説明

吸音構造

【課題】ホール、駅コンコース、工場等の建築物の騒音の低減を図る。
【解決手段】本発明の吸音構造1aは、凹陥部21を有する剛質体2と、当該剛質体2の凹陥部21に組み込まれる吸音材3とを備えている。
剛質体2は、背後剛壁層として使用するもので、例えばH鋼などで構成されている。
吸音体3aは、剛質体2の凹陥部21の開口部を閉塞する膜状の低周波吸音材31と、当該低周波吸音材31の凹陥部21と対向する側に積層され凹陥部21に収納される多孔質体32とを備えており、全体として剛質体2の凹陥部21に装着できるように直方体状を呈している。
低周波吸音材31は、難燃性を有しかつ燃焼時に有害ガスを発生しない材料で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音構造に係り、特に、ホール、駅コンコース、工場等の建築物の騒音を効果的に吸音する場合に有用な吸音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の建築物の騒音を吸音する吸音材として、(a)グラスウールやロックウール等から成る多孔質体を使用するもの、(b)吸音材の前面側に空気層を設けて成るもの、(c)通気度が5〜100倍異なる高密度と低密度の繊維集合体を少なくとも2層以上積層して成るものなどが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、(a)の吸音材においては、100Hz以下の低周波領域の騒音を効果的に吸収するためには、多孔質体の肉厚を厚くする必要があるところ、多孔質体の肉厚を厚くすると、吸音材の重量が全体的に重くなるという難点があった。また、(b)の吸音材においては、吸音材の前面側に空気層が存在するため、吸音材の重量が重くなり、また、スペースを広くとらなければならないという難点があった。
【0004】
一方、(c)の吸音材は、空気の粘性抵抗を利用し、音波のエネルギーを熱エネルギーに変換して吸音する多孔質吸音構造体に、さらに密度が異なる繊維集合体を積層することで、高密度部分が付加質量、低密度部分がバネの役割を担う、いわゆる動吸振機を構成させて特に低周波領域の吸音率を向上させるものであるが、このような構成の吸音材においては、特に100Hz以下の低周波領域においては、十分な吸音効果が得られないという難点があった。また、低周波領域の音や振動は空気伝搬音だけではなく、建物や窓のがたつきなども発生するため、固体伝搬音および振動防止に対する対策を同時に行う必要があり、従来の吸音材ではその対策が困難であった。
【0005】
このため、本出願人は、先に、空気の粘性抵抗を利用し、音波のエネルギーを熱エネルギーに変換して吸音する多孔質吸音構造体に、さらに密度が異なる繊維集合体を積層した第1、第2の吸音材を開発し、出願している(特開2003−316364号公報、特願2004−57089号明細書)。
【0006】
ここで、第1の吸音材は、前面側に配置される発泡体層と、この発泡体層の背面側に積層される多孔質体とを備えており、発泡体層は、分子量500〜5000の第1のジオール、分子量500以下の第2のジオール、無機充填材、発泡剤としての水、およびイソシアネートの各成分を含有する発泡体で形成され、また、多孔質体は、汎用のグラスウールで形成されている。
【0007】
このような構成の第1の吸音材によれば、高密度部分が付加質量、低密度部分がバネの役割を担う、いわゆる動吸振機を構成させて、特に低周波数帯域の吸音率を向上させることができるものの、第1に、多孔質体を構成するグラスウールは、100Hz以下の低周波領域では吸音効果が弱くなるという難点があり、第2に、発泡体層と多孔質体とが一体成型され、この一体成型に際して発泡体層の前面側に表面皮膜が形成されるため、製品の自由度を向上させることができないという難点があった。すなわち、発泡体層と多孔質体との一体成形の際に表面皮膜が同時に形成されるため、所要の吸音特性を発揮させるためには、発泡体層の前面側や多孔質体の背面側を変更しなければならないという難点があった。
【0008】
次に、第2の吸音材は、発泡体層と、発泡体層の前面側に積層される多孔質体と、発泡体層の背面側に積層される第2の多孔質体とを備えており、発泡体層は、分子量500〜5000の第1のジオール、分子量500以下の第2のジオール、無機充填材、発泡剤としての水、およびイソシアネートの各成分を原料成分としている。
【0009】
このような構成の第2の吸音材によれば、150Hz以下の低周波領域のみならず150Hzを超える高周波領域の広帯域の騒音を効果的に吸収することができるものの、建築基準法の不燃性試験の基準を満たすことができないという難点があった。また、第2の吸音材においては、吸音構造が膜状吸音であるため、効果的に機能させるためには吸音材の背面側に剛壁層を使用する必要がある。
【0010】
