説明

吸音構造、吸音構造群、音響室、吸音構造の調整方法及び騒音低減方法

【課題】振動体や構造全体の質量を大きく変更することなく吸音する音を変更可能とする。
【解決手段】吸音構造1は、筐体10と振動体20とで構成されている。振動体20は、弾性を有する合成樹脂で形成された第1部材21と、第1部材21より面密度が小さく弾性を有する合成樹脂で形成された第2部材22とで構成されており、第1部材21が第2部材22の中央部分の孔に固着されて板状の振動体20が形成されている。このように、振動体20の中央部分の面密度が周縁部分より大きいと、振動体20全体を同じ素材で板状に形成し、振動体20全体の質量を重くして吸音する音を変更する場合と比較して、吸音される音が低くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音を吸音する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された吸音構造のように、板状(または膜状)の振動体と、この振動体の背後の空気層により音を吸収する吸音構造(以下、板・膜振動型吸音構造という)がある。この板・膜振動型吸音構造においては、振動体の質量成分と、空気層のバネ成分によってバネマス系が形成され、振動体が弾性を有して屈曲振動をする場合には、屈曲振動による屈曲系の性質が加わる。
【0003】
【特許文献1】特開2006−11412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
板・膜振動型吸音構造においては、振動体を密度の大きなものにすると吸音される音の周波数が低くなり、吸音される音を低いものにすることができる。しかしながら、振動体の密度を大きくすると振動体全体では質量が大きくなり、ひいては、吸音構造全体が重くなる。吸音構造全体が重くなると、軽量化が求められる用途については使用することが難しくなり、また、壁面などに配置する場合には、吸音構造を支える構造を吸音構造の重さに耐えうる丈夫な構造に必要があり、簡便に配置することが難しくなる。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、振動体や吸音構造全体の質量を大きく変更することなく吸音する音を変更可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために本発明は、中空で開口部を備えた筐体と、板状または膜状の振動体とを有し、前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の密度が、振幅の節または極小となる位置の密度と異なることを特徴とする吸音構造を提供する。
この発明では、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む所定領域の密度が、前記所定領域以外の部分の密度と異なっていてもよい。
【0007】
また、本発明は、中空で開口部を備えた筐体と、板状または膜状の振動体とを有し、前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の厚さが、振幅の節または極小となる位置の厚さと異なることを特徴とする吸音構造を提供する。
この発明では、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む所定領域の厚さが、前記所定領域外の部分の厚さと異なっていてもよい。
【0008】
また、本発明は、中空で開口部を備えた筐体と、板状または膜状の振動体と、付加部材とを有し、前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部に前記付加部材を有することを特徴とする吸音構造を提供する。
この発明では、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む所定領域に付加部材を有していてもよい。
また、この発明においては、前記振動体の前記所定領域の表面に付加部材が固定されていてもよい。
また、この発明においては、前記振動体の前記所定領域の部分に付加部材が混入されていてもよい。
【0009】
また、本発明は、上記付加部材を有する吸音構造を複数組み合わせた吸音構造群であって、組み合わされた複数の吸音構造の各付加部材の質量が各々異なる吸音構造群を提供する。
また、本発明は、上記のいずれか一の吸音構造を複数組み合わせた吸音構造群を提供する。
この本発明においては、組み合わされた複数の吸音構造の各空気層のサイズが各々異なっていてもよい。
また、この本発明においては、組み合わされた複数の吸音構造の各空気層の厚みが各々異なっていてもよい。
また、本発明は、上記のいずれか一の吸音構造または上記のいずれか一の吸音体群を有する音響室を提供する。
【0010】
