説明

回転軸にスリーブを高精度に取り付け可能な電動機

【課題】回転軸にスリーブを高精度に取り付けることができる電動機を提供する。
【解決手段】電動機11では、回転軸12は、第1径を有する大径位置17から第1径よりも小さい第2径を有する小径位置18に向かうにつれて減少する径を有する外周面21を規定する。スリーブ13は、大径位置17に隣接する前端から小径位置18に隣接する後端に向かうにつれて減少する径を有する内周面22で回転軸12の外周面21に嵌合して回転軸12に締まり嵌めされる。こうした構成によれば、スリーブ13は内周面22のほぼ全面で回転軸12の外周面21に嵌合する。スリーブ13の締め代による締め付け力はスリーブ13の内周面22の全面でほぼ均等に回転軸12の外周面21に作用する。しかも、回転軸12には局所的に締結トルクが作用しないことから、回転軸12の変形や歪みの発生は回避される。回転軸12に高精度にスリーブ13を取り付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子部品と、回転子部品を保持しつつ回転軸に装着されるスリーブと、を備える電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1にはいわゆるビルトインモータが開示される。このモータでは、スリーブを介して回転軸に回転子が装着される。スリーブの内周面には、回転軸の外周面に向かって径方向に突出する複数の突部が形成される。突部は回転軸の回転軸線回りに環状に延びる。その一方で、回転軸は一端から他端に向かって例えば径が三段階に変化する。突部は、こうした径の変化に対応してスリーブの内周面からそれぞれ異なる大きさで突き出る。スリーブはいわゆるステップドスリーブに構成される。回転軸への回転子の取り付けにあたって、スリーブは、回転軸に焼き嵌めで装着されて突部で回転軸の外周面に押し付けられる。
【0003】
その一方で、突部同士の間にはスリーブの内周面と回転軸の外周面との間に所定の空間が形成される。例えばモータの不具合などによって回転軸から回転子が取り外される構造が求められている。回転軸からの回転子の取り外しにあたって、前述の空間に所定の圧力で作動油が注入される。作動油の圧力に基づく膨張によってスリーブの内径が増大する結果、回転軸の径の差異に基づき複数の突部のそれぞれの内径が異なることから、回転軸線の方向にスリーブに力が作用する。こうして回転軸から回転軸線の方向に回転子とともにスリーブを取り外すことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−26202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スリーブは突部でのみ回転軸に受け止められることから、スリーブの接触面積はスリーブの内周面に対して小さい。その結果、スリーブの堅固な取り付けの実現のためには、スリーブの締め代を増大させて回転軸に対するスリーブの締結トルクを増大させることが必要である。しかしながら、こうした締結トルクは例えばスリーブの両外端の突部に集中する。しかも、締め代の増大によって焼き嵌め時にスリーブは高温に加熱されなければならず、回転軸とスリーブとの間の熱膨張の差によって突部から回転軸に局所的に無用な応力が作用する。その結果、回転軸の変形や歪みを招く。こうして回転軸の振動は増大してしまう。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、回転軸にスリーブを高精度に取り付けることができる電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明によれば、
第1径を有する大径位置から前記第1径よりも小さい第2径を有する小径位置に向かうにつれて減少する径を有する外周面を規定する回転軸と、
前記大径位置に隣接する前端から前記小径位置に隣接する後端に向かうにつれて減少する径を有する内周面で前記回転軸の外周面に嵌合して前記回転軸に締まり嵌めで装着されるスリーブと、
