説明

咀嚼嚥下訓練用組成物

【課題】本発明は、誤嚥の危険性が軽減されることにより、安心して直接的訓練に取り組むことができ、かつ咀嚼嚥下を促進できる、咀嚼嚥下の訓練時に使用される組成物を提供する。
【解決手段】食品に添加して使用する、食用油とゲル状物を含む咀嚼嚥下訓練用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咀嚼嚥下訓練用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
咀嚼・嚥下機能障害とは、摂食・嚥下障害又は嚥下困難などとも呼ばれ、食べ物を認識して口へ取り込んでから胃へ送るまでの、食べる一連の行為に障害があることをいう。
【0003】
咀嚼・嚥下機能障害は、疾患や老化により生じ得、特に高齢化社会の到来とともに増加している。例えば、平成17年患者調査によると、療養病床等の推計患者のうち、嚥下の見守りが必要とされる者は24.3%、嚥下できない者は25.9%と報告されている。
【0004】
咀嚼や嚥下の機能障害に陥ると、低栄養、脱水、誤嚥による肺炎、窒息などが生じるおそれがある。また、該機能障害に陥ると口から食べるという楽しみを損ない、生活の質の低下が生じ得る。このため、咀嚼や嚥下の機能障害を可能な限り改善し、機能を回復させるための訓練が実施されている。
【0005】
咀嚼や嚥下の機能を改善又は回復させる訓練は、間接的(基本)訓練と直接的(摂食)訓練に大別される。間接的訓練は食べ物を与えることなく行う訓練であり、摂食、咀嚼、嚥下に関連する器官に刺激や運動を加えることで、摂食、咀嚼、嚥下の機能を改善するものである。直接的訓練は実際に食べ物を与えることによる訓練であり、咀嚼や嚥下の障害の程度に応じて食べ物の種類、形状を工夫し、徐々に段階を上げて普通食に近づけていく。直接的訓練においては、近年、種々の形態(とろみ状、ゼリー状、ムース状、ペースト状、一口大、形のあるものなど)の食事が使用されている。例えば、「嚥下」を重視した食事では、とろみ状、ゼリー状、ムース状、ペースト状などの形態が使用されている。また、嚥下だけでなく、「咀嚼し嚥下する」訓練の際には、これに一口大や形のあるものが加えられている。
【0006】
「嚥下」すなわち「丸呑み」から、「咀嚼し嚥下する」訓練へと移行するとき、「咀嚼」動作が加わる。咀嚼中は口峡部が開いており、咀嚼中も食塊が咽頭付近へ送りこまれていることが明らかになった(非特許文献1)。すなわち、咀嚼中に誤嚥の危険性が生じると推測されるため、嚥下訓練用の均一なムース状、ペースト状の形状から、咀嚼訓練用の一口大や形のあるものを加えた不均一な形状へと段階を上げる際には特に慎重さを要する。
【0007】
このため、安心して直接的訓練に取り組むことができるような、誤嚥の危険性が少ない咀嚼や嚥下の訓練用食事の開発が望まれる。しかしながら、この問題はあまり広く知られておらず、その対策のための訓練食も考えられていない。
【0008】
例えば、特許文献1には嚥下障害者であっても容易に嚥下できる嚥下経口品が記載されており、薬剤や栄養剤を含ませて用いる、嚥下に必要な感覚刺激を増大させた長尺形状のゲル状経口物が開示されている。しかし、これは薬剤や健康食品等を飲みやすくするためのものにすぎない。
【0009】
特許文献2には嚥下が困難な者であっても容易に嚥下できるゼリー粒状の嚥下補助剤が記載されており、小さいゼリー粒の中に薬剤や健康食品を入れることにより、該ゼリーに薬剤等を包み込ませることが開示されている。しかし、これも薬剤や健康食品等を飲みやすくするためのものにすぎない。
【0010】
特許文献3にはゼリー乾燥物が開示されているが、これは特許文献2のゼリーの長期安定性と復水性を向上させたにすぎない。
【0011】
特許文献4には果肉様の組織や食感を発現できる細かい粒子状のゲル組成物、および該ゲル組成物を利用した食品が開示されている。特許文献4には、該ゲル組成物を嚥下障害者用食品に利用する場合、そのゲル強度を低く調整することにより、そのまま飲用したりストローで喫食可能となることが開示されている。しかし、これは喫食しやすくしたにすぎず、訓練食の誤嚥の危険の軽減乃至回避が考慮されているものではない。
【0012】
このように、特許文献1〜4に開示されているいずれの経口品も、直接的訓練において食事を介して咀嚼や嚥下の訓練をしようとするものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−72094号公報
【特許文献2】特開2004−43333号公報
【特許文献3】特開2004−97114号公報
【特許文献4】WO01/095742号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】摂食・嚥下リハビリテーション第2版2007年9月発行(医歯薬出版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、誤嚥の危険性が軽減されることにより、安心して直接的訓練に取り組むことができ、かつ咀嚼嚥下を促進できる、咀嚼嚥下の訓練時に使用される組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者らが、この課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、これまで食品として利用されてきた食用油とゲル状物を組み合わせて組成物を作成し、該組成物をムース状、ペースト状の食事に混ぜて摂食したところ、該組成物によって咀嚼が促され、また嚥下も促されることを見出した。本発明は上記知見に基づきさらに検討を重ねた結果完成されたものであり、下記に掲げるものである。
項1.食品に添加して使用する、食用油とゲル状物を含む咀嚼嚥下訓練用組成物。