また、本発明は、中空で開口部を備えた筐体と、板状または膜状の振動体とを有し、前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の密度が、振幅の節または極小となる位置の密度と異なる吸音構造の調整方法であって、前記振動体において前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の密度を変更して吸音構造の共振周波数を調整する吸音構造の調整方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、中空で開口部を備えた筐体と、板状または膜状の振動体とを有し、前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の厚さが、振幅の節または極小となる位置の厚さと異なる吸音構造の調整方法であって、前記振動体において前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の厚さを変更して吸音構造の共振周波数を調整する吸音構造の調整方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、中空で開口部を備えた筐体と、板状または膜状の振動体と、付加部材とを有し、前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部に前記付加部材を有する吸音構造の調整方法であって、前記前記付加部材を変更して吸音構造の共振周波数を調整する吸音構造の調整方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、中空で開口部を備えた筐体と、板状または膜状の振動体とを有し、前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、前記振動体が振動して騒音を低減する騒音低減方法であって、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の密度を、振幅の節または極小となる位置の密度と異ならせることを特徴とする騒音低減方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、中空で開口部を備えた筐体と、板状または膜状の振動体とを有し、前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、前記振動体が振動して騒音を低減する騒音低減方法であって、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の厚さを、振幅の節または極小となる位置の厚さと異ならせることを特徴とする騒音低減方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、中空で開口部を備えた筐体と、板状または膜状の振動体と、付加部材とを有し、前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、前記振動体が振動して騒音を低減する騒音低減方法であって、前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部に前記付加部材を配置することを特徴とする騒音低減方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、振動体や吸音構造全体の質量を大きく変更することなく吸音する音を変更可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る吸音構造1の外観図、図2は、吸音構造1の分解斜視図、図3は吸音構造1のA−A線断面図である。なお、図面においては、本実施形態の構成を分かりやすく図示するために、吸音構造1の寸法を実際の寸法とは異ならせてある。
【0018】
図に示したように、吸音構造1は、吸音構造1を構成する部材として筐体10と振動体20を有している。合成樹脂で形成されている筐体10は、正方形の角管の一方の開口部を閉じた形状となっており、筐体10の底面となる底面部11と、筐体10の側壁となる側壁12を有している。
【0019】
振動体20は、弾性を有する合成樹脂で形成された板状で正方形の第1部材21と、第2部材22とで構成されており、力を加えると変形し、弾性により復元力を発生して振動する部材である。第2部材22は、第1部材21より面密度が小さく弾性を有する合成樹脂で形成され、中央部分に正方形の孔を有している。本実施形態においては、第1部材21と第2部材22の厚さは同じであり、第1部材21が第2部材22の孔に固着されて板状の振動体20が形成されている。
なお、本実施形態においては、振動体20を構成する部材の素材は合成樹脂としているが、振動体20を構成する部材の素材は合成樹脂に限定されず、弾性を有し板振動が生じるのであれば紙、金属、繊維板など他の素材であってもよい。
また、本実施形態においては、振動体20における第1部材21の領域は、振動体20が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む領域となっている。なお、第1部材21の領域は、振動体20が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含むのであれば、図に示した広さに限定されず任意に変更することができる。
【0020】
底面部11を側壁12に固着して筐体10を構成し、振動体20を筐体10の開口部に接着して固定することにより吸音構造1の内部(振動体20の背後)に区画された空気層30が形成され、吸音構造1においては、振動体20の質量成分と空気層30のバネ成分によってバネマス系の吸音メカニズムが形成される。また、吸音構造1においては振動体20が弾性を有して屈曲振動をするため、屈曲振動による屈曲系の吸音メカニズムが加わる。なお、空気層30は、筐体10に多少の開口部を設けて密閉されていなくてもよい。
そして、吸音構造1においては、音波が振動体20に到達すると、音波の音圧と吸音構造1の空気層30内の圧力との差により振動体20が振動し、音波のエネルギーは、この振動により消費されて音が吸音される。
ここで、吸音構造1は、バネマス系と屈曲系の両方の吸音メカニズムが形成されているため、吸音される音の周波数と吸音率との関係を見ると、バネマス系の共振周波数における吸音率及び屈曲系の共振周波数における吸音率が高くなる。
