説明

四輪駆動車両の制御装置

【課題】2個の油圧ポンプとその差圧に応じて動作する油圧クラッチからなる動力伝達機構を備えるものにおいてトルク変動に起因する振動や異音を抑制するようにした四輪駆動車両の制御装置を提供する。
【解決手段】車両の前輪に接続される入力軸に連結されて作動油を前輪の回転数に応じた圧力に加圧して吐出する第1油圧ポンプと後輪に接続される出力軸に連結されて後輪の回転数に応じた圧力に加圧して吐出する第2油圧ポンプの吐出圧の差に応じた圧力の作動油を供給されて入力軸と出力軸を連結して駆動源の駆動力を配分する油圧クラッチのクラッチ差回転を算出し(S10,S12)、算出されたクラッチ差回転に基づいてクラッチトルクを算出し(S14)、算出されたクラッチトルクの変動が所定値以上の状態が所定時間以上継続するとき、駆動源の駆動力を減少させる(S16からS22)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は四輪駆動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪駆動車両の一種として、特許文献1に記載される如く、前輪に接続されるプロペラ軸(入力軸)に連結される油圧ポンプと後輪に接続されるプロペラ軸(出力軸)に連結される油圧ポンプの吐出圧の差に応じて入力軸と出力軸を連結(締結)して前後輪に駆動力を配分する油圧クラッチからなる動力伝達機構を備えるものが知られている。
【0003】
そのような動力伝達機構を備える場合、油圧クラッチが連結(締結)される前後の差回転近傍のトルク変動に起因してプロペラ軸の共振や駆動系の捻り共振が生じ、それらが異音の原因となることがあった。そのような不都合は、入力軸と出力軸の間に両者の差回転に応じて動作して油圧クラッチを早期に動作させるカム部材を備えるとき、一層顕著となる。
【0004】
尚、振動の抑制についてはダンパを設けることが例えば特許文献2で提案されている。また駆動源の回転速度が駆動系の捻り共振発生域に入るとき、四輪駆動モードを選択させることで回転マスを増加させて振動を抑制することが特許文献3で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−146099号公報
【特許文献2】特開2002−337562号公報
【特許文献3】特開2008−100546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の動力伝達機構において振動を抑制するには特許文献2で提案されるようにダンパを設ける、さらにはフロア防音材を設けることなどが考えられるが、それでは車重の増加や機構の大型化やコストアップを招いてしまう。また、特許文献1記載の機構には特許文献3記載の技術の適用は困難である。
【0007】
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、2個の油圧ポンプとその差圧に応じて動作する油圧クラッチからなる動力伝達機構を備えるものにおいてトルク変動に起因する振動や異音を抑制するようにした四輪駆動車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を解決するために、請求項1にあっては、車両の前輪に接続される入力軸に連結され、第1吸入口から吸入する作動油を前記前輪の回転数に応じた圧力に加圧して第1吐出口から吐出する第1油圧ポンプと、前記車両の後輪に接続される出力軸に連結され、前記第1吐出口に連通される第2吸入口から吸入する作動油を前記後輪の回転数に応じた圧力に加圧して前記第1吸入口に連通される第2吐出口から吐出する第2油圧ポンプと、前記入力軸と出力軸の間に配置され、前記第1油圧ポンプと第2油圧ポンプの吐出圧の差に応じた圧力の作動油を供給されて前記入力軸と出力軸を連結して前記前輪と後輪に駆動源の駆動力を配分する油圧クラッチとからなる動力伝達機構を備えた四輪駆動車両において、前記油圧クラッチの前記入力軸と前記出力軸の間のクラッチ差回転を算出するクラッチ差回転算出手段と、前記クラッチ差回転算出手段によって算出されたクラッチ差回転に基づいて前記油圧クラッチが伝達するクラッチトルクを算出するクラッチトルク算出手段と、前記クラッチトルク算出手段によって算出されたクラッチトルクの変動を検出するクラッチトルク変動検出手段と、前記クラッチトルク変動検出手段によって検出されたクラッチトルクの変動が所定値以上の状態が所定時間以上継続するとき、前記駆動源の駆動力を減少させる駆動力減少手段とを備える如く構成した。