項2.さらに香料、調味料、糖類、アミノ酸類、ミネラル類及びビタミン類から選択される少なくとも1種を含む、項1に記載の咀嚼嚥下訓練用組成物。
項3.食用油が、サラダ油、オリーブオイル、サフラワー油、キャノーラ油、ごま油、コーン油、しそ油、大豆油、ベニバナ油、菜種油、パーム油、綿実油、えごま油、落花生油、香味油、ひまわり油、やし油、米油(米糠油)、とうもろこし油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、魚油、豚脂、牛脂、羊脂、バター、硬化油、マーガリン及びショートニングから選択される少なくとも1種である、項1又は2のいずれかに記載の咀嚼嚥下訓練用組成物。
項4.ゲル状物が、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、グアガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、アラビアガム、カラヤガム、アルギン酸、アルギン酸エステル、プルラン、カードラン、トラガントガム、ガッティガム、アラビノガラクタン、セルロース、カルボキシメチルセルロース及び大豆水溶性多糖類から選択される少なくとも1種のゲル化剤を含むものである、項1〜3のいずれかに記載の咀嚼嚥下訓練用組成物。
項5.ゲル状物の大きさが、最長径が3mmの大きさ以上で一辺の長さが25mmの立方体又はこれに収まる大きさである、項1〜4のいずれかに記載の咀嚼嚥下訓練用組成物。
項6.食用油とゲル状物の容積比が、3:100〜10:1である、項1〜5のいずれかに記載の咀嚼嚥下訓練用組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の食用油とゲル状物を含む咀嚼嚥下訓練用組成物によれば、該組成物を咀嚼嚥下の訓練食に混合して摂食することにより、該組成物によって咀嚼嚥下が促される。
【0018】
また、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物によれば、咀嚼及び嚥下が促されることにより、誤嚥の危険が軽減され、安心して咀嚼や嚥下の機能を改善乃至回復させる訓練に取り組むことができる。
【0019】
特に、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物によれば、咀嚼や嚥下の機能障害を改善するための直接的訓練において、均一なムース状、ペースト状の形状から、一口大や形のあるものを加えた不均一な形状へと段階を上げる際に、誤嚥の危険性を大きく軽減することができる。このことから、このような段階であっても、本発明の訓練用組成物によれば安心して訓練に取り組むことができ、咀嚼や嚥下の機能の回復を一層促進することができる。このため、本発明の食用油とゲル状物を含む咀嚼嚥下訓練用組成物によれば、訓練を指導する者及び訓練を受ける者の両者の負担も軽減することができる。
【0020】
また、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物は、幅広い範囲で食用油とゲル状物の含有比率を変えることができる。このため、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物によれば、咀嚼及び嚥下の機能障害の程度や訓練の段階などに応じて食用油とゲル状物の含有比率を変えることなどにより、該組成物の特性(大きさ、硬さ、付着性、凝集性など)を適宜変更することができる。
【0021】
また、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物は、あらゆる形状、味の食品に適用でき、さらに訓練者の様々な嗜好性に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、ゲル状物の最長径を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物に関して説明する。
(1)咀嚼嚥下訓練用組成物
本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物は、少なくとも食用油及びゲル状物を含有することを特徴とする。
【0024】
本明細書において、「咀嚼嚥下訓練用組成物」は、咀嚼訓練と嚥下訓練のいずれか一方のみを目的として用いてもよく、咀嚼と嚥下の双方の訓練を目的として用いてもよい。本発明の「咀嚼嚥下訓練用組成物」は、好ましくは、少なくとも嚥下ができる人(飲み込みしかできない人)が咀嚼の訓練を行うことを目的として、詳細には、咀嚼してできた食塊を嚥下する訓練を行うことを目的として用いられる。
【0025】
本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物は、一般的に咀嚼嚥下訓練のために使用されている液状、ピューレ状、ムース状、ペースト状の食事とともに摂食できる。すなわち、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物は咀嚼訓練用の食事や嚥下訓練用の食事に必要に応じて混合して摂食できる。
【0026】
以下、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を構成する食用油及びゲル状物について述べる。なお、該組成物には、該食用油及び該ゲル状物以外の成分も添加してもよく、該成分についても後述する。
(2)食用油
本発明において使用される食用油は、通常、食用に使用可能であれば限定されない。該食用油としては、植物油脂、動物油脂及び加工油脂が挙げられる。
【0027】
植物油脂としては、サラダ油、オリーブオイル、サフラワー油、キャノーラ油、ごま油、コーン油、しそ油、大豆油、ベニバナ油、菜種油、パーム油、綿実油、えごま油、落花生油、香味油、ひまわり油、やし油、米油(米糠油)、とうもろこし油、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどが例示される。
