説明

吸音体および吸音構造

【課題】良好な吸音効果が得られる周波数帯域をより低くできるとともに、複数の周波数帯域で吸音効果が得られる吸音体を提供する。
【解決手段】吸音効果を得ようとする壁面4上に取り付けられる吸音体1であって、第1および第2の膜振動型吸音材11,21が第1の閉空間13を挟んで略平行に配されており、壁面4上に取り付けたときに最も壁面4側となる第2の膜振動型吸音材21と壁面4との間に第2の閉空間23を形成する、第2のスペーサ22が設けられており、第1の膜振動型吸音材11の貯蔵弾性率E1、および第2の膜振動型吸音材21の貯蔵弾性率E2は、E1>E2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜振動型吸音材を用いた吸音体および吸音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
騒音は振動とともに身近な問題であり、吸音体への要求は高い。また、用途や目的に応じて要求特性も多岐にわたり、最近では、低周波数領域での吸音性能が高い吸音体が望まれている。
吸音特性は、例えば周波数を横軸、吸音率を縦軸とするグラフで表わされ、低周波数領域において良好な吸音効果を得るためには、吸音率がピークとなる周波数(ピーク周波数)が低く、吸音率のピーク値が高いことが好ましい。
【0003】
従来の吸音材料として、例えばグラスウール、ロックウールのように、繊維を綿状またはボード状に成型した材料や、ポリウレタンフォームのように高分子材料を発泡させた材料などの多孔質材料が知られている。これらの多孔質材料に音波が入射すると、音波が材料内の隙間の空気を振動させるため、空気自身の粘性および周囲との摩擦によって、振動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換、散逸されて吸音効果が得られる。
【0004】
また、500Hz以下の低周波数領域における良好な吸音効果が得られる吸音体として、本発明者等は先に、枠体に設けられた開口部を、特定の貯蔵弾性率を有する膜振動型吸音材で覆った構成を有する吸音体を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−96826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、低周波数領域における吸音効果に対する要求は高く、吸音効果が得られる周波数領域をより低くすることが求められている。また吸音材の設置場所によっては、良好な吸音効果が得られる周波数帯域が1つだけでなく、複数存在することが好ましい。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、良好な吸音効果が得られる周波数帯域をより低くできるとともに、複数の周波数帯域で吸音効果が得られる吸音体および吸音構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の吸音体は、吸音効果を得ようとする壁面上に取り付けられる吸音体であって、複数の膜振動型吸音材が閉空間を挟んで略平行に配されており、前記壁面上に取り付けたときに最も壁面側となる膜振動型吸音材と該壁面との間に閉空間を形成する、スペーサが設けられており、前記複数の膜振動型吸音材の貯蔵弾性率が、壁面側から遠ざかるにしたがって漸次大きくなっていることを特徴とする。
【0009】
壁面側から最も遠い膜振動型吸音材と壁面との間に存在する膜振動型吸音材の全部を取り除いた状態での、吸音率のピーク周波数を単独層ピーク周波数とするとき、該単独層ピーク周波数が600Hz以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の吸音構造は、本発明の吸音体を、吸音効果を得ようとする壁面上に取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な吸音効果が得られる周波数帯域をより低くできるとともに、複数の周波数帯域で吸音効果が得られる吸音体および吸音構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の吸音体の一実施形態を示すもので(a)は平面図、(b)は(a)中のB−B線に沿う断面図である。
【図2】本発明の吸音体の他の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の吸音体の他の実施形態を示す斜視図である。
