説明

四重極DCを用いる質量選択的な軸方向輸送の方法および装置

質量分光計システムおよび質量分光計を操作する方法が提供される。RF電界が、複数のロッドの間に生成されることによって、ロッドセット内のイオンを半径方向に制限する。該RF電界は、分解DC成分電界を有する。該分解DC成分電界は、該ロッドセットの長さの少なくとも一部に沿って変更され、イオンに作用するDC軸力を提供する。細長いロッドセットを有する質量分光計を動作する方法であって、ロッドセットは入口端と出口端と複数のロッドと中央の長手軸とを有し、ロッドセットの入口端にイオンを入れることと、複数のロッドの間にRF電界を生成することによって、ロッドセットにおけるイオンを半径方向に制限することであって、RF電界は、分解DC成分電界を有する、制限することと、ロッドセットの長さの少なくとも一部分に沿って分解DC成分電界を変化させることによって、イオンに作用するDC軸力を提供することとを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に質量分光測定に関連し、およびさらに具体的には、四重極DCを用いる質量選択的な軸方向輸送のための方法および装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
多くのタイプの質量分光計が、公知であり、軌跡分析のために広く用いられることによってイオンの構造を決定している。これらの分光計は、通常は、イオンの質量/電荷数(「m/z」)に基づいてイオンを分離する。そのような質量分光計の一つは、質量選択的な軸方向射出を伴う。例えば、2001年1月23日発行の特許文献1(Hager)を参照されたい。この特許は、線形イオントラップを記載し、該トラップは、細長いロッドセットを含み、ここでは、選択された質量/電荷数のイオンがトラップされる。これらのトラップされたイオンは、質量選択的に軸方向に射出され、これは、非特許文献1に記載されている。質量選択的な軸方向射出において、ならびに他のタイプの質量分光計システムにおいて、時には、異なるイオンの軸方向の位置を制御することが有益である。
【特許文献1】米国特許第6,177,668号明細書
【非特許文献1】Londry および Hager、「Mass Selective Axial Ejection from a Linear Quadrupole Ion Trap」、J Am Soc Mass Spectrom 2003、14、1130−1147
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の局面に従って、細長いロッドセットを有する質量分光計を操作する方法が提供され、該ロッドセットは入口端と出口端と複数のロッドと中央の長手軸とを有する。該方法は、a)該ロッドセットの該入口端にイオンを入れることと、b)複数のロッドの間にRF電界を生成することによって、ロッドセットにおけるイオンを半径方向に制限することであって、該RF電界は、分解DC成分電界(resolving DC component field)を有する、ことと、c)該ロッドセットの長さの少なくとも一部分に沿って分解DC成分電界を変化させることによって、該イオンに作用するDC軸力を提供することとを包含する。
【0004】
本発明の第2の局面に従って、質量分光計システムが提供され、該システムは、a)イオン源と、b)ロッドセットであって、該ロッドセットは、長手軸に沿って延びる複数のロッドと該イオン源からイオンを入れる入口端と該ロッドセットの長手軸を横断するイオンを射出する出口端とを有する、ロッドセットと、c)該ロッドセットの該複数のロッドの間にRF電界を生成する電圧供給モジュールであって、該RF電界は分解DC成分電界を有する、電圧供給モジュールとを備えている。該電圧供給モジュールは、ロッドセットと結合されており、該ロッドセットの長さの少なくとも一部に沿って分解DC成分電界を変化させることによって、イオンに作用するDC軸力を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明の好ましい局面の詳細な記述は、図面を参照しながら本明細書の以下に提供される。