【0028】
動物油脂としては、魚油、豚脂、牛脂、羊脂、バターなどが例示される。
【0029】
加工油脂としては、硬化油、マーガリン、ショートニングなどが例示される。
【0030】
これらは、単独で用いてもよく、また複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
本発明において使用される食用油としては、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物が咀嚼嚥下機能が芳しくない者に適用されるという点から、融点が−15〜37℃であることが好ましい。
【0032】
また、本発明において使用される食用油としては、不飽和脂肪酸を多く含む点から、好ましくは米油(米糠油)、コーン油、しそ油、菜種油、オリーブオイル、大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリドであり、さらに好ましくは米油(米糠油)、しそ油、中鎖脂肪酸トリグリセリドである。
(3)ゲル状物
本発明において使用されるゲル状物は食用可能であれば限定されない。例えば、該ゲル状物は一般的なゲル化剤を使用して製造できる。このため、本発明において使用されるゲル状物としては、少なくとも1種のゲル化剤を含むものが例示される。
【0033】
該ゲル化剤としては、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、グアガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、アラビアガム、カラヤガム、アルギン酸、アルギン酸エステル、プルラン、カードラン、トラガントガム、ガッティガム、アラビノガラクタン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、大豆水溶性多糖類、その他の増粘多糖類が例示される。
【0034】
これらは、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明において使用されるゲル化剤としては、好ましくはゼラチン、キサンタンガム、寒天、カラギーナン、ジェランガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウムであり、さらに好ましくはゼラチン、キサンタンガムである。
【0036】
本発明において使用されるゲル状物の製造方法は限定されない。例えば、ゲル化剤を使用して該ゲル状物を製造する場合、これは常法により製造できる。当該方法は、使用するゲル化剤に応じて、各々、公知である。
【0037】
例えば、ゲル化剤としてゼラチンを用いてゲル状物を製造する場合、該ゲル状物は次のように製造できる。まず、あらかじめ水に粉末ゼラチンを懸濁し(ゼラチン2〜8W/V%)、膨潤させた後、攪拌しながら加熱溶解する。次いで、このように調製されたゼラチン液を、所望のゲル状物の大きさ、形状になるよう成型する。
【0038】
該成型は、ゼラチン液が凝固した後に裁断することにより行ってもよく、ゼラチン液がのり状や固形状になった後に型から押し出すことにより行ってもよく、ゼラチン液を油中に滴下することにより行ってもよい。
【0039】
例えば、前記ゼラチンを用いたゲル状物を球状とする場合には、ゼラチン液と成型用の油を用意し、調製したゼラチン液を、スポイトを用いて油槽に滴下すればよい。油槽から球状物を取り出して余分な油を除くことにより、球状のゲル状物を得ることができる。ここで使用される成型用の油は、通常、食用に使用可能であれば限定されず、例えば、前記「(2)食用油」で挙げた油より適宜選択すればよい。常温で成形する際には、融点が−15〜4℃の油を使用することが好ましい。
【0040】
また、例えば、ゲル状物を立方体とする場合には、前記調製したゼラチン液を平らなトレーに流し込み、凝固後、所望の大きさの采の目に切断すればよい。これにより、立方体の形状のゲル状物を得ることができる。
【0041】
また、ゲル状物の硬さは口蓋と舌でつぶして咀嚼できるようなものが好ましく、この範囲で、咀嚼嚥下機能障害者の状態によって適宜調節される。口蓋と舌でつぶして咀嚼できるような硬さにできる限り、ゲル状物中のゲル化剤の配合量は限定されないが、ゲル状物100重量部あたりゲル化剤10重量部以下、好ましくは0.05〜10重量部が例示される。
【0042】
例えば、前述と同様、ゲル化剤としてゼラチンを使用する場合、口蓋と舌でつぶして咀嚼できるような硬さにするには、ゲル状物100重量部あたりゼラチン10重量部以下、好ましくは0.05〜10重量部、より好ましくは2〜8重量部、さらに好ましくは3〜5重量部が例示される。
【0043】
ゼラチン以外のゲル化剤を使用する場合は、前記ゼラチンを用いた方法を参考にして、各ゲル化剤に応じて、適宜ゲル状物を製造すればよい。
【0044】
また、ゲル状物を製造するにあたっては、使用するゲル化剤の種類に応じて、ゲル化促進剤を使用してもよい。ゲル化促進剤としては、クエン酸、クエン酸三ナトリウム等が例示される。
【0045】
また、アルギン酸ナトリウムを用いて、カルシウム塩として凝固させることによりゲル状物を製造してもよい。
【0046】
本発明のゲル状物の形状は、該ゲル状物を口腔内で感じることにより咀嚼感が与えられるような立体的形状であれば限定されない。例えば、本発明のゲル状物の形状は、球、立方体、直方体、楕円球、円柱、角柱、円錐、角錐、円板、および角板などが例示される。本発明のゲル状物の形状は、好ましくは球、立方体、直方体である。
【0047】