前記スリーブの外周面に締まり嵌めで装着される円筒状の回転子部品と、を備える電動機が提供される。
【0008】
こうした電動機は、前記スリーブの外周面を含む前記スリーブの外側面から前記スリーブの内周面まで貫通する流体通路を備える。
【0009】
電動機は、前記スリーブの内周面と前記回転軸の外周面との間に形成されて前記回転軸の回転軸線回りに環状に延び、前記流体通路に接続される環状通路を備える。
【0010】
電動機は、前記スリーブの内周面と前記回転軸の外周面との間に形成されて、前記回転軸線の方向に前記環状通路から前記大径位置に向かって延びる軸線方向通路を備える。
【0011】
電動機は、前記スリーブの内周面と前記回転軸の外周面との間に挟み込まれて、前記流体通路よりも前記スリーブの前端側及び後端側の少なくともいずれか一方の側に配置される流体封止部材を備える。
【0012】
電動機は、前記スリーブの前端及び後端の少なくともいずれか一方の端部に隣接して前記スリーブに締まり嵌めで装着される環状部材を備える。
【0013】
電動機は、前記スリーブの後端で前記回転軸の外周面に装着されて、前記スリーブの前記回転軸からの抜けを規制する規制部材を備える。
【0014】
以上のような電動機は工作機械に組み込まれてよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回転軸にスリーブを高精度に取り付けることができる電動機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動機を概略的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電動機を概略的に示す横断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の変形例に係る電動機を概略的に示す部分縦断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態の他の変形例に係る電動機を概略的に示す部分縦断面図である。
【図5】本発明の一実施形態のさらに他の変形例に係る電動機のスリーブ及び回転子部品を概略的に示す縦断面図である。
【図6】本発明の一実施形態のさらに他の変形例に係る電動機の回転軸を概略的に示す部分縦断面図である。
【図7】本発明の一実施形態のさらに他の変形例に係る電動機を概略的に示す部分縦断面図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る電動機を概略的に示す部分縦断面図である。
【図9】本発明のさらに他の実施形態に係る電動機を概略的に示す部分縦断面図である。
【図10】本発明のさらに他の実施形態に係る電動機を概略的に示す横断面図である。
【図11】本発明のさらに他の実施形態に係る電動機を概略的に示す部分縦断面図である。
【図12】本発明のさらに他の実施形態に係る電動機を概略的に示す部分縦断面図である。
【図13】本発明のさらに他の実施形態に係る電動機を概略的に示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電動機11を概略的に示す縦断面図である。この電動機11は例えば埋込磁石型の同期電動機を構成する。電動機11は、例えば工作機械(図示せず)の主軸である円筒状の回転軸12と、回転軸12に装着されるほぼ円筒状のスリーブ13と、スリーブ13に装着される円筒状の回転子部品14と、回転子部品14に向き合う固定子15と、内周面で固定子15を支持しつつ回転軸12の回転軸線X周りに回転軸12を囲むハウジング16と、を備える。電動機11は、ダイレクトドライブ形式のモータであり、いわゆるビルトインモータである。
【0018】
回転軸12は、大径部12aと、大径部12aよりも小さい径を有する小径部12bと、大径部12aと小径部12bとの間に配置されるテーパ部12cと、を備える。大径部12a、テーパ部12c及び小径部12bは一体的に形成される。テーパ部12cは大径部12a及び小径部12bに例えば段差で接続される。テーパ部12cの外周面は円錐台形状の輪郭を有する。テーパ部12cは、第1径を有する大径位置17から第1径よりも小さい第2径を有する小径位置18に向かうにつれて径を減少させる。大径部12aとテーパ部12cとの間には、回転軸線Xに直交する仮想平面に沿って広がる段差面19が形成される。
