説明

回転切削工具

【課題】耐折損性に優れた回転切削工具を提供することを目的とする。特に、小径ロングネック用であっても優れた性能を発揮する回転切削工具を提供することを目的とする。
【解決手段】
工具先端の刃部とこれに連なる軸部の後端が後軸部と同一軸線上に拡散接合された接合層を有する回転切削工具において、該後軸部は首部、テーパー部、シャンク部を有し、該刃部は高硬度焼結体部材であり、該軸部の超硬合金材と該後軸部の超硬合金材を有し、該接合層は、Coを主体とし、W、C、Cuを含むA領域と、Cuを主体とし、Co、Cを含むB領域から成り、該接合層の軸方向断面の断面積をST(μm)とし、該軸方向断面における該A領域の総面積をSA(μm)としたとき、0.60≦SA/ST≦0.90であることを特徴とする回転切削工具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃部を有する超硬合金と、軸部の超硬合金とが接合層を介して拡散接合されてなる回転切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金同士を高強度に接合する技術が特許文献1、非特許文献1に開示されている。特許文献1には、1273K未満では液相を生成しない接合層を用いた技術が開示されている。特許文献1は、加圧しながら接合金属材近傍のみを加熱する通電接合を採用している。非特許文献1には、接合金属にCuを用いた超硬合金同士の接合技術が開示されている。非特許文献2には、接合金属にCuを用いた超硬合金と炭素鋼の接合技術が開示されている。
特許文献1には、1273K未満では液相を生成しない接合層を有する接合体が開示されている。そして、加熱炉に入れて接合材に液相が生成される温度で加熱して接合するのではなく、積極的に加圧しながらインサート金属材近傍のみを効果的に加熱する通電接合を行なっている。この場合、通電方法によっては、cBN素材が加熱されその性能が低下することや、部材の温度差により熱歪が生じる場合があった。
非特許文献1には、Cuを用いた超硬合金同士の接合が開示されているが、固相拡散接合であり、その接合強度は十分とはいえない。
非特許文献2はCuを液相とした接合であるが、超硬合金同士の接合ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−290130号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A.M.Cottenden,E.A.Almond,Metal Technology June 1981 221−233
【非特許文献2】大村博彦、川尻鉱二、吉田亨、溶接学会論文集、第6巻、第4号(1988)、499−504頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近の超硬ドリルや超硬エンドミルなどの回転切削工具は、高速化と高寿命を達成するために刃部を例えばcBNで製造し、超硬合金と接続した工具が増えてきた。さらに小径の回転切削工具を使用した微細加工が要求され、加工物と切削工具との干渉をなくすために首下を長くした、いわゆるロングネックの回転切削工具が要望されている。この場合には必要に応じて、超硬合金と超硬合金を接続する必要がある。いずれの場合にも接合部の強度を、できるだけ、高める必要があるが、特に小径でロングネックとなると依然として折損しやすいという課題が残されている。
【0006】
前述の公知例は超硬合金同士の接合技術をいくつか開示しているものの、特に1mm径程度以下の小径で、ロングネックの回転工具の場合においては、耐折損性が十分ではない。
従って、本発明の目的は、耐折損性に優れた回転切削工具を提供することにあり、特に、小径ロングネック用であって耐折損性に優れた回転切削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の回転切削工具は、工具先端の刃部1とこれに連なる軸部2の後端が後軸部3と同一軸線上に拡散接合された接合層4を有し、該後軸部3は首部5、テーパー部7、シャンク部6を有し、該刃部1は高硬度焼結体部材であり、該軸部2の超硬合金材と該後軸部3の超硬合金材を有し、該接合層4は、Coを主体とし、W、C、Cuを含むA領域と、Cuを主体とし、Co、Cを含むB領域から成り、該接合層の軸方向断面の断面積をST(μm)とし、該軸方向断面における該A領域の総面積をSA(μm)としたとき、0.60≦SA/ST≦0.90であることを特徴とする。