【0006】
図1を参照すると、四重極ロッドセット(quadrupole rod set)20が、概略図に例示されており、ここでは、二極性補助AC信号(dipolar auxiliary AC signal)が、ロッドの組のうちの一つに提供されている。特に、四重極ロッドセット20は、一組のXロッド22および一組のYロッド24を備えており、RF電圧源26によって(公知の方法によって)それらにRF電圧が印加されることによって、イオンの半径方向の制限(radial confinement)を提供する。四重極ロッドセット20の出口端は、該出口端の出口極性に適切な電圧を供給することによってブロックされ得る。
【0007】
RF電圧源26によって全てのロッドに印加されるRF電圧に加えて、補助の二極性信号が、AC電圧源28によって(公知の方法によって)Xロッド22に供給され、しかし、Yロッド24には供給されない。
【0008】
本発明の局面において、Xロッド22およびYロッド24に供給されるRF電圧は、四重極または分解DC成分を含む。Xロッド22に印加される四重極DC成分は、Yロッド24に印加される四重極DC成分の極性とは逆である。図2および図3と関連して以下により詳細に記述されるが、Xロッド22およびYロッド24に印加される四重極DCは、その大きさがロッドの長さに沿って変化するように印加される。本発明の局面によると、図2に例示され以下に記述されるが、ロッドセットに沿った四重極DCの分布型は、ロッドセットの入口端における最大から、ロッドセットの出口端における最小まで線形に減少する。図3と関連して以下に記述された本発明の別の局面によると、ロッドセットに沿った四重極DCの分布型は、ロッドセットの入口端の付近の最大から、ロッドセットの出口端の付近の最小まで減少する。続く記述において、イオンによって運ばれた電荷は、正と仮定され、Xロッドに印加された四重極分解DCは、正と仮定され、Yロッドに印加された四重極分解DCは、負と仮定される。より一般的には、Xロッドに印加された四重極分解DCは、イオンと同一の極性であると仮定される。
【0009】
ロッドに印加されたDC四重極電圧における変動の結果として生じる派生軸力は、分解四重極DCの電位に対する寄与を考慮することによって、線形四重極ロッドセットの二次元の中央部に対して計算され得る。端効果は無視してよい、線形イオントラップの中央部分において、二次元の四重極電位は、以下のように書かれ得る。
【0010】
【数1】

ここで、2rは、対向するロッドの間の最短距離であり、φは、電気の電位であり、グランドに関して測定され、二つの極のそれぞれに反対の極性が印加される。従来的に、φは、DCおよびRF成分の線形結合として、以下のように書かれてきた。
【0011】
【数2】

ここで、Uは、RF励振の角振動数である。
【0012】
この場合において、交流RF項は無視され得、DCの寄与を、四重極DCが最大である軸方向の位置から測定された軸方向の座標zの線形関数として書かれ得、以下のようになる。
【0013】
【数3】

ここで、Uは、ロッド入口端に印加された分解DCのレベルであり、zは、四重極DCが印加される軸方向の長さである。電界の軸方向の成分は、軸方向の座標zで式(3)を微分することによって取得され得、以下をもたらす。
【0014】
【数4】

式(4)の考慮は、三つの主な特徴をもたらす。第1に、力は、軸方向に一様である。第2に、軸方向の電界強度は、半径方向の変位の二乗に依存する。最後に、派生軸力の符号は、x−z面において正であり、しかしy−z面において負である。
【0015】