【0021】
図4は、空気層30の縦と横の大きさが100mm×100mmで厚さが10mmの筐体10に振動体20(大きさが100mm×100mm、厚さ0.85mm)を固着し、第1部材21(大きさ20mm×20mm、厚さ0.85mm)の面密度を変化させた時の吸音構造1の垂直入射吸音率のシミュレート結果を示したグラフである。なおシミュレーション手法は、JIS A 1405-2(音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法)に従って、上記吸音構造を配置した音響管内の音場を有限要素法と境界要素法とを併用して求め、その伝達関数より吸音特性を算出した。
具体的には、図5に示したように、第1部材21の面密度を、(1)399.5[g/m]、(2)799[g/m]、(3)1199[g/m]、(4)1598[g/m]、(5)2397[g/m]とし、第2部材22の面密度を799[g/m]として振動体20の平均面密度を、(1)783[g/m]、(2)799[g/m]、(3)815[g/m]、(4)831[g/m]、(5)862.9[g/m]とした場合のシミュレーション結果である。
なお、(2)の場合は、第1部材21の面密度と第2部材22の面密度が同じ、即ち、振動体20全体が同じ素材で形成されている場合をシミュレートしたものであり、固有振動が1×1のモードに対応する共振周波数として400Hzにピークが表れている(図5、条件(2)の共振周波数(屈曲系)の欄)。
【0022】
シミュレート結果を見ると、図4に示したように、300[Hz]〜500[Hz]の間と、700[Hz]付近において吸音率が高くなっている。
700[Hz]付近で吸音率が高くなっているのは、振動体20のマス(mass:質量)と空気層30のバネ成分によって形成されるバネマス系の共振によるものである。吸音構造1においては上記バネマス系の共振周波数での吸音率をピークとして音が吸音されており、第1部材21の面密度を大きくしても、振動体20全体のマスは大きく変わらないので、バネマス系の共振周波数も大きく変わらないことが分かる。
また、300[Hz]〜500[Hz]の間で吸音率が高くなっているのは、振動体20の屈曲振動によって形成される屈曲系の共振によるものである。吸音構造1においては屈曲系の共振周波数での吸音率が低音域側のピークとして表れており、第1部材21の面密度を大きくしていくと屈曲系の共振周波数だけが低くなっていることが分かる。一般に、屈曲系の共振周波数は、振動体の弾性振動を支配する運動方程式で決定され、振動体の密度(面密度)に反比例する。また、前記共振周波数は、固有振動の腹(振幅が極大値となる場所)の密度により大きく影響される。このため、上記シミュレーションでは、1×1の固有モードの腹となる領域を第1部材21で異なる面密度に形成したので、屈曲系の共振周波数が変化したものである。
【0023】
このように、シミュレーション結果は、第1部材21の面密度を第2部材22の面密度より大きくすると吸音率のピークとなる周波数の内、低音域側の吸音率のピークが更に低音域側へ移動することを表している。従って、第1部材21の面密度を変更することにより吸音率のピークとなる周波数の一部を更に低音域側または高音域側に移動(シフト)させることができることを表している。
上述した吸音構造1においては、第1部材21の面密度を変えるだけで吸音される音のピークの周波数を変える(シフトさせる)ことができるため、振動体20全体を同じ素材で板状に形成し、振動体20全体の質量を重くして吸音する音を変更する場合と比較して、吸音構造1全体の質量を大きく変えることなく吸音される音を低くできる。
【0024】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。
【0025】
本発明において振動体20は、弾性を有する弾性体で形成されているのであれば、板状以外に膜の形状(フィルム状やシート状)であってもよい。なお、板状とは、直方体(立体)に対して相対的に厚さが薄く2次元的な広がりをもつことを意味し、膜状(フィルム状、シート状)とは、板状よりもさらに相対的に厚さが薄く、張力により復元力を発生することを意味する。
【0026】
上述した実施形態においては、第1部材21の形状は正方形となっているが、第1部材21の形状は、長方形、台形、多角形、円形、楕円形など、他の形状であってもよい。第1部材21の形状が正方形でなくとも、振動体20が屈曲振動したときに振幅が極大となる部分の面密度が第2部材22の面密度より大きければ、振動体20全体を同じ素材で形成した場合と比較して吸音する音が低くなる。
【0027】
上述した実施形態においては、振動体20が屈曲振動したときに振幅が極大となる部分に、第2部材22より面密度の大きい部材を配置しているが、図6に示した吸音構造1Aのように、振動体20全体を同じ素材とし、屈曲振動したときに振幅が極大となる部分(図6では中央部分)を含む第1領域23の厚さを、周縁部分より厚くするようにしてもよい。
図7は、空気層の縦と横の大きさが100mm×100mm、厚さ10mmの筐体10に面密度800[g/m]の振動体20(大きさ100mm×100mm)を固着し、第1領域23の厚さを(1)周縁部分と同じ(厚さ0.85mm)、(2)周縁部分の2倍、(3)周縁部分の3倍、(4)周縁部分の4倍、(5)周縁部分の5倍と変えた時の吸音構造1Aの垂直入射吸音率の測定結果を示したグラフである(測定は、JIS A 1405-2(音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法)による)。
【0028】