【0008】
特に、本発明の工具先端の刃部1はcBNとすることが望ましい。上記の構成を採用することによって、従来の超硬合金の接合方法と比較して、安定して高い耐折損性を確保できる。また、本発明によれば、任意の長さの後端部3を選択しても安定して強度の高い接合層にすることができるので、小径ロングネック用で優れた性能を発揮できる回転切削工具を提供できる。
【0009】
本発明の回転切削工具は、前記接合層の平均厚さをt(μm)としたとき、0.5≦t≦2.0であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、耐折損性の優れた超硬合金同士の接合が達成された回転切削工具を提供することができるので、刃部をcBNなど超硬合金以上の性能を有する材質とすることも容易となる。
また、首下長さを任意に選択して超硬合金同士を接合すればよいので、本発明によれば小径ロングネック用であっても、接合層の強度が高くて折損の心配がない回転切削工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のcBN小径ボールエンドミルの模式図を示す図である。
【図2】本発明例9の接合層の断面組織を示す図である。
【図3】本発明例9の接合層の断面の観察結果を示す図である。
【図4】比較例13の接合層の断面の観察結果を示す図である。
【図5】保持時間とSA/ST値との関係を示すグラフである。
【図6】接合圧力値とt値との関係を示すグラフである。
【図7】SA/ST値と抗折力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の回転切削工具の模式図に係り、高硬度焼結体部材(例えば、cBNなど)の先端に刃部1が形成された回転切削工具を示したものである。軸部2の超硬合金材と後軸部3の超硬合金材とが接合層4によって接合されている。本発明の回転切削工具は、小径ロングネック用途で優れた性能を発揮する。本発明において小径のロングネックとは、刃径Dが1mm以下の小径であり、首下長のln値との比をln/Dとした場合、ln/D≧5のものをいう。
【0013】
本発明の回転切削工具は耐折損性に優れており、接合層にその優れた特性を有する。接合層は、Coを主体とし、W、C、Cuを含むA領域と、Cuを主体とし、Co、Cを含むB領域から成っている。接合層は銅(Cu)を接合材料として使用し、拡散接合により形成するが、A領域は、軸部2の超硬合金材と後軸部3の超硬合金材からのCoを主体とした拡散とCuとの反応により形成され強固な接合となる。A領域とB領域は超硬合金中の金属成分が成長するため、例えば、超硬合金に添加されているCr、Ta、Ti、V、Zr、Nbなどを含有する場合があるが、これらの元素はもともと少量であり、A領域やB領域に拡散しても強度低下に至らない。またA領域は、高強度を有する。この接合層を形成するには、接合材料として、例えば、Cu箔やCu膜等を使用することができる。
【0014】
本発明における特徴のある接合層の形成方法について述べる。まず、Cu箔やCu膜等の接合材料を、軸部2の超硬合金材と後軸部3の超硬合金材との接合面に設け、加圧しながらCuの融点である1356K以上の温度で加熱処理する。A領域とB領域での固溶体には超硬合金から拡散で供給されるCoが主体として固溶しつづけ、接合処理の終了により、固溶体が凝固して固相となる。そしてCoを主体とし、副体として1種以上の元素を含むA領域が形成される。このA領域は液相となったCuの中を成長する。このときの成長方向は、夫々接合層方向に反対向きとなり、お互いが接近するように成長する。即ち、軸部2の超硬合金材のCoが主体として固溶して形成されたA領域と、後軸部3の超硬合金材のCoが主体として固溶して形成されたA領域とは、お互いが接近するように成長する。このとき、加熱処理における昇温速度、保持時間、冷却速度、接合圧力を調整することによって、両方のA領域同士が互いに接近して成長により結合される。この結合されたA領域を形成するため強固な接合強度を得ることができる。一方、加熱処理における昇温速度、保持時間、冷却速度を調整することにより、B領域がなくなるまでA領域の成長を進めると、A領域間に空隙が生じてしまう等の不都合が生じる。