ゲル状物の大きさについては、口腔内に無理なく含むことができ、口腔内で感じることができるような大きさであれば限定されず、咀嚼嚥下機能障害の程度、訓練の段階などに応じて適宜調整すればよい。最長径が3mmの大きさより小さいと、口腔内で正確な位置を認識し難いためつぶしにくく、一辺の長さが25mmの立方体より大きいと口腔内に含みにくいことから、ゲル状物の大きさは、最長径が3mmの大きさ以上で、一辺の長さが25mmの立方体又はこれに収まる大きさが例示できる。ここで、「最長径」とは、一つのゲル状物において、最も長い部分の長さを意味する。例えば、最長径は、図1に記載したゲル状物における点線で示される。また、「一辺の長さが25mmの立方体又はこれに収まる大きさ」とは、当然のことながら、ゲル状物の最長径が25mmを超えることを妨げるものではない。ゲル状物の大きさは、好ましくは直径が5mmの球以上で、一辺の長さが15mmの立方体又はこれに収まる大きさ、さらに好ましくは直径が7mmの球以上で、一辺の長さが12mmの立方体又はこれに収まる大きさである。
【0048】
また、ゲル状物の物性値(硬さ(破断強度)、付着性、凝集性)も、咀嚼嚥下の訓練に用いられる添加物乃至食品として適する範囲において限定されない。ゲル状物の物性は、咀嚼及び嚥下の機能障害の程度に応じたものであることが望ましい。例えば、咀嚼能力及び嚥下能力が低い場合には、僅かな咀嚼により「嚥下困難者用食品許可基準I」程度の物性(硬さ:3×10〜1×10N/m、付着性:5×10〜4×10J/m、凝集性:0.2〜0.6)になることが例示される。また、咀嚼能力及び嚥下能力が高い場合には、充分な咀嚼により「嚥下困難者用食品許可基準III」程度の物性(硬さ:3×10〜2×10N/m、付着性:3×10〜1.5×10J/m)になることが例示される。
【0049】
該物性値は、例えば次のように測定することができる。まず、製造したゲル状物を金属製シャーレに詰めて、クリープメーター(株式会社山電、RE2−33005)により、テクスチャー解析(硬さ、付着性、凝集性)を行う。測定条件は、圧縮速度1mm/sec、クリアランス5mm、室温(20±2℃)とし、その他は、厚労省「えん下困難者用食品」の試験方法に準ずる。また、同測定機器により、破断強度解析を行う。測定条件は圧縮速度1mm/sec、クリアランス2mm、室温(20±2℃)である。
【0050】
該ゲル状物には、前記ゲル化剤、ゲル化促進剤、水に加えて、例えば糖類、調味料、色素、香料、酸味料、アミノ酸類、ミネラル類、ビタミン類等の栄養強化剤などの成分も添加できる。これらの成分は、通常用いられるものであればよく、例えば、糖類としてはマンニトール、エリスリトール、ステビア、グルコースなど、調味料としては酒、醤油、味噌、だし、肉エキス、各種スパイスなど、アミノ酸類としてはバリン、ロイシン、イソロイシン 、フェニルアラニン、リジン、トリプトファン、メチオニン、トレオニン、ヒスチジン、プロリン、アルギニン、グルタミン、アラニン、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、チロシン、またはこれらの塩など、ミネラル類としてはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、鉄、ヨウ素、マンガン、銅、亜鉛、セレン、クロム、モリブデン、またはこれらの塩など、ビタミン類としてはビタミンA、D、B1、B2、B6、B12、C、K、E、ナイアシン、パントテン酸、葉酸などが挙げられるが、その他一般に食用に使用可能なものであれば、これに限るものではない。
【0051】
これらの配合量は、後述する実施例に基づき、目的に応じて適宜決定すればよい。
(4)食用油およびゲル状物の配合割合
本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物における食用油およびゲル状物の配合量は限定されず、使用する食用油やゲル状物の種類、咀嚼嚥下機能障害の程度、訓練の段階、該組成物を添加する訓練用食事の素材、形態などに応じて決定すればよい。
【0052】
本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物における食用油およびゲル状物の配合量は、咀嚼嚥下訓練用組成物100重量部あたり、食用油とゲル状物が総量50〜100重量部が例示され、好ましくは75〜100重量部、さらに好ましくは100重量部である。
【0053】
また、食用油とゲル状物の重量比は、前述の通り、使用する食用油やゲル状物の種類、咀嚼嚥下機能障害の程度、訓練の段階、該組成物を添加する訓練用食事の素材、形態などに応じて決定すればよく限定されないが、3:200〜10:1が例示される。
【0054】
また、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物には、食用油およびゲル状物が咀嚼又は嚥下機能障害の程度や訓練の段階などに応じて自由自在に適宜配合されるが、食用油とゲル状物の容積比は、3:100〜10:1が例示される。
【0055】
本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物は、食用油とゲル状物とを混合する工程を経ることにより製造することができる。該食用油及び該ゲル状物の配合割合は、前述のように適宜決定される。また、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物には、後述するその他の成分も添加でき、該その他の成分の配合割合も適宜決定される。このため、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物の形態は、食用油、ゲル状物、および、これら以外の成分の配合割合などに応じて変化する。例えば、ゲル状物に対して食用油の配合量が多く、該食用油が常温で液状である場合には、該組成物は、常温で、食用油中にゲル状物が分散した形態となり得る。また、例えば、食用油に対してゲル状物の配合量が多い場合には、該組成物は、ゲル状物の表面を食用油が覆う形態となり得る。
