噴射ノズル
【課題】吐出口の厚み方向での噴霧域を効率よく広げつつ、噴霧域全体において均一な噴霧を実現できる噴射ノズルを提供する。
【解決手段】ノズル本体1と、このノズル本体1の軸方向に形成された主流路2と、この主流路2から下流側に向かって平行に互いに離れて延び、かつ先端部が湾曲して狭まった一対の円筒状流路3A,3Bと、この円筒状流路3A,3Bの先端部が前記ノズル本体1の先端部1Aで開口して形成された一対の吐出口4A,4Bとを有する噴射ノズルにおいて、前記吐出口4A,4Bが、前記ノズル本体1の先端部1Aを、互いに平行の位置関係で前記円筒状流路3A,3Bの中心軸線に対して直交する方向に横断して切り欠く一対の凹溝5A,5Bにより形成する。
【解決手段】ノズル本体1と、このノズル本体1の軸方向に形成された主流路2と、この主流路2から下流側に向かって平行に互いに離れて延び、かつ先端部が湾曲して狭まった一対の円筒状流路3A,3Bと、この円筒状流路3A,3Bの先端部が前記ノズル本体1の先端部1Aで開口して形成された一対の吐出口4A,4Bとを有する噴射ノズルにおいて、前記吐出口4A,4Bが、前記ノズル本体1の先端部1Aを、互いに平行の位置関係で前記円筒状流路3A,3Bの中心軸線に対して直交する方向に横断して切り欠く一対の凹溝5A,5Bにより形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を噴射又は噴霧するのに有用な噴射ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材冷却用、洗浄用などの種々の用途において噴射ノズルが使用されている。このような噴射ノズルとしては、例えば、吐出口(スプレー)が1つの一条ノズル、吐出口が2つの二条ノズルが知られている。
【0003】
このような噴射ノズルのうち、一条ノズルは、広範囲に亘って流体を噴射することは困難である。そのため、噴霧を広範囲に亘って行うためには、一条ノズルを隣接させて配置し、複数の一条ノズルの噴霧域を重ね合わせる(ラップさせる)必要がある。しかし、このように噴霧域を重ね合わせるため一条ノズルを近接させて配置すると、一条ノズルの使用数が非常に多くなる。また、噴霧域全体で均一な噴霧を行うためには非常に高い精度で重ね合わせる必要があるため、スプレーの厚み方向および幅方向においていずれも噴霧域を拡大することは困難である。
【0004】
このような一条ノズルの噴霧域を拡大するため種々の改良が試みられている。例えば、実公昭61−43555号公報(特許文献1)には、ノズル本体内に、形成された液通路の出口側近くの内面を砲弾形に形成するとともに、ノズル本体の先端部には、前記液通路の中心軸線に直交し、かつ、前記液通路の出口側端部を横切る溝を設けて、その液通路の出口側端部に長円形状の液噴射用オリフィスを形成し、さらに、前記液通路の入り口側には絞りを設けてある長円吹型液噴射ノズルが開示されている。このようなノズルでは、液流路の入り口側に設けた絞りにより、液流路を流れる流体を高速流とし、オリフィス通過後の液体にスプレーの幅方向および厚み方向に噴霧域を拡げることができる。しかし、このノズルでは、スプレーの噴霧域(特にスプレーの厚み方向の噴霧域)の拡大には限界がある。また、このノズルでは、絞りを設けることにより、スプレーの幅方向において広い範囲で比較的均一な噴霧を行うことができても、スプレーの厚み方向の噴霧域を拡大しつつ均一な噴霧を実現することはできない。なお、この文献では、ノズルを近接させて配置することを想定していない。
【0005】
一方、二条ノズルでは、一条ノズルに比べて噴霧域を拡大しやすい。このような二条ノズルとして、例えば、特開平2−21955号公報(特許文献2)には、有底筒状のノズル本体の内底部に、本体中心軸芯と同芯又はほぼ同芯の湾曲内周面を形成し、前記ノズル本体の底部側に、2つの噴霧口を形成するための2つの切欠部を溝状に穿設してある流体噴射ノズルであって、前記切欠部には前記湾曲内周面の中心軸を含む特定の中央面の両側に一対分離穿設されている流体噴射ノズルが開示されている。このノズルでは、噴霧口(スプレー)の厚み方向の噴霧域をある程度拡大できる。しかし、この文献のノズルでは、1つの流路の先端に2つの噴霧口を形成しているため、噴霧条件によっては、2つの噴霧口からの噴霧が重なり合った噴霧域の中央部分において流体の噴霧量および噴霧圧が小さくなることがあり、噴霧域全体にわたって均一な噴霧を行うが困難である。特に、このような傾向は、流体として液体(水など)のみを噴霧した場合に顕著となる。
【0006】
また、特開平2−268851号公報(特許文献3)には、有底筒状のノズル本体の内底部に、本体中心軸芯と同芯又はほぼ同芯の湾曲内周面を形成するとともに、前記ノズル本体の底部側に、2つの噴霧口を形成するための2つの切欠部を、前記有底内周面の中心軸芯を含む特定の仮想中央面の両側に1対、分離穿設してあり、前記1つの切欠部をその各幅中央が、前記有底内周面の中心軸芯を含み且つ前記仮想中央面と直交する直交面に対し、互いに平行に且つ互いに逆方向へ等長離隔偏位するように、前記ノズル本体の底部側外周面に設け、しかも、前記1対の切欠部間の有底内周面の中央には、流体流路上手側に向けて突起を設けてある流体噴射ノズルが開示されている。しかし、この文献のノズルでは、スプレーの幅方向の噴霧域を広げつつ比較的均一な噴霧を実現できるものの、均一な噴霧でスプレーの厚み方向の噴霧域を拡大できない。
【0007】
さらに、特開2003−93926号公報(特許文献4)には、ノズル本体の先端部に、流路断面が前記ノズル本体の先端部の径方向に長い複数の流体噴射用のオリフィスを前記オリフィスの幅方向に並設してある流体噴射ノズルであって、各オリフィスごとに、前記オリフィスの上流側に設けた複数の流路部分から衝突合流室へ流れ込んだ流体が前記オリフィスの幅方向に対応する方向で衝突した後、前記オリフィスから噴射されるように構成してある流体噴射ノズルが開示されている。しかし、この文献のノズルでは、流路を衝突合流室前で複数に分けているため、衝突合流室を経て噴霧される流体の衝突力が低下する。また、構造が複雑になるばかりか、流路全体における最小流路径が小さくなるため、流路が詰まりやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公昭61−43555号公報(実用新案登録請求の範囲、第1図)
【特許文献2】特開平2−21955号公報(特許請求の範囲、第1〜4図)
【特許文献3】特開平2−268851号公報(特許請求の範囲、第1〜4図)
【特許文献4】特開2003−93926号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、吐出口(噴霧口)の厚み方向での噴霧域を効率よく広げつつ、噴霧域全体において均一な噴霧を実現できる噴射ノズル(噴霧ノズル)を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、流体が液体(特に水)のみであっても、噴霧域の中央付近における流体の衝突力を弱めることなく、高い衝突力で均一な噴霧を実現できる噴射ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ノズル先端部で流路の先端部が開口した一対の吐出口を設けた噴射ノズル(二条ノズル)において、主流路から一対の流路を平行に設けるとともにそれぞれ先端部が狭まった円筒状流路とし、かつ特定の方向にノズル先端部を切り欠く一対の凹溝により吐出口を形成することにより、吐出口の厚み方向での噴霧域(噴射域)を広げても、噴霧域の中央付近における流体の衝突力を弱めることなく、噴霧域全体において均一な噴射を実現できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の噴射ノズルは、ノズル本体と、このノズル本体の軸方向に形成された主流路と、この主流路から下流側に向かって平行又はほぼ平行(これらを総称して単に平行という場合がある)に互いに離れて延び、かつ先端部が湾曲して狭まった一対の円筒状流路と、この円筒状流路の先端部が前記ノズル本体の先端部で開口して形成された一対の吐出口とを有する。このような噴射ノズルにおいて、前記吐出口は、前記ノズル本体の先端部(詳細には前記円筒状流路の先端部)を、互いに平行又はほぼ平行(これらを総称して単に平行という場合がある)の位置関係で前記円筒状流路の中心軸線に対して直交又はほぼ直交(これらを総称して単に直交という場合がある)する方向に横断して切り欠く一対の凹溝により形成されている。このような噴射ノズルでは、流体は主流路から分岐して一対の円筒状流路に流れ、吐出口から急激に開放されて拡散する。この際、吐出口を前記凹溝で形成することにより、流体を円筒状流路の狭まった先端部に向けて効率よく高速化しつつ凹溝に沿って急激に噴射することができるため、噴霧域中央付近での流体の衝突力を弱めることなく、吐出口での厚み方向の噴霧域を広げることができ、噴霧域全体において均一な噴霧を実現できる。