【0015】
本発明者は、A領域は接合強度向上に有効であること、しかしA領域が多くても少なくても弊害があることを折損強度の評価から確認した。その結果、本発明においては、接合層の軸方向断面の断面積をST(μm)とし、該軸方向断面における該A領域の総面積をSA(μm)としたとき、適正なSA/ST値によって、高強度で優れた折損強度を有する接合層を得ることができることが分かった。即ち、SA/ST値がSA/ST≧0.60のとき、高強度の接合を得ることができる。回転切削工具では高い折損強度を得ることができる。しかし、SA/ST<0.60のときは、十分な高強度の接合を得ることができない。また、SA/ST>0.90のときは、接合層に空隙が生じ強度が低下する不都合が生じる。そこで、本発明は、0.60≦SA/ST≦0.90に規定する。
【0016】
接合層の平均厚さをt(μm)としたとき、本発明におけるt値は、0.5≦t≦2.0であることが好ましい。t値がt<2.0のとき、軸部2と後軸部3の境目が近接し軸部2の超硬合金から成長するA領域と後軸部3の超硬合金から成長するA領域が接触し、より接合強度が向上する。一方、t<0.5のときは、超硬合金からのCoの拡散が多くてA領域のみとなる部分が生じ接合層に空隙が生じ強度が低下する傾向となりやすい。本発明の範囲内では、SA/ST値が高い程、t値が薄い程、高い抗折力を得ることができる。
【0017】
ここで接合層の厚さtは、軸部2の超硬合金材のWC粒子と、後軸部3の超硬合金材のWC粒子について、工具長手方向における距離とする。t値は接合層断面の略両端部2箇所と略中央部1箇所の計3箇所の各々の任意の10μm間隔3箇所、計9箇所の平均値とした。ここでST値とは、接合層断面の略両端部2箇所と略中央部1箇所の計3箇所の接合面積の平均値を表し、SA値とは該3箇所の接合面積内のA領域の平均値を表す。接合面積とは接合層厚みのt値と接合層断面の50μm長さの積とした。
【0018】
また、SA/ST値やt値はCuの厚さや、接合圧力、昇温速度、処理温度での保持時間及び冷却速度を調整することにより制御することが可能である。例えば、処理温度での保持時間とSA/ST値を示す図5と、接合圧力値とt値との関係を示す図6から次の制御条件が適しているといえる。接合圧力は昇温開始から冷却時まで0.1MPaから1MPaの範囲とした。昇温は常温から1356Kまでを0.1K/secから0.5K/secの範囲で昇温させた。1356Kに達した後に、1356Kから1423Kまでを0.1K/secから0.01K/secの範囲で昇温した。処理温度での保持時間は1800sec乃至5400secの範囲とした。冷却速度は0.1K/secから0.5K/secの範囲で常温まで冷却した。SA/ST値を0.60≦SA/ST≦0.90の範囲にすることができる。より安定的に条件を満足させるためには、前記保持時間は2400sec乃至4200secが推奨される。いずれの場合にも処理温度での保持時間が長くなるとA領域が広くなり、SA/ST値は大きくなる傾向となる。
【0019】
t値の条件は本発明では必ずしも必須ではないが、t値が0.5≦t≦2.0となるように制御するのが望ましい。図6に示すように、接合時の圧力値を上げていくとt値は次第に小さくなるが、保持時間を1800sec乃至2400sec範囲として接合圧力を0.1MPaから1MPaの範囲とすることにより、上記の0.60≦SA/ST≦0.90の条件とt値が0.5≦t≦2.0の条件を同時に満足できる。
【0020】
以下に、本発明に規定される構成要件の各種の測定方法について、実施した例に基づいて解説する。
本発明の接合層は、工具長手方向の接合層断面を鏡面研磨した後、走査電子顕微鏡を用いて接合層断面を倍率1万倍で観察した。接合層厚みの測定は、軸部2の超硬合金材のWC粒子と、後軸部3の超硬合金材のWC粒子について、工具長手方向における距離の平均値を求めた。測定箇所は、接合層断面の略両端部2箇所と略中央部1箇所の計3箇所について実施した。各測定箇所においては、接合層断面の50μm長さの範囲内について、10μm間隔で行った。得られた測定値を平均することでt値を求めた。