議論を容易にするために、イオンは正であり、X極ロッドに印加される四重極DCもまた、正であると仮定する。イオンの極性が負であり、X極ロッドに印加された四重極DCの極性が負であった場合にも、議論は、等しく当てはまり得る。この配列(arrangement)の一つの結論は、熱イオンは、ロッドセットの入口端の近辺に集まり、すなわち、そこで派生軸力が最初に始まるということである。これは、四重極分解DCがX極において正であるために発生する。Xロッドの正の電位によって反発され、かつ、Yロッドの負の電位によって誘引され、正イオンは、x−z面よりもy−z面において、やや高めの半径方向の振幅を有する傾向がある。従って、平均すると、熱イオンによって経験された正味の電界は、僅かに負であり、ロッドセットの入口端に向かって、より高いイオン密度をもたらす。派生軸力は、半径方向振幅と二乗で対応するので、熱イオンによって感じられる正味の力は、非常に弱い。これは、質量選択的な軸方向射出が乱されるであろう、出口の近辺の電荷の量を劇的に減少させるには十分であるが、イオンが、ロッドアセンブリの有意な長さまで分配されるであろうほどは強くない。
【0016】
前の記述は、正のイオンについて論じている。一般的に、二極性補助電圧信号は、ロッドアレイにおけるイオンと同一の極性の四重極分解DCを受けるロッドの組に提供されるべきである。従って、四重極ロッドセットが、負のイオンを含み、負の極性の四重極分解DCが、Xロッドに提供される場合には、二極性補助電圧信号は、先のように、Xロッドに提供されるべきである。
【0017】
図2を参照すると、概略図において本発明に第1の局面に従ったイオンガイド118が例示される。簡潔にするために、図1の記述は、図2に関しては繰り返されない。その代わりに、明快にするために、図1と関連して上述されたものと類似する要素は、同一の参照番号に100を足したものを用いて示される。
【0018】
図2に示されるように、Xロッド122およびYロッド124の両方は、高誘電性の絶縁層132によってコートされている。好ましくは、この絶縁層132は、最低でも200V DCの絶縁能力を有する。この絶縁層132は、次いで薄い抵抗性コーティング130によってコートされている。好ましくは、この薄い抵抗性フィルム130は、各ロッドに10〜20MΩの終端間抵抗を提供する。好ましくは、抵抗性コーティング130および絶縁層132の両方は、可能な限り薄くあるべきである。
【0019】
図2に示されるように、四重極DCは、Xロッド122およびYロッド124の一端に、それぞれが可変DC四重極電圧源128aおよび128bによって印加される。可変DC四重極電圧源128aおよび128bによって提供されたDC四重極電圧は、極性が反対である。
【0020】
図2に記述されたロッドセットは、任意の数の異なる方法によって構築され得る。例えば、所望の最終的な半径よりも0.003”小さなステンレススチールロッドは、約0.010”の厚さのアルミナによってコートされ得る。その後、ロッドは、所望の半径まで機械加工され得、厚さ0.003”のアルミナの層をもたらす。アルミナでコートされたロッドは、マスクされ得、抵抗性コーティング130が加えられる。抵抗性コーティング130は、非常に薄く、恐らく、その厚さは10ミクロンまたはそれ以下であり、抵抗性コーティング130の厚さは、ロッドの半径の寸法に重大な影響は及ぼさない。最終的に、金属帯がロッド122および124の各端に加えられ得ることによって、一端において可変DC四重極電圧源128aおよび128bからのリード線との、もう一端においてリード線129との、十分な抵抗接触を容易にする。
【0021】
あるいは、より簡潔に、通常の規格に既に機械加工された普通のステンレススチールロッド122および124は、高誘電性のポリマー(抵抗性コーティング130)によってコートされ得、これは、十分に抵抗性があり、その結果として、10ミクロンの層が、200V DCに抵抗するのに十分である。その後に、イオンが、ポリマー層の僅か数ミクロンの深さにインプラントされ、抵抗性コーティング130を作成する。上述されたように、端の金属帯は、抵抗性コーティング130と、一端において可変DC四重極電圧源128aおよび128bからのリード線と、もう一端においてリード線129との間の、十分な抵抗接触を保証する。
【0022】
図2のロッドセットの作成の第3の方法は、[2、2]−パラ−シクロフォンパラリンの絶縁層の化学蒸着(CVD)を23μmの平均的深度まで含み、概算0.5μmまでの厚さの水素化された非晶質の珪素(a−Si:H)フィルムの抵抗性コーティングのCVDによって続かれる。
【0023】