【0013】
この噴射ノズルにおいて、円筒状流路間の間隔は比較的狭い範囲、例えば、一対の円筒状流路の中心軸線間の距離が、円筒状流路(詳細には円筒状流路の非先端部)の直径の1.05〜1.5倍程度であってもよい。また、前記噴射ノズルにおいて、主流路から段差部を経て一対の円筒状流路が延びていてもよい。前記円筒状流路の先端部は、狭まった形状(膨出状)であればよく、例えば、碗状、山状などであってもよい。
【0014】
本発明の噴射ノズルにおいて、凹溝の断面形状(凹溝の横断する方向に垂直な断面の形状)は、両側方向(ノズルの両側方向)に広がる形状であってもよい。また、凹溝の溝幅や吐出口の短径は、円筒状流路の直径よりも小さくしてもよい。すなわち、円筒状流路の直径よりも幅狭の凹溝がノズル先端部を切欠くことにより円筒状流路の狭まった先端部を開口させてもよい。例えば、吐出口の短径(凹溝の横断方向に対して垂直な断面における吐出口の最大径)は、円筒状流路の直径の0.1〜0.9倍程度となるように小さくしてもよい。また、凹溝の最大幅を、円筒状流路の直径の0.2〜0.9倍程度となるように小さくしてもよい。凹溝を両側方向に広げるとともに、その溝幅や吐出口の短径を円筒状流路の径よりも小さくし、このような凹溝と円筒状流路の狭まった先端部と組み合わせることで、噴射する流体の衝突力を効率よく高める効果がある。代表的には、円筒状流路の先端部が碗状に狭まっており、凹溝の断面形状がU字状又はV字状(特にU字状)であってもよい。
【0015】
本発明の噴射ノズルにおいて、凹溝と吐出口(又は円筒状流路)との位置関係は、一対の円筒状流路の中心軸線を結ぶ方向(一対の円筒状流路の中心軸線を含む面)に対して、一対の凹溝の横断する方向がそれぞれ直交又はほぼ直交する位置関係であってもよい。一対の凹溝および吐出口をこのように形成すると、吐出口の厚み方向および幅方向において噴霧域を効率よく重ね合わせることができる。なお、前記凹溝は、通常、円筒状流路の中心軸線を通っていてもよい。また、前記凹溝は、凹溝の横断方向に対して側方に向けてもよい。このような位置関係や形状で凹溝を形成すると、吐出口の厚み方向の噴霧域を効率よく広げることができる。代表的な噴射ノズルでは、凹溝が、円筒状流路の中心軸線を通っているとともに、一対の円筒状流路の中心軸線を含む面に垂直又はほぼ垂直であり、かつ円筒状流路の中心軸線を含む面(又は円筒状流路の中心軸線を含み、かつ凹溝に沿った面)に対して、凹溝の断面での中心軸線が外側方向に2〜10°傾いていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の噴射ノズルでは、特定の形状の流路と、特定の凹溝により形成された吐出口とを組み合わせるため、吐出口(噴霧口)の厚み方向での噴霧域を効率よく広げつつ、噴霧域全体において均一な噴霧を実現できる。特に、本発明の噴射ノズルでは、流体が液体(特に水)のみであっても、噴霧域の中央付近における流体の衝突力を弱めることなく、高い衝突力で均一な噴霧を実現できる。このような本発明の噴射ノズルは、簡単な構造で上記のような効果を得ることができ、実用性においても優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の噴射ノズルの一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2は図1に示すノズルのII−II線断面図である。
【図3】図3は図1に示すノズルのIII−III線断面図である。
【図4】図4は図1に示すノズルの下流端の概略平面図である
【図5】図5は図1に示すノズルの上流端の概略平面図である。
【図6】図6は、図1に示すノズルの凹溝の拡大図である。
【図7】図7は本発明の他の噴射ノズルの一例を示す概略斜視図である。
【図8】図8は図7に示すノズルのVIII−VIII線断面図である。
【図9】図9は図7に示すノズルのIX−IX線断面図である。
【図10】図10は、比較例1で使用したノズルの概略斜視図である。
【図11】図11は図10に示すノズルのXI−XI線断面図である。
【図12】図12は、比較例1におけるノズルの吐出口の幅方向および厚み方向の衝突力分布を示すグラフであり、図12(A)はノズルセンターでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図12(B)はノズルセンターから10mmでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図12(C)はノズルセンターから20mmでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図12(D)はノズルセンターでの吐出口の厚み方向の衝突力分布を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例1におけるノズルの吐出口の幅方向および厚み方向の衝突力分布を示すグラフであり、図13(A)はノズルセンターでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図13(B)はノズルセンターから10mmでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図13(C)はノズルセンターから20mmでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図13(D)はノズルセンターでの吐出口の厚み方向の衝突力分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に必要に応じて添付図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。図1は本発明の噴射ノズルの一例を示す概略斜視図であり、図2は図1に示すノズルのII−II線断面図であり、図3は図1に示すノズルのIII−III線断面図(すなわち、図1に示すノズルにおいて、後述する円筒状流路の中心軸線を含み、かつ凹溝の横断する方向に対して垂直な断面の図)である。図4は図1に示すノズルの先端(下流端)の概略平面図であり、図5は図1に示すノズルの他方の先端(上流端)の概略平面図である。図6は、図1に示すノズルの凹溝の拡大図である。
【0019】
噴射ノズルは、筒状のノズル本体1と、このノズル本体1の軸方向(軸芯方向)に形成された円筒状の主流路2と、この主流路2から段差部(壁部)2Aを経て下流側(流体が流れる方向に対して下流側)に向かって平行(又はほぼ平行)に、しかも互いに離れて延び、かつ先端部3a,3bが下流側に向かって碗状に狭まった一対の円筒状流路3A,3Bと、前記先端部3a,3bが前記ノズル本体1の先端部1Aで開口して形成された一対の吐出口4A,4Bとを有している。
【0020】
なお、一対の円筒状流路3A,3Bは、同じ形状を有しており(直径および長さが同じ)、吐出口4A,4Bから噴射した流体の噴霧域を噴霧域の中央部分においてより一層効率よく重複させ、均一な噴霧を実現するため、比較的近接して主流路2から下流方向に延びている。この図の例では、円筒状流路3A,3Bの中心軸線間の距離が、円筒状流路3A,3Bの直径[詳細には、円筒状流路の円筒部(先端部を含まない円筒部)の直径]の1.05〜1.2倍程度である。また、一対の円筒状流路3A,3Bは、主流路2から段差部(壁部)2Aを経て延びている。詳細には、一対の円筒状流路3A,3Bは、主流路2の下流端に形成された壁部(衝突部)2Aを経て延びている。このような段差部を形成すると、単に一対の円筒状流路のみを設ける場合に比べて、圧力損失を効率よく小さくできる。
【0021】
そして、噴射ノズルでは、前記吐出口4A,4Bが、前記ノズル本体1の先端部において、互いに平行(又はほぼ平行)に前記円筒状流路3A,3Bの中心軸線に対して直交する方向に横断(ノズル本体1の先端部1Aの一方の側壁から他方の側壁に向けて横断)して切り欠く一対の凹溝5A,5Bにより形成されている。詳細には、凹溝5A,5Bは、それぞれ離れてノズル本体1の先端部(開口部)1Aを横断し、その断面形状がU字状(又は円弧状)であり、下流側に向けて両側方向に広がる形状を有している。しかも、これらの凹溝5A,5Bは、溝幅が前記円筒状流路3A,3Bの直径よりも小さい。この例では、凹溝5A,5Bの最大幅(最も広がった部分の幅)は、円筒状流路3A,3Bの直径の0.55〜0.65倍程度である。
【0022】
