説明

回転機器用回転子の製造方法

【課題】例えば磁気エンコーダに用いた場合、高速回転時であっても回転角度や回転数を精度良く検出可能な回転機器用回転子の製造方法を提供する。
【解決手段】
ホルダ110を用意すると共に、被着磁体120の幅方向の一方の側の複数個所から被着磁体の中心に向かって延在するランナー対応部130と、ランナー対応部の被着磁体中心方向端部から突出したスプルー対応部140を備え、ランナー対応部とスプルー対応部を備えたままホルダに嵌める際にホルダの規定の接着位置に配置できるように形成された被着磁体を用意し、ランナー対応部とスプルー対応部が備わったままの被着磁体をホルダに嵌め込むと共に、ホルダの外周面に塗布された接着剤を介して被着磁体をホルダに接着し、複数のランナー対応部を被着磁体との境界部で切断することで、ランナー対応部とスプルー対応部を被着磁体から取り除く回転機器用回転子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばモータや工作機械等のアクチュエータの回転部分の回転角や回転数を検出するのに好適に利用可能な回転機器用回転子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばモータや工作機械等のアクチュエータの回転部分の回転角や回転数を正確に検出するのに磁気エンコーダが用いられている。このような磁気エンコーダの一般的な構成としては、モータに取付けられて回転する円筒状の基材(ホルダ)とその基材の外周縁に配置されるリング状の被着磁体を備え、その被着磁体に着磁するようになっている。なお、リング状の被着磁体は基材外周面に塗布された接着剤を介して基材の外周縁に配置される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−105131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した被着磁体は、射出成形によって成形されるため、射出成形後の冷却に伴う材料の物性による収縮の影響を受けたり、被着磁体を金型から離型させる際に被着磁体にかかる応力の影響を受けたり、離型直後において被着磁体が完全に冷却されていないことに起因する影響を受ける等、様々な影響を受けるため、設計通りの真円度が保てなくなったり捻れたり歪んだりして変形した形状となり易い。また、設計通りの真円度を保っていても、例えば作業者が大径で薄肉の被着磁体を基材に接着する工程においては、僅かな力を被着磁体に加えただけでも被着磁材が変形してしまうことがある。そして、このような変形した状態の被着磁体を接着剤の塗布された基材に取付けると、被着磁体は変形した状態のままで基材の外周面に固着する。そして、このように基材の外周面に固着すると被着磁体との間で不十分な接着状態の部分が生じてしまう。
【0005】
そのため、回転子外周の真円度を確保するために追加工としての研磨加工を行う場合があるが、このような追加工を施したとしても、被着磁体の元々の変形量が大きいと、被着磁体の変形した部分を完全に研磨して目標の真円度を確保するのは困難である。また、このような被着磁体の変形に伴って、被着磁体を着磁する際に被着磁体の外周面に沿ってNS分布が均等に連続して正確に着磁しないいわゆる着磁ムラが生じる虞もある。また、このような変形した被着磁体付きの回転子を備えた磁気エンコーダにおいて回転子を回転させると、被着磁体の凸形状に変形した部分が例えばMR素子やホール素子等に干渉する(回転中に両者が接触する)虞もある。また、このような干渉に至らなくても、MR素子と着磁された被着磁体との距離が一定とならないことにより、MR素子の出力が安定しなくなる虞がある。また、変形した被着磁体が基材に接着していると、両者の間の接着剤の接着度合いが周方向にかなりばらつくため、回転子の回転運動に伴う遠心力により、最悪の場合には接着剤破壊や被着磁体の母材破壊が生じることも懸念される。
【0006】
一方、近年このような磁気エンコーダをNC加工機やマシニングセンタ等の工作機械のモータ等の回転角度や回転数の制御に用いられるようになってきている。このような分野においては、磁気エンコーダを大型化したモータに用いることに加えて、磁気エンコーダによって回転角度や回転数を高い分解能で検出することが求められるため、回転子を大型化する必要がある。しかしながら、大型の回転子になると被着磁体の直径も大きくなり、射出成形後の冷却に伴う材料の物性による収縮の影響や、被着磁体を金型から離型させる際に被着磁体にかかる応力の影響や、離型直後において被着磁体が完全に冷却されていないことに起因する影響等を受け易くなる。
【0007】