通常のRF/DCの操作の下では、四重極の分解DCは、抵抗性コーティング130の両端に印加され、ロッドの長さにおける四重極DCの変動を最小にする。しかし、本発明の局面において、四重極分解DC、UDC<0.01×|VRF|は、ロッドセット120の一端、好ましくは入口端だけにおいて、周囲の金属帯または他の適切な金属を介して、抵抗性コーティング130に印加される。図2に示されるように、出口端において、ロッド122およびYロッド124は、それらに印加された四重極DCの点からは、反対の極性であるが、リード線129によって互いに接続されている。リード線129は、可変抵抗器131を介して互いに接続されており、該抵抗器は、十分な抵抗を有することによって、各ロッドの終端間抵抗における変動を補正することができ、その結果として四重極DCは、イオンガイド118の出口端において、ゼロとなるか、またはある適切な最小値に低減され得る。
【0024】
図3を参照すると、本発明の第2の局面に従った、イオンガイド218が、概略図に例示される。簡潔にするために、図1の記述は、図3に関して繰り返されない。その代わりに、明快にするために、図1と関連して上述されたものと類似する要素は、同一の参照番号に200を足したものを用いて示される。
【0025】
図3に示されるように、Xロッド222およびYロッド224の両方は、セグメントに分割され、SからSまでの番号が付けられる(勿論、ロッドは、異なる数のセグメントに分割され得ることが当業者に認識される)。可変分解DC電圧源228aおよび228bは、Xロッド222およびYロッド224に対して反対の極性の四重極分解DC電圧を供給する。
【0026】
図3に示されるように、Xロッド222およびYロッド224のそれぞれのセグメントは、容量分圧器234によってRFパス242に沿って結合され、RF電圧源226によって供給されるRF電圧は、これらの容量分圧器234を介して個々のセグメントに供給される。これら容量分圧器234の容量は、イオンガイド218の長さに沿ったRF電圧の分布型を定義する。理想的には、これらは、RF電圧が、ロッドの長さにおいてはっきりと感知されるほどに降下しない程度に、十分に小さく選択され得る。しかし、一部の適用において、この手段によってロッドの長さに沿った四重極RFの大きさを変えることが望ましくあり得る。
【0027】
図3の実施形態において、分解四重極DCは、全てのセグメントに提供されているが、Xロッド222およびYロッド224のセグメントSおよびSの間、ならびにセグメントSおよびSの間における低抵抗DC接続部は、セグメントS、SおよびSに渡る一定の四重極DCのレベルを維持する手段を提供する。同様に、Xロッド222およびYロッド224のセグメントSおよびSの間における低抵抗DC接続部は、Xロッド222およびYロッド224のセグメントSおよびSに渡る一定の四重極DCのレベルを維持する手段を提供する。結果的に、Xロッド222およびYロッド224へのDCパス244を介してDC電圧源228aおよび228bによって供給された四重極分解DCは、セグメントS、SおよびSの間において一定のままであり、セグメントSおよびS、SおよびS、SおよびS、SおよびS、ならびに、SおよびSの間において変化し、セグメントSおよびSの間において一定のままである。このようにして、抵抗の値は、DCパス244に沿った隣接するセグメントの間のDCの電気的な接続を作り、イオンガイド218に沿ったDC電圧の分布型を定義する。
【0028】
図3の実施形態において、図2の実施形態とは異なり、派生軸力は、セグメントSおよびSの間、SおよびSの間ならびにSおよびSの間において無視できる。すなわち、四重極分解DCの電界は、派生軸力が派生するところであるが、セグメントSおよびSにおいて減少し始めるまで、一定のままである。結果的に、四重極分解DCからの派生軸力は、セグメントSの周辺から始まる。
【0029】
同様に、派生軸力は、セグメントSにおいて無視できる。
【0030】