すなわち、図4に示すように、先端部3a,3bが碗状に狭まった開口部において、一対の凹溝5A,5Bがノズル先端部1Aを切り欠くことにより吐出口4A,4Bが形成されている。詳細には、これらの凹溝5A,5Bが、横断する又は延びる方向に沿って断面長円状(又は楕円状)の吐出口4A,4Bを形成している。このような噴霧ノズルでは、円筒状流路の先端部の流路が下流側(吐出方向)に向かって絞られているとともに、吐出口が下流側(吐出方向)に向かって広がる(凹溝の横断方向の両側方向に広がる)ように開口しており、噴霧圧力を低下させることなく、吐出口(又は凹溝)の厚み方向(一対の円筒状流路の中心軸線を結ぶ方向)の噴霧域を効率よく広げることができる。特に、凹溝の溝幅を円筒状流路の直径よりも狭くすることにより、吐出角度を過度に広げることなく凹溝又はその壁面に沿って吐出できるため、高い噴霧圧力を保ったまま、しかも比較的均一な噴霧圧力で吐出口の厚み方向および幅方向(厚み方向に直交する方向)の噴霧域を広げることができる。
【0023】
さらに、凹溝5A,5Bは、円筒状流路3A,3Bの中心軸線を通るとともに、凹溝5A,5Bの断面での中心軸線5a,5bに対して、対称(又はほぼ対称)的な形状を有している。図の例では,凹溝5A,5Bの断面形状は、中心軸線5a,5bに対して対称的なU字状である。しかも、この図の例では、一対の円筒状流路の中心軸線を含む面Pに垂直であり、かつ各円筒状流路3A,3Bの中心軸線を含む面(垂直面)S1,S2に対して(又は円筒状流路3A,3Bの中心軸線を含み、かつ各凹溝5A,5Bに沿った面S1,S2に対して)、凹溝5A,5Bの断面での中心軸線5a,5bがそれぞれ外側方向に2〜6°傾いている。すなわち、凹溝5A,5Bがノズル本体の先端部1Aにおいて外側方向に向いて(傾いて)おり、図6において、面S1と中心軸線5aとのなす角θ1、および面S2と中心軸線5bとのなす角θ2がいずれも2〜6°である。このように凹溝の断面での中心軸線をやや外側方向に傾けることにより、吐出口(又は凹溝)の厚み方向の噴霧域をより一層広げやすく、噴霧域全体においてより一層、噴霧圧力を均一化できる。
【0024】
なお、凹溝5A,5Bは、ノズル本体1の先端部を直線的(又はほぼ直線的)に横断して切り欠いているが、図2,図6に示すように、凹溝の長手方向(又は横断方向)の断面形状が湾曲した形状となっている。具体的には、この断面形状は、凹溝の中間付近(吐出口付近)において最も深さが深く、外側に向かって深さが浅くなる湾曲状となっている。
【0025】
なお、ノズル本体1の先端部において、吐出口4A,4B(又は円筒状流路3A,3Bの先端部)と凹溝5A,5Bとは、一対の円筒状流路3A,3Bの中心軸線を結ぶ方向(又は一対の円筒状流路3A,3Bの中心軸線を含む面P)に対して対称的(ほぼ対称的)な位置関係にあり、また、一対の吐出口4A,4Bおよび一対の凹溝5A,5Bは、それぞれ同じ(ほぼ同じ)形状を有している。図の例では、一対の円筒状流路3A,3Bの中心軸線を含む面Pに対して、一対の凹溝5A,5Bの横断する方向(又は前記面S1,S2)がそれぞれ直交(又はほぼ直交)している。このような位置関係とすることにより、一対の吐出口から噴霧された流体を、噴霧域の中央部分において効率よくかつ確実に重ねることができ、より一層均一な噴霧を実現できる。
【0026】
なお、ノズル本体において、円筒状流路は主流路から平行又はほぼ平行に互いに離れて延びている限り、その形状は必ずしも長手方向にわたって必ずしも同じでなくてもよい。図7は本発明の他の噴射ノズルの一例を示す概略斜視図であり、図8は図7に示すノズルのVIII−VIII線断面図であり、図9は図7に示すノズルのIX−IX線断面図である。これらの図に記載の噴射ノズルは、円筒状流路が、VIII−VIII線の断面形状が主流路2(又は段差部2A)に向かって大きくなる円筒状流路3C,3Dであることを除いて、図1〜図6に記載の噴射ノズルと同じである。詳細には、円筒状流路3C,3Dは、その途中部(長手方向の途中部)から主流路2(又は段差部2A)に向かって、VIII−VIII線断面における径(流路径)のみが連続的に大きくなるように形成されている。すなわち、円筒状流路3C,3Dは、先端部3a,3bから途中部においては中心軸線(円筒状流路3C,3Dが延びる方向)に直交する断面形状が円状である流路を形成し、途中部から主流路に向かう部分においては径(流路径)が連続的に大きくなるように形成され、その中心軸線に直交する断面形状が楕円状である流路を形成している。なお、図10に示すように、IX−IX線断面における流路径を変えていない(すなわち、IX−IX線方向の断面形状は図1〜6の噴射ノズルと同じである)ため、流路3C,3Dの中心間距離は、前記円筒状流路3A,3Bの場合と同じである。このような円筒状流路では、効率よく圧力損失を低減できる。
【0027】
本発明の噴霧ノズルは、前記のように、ノズル本体と、主流路と、この主流路から延びる一対の円筒状流路と、この円筒状流路の先端部が開口して形成された一対の吐出口とを備えており、この吐出口は、一対の凹溝により形成されている。
【0028】
主流路の形状は、円筒状(又は円柱状、楕円柱状などの断面形状が円形に近い筒状を含む。以下同じ)に限らず、角柱状、円筒状流路に向かって流路が狭まるか又は拡がる形状(円錐状、角錐状など)などであってもよい。
【0029】
一対の円筒状流路は、通常、互いに近接して主流路から延びており、例えば、一対の円筒状流路の中心軸線間の距離は、円筒状流路の直径(又は断面の最大幅)の1.05〜1.5倍、好ましくは1.07〜1.3倍、さらに好ましくは1.08〜1.2倍程度であってもよい。なお、円筒状流路の直径(又は断面の最大幅)は、例えば、3〜15mm、好ましくは4〜10mm、さらに好ましくは5〜8mm程度であってもよい。円筒状流路の長さ(軸方向の長さ)は、1〜10cm、好ましくは1.5〜8cm、さらに好ましくは2〜5cm程度であってもよい。
【0030】
また、円筒状流路は、前記のように主流路の下流端に形成された段差部を経て主流路から延びているのが好ましい。なお、主流路の下流端のコーナー部(段差部の側壁と底壁とのコーナー部)は湾曲していてもよい。また、円筒状流路は、必ずしもその流路径が同じである必要である必要はなく、例えば、前記のように主流路に向かって流路径が大きくなるように形成してもよい。
【0031】
円筒状流路の先端部(下流側の先端部)は、湾曲して下流側に向かって狭まっていれば、必ずしも碗状に限定されず、碗状以外の膨出状、例えば、山状(断面V字状)などであってもよい。なお、湾曲した先端部の長さ(中心軸線方向の長さ)は、例えば、円筒状流路の直径の0.2〜3倍、好ましくは0.5〜2倍程度であってもよい。
【0032】
なお、一対の円筒状流路(およびその先端部)は、流路径および形状が異なっていてもよいが、通常、同じ又はほぼ同じ形状である。
【0033】
そして、このような円筒状流路の先端部は、ノズル本体の先端部において開口し、吐出口を形成している。さらに、この吐出口は、ノズル本体の先端部を、円筒状流路の先端部において、凹溝が、円筒状流路の中心軸線に対して直交する方向に(円筒状流路の先端部を横断する方向に)横断して切り欠くことにより形成されている。
【0034】
凹溝の断面形状(横断方向に直交する断面の形状)は、コの字状などであってもよいが、通常、両側方向(下流側に向かって両側方向)に広がる形状、例えば、前記のようなU字状(円弧状、弓状)の他、V字状などであってもよい。また、凹溝は、凹溝の断面での中心軸線に対して対称的な又はほぼ対称的な断面形状を有している(又は線対称又はほぼ線対称である)のが好ましい。好ましい断面形状には、凹溝の断面での中心軸線に対して対称的な湾曲状(U字状など)が含まれる。
【0035】
吐出口の短径(前記面Pにおける吐出口の最大幅)は、円筒状流路の直径よりも小さいのが好ましく、例えば、円筒状流路の直径の0.1〜0.9倍、好ましくは0.2〜0.8倍、さらに好ましくは0.3〜0.6倍程度であってもよい。また、凹溝の最大幅(断面の最大幅)は、途中口の短径と同じく円筒状流路の直径よりも小さいのが好ましく、円筒状流路の直径の0.2〜0.9倍、好ましくは0.4〜0.8倍、さらに好ましくは0.4〜0.7倍程度であってもよい。なお、通常、吐出口の短径は、凹溝の幅と同じかそれよりもわずかに小さくなる。このような凹溝で吐出口を形成することにより、噴霧圧力を高めつつ流体を効率よく噴霧できる。
【0036】
なお、凹溝は、横断方向において、深さが均一であってよく、異なっていてもよい。特に、凹溝の深さを、吐出口又は吐出口の中心軸から側部方向に向かって連続的に又は段階的に浅く(小さく)してもよい。なお、このような凹溝は、例えば、カッター(丸カッターなど)を用いた押し切りにより形成することができる。また、均一な深さの凹溝は、カッターを溝長方向に送ることにより形成できる。これらの凹溝の形成方法のうち、押し切りによる方法が容易である。
