説明

吹付け用急結剤、吹付け材料、及びこれを用いた吹付け工法

【課題】
従来の急結剤に比べ、アルカリの使用量が少なくても、急結性や強度発現性に優れる吹付け用急結剤及び吹付け材料を提供する。
【解決手段】
非晶質カルシウムアルミネート100質量部に対して無水石膏50〜150質量部、RO/Alモル比(Rはアルカリ金属)が0.8〜1.2である粉末アルカリ金属アルミン酸塩1〜5質量部、粉末硫酸アルミニウム10〜20質量部、オキシカルボン酸類0.2〜1質量部を含有してなり、急結剤中のROが1%以下であることを特徴とする吹付け用急結剤、セメント100質量部に対して該吹付け用急結剤7〜15質量部と、セメントコンクリートを含有してなる吹付け材料、該吹付け用急結剤を吐出口先端でセメントコンクリートと合流混合して吹き付けることを特徴とする吹付け工法を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、道路、鉄道、及び導水路等のトンネル、並びに法面において、露出した地山面に急結性のコンクリートを吹付ける際に使用する吹付け用急結剤、吹付け材料、吹付けコンクリート、及びこれを用いた吹付け工法に関する。
また、本発明でいうセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートの総称である。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルの掘削作業等において露出した地山の崩落を防止するために、粉体の急結剤をコンクリートに混合した急結性コンクリートを吹き付ける工法が用いられている。使用する急結剤としてはカルシウムアルミネート、硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩、並びにそれらとアルカリ炭酸塩等の混合物が知られている(特許文献1〜特許文献2参照)。
【0003】
最近では、耐久性の観点からアルカリを含有しない急結剤が開発されており、長期強度発現性を高め、さらには、永久構造物の用途として、硫酸アルミニウムとアルミン酸カルシウムのアルカリ骨材反応を抑制する急結剤が提案されている(特許文献3〜特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−130497号公報
【特許文献2】特開平11−199287号公報
【特許文献3】特開平8−48553号公報
【特許文献4】特開平10−265247号公報
【特許文献5】特開平10−330147号公報
【特許文献6】特開平11−199286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルカリを含有しない急結剤を使用した場合には、吹付け時のリバウンド率が多くコスト高になり、さらには、使用材料の増加から環境負荷が大きくなる問題が生じる場合があった。また、粉塵量が多く、作業環境が悪化するといった問題が併発する場合があった。このため、アルカリの使用量を低減しつつ、急結性や強度発現性に優れ、高耐久性を付与することが可能な急結剤の開発が待望されている。
【0006】
本発明者らは、以上の状況を鑑み、本発明の吹付け用急結剤、吹付け材料を使用することで、従来の急結剤よりアルカリの使用量が少なくても、急結性や強度発現性に優れるという知見を得て本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、非晶質カルシウムアルミネート100質量部に対して無水石膏50〜150質量部、RO/Alモル比(Rはアルカリ金属)が0.8〜1.2である粉末アルカリ金属アルミン酸塩1〜5質量部、粉末硫酸アルミニウム10〜20質量部、オキシカルボン酸類0.2〜1質量部を含有してなり、急結剤中のROが1%以下であることを特徴とする吹付け用急結剤であり、セメント100質量部に対して該吹付け用急結剤7〜15質量部と、セメントコンクリートを含有してなる吹付け材料であり、該吹付け用急結剤を吐出口先端でセメントコンクリートと合流混合して吹き付けることを特徴とする吹付け工法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吹付け用急結剤及び吹付け材料を使用することにより、従来の急結剤よりアルカリの使用量が少なくても、急結性や強度発現性に優れるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は、特に規定しない限り質量基準で示す。
【0010】