ここで、被着磁体自体の板厚を厚くすることで被着磁体自体の剛性を高め、被着磁体の変形をある程度抑えることも可能である。しかしながら、被着磁体の材料が増すことで材料のコストの低減が図れない。また、NC加工機やマシニングセンタ等の工作機械では加工精度を向上させるため、エンドミル等の工具を高速回転することが求められるが、被着磁体自体の質量が増すことで慣性質量が増加し、回転運動にかかるモータの負荷が増大し、モータの回転特性を阻害することとなる。また、回転子の回転中に被着磁体に作用する遠心力も大きくなり、被着磁体の真円度が損なわれたまま基材に接着されていると、接着剤の破壊や被着磁体の母材破壊の問題がより懸念されるようになる。
【0008】
一方、成形後の被着磁体を治具等で矯正することで変形をある程度防止することは可能であるが、異なる寸法形状を有する被着磁体毎にこれに対応する治具を用意しなければならず、治具等の設備費が嵩み、回転子製造上のコスト削減が図れず、余分な製造工数もかかる。
【0009】
本発明の目的は、例えば磁気エンコーダに用いた場合、高速回転時であっても回転角度や回転数を精度良く検出可能な回転機器用回転子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明の請求項1に回転機器用回転子の製造方法は、
円筒形状のホルダと、前記ホルダの外周に接着された被着磁体であって、一定の厚みを有すると共に前記ホルダの厚みに対応した幅を有するリング状の被着磁体と、を有する回転機器用回転子の製造方法であって
前記ホルダを用意すると共に、前記被着磁体の幅方向一方の側の複数個所から前記被着磁体の中心に向かって延在するランナー対応部と、前記ランナー対応部の前記被着磁体中心方向端部から突出したスプルー対応部を備え、前記ランナー対応部と前記スプルー対応部を備えたまま前記ホルダに嵌める際に前記ホルダの規定の接着位置に配置できるように形成された被着磁体を用意し、
前記ランナー対応部と前記スプルー対応部が備わったままの被着磁体を前記ホルダに嵌め込むと共に、前記ホルダの外周面に塗布された接着剤を介して前記被着磁体を前記ホルダに接着し、
前記複数のランナー対応部を前記被着磁体との境界部で全て切断することで、前記ランナー対応部と前記スプルー対応部を前記被着磁体から取り除くことを特徴としている。
【0011】
請求項1に係る回転機器用回転子の製造方法がこのような構成を有することで、被着磁体を射出成型によって成型する時に付随して成型されるランナー対応部及びスプルー対応部が被着磁体の剛性を向上させる役割を果たし、被着磁体の変形を防止する。
【0012】
そのため、ランナー対応部とスプルー対応部が接合されたままの被着磁体をホルダに嵌め込むことで、被着磁体に反りや曲がり、捻れなどの変形が生じず、被着磁材を規定通りの真円度を保ったままホルダに接着することができる。これによって、歪んだ状態の被着磁体を接着剤の塗布されたホルダに取付けることはなく、ホルダと被着磁体との間で接着不十分な部分が生じることもない。また、回転子の回転運動に伴う遠心力によって接着剤破壊や被着磁体の母材破壊が生じる虞もない。
【0013】
また、被着磁体の変形を防止する役目を果たすランナー対応部とスプルー対応部を付けたまま被着磁体をホルダに嵌めるので、被着磁体の板厚を薄くできる。そのため、材料を削減でき、かつ変形防止用の治具等も不要となるため、コストを削減することができる。また、被着磁体自体の質量を軽減することで、回転子自体の慣性質量の低減を図ることができる。そのため、回転機器用回転子を例えば周速度の速い磁気エンコーダに用いて長期にわたって使用しても、接着剤破壊や被着磁体の母材破壊が生じる虞もなく、回転機器の回転負荷を軽減できる。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る回転機器用回転子の磁気エンコーダは、
請求項1に記載の前記回転機器用回転子の製造方法を用いて製造した磁気エンコーダであることを特徴としている。
【0015】
請求項2に係る回転機器用回転子の磁気エンコーダがこのような構成を有することで、回転子外周の真円度を確保するための研磨加工を行う場合でも、精度良く研磨できる。また、回転子の真円度を規定通りにできるので、被着磁体への着磁が正確にできる。また、例えばMR素子やホール素子等と着磁された被着磁体との距離が一定となるため、磁気エンコーダを起動して回転子を回転させても被着磁体がMR素子等に干渉することはない。また、MR素子の出力が安定し、正確な回転角や回転数の検出ができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、高速回転時であっても回転角や回転数を精度良く検出可能な回転機器用回転子の製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る回転機器用回転子を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る磁気エンコーダを説明するブロック構成図である。
【図3】本実施形態に係る被着磁体の基材へ取付ける直前の状態を示す斜視図(図3(a))と、従来の被着磁体の基材へ取付ける直前の状態を示す斜視図(図3(b))である。
【図4】本実施形態に係る回転機器用回転子の製造方法を説明する説明図である。