四重極分解DCのパス244は、RFパスから分離している。しかし、これらのパスの両方は、ロッドセットに接続されているため、それらは、互いに電気的に絶縁されなくてはならない。この理由のために、ブロッキング誘導器238が、四重極分解DCのパス244に沿って提供され、DC電圧源228aおよび228bならびに可変抵抗器231を、Xロッド222およびYロッド224から受け取るRF電流から絶縁する。ブロッキングコンデンサ240は、セグメントSに供給される四重極DCからRF電圧源226を絶縁するように機能する。
【0031】
(質量選択的な軸方向輸送)
質量選択的な軸方向輸送に対する、図2および図3それぞれのイオンガイド118および218の動作は、イオンが、イオン源(不図示)からイオンガイドに導入され、次いで四重極DCの軸方向の勾配によって軸方向に加速されるが、図4を参照して説明される。図4は、安定度の図表であり、派生軸方向電界が用いられ得ることによって、どのように質量選択的な軸方向輸送の効率が向上させられるかを例示し、ここでは、RF振幅は、一定の割合で傾くことによって、順に高い質量のイオンを、図1に関連して上述された、低振幅で二極性の補助信号と共振させる。加えて、二極性の補助AC信号は、四重極DCの極性がイオンの極性と整合する、極のロッドの間に適用され得ることが重要である。続く議論において、イオンの極性は正であり、四重極分解DCの陽極および二極性補助信号の両方が、Xロッドに適用される。
【0032】
図4の安定性の図表において、U/Vの割合は、z=0.0において0.01であり、z=127mmにおいてゼロに降下する。結果的に、走査線の傾斜も、軸方向の位置の関数である。この関係は、図4において、軸方向の縮尺を縦座標に重ね合わせることによって描写され、マチュー(Mathieu)パラメータaは、軸方向の位置の関数であることを示すが、qはそうではない。あらゆる特定の質量に対して、RF振幅がで傾いているので、qは、やがて線形に増加する。補助信号の周波数は、380kHzであり、iso−βラインに対応し、ここでは、1.0MHzシステムにおいてβ=0.76である。これは、質量選択的な軸方向輸送に対するqeject=0.8433に対応し、これらの特徴の両方は、図4において表される。
【0033】
ここで、図4におけるイオンを考えると、該イオンは、(a、q)=(0.0118、0.8320)、z=38mmにおける走査線上に位置し、高いaから低いaへの安定空間を通るそのパスは、実線を用いて示される。増加するRF振幅の効により、このイオンは、走査線に沿って移動し、最終的にβ=0.76の走査線の交差点で補助信号と共振する。イオンは、常に走査線上にあるということに留意すると、その結果として、走査線の傾斜、およびβ=0.76の線との交差は、イオンの軸方向の位置とともに変化する。増加したX振幅の結果として、イオンは、増加した正の軸力を経験し、出口レンズの方向に加速される。結果として、そのa値は、減少され、イオンは、共振しなくなる。その半径方向の動きが、低圧力のバッファガスとの衝突を介して減衰されようと、または、補助信号とイオンの動きの間の位相関係の変化を介して減衰されようと、出口レンズに向かうその加速は、減速する。あるいは、イオンは、出口レンズの電位によって反射され得る。この場合において、破線によって示されるように、安定空間におけるイオンのパスは、より高いa値に反射される前に出口端に十分に近接する場合には、q軸に接近し得る。いずれの場合においても、線形に増加するqに応答して、走査線上のイオンの位置は、再び低いa(および高いq)においてβ=0.76と交差し、イオンは、付随的な共振励起を受ける。このサイクル、またはその変化は、イオンが、軸方向に射出されるか、ロッド上で失われるかのどちらかになるまで、繰り返され、その場合は、β=0.76の線が、q軸と交差する。この手段によって、十分に高い質量のイオンは、質量選択的な軸方向の射出に直前に、ロッドセットの出口端に向かって除去され得る。
【0034】
(シミュレーション結果)
上述された派生軸力に対するイオンの反応は、四重極の線形イオントラップ(LIT)におけるイオン軌跡の三次元コンピュータシミュレーションを用いて研究された。その目的のために、特定のモデルが開発され、該モデルにおいて、ロッドに印加される四重極DCは、軸方向の位置とともに変化した。LITの二次元の中央部において、派生軸力は、二次元の数値の電位から解析的に計算された。しかし、ロッドセットの端における縁取り領域において、極性の構成に対するラプラスの方程式を解く必要があり、ここでは、四重極DC電圧は、ロッドの軸方向の位置に関し線形に変化した。いくつかのサンプル結果が、以下に提示される。