【0009】
請求項2に係る四輪駆動車両の制御装置にあっては、前記動力伝達機構が、前記入力軸と出力軸の間に配置され、前記入力軸と出力軸の差回転に応じて動作して前記油圧クラッチを動作させて前記入力軸と出力軸を連結させるカム部材を備える如く構成した。
【0010】
請求項3に係る四輪駆動車両の制御装置にあっては、前記駆動源が内燃機関であると共に、前記駆動力減少手段は、前記内燃機関の吸気量を調整するスロットルバルブの開度、前記内燃機関に供給される混合気の点火時期、前記内燃機関に供給される燃料噴射量の少なくともいずれかによって前記駆動源の駆動力を減少させる如く構成した。
【0011】
請求項4に係る四輪駆動車両の制御装置にあっては、前記クラッチ差回転算出手段は、前記後輪の車輪速が規定車速相当値以上のとき、前記油圧クラッチの前記入力軸と前記出力軸の間のクラッチ差回転を算出する如く構成した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る四輪駆動車両の制御装置にあっては、入力軸と出力軸に連結される第1、第2油圧ポンプの吐出圧の差に応じた圧力の作動油を供給されて入力軸と出力軸を連結して前輪と後輪に駆動源の駆動力を配分する油圧クラッチからなる動力伝達機構を備えると共に、油圧クラッチの入力軸と出力軸の間のクラッチ差回転を算出し、算出されたクラッチ差回転に基づいて油圧クラッチが伝達するクラッチトルクを算出し、算出されたクラッチトルクの変動を検出し、検出されたクラッチトルクの変動が所定値以上の状態が所定時間以上継続するとき、駆動源の駆動力を減少させる如く構成したので、駆動力を減少させることで油圧クラッチが連結(締結)される前後のクラッチ差回転近傍でのトルク変動を回避することができ、よって入力軸(プロペラ軸)の共振や駆動系の捻り共振を抑制できると共に、それらに起因する異音の発生を抑制することができる。
【0013】
請求項2に係る四輪駆動車両の制御装置にあっては、動力伝達機構が、入力軸と出力軸の間に配置され、入力軸と出力軸の差回転に応じて動作して油圧クラッチを動作させて入力軸と出力軸を連結させるカム部材を備える如く構成したので、動力伝達機構が入力軸と出力軸の差回転に応じて動作して油圧クラッチを早期に動作させるカム部材を備えるときも、入力軸(プロペラ軸)の共振や駆動系の捻り共振を抑制できると共に、それらに起因する異音の発生を抑制することができる。
【0014】
請求項3に係る四輪駆動車両の制御装置にあっては、駆動源が内燃機関であると共に、内燃機関の吸気量を調整するスロットルバルブの開度、内燃機関に供給される混合気の点火時期、内燃機関に供給される燃料噴射量の少なくともいずれかによって駆動源の駆動力を減少させる如く構成したので、上記した効果に加え、駆動源の出力を簡易かつ的確に減少させることができる。
【0015】
請求項4に係る四輪駆動車両の制御装置にあっては、後輪の車輪速が規定車速相当値以上のとき、油圧クラッチの入力軸と出力軸の間のクラッチ差回転を算出する如く構成したので、上記した効果に加え、規定値を適宜設定することで車両の発進時を制御対象から除外できると共に、構成を簡易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施例に係る四輪駆動車両の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す四輪駆動車両の動力伝達機構を模式的に示す説明図である。
【図3】図1の動作を示すフロー・チャートである。
【図4】図3フロー・チャートの処理で使用される所定値の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に即してこの発明に係る四輪駆動車両の制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、この発明の実施例に係る四輪駆動車両の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0019】
図1において符号10は車両を示し、車両10には水冷式のガソリンを燃料とするエンジン(内燃機関(駆動源)。図に「ENG」と示す)12が搭載されると共に、図示のように4個の車輪14を備える。
【0020】
エンジン12において吸気路に配置されて吸気量を調整するスロットルバルブ12aは車両10の運転席に配置されたアクセルペダル(図示せず)との機械的な連結を断たれ、アクチュエータ(電動モータなど。図示せず)を備えたDBW機構12bに接続され、DBW機構12bによって駆動(開閉)される。