(5)その他の成分
本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物には、前記食用油及びゲル状物以外の成分(以下、「その他の成分」と称することもある)も含有させることができる。
【0056】
前記その他の成分としては、通常、食用である限り限定されないが、食用油又はゲル状物のどちらに添加してもよい。また、前記その他の成分は、前記食用油及びゲル状物を混合したのち、これらに添加してもよい。
【0057】
前記その他の成分が親油性の場合には、該成分は、混合しやすい点から、先に食用油に混合するか、又は前記食用油及びゲル状物を混合したのちに、添加すればよい。また、前記その他の成分が親水性の場合には、該成分は、混合しやすい点から、ゲル状物に添加すればよい。
【0058】
前記その他の成分としては、例えば、前述の水、糖類、調味料、色素、香料、酸味料、アミノ酸類、ミネラル類、ビタミン類などが挙げられる。これらの配合量は、目的に応じて適宜決定すればよい。
(6)本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物の適用
本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物は、一般的に咀嚼嚥下訓練のために使用されている食事に混ぜて使用される。このため、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物は、咀嚼嚥下訓練用食品添加物として使用できる。
【0059】
該組成物が添加される咀嚼嚥下訓練のための食事は通常使用されているものであれば限定されず、液状、ピューレ状、ムース状、ペースト状など均一な形態であればよく、素材、味などは問わない。
【0060】
本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物の咀嚼嚥下訓練のための食事への添加方法も限定されない。例えば、該組成物をスプーンですくって咀嚼嚥下訓練のための食事にかけ、数回混ぜてもよい。
【0061】
本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物の咀嚼嚥下訓練のための食事への添加量も限定されず、咀嚼や嚥下の機能障害の程度、訓練の段階、食事の種類、素材、形態、食用油の種類、ゲル状物の形状、大きさなどに応じて適宜調整すればよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物1)
本実施例では、咀嚼嚥下訓練用組成物を構成する食用油としてオリーブオイル(日清オイリオ製、食用オリーブ油)、ゲル状物を構成するゲル化剤としゼラチン(森永製菓株式会社製、クックゼラチン)、成型用の油として米サラダ油(ボーソー油脂株式会社製、こめサラダ油)を使用した。
(A)ゲル状物(球状)の製造
室温(20±2℃)で粉末ゼラチン3gを水100mLに懸濁・膨潤させた後、攪拌しながら加熱溶解(85℃)した。得られたゼラチン液に、醤油(ヒガシマル醤油株式会社製、うすくち醤油)2g、だし(武田キリン食品株式会社製、だししるべK−7)1gを加えて味付けした。次いで、米サラダ油を100mL用意(2〜4℃)し、スポイトを用いて得られた溶液を滴下(約0.06mL/1滴)した。油槽から球状の粒を取り出して余分な油を切った。
【0063】
本実施例におけるゲル状物の形状は球状であり、大きさは、大きいもので直径7mm、小さいもので直径4mmであった。
【0064】
なお、咀嚼嚥下訓練用組成物を調製するにあたり、本実施例では官能試験用として、このなかから直径7mmの球状のゲル状物を採取し、用いた。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
オリーブオイルと前記(A)で得られたゲル状物とを容積比1.1:5.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
実施例2:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物2)
(A)ゲル状物(球状)の製造
前記実施例1と同様にしてゲル状物を製造した。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
オリーブオイルとゲル状物とを容積比2.2:1.0で混合した以外は、前記実施例1と同様にして咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
実施例3:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物3)
(A)ゲル状物(直方体)の製造
実施例1と同様にして、ゼラチン液に、醤油及びだしを加えて味付けした後、得られた溶液を平らなトレーに流し込んで冷却し(4℃)、固まった後、7×7×4mmのサイズの采の目に切断し、直方体のゲル状物を得た。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
オリーブオイルと得られたゲル状物とを容積比1.0:5.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
実施例4:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物4)
(A)ゲル状物(直方体)の製造
前記実施例3と同様にしてゲル状物を製造した。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
