説明

回収溶剤の再利用方法

【課題】印刷または塗工により発生する揮発成分を回収した混合溶剤を、全て単一溶剤に分離することなく容易に再利用できる方法の提供。さらに、詳しくは、印刷機に設置した溶剤回収装置によって回収された混合溶剤を、印刷インキ原料および/または希釈溶剤原料として再利用する溶剤回収再利用方法の提供。
【解決手段】特定の3種類以上である溶剤が使用されている印刷インキ組成物群および希釈溶剤群を用いて、印刷または塗工を実施する場合において、印刷機に設置した溶剤回収装置によって回収された混合溶剤が、特定の3種類以上であり、この回収された混合溶剤を、多段蒸留により、単一溶剤および/または2種以上の共沸組成に分離した後、印刷インキ原料および/または希釈溶剤原料として再利用する溶剤回収再利用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷により発生する溶剤を回収し、再利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、成層圏におけるオゾン層の破壊、低層圏における酸性雨による農産物への打撃や森林資源の破壊、光化学オキシダントによる人体への悪影響等の大気汚染に関する問題が深刻になってきている。そのため、PRTR法の施行、悪臭防止法の規制強化、京都議定書の二酸化炭素排出量の削減、大気汚染防止法、埼玉県生活環境保全条例など、大気環境保全に関する法律も年々厳しくなっている。特に、有機溶剤を大量に使用し放出しているグラビア印刷業界では、これらの問題を解決する一つの手段として、溶剤回収−再利用への関心が高まっている(非特許文献1〜3)。
【0003】
実際、酢酸エチルやトルエンが単一溶剤として使用されている、ラミネート接着剤や出版グラビア印刷の分野では溶剤回収−再利用が行われているが、その他の用途のグラビア印刷(ラミネート用、表刷り用、紙用、アルミ用印刷)では、用途に応じて様々なインキが使用され、使用樹脂の溶解性や乾燥速度調整などの点から溶剤種も複数になってしまう(非特許文献1〜3)。
【0004】
特定の分野、例えばラミネート用途で印刷インキの組成を2成分などへ簡素化し、溶剤回収−再利用を行おうとする試みがある。2成分にすれば、回収した溶剤のどちらかの成分を足すことで容易に成分調整が可能となるためだが、フィルムラミネート用、フィルム表刷り用、紙用、アルミ用印刷など全ての用途のインキを2成分に統一することは、それぞれの目的とする物性に応じて選択される樹脂の溶解性の違いから技術的に困難である。
【0005】
例えば、特開平07−247456号公報に示されるように、エステル系溶剤とアルコール系溶剤と少量の水分で溶剤成分を構成した溶剤回収再利用型インキの発明が挙げられるが、この溶剤系ではラミネート用インキに代表されるポリウレタン/ウレア樹脂をメインバインダーとしたインキを設計することは比較的容易であるものの、主にオレフィン系基材との密着性を確保するために使用される塩化ゴム、塩素化ポリプロピレンや石油系樹脂などは、炭化水素系溶剤を使用しないと充分な溶解性を得られず、インキとしての印刷適性を確保できない。また、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂は、ケトン系溶剤を適量使用しないとインキの印刷適性を確保できない。
【0006】
同一印刷機または同一事業所で様々な用途のインキで印刷をする場合、また各所で生じる回収溶剤を収集する場合、従来の印刷インキ群、希釈溶剤群を用いると、回収溶剤は多成分かつ不安定な組成比となってしまう。そのため、単一溶剤に分離するためには大規模な蒸留塔などを設けなければならず、莫大なイニシャルコスト、ランニングコストがかかる上、結局蒸留にかかるエネルギーを多量に必要とするために石油資源を多量に消費し二酸化炭素を多量に排出してしまうことで、むしろ再利用によるコスト削減にも環境対応にもならないことが問題となっていた。また、成分調整をして再利用する場合、多成分だと目的とする混合溶剤を得るために新規溶剤を多量に添加する必要があり、効率的ではない。
【特許文献1】特開平07−247456号公報
【非特許文献1】安田秀樹、日本印刷学会誌Vol.43、No.6、404-410(2006)。
【非特許文献2】千本雅士、日本印刷学会誌Vol.44、No.1、8-14(2007)。
