説明

嚥下食用のパン様食品の製造方法

【課題】 嚥下食でありながら、従来のパン類と変わらない外観やおいしさを楽しめるパン様食品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明に係る嚥下食用のパン様食品の製造方法は、生パン粉と、前記生パン粉の180〜220重量%の牛乳と、前記生パン粉の4〜6重量%の砂糖との混合物を90℃以上に加熱した後、これを撹拌してから、これに増粘多糖類を加えて混ぜた後、これを冷まして所定形状のパン様食品を得ることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や脳梗塞の後遺症を持つ方など、咀嚼(噛むこと)や嚥下(飲み込むこと)の機能が低下している人向けの食品(以下、これを「嚥下食」という。)として好適なパン様食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、嚥下食として、食材を細かく刻んだ「キザミ食」や、食材をミキサーでペースト状にした「ミキサー食」が良く知られている。これらの嚥下食は、食する人が、食材を噛み砕く必要等が無いため、このような食形態とすることで、咀嚼・嚥下の機能が低下している人にも、様々な食品を提供することができる。そのため、キザミ食やミキサー食は、嚥下食として、病院や介護施設等において、ごく一般的に提供されている。
【0003】
しかしながら、これらの嚥下食は、食材が細かく刻まれた状態や、粘性の高いペースト状態となっているため、これらを食べる人にとって、食塊形成が困難で、非常に飲み込みづらい食形態である、という問題がある。そして、この問題は、これらを食する人の咳やムセの回数を多くしてしまい、場合によっては、細かく刻まれた食材等が食する人の気管に入ってしまうこと(誤嚥)の原因や、最悪の場合、誤嚥性肺炎を引き起こす原因ともなってしまっている。
【0004】
また、これらの嚥下食は、食する人が「何を食べているのかわからない」という不満を抱きやすく、食する人に、食事の楽しみや満足感等を与えづらい食形態である、という問題もある。この問題は、嚥下食を食べる人の食欲低下の原因ともなり、本来、嚥下食を食べることによって、体力を維持・回復すべき人らに、食事による充分な恩恵を与えられない、という問題もある。
【0005】
特に、この問題は、食パン等に代表されるパン類を、嚥下食とした場合に顕著に表れることになる。パン類をキザミ食等としてしまうと、それは、もはやパン類とは言えず、このような食形態では、これを食する人達に、パン類本来のおいしさを提供することができないからである。
【0006】
本発明者は、このような実情のもと、従来のパン類と変わらない外観やおいしさを有しながらも、嚥下食として好適なパン類の製造方法について、鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者は、従来には無いまったく新しい方法によって、嚥下食でありながら、従来のパン類と変わらない外観やおいしさを楽しめるパン様食品を製造することができる、という知見を得、本発明を創作するに至った。
【0007】
なお、本発明を出願するにあたって、出願人において過去の特許文献等を調査したところ、嚥下食に関する技術について、下記の文献を発見することができたが、本発明に係る技術的思想等を詳述したものについては、発見することができなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2007−228834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、嚥下食でありながら、従来のパン類と変わらない外観やおいしさを楽しめるパン様食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのための手段として、本発明に係る嚥下食用のパン様食品の製造方法は、生パン粉と、前記生パン粉の180〜220重量%の牛乳と、前記生パン粉の4〜6重量%の砂糖との混合物を90℃以上に加熱した後、これを撹拌してから、これに増粘多糖類を加えて混ぜた後、これを冷まして所定形状のパン様食品を得ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、嚥下食でありながら、従来のパン類と変わらない外観やおいしさを楽しめるパン様食品の製造方法を提供することができる。また、本発明に係る嚥下食用のパン様食品は、所定の形状を有することになるので、食べる人にとって、食塊形成が容易であって、非常に飲み込みやすい食形態とすることができる。そのため、これらを食する人の咳やムセの回数を減らすことができ、誤嚥や、誤嚥性肺炎を引き起こす原因を排除することができる。
【0012】
また、本発明に係る嚥下食用のパン様食品は、従来のパン類と変わらない外観やおいしさを有しているので、これを食する人に、食事の楽しみや満足感等を与えることができる。さらに、これにより、嚥下食を食べる人の食欲を増進させ、これらの人の体力の維持・回復も期待できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る嚥下食用のパン様食品の製造方法を実施するための最良の形態について説明する。なお、本発明において、「パン様食品」とは、パンに似た外観及び味を呈するように作られる食品のことをいう。
【0014】
まず、生パン粉と、前記生パン粉の180〜220重量%の牛乳と、前記生パン粉の4〜6重量%のグラニュー糖とをそれぞれ用意する。そして、用意したこれらの材料を混ぜ合わせ、これを90℃以上に加熱する。その後、これらの混合物をミキサーに入れて良く撹拌し、計量してから鍋に入れる。さらに、計量した混合物が入った鍋に増粘多糖類を加えて混ぜる。
【0015】
なお、この際、増粘多糖類を、混合物内において確実に溶解させるため、一度、増粘多糖類を加えた混合物を沸騰させることが好ましい。また、増粘多糖類は、パン様食品が、嚥下食として好適な硬さである、500〜2000N/mとなるようにするため、計量した混合物に対して分量を調節して加えることが好ましい。
【0016】
その後、増粘多糖類を加えた混合物を鍋から出し、ラップを敷いた容器に流し込んで冷まし、所定の形状をなす本実施形態に係る嚥下食用のパン様食品を得る。
【0017】
なお、以上の実施形態においては、砂糖としてグラニュー糖を使用しているが、本発明においては、砂糖であれば、グラニュー糖以外の砂糖を使用しても構わない。
【0018】
本発明において使用される「増粘多糖類」とは、食品にとろみを付けるための食品添加物をいい、これには、増粘安定剤や、ゲル化剤等と呼ばれるものが含まれる。なお、このような増粘多糖類として、例えば、株式会社フードケア(神奈川県相模原市)の商品「ホットゼリーパウダー」などがある。
【実施例】
【0019】
次に、以下に示す実施例により、本発明について更に詳細に説明を行う。
【0020】
生パン粉300g、牛乳600g、グラニュー糖15gをそれぞれ用意し、これら混ぜた混合物を得た。得た混合物を鍋に入れ沸騰させから、ミキサーに入れてよく撹拌した。その後、この混合物を計量してから、再び鍋に入れ、これらを加熱しながら、株式会社フードケア(神奈川県相模原市)の商品「ホットゼリーパウダー」46gを、増粘多糖類としてこの鍋に加え、ホットゼリーパウダーを入れた混合物を、沸騰させた。
【0021】
その後、沸騰させた混合物を、ラップを敷いた直方形状のバットに流し込み、その後、これを冷まして、直方形状のパン様食品を得た。
【0022】
このパン様食品は、耳の部分を除いた一般的な食パンと、ほとんど変わらない外観をしていた。また、このパン様食品は、手で持った際に、形崩れをすることが無かった。さらに、このパン様食品を食したところ、舌圧だけで潰すことができ、嚥下食として良好な状態であることを確認できた。また、パンそのもののおいしさを味わうこともできた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生パン粉と、前記生パン粉の180〜220重量%の牛乳と、前記生パン粉の4〜6重量%の砂糖との混合物を90℃以上に加熱した後、これを撹拌してから、これに増粘多糖類を加えて混ぜた後、これを冷まして所定形状のパン様食品を得ることを特徴とする、嚥下食用のパン様食品の製造方法。

【公開番号】特開2009−219364(P2009−219364A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64052(P2008−64052)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(506102983)東京海上日動サミュエル株式会社 (7)
【Fターム(参考)】