【0037】
一対の凹溝の横断方向は、それぞれ平行又はほぼ平行である。すなわち、一対の凹溝は、互いに平行の位置関係でノズル本体の先端部を(直線的に)横断して切り欠き、吐出口を形成している。また、凹溝は、円筒状流路の中心軸線からずれてノズル本体の先端部を横断してもよいが、通常、凹溝が円筒状流路の中心軸線を通るのが好ましい。さらに、凹溝はノズル本体の先端部において外側方向に向いて(傾いて)いてもよい。例えば、凹溝の断面での中心軸線は、円筒状流路の中心軸線(又は前記S1又はS2)に対して、平行(又はほぼ平行)であってもよく、傾いて[例えば、外側方向(又は側方)に1〜15°、好ましくは2〜10°、さらに好ましくは3〜8°程度傾いて]いてもよい。特に、凹溝又は凹溝の中心軸線を外側方向(ノズル本体の外側方向)にやや傾けることにより、吐出口の厚み方向の噴霧域を効率よく広げることができる。なお、このような凹溝は、例えば、凹溝に対応するカッターの中心軸線を外側方向に傾けて押し切る方法などにより形成できる。
【0038】
なお、一対の凹溝(およびその吐出口)は、通常、同じ又はほぼ同じ形状である。また、凹溝と吐出口とは、均一な噴霧のため、前記面Pに対して対称的な位置関係にある場合が多く、通常、一対の円筒状流路の中心軸線を含む面Pに対して、一対の凹溝の横断する方向がそれぞれ直交(又はほぼ直交)していてもよい。
【0039】
本発明の噴射ノズルは、流体(気体、液体、気液混合流体など)を噴霧又は噴射するためのノズル(一流体又は二流体ノズル)として有用である。特に、本発明の噴射ノズルは、液体(例えば、水)のみを噴射しても、均一な噴射を実現できるため、液体を噴射するためのノズルとして好適に使用してもよい。
【0040】
本発明には、このような噴射ノズルに、流体を供給し、吐出口から流体を噴射する方法も含まれる。供給する流体(液体および/または気体)の圧力は、流体の種類や被処理体(被噴射体)の種類などに応じて選択でき、例えば、0.01〜5MPa、好ましくは0.05〜3MPa、さらに好ましくは0.1〜2MPa程度であってもよい。また、供給する流体(液体および/または気体)の流量は、例えば、5〜500L/分、好ましくは10〜300L/分、さらに好ましくは20〜200L/分程度であってもよい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0042】
(比較例1)
図10および図11に記載のノズルを用い、水量120L/分、水圧1.5MPa、高さ180mmの条件で水を噴射したところ、ひし形状の噴霧パターンが得られた。
【0043】
図10および図11の噴射ノズルは、ノズル本体11と、このノズル本体11の軸方向に形成された主流路12と、この主流路12から下流側に向かって延びる円筒状流路13と、この円筒状流路13の先端部13Aが前記ノズル本体11の先端部11Aで開口して形成された一対の吐出口14A,14Bとを有しており、前記凹溝15A,15Bが、前記先端部11Aを、先端部13Aを横断するように、互いに平行の位置関係で前記円筒状流路13の中心軸線に対して直交する方向に横断して切り欠くことにより吐出口14A,14Bを形成している。なお、噴射ノズルにおいて、主流路12の長さは25mm、主流路12の直径は20mm、円筒状流路13の長さは25mm、円筒状流路13の直径は14mm、凹溝15A,15Bの最大幅は4.5mm、凹溝15A,15Bの最大深さは2mm、凹溝15A,15Bの端部の深さ(最小深さ)は1mm、凹溝15A,15Bの断面での中心軸線同士のなす角θは10°である。
【0044】
ノズルセンター(図12(A))、吐出口の厚み方向(凹溝15A,15Bの横断方向に対して直交する方向)においてノズルセンターから10mm(図12(B))、吐出口の厚み方向においてノズルセンターから20mm(図12(C))の各位置で、それぞれの噴霧水の衝突力(g)を、φ1mmの受圧部を有する衝突力センサーで測定し、吐出口の幅方向(ひし形状噴霧パターンの幅方向)の衝突力分布を示すグラフを作成した。また、ノズルセンターの位置で、噴霧水の衝突力(g)を、φ1mmの受圧部を有する衝突力センサーで測定し、吐出口の厚み方向(ひし形状噴霧パターンの厚み方向)の衝突力分布を示すグラフ(図12(D))を作成した。結果を図12に示す。図12から明らかなように、ひし形状の噴霧パターンとなり、しかも噴霧域の中央付近に衝突力が低い領域ができ、均一な噴霧ができなかった。
【0045】
(実施例1)
図1〜図6に記載のノズル(主流路2の長さ20mm、主流路2の直径18mm、円筒状流路3A,3Bの長さ30mm、円筒状流路3A,3Bの直径6.1mm、円筒状流路3A,3Bの中心軸線間の距離6.8mmm、凹溝5A,5Bの最大幅3.8mm、吐出口4A,4Bの短径3.7mm、面S1,S2に対する凹溝5A,5Bの断面での中心軸線の傾き4°(θ1=θ2=4°)、凹溝5A,5Bの最大深さ3mm、凹溝5A,5Bの端部の深さ(最小深さ)1.5mm)を用い、水量120L/分、水圧1.5MPa、高さ180mmの条件で水を噴射したところ、楕円状の噴霧パターンが得られた。なお、上記ノズルのサイズとすることにより、上記噴霧条件では、噴射の幅方向の広がり角度は比較例1と同じとなるように調整した。ノズルセンター(図13(A))、吐出口の厚み方向(凹溝5A,5Bの横断方向に対して直交する方向)においてノズルセンターから10mm(図13(B))、吐出口の厚み方向においてノズルセンターから20mm(図13(C))の各位置で、それぞれの噴霧水の衝突力(g)を、φ1mmの受圧部を有する衝突力センサーで測定し、吐出口の幅方向(楕円状噴霧パターンの幅方向)の衝突力分布を示すグラフを作成した。また、ノズルセンターの位置で、噴霧水の衝突力(g)を、φ1mmの受圧部を有する衝突力センサーで測定し、吐出口の厚み方向(楕円状噴霧パターンの厚み方向)の衝突力分布を示すグラフ(図13(D))を作成した。結果を図12に示す。図13から明らかなように、楕円状の噴霧パターンで、かつ衝突力をほぼ均一な噴霧としつつ、吐出口の厚み方向および幅方向に噴霧域を広げることができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の噴射ノズルは、種々の用途、例えば、被処理体(加熱された鋼材などの加熱体、例えば、連続鋳造装置の二次冷却帯での鋼材、熱間圧延の鋼材、熱間圧延機のロールなど)の冷却、被処理体の洗浄などに利用できる。特に、本発明の噴射ノズルは、液体(特に水)のみを流体として供給しても、吐出口の厚み方向の噴霧域を広げつつかつ均一な噴霧を実現できるので、被処理体の冷却用の噴霧ノズルとして好適である。
【符号の説明】
【0047】
1,11…ノズル本体
1A…ノズル本体の先端部
2,12…主流路
2A…段差部
3A,3B,3C,3D,13…円筒状流路
3a,3b,13A…円筒状流路の先端部
4A,4B,14A,14B…吐出口
5A,5B,15A,15B…凹溝
5a,5b…凹溝の断面での中心軸線
S1,S2…円筒状流路の中心軸線を凹溝の横断する方向に移動させて得られる面
P…一対の円筒状流路の中心軸線を含む面
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を噴射又は噴霧するのに有用な噴射ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材冷却用、洗浄用などの種々の用途において噴射ノズルが使用されている。このような噴射ノズルとしては、例えば、吐出口(スプレー)が1つの一条ノズル、吐出口が2つの二条ノズルが知られている。
【0003】
このような噴射ノズルのうち、一条ノズルは、広範囲に亘って流体を噴射することは困難である。そのため、噴霧を広範囲に亘って行うためには、一条ノズルを隣接させて配置し、複数の一条ノズルの噴霧域を重ね合わせる(ラップさせる)必要がある。しかし、このように噴霧域を重ね合わせるため一条ノズルを近接させて配置すると、一条ノズルの使用数が非常に多くなる。また、噴霧域全体で均一な噴霧を行うためには非常に高い精度で重ね合わせる必要があるため、スプレーの厚み方向および幅方向においていずれも噴霧域を拡大することは困難である。
【0004】