【図4】実施例および比較例にかかる吸音率測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例および比較例にかかる吸音率測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例および比較例にかかる吸音率測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例および比較例にかかる吸音率測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例および比較例にかかる吸音率測定結果を示すグラフである。
【図9】本発明の吸音体の他の実施形態を示すもので(a)は平面図、(b)は(a)中のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における貯蔵弾性率の値は JIS K7244−4(引張振動)に準処する測定方法により、サンプルサイズを長さ40mm、幅10mm、厚さ1mmとし、測定条件をスパン間距離20mm、歪振幅6μm、25℃、20Hzとして得られる値(単位:Pa)である。貯蔵弾性率の測定周波数は、一般的に測定可能な範囲(0.2〜50Hz)の中で、実際の吸音周波数により近いという理由で20Hzを採用した(なお、50Hzではデータのばらつきが多い為、20Hzとした。)。
貯蔵弾性率は材質によって決まる値である。貯蔵弾性率の測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、粘弾性スペクトロメータEXSTAR6000 DMS、形式名DMS6100を使用した。
【0014】
本明細書における吸音率は「垂直入射吸音率」の意味であり、JIS A 1405−2に準処する方法で測定される値である。入射周波数を変化させながら吸音率を測定し、吸音率がピークを示すときの周波数をピーク周波数という。
【0015】
図1は本発明の吸音体、および該吸音体を壁面上に取り付けた吸音構造の一実施形態を示したもので、図1(a)は吸音体を、これが取り付けられる壁面(以下、取り付け面ということもある。)側からみた平面図、(b)は(a)中のB−B線に沿う断面図である。図中符号1は吸音体、4は取り付け面(壁面)、11は第1の膜振動型吸音材(以下、単に第1の吸音材ということもある。)、12は第1のスペーサ、13は第1の閉空間、21は第2の膜振動型吸音材(以下、単に第2の吸音材ということもある。)、22は第2のスペーサ、23は第2の閉空間である。以下において、第1および第2の吸音材11、21、ならびに第1および第2のスペーサ12、22の表裏面については、取り付け面4側を裏面側、それとは反対の面側を表面側という。
本実施形態の吸音体1は、第1の閉空間13を挟んで略平行に配された2つの膜振動型吸音材(第1および第2の吸音材11、21)と、最も外側の膜振動型吸音材(第2の吸音材21)と取り付け面4との間に閉空間を形成する第2のスペーサ22を有している。
【0016】
第1および第2のスペーサ12、22はそれぞれ貫通孔12a、22aを有し、表面および裏面においてそれぞれ開口部が形成されている。第1および第2のスペーサ12、22の表面12b、22bは平坦面である。
第1の吸音材11は第1のスペーサ12の貫通孔12aを覆うように、第1のスペーサ12の表面12b上に積層、固定されている。
第2の吸音材21は、第1のスペーサ12の裏面12cと、第2のスペーサ22の表面22bとに挟まれた状態で固定されており、第1のスペーサ12の貫通孔12aおよび第2のスペーサ22の貫通孔22aを同時に覆っている。これにより、第1の吸音材11の裏面と、第2の吸音材21の表面と第1のスペーサ12の内側面とで囲まれた空間、すなわち第1の閉空間13が形成されている。
また第2のスペーサ22の裏面22cは取り付け面4に接着固定されている。これにより、第2の吸音材21の裏面と、取り付け面4の表面と、第2のスペーサ22の内側面とで囲まれた空間、すなわち第2の閉空間23が形成されている。
【0017】
第1のスペーサ12の形状は、これに固定された第1の吸音材11と第2の吸音材21とが略平行で、それぞれ膜振動することができ、かつ第1の閉空間13を形成できる形状であればよい。第1の吸音材11と第2の吸音材21とは互いに平行であることが好ましいが、互いに平行であるときの両者の距離を設定値とすると、該設定値との差が±2mm以内の範囲で、一方が他方に対して傾斜していてもよい。