【非特許文献3】社団法人 産業環境管理協会 平成17年度経済産業省委託調査報告 書「環境負荷物質対策調査(揮発性有機化合物(VOC)排出抑制 対策技術調査)報告書」、平成18年3月。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
印刷または塗工により発生する揮発成分を回収した混合溶剤を、全て単一溶剤に分離することなく容易に再利用できる方法を提供することにある。さらに、詳しくは、印刷機に設置した溶剤回収装置によって回収された混合溶剤を、印刷インキ原料および/または希釈溶剤原料として再利用する溶剤回収再利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の実状を鑑み鋭意検討を重ねた結果、印刷インキ組成物群と希釈溶剤群に使用される溶剤成分を限定して設計し、これらを用いた印刷または塗工により発生する揮発成分を回収してなる混合溶剤を、多段蒸留を用いて単一溶剤および/または2種以上の共沸組成を分離してから再利用することで、混合溶剤を全て単一溶剤に分離することなく容易に、印刷インキ原料および/または希釈溶剤原料として再利用できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤から選択される少なくとも3種類以上である溶剤が使用されている印刷インキ組成物群および希釈溶剤群を用いて、印刷または塗工を実施する場合において、印刷機に設置した溶剤回収装置によって回収された混合溶剤が、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤から選択される少なくとも3種類以上であり、この回収された混合溶剤を、多段蒸留により、単一溶剤および/または2種以上の共沸組成に分離した後、印刷インキ原料および/または希釈溶剤原料として再利用する溶剤回収再利用方法に関するものである。
【0010】
さらに、本発明は、請求項1記載の印刷インキ組成物群、希釈溶剤群並びにこれらの印刷インキ組成物群および希釈溶剤群より回収された混合溶剤が、メチルシクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸n−プロピル、酢酸エチル、イソプロパノール、エタノール、n−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルから選択される少なくとも3種類以上であることを特徴とする上記の溶剤回収再利用方法に関するものである。
【0011】
また、本発明は、回収された混合溶剤を、ポリイミド膜などの高分子膜やセラミック膜やゼオライト膜を用いた膜分離、シリカゲルなどを用いた吸着、比重差、蒸留から選択される少なくとも1種類以上の方法を用いて水分を除去した後、多段蒸留を行うことを特徴とする上記の溶剤回収再利用方法に関するものである。
【0012】
さらに、本発明は、上記の方法により単一溶剤および/または2種以上の共沸組成に分離した溶剤を原料とすることを特徴とする印刷インキ組成物に関するものである。
【0013】
また、上記の方法により単一溶剤および/または2種以上の共沸組成に分離した溶剤を原料とすることを特徴とする印刷インキ用希釈溶剤に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明が提供する回収溶剤再利用方法は、印刷により発生した揮発成分からなる回収溶剤から、多段蒸留で単一溶剤および/または2種以上の共沸組成の溶剤を得て、これを印刷インキ組成物の原料として再利用することができる。
【0015】
さらに、様々な樹脂系の印刷インキ組成物を数種類で統一した溶剤種で設計することで、複数の印刷機、事業所、会社から発生するこれらの回収溶剤を一括しても、単一もしくは安定した組成比の混合溶剤を共沸により得ることができるので、再利用が簡便になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の回収溶剤再利用方法は、印刷により発生する揮発成分を回収した混合溶剤を、全て単一溶剤に分離することなく容易に再利用できる方法を提供することにある。
【0017】