このような一条ノズルの噴霧域を拡大するため種々の改良が試みられている。例えば、実公昭61−43555号公報(特許文献1)には、ノズル本体内に、形成された液通路の出口側近くの内面を砲弾形に形成するとともに、ノズル本体の先端部には、前記液通路の中心軸線に直交し、かつ、前記液通路の出口側端部を横切る溝を設けて、その液通路の出口側端部に長円形状の液噴射用オリフィスを形成し、さらに、前記液通路の入り口側には絞りを設けてある長円吹型液噴射ノズルが開示されている。このようなノズルでは、液流路の入り口側に設けた絞りにより、液流路を流れる流体を高速流とし、オリフィス通過後の液体にスプレーの幅方向および厚み方向に噴霧域を拡げることができる。しかし、このノズルでは、スプレーの噴霧域(特にスプレーの厚み方向の噴霧域)の拡大には限界がある。また、このノズルでは、絞りを設けることにより、スプレーの幅方向において広い範囲で比較的均一な噴霧を行うことができても、スプレーの厚み方向の噴霧域を拡大しつつ均一な噴霧を実現することはできない。なお、この文献では、ノズルを近接させて配置することを想定していない。
【0005】
一方、二条ノズルでは、一条ノズルに比べて噴霧域を拡大しやすい。このような二条ノズルとして、例えば、特開平2−21955号公報(特許文献2)には、有底筒状のノズル本体の内底部に、本体中心軸芯と同芯又はほぼ同芯の湾曲内周面を形成し、前記ノズル本体の底部側に、2つの噴霧口を形成するための2つの切欠部を溝状に穿設してある流体噴射ノズルであって、前記切欠部には前記湾曲内周面の中心軸を含む特定の中央面の両側に一対分離穿設されている流体噴射ノズルが開示されている。このノズルでは、噴霧口(スプレー)の厚み方向の噴霧域をある程度拡大できる。しかし、この文献のノズルでは、1つの流路の先端に2つの噴霧口を形成しているため、噴霧条件によっては、2つの噴霧口からの噴霧が重なり合った噴霧域の中央部分において流体の噴霧量および噴霧圧が小さくなることがあり、噴霧域全体にわたって均一な噴霧を行うが困難である。特に、このような傾向は、流体として液体(水など)のみを噴霧した場合に顕著となる。
【0006】
また、特開平2−268851号公報(特許文献3)には、有底筒状のノズル本体の内底部に、本体中心軸芯と同芯又はほぼ同芯の湾曲内周面を形成するとともに、前記ノズル本体の底部側に、2つの噴霧口を形成するための2つの切欠部を、前記有底内周面の中心軸芯を含む特定の仮想中央面の両側に1対、分離穿設してあり、前記1つの切欠部をその各幅中央が、前記有底内周面の中心軸芯を含み且つ前記仮想中央面と直交する直交面に対し、互いに平行に且つ互いに逆方向へ等長離隔偏位するように、前記ノズル本体の底部側外周面に設け、しかも、前記1対の切欠部間の有底内周面の中央には、流体流路上手側に向けて突起を設けてある流体噴射ノズルが開示されている。しかし、この文献のノズルでは、スプレーの幅方向の噴霧域を広げつつ比較的均一な噴霧を実現できるものの、均一な噴霧でスプレーの厚み方向の噴霧域を拡大できない。
【0007】
さらに、特開2003−93926号公報(特許文献4)には、ノズル本体の先端部に、流路断面が前記ノズル本体の先端部の径方向に長い複数の流体噴射用のオリフィスを前記オリフィスの幅方向に並設してある流体噴射ノズルであって、各オリフィスごとに、前記オリフィスの上流側に設けた複数の流路部分から衝突合流室へ流れ込んだ流体が前記オリフィスの幅方向に対応する方向で衝突した後、前記オリフィスから噴射されるように構成してある流体噴射ノズルが開示されている。しかし、この文献のノズルでは、流路を衝突合流室前で複数に分けているため、衝突合流室を経て噴霧される流体の衝突力が低下する。また、構造が複雑になるばかりか、流路全体における最小流路径が小さくなるため、流路が詰まりやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公昭61−43555号公報(実用新案登録請求の範囲、第1図)
【特許文献2】特開平2−21955号公報(特許請求の範囲、第1〜4図)
【特許文献3】特開平2−268851号公報(特許請求の範囲、第1〜4図)
【特許文献4】特開2003−93926号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、吐出口(噴霧口)の厚み方向での噴霧域を効率よく広げつつ、噴霧域全体において均一な噴霧を実現できる噴射ノズル(噴霧ノズル)を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、流体が液体(特に水)のみであっても、噴霧域の中央付近における流体の衝突力を弱めることなく、高い衝突力で均一な噴霧を実現できる噴射ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ノズル先端部で流路の先端部が開口した一対の吐出口を設けた噴射ノズル(二条ノズル)において、主流路から一対の流路を平行に設けるとともにそれぞれ先端部が狭まった円筒状流路とし、かつ特定の方向にノズル先端部を切り欠く一対の凹溝により吐出口を形成することにより、吐出口の厚み方向での噴霧域(噴射域)を広げても、噴霧域の中央付近における流体の衝突力を弱めることなく、噴霧域全体において均一な噴射を実現できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の噴射ノズルは、ノズル本体と、このノズル本体の軸方向に形成された主流路と、この主流路から下流側に向かって平行又はほぼ平行(これらを総称して単に平行という場合がある)に互いに離れて延び、かつ先端部が湾曲して狭まった一対の円筒状流路と、この円筒状流路の先端部が前記ノズル本体の先端部で開口して形成された一対の吐出口とを有する。このような噴射ノズルにおいて、前記吐出口は、前記ノズル本体の先端部(詳細には前記円筒状流路の先端部)を、互いに平行又はほぼ平行(これらを総称して単に平行という場合がある)の位置関係で前記円筒状流路の中心軸線に対して直交又はほぼ直交(これらを総称して単に直交という場合がある)する方向に横断して切り欠く一対の凹溝により形成されている。このような噴射ノズルでは、流体は主流路から分岐して一対の円筒状流路に流れ、吐出口から急激に開放されて拡散する。この際、吐出口を前記凹溝で形成することにより、流体を円筒状流路の狭まった先端部に向けて効率よく高速化しつつ凹溝に沿って急激に噴射することができるため、噴霧域中央付近での流体の衝突力を弱めることなく、吐出口での厚み方向の噴霧域を広げることができ、噴霧域全体において均一な噴霧を実現できる。
【0013】
この噴射ノズルにおいて、円筒状流路間の間隔は比較的狭い範囲、例えば、一対の円筒状流路の中心軸線間の距離が、円筒状流路(詳細には円筒状流路の非先端部)の直径の1.05〜1.5倍程度であってもよい。また、前記噴射ノズルにおいて、主流路から段差部を経て一対の円筒状流路が延びていてもよい。前記円筒状流路の先端部は、狭まった形状(膨出状)であればよく、例えば、碗状、山状などであってもよい。
【0014】
本発明の噴射ノズルにおいて、凹溝の断面形状(凹溝の横断する方向に垂直な断面の形状)は、両側方向(ノズルの両側方向)に広がる形状であってもよい。また、凹溝の溝幅や吐出口の短径は、円筒状流路の直径よりも小さくしてもよい。すなわち、円筒状流路の直径よりも幅狭の凹溝がノズル先端部を切欠くことにより円筒状流路の狭まった先端部を開口させてもよい。例えば、吐出口の短径(凹溝の横断方向に対して垂直な断面における吐出口の最大径)は、円筒状流路の直径の0.1〜0.9倍程度となるように小さくしてもよい。また、凹溝の最大幅を、円筒状流路の直径の0.2〜0.9倍程度となるように小さくしてもよい。凹溝を両側方向に広げるとともに、その溝幅や吐出口の短径を円筒状流路の径よりも小さくし、このような凹溝と円筒状流路の狭まった先端部と組み合わせることで、噴射する流体の衝突力を効率よく高める効果がある。代表的には、円筒状流路の先端部が碗状に狭まっており、凹溝の断面形状がU字状又はV字状(特にU字状)であってもよい。
【0015】
本発明の噴射ノズルにおいて、凹溝と吐出口(又は円筒状流路)との位置関係は、一対の円筒状流路の中心軸線を結ぶ方向(一対の円筒状流路の中心軸線を含む面)に対して、一対の凹溝の横断する方向がそれぞれ直交又はほぼ直交する位置関係であってもよい。一対の凹溝および吐出口をこのように形成すると、吐出口の厚み方向および幅方向において噴霧域を効率よく重ね合わせることができる。なお、前記凹溝は、通常、円筒状流路の中心軸線を通っていてもよい。また、前記凹溝は、凹溝の横断方向に対して側方に向けてもよい。このような位置関係や形状で凹溝を形成すると、吐出口の厚み方向の噴霧域を効率よく広げることができる。代表的な噴射ノズルでは、凹溝が、円筒状流路の中心軸線を通っているとともに、一対の円筒状流路の中心軸線を含む面に垂直又はほぼ垂直であり、かつ円筒状流路の中心軸線を含む面(又は円筒状流路の中心軸線を含み、かつ凹溝に沿った面)に対して、凹溝の断面での中心軸線が外側方向に2〜10°傾いていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の噴射ノズルでは、特定の形状の流路と、特定の凹溝により形成された吐出口とを組み合わせるため、吐出口(噴霧口)の厚み方向での噴霧域を効率よく広げつつ、噴霧域全体において均一な噴霧を実現できる。特に、本発明の噴射ノズルでは、流体が液体(特に水)のみであっても、噴霧域の中央付近における流体の衝突力を弱めることなく、高い衝突力で均一な噴霧を実現できる。このような本発明の噴射ノズルは、簡単な構造で上記のような効果を得ることができ、実用性においても優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の噴射ノズルの一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2は図1に示すノズルのII−II線断面図である。