第2のスペーサ22の形状は、これに固定された第2の吸音材21が膜振動でき、第2の吸音材21と取り付け面4との間に第2の閉空間23を形成できる形状であればよい。
第1および第2のスペーサ12、22の材質は、自身が吸音性能を有していてもよく、有していなくてもよく、特に制限されない。軽量化の点からは樹脂などの比重の低い材料が好ましい。
第1のスペーサ12と第2のスペーサ22とは、その材質、形状、または大きさが、互いに同じであってもよく、異なっていてもよいが、それぞれの貫通孔12a、22aの開口部の形状および大きさは同じであることが好ましい。
本実施形態において、第1および第2のスペーサ12、22は、いずれも外形形状が円形で、同心円状の貫通孔12a、22aを有する形状であり、第1のスペーサ12と第2のスペーサ22の材質および貫通孔12a、22aの開口部の大きさは互いに同じである。
なお、第1および第2のスペーサ12、22の表面または裏面における、貫通孔12a、22aの開口部の形状は円形に限らず、多角形など任意の形状とすることができる。
【0018】
第1および第2のスペーサ12、22の厚さt1、t2は、それぞれ第1および第2の閉空間の厚さに相当する。該厚さt1、t2は、それぞれ3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましい。3mm以上であると、第1の吸音材11および第2の吸音材21の良好な振動が得られやすい。また両方の厚さの合計(t1+t2)は50mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。50mm以下であると、小型化、軽量化を実現しやすい。
第1のスペーサ12または第2のスペーサ22の厚さが、貫通孔12a、22aの周方向において不均一である場合は、厚さt1またはt2として平均厚さを用いる。第1のスペーサ12の平均厚さとは、第1のスペーサ12で囲まれている領域における、第1の吸音材11から第2の吸音材21までの距離の平均値である。該平均値は両吸音材の面を点の集合とみなして、全部の点における両吸音材間の距離の平均値として求められる。
第2のスペーサ22の平均厚さとは、第2のスペーサ12で囲まれている領域における、第2の吸音材21から取り付け面4までの距離の平均値である。該平均値は第2の吸音材21の面および取り付け面4を点の集合とみなして、全部の点における第2の吸音材21からから取り付け面4までの距離の平均値として求められる。
【0019】
第1および第2のスペーサ12、22の表面側または裏面側における、貫通孔12a、22aの開口部の面積は3800〜20000mmが好ましく、より好ましくは5000〜15800mmである。
開口部が円径の場合、その内径Dは70〜160mmが好ましく、より好ましくは80〜142mmである。70mm以上であるとピーク周波数が低くなり易く、160mm以下であると小型化の点で好ましい。開口部が小さい方が一定の面積内に設けることができる開口部の数が多くなり、該一定の面積における吸音性能が向上する。
なお本発明において、開口部が円形でない場合、該開口部の面積と同面積の円の内径が上記Dの範囲内であることが好ましい。
開口部が正方形である場合、1辺の長さは62〜142mmが好ましく、71〜126mmがより好ましい。
【0020】
第1、第2の吸音材11、21は、膜振動により吸音作用を生じうる材料からなる。具体的に、第1、第2の吸音材11、21が膜振動により吸音作用を生じるためには、該吸音材における流れ抵抗が1×10N・s/m以上であることが好ましい。本明細書における流れ抵抗の値は、第1、第2の吸音材11、21の各単独膜の表面に対して垂直方向に一定の空気流を通した時の、各吸音材の表面と裏面との間における圧力差(表面側の圧力と裏面側の圧力との差)を空気流の速度で割った値である。音は流速が非常に小さい状態に相当するので、流速が0に近づいた場合の極限値として定義される。測定法は、ISO 9053のDC法に準拠する。
第1の吸音材11と第2の吸音材21の材質は互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0021】
第1、第2の吸音材11、21のそれぞれの比重Gは0.86〜1.65が好ましく、0.9〜1.6がより好ましい。該比重Gが0.86以上であると、低周波数領域における良好な吸音効果が得られやすい。1.65以下であると軽量化の点で好ましい。