本発明における印刷インキに使用される溶剤としては、グラビア印刷およびフレキソ印刷で一般的に使用されている水や有機溶剤を用いることができる。この中で、有機溶剤としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素系有機溶剤、およびシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素系溶剤、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶剤、アセトン,メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、炭酸ジメチルなどのケトン系有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。
【0018】
これらの溶剤は、使用する印刷インキの樹脂系の溶解性や印刷効果に関わる乾燥調整により適宜選択することができるが、回収−再利用の点では少ない溶剤種の方が少ない工程、エネルギーで再利用に向けた分離が可能となるため好ましく、様々な樹脂系の印刷インキを設計するためには多くの溶剤種が使用できることが好ましい。
【0019】
例えば、グラビア印刷では、大別してフィルムラミネート用、フィルム表刷り用、紙用、アルミ用の印刷が行われており、それぞれの皮膜要求物性から、フィルムラミネート用インキはポリウレタン/ウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、フィルム表刷り用インキはポリアミド樹脂、紙用インキはニトロセルロース樹脂、アクリル樹脂、アルミ用インキはニトロセルロース樹脂、塩化ゴム樹脂、ビニル系樹脂がメインバインダーに使用されることが多くなっている。
【0020】
この中で、ポリウレタン樹脂は、エステル系溶剤/アルコール系溶剤で溶解性を確保することが可能である。その他、塩素化ポリプロピレン樹脂は炭化水素系溶剤、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂はケトン系溶剤、ポリアミド樹脂はアルコール系溶剤、ニトロセルロース樹脂はエステル系溶剤、アクリル樹脂は炭化水素系溶剤またはエステル系溶剤、塩化ゴム樹脂は炭化水素系溶剤を適量使用することで溶解性を確保することが可能である。そのため、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤を組み合わせることで、多くの用途のインキにとってのメインバインダーの溶解性を確保することが可能となる。さらに、印刷適性向上を目的に乾燥速度調整のために用いられているグリコールエーテル系を加え、本発明において、5つの溶剤成分系を用いることで、ほとんどの用途のインキを設計することが可能になった。これらの理由により、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤から選択される少なくとも3種類以上であることが好ましい。
【0021】
印刷インキ群と希釈溶剤群の各溶剤の組成比は、
(1)炭化水素系溶剤は、ゴム系樹脂や石油系樹脂などを使用した場合に溶解性を確保 するために0〜90重量%、
(2)ケトン系溶剤は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂などを使用した場合に溶解 性を確保するために0〜90重量%、
(3)エステル系溶剤は、ポリウレタン樹脂などを使用した場合に溶解性を確保するた めに0〜90重量%、
(4)アルコール系溶剤は、50%より多いと印刷時に水分を多く混入してブラッシン グの恐れや基材への濡れ性が低下することから0〜50重量%、
(5)グリコールエーテル系溶剤は、20%より多いと印刷物への残留量が多くなり、 後工程および品質に影響を及ぼすことから0〜20重量%
が好ましい。
【0022】
さらに、溶剤種が限定されることが好ましいことから、溶解性、乾燥性面を考慮して、炭化水素系溶剤からは印刷作業環境の向上から芳香族系ではなく脂肪族系のメチルシクロヘキサンが好ましいが、トルエンを炭化水素系溶剤として単独またはメチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶剤と混合しても使用できる。
【0023】
また、ケトン系溶剤からはグラビア印刷にとって適度な乾燥速度を有し臭気も比較的良好であるメチルエチルケトン、エステル系溶剤からは従来グラビア印刷で主流であったトルエンと比較的近い乾燥速度と溶解度パラメーターを有する酢酸n−プロピルが好ましいが、酢酸エチルをエステル系溶剤として単独または酢酸n−プロピル等のエステル系溶剤と混合しても使用できる。