【0021】
図1に示すように、エンジン12はトルクコンバータ16を介して自動変速機(図に「AT」と示す)20が接続される。自動変速機20は例えば前進5速、後進1速の有段変速機からなる。トルクコンバータ16で増幅されたエンジン12の駆動力は自動変速機20で変速される。
【0022】
自動変速機20で変速されたエンジン12の出力は減速ギヤ22を介してトランスファ24に入力される。トランスファ24はヘリカルギヤ24aとハイポイドギヤ24bを備え、エンジン12の出力はトランスファ24によって車輪14の前輪14Fと後輪14Rに分配される。
【0023】
前輪14Fの出力は、フロントディファレンシャル機構26を介して左側14FLと右側14FRに伝達される。後輪14R側の出力は、前輪14Fに接続されるプロペラ軸30とリアディファレンシャル機構32を介して左側14RLと右側14RRに伝達される。即ち、プロペラ軸30は前輪14Fと後輪14Rに接続される。
【0024】
プロペラ軸30上には、動力伝達機構36が配置される。
【0025】
図2はその動力伝達機構36の構造を模式的に示す説明図である。
【0026】
図示の如く、動力伝達機構36は、前輪14Fに接続されるプロペラ軸30、より具体的にはその一端30aに連結される第1油圧ポンプ36aと、後輪14Rに接続されるプロペラ軸30、より具体的にはその対向端30bに連結される第2油圧ポンプ36bと、油圧クラッチ36cを備えるDPS(Dual Pump System)として構成される。プロペラ軸30は動力伝達機構36について一端30aが入力軸として機能すると共に、対向端30bが出力軸として機能する。
【0027】
第1油圧ポンプ36aは第1吸入口36a1と第1吐出口36a2を、第2油圧ポンプ36bは第2吸入口36b1と第2吐出口36b2を備える。第1吸入口36a1は油路36ab1を介して第2吐出口36b2に連通される一方、第2吸入口36b1は油路36ab2を介して第1吐出口36a2に連通される。
【0028】
第1、第2油圧ポンプ36a,36bはギヤポンプからなると共に、プロペラ軸30の一端30a(入力軸)と対向端30b(出力軸)に連結される結果、第1油圧ポンプ36aはトルクコンバータ16と自動変速機20を介するエンジン12の駆動力、即ち、前輪14Fの回転数に応じた圧力の作動油を吐出する一方、第2油圧ポンプ36bは後輪14Rから伝達される路面側からの駆動力、即ち、後輪14Rの回転数に応じた圧力の作動油を吐出する。
【0029】
このように、第1油圧ポンプ36aは入力軸(プロペラ軸30の一端30a)に連結され、第1吸入口36a1から吸入する作動油を前輪14Fの回転数に応じた圧力に加圧して第1吐出口36a2から吐出する。
【0030】
第2油圧ポンプ36bは出力軸(プロペラ軸30の対向端30b)に連結され、第1吐出口36a2に連通される第2吸入口36b1から吸入する作動油を後輪14Rの回転数に応じた圧力に加圧して第1吸入口36a1に連通される第2吐出口36b2から吐出する。
【0031】
油圧クラッチ36cは多板クラッチからなり、プロペラ軸30の間、即ち、その一端(入力軸)30aと対向端(出力軸)30bの間に配置され、第1油圧ポンプ36aと第2油圧ポンプ36bの吐出圧の差に応じた圧力の作動油を供給されてプロペラ軸30の一端(入力軸)30aと対向端(出力軸)30bを連結して前輪14Fと後輪14Rにエンジン12の駆動力を配分する。
【0032】
即ち、動力伝達機構36において油圧クラッチ36cはクラッチ差回転(プロペラ軸30の一端30aと対向端30bの間の差回転)が増加するほど増大する油圧(ポンプ吐出圧)でプロペラ軸30の一端30aと対向端30bを連結する。
【0033】
また、動力伝達機構36は、プロペラ軸30の一端(入力軸)30aと対向端(出力軸)30bの間に配置され、一端(入力軸)30aと対向端(出力軸)30bの差回転に応じて動作して油圧クラッチ36cを迅速に動作させて一端(入力軸)30aと対向端(出力軸)30bを連結させるカム部材36dを備える。尚、動力伝達機構36の詳細は特許文献1に記載されているので、これ以上の説明は省略する。
【0034】
このように、車両10はトルクコンバータ16を介して入力され、自動変速機20で変速されるエンジン12の駆動力を、動力伝達機構36によって前輪14Fと後輪14Rに分配して駆動する四輪駆動(4WD)型の車両として構成される。
【0035】
自動変速機20の入力軸にはNTセンサ40が設けられてトルクコンバータ16のタービン回転、即ち、自動変速機20の入力回転数NTに応じた出力を生じる。