第1の吸音材11と第2の吸音材21の比重Gは互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0022】
本発明において、第1、第2の吸音材11、21の貯蔵弾性率E1、E2は、取り付け面4から遠ざかるにしたがって漸次大きくなっている。すなわちE1>E2である。
第1の吸音材11の貯蔵弾性率E1は1.5×10〜5×10Paが好ましく、3×10〜2×10Paがより好ましい。
第2の吸音材21の貯蔵弾性率E2は5×10〜1.7×10Paが好ましく、1×10〜7×10Paがより好ましい。
貯蔵弾性率E1、E2が上記範囲の下限値以上であると、吸音材の良好な振動が得られやすく、低周波数領域における良好な吸音効果が得られやすい。E1、E2が上記範囲の上限値以下であるとピーク周波数が低くなりやすい。
【0023】
本明細書において、取り付け面4側から最も遠い膜振動型吸音材(本実施形態では第1の吸音材11)と取り付け面4との間に存在する膜振動型吸音材の全部(本実施形態では第2の吸音材21)を取り除いた状態での吸音率のピーク周波数を「単独層ピーク周波数」とする。本実施形態の吸音体1に対応する単独層ピーク周波数は、第1の吸音材11と取り付け面4との間に、吸音体1における閉空間の合計厚さ(t1+t2)と同じ厚さの閉空間が存在している状態で測定されるピーク周波数である。
【0024】
本発明において、取り付け面4と第1の吸音材11との間に第2の吸音材21を設けるとともに、第1、第2の吸音材11、21の貯蔵弾性率E1、E2をE1>E2としたことにより、閉空間の合計厚さを変えずに、ピーク周波数を単独層ピーク周波数よりも低周波側へシフトさせることができるとともに、低周波数帯域内に2つのピーク周波数を得ることができる。これにより、低周波数帯域の2つの異なる1/3オクターブバンド帯において良好な吸音効果が得ることができる。
吸音体1において、隣り合う膜振動型吸音材(本実施形態では第1、2の吸音材11、12)の貯蔵弾性率の比、本実施形態ではE1とE2の値の比は、2つめのピーク周波数を良好に得るうえでE1/E2≧1.2が好ましく、E1/E2≧3がより好ましい。
【0025】
第1および第2のスペーサ12、22の厚さt1、t2、すなわち各閉空間の厚さt1、t2は、互いに同じであっても異なっていてもよい。t1<t2よりも、t1>t2の方が、低周波数帯域で得られる2つのピーク周波数の間隔がより狭くなる傾向がある。
【0026】
低周波数帯域において良好な吸音効果を実現できる吸音体を得るために、上記単独層ピーク周波数は600Hz以下が好ましく、500Hz以下がより好ましく、400Hz以下がさらに好ましい。該単独層ピーク周波数の値は、取り付け面4側から最も遠い膜振動型吸音材(本実施形態では第1の吸音材11)の材質、膜厚、閉空間の合計厚さ(本実施形態ではt1+t2)、および第1のスペーサ12における貫通孔12aの大きさ等によって調整できる。
【0027】
第1、第2の吸音材11、21は、それぞれ単一の材料からなっていてもよく、2種以上の材料の混合物であってもよい。
第1、第2の吸音材11、21の構成材料としては、例えば、熱可塑性樹脂を用いることができ、具体的にはEEA(エチレンエチルアクリレート)、EVA(酢酸ビニル共重合体)、PE(ポリエチレン)、CPE(塩素化ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、EBR(エチレンブタジエンゴム)、SEBS(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体)、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体またはその水添物(以下、総称してSISという)、SEPS(スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル樹脂、ポリメチルペンテン、ポリブテン、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、環状オレフィン、ポリ乳酸等から選ばれる1種または2種以上の樹脂、またはこれらの樹脂をベース樹脂とし、これに無機フィラー及び又は有機フィラーを適宜添加した混合物等が挙げられる。
上記に挙げた樹脂の中でも、PE(特にHDPE(高密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン))、PP(ポリプロピレン)、CPE(塩素化ポリエチレン)、EBR、エチレン−αオレフィン共重合体、SISまたはこれらの混合樹脂が好ましい。