【0019】
テーパ部12cの外周面21にはスリーブ13が装着される。装着にあたって、スリーブ13はテーパ部12cに例えば締まり嵌めで装着される。スリーブ13の内周面22は、テーパ部12cの大径位置17に隣接する前端から、テーパ部12cの小径位置18に隣接する後端に向かうにつれて減少する径を有する。スリーブ13はその内周面22のほぼ全面でテーパ部12cの外周面21に嵌合する。スリーブ13の外周面23は円筒状に形成される。すなわち、回転軸線Xに直交する径方向に規定されるスリーブ13の厚さはスリーブ13の前端から後端に向かうにつれて増大する。スリーブ13の前端に規定される前端面は大径部12a及びテーパ部12cの間の段差面19に突き当てられる。
【0020】
スリーブ13の後端には径方向外側に突き出るフランジ24が形成される。フランジ24には、スリーブ13の外周面23を含む外側面から内周面22までスリーブ13を貫通する1対の流体通路25a、25bが形成される。流体通路25a、25bは、例えば回転軸線Xを挟んで相互に対向する位置すなわち回転軸線Xに対して回転対称の位置でスリーブ13に形成される。流体通路25a、25bは、ねじ孔26と、ねじ孔26に連続する流路27と、をそれぞれ備える。流体通路25a、25bのいずれか一方のねじ孔26には例えば油圧源(図示せず)のノズルが接続される。油圧源は流路27に作動油を供給する。この流体通路25a、25bは、回転軸12に対するスリーブ13の着脱にあたって利用される。
【0021】
スリーブ13の内周面22には、回転軸線X周りに環状に延びる環状通路28が形成される。環状通路28は、スリーブ13の内周面22に形成される溝によって確立される。環状通路28は、流体通路25a、25bの流路27のそれぞれに接続される。こうした環状通路28によれば、油圧源から流路27に供給された作動油が回転軸線X周りに回転軸12の全周に行き渡ることができる。こうした環状通路28の形成にあたって、例えば旋削や切削、研削、放電加工などによって溝が形成されてよく、又は、例えばけがき線程度の細い溝が形成されてもよい。いずれの場合にも、外周面23と内周面22との間に作動油が浸透する所定の断面積が確保される。
【0022】
こうしたスリーブ13には例えば磁性材料であって弾性域の大きな材料が用いられることが好ましい。従って、スリーブ13は例えば炭素鋼、鉄系の合金鋼などから形成されることが好ましい。また、スリーブ13の締め代が大きく設定されなければならない場合には、材料の降伏点や弾性限度を高めるために、焼き入れや焼き戻しなどの熱処理が材料に実施されることが好ましい。また、スリーブ13の厚みは薄肉であるほど、回転軸12の径を増大させることができるとともにスリーブ13の着脱時の作業性を向上させる。ただし、薄肉になるにつれて加工が困難になるため、スリーブ13の厚さは、用途や設計仕様などを適宜考慮して決定されてよい。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態に係る電動機11を概略的に示す横断面図である。図2を併せて参照すると、回転子部品14は、回転軸線Xに沿って積層される複数の電磁鋼板の積層体から形成される回転子鉄心29と、回転軸線X周りに例えば等間隔で鉄心29内に埋め込まれる複数の永久磁石31と、を備える。回転子鉄心29は例えば円筒状に形成される。回転子鉄心29は、その内周面32でスリーブ13の外周面23に嵌合される。ここでは、回転子鉄心29はその内周面32の全面でスリーブ13の外周面23に嵌合する。回転子鉄心29の一端はスリーブ13のフランジ24に受け止められる。回転軸線Xに直交する径方向に規定される回転子鉄心29の厚みは回転軸線Xに沿って均一に設定される。
【0024】