ここで、このような剛壁層としては、壁材として通常使用されている石膏ボードの使用も考えられるが、かかる石膏ボードは比較的軽量であるため剛壁層としては十分な吸音特性を得ることができないという難点があり、また、ホールや駅コンコースなどの広い空間で騒音対策に吸音材を用いる場合には審美性の観点から取付場所の確保が困難であるという難点があった。さらに、吸音体を天井等に吊り下げて使用する方法も考えられるが、膜状の吸音構造では背後剛壁層を一体化しなければならないため吸音体が重くなり、ひいては天井の強度が問題になるという難点があった。
【0011】
【特許文献1】特開平8−152890号公報
【特許文献2】特開2003−316364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ホールや駅コンコース等の建築物への設置が容易で、低周波領域の騒音を効果的に吸収することができ、また審美性に優れた吸音構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様である吸音構造は、凹陥部を有する剛質体と、凹陥部に組み込まれる吸音体とをものである。
【0014】
本発明の第2の態様である吸音構造は、凹陥部を有する剛質体と、凹陥部に組み込まれる吸音体と、吸音体の凹陥部と対向する側に設けられる磁性体とを備えるものである。
【0015】
本発明の第3の態様である吸音構造は、凹陥部を有する剛質体と、凹陥部に組み込まれる吸音体と、吸音体を凹陥部に固定する固定部材とを備えるものである。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様の何れかの態様である吸音構造において、吸音体の音源側には化粧体が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか1項記載の吸音構造。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様の何れかの態様である吸音構造において、吸音体は、凹陥部の開口部を閉塞する膜状の低周波吸音材と、低周波吸音材と凹陥部とによって区画される空間とを備えるものである。
【0018】
本発明の第6の態様は、第1の態様乃至第4の態様の何れかの態様である吸音構造において、前記吸音体は、前記凹陥部の開口部を閉塞する膜状の低周波吸音材と、前記低周波吸音材の前記凹陥部と対向する側に積層され前記凹陥部に収納される多孔質体とを備えるものである。
【0019】
本発明の第7の態様は、第5の態様または第6の態様である吸音構造において、低周波吸音材は、樹脂膜、無機材料を含有する樹脂膜、金属箔の何れか、または樹脂膜の片面または両面に金属箔を積層した積層体から成るものである。
【0020】
本発明の第8の態様は、第6の態様または第7の態様である吸音構造において、多孔質体は、無機系繊維凝集体、有機系繊維凝集体、金属系繊維凝集体の何れか、またはこれらの混合物から成るものである。
【0021】
本発明の第9の態様は、第6の態様または第7の態様である吸音構造において、多孔質体は、無機系材料、有機系材料、金属粒焼結体、無機系材料または金属材料の有機バインダーによる結合体の何れか、またはこれらの混合物から成るものである。
【0022】
本発明の第10の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音構造において、剛質体は、長手方向に沿って断面視U字状の凹陥部を有する線条体から成るものである。
【0023】
本発明の第11の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様である吸音構造において、剛質体は、H鋼または溝型鋼から成るものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の態様乃至第11の態様の吸音構造によれば、次のような効果がある。
【0025】
第1に、凹陥部を有する剛質体として、ホールや駅コンコース等の建築材料として使用されているH鋼や溝型鋼を流用することができ、ひいては当該H鋼や溝型鋼等の凹陥部に吸音体を組み込むことで簡単に吸音構造を提供することができる。
【0026】
第2に、H鋼や溝型鋼等から成る剛質体が背面剛質層として機能するため、剛質体の凹陥部の開口部を低周波吸音材で閉塞することで、簡単に膜状の吸音構造を提供することができる。
【0027】
第3に、吸音体を構成する低周波吸音材として、例えばシリコーンから成る膜状の低周波吸音材を使用することで、200Hz程度以下の低周波領域の騒音を効果的に吸収することができ、また、低周波吸音材自身に建築基準法における難燃の規格に適合する難燃性を付与することで、吸音体を難燃性が必要とされる場所に設置することがでる。
【0028】
第4に、吸音体の外面側(音源側)に化粧体を設けた場合においては、審美性に優れた吸音構造を提供することができ、また、必要に応じて当該化粧体に所定の表面印刷を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の吸音構造を適用した好ましい実施の一形態例について、図面を参照して説明する。
[実施例1]
図1は、本発明の第1の実施例における吸音構造の斜視図である。