【0028】
無機フィラーの例としては、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
無機フィラーを配合する場合、その配合量は特に限定されず、吸音材の比重Gおよび貯蔵弾性率E1、E2の良好な範囲が得られる範囲であればよい。機械強度の点からは、各吸音材において、構成材料中80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
有機フィラーの例としては、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(例えば、製品名:アデカスタブ AO−330、ADEKA社製)、トリス(2,4ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト(例えば、製品名:Irg168、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)が好ましい。
有機フィラーを配合する場合、その配合量は特に限定されず、吸音材の比重Gおよび貯蔵弾性率E1、E2の良好な範囲が得られる範囲であればよい。機械強度の点からは、各吸音材において、構成材料中50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0029】
第1、第2の吸音材11、21の膜厚は、それぞれ0.5〜3mmであり、好ましくは0.6〜2mmである。0.5mm以上であると吸音材の良好な振動が得られやすい。3mm以下であると軽量化の点で好ましい。膜厚が不均一である場合は平均値を用いる。
第1の吸音材11と第2の吸音材21の膜厚は互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
第1、第2のスペーサ12、22に第1、第2の吸音材11、21を固定する手段としては、接着剤、両面テープ等の接着手段を用いてもよく、圧着、溶融圧着により固定してもよい。
【0031】
さらに第1の吸音材11の表面上(第1のスペーサ12側とは反対側)に、他の吸音層(図示せず)を積層してもよい。具体的に該他の吸音層は、上記流れ抵抗が1×10N・s/mより小さい層からなる。他の吸音層として公知の吸音材料から、上記流れ抵抗の範囲を満たすものを適宜使用できる。具体例としては、発泡樹脂、フェルト、繊維材料、グラスウール、ロックウール、木粉セメント等が挙げられる。特に発泡樹脂、フェルト、繊維材料、グラスウールが好ましい。
かかる他の吸音層を積層することにより、吸音体1全体として、吸音効果が得られる周波数領域をより広くすることができる。
【0032】
取り付け面4の材質は、吸音体1を該取り付け面4上に閉空間を介して固定した状態で、第1および第2の吸音材11、21が膜振動し得るものであれば、特に限定されない。取り付け面4の材質の例として、金属、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
取り付け面4に吸音体1を固定する手段としては、接着剤、または両面粘着テープ、粘着剤等の粘着手段を適宜用いることができる。
【0033】
取り付け面4が平坦面であると吸音体1の取り付けが容易であるが、これに限らず、第1および第2の吸音材11、21が膜振動可能であれば、取り付け面4は曲面であってもよく、起伏がある面でもよい。例えば図2に示すように、取り付け面34が曲面である場合は、吸音体30を取り付け面34に固定した状態で、第1、第2の吸音材31、41にたるみが生じないように、第1、第2のスペーサ32、42の形状を調整する。図中符号33は第1の閉空間、43は第2の閉空間である。
【0034】
吸音体1は、吸音効果を得ようとする壁面(取り付け面4)に複数個設けることが好ましい。複数の吸音体1は互いに別体であってもよく、例えば図3に示すように隣り合う吸音体1のスペーサどうしが一体化されていてもよい。
図3に示す吸音体50は、第1のスペーサ52および第2のスペーサ62がいずれも板状で、それぞれに複数の貫通孔52a、62aが設けられている。第1の吸音材51は、第1のスペーサ52の複数の貫通孔52aを一括的に覆うように積層、固定されており、第2の吸音材61は、第1のスペーサ52の複数の貫通孔52a、および第2のスペーサ62の複数の貫通孔62aを一括的に覆うように積層、固定されている。この図は吸音体50を第2のスペーサ62側から見た斜視図である。複数の貫通孔52a、62aの配置は任意であるが、隣り合う貫通孔どうしの距離Pが小さいほど吸音体50における吸音の効率が高くなる。
