説明

吸音体、吸音体群及び音響室

【課題】電気的な駆動手段を用いなくても良く音を吸音するようにする。
【解決手段】吸音体1においては、振動部30と空気層40とによる共振系により共振系の吸音機構が実現され、共振周波数をピーク周波数として音が吸音される。また、内部空間23を通ってきた共振周波数の音波が、共振系の振動と位相が半波長分ずれているため、共振系の振動により、空気が空気層40から貫通孔13へ押し出される状態にある場合には、空気層40内の空気が、よりダクト20内に移動して振動部30の振動が大きくなり、共振系の振動により、振動部30が空気層40と反対側へ変位している状態では、ダクト20内の空気が、より空気層40に移動して振動部30の振動が大きくなる。このように、吸音体1では、振動部30の振動が大きくなり、音波のエネルギーが大きく消費され、より吸音がされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音を吸音する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
音を能動的に吸音する吸音体として、例えば、特許文献1に開示された吸音体がある。特許文献1に開示されている吸音体は、表面に多孔質材、裏面側に背後壁を有し、多孔質材と背後壁との間に空気層が設けられている。また、空気層には空気層内の音圧を検出する音圧検出器と、背後壁を駆動するコントローラが配置されている。そして、この吸音体においては、表面に音波が到達すると、音圧検出器が空気層内の音圧を示す信号を出力する。この信号がコントローラに入力されると、コントローラは入力された信号を処理して背後壁を駆動する。すると、背後壁が振動し、その振動により放射される音圧によって、吸音体に到達した音波が打ち消され、音が吸音される。
【0003】
【特許文献1】特開平10−63271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、特許文献1に開示されている吸音体においては、入射する音波と位相を反転した音を背後壁から出力することにより、音波が効率よく打ち消されて音が吸音されている。しかしながら、特許文献1に開示されている吸音体は、位相を反転した音を出力するために、音圧検出器やコントローラなど、電気的に駆動される装置が必要であり、電力を供給するのが困難な場所においては、吸音を行えないという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、電気的な駆動手段を用いなくても効率良く音を吸音する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために本発明は、外力により変形する板状または膜状の振動部と、内部に空気層を有する立体であって、該立体の外面から前記空気層へ貫通する貫通孔と、該立体を形成する面の一部として前記振動部とを有する立体と、前記貫通孔に連通する内部空間を有する連通管と、を有し、前記連通管の内部空間の長さは、前記振動部と前記空気層とで構成される共振系の共振周波数の波長と半波長分異なることを特徴とする吸音体を提供する。
【0007】
本発明においては、前記立体内部には、前記空気層に繋がる管状の通路があり、前記連通管は、前記振動部を貫通して前記通路に連通し、前記連通管の一端から前記通路の一端までの長さが、前記振動部と前記空気層とで構成される共振系の共振周波数の波長と半波長分異なっていてもよい。
また、本発明においては、前記連通管と前記振動部との間に伸縮自在の伸縮部材が介在し、前記伸縮部材に前記連通管と前記振動部が固着されていてもよい。
また、本発明においては、前記振動部の前記貫通孔部分が前記立体の内側に凹んでいるまたは前記立体の外側に突き出ていてもよい。
【0008】
また、本発明は、上記吸音体が複数連結された吸音体群であって、各吸音体の前記共振周波数が、吸音体毎に異なる吸音体群を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記吸音体を有する音響室を提供する。
また、本発明は、前記吸音体群を有する音響室を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電気的な駆動手段を用いずに、音を効率良く吸音することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る吸音体1の外観図、図2は、吸音体1の分解斜視図、図3は、図1のA−A線断面図である。図に示したように、吸音体1は、大別すると本体部10、ダクト部20、振動部30とにより形成されている。
【0012】
本体部10は、吸音体1の底面となる金属製で矩形の底面部11と、吸音体1の側壁となる金属製の側壁部12で形成されている。底面部11の中央部分には、底面部11を貫通する貫通孔13が設けられている。また、側壁部12は、角管の形状をしており、一方の開口部側の端部が底面部11に固着されている。
【0013】
振動部30は、高分子化合物を膜状に形成した矩形の部材である。振動部30は、底面部11側に固着された側壁部12の端部とは反対側の端部に張力を掛けられた状態で固定されている。これにより、本体部10と振動部30とで吸音体1の内部に空気層40が形成されている。なお、振動部30は、本実施形態においては、高分子化合物を膜状に形成したものとなっているが、側壁部12に固着された状態において音波が到達すると振動するものであれば、金属材料や木質材料などを板状に形成したものであってもよい。
【0014】
ダクト部20は、金属製の角管を折り曲げた形状に形成されて、貫通孔21と、開口端22とを有しており、内部に内部空間23を有している。ダクト部20は、底面部11と側壁部12に固着され、貫通孔21が底面部11の貫通孔13に繋がり、開口端22は、振動部30の隣に位置し音の入射方向に向いている。このようにダクト部20を固着することにより、吸音体1の外部と空気層40とが内部空間23を介して繋がることとなる。なお、本体部10およびダクト部20を形成する部材の素材は、金属に限定されるものではなく、合成樹脂や木材など他の素材であってもよい。