【0035】
上述されたように、イオンは、派生軸力が提供されるイオンガイドの入口端の近辺に集まる傾向がある。図5を参照すると、グラフが、この挙動を例示するデータを描く。特に、図5は、1000のイオンの軸方向の分布を示し、該イオンは、派生軸力が提供された間にバッファガスを用いて熱運動化することを許された。これらのデータは、0.01のU/V割合での、q=0.84における1msに対する6mtorr Nにおいて、m/z609の1000イオンを冷却することによって、取得された。冷却期間において、+390Vが、127mmの長さのロッドセットのレンズに印加された。各レンズは、ロッドの端から3mmの距離に位置した。
【0036】
図6のグラフは、Y振幅よりもより大きなX振幅を有するイオンの軌跡の軸方向の成分を示し、ここでは、衝突の無い環境において、軸方向の成分が、出口レンズと派生軸力とによって交互に反射されている。
【0037】
本発明の他の変化および修正が、可能である。例えば、イオンガイドのロッドに沿った、可変四重極分解DCを提供する他の手段が、提供され得る。そのような全ての修正または変化は、本明細書に添付の特許請求の範囲によって定義されるように、本発明の領域および範囲内であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、概略図において四重極ロッドセットを例示し、二極性補助信号がロッドの組のうちの一つに提供される。
【図2】図2は、概略図において、本発明の第1の局面に従ったイオンガイドを例示する。
【図3】図3は、概略図において、本発明の第2の局面に従ったイオンガイドを例示する。
【図4】図4は、安定度の図表であり、どのようにして図2または図3のイオンガイドの派生軸方向電界が、質量選択的な軸方向射出の効率を向上させ得るかを例示する。
【図5】図5は、本発明の局面に従って、分解DC四重極電圧がロッドセットに印加されるときの、熱運動化されたイオンの軸方向の位置のシミュレーションを例示するグラフである。
【図6】図6は、本発明の局面に従って、分解DC四重極電圧がロッドセットに印加されるときの、イオンの軌線の軸方向の成分を例示するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長いロッドセットを有する質量分光計を動作する方法であって、該ロッドセットは入口端と出口端と複数のロッドと中央の長手軸とを有し、該方法は、
a)該ロッドセットの該入口端にイオンを入れることと、
b)複数のロッドの間にRF電界を生成することによって、ロッドセットにおけるイオンを半径方向に制限することであって、該RF電界は、分解DC成分電界を有する、制限することと、
c)該ロッドセットの長さの少なくとも一部分に沿って分解DC成分電界を変化させることによって、該イオンに作用するDC軸力を提供することと
を包含する、方法。
【請求項2】
RF電界のRF振幅は、前記ロッドセットの前記長さに沿って実質的に一定である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
d)前記イオンに対する第1の質量範囲を選択することと、
e)前記中央の長手軸から第1の群のイオンを第1の選択された半径方向に変位させることによって、該第1の群のイオンに作用するDC軸力を増加させることによって、該第1の質量範囲内の第1の群のイオンを、前記ロッドセットの前記出口端に向かって、移動させることと、
f)前記ロッドセット内にあり、前記出口端から間隔をあけられた第2の群のイオンを制限することであって、該第2の群のイオンは、第2の質量の範囲内であり、該第1の質量の範囲と共通の要素を有さない、ことと