図7のグラフに示したように、吸音構造1Aでは、200[Hz]〜500[Hz]の間においては、振動体20の屈曲系の共振周波数での吸音率をピークとして音が吸音されており、第1領域23の厚さを厚くしていくと屈曲系の共振周波数も低くなっていることが分かる。
【0029】
このように、測定結果は、屈曲振動したときに振幅が極大となる部分を含む第1領域23の厚さを他の部分より厚くすると、吸音される音が低くなることを表しており、また、第1領域23の厚さを変更することにより、吸音される音を変えることができることを表している。
また、上述した吸音構造1Aにおいては、第1領域23の厚さを変えるだけで吸音される音を変えることができるため、振動体20全体を同じ素材で板状に形成し、振動体20全体の質量を重くして吸音する音を変更する場合と比較して、吸音構造1A全体の質量を大きく変えることなく、吸音される音を低くできる。なお、第1領域23の厚さを厚くする場合、周縁部分から滑らかに厚みが厚くなるようにしてもよい。また、第1領域23の領域は、振動体20が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含むのであれば、図に示した広さに限定されず任意に変更することができる。
【0030】
本発明に係る吸音構造においては、図8に示した吸音構造1Bのように振動体20を板状部材24と付加部材25とで構成してもよい。板状部材24は、弾性を有する素材を板状に形成した正方形の部材であり、付加部材25は、板状で矩形の部材であり、板状部材24に固着して一体化される。
振動体20においては、板状部材24が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む第1領域23に付加部材25が貼り付けられている。なお、付加部材25は振動体20を筐体10に取り付けた時に空気層30に面する側に貼り付けてもよいし、空気層30に面する側と反対側に貼り付けてもよい。
【0031】
この構成においては、上述した実施形態または変形例と同様に、振動体20の中心領域の質量は、振動体20全体を同じ素材で板状に形成したときの中心領域の質量より重くなるため、振動体20全体を同じ素材で板状に形成したときと比較して、屈曲系の共振周波数が低くなり、また、付加部材25の重さを変更することにより吸音される音を変えることができる。
【0032】
なお、付加部材25を使用する場合、本発明に係る吸音構造においては、図9に示したように板状部材24において振動体20が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む領域の内部に付加部材25を混入して振動体20を構成してもよい。また、板状部材24において振動体20が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む領域の内部に部材を混入する場合、混入する部材は板状に限らず、板状部材24より密度の大きい粒状の部材を複数混入してもよいし、板状部材24より密度の大きい線状の部材を複数混入してもよい。
【0033】
上述した実施形態または変形例に係る吸音構造は、音響特性を制御する各種の音響室に配置することが可能である。ここで各種音響室とは、防音室、ホール、劇場、音響機器のリスニングルーム、会議室等の居室、各種輸送機器の空間、スピーカや楽器などの筐体などである。
なお、上述した実施形態または変形例に係る吸音構造を配置する場合、図10に示したように大きさの同じ吸音構造を複数組み合わせた吸音体群を配置してもよい。また、図1の吸音構造1を複数組み合わせる場合には、組み合わせる吸音構造毎に第1部材21の面密度を異ならせ、複数の吸音構造で複数の周波数の音を吸音するようにしてもよい。
また、図6の吸音構造を複数組み合わせる場合には、組み合わせる吸音構造毎に第1領域23の厚さを異ならせ、複数の吸音構造で複数の周波数の音を吸音するようにしてもよく、また、図8または図9の吸音構造を複数組み合わせる場合には、組み合わせる吸音構造毎に付加部材25の質量を異ならせ、複数の吸音構造で複数の周波数の音を吸音するようにしてもよい。また、吸音構造を複数組み合わせる場合には、組み合わせる吸音構造毎に空気層30の縦と横のサイズを一定にして厚さを異ならせてもよく、空気層30の厚さを一定にして空気層30の縦と横のサイズを各々異ならせてもよい。また、空気層30の厚さとサイズの両方を各々異ならせてもよい。
【0034】
また、複数の空気層30が形成されるように筐体10の内部を図11に示したように仕切部材13で格子状に区切り、振動体20において各空気層に対向する部分であって振動体20が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む領域に付加部材25を貼り付けるようにしてもよい。なお、この構成においては、付加部材25毎に質量を異ならせるようにしてもよい。この構成においても複数の周波数の音を吸音することができる。
【0035】
本発明においては、振動体20の振幅が極大となる部分を含むのであれば、振動体20の中央部分ではなく他の部分に第1部材21や付加部材25、第1領域23の領域などがあってもよい。
また、振動体20の振幅が極大となる部分を除き、極大となる部分周辺に第1部材21や付加部材25があってもよく、振動体20の振幅が極大となる部分の周辺の厚さが極大となる部分より厚くなっていてもよい。
また、振動体20の振幅の節または極小となる部分を除いた部分の少なくとも一部に第1部材21や付加部材25があってもよく、振動体20の振幅の節または極小となる部分の周辺の厚さが節又は極小となる部分より厚くなっていてもよい。
【0036】