【0021】
次に、t値を測定した3箇所について日本電子社製、JXA−8500F型のFE−EPMA装置を用いて主体とするCo及びCuの面分析を行なった。Co、Cuの面分析の条件は、加速電圧15kV、照射電流0.05μAとした。この面分析の結果より、A領域とB領域を特定した。SA値は、面分析した結果より求めた画像について白黒2階色化処理を施し、Media Cybernetics社製の画像解析ソフト、Image Pro Plusを用いて解析し、この画像解析によって求めた。ST値は、各箇所におけるt値と、接合層の厚さ方向と垂直な方向における50μm長さとの積によって算出した。SA/ST値は、SA値をST値で除することによって算出した。そして、得られた3箇所のSA/ST値より、平均値を求めた。
【0022】
本発明における上記の画像を白黒2階色化処理する条件は、得られた面分析結果から、A領域で得られたCoのカウント数の1/2の値を閾値とし、閾値以上のCoカウント数が得られた領域を白色、閾値未満のCoカウント数が得られた領域を黒色として2階色化した。言い換えれば、A領域で得られたCoのカウント数の1/2の値を閾値とすることが、A領域とB領域の区別の境界である。そして、上記白色がA領域、黒色がB領域に相当する。
以下に、本発明の回転切削工具を実施例により具体的に説明するが、それらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
本発明例1として本発明の回転切削工具の製造方法について述べる。第1に、軸部2の超硬合金材を作製した。軸部2の超硬合金材は、配合時のWC平均粒径を3.8μm、Co量を8.0質量%とした。1673K、3600secの条件で真空中で焼結し、その後、1623K、50MPa、1800secの条件でHIP処理を行うことにより作製した。その後、研削加工により軸部2の超硬合金材を、厚み9mm、直径30mmの円板形状に仕上げた。以下、時間を表すsecをsと記す場合がある。
【0024】
第2に、cBN焼結部材を作製した。厚さ9mmの軸部2の超硬合金材における円板上に65容量%のcBN粉末と、残部がTiNとAlからなる粉末を混合した粉体からなるcBN成形体を配置し、5.6GPa、1723Kの超高圧高温条件で一体焼結後に研削加工を施し、cBN焼結体の厚さが1mm、軸部2の超硬合金材の厚さが9mmの総厚10mmのcBN焼結部材を作製した。このとき、cBN焼結体と軸部2の超硬合金材との間には、接合部が形成されていた。
【0025】
第3に、後軸部3の超硬合金材を作製した。後軸部3の超硬合金材は、配合時のWC平均粒径を1.2μm、Co量を8質量%とした。1673K、1800secの条件で真空中で焼結し、その後、1623K、50MPa、1800secの条件でHIP処理を行うことにより作製した。その後、後軸部3の超硬合金材を厚み40mm、直径30mmの円柱形状に仕上げた。
【0026】
第4に、第2の工程で作製したcBN焼結部材における軸部2の超硬合金材と、第3の工程で作製した後軸部3の超硬合金材の間に10μmの厚さのCu箔を挟み、1MPaの接合圧力を印加した。真空度を10Pa以下として、昇温は常温から1356Kまでを0.33K/secで昇温させた。1356Kに達した後に、1356Kから1423Kまでを0.017K/secで昇温した。1423Kで1800sec保持して、Cu融点以上での累積保持時間は5820secとした。その後、冷却過程は0.33K/secで常温まで冷却した。cBN焼結体、軸部2の超硬合金材、後軸部3の超硬合金材で構成した厚さ50mm、直径30mmの形状に仕上げた。このとき、軸部2の超硬合金材、後軸部3の超硬合金材との間には、接合層が形成されていた。接合温度はCuの融点以上において加圧しながら行った。Cuは液相となり、過剰なCuは加圧により外周部に押し出されるため、接合層DはCu箔の厚みより薄くなった。また、SA/ST値は1356K以上での保持時間により決定された。
【0027】