【0030】
同図において、本発明の吸音構造1aは、凹陥部21を有する剛質体2と、当該剛質体2の凹陥部21に組み込まれる吸音材3とを備えている。
【0031】
剛質体2は、背後剛壁層として使用するもので、音の反射量が大きいほど後述する膜状の低周波吸音材の吸音特性を向上させることができる。
【0032】
剛質体2は、具体的には長手方向に沿って断面視略U字状の凹陥部を有する線条体、例えば後述のH鋼を使用することが好ましい。剛質体2として、断面視略U字状の凹陥部を有する線条体を選定した場合は、ホールや駅コンコース等の建築材料として使用されているH鋼を背後剛壁層として利用することができるとともに、当該H鋼の凹陥部に後述する吸音体を容易に、簡単に、かつ確実に組み込むことができる。
【0033】
図2は、剛質体として、厚さが12mmの石膏ボード、厚さが1.0mmの鋼板および厚さが8mmのH鋼(JISA5526で規定される200×200サイズ品)の3種類の剛壁層を想定し、これらの剛壁層による音の反射量を比較した結果を示している。
【0034】
ここで、剛壁層の反射量(遮音量)は、数1の質量則を目安にすることができる。
【0035】
【数1】

【0036】
図2より、H鋼の遮音量(≦−33[dB])に対して、石膏ボードの遮音量が23[dB]で、鋼板の遮音量が−24[dB]であることから、H鋼の遮音量が大きく、当該H鋼が吸音材の背後剛壁層として非常に優れていることが分かる。
【0037】
吸音体3aは、図3に示すように、剛質体2の凹陥部21の開口部を閉塞する膜状の低周波吸音材31と、当該低周波吸音材31の凹陥部21と対向する側に積層され凹陥部21に収納される多孔質体32とを備えており、全体として剛質体2の凹陥部21に装着できるように直方体状を呈している。ここで、剛質体2として線条体を使用する場合においては、剛質体2の凹陥部21に組み込まれる吸音体3aも線条体で構成することが好ましい。この場合、吸音体3aは剛質体2の凹陥部21に長手方向に沿って所定の間隔をおいて間歇的に組み込んでもよい。
【0038】
低周波吸音材31は、難燃性を有しかつ燃焼時に有害ガスを発生しない材料で形成されている。具体的には、シリコーンゴムに2:1〜1:1の比で、Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物またはSi、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物の混合物から成る無機化合物を混入したもので形成されている。
【0039】
このような構成の膜状の低周波吸音材31においては、ネットワーク構造のシリコーンゴムの多孔室部分に嵩さ密度が高くかつ粒径の小さい硫酸バリウム等を混入することで、不燃性でかつ柔軟性がある上、所定の面密度を有する膜を形成することができる。
【0040】
図4は、本発明の実施例における膜状の低周波吸音材31の吸音率、面密度、膜厚、発熱量、発熱速度を比較例とともに示した説明図である。
【0041】
ここで、本実施例における膜状の低周波吸音材31は、シリコーンゴムに2:1の比でシリカ、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、硫酸バリウムを混入したもので形成されており、比較例としてウレタンから成る膜が使用されている。
【0042】
なお、発熱量は建築基準法第2条第9号に規定する方法により、発熱速度はISO5660に規定する方法により測定した。
【0043】
同図より、本実施例における膜状の低周波吸音材31は、その膜厚を比較例の膜厚より略1/3程度薄くしても、比較例と同等の吸音率および面密度を得ることができる。また、建築基準法第2条第9号に規定する不燃グレードに適合させることができ、さらに、燃焼発熱速度を[200kW/m]・10sec未満にすることができる。
【0044】
次に、このような構成の膜状の低周波吸音材31に要求される諸性能について説明する。
【0045】
第1に、低周波吸音材31としては単位体積当たりの燃焼発熱量が8MJ/m以下のものを使用することが好ましい。低周波吸音材31の単位体積当たりの燃焼発熱量が8MJ/mを越えると、本実施例による製品の適用法規である建築基準法第2条第9号に規定される不燃グレードに適合できないからである。なお、低周波吸音材31の燃焼発熱量は低周波吸音材31の原料用樹脂に配合させる無機フィラーの種類や配合量などにより調節することができる。
【0046】
このような無機化合物を含むシリコーンゴムから成る膜状の低周波吸音材31によれば、幅100mm、長さ100mm、厚さ3〜50mmの試験片において、ISO5660で規定する燃焼発熱量試験において、単位体積当たりの燃焼発熱量を8MJ/m以下にすることができる。
【0047】
第2に、低周波吸音材31としては燃焼発熱速度が[200kW/m] ・10sec以下のもの使用することが好ましい。低周波吸音材31の燃焼発熱速度が[200kW/m] ・10secを越えると、建築基準法第2条第9号に規定の不燃グレードに適合しないからである。