図1から明らかなように、スリーブ13は、フランジ24の部分を除いて一定の外径を有する。すなわち、スリーブ13の外周面23は円筒面である。その一方で、回転子鉄心29は一定の内径を有する。すなわち、回転子鉄心29の内周面32は円筒面である。その結果、スリーブ13に回転子鉄心29を締まり嵌めで装着することができる。本実施形態では、少なくともスリーブ13の前端側の外径が、回転子鉄心29内に受け入れ可能なように、回転子鉄心29の内径以下の大きさに設定される。
【0025】
図1に戻ると、固定子15は、鉄心29の永久磁石31に対向する固定子鉄心33と、固定子鉄心33に巻き付けられるコイル34と、を備える。固定子鉄心33は、回転軸線Xの方向に積層される複数の電磁鋼板の積層体から形成される。固定子鉄心33は例えば円筒状に形成される。回転軸線Xに直交する方向に規定される固定子鉄心33の厚みは回転軸線Xに沿って均一に設定される。その結果、固定子鉄心33は回転軸線Xに沿って均一な距離で回転子鉄心29に対向する。コイル34は例えば銅線から形成される。固定子15はハウジング16の内周面に固定される。こうした固定子15と回転子部品14との間の磁気的相互作用によって回転子部品14すなわち回転軸12には回転力が伝達される。
【0026】
次に、スリーブ13が回転軸12に取り付けられる場面を説明する。取り付けに先立って、スリーブ13の外周面23には回転子部品14が締まり嵌めで装着される。こうして回転子部品14はスリーブ13に固定される。このとき、回転子部品14は仮止め程度の比較的小さな締め代でスリーブ13に装着される。その後、回転軸12のテーパ部12cの外周面21に潤滑材が塗布される。例えばプレス装置に保持される回転軸12に対してスリーブ13が嵌め込まれる。スリーブ13は回転軸線Xに沿って大径部12aに向かって押し込まれる。スリーブ13は回転軸12に対して所定の締め代を有することから、すなわち、テーパ部12cの外径はスリーブ13の内径よりも僅かに大きく設定されることから、スリーブ13はテーパ部12cに圧入される。膨張によってスリーブ13の外径が増大する。その結果、回転軸12に対するスリーブ13の締まり嵌めが達成されると同時に、スリーブ13に対する回転子部品14の締まり嵌めが達成される。こうして、スリーブ13及び回転子部品14は最終的に所定の締め代で回転軸12に装着される。言い替えれば、スリーブ13は所定の締結トルクで回転軸12に装着される。
【0027】
こうした電動機11では、回転軸12のテーパ部12cの外周面21及びスリーブ13の内周面22が、その一端から他端に向かうにつれて径を減少させるように構成される。従って、スリーブ13が、規定の押し込み距離以上の押し込み量で回転軸12に対して押し込まれると、締め代が規定の締め代よりも増大してしまう。その逆に、押し込み量が規定の押し込み距離に到達しないと、締め代が規定の締め代よりも不足してしまう。こうしたことを回避するため、スリーブ13の前端が回転軸12の段差面19に突き当てられることによって規定の締め代が確保されるように、回転軸12では回転軸線Xの方向における段差面19の位置が設定されることが好ましい。
【0028】
また、締め代の大きさは、電動機11の最高回転数や最大トルクなどを考慮して決定される。一般的には、電動機11では、最高回転数が高くなるにつれて遠心力が大きくなる。この場合、締め代を大きく設定することが必要である。また、電動機11が発生させる最大トルクが大きくなるにつれて、回転軸12に対するスリーブ13の締結トルクを大きく設定することが必要である。この場合、締め代を大きくする必要がある。従って、締め代の大きさは、電動機11の最高回転数や最大トルクに所定のマージンを加えた大きさに決定される。
【0029】
また、潤滑材は、潤滑によってスリーブ13のテーパ部12cへの圧入を促進する。この潤滑材の粘度が高くなるにつれて例えばかじりなどのトラブルの可能性が減少するものの、摩擦による必要な締結トルクを発生させるまでに時間がかかる。その一方で、粘度が低くなるにつれて潤滑の作用が不十分になる可能性があるために注意が必要とされるものの、圧入の完了後は、潤滑材は面圧によって速やかに外側に排出される。こうして圧入直後から摩擦による所定の締結トルクが確保される。ここでは、潤滑材には、例えばVG2〜VG22程度の粘度を有する潤滑油か、スプレー式の一般的な多目的潤滑材が用いられる。