【図5】従来の回転機器用回転子の製造方法を説明する説明図である。
【図6】本実施形態に係る回転機器用回転子の製造に使用する組付け治具の斜視図(図6(a))及びランナー対応部とスプルー対応部が備わった被着磁体の一部を破断した状態で示す組付け治具の側面図(図6(b))である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る回転機器用回転子について図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る回転機器用回転子を示す斜視図である。また、図2は、本実施形態に係る磁気エンコーダを説明する説明図である。
【0019】
本実施形態に係る回転機器用回転子11(以下、適宜「回転子」とする。)は、例えば図2に示すNC加工機等の工作機械1の回転数を検出する磁気エンコーダ10に用いられる。この磁気エンコーダ10を備える工作機械1は、モータによる回転力を利用してスピンドル21を回転させてワークを加工するようになっている。そして、モータ20の回転角度や回転数を検出する磁気エンコーダ10が、取付部30を介してモータ20に取付けられている。磁気エンコーダ10は、回転子11の回転数や回転角度を検出するMRセンサ13の出力を信号処理する集積回路12を備えている。
【0020】
回転子11は、図1に示す鉄製の円筒形状のホルダ(基材)110と、ホルダ110の外周面に全周にわたって接着剤を介して固着された被着磁体120から構成されている。被着磁体は、例えば樹脂にマグネット材が混ざったネオジボンド磁石からなり、射出成型によって成形される。そして、ホルダ110に取付けられた被着磁体120の周方向に亘って等間隔のピッチで着磁することで回転子11を形成するようになっている。なお、本実施形態では、エポキシ系接着剤を用いているが、必ずしもこのような接着剤に限定されることはない。また、被着磁体の材質は、上述したネオジボンド磁石を有する樹脂材に限定されることはなく、本発明において適用可能なものであれば、どのような材質でも良い。
【0021】
また、図2に示すMRセンサ13は、いわゆるMR素子からなり、着磁された被着磁体120の分解能に応じて出力を変化させ、この出力変化から回転子11の回転角度や回転数を検出するようになっている。なお、MRセンサ13は、回転子11の回転中心から所定の距離だけ隔てて設置され、図1に示す着磁された被着磁体120から非接触で着磁パターンを検出するようになっている。
【0022】
次に、本発明の一実施形態に係る回転機器用回転子11に用いられる被着磁体120について図面に基づいて説明する。図3(a)は、本実施形態に係る被着磁体120のホルダ110(図4参照)へ取付ける直前の状態を示す斜視図であり、図3(b)は、従来の被着磁体520のホルダ110(図5参照)へ取付ける直前の状態を示す斜視図である。
【0023】
図3(a)に示す本実施形態に係る被着磁体120は、ホルダ110に取付ける直前の段階で、図3(b)に示す従来の被着磁体520のホルダ110に取付ける直前の状態に加えて、ランナー対応部130とスプルー対応部140が備わっていることを特徴としている。ランナー対応部130は、被着磁体120の一方の周側面の複数個所(本実施形態では6箇所)から被着磁体120の中心に向かって延在している。また、スプルー対応部140は、ランナー対応部130の被着磁体中心方向端部から図中上方に突出している。そして、ランナー対応部130とスプルー対応部140は、被着磁体120をホルダ110に嵌める際にホルダ110に干渉しないように形成されている。
【0024】
なお、ランナー対応部130は、金型のランナーに対応して成形された樹脂成形部であり、スプルー対応部140は、金型のスプルーに対応して成形された樹脂成形部である。
【0025】
そして、本実施形態に係る回転子11は、図2に示すように取付部30を介してモータ20に取付られ、NC旋盤やマシニングセンタ等の工作機械1の回転数や回転角度を検出するようになっている。
【0026】
次に、本発明の実施形態に係る回転機器用回転子11の製造方法について以下説明する。図4は、本実施形態に係る回転機器用回転子11の製造方法を説明する説明図である。
【0027】
本実施形態に係る回転機器用回転子11を製造するにあたって、最初に被着磁体120の成型品を射出装置によって成形する(図4(a)参照)。ここで、被着磁体120の成型品とは、射出成型によって成形された直後の被着磁体120の成形品のことをいい、射出装置のノズルから射出された樹脂材料を金型内に移送するためのスプルーに対応したスプルー対応部140と樹脂を金型内に導くランナーに対応したランナー対応部130を被着磁体120から切り離す前の状態を言う。
【0028】
次いで、グラインダ(研削盤)によって高精度な真円度となるように加工されたホルダ(基材)110を準備する。次いで、外周側面に接着剤を塗布する(図4(b)参照)。
【0029】