【0048】
このような無機化合物を含むシリコーンゴムから成る膜状の低周波吸音材31によれば、幅100mm、長さ100mm、厚さ3〜50mmの試験片において、ISO5660で規定する燃焼発熱速度試験において、燃焼発熱速度を[200kW/m] ・10sec以下にすることができる。
【0049】
次に、多孔質体32は、難燃性を有する材料で形成されている。具体的には、グラスウール、ロックウールの何れかまたはこれらの混合物から成るもので形成されている。ここで、多孔質体32は、厚さが1〜50mm、望ましくは10〜25mmのもので形成されている。
【0050】
このような構成の多孔質体32においては、低周波数領域から高周波数領域までの広範囲に亘って吸音特性が優れており、また固体伝搬音や振動の低減にも効果的な制振性を発揮する。
【0051】
この実施例において、低周波吸音材31の背面側に多孔質体32を配置するのは、低周波吸音材31の部分が付加質量、すなわち錘の役割として作用し、多孔質体32の部分がバネ、すなわち空気バネの役割として作用し、膜振動による吸音が可能となるからである。
【0052】
なお、製品形態の自由度を向上させ、現場における施工を簡単にするため、接着やシリコーングラフト反応等により、低周波吸音材31は多孔質体32と一体化することが好ましい。
【0053】
図5は、実施例1における低周波吸音材31の吸音特性を示している。ここで、図中、点線L1は、多孔質体(グラスウール)の厚さを100mmとした従来の吸音材の吸音特性、実線L2は、低周波吸音材31としてのシリコーンゴムの厚さを0.5mm、多孔質体32としてのグラスウールの厚さを75mmとした低周波吸音材31の吸音特性を示している。
【0054】
同図より、従来の吸音材は、200Hz程度を超える高周波領域では吸音率が高いものの、200Hz程度以下の低周波領域では吸音率が低く、これに対して、低周波吸音材31は、200Hz程度以上の高周波領域では吸音率が低いものの、200Hz程度以下の低周波領域では吸音率が高いことが分かる。従って、このような構成の低周波吸音材31を使用すれば、低周波領域に対応可能な吸音材を提供することができる。
[実施例2]
図6は、本発明の第2の実施例における吸音構造の断面図である。なお、同図において、図3と共通する部分には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0055】
図6において、本発明の吸音構造1bは、吸音体3aを構成する多孔質体32の背面側にシート状の磁性体4が多孔質体32の長手方向に沿って貼設されている。なお、磁性体4は多孔質体32の長手方向に沿って所定の間隔をおいて間歇的に貼設してもよい。
【0056】
この実施例においては、磁性体4を利用することで吸音体3aを剛質体2としてのH鋼の凹陥部21に簡単に着脱自在に組み込むことができる。
[実施例3]
図7は、本発明の第3の実施例における吸音構造の断面図である。なお、同図において、図3と共通する部分には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0057】
図7において、本発明の吸音構造1cは、吸音体3aを構成する低周波吸音材31の外面側(音源側)に、難燃布やパンチングメタル等から成る板状の化粧体5が低周波吸音材31の長手方向に沿って設けられている。なお、化粧体5は低周波吸音材31の長手方向に沿って所定の間隔をおいて間歇的に設けてもよい。
【0058】
この実施例においては、化粧体5を設けることで、低周波吸音材31を物理的な衝撃から保護することができ、また、必要に応じて化粧体5の外表面に所定の表示を印刷することができる。
[実施例4]
図8は、本発明の第4の実施例における吸音構造の斜視図である。なお、同図において、図3および図7と共通する部分には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0059】
図8(a)において、本発明の吸音構造1dは、剛質体2の凹陥部21に収納された吸音体3aが鉤型の固定部材6を介して剛質体2に固定されている。
【0060】
固定部材6は、吸音体3aを構成する低周波吸音材31(図3参照)の外面に当接される板状の保持片61と、凹陥部21(図3参照)の底部21aに当接される板状の当接片62と、吸音体3aの端面に当接され保持片61および当接片62間に跨って連設される連接片63とを備えており、当接片62には予め例えば2個の透孔62aが穿設されている。
【0061】
この実施例においては、固定部材6を図のように所定位置に配設した状態で、当接片62の透孔62aに例えば日本ヒルティ株式会社製の建設用安全鋲撃機で鋲撃ちすることで、吸音体3aを凹陥部21に確実に固定することができる。
【0062】
この実施例においては、鋲7により吸音体3aを剛質体2に対して確実に取り付けることができ、ひいては吸音体3aの落下などを防止することができる。
【0063】