【0036】
左右の前輪14F(14FL,14FR)と後輪14R(14RL,14RR)の付近には車輪速センサ42がそれぞれ設けられ、左右の前後輪14FL,14FR,14RL,14RRの回転速度(車輪速度)に応じた出力を生じる。
【0037】
車両10の運転席床面のアクセルペダル(図示せず)の付近にはアクセル開度センサ44が設けられてアクセル開度(運転者によるアクセルペダル踏み込み量)APに応じた出力を生じると共に、ブレーキペダル(図示せず)の付近にはブレーキスイッチ46が設けられ、運転者によってブレーキペダルが操作されるとき、オン信号を出力する。
【0038】
上記したセンサの出力はECU(Electronic Control Unit。電子制御ユニット)50に送られる。ECU50はCPU,ROM,EEPROM,RAMおよび入出力I/Oなどで構成されるマイクロコンピュータからなり、上記したセンサ出力に基づいて自動変速機20の動作を制御すると共に、後述するように動力伝達機構36の振動抑制制御を行う。
【0039】
ECU50は、CAN(Controller Area Network)52を介してエンジン12やDBW機構12bの動作を制御するECU(FI−ECU)54と、トラクション制御やアンチスキッド制御などを行うECU56などに接続される。
【0040】
次いで、この実施例に係る四輪駆動車両の制御装置の動作、即ち、ECU50による動力伝達機構36の振動抑制制御を説明する。
【0041】
図3はその動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは一定時間、例えば10msごとに処理される。
【0042】
以下説明すると、車輪速センサ42から検出された後輪車輪速(より正確には後輪14RLの車輪速と14RRの車輪速の間の平均値)が規定値以上か否か判断し、否定されるときは以降の処理をスキップする。
【0043】
これは、車両10の発進時にはジャダが発生することがあることと振動は車速がある程度の値となってから発生することから、規定値を適宜設定してそれと比較することで発進時を振動抑制制御対象から除外するためである。
【0044】
S10で肯定されるときはS12に進み、クラッチ差回転を算出し、算出されたクラッチ差回転が既定値以上か否か判断する。クラッチ差回転はプロペラ軸30の入力側回転数と出力側回転数の差を意味し、以下のように算出する。
【0045】
即ち、先ず車輪速センサ42から検出された前輪車輪速平均値(前輪14FLの車輪速と14FRの車輪速の間の平均値)に、車輪速回転数変換係数と、トランスファ24のヘリカルギヤ24aの減速比とハイポイドギヤ24bの減速比を乗じてプロペラ軸30の入力側回転数を算出する。
【0046】
次いで車輪速センサ42から検出された後輪車輪速平均値(後輪14RLの車輪速と14RRの車輪速の間の平均値)に、車輪速回転数変換係数とリアディファレンシャル機構32の減速比を乗じてプロペラ軸30の出力側回転数を算出する。
【0047】
尚、車輪速回転数変換係数は前輪14Fと後輪14Rについて車輪速センサ42から得られる車輪速値を車輪14の動半径で回転数に変換するための係数である。
【0048】
次いでプロペラ軸30の算出された入力軸回転数から出力側回転数を減算し、よって得た差をクラッチ差回転とする。
【0049】
S12で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS14に進み、算出されたクラッチ差回転を予め設定されてROMに格納されている特性に従ってクラッチトルクへ変換する。
【0050】
次いでS16に進み、算出されたクラッチトルクの変動が所定値以上か否か判断する。これは今回算出されたクラッチトルクと前回(図3フロー・チャートの前回ループ時)算出されたクラッチトルクの差を求め、その差が所定値以上か否か判断することで行う。
【0051】
図4はその所定値の特性を示すグラフである。図示の如く、所定値はクラッチ差回転の増加につれて増加する一方、車速の増加につれて減少するように設定される。即ち、振動を誘発するトルク変動はクラッチ差回転が増加するほど大きくなる一方、車速が増加するにつれて低減するからである。
【0052】
尚、もし動力伝達機構36がカム部材36dを備えない場合、同図に破線で示す如く、所定値は比較的低い値に設定される。これは、カム部材36dを備えない場合、油圧クラッチ36cの締結が比較的遅くなるため、クラッチ差回転に対して後輪14Rに伝達されるクラッチトルクが、備える場合に比し、小さくなるためである。