を更に包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップe)は、二極性の補助信号を前記ロッドセット内のロッドの組に適用することを包含し、該ロッドセットは、前記イオンと同一の極性を有し、RF電界のRF振幅を選択することによって前記第1の群のイオンを、該二極性の補助信号と共振させ、該ロッドの組に向かう前記第1の選択された半径方向に該第1の群のイオンを移動させる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
g)前記第1の群のイオンを補助的に射出することと、
h)前記RF電界の前記RF振幅を変更することによって、前記第2の群のイオンを二極性の補助信号と共振させ、前記中央の長手軸から前記第2の群のイオンを前記第1の選択された半径方向に変位させ、前記第2の群のイオンに作用するDC軸力を増加することによって該第2の群のイオンを前記ロッドセットの前記出口端の方向に移動させることと
をさらに包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップc)は、最大のDC電位から最小のDC電位への単調減少であるように分解DC成分電界の大きさを変化させることを包含する、請求項1に記載の質量分光計の操作の方法。
【請求項7】
前記ステップc)は、最大のDC電位から最小のDC電位に線形に分解DC成分極性の大きさを変化させ、その結果として前記DC軸力は、分解DC成分電界内において、長手軸からのあらゆる固定の半径方向の位置において一定であることを包含する、請求項1に記載の質量分光計の操作の方法。
【請求項8】
d)二極性の補助信号を前記イオンと同一の極性を有する前記ロッドセットにおけるロッドの組に適用することと、
e)前記RF電界の前記RF振幅を一連に変化させることによって、異なる質量のイオンを該二極性の補助信号と共振させることと
をさらに包含する、請求項1に記載の質量分光計の操作の方法。
【請求項9】
前記ステップ(b)は、前記複数のロッド内の一組のロッドの間に、不均等に分解DC成分電界を配分することを包含する、請求項1に記載の質量分光計の操作の方法。
【請求項10】
質量分光計システムであって、
a)イオン源と、
b)ロッドセットであって、該ロッドセットは、長手軸に沿って延びる複数のロッドと、該イオン源からイオンを入れる入口端と、該ロッドセットの長手軸を横断する、イオンを射出する出口端とを有する、ロッドセットと、
c)該ロッドセットの該複数のロッドの間にRF電界を生成する電圧供給モジュールであって、該RF電界は分解DC成分電界を有する、電圧供給モジュールと
を備えており、
該電圧供給モジュールは、該ロッドセットと結合することによって、該ロッドセットの長さの少なくとも一部に沿って分解DC成分電界を変化させ、前記イオンに作用する前記DC軸力を提供する、質量分光システム。
【請求項11】
前記ロッドセットは、第1の極性を有する第1のロッドの組と該第1の極性とは反対の第2の極性を有する第2のロッドの組とを備えており、該第1のロッドの組は、第1の軸に沿って前記中央の長手軸から間隔をあけられ、該第2のロッドの組は、該第1の軸と直交する第2の軸に沿って該長手軸から間隔をおかれ、
前記DC軸力の大きさは、該第1の軸および該第2の軸のうちのいずれかに沿って該中央の長手軸からの前記イオンの変位に伴って増加し、
該イオンが、該第1の極性を有し、該第1の軸に沿って該中央の長手軸から変位させられる場合には、該DC軸力は、該ロッドセットの該出口端の方向に該イオンを押進するように向けられ、
該イオンが、該第1の極性を有し、該第2の軸に沿って該中央の長手軸から変位させられる場合には、該DC軸力は、該ロッドセットの該入口端の方向に該イオンを押進するように向けられ、
該イオンが、該第2の極性を有し、該第1の軸に沿って該中央の長手軸から変位させられる場合には、該DC軸力は、該ロッドセットの該入口端の方向に該イオンを押進するように向けられ、
該イオンが、該第2の極性を有し、該第2の軸に沿って該中央の長手軸から変位させられる場合には、該DC軸力は、該ロッドセットの該出口端の方向に該イオンを押進するように向けられる、請求項10に記載の質量分光計システム。
【請求項12】
前記電圧供給モジュールは、
前記複数のロッドにRF電位を供給するRF電圧源と、