ここで、上記実施例においては、鉤型の固定部材6を介して吸音体3aを剛質体2に固定しているが、図8(b)に示すように、図7に示すパンチングメタルやエキズパンドメタル等の化粧体5の両側縁部分を前述の建設用安全鋲撃機で鋲撃ちすることで、吸音体3aを剛質体2に固定するか、若しくは、図8(c)に示すように、化粧体5および吸音体3aに予め貫通孔8を設けておき、当該貫通孔8にボルト(不図示)を挿入し、ボルトの先端部を剛質体2の凹陥部21の底部21aに設けた螺孔9に螺着することで、吸音体3aを剛質体2に固定してもよい。
[実施例5]
図9は、本発明の第5の実施例における吸音構造の斜視図である。なお、同図において、図3と共通する部分には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0064】
図9において、本発明の吸音構造1eは、図3に示す吸音体3aに代えて、膜状吸音構造の吸音体3bが使用されている。
【0065】
本発明における吸音体3bは、剛質体2の凹陥部21の開口部を閉塞する低周波吸音材31と、低周波吸音材31と凹陥部21とによって区画される空間33とを備えている。
【0066】
この実施例においては、図3に示す多孔質体32が不要となることから、吸音体3b自体の軽量化を図ることができ、またコスト的にも割安な吸音構造を提供することができる。
[実施例6]
前述の実施例では、低周波吸音材31を無機化合物を含むシリコーンゴムで形成した場合について述べているが、当該低周波吸音材31は、アクリル樹脂に2:1〜1:1の比で、Si、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物またはSi、Ca、Sr、Ba、Al、Mgの何れか1種を含む化合物の混合物から成る無機化合物、並びに次に示す炭素繊維を混入したもので形成してもよい。
【0067】
このような構成の低周波吸音材31においては、アクリル樹脂に炭素繊維を添加することで、不燃性でかつ柔軟性がある上、所定の面密度を有する樹脂膜を形成することができる。
【0068】
ここで炭素繊維としては、繊維径が10〜30μm、長さの平均値が0.3〜2mm、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し0.5〜10部のものを使用することが好ましい。ここで、繊維径を10〜30μmとしたのは、繊維径を10μm未満にすると樹脂間の結合が低下するからであり、繊維径が30μmを超えると樹脂の柔軟性が低下するからである。また、長さの平均値が0.3〜2mmとしたのは、長さの平均値を0.3mm未満にすると樹脂間の結合が低下するからであり、長さの平均値が2mmを超えると樹脂の柔軟性が低下するからである。さらに、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し0.5〜10部としたのは、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し0.5部未満では樹脂間の結合が低下するからであり、添加量が主剤のアクリル樹脂に対し10部を超えると樹脂の柔軟性が低下するからである。
【0069】
図10は、実施例6における樹脂膜の吸音率、面密度、膜厚、発熱量、発熱速度を比較例とともに示した説明図である。
【0070】
ここで、実施例6における低周波吸音材31は、アクリル樹脂に2:1の比でシリカ、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを混入したもの形成されており、比較例としてウレタンから成る樹脂膜が使用されている。
【0071】
なお、発熱量は建築基準法第2条第9号に規定する方法により、発熱速度はISO5660に規定する方法により測定した。
【0072】
同図より、実施例6における低周波吸音材31は、その膜厚を比較例の膜厚より略1/3程度薄くしても、比較例と同等の吸音率および面密度を得ることができる。また、建築基準法第2条第9号に規定する不燃グレードに適合させることができ、さらに、燃焼発熱速度を[200kW/m]・10sec未満にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
前述の実施例においては、図面に示した特定の実施の形態をもって本発明を説明しているが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、次のように構成してもよい。
【0074】
第1に、前述の実施例においては、剛質体としてH鋼を使用した場合について述べているが、H鋼に代えて溝形剛を使用してもよい。
【0075】
第2に、前述の実施例においては、低周波吸音材としてシリコーンゴムからなる樹脂膜を使用した場合について述べているが、これに代えて、無機材料を含有する樹脂膜、金属箔、または樹脂膜の片面または両面に金属箔を積層した積層体から成るものを使用してもよい。
【0076】
第3に、前述の実施例においては、多孔質体としてグラスウールを使用した場合について述べているが、これに代えてロックウールなどの無機系繊維凝集体、セルロースファイバ、粗毛フェルト、獣毛フェルト、PET繊維フェルト、ポリエチレンフェルトなどの有機系繊維凝集体、金属系繊維凝集体の何れか、またはこれらの混合物から成るものを使用してもよい。