【0053】
図3フロー・チャートの説明に戻ると、S16で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS18に進み、負荷許容時間が所定時間(例えば0.1sec)以上か否か判断する。
【0054】
「負荷許容時間」はS16の判断で肯定され続ける継続時間を意味する。従って、S16からS18の判断は、クラッチトルクの変動が所定値以上の状態が所定時間以上継続しているか否か判断することに相当する。
【0055】
S18で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS20に進み、エンジン12の駆動力を徐々に減少させる。これは具体的には、エンジン12のスロットルバルブ12aの開度をDBW機構12bを介して例えば単位開度ずつ閉弁方向に駆動することで行う。
【0056】
尚、それに代えて、あるいはそれと併せて、エンジン12の燃焼室に供給される混合気の点火時期を遅角させる、あるいはエンジン12に供給される燃料噴射量を減少させることによってエンジン12の駆動力を減少させても良い。
【0057】
次いでS22に進み、算出されたクラッチトルクの変動が設定値未満か否か判断する。設定値は制御ハンチングを防止するため、S16で使用される所定値より小さな値とされる。
【0058】
S22で否定される度にS20に戻ってエンジン12の駆動力を徐々に減少させる。図3フロー・チャートは一定時間10msecごとに実行されることから、結果としてエンジン12の駆動力は時間的に徐々に減少させられる。
【0059】
他方、S22で肯定されるときはS24に進み、エンジン12の駆動力を徐々に復帰させる。これはS20とS22と同様の処理を実行することで行う。
【0060】
上記した如く、この実施例にあっては、車両10の前輪14Fに接続される入力軸(プロペラ軸30、より具体的にはプロペラ軸30の一端30a)に連結され、第1吸入口36a1から吸入する作動油を前記前輪14Fの回転数に応じた圧力に加圧して第1吐出口36a2から吐出する第1油圧ポンプ36aと、前記車両10の後輪14Rに接続される出力軸(プロペラ軸30、より具体的にはプロペラ軸30の対向端30b)に連結され、前記第1吐出口36a2に連通される第2吸入口36b1から吸入する作動油を前記後輪14Rの回転数に応じた圧力に加圧して前記第1吸入口36a1に連通される第2吐出口36b2から吐出する第2油圧ポンプ36bと、前記入力軸と出力軸の間に配置され、前記第1油圧ポンプ36aと第2油圧ポンプ36bの吐出圧の差に応じた圧力の作動油を供給されて前記入力軸と出力軸を連結して前記前輪14Fと後輪14Rにエンジン(駆動源)12の駆動力を配分する油圧クラッチ36cとからなる動力伝達機構36を備えた四輪駆動車両10において、前記油圧クラッチ36cの前記入力軸と前記出力軸の間のクラッチ差回転を算出するクラッチ差回転算出手段(ECU50,S10,S12)と、前記クラッチ差回転算出手段によって算出されたクラッチ差回転に基づいて前記油圧クラッチが伝達するクラッチトルクを算出するクラッチトルク算出手段(ECU50,S14)と、前記クラッチトルク算出手段によって算出されたクラッチトルクの変動を検出するクラッチトルク変動検出手段(ECU50,S16,S22)と、前記クラッチトルク変動検出手段によって検出されたクラッチトルクの変動が所定値以上の状態が所定時間以上継続するとき、前記駆動源の駆動力を減少させる駆動力減少手段(ECU50,S16からS22)とを備える如く構成したので、駆動力を減少させることで油圧クラッチ36cが連結(締結)される前後のクラッチ差回転近傍でのトルク変動を回避することができ、よって入力軸(プロペラ軸)36の共振や駆動系の捻り共振を抑制できると共に、それらに起因する異音の発生を抑制することができる。
【0061】
また、前記動力伝達機構36が、前記入力軸(プロペラ軸30、より具体的にはプロペラ軸30の一端30a)と出力軸(プロペラ軸30、より具体的にはプロペラ軸30の対向端30b)の間に配置され、前記入力軸と出力軸の差回転に応じて動作して前記油圧クラッチ36cを動作させて前記入力軸と出力軸を連結させるカム部材36dを備える如く構成したので、動力伝達機構36が入力軸と出力軸の差回転に応じて動作して油圧クラッチ36を早期に動作させるカム部材36dを備えるときも、入力軸(プロペラ軸)30の共振や駆動系の捻り共振を抑制できると共に、それらに起因する異音の発生を抑制することができる。