オリーブオイルとゲル状物とを容積比2.0:1.0で混合した以外は、前記実施例3と同様にして咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
実施例5:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物5)
本実施例では、咀嚼嚥下訓練用組成物を構成する食用油として、実施例1と2において成型用の油として使用した米サラダ油及びしそ油(太田油脂株式会社製、シソ油)、ゲル状物を構成するゲル化剤として実施例1〜4で使用したゼラチンのほかにキサンタンガム(新田ゼラチン株式会社製、VS−900)、ローカストビーンガム(新田ゼラチン株式会社製、VS−400)、成型用の油として米サラダ油を使用した。醤油とだしについては、実施例1〜4で用いたものと同じものを使用した。
(A)ゲル状物(球状)の製造
室温(20±2℃)で粉末ゼラチン3g、キサンタンガム0.3g、ローカストビーンガム0.8gを水100mLに懸濁・膨潤させた後、攪拌しながら加熱溶解(95℃)した。得られた溶解液に、醤油2g、だし1gを加えて味付けした。次いで、米サラダ油を100mL用意(2〜4℃)し、スポイトを用いて得られた溶液を滴下(約0.06mL/1滴)した後、温度を保ち30分間浸漬した。油槽から球状の粒を取り出して余分な油を切った。
【0065】
本実施例におけるゲル状物の形状は球状であり、大きさは、大きいもので直径7mm、小さいもので直径4mmであった。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
米サラダ油としそ油を容積比が5:1の割合で混合した油と前記(A)で得られたゲル状物とを容積比1.0:30.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
実施例6:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物6)
本実施例では、咀嚼嚥下訓練用組成物を構成する食用油として菜種油(日清オイリオ製、菜種白絞油)、ゲル状物を構成するゲル化剤として実施例5で使用したローカストビーンガムのほかにカラギーナン(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、ゲルリッチNO.3)、寒天(伊那食品工業株式会社製、伊那寒天M−7)を使用した。醤油とだしについては、実施例1〜5で用いたものと同じものを使用した。
(A)ゲル状物(柱状)の製造
室温(20±2℃)でカラギーナン1.0g、ローカストビーンガム0.5g、寒天0
.5gを水100mLに懸濁・膨潤させた後、攪拌しながら加熱溶解(95℃)した。得
られた溶解液に、醤油2g、だし1gを加えて味付けした。得られた溶液を平らなトレーに流し込んで冷却し(4℃)、固まった後、ところてん押し出し器に入る大きさに切断し、ところてん押し出し器にいれて押し出し俸で押し出し、出てきた長いゲル状物を12mmの長さにカットした。
【0066】
本実施例におけるゲル状物の形状は柱状であり、大きさは、5×5×12mmであった。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
菜種油と前記(A)で得られたゲル状物とを容積比10.0:1.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
実施例7:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物7)
本実施例では、咀嚼嚥下訓練用組成物を構成する食用油として大豆油(味の素株式会社製、健康サラサ)、ゲル状物を構成するゲル化剤としてアルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ製、キミカアルギンIL)、ジェランガム(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、ケルコゲル(登録商標))を使用した。醤油とだしについては、実施例1〜6で用いたものと同じものを使用した。
(A)ゲル状物(球状)の製造
室温(20±2℃)でアルギン酸ナトリウム0.3gおよびジェランガム0.35gを水100mLに加熱溶解(95℃)した。得られた溶解液に、醤油2g、だし1gを加えて味付けした。次いで、0.3%乳酸カルシウム水溶液を約100mL用意(20±2℃)し、スポイトを用いて得られた溶解液を滴下(約0.06mL/1滴)した後、温度を保ちながら15分間撹拌・浸漬した。溶液からゲル状物を取り出して水洗浄した。
【0067】
本実施例におけるゲル状物の形状は球状であり、大きさは、大きいもので直径7mm、小さいもので直径4mmであった。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
大豆油と前記(A)で得られたゲル状物とを容積比3.0:50.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
実施例8:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物8)
本実施例では、咀嚼嚥下訓練用組成物を構成する食用油として実施例7で用いた大豆油、ゲル状物を構成するゲル化剤として結晶セルロース(株式会社Fiニュートリション製、Vivapur)、ゼラチン(森永製菓株式会社製、クックゼラチン)を使用した。調味料として肉エキス(日本ピュアフード株式会社製、エキス調味料OTS)、だしについては、実施例1〜7で用いたものと同じものを使用した。
(A)ゲル状物(直方体)の製造
室温(23℃)で結晶セルロース3gおよび粉末ゼラチン3gを水100mLに分散させた後、加熱溶解(95℃)した。得られた溶解液に、肉エキス1g、だし1gを加えて味付けした後、得られた溶液を平らなトレーに流し込んで冷却し(4℃)、固まった後、25×25×25mmのサイズの采の目に切断し、立方体のゲル状物を得た。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