【0035】
なお、上記実施形態では、吸音体1を構成する膜振動型吸音材が2個である場合を例に挙げたが、3個以上の膜振動型吸音材を閉空間を挟んで積層した構成としてもよく、同様の効果を得ることができる。
例えば第1〜第3の膜振動型吸音材を用いる場合は、第1の膜振動型吸音材、第1のスペーサ、第2の膜振動型吸音材、第2のスペーサ、第3の膜振動型吸音材、および第3のスペーサを順に積層し、第3のスペーサを取り付け面側として用いる。この場合、第1、第2、第3の膜振動型吸音材の貯蔵弾性率をそれぞれE1、E2、E3とすると、E1>E2>E3である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜6、比較例1〜3)
表1に示す膜振動型吸音材を用い、表2に示す構成の吸音体を作製して下記の方法で吸音率を測定し、ピーク周波数を求めた。結果を表2および図4〜8に示す。図4〜8のグラフにおいて、横軸は周波数(単位:Hz)、縦軸は吸音率である。
膜振動型吸音材としては、下記のHD、LL、およびAを用いた。これらの比重、貯蔵弾性率(25℃、20Hz)、および膜厚を表1に示す。表の貯蔵弾性率の値において、例えば「1.6E+09」は1.6×10を表す。
実施例1〜6は図1に示す構成の吸音体である。表における吸音体の構成は、「第1の吸音材/第1の閉空間の厚さ(mm)/第2の吸音材/第2の閉空間の厚さ(mm)/取り付け面」を示している。
比較例1〜3の吸音体は、単独層ピーク周波数を測定するための吸音体である。表における吸音体の構成は、「吸音材/閉空間の厚さ(mm)/取り付け面」を示している。
実施例および比較例で用いたスペーサはいずれも、外形が100mmの円形で、円形の貫通孔を有しており、該貫通孔の開口部の内径Dは、スペーサの表面および裏面のいずれにおいても90mmである。スペーサの厚さを変えることによって閉空間の厚さを変えた。吸音体の取り付け面はいずれもアルミ板からなる。
表2には、複数のピーク周波数と、各ピーク周波数における吸音率を示す。
【0037】
実施例1、2は、E1>E2かつt1<t2の例である。
実施例3、4は、E1>E2かつt1=t2の例である。
実施例5、6は、E1>E2かつt1>t2の例である。
表および各グラフには、各実施例の吸音体の吸音特性とともに、各実施例に対応する単独層ピーク周波数の測定結果(比較例)も示している。
[膜振動型吸音材]
HD;HDPE、日本ポリエチレン社製、製品名:HY540。
LL;LLDPE、日本ポリエチレン社製、製品名:UF240。
A;上記LLDPEの50質量%と、EBR(ダウケミカル日本社製、製品名:ENR7270、比重:0.88、貯蔵弾性率2.4×10Pa)の20質量%と、硫酸バリウム(堺化学工業社製、製品名:硫酸バリウムBA、比重4.50)の30質量%の混合物。
これらHD、LL、Aの流れ抵抗はいずれも1×10N・s/m以上であることを確認した。
【0038】
[吸音率の測定方法]
JIS A 1405−2に準処する方法で「垂直入射吸音率」を測定した。測定には内径100mmの円形インピーダンス管(アルミ製、肉厚15mm)を用いた。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
図4〜8のグラフに示されるように、実施例1〜6の吸音体はいずれも、600Hz以下の低周波数領域に2つのピーク周波数を有する。
例えば、図4および表2に示されるように、実施例1の吸音体は、比較例1のピーク周波数(単独層ピーク周波数;314Hz)よりも低周波数側へシフトしたピーク周波数(265Hz)を有するとともに、496Hzにもう1つのピーク周波数を有する(グラフ中の○印で示す。以下、同様)。したがって、中心波長250Hzと500Hzの2つの1/3オクターブバンド帯において吸音効果が得られる。
【0042】
また図5および表2に示されるように、実施例2の吸音体は、比較例2のピーク周波数(単独層ピーク周波数;397Hz)に比べて低周波数側へシフトしたピーク周波数(304Hz)を有するとともに、584Hzにもう1つのピーク周波数を有する。したがって、中心波長315Hzと630Hzの2つの1/3オクターブバンド帯において吸音効果が得られる。
同様に、実施例3の吸音体によれば、中心波長400Hzと630Hzの2つの1/3オクターブバンド帯、