本発明で使用するカルシウムアルミネートは、カルシアを含む原料やアルミナを含む原料とを混合したものをキルンでの焼成や、電気炉での溶融等の熱処理をして、粉砕して得られるCaOとAlとを主成分とするものであるが、その他、SiO、CaF、Mg、Si等を含有させることも可能である。
【0011】
カルシウムアルミネートの鉱物形態としては、結晶質又は非晶質が存在するが、本発明では、反応活性の点で、非晶質のカルシウムアルミネートが好ましく、12CaO・7Al組成に対応する熱処理物を急冷した非晶質のカルシウムアルミネートがより好ましい。
【0012】
カルシウムアルミネートのCaOとAlのモル比は、CaO/Alモル比で1.7〜3.0が好ましく、1.9〜2.5がより好ましい。モル比がこの範囲外では、優れた急結性が得られない場合がある。
【0013】
カルシウムアルミネートの粒度は、急結性の観点からブレーン値で4000cm/g以上が好ましく、6000cm/g以上がより好ましい。
【0014】
本発明で使用する無水石膏としては、弗酸副生無水石膏や天然無水石膏が挙げられる。石膏を水に浸漬させたときのpHは、pH8以下の弱アルカリから酸性のものが好ましい。pHが高い場合、石膏成分の溶解度が高くなり、初期の強度発現性を阻害する場合がある。ここでいうpHとは、石膏/イオン交換水=1g/100gの20℃における希釈スラリーのpHをイオン交換電極等を用いて測定したものである。
【0015】
無水石膏の粒度は、強度発現性の観点からブレーン値で3000cm/g以上が好ましく、5000cm/g以上がより好ましい。
【0016】
無水石膏の使用量は、カルシウムアルミネート100部に対して、50〜150部が好ましい。50部未満では、長期強度発現性が損なわれる場合があり、150部を超えると優れた急結性が得られない場合がある。
【0017】
本発明で使用する粉末アルカリ金属アルミン酸塩は、アルミナ原料とアルカリ金属原料とを混合して反応させて得られるものであり、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、及びカリウム等が挙げられる。アルカリ金属アルミン酸塩のRO(Rはアルカリ金属元素)とAlのモル比は、0.8〜1.2が好ましく、0.9〜1.1がより好ましい。0.8未満では、優れた急結性が得られない場合があり、1.2を超えると、長期強度発現性が損なわれる場合がある。
【0018】
粉末アルカリ金属アルミン酸塩の粒度は、カルシウムアルミネートや石膏と同等か、それ以上であることが急結性を向上させる観点から好ましい。
【0019】
粉末アルカリ金属アルミン酸塩の使用量は、カルシウムアルミネート100部に対して、1〜5部が好ましい。1部未満では優れた急結性が得られない場合があり、5部を越えるとROが1%を越えるため、強度発現性が損なわれ、長期強度発現性に劣る場合があり、貯蔵性も低下する場合がある。
【0020】
本発明で使用する粉末硫酸アルミニウムは、一般に使用されている粉末硫酸アルミニウムが使用可能であり、通常含まれている不純物には影響されない。
また、粉末硫酸アルミニウムには無水塩や結晶水を含むものがあるが、いずれもそのまま使用可能であり、結晶水の多少により影響を受けない。
【0021】
粉末硫酸アルミニウムの粒度は、ブレーン値で2000〜5000cm/gが好ましい。2000cm/g未満だと良好な急結性が得られない場合があり、5000cm/gを越えてもさらなる効果が期待できない。
【0022】
粉末硫酸アルミニウムの使用量は、カルシウムアルミネート100部に対して、10〜20部が好ましい。10部未満では優れた急結性が得られない場合があり、20部を超えると強度発現性が損なわれる場合がある。
【0023】
本発明で使用するオキシカルボン酸類は、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、サリチル酸、及び乳酸又はこれらの塩等が挙げられる。塩としては、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩等が挙げられる。これらの中では、初期強度発現性とアルカリ量を上げない面から、クエン酸が好ましい。
【0024】
オキシカルボン酸類の使用量は、カルシウムアルミネート100部に対して、0.2〜1部が好ましい。0.2部未満では急結性吹付けセメントコンクリートの凝結性や初期強度発現性を阻害し、急結剤スラリーの粘度が上がり、急結性吹付けセメントコンクリートの施工性が低下する場合があり、1部を超えると凝結性や強度発現性を阻害する場合がある。
【0025】