【0024】
さらに、アルコール系溶剤からはグラビア印刷にとって適度な乾燥速度を有し臭気も比較的良好であるエタノール、イソプロパノールおよびn−プロパノールが挙げられるが、2級アルコールであるためイソシアネート系硬化剤使用の場合の貯蔵安定性が優れるイソプロパノールが好ましい。なお、エタノールまたはn−プロパノールを単独、もしくはイソプロパノールと混合しても使用できる。
【0025】
また、グリコールエーテル系溶剤からは遅口溶剤として適当な乾燥速度を有し臭気も比較的良好であるプロピレングリコールモノメチルエーテルを使用することが好ましい。
以上の溶剤は、少なくとも3種類以上であることが好ましい。本発明によれば、これらの溶剤を組み合わせることで、従来樹脂系のインキはほとんど設計でき、その工業的価値は高いと考える。
【0026】
また、本発明における印刷インキに使用される溶剤を上記に記載したが、添加剤由来、印刷時の周辺雰囲気などで意図しない若干量の溶剤成分が混入する恐れがある。しかし、印刷や回収などの各工程を阻害しない種類および/または量であれば、含有することができる。
【0027】
本発明における印刷インキに用いられる着色剤は、無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、カーボンブラック、アルミニウム、マイカ(雲母)、ベンガラなど、有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリノン系、キナクドリン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、ジクトピロロピロール系、イソインドリン系などの顔料が挙げられる。これらの顔料は、単独で、または色相および濃度の調整を目的として2種以上を混合して用いることができる。また、染料を使用、または併用することもできるが、耐光性の観点から顔料の使用が好ましい。
【0028】
本発明における印刷インキに用いられる樹脂は、用途や基材によって適宜選択することができる。本発明に用いられる樹脂の例としては、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン/ウレア樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ニトロセルロース樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ロジン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、石油樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
本発明における印刷インキには、必要に応じて、体質顔料、顔料分散剤、レベリング剤、消泡剤、架橋剤、硬化剤、ワックス、シランカップリング剤、防錆剤、防腐剤、可塑剤、赤外吸収剤、紫外線吸収剤、耐光性向上剤、芳香剤、難燃剤等の各種添加剤を使用することもできる。
【0030】
本発明における印刷インキは、一般に使用される分散機、例えばディソルバー、ローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用いて製造することができる。印刷インキ中に気泡や予期されない粗大粒子などが含まれる場合は、印刷物品質を低下させるため、ろ過などにより取り除くことが好ましい。ろ過器は従来公知のものを使用することができる。
【0031】
本発明における印刷インキの粘度は、顔料の沈降を防ぐ観点から10mPa・s以上、印刷インキ製造時や印刷時の作業性や版かぶり性、レベリング性などの印刷適性の観点から1000mPa・s以下が好ましい。更に10〜500mPa・sが好ましい。なお、本発明における粘度とは回転粘度計(BM型粘度計、20℃下測定)を用いた方法で得られた値である。
【0032】
本発明の印刷インキを塗布する方法としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷などの印刷方法や、ロールコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティングなどのコーティング方法が挙げられる。例えば、グラビア印刷の場合、印刷に適した粘度及び濃度にまで希釈溶剤で希釈され、単独でまたは混合されて各印刷ユニットに供給される。印刷インキは、これらの印刷方法で基材に塗布された後、オーブンで溶剤分を揮発させて定着される。