【0030】
その他、回転軸12へのスリーブ13の圧入時、流体通路25a、25bのいずれか一方に油圧源が接続されてもよい。このとき、例えば油圧源のノズルがねじ孔26にねじ込まれる。こうして油圧源から流路27内に作動油が注入されてもよい。こうした作動油によれば、例えば締め代が比較的大きい場合に作動油を潤滑油として利用することができる。その結果、圧入時にスリーブ13の滑りが良くなる。ただし、締め代が比較的に小さい場合には、前述の潤滑材で十分に事足りることから、スリーブ13の圧入時に作動油は用いられなくてよい。なお、作動油の注入に用いられない側の流体通路は作動油の注入時に空気抜きとして利用される。
【0031】
次に、スリーブ13が回転軸12から取り外される場面を説明する。何らかの理由で回転軸12から回転子部品14を取り外す場合、流体通路25a、25bのいずれか一方に油圧源が接続される。こうして油圧源から流路27内に作動油が注入される。作動油はスリーブ13の内周面22とテーパ部12cの外周面21との間に浸透していく。回転軸12のテーパ部12c及びスリーブ13は一端から他端に向かうにつれて径を減少させることから、作動油の働きでスリーブ13は、径が小さくなる方向に回転軸線Xの方向にテーパ部12cから移動する。その結果、スリーブ13すなわち回転子部品14は回転軸12から取り外される。
【0032】
スリーブ13の取り外し時の作動油の圧力は、電動機11の最高回転数や最大トルクによって決定される締め代、スリーブ13の内周面22やテーパ部12cの外周面21のテーパの度合いすなわちテーパ比の程度、スリーブ13の材質、回転子部品14の種類やサイズなどの様々な要因に基づき決定される。ここでは、作動油の圧力は、例えば10MPa〜70MPaの範囲に設定されることが好ましい。ただし、スリーブ13の取り外し作業の安全性や容易性を考慮すると、作動油の圧力は例えば15MPa〜50MPaの範囲に設定されることがより好ましい。
【0033】
テーパ部12cの外周面21及びスリーブ13の内周面22のテーパ比は、例えば1/20〜1/500のテーパ比を有することが好ましく、例えば1/50〜1/200のテーパ比を有することがより好ましい。テーパ比が増大するにつれてスリーブ13を取り外しやすくするものの締結トルクが不十分となる可能性がある。その逆に、テーパ比が減少するにつれて締結トルクが増大する一方でスリーブ13を取り外しにくくなる。また、テーパ比が小さくなるにつれて、必要な締め代に到達するまでに回転軸線Xに沿って大きな押し込み距離が必要とされる。こうした点を考慮してテーパ比が決定される。
【0034】
なお、スリーブ13の取り外し時、スリーブ13が回転軸線Xに沿って移動するまで作動油の圧力を徐々に上げていく方法が採用されてよい。また、作動油の圧力が所定の値に到達するまで圧力を徐々に上げた後、そのまま数分間〜数時間程度にわたってスリーブ13が回転軸線Xに移動するまで放置する方法が採用されてもよい。また、流体通路25a、25bはスリーブ13に代えて回転軸12に形成されてもよい。その他、環状通路28を形成する溝の深さや幅は、溝の形成時の加工の都合に応じて適宜様々な大きさに設定されてよい。また、回転体の釣り合わせを考慮して、流体通路25や環状通路28、永久磁石34は回転軸線X周りに回転対称に配置される。
【0035】
以上のような電動機11では、スリーブ13は内周面22のほぼ全面で回転軸12の外周面21に嵌合することができる。その結果、局所的に過大な嵌め代に基づいてスリーブ13が回転軸12を締め付けることがない。スリーブ13の締め代による締め付け力はスリーブ13の内周面22の全面でほぼ均等に回転軸12の外周面21に作用する。こうしてスリーブ13は従来よりも大きな面積で回転軸12に接触する。従来に比べて小さな締め代で同等の締結トルクを確保することができる。しかも、回転軸12には局所的に締結トルクが作用しないことから、回転軸12の変形や歪みの発生は回避される。こうして回転軸12に高精度にスリーブ13を取り付けることができる。回転軸12での振動の発生は低減される。