第5に、ワイヤー放電加工により直径4.01mmの円柱部材を切り出した後、センタレス加工によって直径4mm、全長50mmの丸棒材に仕上げた。円筒研削加工で首部等を加工した。次に、溝研削加工で刃溝を加工し、刃付けにより切れ刃を形成した。第1から第5により、全長が50mm、刃径Dが1mm、Rが0.5mm、首下長が10mmの小径ボールエンドミルを作製し、これを本発明例1とした。また、本発明例1に使用したのと同じ素材を使用して円柱形状の試験片を作成し、この試験片を用いて、SA/ST値、t値の評価や抗折力試験を行った。
【0028】
また、本発明例2から12、比較例13から16は、基本的には本発明例1の製造条件に準じて作製した。ただし、加熱処理の保持時間及び接合圧力を調整した点が本発明例1の製造条件とは異なる。具体的に言えば、図5に示すように保持時間を長くすることにより、SA/ST値を大きくすることができる。また、図6に示すように接合圧力を大きくすることによりt値を小さくすることができる。このような調整条件の採用によって、SA/ST値やt値を調整した。また、従来例17は、接合材料に10μmの厚さのNi箔を使用した。
【0029】
接合処理条件は、軸部2の超硬合金材と後軸部3の超硬合金材との間にNi箔を挟み、25MPaの接合圧力、真空中で1423Kの処理温度の条件で接合してcBN焼結部材を作製した。Ni接合層はNi箔厚みと略同様の9.8μm厚さに形成された。本発明例2から12、比較例13から16、従来例17も同様に、同じ素材を使用して円柱形状の試験片を作成し、この試験片を用いて、SA/ST値、t値の評価や抗折力試験を行った。抗折力試験は、各々5本の工具素材を評価し、その平均値を求めた。表1に、本発明例、比較例及び従来例の作製条件と試験片を用いた評価結果を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に、本発明例1から12、比較例13から16及び従来例17の抗折力の試験結果を示す。本発明に用いた超硬合金強度は3010MPaであった。本発明例1から12は、SA/ST値が、0.60≦SA/ST≦0.90の範囲にあり、いずれも超硬合金対比70%以上の抗折力を示した。また、t値(μm)が0.5≦t≦2.0の範囲にある本発明例1、2、4、5、7、8、10及び11の抗折力試験結果はいずれも超硬合金対比で本発明の中でもより高い80%以上の抗折力を示した。
【0032】
一方、比較例13から16は、SA/ST値が本発明の範囲から外れているため抗折力は低かった。特に、比較例13、16は、SA/ST値、t値のいずれも本発明の範囲から外れているため、抗折力は低いものであった。比較例15、16はA領域間に空隙を生じ、強度が低下した。また、従来例17は、Ni接合層の厚さが厚いため、接合力が本発明例より低かった。
【0033】
図2に本発明例9における接合層の断面組織を示す。表2に、図2のスポットP、スポットQの組成分析結果を示す。スポットPはCoを主体とし、W、C、Cuを含むA領域であり、スポットQはCuを主体とし、Co、W、Cを含むB領域の一例である。
【0034】
【表2】

【0035】
図3、4に接合層の一例としての観察結果を示す。図3、4共に、画像に2階色化処理を施している。白色部がA領域、黒色部がB領域である。図3は本発明例9の接合層の状態を示す。白色部のA領域8は、軸部2の超硬合金材と後軸部3の超硬合金材から成長した組織が接合層中全体に広がっている。黒色部のB領域9は、所々に見られる程度である。これは、接合条件である接合圧力と保持時間が適切であったためである。軸部2の超硬合金材と後軸部3の超硬合金材のCoがCuに固溶することによってお互いのA領域が十分に成長し接合層を形成したため、抗折力は2716MPaを示す強固な接合となった。
【0036】
一方、図4は比較例13の接合層の状態を示す。白色部のA領域8の成長が接合層の途中で止まった状態であった。また、相対的に黒色部のB領域9が多い組織となっている。これは、接合条件である接合圧力と保持時間とが不適切であったため、t値が2.0μmを超えてしまったためと考えられる。図4では、軸部2の超硬合金材と後軸部3の超硬合金材から成長するお互いのA領域が結合していないため、抗折力は1946MPaを示し、接合強度が低かった。
【0037】