【0033】
本発明の溶剤回収方法としては、溶剤蒸気と共存する空気から分離する方法、すなわち凝縮法、圧縮法、吸収法、吸着法を用いることができる。これらの方法は、溶剤蒸気の組成、物理的性質、化学的性質、濃度、発生量(処理量)、含まれる不純物、希望する回収率、回収溶剤の特性などを考慮して選択することができる。この中で、回収率などを含めたコスト面から、吸着剤を用いたガス吸着での方法が好ましく、一般的に用いられている。
【0034】
上記の吸着法に用いられる吸着剤としては、活性炭、シリカゲルなどの多孔質シリカ、ゼオライト、各種粘土、アルミナ、酸化鉄(水酸化鉄ゲル)、過塩素酸マグネシウム、イオン交換樹脂などが挙げられる。この中で、高い比表面積を有する、活性炭、シリカゲルなどの多孔質シリカ、ゼオライトを選択することが好ましい。吸着質の形状としては、粒子状、繊維状などが挙げられ、粒子状の場合は流動床、固定床、繊維状の場合は固定床と、回収システムに応じた形状を選択することができる。
【0035】
吸着剤に吸着質として捕集された溶剤は、空気、窒素をはじめとした不活性ガス、水蒸気などの加熱ガスの導入および/または減圧により脱着され、液化して溶剤に戻される。この溶剤は、一般的に吸脱着の過程で水分量が増大しているため、そのまま蒸留すると溶剤成分が水と共沸して、水を含んだ意図しない成分比の混合溶剤が得られてしまう可能性がある。そのため、ポリイミド膜などの高分子膜やセラミック膜やゼオライト膜を用いた膜分離や、シリカゲルなどを用いた吸着や、比重差や、蒸留によって、除去することが好ましい。また、吸脱着時の湿度など運転条件の制御により、水分の混入を抑制できる場合は、水分除去の操作は不要である。
【0036】
本発明の回収溶剤中の成分は、上記の印刷時の使用溶剤により限定されるが、成分比については回収装置の特性により異なることになる。例えば、活性炭を吸着剤として用いる回収装置では、極性の高いアルコール類などは吸着能力が低いため回収しにくく、さらに脱着時の温度設定によっては、高沸点物質が脱着しにくく回収されにくくなる。
【0037】
本発明における多段蒸留は、一般的な蒸留操作で行うことができる。すなわち、回分式蒸留と連続式蒸留のいずれの方式も選択することができる。回分式蒸留は、塔内の状況が刻々と変化するため、理論的にも難解で操作も難しく、安定した留出物を得ることが難しいため、工業的に実施する場合には連続式蒸留を行うことが好ましい。
【0038】
蒸留塔は、大別して棚段塔、充填塔に分けられ、前者には多孔板塔や泡鐘塔(バッフルキャップ塔)やバルブ塔、後者には様々な充填物を用いたものが挙げられる。多孔板塔は構造が簡単で制作費が安く圧損失も小さいが、蒸気の流量が少ないと液が穴から流れ落ち運転が不安定になる欠点がある。泡鐘塔は古くから用いられる形式で、制作費が高く、蒸気の圧力損失が高く、蒸気の圧損失が大きい欠点があるが、気液の流量が変動しても運転できる長所がある。バルブ塔は多孔板塔と比較すると構造は複雑であるが、蒸気の流量に応じてバルブの隙間が開閉するようになっているので、多孔板塔のような欠点が無い。充填塔はラシヒリングなどの充填物を塔内に詰め、充填物の表面に広がって流下する液と、その隙間を上昇する蒸気を接触させて、成分の交換を行わせるものである。これらは、求められる処理能力やコストに応じて選択、さらには組み合わせて使用することができる。
【0039】
蒸留塔の性能は一般に理論段数で示されるが、段数が高い方が、高い分離能力を有し好ましい。理論段数を高めるには、蒸留塔の形状、リボイラや凝縮器の能力、運転条件(加熱条件、還流比、留出量)により制御できるが、こちらも求められる処理能力やコストや再利用溶剤に求められる純度などの性状に応じて選択することができる。
【0040】
また、必要に応じて、回収溶剤に他の溶剤や別の溶剤を余分に追加して、抽出蒸留や共沸蒸留を形成して分離することも可能である。抽出蒸留は、不揮発性(高沸点)の液体を添加することによって平衡状態を変化させ分離を可能にする方法であり、例えば、硝酸−水系の共沸混合物に濃硝酸を加えて精留すると、頭頂から濃硝酸が得られる。共沸蒸留は、揮発性の液を添加して共沸混合物の分離を可能にする方法であり、例えば、エタノール−水系の共沸混合物にベンゼンを加え精留すると、エタノール−水−ベンゼン3成分の共沸混合物が得られる。上記の方法を用いることで、目的とする単一溶剤および/または混合溶剤を分離して再利用することも可能になる。