第1のDC電圧の分布型を前記第1のロッドの組に、第2のDC電圧の分布型を前記第2のロッドの組に提供することによって、分解DC成分電界を提供する可変DC電圧源であって、該第1のDC電圧の分布型および該第2のDC電圧の分布型は、極性において反対である、可変DC電圧源と、
該第1のロッドの組および該第2のロッドの組のうちの選択された一組に二極性の補助信号を選択的に提供する、二極性の補助信号源と
を備えている、請求項11に記載の質量分光計システム。
【請求項13】
前記電圧供給モジュールは、
(i)前記複数のロッドへの前記RF電圧源と(ii)前記第1のロッドの組と前記第2のロッドの組とのうちの選択された一組への前記二極性の補助信号源とを接続するRFパスと、
該複数のロッドに前記可変DC電圧源を接続するDCパスと
をさらに備えている、請求項12に記載の質力分光計システム。
【請求項14】
前記複数のロッドの各ロッドは、導電性のコアと該導電性のコアを囲繞する絶縁層と該絶縁層によって該導電性のコアから分離された、露出した抵抗性要素とを備えており、該露出した抵抗性の要素は、該導電性のコアよりも実質的に高い抵抗を有し、
前記RFパスは、該導電性のコアと接続されており、
前記DCパスは、該露出した抵抗性の要素と接続されており、その結果として、分解DC成分電界の大きさは、該露出した抵抗性要素の長さに沿って変化し、前記イオンに作用する前記DC軸力を提供する、請求項13に記載の質量分光計システム。
【請求項15】
前記ロッドセットの前記複数のロッドにおける各ロッドは、複数のセグメントを備えており、
前記RFパスおよび前記DCパスは、該複数のセグメントにおける各セグメントと接続されており、該DCパスは、複数の抵抗器を備えることによって、前記第1のロッドの組に前記第1のDC電圧源の分布型を、前記第2のロッドの組に前記第2のDC電圧源の分布型を提供する、請求項13に記載の質量分光計システム。
【請求項16】
前記複数のロッドにおける各ロッドについて、およびそのロッドに対する前記複数のセグメントにおける各セグメントについて、該セグメントへの前記DCパスの接続は、前記複数の抵抗器における関連した抵抗器によって、隣接したセグメントへの該DCパスの少なくとも一つの接続から分離されている、請求項15に記載の質量分光計。
【請求項17】
前記複数のロッドにおける各ロッドは、前記複数のセグメントに加えて、少なくとも一つの追加のセグメントを備えており、
前記DCパスおよび前記RFパスは、該追加のセグメントと接続されており、
該DCパスは、該追加のセグメントと該複数のセグメントにおける隣接したセグメントとの間に低抵抗の接続部を備えることによって、前記分解DC成分電界は、該追加のセグメントに渡って実質的に一定なままである、請求項16に記載の質量分光計。
【請求項18】
前記少なくとも一つの追加のセグメントは、前記ロッドセットの前記入口端と前記出口端とのうちの一つに位置する、請求項17に記載の質量分光計。
【請求項19】
前記分解DC成分電界は、前記入口端から前記出口端に、ロッドセットの長さに沿って適用される、請求項10に記載の質量分光計。
【請求項20】
前記分解DC成分電界は、前記入口端から間隔をおいた開始地点から、前記出口端から間隔をおいた終了地点に適用され、該開始地点は、該入口端と該終了地点との間に位置する、請求項10に記載の質量分光計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−541387(P2008−541387A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511519(P2008−511519)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【国際出願番号】PCT/CA2006/000802
【国際公開番号】WO2006/122412
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(507306447)エムディーエス インコーポレイテッド, ドゥーイング ビジネス アズ エムディーエス サイエックス (1)
【Fターム(参考)】