大豆油と前記(A)で得られたゲル状物とを容積比3.0:100.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
実施例9:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物9)
(A)ゲル状物(直方体)の製造
采の目に切断するときのサイズを15×15×15mmにした以外は、前記実施例8と同様にして、立方体のゲル状物を得た。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
大豆油と前記(A)で得られたゲル状物とを容積比3.0:50.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
【0068】
実施例10:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物10)
(A)ゲル状物(直方体)の製造
采の目に切断するときのサイズを12×12×12mmにした以外は、前記実施例8と同様にして、立方体のゲル状物を得た。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
大豆油と前記(A)で得られたゲル状物とを容積比1.0:1.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
【0069】
実施例11:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物11)
(A)ゲル状物(直方体)の製造
采の目に切断するときのサイズを10×10×10mmにした以外は、前記実施例8と同様にして、立方体のゲル状物を得た。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
大豆油と前記(A)で得られたゲル状物とを容積比5.0:1.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
実施例12:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物12)
(A)ゲル状物(直方体)の製造
采の目に切断するときのサイズを5×5×5mmにした以外は、前記実施例8と同様にして、立方体のゲル状物を得た。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
大豆油と前記(A)で得られたゲル状物とを容積比7.0:1.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
実施例13:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物13)
(A)ゲル状物(直方体)の製造
采の目に切断するときのサイズを3×3×3mmにした以外は、前記実施例8と同様にして、立方体のゲル状物を得た。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
大豆油と前記(A)で得られたゲル状物とを容積比10.0:1.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
実施例14:咀嚼嚥下訓練用組成物の製造(組成物14)
本実施例では、咀嚼嚥下訓練用組成物を構成する食用油として、中鎖脂肪酸トリグリセリド(日清製油株式会社製のO.D.O)、ゲル状物を構成するゲル化剤として実施例5で使用したゼラチン、キサンタンガム、ローカストビーンガムを使用した。醤油とだしについては、実施例1〜7で用いたものと同じものを使用した。
(A)ゲル状物(直方体)の製造
実施例5と同様に、室温(20±2℃)で粉末ゼラチン3g、キサンタンガム0.3g、ローカストビーンガム0.8gを水100mLに懸濁・膨潤させた後、攪拌しながら加熱溶解(95℃)した。得られた溶解液に、醤油2g、だし1gを加えて味付けした。その後、得られた溶液を平らなトレーに流し込んで冷却し(4℃)、固まった後、7×7×10mmのサイズの采の目に切断し、直方体のゲル状物を得た。
(B)咀嚼嚥下訓練用組成物の調製
中鎖脂肪酸トリグリセリドと得られたゲル状物とを容積比5.0:1.0で混合して、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を製造した。
試験例1:咀嚼嚥下訓練用組成物の使用感の評価
本試験においては、咀嚼嚥下訓練用の食事として、ペースト状の2種類の食事「煎り豆腐ペースト」及び「かぼちゃペースト」を用意した。
【0070】
煎り豆腐ペーストは、木綿豆腐を用いて通常の作り方で煎り豆腐をつくり、トロミ調整のため、豆腐重量の1.5%重量の「ソフティアSOL」(ニュートリー株式会社製)を加え、ミキサーにかけて均一になるまで混ぜた。かぼちゃペーストは、通常の作り方のとおり、かぼちゃを煮て味付けして裏ごしした。
【0071】
前記実施例1と同様の方法で製造した咀嚼嚥下訓練用組成物を、煎り豆腐ペースト:咀嚼嚥下訓練用組成物の容量比が3.1:2.0になるよう、煎り豆腐ペーストにかけて数回混ぜたものをサンプル1とした。
【0072】
前記実施例2と同様の方法で製造した咀嚼嚥下訓練用組成物を、かぼちゃペースト:咀嚼嚥下訓練用組成物の容量比が4.2:2.8になるよう、かぼちゃペーストにかけて数回混ぜたものをサンプル2とした。
【0073】
また、対照として、煎り豆腐ペーストのみで咀嚼嚥下訓練用組成物を添加していないものを対照サンプル1、かぼちゃペーストのみで咀嚼嚥下訓練用組成物を添加していないものを対照サンプル2とした。