【図3】図3は図1に示すノズルのIII−III線断面図である。
【図4】図4は図1に示すノズルの下流端の概略平面図である
【図5】図5は図1に示すノズルの上流端の概略平面図である。
【図6】図6は、図1に示すノズルの凹溝の拡大図である。
【図7】図7は本発明の他の噴射ノズルの一例を示す概略斜視図である。
【図8】図8は図7に示すノズルのVIII−VIII線断面図である。
【図9】図9は図7に示すノズルのIX−IX線断面図である。
【図10】図10は、比較例1で使用したノズルの概略斜視図である。
【図11】図11は図10に示すノズルのXI−XI線断面図である。
【図12】図12は、比較例1におけるノズルの吐出口の幅方向および厚み方向の衝突力分布を示すグラフであり、図12(A)はノズルセンターでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図12(B)はノズルセンターから10mmでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図12(C)はノズルセンターから20mmでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図12(D)はノズルセンターでの吐出口の厚み方向の衝突力分布を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例1におけるノズルの吐出口の幅方向および厚み方向の衝突力分布を示すグラフであり、図13(A)はノズルセンターでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図13(B)はノズルセンターから10mmでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図13(C)はノズルセンターから20mmでの吐出口の幅方向の衝突力分布を示すグラフ、図13(D)はノズルセンターでの吐出口の厚み方向の衝突力分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に必要に応じて添付図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。図1は本発明の噴射ノズルの一例を示す概略斜視図であり、図2は図1に示すノズルのII−II線断面図であり、図3は図1に示すノズルのIII−III線断面図(すなわち、図1に示すノズルにおいて、後述する円筒状流路の中心軸線を含み、かつ凹溝の横断する方向に対して垂直な断面の図)である。図4は図1に示すノズルの先端(下流端)の概略平面図であり、図5は図1に示すノズルの他方の先端(上流端)の概略平面図である。図6は、図1に示すノズルの凹溝の拡大図である。
【0019】
噴射ノズルは、筒状のノズル本体1と、このノズル本体1の軸方向(軸芯方向)に形成された円筒状の主流路2と、この主流路2から段差部(壁部)2Aを経て下流側(流体が流れる方向に対して下流側)に向かって平行(又はほぼ平行)に、しかも互いに離れて延び、かつ先端部3a,3bが下流側に向かって碗状に狭まった一対の円筒状流路3A,3Bと、前記先端部3a,3bが前記ノズル本体1の先端部1Aで開口して形成された一対の吐出口4A,4Bとを有している。
【0020】
なお、一対の円筒状流路3A,3Bは、同じ形状を有しており(直径および長さが同じ)、吐出口4A,4Bから噴射した流体の噴霧域を噴霧域の中央部分においてより一層効率よく重複させ、均一な噴霧を実現するため、比較的近接して主流路2から下流方向に延びている。この図の例では、円筒状流路3A,3Bの中心軸線間の距離が、円筒状流路3A,3Bの直径[詳細には、円筒状流路の円筒部(先端部を含まない円筒部)の直径]の1.05〜1.2倍程度である。また、一対の円筒状流路3A,3Bは、主流路2から段差部(壁部)2Aを経て延びている。詳細には、一対の円筒状流路3A,3Bは、主流路2の下流端に形成された壁部(衝突部)2Aを経て延びている。このような段差部を形成すると、単に一対の円筒状流路のみを設ける場合に比べて、圧力損失を効率よく小さくできる。
【0021】
そして、噴射ノズルでは、前記吐出口4A,4Bが、前記ノズル本体1の先端部において、互いに平行(又はほぼ平行)に前記円筒状流路3A,3Bの中心軸線に対して直交する方向に横断(ノズル本体1の先端部1Aの一方の側壁から他方の側壁に向けて横断)して切り欠く一対の凹溝5A,5Bにより形成されている。詳細には、凹溝5A,5Bは、それぞれ離れてノズル本体1の先端部(開口部)1Aを横断し、その断面形状がU字状(又は円弧状)であり、下流側に向けて両側方向に広がる形状を有している。しかも、これらの凹溝5A,5Bは、溝幅が前記円筒状流路3A,3Bの直径よりも小さい。この例では、凹溝5A,5Bの最大幅(最も広がった部分の幅)は、円筒状流路3A,3Bの直径の0.55〜0.65倍程度である。
【0022】
すなわち、図4に示すように、先端部3a,3bが碗状に狭まった開口部において、一対の凹溝5A,5Bがノズル先端部1Aを切り欠くことにより吐出口4A,4Bが形成されている。詳細には、これらの凹溝5A,5Bが、横断する又は延びる方向に沿って断面長円状(又は楕円状)の吐出口4A,4Bを形成している。このような噴霧ノズルでは、円筒状流路の先端部の流路が下流側(吐出方向)に向かって絞られているとともに、吐出口が下流側(吐出方向)に向かって広がる(凹溝の横断方向の両側方向に広がる)ように開口しており、噴霧圧力を低下させることなく、吐出口(又は凹溝)の厚み方向(一対の円筒状流路の中心軸線を結ぶ方向)の噴霧域を効率よく広げることができる。特に、凹溝の溝幅を円筒状流路の直径よりも狭くすることにより、吐出角度を過度に広げることなく凹溝又はその壁面に沿って吐出できるため、高い噴霧圧力を保ったまま、しかも比較的均一な噴霧圧力で吐出口の厚み方向および幅方向(厚み方向に直交する方向)の噴霧域を広げることができる。
【0023】
さらに、凹溝5A,5Bは、円筒状流路3A,3Bの中心軸線を通るとともに、凹溝5A,5Bの断面での中心軸線5a,5bに対して、対称(又はほぼ対称)的な形状を有している。図の例では,凹溝5A,5Bの断面形状は、中心軸線5a,5bに対して対称的なU字状である。しかも、この図の例では、一対の円筒状流路の中心軸線を含む面Pに垂直であり、かつ各円筒状流路3A,3Bの中心軸線を含む面(垂直面)S1,S2に対して(又は円筒状流路3A,3Bの中心軸線を含み、かつ各凹溝5A,5Bに沿った面S1,S2に対して)、凹溝5A,5Bの断面での中心軸線5a,5bがそれぞれ外側方向に2〜6°傾いている。すなわち、凹溝5A,5Bがノズル本体の先端部1Aにおいて外側方向に向いて(傾いて)おり、図6において、面S1と中心軸線5aとのなす角θ1、および面S2と中心軸線5bとのなす角θ2がいずれも2〜6°である。このように凹溝の断面での中心軸線をやや外側方向に傾けることにより、吐出口(又は凹溝)の厚み方向の噴霧域をより一層広げやすく、噴霧域全体においてより一層、噴霧圧力を均一化できる。
【0024】
なお、凹溝5A,5Bは、ノズル本体1の先端部を直線的(又はほぼ直線的)に横断して切り欠いているが、図2,図6に示すように、凹溝の長手方向(又は横断方向)の断面形状が湾曲した形状となっている。具体的には、この断面形状は、凹溝の中間付近(吐出口付近)において最も深さが深く、外側に向かって深さが浅くなる湾曲状となっている。
【0025】
なお、ノズル本体1の先端部において、吐出口4A,4B(又は円筒状流路3A,3Bの先端部)と凹溝5A,5Bとは、一対の円筒状流路3A,3Bの中心軸線を結ぶ方向(又は一対の円筒状流路3A,3Bの中心軸線を含む面P)に対して対称的(ほぼ対称的)な位置関係にあり、また、一対の吐出口4A,4Bおよび一対の凹溝5A,5Bは、それぞれ同じ(ほぼ同じ)形状を有している。図の例では、一対の円筒状流路3A,3Bの中心軸線を含む面Pに対して、一対の凹溝5A,5Bの横断する方向(又は前記面S1,S2)がそれぞれ直交(又はほぼ直交)している。このような位置関係とすることにより、一対の吐出口から噴霧された流体を、噴霧域の中央部分において効率よくかつ確実に重ねることができ、より一層均一な噴霧を実現できる。