次いで、被着磁体120の成型品を接着剤の塗布されたホルダ110の側面に嵌め込む(図4(c)参照)。なお、被着磁体120の成型品を接着剤の塗布されたホルダ110の側面に嵌め込む際には、図6(a)及び(b)に示すような組付け治具90を使用することが望ましい。この組付け治具90は、ランナー対応部130やスプルー対応部140の備わった被着磁体120を保持する保持部91と、ホルダ110を固定するベース部93とを有し、図6(b)に示すように、スプルー対応部140を保持部91に備わったチャック部92でしっかりとチャックし、レバー94を回転させることで被着磁体120をそれ自体変形させることなくホルダ110に向かって図6(b)の上方から垂直下方に移動させてホルダ110に嵌め込むようになっている。
【0030】
次いで、被着磁体120の成型品からランナー対応部130をカッター等の工具によって切り離す(図4(c)から(d)参照)。この際、余分な突起を極力残さないように、被着磁体120とランナー対応部130との境界部を切断し、この切断工程において必要に応じてランナー対応部130との接続部にできた突起を研磨して除去する。
【0031】
次いで、被着磁体120に着磁することで回転子11の製造を完了する(図4(d)参照)。
【0032】
続いて、本発明の優位性を明らかにするために、従来の回転機器用回転子51の製造方法について説明する。図5は、従来の回転機器用回転子51の製造方法を説明する説明図である。
【0033】
まず、被着磁体520の成型品を射出装置によって成形する(図5(a)参照)。
【0034】
次いで、被着磁体520の成型品からランナー対応部530及びスプルー対応部540をカッター等の工具によって切り離す(図5(a)から(b)参照)。この際、余分な突起を極力残さないように、被着磁体520とランナー対応部530との境界部を切断し、この切断工程において必要に応じてランナー対応部530との接続部にできた突起を研磨して除去する。
【0035】
次いで、グラインダ(研削盤)によって高精度の真円度に加工された基材(ホルダ)を準備し、この外周側面に接着剤を塗布する(図5(c)参照)。
【0036】
次いで、被着磁体520を接着剤の塗布されたホルダ110の側面に組付け、被着磁体520に着磁することで回転子51の製造を完了する(図5(d)参照)。なお、被着磁体520を接着剤の塗布されたホルダ110の側面に組付ける際(図5(c)から(d)参照)には、上述の組付け治具90の使用は困難であり、作業者が手作業で被着磁体520を接着剤の塗布されたホルダ110の側面に嵌め込まなければならない。これは被着磁体自体が剛性不足のため、被着磁体520をチャックするための特別なチャック部を有する組付け治具(ここでは図示せず)を使用すると、被着磁体520が変形してしまうからである。
【0037】
図4と図5を比較すると、図4に示す本実施形態における被着磁体120は、回転子製造工程中、(ランナー対応部130とスプルー対応部140なしに)それ自体単体でハンドリングされることがないため、被着磁体120がホルダ110に嵌る前に変形してしまう可能性が極めて低いことが分かる。これは、被着磁体120をホルダ110の接着位置に配置(位置決め)する際、図6に示した組付け治具90を利用できることからも明らかである。
【0038】
一方、図5に示す従来例における被着磁体を520は、回転子製造工程中の大部分においてそれ自体単体でハンドリングされるため、被着磁体520がホルダ110に嵌る前に変形してしまう可能性が極めて高いことが分かる。
【0039】
以下、上述した本実施形態に係る回転機器用回転子11の製造方法の作用について、従来の回転機器用回転子51の製造方法と比較して説明する。本実施形態の被着磁体120にランナー対応部130が付随した状態で被着磁体120が放置される場合では、従来のランナー対応部530が切り離された状態で被着磁体520が放置される場合に比べて、ランナー対応部130が被着磁体120の剛性を向上させる役割を果たすため、被着磁体120の変形を防止する(本実施形態に係るランナー対応部130及びスプルー対応部140が接合された被着磁体120(図4(a)参照)と従来例に係るランナー対応部530とスプルー対応部540を取り除いた被着磁体520(図5(b)参照)を比較参照)。
【0040】
そのため、従来のように変形した状態の被着磁体520を接着剤の塗布されたホルダ110に取付けることがなくなり、ホルダ110と被着磁体520との間で接着状態の不十分な部分やホルダ110と被着磁体520との接着状態がホルダ110の周方向に亘って不均一になるのを避けることができる。その結果、回転子11の回転運動に伴う遠心力によって接着剤破壊や被着磁体120の母材破壊が生じる虞もない。
【0041】