【0015】
次に、この吸音体1の作用について説明する。この吸音体1においては、音波が入射する振動部30の背後に空気層40があり、振動部30と空気層40とで共振系が構成される。なお、共振系の共振周波数は、振動部30の材料物性(ヤング率、密度)、厚み、面積、張力、空気層40の厚さにより決定される。また、本実施形態においては、ダクト部20の内部空間23の長さ(内部空間23の中心軸の長さ)は、振動部30と空気層40とで構成される共振系の共振周波数の波長の半分の長さに形成される。
【0016】
まず、吸音体1においては、振動部30と空気層40とによる共振系により共振系の吸音機構が実現され、この共振系の共振周波数での吸音率をピークとして、入射する音が吸音される。また、吸音体1に音波が到達すると、到達した音波は振動部30に隣接するダクト部20の開口端22からダクト部20内に入り、内部空間23を通って底面部11の貫通孔13に到達する。ここで、振動部30と空気層40とによる共振系は、共振周波数で振動しているが、ダクト部20の長さは、共振周波数の波長の半分の長さに形成されているため、内部空間23を通して貫通孔13に到達した音波のうち、共振周波数の音波は、共振系の振動とは半波長分だけ位相がずれていることとなる。
【0017】
すると、共振系の振動により、振動部30が空気層40側へ変位して空気が空気層40から貫通孔13へ押し出される状態にある場合には、貫通孔13においては、内部空間23を通ってきた共振周波数の音波が、共振系の振動と位相が半波長分ずれているため音圧が低くなっており、空気層40内の空気が、より多くダクト20内に移動して振動部30の振動が大きくなる。
また、共振系の振動により、振動部30が空気層40と反対側へ変位し、ダクト20内の空気が空気層40へ吸い出される状態にある場合には、貫通孔13においては、内部空間23を通ってきた共振周波数の音波が、共振系の振動と位相が半波長分ずれているため音圧が高くなっており、ダクト20内の空気が、より多く空気層40に移動して振動部30の振動が大きくなる。
【0018】
本実施形態によれば、振動部30の振動が大きくなり、音波のエネルギーが大きく消費されるため、ダクト部20を有していない場合と比較すると、効率良く音が吸音される。この吸音体を音場に配置すれば、特定周波数の音を吸音し、音場の音響特性を制御することができる。
【0019】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。
【0020】
本発明に係る吸音体は、図1〜図3に示した形状に限定されるものではない。例えば、図4に示したように、吸音体は、ダクト部が外部に露出していない直方体の形状をしていてもよい。図5は、図4に示した吸音体2の分解斜視図である。この吸音体2は、大別すると、振動部100、側壁部110、管120、仕切板130、ダクト部140とにより形成されている。
【0021】
振動部100は、高分子化合物を膜状に形成した矩形の部材であり、中央部分に貫通孔101が設けられている。側壁部110は、金属製であり、側壁部12と同様に角管の形状をしている。管120は、金属製の角管であり、開口端121と開口端122とを有している。仕切板130は、金属製で矩形の部材であり、中央部分に貫通孔131と貫通孔132が設けられている。ダクト部140は、金属製で角管の一方の開口部を塞いだ形状をしている。また、ダクト部140は、内部に仕切壁141を有している。仕切壁141は、ダクト部140の底面に固着されており、ダクト部140内部に、折れ曲がった通路を形成している。
【0022】
吸音体2においては、側壁部110の一方の開口部側の端部が仕切板130に固着され、もう一方の開口部側には振動部100が張力を掛けられた状態で固定されている。また、管120の一方の端部は、貫通孔101の部に固着され、もう一方の端部は、貫通孔131の周縁部に固着されている。また、仕切板130の周縁部は、ダクト部140において開口している側の端部に固着されている。そして、このように各部材が組み合わされると、吸音体2の内部においては、振動部100と仕切板130との間に空気層が形成される。また、各部材が組み合わされると、吸音体2の内部においては、貫通孔101→管120→ダクト部140内の通路→貫通孔132と繋がる内部空間が形成される。
【0023】
そして、この吸音体2においては、音波が入射する振動部100の背後に空気層があるため、振動部100と空気層とで共振系が構成される。なお、本実施形態においては、内部空間の長さ(内部空間の中心軸の長さ)は、共振系共振周波数の波長の半分の長さに形成される。
【0024】
まず、吸音体2においては、振動部100と振動部背後の空気層とによる共振系により共振系の吸音機構が実現され、この共振系の共振周波数での吸音率をピークとして、入射する音が吸音される。また、吸音体2に音波が到達すると、到達した音波は貫通孔101→管120→ダクト部140内の通路→貫通孔132という経路で貫通孔132に到達する。ここで、振動部100と振動部背後の空気層とによる共振系は、共振周波数で振動しているが、貫通孔101から貫通孔132までの内部空間の長さは、共振周波数の波長の半分の長さに形成されているため、内部空間を通って貫通孔132に到達した音波のうち、共振周波数の音波は、共振系の振動とは半波長分だけ位相がずれていることとなる。
【0025】
すると、共振系の振動により、振動部100が仕切板130側へ変位して背後空気層の空気が貫通孔132へ押し出される状態にある場合には、貫通孔132においては、内部空間を通った共振周波数の音波が、共振系の振動と位相が半波長分ずれているため音圧が低くなっており、空気層内の空気が、より多く内部空間内に移動して振動部100の振動が大きくなる。