上述した実施形態においては、振動体20は、筐体10に接着されて固定支持されており、接着部位においては変位(移動)も回転も拘束されているが、振動体20は、筐体10に対して変位が拘束され、回転が許容されている単純支持状態であってもよい。
また、変位が許容されている支持状態や自由支持など他の支持状態であってもよい。
【0037】
また、本発明に係る吸音構造においては、上述した実施形態に係る振動体の構成と変形例に係る振動体の構成とを組み合わせて振動体を構成してもよい。
【0038】
本発明において、第1部材21と第2部材22の密度を異ならせることにより、振動体20が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の密度が、振幅の節または極小となる位置の密度と異なる構成にあっては、密度が異なる複数の第1部材21を準備し、第2部材22に固着する第1部材21を交換することにより、吸音構造におけるバネマス系の吸音メカニズムの共振周波数や屈曲系の吸音メカニズムの共振周波数を調整し、吸音構造における吸音率のピークとなる周波数を調整してもよい。
また、振動体20が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の厚さが、振幅の節または極小となる位置の厚さと異なる構成にあっては、第1領域23の厚さを削って薄くする、または振動体20と同じ素材の部材を第1領域23に付加して厚さを厚くすることにより、吸音構造におけるバネマス系の吸音メカニズムの共振周波数や屈曲系の吸音メカニズムの共振周波数を調整し、吸音構造における吸音率のピークとなる周波数を調整してもよい。
また、振動体20が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部に付加部材25を有する構成にあっては、密度が異なる複数の付加部材25を準備し、板状部材24に固着する付加部材25を交換することにより、吸音構造におけるバネマス系の吸音メカニズムの共振周波数や屈曲系の吸音メカニズムの共振周波数を調整し、吸音構造における吸音率のピークとなる周波数を調整してもよい。
このような吸音構造の調整方法によれば、バネマス系の吸音メカニズムの共振周波数や屈曲系の吸音メカニズムの共振周波数の調整、吸音構造における吸音率のピークとなる周波数の調整を容易に行うことができる。
【0039】
上述した吸音構造のうち、振動体20を第1部材21と第2部材22とで構成し、振動体20が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の密度が、振幅の節または極小となる位置の密度と異なる吸音構造にあっては、当該吸音構造を、吸音構造の吸音率のピークの周波数の音が騒音として発生している場所に配置して騒音を低減させてもよい。
また、上述した吸音構造のうち、振動体20の厚さが均一でなく、振動体20が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の厚さが振幅の節または極小となる位置の厚さと異なる吸音構造についても、当該吸音構造を、吸音構造の吸音率のピークの周波数の音が騒音として発生している場所に配置して騒音を低減させてもよい。
また、上述した吸音構造のうち、振動体20を板状部材24と付加部材25とで構成し、振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部に付加部材25を配置する吸音構造についても、当該吸音構造を、吸音構造の吸音率のピークの周波数の音が騒音として発生している場所に配置して騒音を低減させてもよい。
このように本発明に係る吸音構造を騒音の発生場所に配置して騒音を低減させる騒音低減方法によれば、振動体20が振動して騒音のエネルギーが消費されて騒音が低減されることとなる。
なお、騒音の発生場所としては、例えば車両や飛行機など各種輸送機器の内部、工場や工事現場などで運転されている各種機械などがある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係る吸音構造1の外観図である。
【図2】吸音構造1の分解斜視図である。
【図3】吸音構造1のA−A線断面図である。
【図4】吸音構造1のシミュレーション結果を示したグラフである。
【図5】吸音構造1のシミュレーション条件および結果を示した表である。
【図6】本発明の変形例に係る吸音構造1Aの断面図である。
【図7】吸音構造1Aの吸音率の測定結果を示したグラフである。
【図8】本発明の変形例に係る吸音構造の断面図である。
【図9】本発明の変形例に係る吸音構造の断面図である。
【図10】本発明に係る吸音体群の外観図である。
【図11】本発明の変形例に係る吸音構造の分解図である
【符号の説明】
【0041】
1,1A,1B・・・吸音構造、10・・・筐体、11・・・底面部、12・・・側壁、13・・・仕切部材、20・・・振動体、21・・・第1部材、22・・・第2部材、23・・・第1領域、24・・・板状部材、25・・・付加部材、30・・・空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空で開口部を備えた筐体と、
板状または膜状の振動体とを有し、
前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の密度が、振幅の節または極小となる位置の密度と異なることを特徴とする吸音構造。
【請求項2】
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む所定領域の密度が、前記所定領域以外の部分の密度と異なることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造。
