説明

回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法

【課題】回転子に永久磁石を用いた電動機の特性を、例えば整備後に容易に確認することが可能な判定方法を提供する。
【解決手段】電動機11を回転駆動源12に接続し、電動機11の無負荷の発電電圧とその時の回転速度Nを計測し、予め電動機11に設定されている誘起電圧算出式によって算出される基準値Eと比較し、電動機11の良否を判定する。ここで、誘起電圧算出式はE=(ke20)×N、(ke20)={0.0012×(θ−20)+1}×(ke)であり、(ke20)は20℃に補正した誘起電圧定数、0.0012は温度係数、θは電動機11の継鉄の温度、keは電動機11によって設定される誘起電圧定数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子に永久磁石を用いた電動機の特性を、例えば整備後に確認する際の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機を解体して構成部材の整備(洗浄、必要に応じた修繕又は交換)を行った後、再び電動機を組立てた際に、回転子に取付けられている永久磁石の磁力が、電動機の整備に伴って減磁しているか否かの判定を行うことは、重要事項となっている。
ここで、電動機に使用されている永久磁石の磁力(減磁の有無)の確認は、電動機をインバータを用いて回転させた際の電流値を測定することにより行うことができるが、試験する電動機の容量に合わせた専用のインバータを使用しなければならないという問題がある。そこで、例えば、特許文献1には、電動機をインバータを用いて駆動させ、電動機が定常回転速度になった状態で電源を遮断した後に発生する誘導電圧波形の周期及び実効値を測定し、測定された誘導電圧波形の周期及び実効値を基準値と比較することにより永久磁石の磁力(着磁率)の確認を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−284296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法を整備後の電動機に適用した場合、整備後の電動機の永久磁石の磁力が測定されるだけなので、減磁の判定はできないという問題がある。また、測定に専用の装置を必要とし、測定に時間を要するという問題もある。なお、特許文献1の方法を用いて整備前の電動機の永久磁石の磁力を予め測定しておくと、整備に伴う永久磁石の減磁判定が可能になるが、コイル焼損等の故障原因によっては整備前に誘導電圧を測定できない場合があり、整備後の電動機を対象とした一般的な判定方法とはなり得ない。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、回転子に永久磁石を用いた電動機の特性を、例えば整備後に容易に確認することが可能な判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法は、電動機を回転駆動源に接続し、該電動機の無負荷の発電電圧とその時の回転速度を計測し、予め前記電動機に設定されている誘起電圧算出式によって算出される基準値Eと比較し、前記電動機の良否を判定する。
【0007】
本発明に係る回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法において、前記誘起電圧算出式は以下の式で表すことができる。
E=(ke20)×N
(ke20)={0.0012×(θ−20)+1}×(ke)
ここで、(ke20)は、20℃に補正した誘起電圧定数(mV/(rpm))、0.0012は温度係数(1/℃)、θは電動機の継鉄の温度(℃)、(ke)は電動機によって設定される誘起電圧定数(mV/(rpm))、Nは電動機の回転速度(rpm)である。
【0008】
本発明に係る回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法において、前記電動機は三相電動機であって、U、V、Wの各相の間にアナログ式の電圧計を接続し、前記電動機の低速回転時の前記電圧計の目盛り針の動きによって、前記電動機の各相の前記永久磁石の良否を判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法においては、電動機を回転駆動源で駆動させて発生する無負荷の発電電圧(誘起電圧)とその時の回転速度をそれぞれ計測し、計測された発電電圧と計測された回転速度を用いて誘起電圧算出式によって算出される基準値Eと比較して電動機の良否を判定するので、特性判定を行う電動機の容量に合わせたインバータを準備する必要がなく、種々の容量の電動機の特性判定を簡便、短時間、安価に行うことができる。
また、発電電圧は、電動機の回転速度に比例して増加するので、回転速度に対する発電電圧の変化挙動と回転速度に対する基準値Eの変化挙動とを比較することで、電動機の電気特性の変化を精度よく検出することができる。
【0010】
本発明に係る回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法において、予め設定されている所定の誘起電圧算出式を用いるので、電動機の回転速度及び電動機の継鉄温度が分ると、基準値Eを容易に算出することができる。