【0026】
なお、ノズル本体において、円筒状流路は主流路から平行又はほぼ平行に互いに離れて延びている限り、その形状は必ずしも長手方向にわたって必ずしも同じでなくてもよい。図7は本発明の他の噴射ノズルの一例を示す概略斜視図であり、図8は図7に示すノズルのVIII−VIII線断面図であり、図9は図7に示すノズルのIX−IX線断面図である。これらの図に記載の噴射ノズルは、円筒状流路が、VIII−VIII線の断面形状が主流路2(又は段差部2A)に向かって大きくなる円筒状流路3C,3Dであることを除いて、図1〜図6に記載の噴射ノズルと同じである。詳細には、円筒状流路3C,3Dは、その途中部(長手方向の途中部)から主流路2(又は段差部2A)に向かって、VIII−VIII線断面における径(流路径)のみが連続的に大きくなるように形成されている。すなわち、円筒状流路3C,3Dは、先端部3a,3bから途中部においては中心軸線(円筒状流路3C,3Dが延びる方向)に直交する断面形状が円状である流路を形成し、途中部から主流路に向かう部分においては径(流路径)が連続的に大きくなるように形成され、その中心軸線に直交する断面形状が楕円状である流路を形成している。なお、図10に示すように、IX−IX線断面における流路径を変えていない(すなわち、IX−IX線方向の断面形状は図1〜6の噴射ノズルと同じである)ため、流路3C,3Dの中心間距離は、前記円筒状流路3A,3Bの場合と同じである。このような円筒状流路では、効率よく圧力損失を低減できる。
【0027】
本発明の噴霧ノズルは、前記のように、ノズル本体と、主流路と、この主流路から延びる一対の円筒状流路と、この円筒状流路の先端部が開口して形成された一対の吐出口とを備えており、この吐出口は、一対の凹溝により形成されている。
【0028】
主流路の形状は、円筒状(又は円柱状、楕円柱状などの断面形状が円形に近い筒状を含む。以下同じ)に限らず、角柱状、円筒状流路に向かって流路が狭まるか又は拡がる形状(円錐状、角錐状など)などであってもよい。
【0029】
一対の円筒状流路は、通常、互いに近接して主流路から延びており、例えば、一対の円筒状流路の中心軸線間の距離は、円筒状流路の直径(又は断面の最大幅)の1.05〜1.5倍、好ましくは1.07〜1.3倍、さらに好ましくは1.08〜1.2倍程度であってもよい。なお、円筒状流路の直径(又は断面の最大幅)は、例えば、3〜15mm、好ましくは4〜10mm、さらに好ましくは5〜8mm程度であってもよい。円筒状流路の長さ(軸方向の長さ)は、1〜10cm、好ましくは1.5〜8cm、さらに好ましくは2〜5cm程度であってもよい。
【0030】
また、円筒状流路は、前記のように主流路の下流端に形成された段差部を経て主流路から延びているのが好ましい。なお、主流路の下流端のコーナー部(段差部の側壁と底壁とのコーナー部)は湾曲していてもよい。また、円筒状流路は、必ずしもその流路径が同じである必要である必要はなく、例えば、前記のように主流路に向かって流路径が大きくなるように形成してもよい。
【0031】
円筒状流路の先端部(下流側の先端部)は、湾曲して下流側に向かって狭まっていれば、必ずしも碗状に限定されず、碗状以外の膨出状、例えば、山状(断面V字状)などであってもよい。なお、湾曲した先端部の長さ(中心軸線方向の長さ)は、例えば、円筒状流路の直径の0.2〜3倍、好ましくは0.5〜2倍程度であってもよい。
【0032】
なお、一対の円筒状流路(およびその先端部)は、流路径および形状が異なっていてもよいが、通常、同じ又はほぼ同じ形状である。
【0033】
そして、このような円筒状流路の先端部は、ノズル本体の先端部において開口し、吐出口を形成している。さらに、この吐出口は、ノズル本体の先端部を、円筒状流路の先端部において、凹溝が、円筒状流路の中心軸線に対して直交する方向に(円筒状流路の先端部を横断する方向に)横断して切り欠くことにより形成されている。
【0034】
凹溝の断面形状(横断方向に直交する断面の形状)は、コの字状などであってもよいが、通常、両側方向(下流側に向かって両側方向)に広がる形状、例えば、前記のようなU字状(円弧状、弓状)の他、V字状などであってもよい。また、凹溝は、凹溝の断面での中心軸線に対して対称的な又はほぼ対称的な断面形状を有している(又は線対称又はほぼ線対称である)のが好ましい。好ましい断面形状には、凹溝の断面での中心軸線に対して対称的な湾曲状(U字状など)が含まれる。
【0035】
吐出口の短径(前記面Pにおける吐出口の最大幅)は、円筒状流路の直径よりも小さいのが好ましく、例えば、円筒状流路の直径の0.1〜0.9倍、好ましくは0.2〜0.8倍、さらに好ましくは0.3〜0.6倍程度であってもよい。また、凹溝の最大幅(断面の最大幅)は、途中口の短径と同じく円筒状流路の直径よりも小さいのが好ましく、円筒状流路の直径の0.2〜0.9倍、好ましくは0.4〜0.8倍、さらに好ましくは0.4〜0.7倍程度であってもよい。なお、通常、吐出口の短径は、凹溝の幅と同じかそれよりもわずかに小さくなる。このような凹溝で吐出口を形成することにより、噴霧圧力を高めつつ流体を効率よく噴霧できる。
【0036】
なお、凹溝は、横断方向において、深さが均一であってよく、異なっていてもよい。特に、凹溝の深さを、吐出口又は吐出口の中心軸から側部方向に向かって連続的に又は段階的に浅く(小さく)してもよい。なお、このような凹溝は、例えば、カッター(丸カッターなど)を用いた押し切りにより形成することができる。また、均一な深さの凹溝は、カッターを溝長方向に送ることにより形成できる。これらの凹溝の形成方法のうち、押し切りによる方法が容易である。
【0037】
一対の凹溝の横断方向は、それぞれ平行又はほぼ平行である。すなわち、一対の凹溝は、互いに平行の位置関係でノズル本体の先端部を(直線的に)横断して切り欠き、吐出口を形成している。また、凹溝は、円筒状流路の中心軸線からずれてノズル本体の先端部を横断してもよいが、通常、凹溝が円筒状流路の中心軸線を通るのが好ましい。さらに、凹溝はノズル本体の先端部において外側方向に向いて(傾いて)いてもよい。例えば、凹溝の断面での中心軸線は、円筒状流路の中心軸線(又は前記S1又はS2)に対して、平行(又はほぼ平行)であってもよく、傾いて[例えば、外側方向(又は側方)に1〜15°、好ましくは2〜10°、さらに好ましくは3〜8°程度傾いて]いてもよい。特に、凹溝又は凹溝の中心軸線を外側方向(ノズル本体の外側方向)にやや傾けることにより、吐出口の厚み方向の噴霧域を効率よく広げることができる。なお、このような凹溝は、例えば、凹溝に対応するカッターの中心軸線を外側方向に傾けて押し切る方法などにより形成できる。
【0038】
なお、一対の凹溝(およびその吐出口)は、通常、同じ又はほぼ同じ形状である。また、凹溝と吐出口とは、均一な噴霧のため、前記面Pに対して対称的な位置関係にある場合が多く、通常、一対の円筒状流路の中心軸線を含む面Pに対して、一対の凹溝の横断する方向がそれぞれ直交(又はほぼ直交)していてもよい。
【0039】
本発明の噴射ノズルは、流体(気体、液体、気液混合流体など)を噴霧又は噴射するためのノズル(一流体又は二流体ノズル)として有用である。特に、本発明の噴射ノズルは、液体(例えば、水)のみを噴射しても、均一な噴射を実現できるため、液体を噴射するためのノズルとして好適に使用してもよい。
【0040】
本発明には、このような噴射ノズルに、流体を供給し、吐出口から流体を噴射する方法も含まれる。供給する流体(液体および/または気体)の圧力は、流体の種類や被処理体(被噴射体)の種類などに応じて選択でき、例えば、0.01〜5MPa、好ましくは0.05〜3MPa、さらに好ましくは0.1〜2MPa程度であってもよい。また、供給する流体(液体および/または気体)の流量は、例えば、5〜500L/分、好ましくは10〜300L/分、さらに好ましくは20〜200L/分程度であってもよい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0042】
(比較例1)
図10および図11に記載のノズルを用い、水量120L/分、水圧1.5MPa、高さ180mmの条件で水を噴射したところ、ひし形状の噴霧パターンが得られた。
【0043】