【請求項3】
中空で開口部を備えた筐体と、
板状または膜状の振動体とを有し、
前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の厚さが、振幅の節または極小となる位置の厚さと異なることを特徴とする吸音構造。
【請求項4】
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む所定領域の厚さが、前記所定領域以外の部分の厚さと異なることを特徴とする請求項3に記載の吸音構造。
【請求項5】
中空で開口部を備えた筐体と、
板状または膜状の振動体と、
付加部材と
を有し、
前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部に前記付加部材を有することを特徴とする吸音構造。
【請求項6】
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅が極大となる位置を含む所定領域に付加部材を有することを特徴とする請求項5に記載の吸音構造。
【請求項7】
前記振動体の前記所定領域の表面に付加部材が固定されていることを特徴とする請求項6に記載の吸音構造。
【請求項8】
前記振動体の前記所定領域の部分に付加部材が混入されていることを特徴とする請求項6に記載の吸音構造。
【請求項9】
請求項5乃至請求項8のいずれかに記載の吸音構造を複数組み合わせた吸音構造群であって、組み合わされた複数の吸音構造の各付加部材の質量が各々異なることを特徴とする吸音構造群。
【請求項10】
請求項1乃至請求項8のいずれか一に記載の吸音構造を複数組み合わせた吸音構造群。
【請求項11】
組み合わされた複数の吸音構造の各空気層のサイズが各々異なることを特徴とする請求項10に記載の吸音構造群。
【請求項12】
組み合わされた複数の吸音構造の各空気層の厚みが各々異なることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の吸音構造群。
【請求項13】
請求項1乃至請求項8のいずれか一に記載の吸音構造または請求項9乃至請求項12のいずれか一に記載の吸音構造群を有する音響室。
【請求項14】
中空で開口部を備えた筐体と、
板状または膜状の振動体とを有し、
前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の密度が、振幅の節または極小となる位置の密度と異なる吸音構造の調整方法であって、
前記振動体において前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の密度を変更して吸音構造の共振周波数を調整する吸音構造の調整方法。
【請求項15】
中空で開口部を備えた筐体と、
板状または膜状の振動体とを有し、
前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の厚さが、振幅の節または極小となる位置の厚さと異なる吸音構造の調整方法であって、
前記振動体において前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の厚さを変更して吸音構造の共振周波数を調整する吸音構造の調整方法。
【請求項16】
中空で開口部を備えた筐体と、
板状または膜状の振動体と、
付加部材と
を有し、
前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部に前記付加部材を有する吸音構造の調整方法であって、
前記前記付加部材を変更して吸音構造の共振周波数を調整する吸音構造の調整方法。
【請求項17】
中空で開口部を備えた筐体と、
板状または膜状の振動体とを有し、
前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、
前記振動体が振動して騒音を低減する騒音低減方法であって、
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の密度を、振幅の節または極小となる位置の密度と異ならせること
を特徴とする騒音低減方法。
【請求項18】
中空で開口部を備えた筐体と、
板状または膜状の振動体とを有し、
前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、
前記振動体が振動して騒音を低減する騒音低減方法であって、
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部の厚さを、振幅の節または極小となる位置の厚さと異ならせることを特徴とする騒音低減方法。
【請求項19】
中空で開口部を備えた筐体と、
板状または膜状の振動体と、
付加部材と
を有し、
前記開口部が前記振動体で塞がれて前記筐体と前記振動体とで空気層が形成されており、
前記振動体が振動して騒音を低減する騒音低減方法であって、
前記振動体においては、前記振動体が屈曲振動したときに振幅の節または極小となる位置以外の領域の少なくとも一部に前記付加部材を配置することを特徴とする騒音低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−198902(P2009−198902A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41772(P2008−41772)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】