【0041】
本発明における回収溶剤を蒸留によって分離した溶剤は、安定した組成比で得られるため、印刷インキ製造時の原料として再利用することができ、希釈溶剤の原料としても再利用することができる。
本発明における印刷インキは、着色剤、樹脂、溶剤から構成され、更に必要に応じて各種添加剤が使用される。この印刷インキはグラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷法により基材に塗布された後、オーブンなどの乾燥装置で印刷インキ中に含まれる溶剤が、揮発させられ、活性炭などの吸着剤を備えた回収装置で回収される。回収された溶剤は、成分によって吸着能などに差があるため、インキ中成分とは異なった比率となっているが、本発明の回収溶剤再利用方法では、回収溶剤を蒸留し、多段蒸留を用いて単一溶剤および/または2種以上の共沸組成に分離した後、再利用することができる。
【0042】
多段蒸留による共沸溶剤組成の一例としては、以下の(i)〜(vi)が、挙げられる。
(i)メチルシクロヘキサン、メチルエチルケトン、酢酸n−プロピル、イソプロパ ノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルの系の場合、頭頂部温度 74℃付近で、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン:メチルシクロヘ キサン=25〜40重量%:25〜40重量%:25〜40重量%の組成比の混 合溶剤が留出、
(ii)メチルエチルケトン、酢酸n−プロピル、イソプロパノール、プロピレングリ コールモノメチルエーテルの系の場合、頭頂部温度75.5℃付近で、イソプロ ピルアルコール:メチルエチルケトン=25〜45重量%:55〜75重量%の 組成比の混合溶剤が留出、
(iii)酢酸n−プロピル、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチル エーテルの系の場合、頭頂部温度76℃付近で、イソプロピルアルコール:酢酸 n−プロピル=80〜95重量%:5〜20重量%の組成比の混合溶剤が留出、
(iv)メチルエチルケトン、酢酸n−プロピル、プロピレングリコールモノメチル エーテルの系の場合、頭頂部温度80℃付近で、メチルエチルケトン単独溶剤が 留出、
(v)酢酸n−プロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテルの系の場合、頭頂 部温度102℃付近で、酢酸n−プロピル単独溶剤が留出し回収できる。
また、
(vi)釜にはプロピレングリコールモノメチルエーテルが残存し回収できる。
【0043】
上記の多段蒸留の条件によって共沸組成比がシフトするが、組成分析して組成比を明らかにし、安定した組成比で分離が可能であれば、次回からは逐次大掛かりな組成分析を実施することなく、同組成比の混合溶剤を原料として使用可能な印刷インキ組成物や希釈溶剤への再利用が可能となる。
【0044】
例えば、任意の比率で、メチルエチルケトン、酢酸n−プロピル、イソプロパノールの混合溶剤を得たい場合、(ii)で得られる混合溶剤に、(iv)、(v)で得られるメチルエチルケトン、酢酸n−プロピルを配合すれば良い。
【実施例】
【0045】
次に具体例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら記載実施例に限定されるものではない。なお、以下の記述の部は重量部、%は重量%を表し、各溶剤の成分比は、予め作成した検量線を基にガスクロマトグラフィーの面積から計算した。
【0046】
[実施例1]
不揮発分の溶剤組成が、イソプロピルアルコール/メチルエチルケトン/メチルシクロヘキサン/酢酸n−プロピル/プロピレングリコールモノメチルエーテルである複数種の異なる樹脂系の印刷インキを用いて、複数種の印刷機でグラビア印刷を実施し、活性炭粒子を流動床とする回収装置で一括回収後、ゼオライト分離膜で水分を除去したところ、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン:メチルシクロヘキサン:酢酸n−プロピル:プロピレングリコールモノメチルエーテル=25.0:15.0:5.0:50.0:5.0の回収溶剤(A)を得た。
