であっても、本発明の吸着材は吸着性能が高いために、吸着材が、断熱材作製後に外被材内部の残存酸素を吸着し、内部圧力を下げる効果があるため、ケミカルポンプとしての作用も期待できる。この場合、製造速度を向上することが可能となるため、製造コストを下げることが可能となる。
【0040】
本発明における外被材は、断熱材の内部と外部とを遮断するために用いられるものであり、金属、ガラス、プラスチックなどの容器や、あるいはプラスチックフィルム、プラスチックへ金属、無機物、酸化物、炭素などを蒸着したフィルム、金属箔などを有するラミネートフィルムからなるラミネート袋などが使用可能であり、特に指定するものではない。
【0041】
また、本発明の断熱材は、大気による圧縮力から形状を保持するために芯材を用いてもよく、繊維、粉体、発泡樹脂、多孔質体、薄膜積層体など高い空隙率を形成することが可能な材料であれば特に指定するものではない。また、これらの混合体や成形体を使用することも可能である。
【0042】
また、本発明の断熱材は、本発明の吸着材の他に、水分などを吸着可能な吸着材を併用することも可能である。例えば酸化カルシウム、酸化マグネシウム、ゼオライト、シリカゲル、アルミナなどが挙げられるが、特に指定するものではない。
【0043】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明するが、先に説明した実施の形態と同一構成については同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0044】
(実施の形態1)
本発明の吸着材は、セルロース誘導炭素前駆体と無機粉体の混合体である。
【0045】
セルロース誘導炭素前駆体は、原料となるセルロースを、アルカリ金属を含む水溶液で含浸処理した後、固液分離し、風乾して改質セルロースとし、それをさらに非酸素環境下で加熱処理することで部分炭化処理して得る。
【0046】
無機粉体の混合割合や、材料の種類を変えた本発明の酸素吸着材の吸着特性について実施例を用いて示す。
【0047】
(実施例1)
アルカリ金属を含む水溶液としてNaOHの水溶液を、無機粉体として粉体状のシリカを使用した。
【0048】
吸着材の作製方法について説明する。
【0049】
まず、セルロースをNaOHの水溶液で含浸処理後、固液分離、乾燥して改質セルロースとする。これにシリカを所定割合混合し、これを窒素雰囲気下で焼成後、更に真空下で焼成して吸着材を得る。
【0050】
上記のようにして得た吸着材におけるシリカの混合割合と酸素吸着量の関係を評価した。シリカの混合割合が増えると吸着材としてのg当たりの吸着量は減るが、混合割合以上に悪化することはないことを確認した。
【0051】
また、発熱抑制効果を確認するために、真空焼成後のサンプルを常温常圧の空気中でシャーレに取り出した。シリカを混合しないものは、取り出し直後にシャーレの下面に触れると温かさを感じたが、シリカを混合したものでは、温かさを感じなかった。シリカは酸素が豊富にある空気中であっても、酸素との反応性が低く、発熱を起こさない物質であるために、発熱抑制に効果的であったと考える。
【0052】
(実施例2)
実施例1と同様の材料を使用し、吸着材の作製方法を変更した。
【0053】
吸着材の作製方法について説明する。
【0054】
まず、セルロースをNaOHの水溶液で含浸処理後、固液分離、乾燥して改質セルロースとする。これを窒素雰囲気下で焼成後、更に真空下で焼成してセルロース誘導炭素前駆体とする。これをアルゴン雰囲気下で取り出し、シリカを所定割合混合することで、酸素吸着材を得る。
【0055】
上記のようにして得た吸着材におけるシリカ混合割合と酸素吸着量の関係を評価した。シリカの混合割合が増えると吸着材としてのg当たりの吸着量は減るが、混合割合異常に悪化することはないことを確認した。
【0056】
また、発熱抑制効果を確認するために、アルゴン雰囲気下でシリカを混合して作製した吸着材を常温常圧の空気中でシャーレに取り出したが、温かさを感じなかった。
【0057】
(比較例1)
原料のセルロースをそのまま部分炭化処理したが、物理吸着を確認したのみで、その吸着量は実施例に及ばなかった。
【0058】
(比較例2)
アルカリ金属を含む水溶液としてNaOHの水溶液を使用して含浸処理したセルロースを部分炭化処理ではなく、完全炭化処理したが、物理吸着を確認したのみで、その吸着量は実施例に及ばなかった。
【0059】
(実施の形態2)
図1は、本発明の実施の形態2における断熱材の断面図である。図1において、断熱材1は、芯材2と、外被材3と、実施の形態1に記載の吸着材4と、水分吸着材5から構成されている。ここで、吸着材4は、セルロース誘導炭素前駆体6と無機粉体7の混合体である。
【0060】
断熱材1は、芯材2が外被材3内部に配置され、また、吸着材4および水分吸着材5は、芯材2部分に配置され、外被材3内部は減圧密封されている。
【0061】
次に、断熱材1の作製方法について説明する。まず、外被材3は、同じ大きさの長方形に切った2枚のラミネートフィルムの熱溶着同士を向かい合わせて三辺を溶着し、袋状とする。次に、三辺シールした外被材3の開口部から芯材2を挿入する。これをチャンバー内に設置し、内部を所定の圧力まで減圧した後、開口部を溶着することで真空断熱材1を得る。
【0062】
このような断熱材の作製時の内部圧力を変えた断熱材の断熱性能について実施例を用いて示す。
【0063】
(実施例3)
内部圧力を10Pa程度まで減圧して作製した断熱材の温度加速試験を実施した。
【0064】
吸着材として、実施の形態1の吸着材を使用したことによって、経時的に外被材内部に侵入する酸素を吸着するために、水分吸着材のみを適用した構成に比べて、経時的な断熱性能の変化が抑制され、その寿命は2倍以上に向上した。
【0065】
(実施例4)
内部圧力を1000Pa程度まで減圧して作製した断熱材のケミカルポンプ性を評価した。
【0066】
吸着材として、実施の形態1の吸着材を使用したことによって、内部に残存する酸素を吸着するために、水分吸着材のみを適用した構成に比べて、200Pa以上内圧が低減されることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように本発明にかかる吸着材は、断熱材以外にも、酸素の存在を嫌う用途、例えば食品の保鮮などの用途に適用可能である。またさらに、本発明の吸着材は、酸化反応熱を抑制した構成であるため、わずかな発熱もできるだけ避けたい用途、例えば低温を保ち続けることが必要な冷蔵庫の野菜室などの用途に適用可能である。
【0068】
また、本発明にかかる断熱材は、長期に渡って断熱性能を維持できる。このため、非常に長い間断熱性能が要求される建物への使用が可能である。また、冷蔵庫のような保冷機器や、電気湯沸かし器、炊飯器、保温調理器、給湯器などの保温機器に使用すれば長期に渡って優れた省エネ効果を示す。また、省スペースで高い断熱性能が要求されるようなノート型コンピューター、コピー機、プリンター、プロジェクターなどの事務機器への適用も可能である。また、コンテナボックスやクーラーボックスなどの保冷が必要な用途への適用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態2における断熱材の断面図
【符号の説明】
【0070】
1 断熱材
3 外被材
4 吸着材
6 セルロース誘導炭素前駆体
7 無機粉体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属を含むセルロースを炭化処理することにより得られる物質と、無機粉体との混合体からなる吸着材。
【請求項2】
前記無機粉体が、酸素との反応性が低い物質であることを特徴とする請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の吸着材を、外被材で覆って密封した断熱材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−165933(P2009−165933A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5356(P2008−5356)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能、高機能真空断熱材」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】