【0036】
加えて、上述の構成によれば、スリーブ13は圧入によって回転軸12に装着することが可能であるから、従来は必須であった焼き嵌め作業を省略することができる。その結果、回転子部品14と一体となったスリーブ13の加熱や、焼き嵌め後に常温に戻るまでの時間を省略することができる。その結果、電気炉などの設備は必要とされない。スリーブ13の取付作業の時間を短縮して作業コストを削減することができる。また、加熱の必要がないことから、熱に弱い永久磁石31に影響が及ばない。電動機11の製造コストを抑制することができる。また、スリーブ13と回転軸12との接触面積の増大によって締め代を小さくすることが可能であるので、たとえスリーブ13が回転軸12に焼き嵌めによって取り付けられる場合でも、従来ほどの高温の加熱は必要とされない。
【0037】
さらに、スリーブ13は内周面22のほぼ全面で回転軸12の外周面21に嵌合する。同時に、回転子部品14は内周面32の全面でスリーブ13の外周面23に嵌合する。その結果、スリーブ13が所定の締め代で回転軸12に装着されることによってスリーブ13が膨張する結果、スリーブ13の膨張はスリーブ13に対する回転子部品14の締め代に影響する。この影響の大きさは、回転軸線Xに沿った方向で均一であることから、予めその膨張の大きさを見込んだ締め代で回転子部品14及びスリーブ13を締まり嵌めで装着すれば、局所的に締め代を過剰に増大させることなく、回転軸線Xに沿った方向に均一な締結トルクで回転子部品14及びスリーブ13を装着することができる。その結果、回転軸12の変形や歪みの発生を回避することができる。
【0038】
また、スリーブ13の内周面22に形成される環状通路28によって作動油は回転軸線X周りで回転軸12の全周に均等に注入される。回転軸12の外周面に均等に油圧が作用する。スリーブ13は後端から前端に向かうにつれて厚さを減少させる。その結果、スリーブ13の厚さがもたらす締結トルクの大小によって、圧力の増大とともに作動油はスリーブ13の内周面22と回転軸12の外周面21との間の境界面に沿って、径の小さい後端から径の大きい前端に向かって浸透していく。その結果、回転軸12から容易にスリーブ13を取り外すことが可能である。なお、締め代が比較的に小さい場合など、作動油が回転軸12周りに注入されやすい場合には、環状通路28の形成が省略されてもよい。
【0039】
さらに、流体通路25はスリーブ13のフランジ24に形成される。従って、フランジ24以外の部分ではこれまで以上にスリーブ13を薄肉化することが可能である。こうしてスリーブ13が薄肉化された分だけ回転軸12の径を増大させることができる。回転軸12の径の増大は、回転軸12の剛性を高めることができるとともに回転軸12の固有振動数を高めることができる。例えば回転軸12の最高回転数よりも十分に高い固有振動数まで高めることができる。回転軸12の振動は低減される。こうして回転軸12の性能を向上させることができる。
【0040】
次に、本発明の実施例を説明する。実施例に係る電動機11は埋込磁石型の同期電動機を構成する。電動機11の最高回転数を毎分12000回転に設定した。前述したように、回転子部品14は、回転軸線Xの方向に積層される複数の電磁鋼板の積層体から形成される回転子鉄心29と、回転軸線X周りに例えば等間隔で回転子鉄心29内に埋め込まれる複数の永久磁石31と、を備える。回転子部品14では、外径は132.000mm、内径は104.000mmに設定された。回転軸線Xの方向に規定される回転子部品14の長さは100mmに設定された。
【0041】