【0011】
本発明に係る回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法において、電動機が三相電動機であって、U、V、Wの各相の間にアナログ式の電圧計を接続し、電動機の低速回転時の電圧計の目盛り針の動きによって、電動機の各相の永久磁石の良否を判定する場合、永久磁石に減磁が生じていると、電圧計の目盛り針の振れが小さくなるので、目視により良否判定を素早くかつ簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法が適用される判定装置の説明図である。
【図2】電動機の回転速度に対する無負荷時の発電電圧と誘起電圧算出式によって算出される基準値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法が適用される判定装置10は、特性判定を行う、回転子に永久磁石が内蔵された電動機(永久磁石同期電動機)の一例である三相電動機11を回転駆動する回転駆動源の一例である誘導電動機12を備えた駆動手段13と、三相電動機11のU、V、Wの各相の間の電圧をそれぞれ測定するアナログ式の交流電圧計14、15、16と、三相電動機11の回転速度Nを測定する図示しない回転速度計とを有している。
【0014】
ここで、駆動手段13は、誘導電動機12と、交流電源17の電圧と周波数を制御して誘導電動機12の回転速度を制御するインバータ18とを有している。更に、駆動手段13は、誘導電動機12のシャフト19に取付けられた駆動側プーリ20と、三相電動機11のシャフト21に取付けられる従動側プーリ22と、駆動側プーリ20及び従動側プーリ22を連結するベルト23とを備えた動力伝達機構24を有している。
【0015】
インバータ18を用いて誘導電動機12を駆動するので、誘導電動機12のシャフト19の回転速度を任意の値に調整することができる。これにより、動力伝達機構24を介して三相電動機11のシャフト21を設定した回転速度Nで安定して回転させることができる。その結果、三相電動機11で発生する誘起電圧を交流電圧計14〜16で直接測定することができる。
【0016】
続いて、本発明の一実施の形態に係る回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法について説明する。
図1に示すように、例えば、整備が完了した三相電動機11を判定装置10の図示しない取付け台に取付ける。そして、三相電動機11のシャフト21に従動側プーリ22を固定し、判定装置10に設けられた誘導電動機12のシャフト19に取付けられた駆動側プーリ20と従動側プーリ22とをベルト23を介して連結する。また、三相電動機11の図示しない電源端子のU、V、Wの各相の間に交流電圧計14〜16を接続する。
【0017】
次いで、判定装置10のインバータ18を介して、交流電源17から電力を誘導電動機12に供給して誘導電動機12を駆動させ、三相電動機11を回転させる。このとき、インバータ18から誘導電動機12に入力される電圧の周波数を制御して誘導電動機12の回転速度を調整しながら、三相電動機11の回転速度を変化させて、三相電動機11のU、V、Wの各相の間に発生する無負荷の発電電圧(誘起電圧)を電圧計14〜16で測定すると共に、三相電動機11のシャフト21の回転速度Nを回転速度計で測定する。
【0018】
ここで、三相電動機11に異常、例えば、回転子に取付けられた永久磁石に減磁が生じている場合、三相電動機11の低速回転時では、減磁が生じた永久磁石の回転時の位置変化に対応して電圧計14〜16の目盛り針の動きに変化(目視できる振幅の針振れが周期的に発生する)が現れ、三相電動機11の永久磁石の良否を判定することができる。三相電動機11の異常を、電圧計14〜16の目盛り針の変化挙動から検出するので、異常の有無を迅速かつ確実に検出することができる。
なお、減磁が生じた永久磁石を特定する必要がある場合は、三相電動機11から回転子を引抜き、回転子に設けられた各永久磁石の磁力を測定する。
【0019】
また、三相電動機11には、出荷時に三相電動機11の特性を測定した際の結果を示したテストレポートが添付されている。そして、テストレポートには、三相電動機11の設計時に設定される誘起電圧定数ke(単位はmV/(rpm))が記載されているので、三相電動機11のシャフト21の回転速度N(rpm)、三相電動機11の継鉄の温度(℃)が判明すると、その時の三相電動機11の無負荷の発電電圧(誘起電圧)は、誘起電圧算出式によって算出される基準値Eとして求めることができる。
【0020】
ここで、基準値Eを算出する誘起電圧算出式は、E=(ke20)×Nであり、(ke20)は20℃に補正した誘起電圧定数(mV/(rpm))である。そして、(ke20)は、0.0012を温度係数(1/℃)、θを三相電動機11の継鉄の温度(℃)、(ke)を電動機によって設定される誘起電圧定数(mV/(rpm))として、{0.0012×(θ−20)+1}×(ke)の計算式を用いて求められる。
【0021】
したがって、交流電圧計14〜16を用いて測定された三相電動機11のU、V、Wの各相の間の発電電圧(誘起電圧)と、予め三相電動機11に設定されている誘起電圧算出式によって算出される誘起電圧計算値である基準値Eとを比較することで、三相電動機11の誘起電圧が基準値E(出荷時の三相電動機11の誘起電圧)に対して変化しているか否かが容易に分る。