また、共振系の振動により、振動部100が振動部100の背後空気層と反対側へ変位し、内部空間内の空気が背後空気層へ吸い出される状態にある場合には、貫通孔132においては、内部空間を通った共振周波数の音波が、共振系の振動と位相が半波長分ずれているため音圧が高くなっており、内部空間内の空気が、より多く背後空気層に移動して振動部100の振動が大きくなる。
【0026】
このように本実施形態においても、振動部100の振動が大きくなり、音波のエネルギーが大きく消費されるため、内部空間を有していない場合より、効率良く音が吸音される。
なお、上述した変形例においては、管120の開口部の周縁部が振動部100に固着されているが、図6に示したように、弾性と内部損失を有する素材を膜状に形成したダンパ部材150を管120と振動部100との間に介在させてもよい。
また、図7に示したように、振動部100と管120との間に、すべり支承151を介在させてもよい。この構成によれば、背後空気層が密閉されつつ、振動部100が振動するとすべり支承151が図中の矢印方向に伸縮するため、振動部100が管120に固着されている場合と比較して、振動部100の振動が妨げられることがない。
また、上述した変形例においては、貫通孔101と管120は、吸音体2の中央部分ではなく、側面に近い位置など他の部分にあってもよい。
【0027】
上述した変形例においては、管120の高さは、側壁部110の高さと同じとなっているが、図8に示したように、管120の高さを側壁部110の高さより低くしてもよい。また、これとは反対に、管120の高さを側壁部110の高さより高くしてもよく、更に、ダクト部内の通路は一つとせず複数であってもよい。
【0028】
本発明においては、振動部20の背後空気層に連通する内部空間23の断面形状は矩形に限定されるものではなく、円形や楕円形など他の形状であってもよい。
また、図9に示したように、吸音する音のピーク周波数が異なる吸音体を連結し、複数の周波数の音を吸音できるようにしてもよい。
また、本実施形態における吸音体および吸音体を連結した吸音体群は、音響特性を制御する各種の音響室に配置することが可能である。ここで各種音響室とは、防音室、ホール、劇場、音響機器のリスニングルーム、会議室等の居室、車両など各種輸送機器の空間、スピーカや楽器などの筐体などである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る吸音体1の外観図である。
【図2】吸音体1の分解斜視図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】本発明の変形例に係る吸音体2の外観図である。
【図5】吸音体2の分解斜視図である。
【図6】本発明の変形例に係る吸音体2の外観図である。
【図7】本発明の変形例に係る吸音体2の開口端121近傍の断面図である。
【図8】本発明の変形例に係る吸音体2の外観図である。
【図9】吸音体2を複数連結したときの外観図である。
【符号の説明】
【0030】
1,2・・・吸音体、10・・・本体部、11・・・底面部、12・・・側壁部、13・・・貫通孔、20・・・ダクト部、21・・・貫通孔、22・・・開口端、23・・・内部空間、30・・・振動部、40・・・空気層、100・・・振動部、101・・・貫通孔、110・・・側壁部、120・・・管、121,122・・・開口端、130・・・仕切板、131,132・・・貫通孔、140・・・ダクト部、141・・・仕切壁、150・・・ダンパ部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力により変形する板状または膜状の振動部と、
内部に空気層を有する立体であって、該立体の外面から前記空気層へ貫通する貫通孔と、該立体を形成する面の一部として前記振動部とを有する立体と、
前記貫通孔に連通する内部空間を有する連通管と、
を有し、
前記連通管の内部空間の長さは、前記振動部と前記空気層とで構成される共振系の共振周波数の波長と半波長分異なること
を特徴とする吸音体。
【請求項2】
前記立体内部には、前記空気層に繋がる管状の通路があり、
前記連通管は、前記振動部を貫通して前記通路に連通し、
前記連通管の一端から前記通路の一端までの長さが、前記振動部と前記空気層とで構成される共振系の共振周波数の波長と半波長分異なること
を特徴とする請求項1に記載の吸音体。
【請求項3】
前記連通管と前記振動部との間に伸縮自在の伸縮部材が介在し、前記伸縮部材に前記連通管と前記振動部が固着されていることを特徴とする請求項2に記載の吸音体。
【請求項4】
前記振動部の前記貫通孔部分が前記立体の内側に凹んでいるまたは前記立体の外側に突き出ていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の吸音体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の吸音体が複数連結された吸音体群であって、各吸音体の前記共振周波数が、吸音体毎に異なることを特徴とする吸音体群。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の吸音体を有する音響室。
【請求項7】
請求項5に記載の吸音体群を有する音響室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−145740(P2009−145740A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324621(P2007−324621)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】