実施例4の吸音体によれば中心波長400Hzと500Hzの2つの1/3オクターブバンド帯、
実施例5,6の吸音体によれば、いずれも中心波長315Hzと500Hzの2つの1/3オクターブバンド帯において吸音効果が得られる。
また、例えば、実施例2,6を比べると、t1<t2(実施例2)よりも、t1>t2(実施例6)の方が、低周波数帯域で得られる2つのピーク周波数の間隔がより狭くなっている。
【0043】
(実施例7)
複数の吸音体を並べて配置した面における吸音特性を調べた。
図9は本例の吸音体70を示したもので、(a)は取り付け面側から見た平面図、(b)は(a)中のA−A線に沿う断面図である。本例では第1および第2のスペーサ72、82に正方形の貫通孔72a、82aが4個、格子状に並べて設けられている。貫通孔72a、82aの形状および大きさは、第1および第2のスペーサ72、82の厚さ方向において一定である。図中符号71は第1の吸音材、81は第2の吸音材、73は第1の閉空間、83は第2の閉空間、74は取り付け面を示す。各寸法は以下の通りである。
開口部の一辺の長さ:a=107.5mm。
第1および第2のスペーサ72、82の厚さ:b1=20mm、b2=10mm。
第1の吸音材71としては表1のHDを用い、第2の吸音材81としては表1のAを用いた。すなわち本例はE1>E2かつt1>t2の例である
【0044】
本例の吸音体の構成および吸音特性の測定結果を表3に示す。
本例の吸音体については、下記の方法で吸音率を測定した。
[吸音率の測定方法]
JIS A 1405−2に準処する方法で「垂直入射吸音率」を測定した。具体的には内寸240mm×240mmの角型インピーダンス管(アルミ製、肉厚15mm)を用いた。サンプル設置面はアルミ板であり、その板中央部に、本例の吸音体を両面粘着テープで固定し、測定を行った。
【0045】
(比較例4)
比較例4の吸音体は、単独層ピーク周波数を測定するための吸音体である。表における吸音体の構成は、「吸音材/閉空間の厚さ(mm)/取り付け面」を示している。スペーサの平面形状は実施例7と同じであり、スペーサの厚さを変えることによって閉空間の厚さを変えた。吸音体の構成および吸音特性の測定結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
表3の結果に示されるように、本例の吸音体は、比較例4のピーク周波数(単独層ピーク周波数;310Hz)よりも低周波数側へシフトしたピーク周波数(271Hz)を有するとともに、359Hzにもう1つのピーク周波数を有する。したがって、中心波長250Hzと400Hzの2つの1/3オクターブバンド帯において吸音効果が得られる。
【符号の説明】
【0048】
1、30、50、70…吸音体、
3、34、74…取り付け面(壁面)、
11、31、51、71…第1の膜振動型吸音材、
12、32、52、72…第1のスペーサ、
13、33、73…第1の閉空間、
21、41、61、81…第2の膜振動型吸音材、
22、42、62、82…第2のスペーサ、
23、43、83…第2の閉空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸音効果を得ようとする壁面上に取り付けられる吸音体であって、
複数の膜振動型吸音材が閉空間を挟んで略平行に配されており、前記壁面上に取り付けたときに最も壁面側となる膜振動型吸音材と該壁面との間に閉空間を形成する、スペーサが設けられており、
前記複数の膜振動型吸音材の貯蔵弾性率が、壁面側から遠ざかるにしたがって漸次大きくなっていることを特徴とする吸音体。
【請求項2】
壁面側から最も遠い膜振動型吸音材と壁面との間に存在する膜振動型吸音材の全部を取り除いた状態での、吸音率のピーク周波数を単独層ピーク周波数とするとき、該単独層ピーク周波数が600Hz以下である、請求項1記載の吸音体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の吸音体を、吸音効果を得ようとする壁面上に取り付けたことを特徴とする吸音構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−39356(P2011−39356A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188014(P2009−188014)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】