そして、誘起電圧と基準値Eとの差が、三相電動機11の管理規格値の範囲内であれば三相電動機11を良好と判定し、誘起電圧と基準値Eとの差が、管理規格値の範囲外であれば、三相電動機11を不良と判定する。これにより、三相電動機11の誘起電圧に基づく三相電動機11の特性判定を、簡便、短時間、安価に行うことができる。
なお、管理規格値は三相電動機11毎に定められている。例えば、基準値Eが管理規格の下限値を示し、上限幅が下限値(基準値E)に対して規定(例えば、基準値Eの5%と規定)されている場合、回転速度Nから求まる基準値E(下限値)に上限幅を加えた値が上限値となる。一方、管理規格の上、下限値が、基準値Eを中央値として、基準値Eに対して規定した(例えば、基準値Eの5%とした)変化幅により決定される場合、回転速度Nから決まる基準値E(中央値)から変化幅を差し引くことにより下限値が、基準値E(中央値)に変化幅を加えることにより上限値がそれぞれ求まる。したがって、誘起電圧の値が上、下限値の範囲内に存在すると三相電動機11は良好と判定され、誘起電圧の値が上、下限値で決まる範囲の外に存在すると三相電動機11は不良と判定される。
【0022】
三相電動機11を一定の回転速度Nで回転駆動させた際に、三相電動機11のU相とV相の間に発生する誘起電圧を電圧計14で測定すると、U−V間の誘起電圧は回転速度Nの増加に比例して増加する特性が得られる。一方、誘起電圧算出式によって算出される基準値Eも、回転速度Nに比例して増加する。そこで、U−V間の誘起電圧及び基準値Eのそれぞれの回転速度Nに対する依存性をグラフに示すと図2に示すようになる。図2では、U−V間の誘起電圧の回転速度N依存性と、基準値Eの回転速度N依存性とはよい一致を示しており、このことから三相電動機11の特性は良好と判定できる。
なお、回転速度Nに対する誘起電圧の変化挙動と回転速度Nに対する基準値Eの変化挙動とを比較するので、誘起電圧と基準値Eの間に差があるか否かを正確に判定することができ、三相電動機11の特性変化を精度よく検出することができる。
【0023】
そして、不良と判定された三相電動機に対しては、修理を行うが、故障の程度によっては新しい三相電動機に交換する。
一方、管理規格値以内であるが変化が確認された三相電動機に対しては、三相電動機に当初設定されたトルクが得られるように、例えば三相電動機を駆動するインバータの出力を調整して使用する。
【0024】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
更に、本実施の形態とその他の実施の形態や変形例にそれぞれ含まれる構成要素を組合わせたものも、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0025】
10:判定装置、11:三相電動機、12:誘導電動機、13:駆動手段、14、15、16:交流電圧計、17:交流電源、18:インバータ、19:シャフト、20:駆動側プーリ、21:シャフト、22:従動側プーリ、23:ベルト、24:動力伝達機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機を回転駆動源に接続し、該電動機の無負荷の発電電圧とその時の回転速度を計測し、予め前記電動機に設定されている誘起電圧算出式によって算出される基準値Eと比較し、前記電動機の良否を判定することを特徴とする回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法。
【請求項2】
請求項1記載の回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法において、前記誘起電圧算出式は以下の式で表されることを特徴とする回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法。
E=(ke20)×N
(ke20)={0.0012×(θ−20)+1}×(ke)
ここで、(ke20)は、20℃に補正した誘起電圧定数(mV/(rpm))、0.0012は温度係数(1/℃)、θは電動機の継鉄の温度(℃)、(ke)は電動機によって設定される誘起電圧定数(mV/(rpm))、Nは電動機の回転速度(rpm)である。
【請求項3】
請求項1又は2記載の回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法において、前記電動機は三相電動機であって、U、V、Wの各相の間にアナログ式の電圧計を接続し、前記電動機の低速回転時の前記電圧計の目盛り針の動きによって、前記電動機の各相の前記永久磁石の良否を判定することを特徴とする回転子に永久磁石を用いた電動機の特性判定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−36937(P2013−36937A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175274(P2011−175274)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000233697)株式会社日鉄エレックス (51)
【Fターム(参考)】