【0047】
この回収溶剤(A)100gを三角フラスコに仕込み、ラシヒリングを充填した蒸留塔を備えた蒸留装置をセットして、ホットスターラーで攪拌して昇温を行った。
【0048】
還流比を、還流(三角フラスコ):抜取(回収溶剤)=3:1になるよう蒸留を行った結果、頭頂部温度74℃で、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン:メチルシクロヘキサン=31.3:37.0:31.7(重量比)の混合溶剤(a)16.0gを、続いて、頭頂部温度75.5℃で、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン=34.3:65.7(重量比)の混合溶剤(b)13.9gを、さらに、頭頂部温度80.5℃でイソプロピルアルコール:酢酸n−プロピル=89.2:10.8(重量比)の混合溶剤(c)16.9gを、さらに頭頂部温度101℃で酢酸n−プロピル単独溶剤(d)48.2gを蒸留により得た。
【0049】
上記により得られた、組成比が共沸組成のためあらかじめ把握できている混合溶剤(a)から(c)、単一溶剤である(d)、三角フラスコに残ったプロピレングリコールモノメチルエーテル単独溶剤(e)を、印刷インキ組成物、および希釈溶剤の原料として、再利用した。
【0050】
[実施例2]
実施例1の回収溶剤(A)100に対し、メチルエチルケトン(X)重量比40を添加して混合溶剤(B)を作製した。
【0051】
この混合溶剤(B)100gを三角フラスコに仕込み、ラシヒリングを充填した蒸留塔を備えた蒸留装置をセットして、ホットスターラーで攪拌して昇温を行った。
【0052】
還流比を、還流(三角フラスコ):抜取(回収溶剤)=3:1になるよう蒸留を行った結果、頭頂部温度74℃で、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン:メチルシクロヘキサン=31.3:37.0:31.7(重量比)の混合溶剤(a)16.0gを、続いて、頭頂部温度75.5℃で、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン=34.3:65.7(重量比)の混合溶剤(b)58.0gを、さらに、頭頂部温度78℃でメチルエチルケトン単独溶剤(f)を、さらに頭頂部温度101℃で酢酸n−プロピル単独溶剤(d)48.2gを蒸留により得た。蒸留により得た。
【0053】
上記により得られた、組成比が共沸組成のためあらかじめ把握できている混合溶剤(a),(b)、単独溶剤(d)、(f)、三角フラスコに残ったプロピレングリコールモノメチルエーテルの混合溶剤(e)を、印刷インキ組成物、および希釈溶剤の原料として、再利用した。さらに、メチルエチルケトン単独溶剤(f)は次回の蒸留の際、(X)としても再利用した。
【0054】
[実施例3]
溶剤組成が、イソプロピルアルコール/メチルエチルケトン/メチルシクロヘキサン/酢酸n−プロピル/プロピレングリコールモノメチルエーテルである複数種の異なる樹脂系の印刷インキを用いて、複数種の印刷機でグラビア印刷を実施し、活性炭粒子を流動床とする回収装置で一括回収後、ゼオライト分離膜で水分を除去したところ、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン:メチルシクロヘキサン:酢酸n−プロピル:プロピレングリコールモノメチルエーテル=25.0:15.0:5.0:50.0:5.0(重量比)の回収溶剤(A)を得た。
【0055】
この回収溶剤(A)100gを三角フラスコに仕込み、ラシヒリングを充填した蒸留塔を備えた蒸留装置をセットして、ホットスターラーで攪拌しながら昇温を行った。
【0056】
還流比を、還流(三角フラスコ):抜取(回収溶剤)=3:1になるよう蒸留を行った結果、頭頂部温度74℃で、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン:メチルシクロヘキサン=37.5:34.2:28.3(重量比)の混合溶剤(a)15.0gを、続いて、頭頂部温度75.5℃で、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン=31.8:68.2(重量比)の混合溶剤(b)13.9gを、さらに、頭頂部温度80.5℃でイソプロピルアルコール:酢酸n−プロピル=87.2:12.8(重量比)の混合溶剤(c)16.4gを、さらに頭頂部温度101℃で酢酸n−プロピル単独溶剤(d)47.2gを蒸留により得た。