【0074】
なお、ここで使用する咀嚼嚥下訓練用組成物を構成するゲル状物の物性は次のように測定した。
【0075】
ゲル状物のテクスチャー解析(硬さ、付着性、凝集性)には、クリープメーター(株式会社山電、RE2−33005)を用いた。ゲル状物は、2〜6℃の冷蔵庫に少なくとも12時間入れ、冷却したものを試料とし、20±2℃の恒温室に30分放置した後、試験に供した。詳細には、製造したゲル状物を、直径40mm、高さ15mmの金属製シャーレに詰めて、直径20mmの円筒型プランジャーにより、クリアランス5mm、圧縮速度1mm/sec、室温(20±2℃)にて定速2回圧縮を行ない、そのほかは厚生労働省の「えん下困難者用食品」に示された試験方法に準じた。得られたテクスチャー曲線より、試料の硬さ(N/m)、凝集性、付着性(J/m)を算定した。
【0076】
また、ゲル状物の破断強度解析も同測定機器を用いて行った。詳細には、ゲル状物1粒を、直径60mm、高さ30mmの円筒形試料台に置き、直径20mmの円筒型プランジャーにより、クリアランス2mm、圧縮速度1mm/sec、室温(20±2℃)にて定速1回圧縮を行った。得られた応力−歪み曲線より、ゲル状物の破断強度(N/m)を算定した。
【0077】
測定結果を以下に示す。
テクスチャー解析:硬さ1.155×10N/m、付着性41.00J/m、凝集性0.4175
破断強度解析:4.195×10N/m
当該値は、本試験で使用するゲル状物が、咀嚼や嚥下の訓練において好適な物性値を示しているといえる。
【0078】
咀嚼嚥下訓練用組成物の使用感の評価は次の方法で行った。パネラー10名が、「サンプル1」、「サンプル2」、「対照サンプル1」及び「対照サンプル2」について、それぞれ歯を使わず口蓋と舌でつぶして咀嚼及び嚥下し、そのときの感覚から次の[表1]に記載する評価項目及び判断基準に従い、採点を行った。
【0079】
【表1】

【0080】
採点は、対照サンプルをすべて+2点とした場合の数値で表し、対照サンプルより好ましい場合は+3点、対照サンプルと同等の場合は+2点、対照サンプルより好ましくない場合は+1点とした。
【0081】
評価結果を次の[表2]に示す。評点はパネラー10名の評点の平均値である。
【0082】
【表2】

【0083】
表2に示されるとおり、どちらのペーストについてもすべての項目において、咀嚼嚥下訓練用組成物を添加したサンプルのほうが、添加しなかった対照サンプルより高い評点が得られた。特に「飲み込みやすさ」においてはパネラー全員が、サンプル1及び2について好ましい(+3)と評価した。これは、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を使用することにより、特に誤嚥が生じにくくなったことを示している。
【0084】
以上のことから、ペースト状の咀嚼・嚥下訓練用の食事に、本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物を添加したほうが、該組成物を添加しないよりも、噛み易さ、凝集性、付着性、飲み込みやすさ、嚥下後の口腔内残存等すべてにおいて好ましいことが確認できた。また、このことから本発明の咀嚼嚥下訓練用組成物によれば咀嚼及び嚥下が促され、該組成物は誤嚥の危険がなく安心して訓練に利用できることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品に添加して使用する、食用油とゲル状物を含む咀嚼嚥下訓練用組成物。
【請求項2】
さらに香料、調味料、糖類、アミノ酸類、ミネラル類及びビタミン類から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の咀嚼嚥下訓練用組成物。
【請求項3】
食用油が、サラダ油、オリーブオイル、サフラワー油、キャノーラ油、ごま油、コーン油、しそ油、大豆油、ベニバナ油、菜種油、パーム油、綿実油、えごま油、落花生油、香味油、ひまわり油、やし油、米油(米糠油)、とうもろこし油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、魚油、豚脂、牛脂、羊脂、バター、硬化油、マーガリン及びショートニングから選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の咀嚼嚥下訓練用組成物。
【請求項4】
ゲル状物が、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、グアガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、アラビアガム、カラヤガム、アルギン酸、アルギン酸エステル、プルラン、カードラン、トラガントガム、ガッティガム、アラビノガラクタン、セルロース、カルボキシメチルセルロース及び大豆水溶性多糖類から選択される少なくとも1種のゲル化剤を含むものである、請求項1〜3のいずれかに記載の咀嚼嚥下訓練用組成物。
【請求項5】
ゲル状物の大きさが、最長径が3mmの大きさ以上で一辺の長さが25mmの立方体又はこれに収まる大きさである、請求項1〜4のいずれかに記載の咀嚼嚥下訓練用組成物。
【請求項6】
食用油とゲル状物の容積比が、3:100〜10:1である、請求項1〜5のいずれかに記載の咀嚼嚥下訓練用組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−105702(P2011−105702A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233739(P2010−233739)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【Fターム(参考)】