【0062】
また、前記駆動源が内燃機関(エンジン)12であると共に、前記駆動力減少手段は、前記内燃機関12の吸気量を調整するスロットルバルブ12aの開度、前記内燃機関12に供給される混合気の点火時期、前記内燃機関12に供給される燃料噴射量の少なくともいずれかによって前記駆動源の駆動力を減少させる如く構成したので、上記した効果に加え、駆動源(エンジン)12の出力を簡易かつ的確に減少させることができる。
【0063】
また、前記クラッチ差回転算出手段は、前記後輪14Rの車輪速が規定車速相当値(規定値)以上のとき、前記油圧クラッチ36cの前記入力軸と前記出力軸の間のクラッチ差回転を算出する(ECU50,S12)如く構成したので、上記した効果に加え、規定値を適宜設定することで車両の発進時を制御対象から除外できると共に、構成を簡易にすることができる。
【0064】
尚、上記において変速機として自動変速機を示したが、この発明はそれに限られるものではなく、無段変速機を備えた車両にも妥当する。さらに、駆動源として内燃機関(エンジン)を示したが、駆動源は内燃機関と電動機のハイブリッドであっても良く、あるいは電動機のみであっても良い。
【符号の説明】
【0065】
10 車両、12 エンジン(内燃機関(駆動源))、14 車輪、14F 前輪(14FL,14FR)、14R 後輪(14RL,14RR)、20 自動変速機、24 トランスファ、30 プロペラ軸、30a プロペラ軸の一端(入力軸)、30b プロペラ軸の対向端(出力軸)、36 動力伝達機構、36a 第1油圧ポンプ、36b 第2油圧ポンプ、36c 油圧クラッチ、36d カム部材、42 車輪速センサ、50 ECU(電子制御ユニット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪に接続される入力軸に連結され、第1吸入口から吸入する作動油を前記前輪の回転数に応じた圧力に加圧して第1吐出口から吐出する第1油圧ポンプと、前記車両の後輪に接続される出力軸に連結され、前記第1吐出口に連通される第2吸入口から吸入する作動油を前記後輪の回転数に応じた圧力に加圧して前記第1吸入口に連通される第2吐出口から吐出する第2油圧ポンプと、前記入力軸と出力軸の間に配置され、前記第1油圧ポンプと第2油圧ポンプの吐出圧の差に応じた圧力の作動油を供給されて前記入力軸と出力軸を連結して前記前輪と後輪に駆動源の駆動力を配分する油圧クラッチとからなる動力伝達機構を備えた四輪駆動車両において、前記油圧クラッチの前記入力軸と前記出力軸の間のクラッチ差回転を算出するクラッチ差回転算出手段と、前記クラッチ差回転算出手段によって算出されたクラッチ差回転に基づいて前記油圧クラッチが伝達するクラッチトルクを算出するクラッチトルク算出手段と、前記クラッチトルク算出手段によって算出されたクラッチトルクの変動を検出するクラッチトルク変動検出手段と、前記クラッチトルク変動検出手段によって検出されたクラッチトルクの変動が所定値以上の状態が所定時間以上継続するとき、前記駆動源の駆動力を減少させる駆動力減少手段とを備えたことを特徴とする四輪駆動車両の制御装置。
【請求項2】
前記動力伝達機構が、前記入力軸と出力軸の間に配置され、前記入力軸と出力軸の差回転に応じて動作して前記油圧クラッチを動作させて前記入力軸と出力軸を連結させるカム部材を備えることを特徴とする請求項1記載の四輪駆動車両の制御装置。
【請求項3】
前記駆動源が内燃機関であると共に、前記駆動力減少手段は、前記内燃機関の吸気量を調整するスロットルバルブの開度、前記内燃機関に供給される混合気の点火時期、前記内燃機関に供給される燃料噴射量の少なくともいずれかによって前記駆動源の駆動力を減少させることを特徴とする請求項1または2記載の四輪駆動車両の制御装置。
【請求項4】
前記クラッチ差回転算出手段は、前記後輪の車輪速が規定車速相当値以上のとき、前記油圧クラッチの前記入力軸と前記出力軸の間のクラッチ差回転を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の四輪駆動車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−107503(P2013−107503A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254108(P2011−254108)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】