【0057】
上記により得られた、組成比が共沸組成のためあらかじめ把握できている混合溶剤(a)から(c)、単一溶剤である(d)、三角フラスコに残ったプロピレングリコールモノメチルエーテル単独溶剤(e)4.2gを、印刷インキ組成物、および希釈溶剤の原料として、再利用した。
【0058】
[実施例4]
実施例1の回収溶剤(A)100に対し、メチルエチルケトン(X)重量比40を添加して混合溶剤(B)を作製した。この混合溶剤(B)140gを三角フラスコに仕込み、ラシヒリングを充填した蒸留塔を備えた蒸留装置をセットして、ホットスターラーで攪拌しながら昇温を行った。
【0059】
還流比を、還流(三角フラスコ):抜取(回収溶剤)=3:1になるよう蒸留を行った結果、頭頂部温度74℃で、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン:メチルシクロヘキサン=37.5:34.2:28.3(重量比)の混合溶剤(a)17.4gを、続いて、頭頂部温度75.5℃で、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン=31.8:68.2(重量比)の混合溶剤(b)57.1gを、さらに、頭頂部温度78℃でメチルエチルケトン単独溶剤(f)10gを、さらに頭頂部温度101℃で酢酸n−プロピル単独溶剤(d)49.1gを蒸留により得た。上記により得られた、組成比が共沸組成のためあらかじめ把握できている混合溶剤(a)、(b)、単独溶剤(d)、(f)、三角フラスコに残ったプロピレングリコールモノメチルエーテルの混合溶剤(e)4gを、印刷インキ組成物、および希釈溶剤の原料として、再利用した。
【0060】
さらに、メチルエチルケトン単独溶剤(f)は次回の蒸留の際、(X)としても再利用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤から選択される少なくとも3種類以上である溶剤が使用されている印刷インキ組成物群および希釈溶剤群を用いて、印刷または塗工を実施する場合において、印刷機に設置した溶剤回収装置によって回収された混合溶剤が、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤から選択される少なくとも3種類以上であり、この回収された混合溶剤を、多段蒸留により、単一溶剤および/または2種以上の共沸組成に分離した後、印刷インキ原料および/または希釈溶剤原料として再利用する溶剤回収再利用方法。
【請求項2】
請求項1記載の印刷インキ組成物群、希釈溶剤群並びにこれらの印刷インキ組成物群および希釈溶剤群より回収された混合溶剤が、メチルシクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸n−プロピル、酢酸エチル、イソプロパノール、エタノール、n−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルから選択される少なくとも3種類以上であることを特徴とする請求項1の溶剤回収再利用方法。
【請求項3】
回収された混合溶剤を、ポリイミド膜などの高分子膜やセラミック膜やゼオライト膜を用いた膜分離、シリカゲルなどを用いた吸着、比重差、蒸留から選択される少なくとも1種類以上の方法を用いて水分を除去した後、多段蒸留を行うことを特徴とする請求項1または2記載の溶剤回収再利用方法。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載の方法により単一溶剤および/または2種以上の共沸組成に分離した溶剤を原料とすることを特徴とする印刷インキ組成物。
【請求項5】
請求項1ないし3いずれか記載の方法により単一溶剤および/または2種以上の共沸組成に分離した溶剤を原料とすることを特徴とする印刷インキ用希釈溶剤。



【公開番号】特開2008−45106(P2008−45106A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110867(P2007−110867)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】