本発明で使用する急結剤は、これらの材料以外にアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属硫酸塩、生石灰、消石灰、水酸化アルミニウム等を含有させることが可能である。
【0026】
本発明で使用するセメントは特に限定されないが、セメントを構成する鉱物の一つである3CaO・Al含有量がセメント100部中、5部以上のものが好ましい。5部未満では十分な急結性が得られない場合がある。
【0027】
さらに、本発明では、pH調整剤、分散剤、安定化剤、防凍剤、水溶性促進剤、AE剤、減水剤、AE減水剤、凝結遅延剤、増粘剤、繊維、及び微粉等の添加剤を本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0028】
本発明で使用する急結剤の使用量は、セメント100部に対して7〜15部が好ましい。使用量が7部未満では優れた急結性が得られない場合があり、15部を超えた場合、施工コストが嵩み好ましくない。
【0029】
本発明の吹付けコンクリート中のセメントの使用量は、330〜500kg/mが好ましく、水セメント比は40〜65%が好ましい。また、吹付けコンクリートのスランプやスランプフローに関しては特に限定されない。
【0030】
本発明で使用する骨材は給水率が低くて、骨材強度が高いものが好ましい。骨材の最大寸法は吹付けできれば特に制限されるものではない。細骨材としては、川砂、山砂、石灰砂、及び珪砂等が使用でき、粗骨材としては、川砂利、山砂利、及び石灰砂利等が使用できる。
【0031】
本発明の吹付け工法においては、従来の吹付け設備が使用できる。吹付け圧力は特に限定されるものではなく、吹付けコンクリートの吹付け速度は、通常、1.5〜20m/hであり、吹付け空気量は特に限定されるものではない。
【0032】
吹付け設備は、吹付けが充分に行われれば特に限定されるものではなく、コンクリートの圧送にはアリバー社商品名「アリバー280」、シンテック社「MKW−25SMT」、及びスクイズポンプなどが使用可能である。また、粉体混和材の圧送には、急結剤圧送装置「NATMクリート」が使用可能である。
【0033】
本発明の吹付け工法では、乾式吹付け工法も施工可能であるが、粉塵量が多くなるおそれがあるので、急結剤を使用する前に、あらかじめ水をコンクリート側に加えて混練りした湿式吹付け工法を使用することが好ましい。
【0034】
湿式吹付け工法としては、セメント、細骨材、粗骨材、及び水を加えてコンクリートを調製してから、ピストン式コンクリートポンプ又は空気圧送方式でY字管まで搬送し、ここで急結剤をコンクリートに添加し、吹付けコンクリートとしてノズルから吹き付ける方法が挙げられる。
【0035】
本発明の急結剤を吹付けコンクリートに混合する方法としては、Y字管等を用いて吹付け直前に混合することが好ましい。具体的には、圧送されてきたコンクリートに急結剤を添加し、本吹付けコンクリートが吐出されるまでの時間を10秒以内にすることが好ましく、2秒以内がより好ましい。
【0036】
また、本吹付けコンクリートをトンネルの地山の他、法面の地山に直接、又はフレーム骨格を配置した個所に吹付けることも可能である。ここで、フレーム骨格とは、金網、鉄筋、及び鉄骨等を組み合わせて壁面に固定したものであり、該フレーム骨格に本吹付け材を吹付け、鉄筋類含有コンクリートフレームとする。
【0037】
以下、実験例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0038】
実験例1
セメント/砂比=1/3、水/セメント比=50%のモルタルに、ポリカルボン酸系の減水剤をセメント100部中1.0%配合してモルタルを調製した。カルシウムアルミネート100部に対して表1に示す、無水石膏、粉末アルカリ金属アルミン塩、粉末硫酸アルミニウム、オキシカルボン酸類を含有してなる急結剤を、セメント100部に対して、10部モルタルに配合して、プロクター貫入抵抗と圧縮強度を測定した。試験環境温度は20℃である。結果を表1に併記する。
【0039】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、ブレーン3200cm/g、電気化学工業社
カルシウムアルミネート:カルシア原料とアルミナ原料を所定割合混合し、電気炉で1600℃で溶融して得られたもの、12CaO・7Al組成に対応するもの、非晶質、ブレーン5500cm/g
無水石膏:天然無水石膏、ブレーン5000cm/g
粉末アルカリ金属アルミン酸塩:アルミン酸ナトリウム、NaO/Alモル比1.0、NaO=40%
粉末硫酸アルミニウム:無水硫酸アルミニウム、市販品、大明化学社