図10および図11の噴射ノズルは、ノズル本体11と、このノズル本体11の軸方向に形成された主流路12と、この主流路12から下流側に向かって延びる円筒状流路13と、この円筒状流路13の先端部13Aが前記ノズル本体11の先端部11Aで開口して形成された一対の吐出口14A,14Bとを有しており、前記凹溝15A,15Bが、前記先端部11Aを、先端部13Aを横断するように、互いに平行の位置関係で前記円筒状流路13の中心軸線に対して直交する方向に横断して切り欠くことにより吐出口14A,14Bを形成している。なお、噴射ノズルにおいて、主流路12の長さは25mm、主流路12の直径は20mm、円筒状流路13の長さは25mm、円筒状流路13の直径は14mm、凹溝15A,15Bの最大幅は4.5mm、凹溝15A,15Bの最大深さは2mm、凹溝15A,15Bの端部の深さ(最小深さ)は1mm、凹溝15A,15Bの断面での中心軸線同士のなす角θは10°である。
【0044】
ノズルセンター(図12(A))、吐出口の厚み方向(凹溝15A,15Bの横断方向に対して直交する方向)においてノズルセンターから10mm(図12(B))、吐出口の厚み方向においてノズルセンターから20mm(図12(C))の各位置で、それぞれの噴霧水の衝突力(g)を、φ1mmの受圧部を有する衝突力センサーで測定し、吐出口の幅方向(ひし形状噴霧パターンの幅方向)の衝突力分布を示すグラフを作成した。また、ノズルセンターの位置で、噴霧水の衝突力(g)を、φ1mmの受圧部を有する衝突力センサーで測定し、吐出口の厚み方向(ひし形状噴霧パターンの厚み方向)の衝突力分布を示すグラフ(図12(D))を作成した。結果を図12に示す。図12から明らかなように、ひし形状の噴霧パターンとなり、しかも噴霧域の中央付近に衝突力が低い領域ができ、均一な噴霧ができなかった。
【0045】
(実施例1)
図1〜図6に記載のノズル(主流路2の長さ20mm、主流路2の直径18mm、円筒状流路3A,3Bの長さ30mm、円筒状流路3A,3Bの直径6.1mm、円筒状流路3A,3Bの中心軸線間の距離6.8mmm、凹溝5A,5Bの最大幅3.8mm、吐出口4A,4Bの短径3.7mm、面S1,S2に対する凹溝5A,5Bの断面での中心軸線の傾き4°(θ1=θ2=4°)、凹溝5A,5Bの最大深さ3mm、凹溝5A,5Bの端部の深さ(最小深さ)1.5mm)を用い、水量120L/分、水圧1.5MPa、高さ180mmの条件で水を噴射したところ、楕円状の噴霧パターンが得られた。なお、上記ノズルのサイズとすることにより、上記噴霧条件では、噴射の幅方向の広がり角度は比較例1と同じとなるように調整した。ノズルセンター(図13(A))、吐出口の厚み方向(凹溝5A,5Bの横断方向に対して直交する方向)においてノズルセンターから10mm(図13(B))、吐出口の厚み方向においてノズルセンターから20mm(図13(C))の各位置で、それぞれの噴霧水の衝突力(g)を、φ1mmの受圧部を有する衝突力センサーで測定し、吐出口の幅方向(楕円状噴霧パターンの幅方向)の衝突力分布を示すグラフを作成した。また、ノズルセンターの位置で、噴霧水の衝突力(g)を、φ1mmの受圧部を有する衝突力センサーで測定し、吐出口の厚み方向(楕円状噴霧パターンの厚み方向)の衝突力分布を示すグラフ(図13(D))を作成した。結果を図12に示す。図13から明らかなように、楕円状の噴霧パターンで、かつ衝突力をほぼ均一な噴霧としつつ、吐出口の厚み方向および幅方向に噴霧域を広げることができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の噴射ノズルは、種々の用途、例えば、被処理体(加熱された鋼材などの加熱体、例えば、連続鋳造装置の二次冷却帯での鋼材、熱間圧延の鋼材、熱間圧延機のロールなど)の冷却、被処理体の洗浄などに利用できる。特に、本発明の噴射ノズルは、液体(特に水)のみを流体として供給しても、吐出口の厚み方向の噴霧域を広げつつかつ均一な噴霧を実現できるので、被処理体の冷却用の噴霧ノズルとして好適である。
【符号の説明】
【0047】
1,11…ノズル本体
1A…ノズル本体の先端部
2,12…主流路
2A…段差部
3A,3B,3C,3D,13…円筒状流路
3a,3b,13A…円筒状流路の先端部
4A,4B,14A,14B…吐出口
5A,5B,15A,15B…凹溝
5a,5b…凹溝の断面での中心軸線
S1,S2…円筒状流路の中心軸線を凹溝の横断する方向に移動させて得られる面
P…一対の円筒状流路の中心軸線を含む面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル本体と、このノズル本体の軸方向に形成された主流路と、この主流路から下流側に向かって平行又はほぼ平行に互いに離れて延び、かつ先端部が湾曲して狭まった一対の円筒状流路と、この円筒状流路の先端部が前記ノズル本体の先端部で開口して形成された一対の吐出口とを有する噴射ノズルであって、前記吐出口が、前記ノズル本体の先端部を、互いに平行又はほぼ平行の位置関係で前記円筒状流路の中心軸線に対して直交又はほぼ直交する方向に横断して切り欠く一対の凹溝により形成されている噴射ノズル。
【請求項2】
一対の円筒状流路の中心軸線間の距離が、円筒状流路の直径の1.05〜1.5倍である請求項1記載の噴射ノズル。
【請求項3】
主流路から段差部を経て一対の円筒状流路が延びている請求項1又は2に記載の噴射ノズル。
【請求項4】
凹溝の断面形状が、両側方向に広がる形状であり、かつ凹溝の溝幅が、円筒状流路の直径よりも小さい請求項1〜3のいずれかに記載の噴射ノズル。
【請求項5】
吐出口の短径が、円筒状流路の直径の0.1〜0.9倍である請求項1〜4のいずれかに記載の噴射ノズル。
【請求項6】
凹溝の最大幅が、円筒状流路の直径の0.2〜0.9倍である請求項1〜5のいずれかに記載の噴射ノズル。
【請求項7】
円筒状流路の先端部が碗状に狭まっており、凹溝の断面形状がU字状又はV字状である請求項1〜6のいずれかに記載の噴射ノズル。
【請求項8】
一対の円筒状流路の中心軸線を結ぶ方向に対して、一対の凹溝の横断する方向がそれぞれ直交又はほぼ直交している請求項1〜7のいずれかに記載の噴射ノズル。
【請求項9】
凹溝が、円筒状流路の中心軸線を通るとともに、一対の円筒状流路の中心軸線を含む面に垂直又はほぼ垂直であり、かつ円筒状流路の中心軸線を含む面に対して、凹溝の断面での中心軸線が外側方向に2〜10°傾いている請求項1〜8のいずれかに記載の噴射ノズル。
【請求項1】
ノズル本体と、このノズル本体の軸方向に形成された主流路と、この主流路から下流側に向かって平行又はほぼ平行に互いに離れて延び、かつ先端部が湾曲して狭まった一対の円筒状流路と、この円筒状流路の先端部が前記ノズル本体の先端部で開口して形成された一対の吐出口とを有する噴射ノズルであって、前記吐出口が、前記ノズル本体の先端部を、互いに平行又はほぼ平行の位置関係で前記円筒状流路の中心軸線に対して直交又はほぼ直交する方向に横断して切り欠く一対の凹溝により形成されている噴射ノズル。
【請求項2】
一対の円筒状流路の中心軸線間の距離が、円筒状流路の直径の1.05〜1.5倍である請求項1記載の噴射ノズル。
【請求項3】
主流路から段差部を経て一対の円筒状流路が延びている請求項1又は2に記載の噴射ノズル。
【請求項4】
凹溝の断面形状が、両側方向に広がる形状であり、かつ凹溝の溝幅が、円筒状流路の直径よりも小さい請求項1〜3のいずれかに記載の噴射ノズル。
【請求項5】
吐出口の短径が、円筒状流路の直径の0.1〜0.9倍である請求項1〜4のいずれかに記載の噴射ノズル。
【請求項6】
凹溝の最大幅が、円筒状流路の直径の0.2〜0.9倍である請求項1〜5のいずれかに記載の噴射ノズル。
【請求項7】
円筒状流路の先端部が碗状に狭まっており、凹溝の断面形状がU字状又はV字状である請求項1〜6のいずれかに記載の噴射ノズル。
【請求項8】
一対の円筒状流路の中心軸線を結ぶ方向に対して、一対の凹溝の横断する方向がそれぞれ直交又はほぼ直交している請求項1〜7のいずれかに記載の噴射ノズル。
【請求項9】
凹溝が、円筒状流路の中心軸線を通るとともに、一対の円筒状流路の中心軸線を含む面に垂直又はほぼ垂直であり、かつ円筒状流路の中心軸線を含む面に対して、凹溝の断面での中心軸線が外側方向に2〜10°傾いている請求項1〜8のいずれかに記載の噴射ノズル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−221121(P2010−221121A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70878(P2009−70878)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000142023)株式会社共立合金製作所 (24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000142023)株式会社共立合金製作所 (24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]