図5は、1356K以上での保持時間とSA/ST値との関係を示す。いずれの接合圧力条件においても、保持時間が長くなるほどSA/ST値が増大した。これはA領域が成長したためである。図6に接合圧力とt値との関係を示す。いずれの保持時間においても接合圧力の増大とともに、t値は薄くなった。このように保持時間と接合圧力を調整することにより、SA/ST値及びt値を調整することができた。図7にSA/ST値と抗折力との関係を示す。0.60≦SA/ST≦0.90の範囲では、SA/ST値と抗折力とは略比例関係にあることがわかった。本発明例1から12は、0.60≦SA/ST≦0.90を満たしていたため、2000MPa以上の優れた抗折力を示した。特に本発明例10は、SA/ST値が0.90と最も高く、t値も0.5μmと薄いため最も高い抗折力を示した。
【実施例2】
【0038】
次に、実施例1によって得られた本発明例、比較例及び従来例の小径ボールエンドミルを用いて、折損強度を評価するため切削試験を下記の試験条件で行った。折損強度を評価するために、切削試験では各々5本の小径ボールエンドミルを評価した。評価は、切削距離300mまでに折損した本数を測定した。これらをもとに3段階の評価ランクに分けた。評価ランクは、折損が発生しなかったものを○印で示し、折損本数が1〜3本のものを△印、折損本数が4本以上のものを×印で示した。評価結果を表1に併記した。
(試験条件)
加工方法:乾式切削による片削り加工
被切削材:SKD11、硬さ、HRC60
工具回転数:毎秒667回転
送り速度:25mm/秒
径方向切り込み量:0.05mm
軸方向切り込み量:0.5mm
【0039】
表1に示す切削試験の評価結果では、本発明例1から12はいずれも折損本数が無く、全て○印レベルの優れた耐折損性を示した。これは、本発明例1から12は本発明の条件を満足しており、試験片で得られた様に高い抗折力によるものである。一方、比較例13から16は、切削試験でも接合部での欠損が発生し、△印や×印のレベルであった。これは、比較例13から16は、いずれかの条件が本発明の規定から外れているため、低い抗折力によるものである。また、従来例17も折損が発生し△印レベルであった。この理由は、Ni接合層が厚く、接合強度が低かったためである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の回転切削工具は、金属、非鉄金属加工用の超硬合金製小径ドリル、ドリル以外の小径回転工具として適している。特に本発明は拡散接合された強固な接合層を特徴としているので、例えばcBNを刃部として超硬合金材と接合された回転切削工具や、首下長さの長いロングネックを有する回転切削工具として好適である。
【符号の説明】
【0041】
1 刃部
2 軸部(超硬合金材)
3 後軸部(超硬合金材)
4 接合層
5 首部
6 シャンク部
7 テーパー部
8 白色部(A領域)
9 黒色部(B領域)
D 刃径
ln 首下長
P A領域の組成分析スポット
Q B領域の組成分析スポット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具先端の刃部とこれに連なる軸部の後端が後軸部と同一軸線上に拡散接合された接合層を有する回転切削工具において、該後軸部は首部、テーパー部、シャンク部を有し、該刃部は高硬度焼結体部材であり、該軸部の超硬合金材と該後軸部の超硬合金材を有し、該接合層は、Coを主体とし、W、C、Cuを含むA領域と、Cuを主体とし、Co、Cを含むB領域から成り、該接合層の軸方向断面の断面積をST(μm)とし、該軸方向断面における該A領域の総面積をSA(μm)としたとき、0.60≦SA/ST≦0.90であることを特徴とする回転切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載の回転切削工具において、該接合層の平均厚さをt(μm)としたとき、0.5≦t≦2.0であることを特徴とする回転切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−188509(P2010−188509A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57097(P2009−57097)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【Fターム(参考)】