【0077】
第4に、前述の実施例においては、多孔質体としてグラスウールを使用した場合について述べているが、これに代えて、発泡セメント、発泡ガラス、ガラス焼結体などの無機系材料、発泡ウレタン、発泡シリコーン、発泡スチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレンなどの有機系材料、金属粒焼結体、無機系材料または金属材料の有機バインダーによる結合体の何れか、またはこれらの混合物から成るものを使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第1の実施例における吸音構造の斜視図。
【図2】本発明の第1の実施例における剛壁層の遮音量を比較例とともに示す説明図。
【図3】本発明の第1の実施例における吸音構造の断面図。
【図4】本発明の第1の実施例における低周波吸音材としてのシリコーンゴムとフィラーの混合比を示す説明図。
【図5】本発明の第1の実施例における低周波吸音材の吸音特性を示す説明図。
【図6】本発明の第2の実施例における吸音構造の断面図。
【図7】本発明の第3の実施例における吸音構造の断面図。
【図8】本発明の第4の実施例における吸音構造の説明図で、分図(a)は鉤型の固定部材を使用した吸音構造の斜視図、分図(b)(c)は他の固定部材を使用した吸音構造の断面図。
【図9】本発明の第5の実施例における吸音構造の断面図。
【図10】本発明の第6の実施例における低周波吸音材としてのアクリル樹脂とフィラーの混合比を示す説明図。
【符号の説明】
【0079】
1a、1b、1c、1d、1e・・・吸音構造
2・・・剛質体
21・・・凹陥部
3a、3b・・・吸音体
31・・・低周波吸音材
32・・・多孔質体
33・・・空間
4・・・磁性体
5・・・化粧体
6・・・固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹陥部を有する剛質体と、前記凹陥部に組み込まれる吸音体とを備えることを特徴とする吸音構造。
【請求項2】
凹陥部を有する剛質体と、前記凹陥部に組み込まれる吸音体と、前記吸音体の前記凹陥部と対向する側に設けられる磁性体とを備えることを特徴とする吸音構造。
【請求項3】
凹陥部を有する剛質体と、前記凹陥部に組み込まれる吸音体と、前記吸音体を前記凹陥部に固定する固定部材とを備えることを特徴とする吸音構造。
【請求項4】
前記吸音体の音源側には化粧体が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか1項記載の吸音構造。
【請求項5】
前記吸音体は、前記凹陥部の開口部を閉塞する膜状の低周波吸音材と、前記低周波吸音材と前記凹陥部とによって区画される空間とを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4何れか1項記載の吸音構造。
【請求項6】
前記吸音体は、前記凹陥部の開口部を閉塞する膜状の低周波吸音材と、前記低周波吸音材の前記凹陥部と対向する側に積層され前記凹陥部に収納される多孔質体とを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4何れか1項記載の吸音構造。
【請求項7】
前記低周波吸音材は、樹脂膜、無機材料を含有する樹脂膜、金属箔の何れか、または前記樹脂膜の片面または両面に前記金属箔を積層した積層体から成ることを特徴とする請求項5または請求項6記載の吸音構造。
【請求項8】
前記多孔質体は、無機系繊維凝集体、有機系繊維凝集体、金属系繊維凝集体の何れか、またはこれらの混合物から成ることを特徴とする請求項6または請求項7記載の吸音構造。
【請求項9】
前記多孔質体は、無機系材料、有機系材料、金属粒焼結体、無機系材料または金属材料の有機バインダーによる結合体の何れか、またはこれらの混合物から成ることを特徴とする請求項6または請求項7記載の吸音構造。
【請求項10】
前記剛質体は、長手方向に沿って断面視U字状の凹陥部を有する線条体から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音構造。
【請求項11】
前記剛質体は、H鋼または溝型鋼から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載の吸音構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−38498(P2008−38498A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215334(P2006−215334)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(306013119)昭和電線デバイステクノロジー株式会社 (118)
【Fターム(参考)】