特にNC旋盤やマシニングセンタなどの工作機械に本発明に係る回転子11を備えた磁気エンコーダを利用した場合、被着磁体120の直径は例えば100mmから200mmと非常に大きくなる一方、被着磁体120の材料コスト削減や被着磁体120に作用する遠心力を低減するために、被着磁体120の厚さは例えば2mmと非常に薄くなっている。このような大径かつ厚さの薄い被着磁体120を備えた回転子11の周速度は非常に大きくなり、これに作用する遠心力も大きくなるので、ホルダ110の外周面全体に亘って被着磁体120との間で均一でしっかりした接着状態が保たれることが重要となる。
【0042】
一方、大径で厚さの薄い被着磁体520は、それ単体、即ちランナー対応部530やスプルー対応部540を取り去った状態で作業者が僅かな力をかけると、簡単に変形してしまうが、本発明によると被着磁体120をホルダ110の外周面に嵌めるまでランナー対応部130やスプルー対応部140が被着磁体120に接合されているので、被着磁体120の剛性が高まり、このような不都合を回避できる。
【0043】
また、被着磁体120の板厚を薄くできることで、材料を削減でき、かつ変形防止用の治具も不要となるためコスト削減となる。また、被着磁体120自体の質量を軽減できこれを備えた回転子11自体の慣性質量の低減も図ることができる。そのため、回転子11の高速回転時においても接着剤破壊や被着磁体120の母材破壊が生じる虞もなく、回転機器の回転負荷を軽減できる。
【0044】
また、回転子11外周の真円度を確保するための研磨加工を行った場合、精度良く研磨できる。また、被着磁体120への着磁を適正に行うことができ、周方向に着磁分布や着磁密度が規定通りとなった回転子11とすることができる。また、MRセンサ13と着磁された被着磁体120との距離が一定となるため、磁気エンコーダ10を起動して回転子11を回転させても被着磁体120がMRセンサ13に干渉することはない。また、MRセンサ13の出力が安定し正確な回転角や回転数の検出ができる。
【0045】
なお、具体的には例えば外径200mmの回転子11が10000min-1で回転する場合、その周速は約104.7m/sとなる。近年のマシニングセンタなどではモータが回転数50000〜60000min-1という高速回転する場合があるので、本発明を適用すると効果が大きいことが良く理解できる。
【0046】
また、被着磁体120の成型品にはランナー対応部130とスプルー対応部140が付随するため、剛性を向上させる役割を果たすことに加えて、スプルー対応部140を利用することで、被着磁体120の成型品をホルダ110に組付ける際に組付け治具90を使用することができる。そのため、従来の被着磁体520をホルダ110に組付ける手作業による製造方法と比較して、被着磁体120をホルダ110の所定位置に配置して両者を正確に接合することができる。
【0047】
なお、上述の実施形態で紹介した形状や寸法、材質、数値等はあくまで例示的なもので、本発明の範囲を逸脱しない限り様々な形状や寸法、材質、数値を適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0048】
1 工作機械
10 磁気エンコーダ
11,51 (回転機器用)回転子
12 集積回路
13 MRセンサ
20 モータ
21 スピンドル
30 取付部
90 組付け治具
110 ホルダ(基材)
120,520 被着磁体
130,530 ランナー対応部
140,540 スプルー対応部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状のホルダと、前記ホルダの外周に接着された被着磁体であって、一定の厚みを有すると共に前記ホルダの厚みに対応した幅を有するリング状の被着磁体と、を有する回転機器用回転子の製造方法であって
前記ホルダを用意すると共に、前記被着磁体の幅方向一方の側の複数個所から前記被着磁体の中心に向かって延在するランナー対応部と、前記ランナー対応部の前記被着磁体中心方向端部から突出したスプルー対応部を備え、前記ランナー対応部と前記スプルー対応部を備えたまま前記ホルダに嵌める際に前記ホルダの規定の接着位置に配置できるように形成された被着磁体を用意し、
前記ランナー対応部と前記スプルー対応部が備わったままの前記被着磁体を前記ホルダに嵌め込むと共に、前記ホルダの外周面に塗布された接着剤を介して前記被着磁体を前記ホルダに接着し、
前記複数のランナー対応部を前記被着磁体との境界部で全て切断することで、前記ランナー対応部と前記スプルー対応部を前記被着磁体から取り除くことを特徴とする回転機器用回転子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の前記回転機器用回転子の製造方法を用いて製造したことを特徴とする磁気エンコーダ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−47645(P2013−47645A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186049(P2011−186049)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】