オキシカルボン酸類:クエン酸、試薬一級
水 :水道水
減水剤 :ポリカルボン酸系減水剤
細骨材 :新潟県姫川産川砂、密度2.62g/cm
【0040】
<測定方法>
プロクター貫入抵抗(凝結性状):ASTM C 403「貫入抵抗によるコンクリートの凝結時間試験方法」に準拠。モルタルに急結剤を混合後1分及び3分の凝結性状を評価した。
圧縮強度:4cm×4cm×16cm角柱供試体にて試験。材齢24時間、28日
【0041】
【表1】

【0042】
表1より、アルカリの使用量が少なくても、急結性や強度発現性に優れるという効果を奏することが分かる。
【0043】
実験例2
実験No.1−4に示す急結剤を使用し、表2に示す粉末アルカリ金属アルミン酸塩のROとAlのモル比を変化させたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0044】
<使用材料>
粉末アルカリ金属アルミン酸塩:アルミン酸ナトリウム、NaOHとAl(OH)の混合割合を変化させて合成した試作品、NaO/Alモル比0.7〜1.3
【0045】
【表2】

【0046】
表2より、適正なROとAlのモル比とした粉末アルカリ金属アルミン酸塩を含有する急結剤を用いることで、急結性や強度発現性に優れるという効果を奏することが分かる。
【0047】
実験例3
各材料の単位量を、セメント400kg/m、細骨材1,058kg/m、粗骨材711kg/m、及び水200kg/mとして吹付けコンクリートを調製し、シンテック社コンクリート圧送機「MKW−25SMT」により、10m/hの速度で圧送した。長さ10mの3インチ耐圧ホースの後に取付けたY字管から圧縮空気を挿入して、長さ10mの2.5インチマテリアルホースで吹付けコンクリートを空気搬送し、その先に取付けたY字管から急結剤添加装置「NATMクリート」を用いて、実験No.1−4に示す急結剤を搬送し、コンクリート中のセメント100部に対して表3に示す添加量となるように、コンクリートに混合して急結性吹付けコンクリートとし、ノズルから3分間吹き付けた。結果を表3に併記する。
【0048】
<使用材料>
セメント :普通ポルトランドセメント、市販品、ブレーン値3,200cm/g、比重3.15
細骨材 :新潟県糸魚川市姫川産川砂、表乾状態、比重2.62
粗骨材 :新潟県糸魚川市姫川産川砂利、表乾状態、比重2.62、最大寸法15mm
【0049】
<評価方法>
吹付け状態:プルアウト型枠への盛上がりが良い場合○、盛上がらない場合△、ダレル場合×として評価した。
24時間強度:幅25cm×長さ25cmのプルアウト型枠に設置したピンを、プルアウト型枠表面から急結性吹付けコンクリートで被覆し、型枠の裏側よりピンを引き抜き、その時の引き抜き強度を求め、(24時間強度)=(引き抜き強度)×4/(供試体接触面積)の式から算出した。
28日強度:幅40cm×長さ40cm×深さ30cmの型枠に吹き付けたコンクリートをφ50mm×長さ100mmにコア抜きした試験体で測定した。
【0050】
【表3】

【0051】
表3より、適正な添加量の急結剤を用いることで、吹き付け面が良好で、急結性や強度発現性に優れるという効果を奏することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、例えば、道路、鉄道、及び導水路等のトンネル、並びに法面において、露出した地山面に急結性のコンクリートを吹付ける際に使用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質カルシウムアルミネート100質量部に対して無水石膏50〜150質量部、RO/Alモル比(Rはアルカリ金属)が0.8〜1.2である粉末アルカリ金属アルミン酸塩1〜5質量部、粉末硫酸アルミニウム10〜20質量部、オキシカルボン酸類0.2〜1質量部を含有してなり、急結剤中のROが1%以下であることを特徴とする吹付け用急結剤。
【請求項2】
セメント100質量部に対して請求項1記載の吹付け用急結剤7〜15質量部と、セメントコンクリートを含有してなる吹付け材料。
【請求項3】
請求項1記載の吹付け用急結剤を吐出口先端でセメントコンクリートと合流混合して吹き付けることを特徴とする吹付け工法。

【公開番号】特開2011−1244(P2011−1244A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147343(P2009−147343)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】