スリーブ13への装着にあたって、回転子部品14の締め代が決定される。毎分12000回転の回転数が設定される場合、回転子部品14の内径の膨張量は直径で約40μmに算出される。この算出にあたって、例えば一般的な材料力学の回転円盤の式を利用するか、又は、有限要素解析を利用する。この40μmが締め代として設定されると、電動機が毎分12000回転に達すると、遠心力の作用により締め付け力(すなわち、締結トルク又は伝達トルク)がゼロになることを意味している。従って、実際には、この40μmに加えて、電動機が毎分12000回転で回転している際に発生し得る最大トルクを伝達し得る締め代と、さらに、不慮の回転数超過や過負荷に対するマージン、例えば30μmを加算した数値である70μmが目標の締め代として決定される。なお、マージンは電動機11の仕様や用途によって適宜調整される。
【0042】
目標の締め代が70μmに設定される場合、前述のように、回転子部品14の外径は132.000mm、内径は104.000mmに設定された。その一方で、スリーブ13の外径は104.010mm、内径は、スリーブ13の前端から後端側に60mmの位置で98.000に設定された。回転軸12の外径は、大径位置17から小径位置18側に60mmの位置で98.060mmに設定された。なお、回転軸12の外周面21及びスリーブ13の内周面22のテーパ比は1/50に設定された。このとき、スリーブ13の外周面23に回転子部品14が装着された。
【0043】
具体的には、回転子部品14内にスリーブ13が挿入される。このとき、回転子部品14は所定の温度まで加熱される。前述のように、回転子部品14の内径とスリーブ13の外径との差すなわち締め代は10μm程度であり、しかも、スリーブ13の外径が104.000であるので、例えば回転子部品14が、スリーブ13に対して20℃〜30℃程度高い温度に加熱されればよい。また、回転子部品14はプレスによって常温でスリーブ13に圧入されてもよい。こうして回転子部品14は締まり嵌めによってスリーブ13に仮止めされる。
【0044】
回転子部品14が仮止めされたスリーブ13では、回転子部品14からの圧縮力によってスリーブ13の内径は減少する。例えば原形の内径は98.000mmから直径で5〜6μm程度減少する。この減少の量は、スリーブ13及び回転子部品14の材料や厚さ、断面形状など、各々の剛性のバランスに応じて変化する。こうして回転子部品14がスリーブ13に締まり嵌めで装着されると、回転子部品14の外径は増大する一方でスリーブ13の内径は減少する。
【0045】
続いて、回転子部品14を保持したスリーブ13が、例えば油圧プレスを用いて回転軸12に圧入される。回転軸12のテーパ部12cには前述の潤滑材が塗布された。スリーブ13は、テーパ部12cに嵌め合わせられてプレスでテーパ部12cに押し込まれた。このとき、スリーブ13の前端が回転軸12の段差面19に突き当てられるまで、押し込みは、中断されることなく一気に実施された。このとき、VG22の潤滑材が用いられる場合のプレスの圧力は約15トンに設定された。こうしてスリーブ13がスリーブ13が回転軸12に締まり嵌めで装着されると、スリーブ13の内径が増大するので、回転子部品14とスリーブ13との間で所定の締結トルクが達成されると同時にスリーブ13と回転軸12との間で所定の締結トルクが達成される。
【0046】
なお、以上のような計算にはいくつかの前提条件が設定される。例えば回転軸12は、十分な厚さを有することから、径方向に収縮しないことが前提とされる。回転軸12が収縮すること自体が好ましいことではないため、回転軸12は十分な剛性を備えていることが必要である。また、回転子部品14やスリーブ13は回転軸線Xに沿った方向に僅かに延びる。このため、締め代は前述の70μmから多少減少する。しかしながら、その減少の量は極めて微小であることから、目標の締め代の決定にあたって最後にマージンとして加味される追加の締め代に含めて考慮されれば十分である。
【0047】
以上のような実施例では、回転子部品14が例えば70μmの締め代で回転軸12に固定される必要がある場合、回転子部品14及びスリーブ13の間の締め代と、スリーブ13及び回転軸12の間の締め代との合計が70μmに設定されれば足りる。また、その合計に例えば数μm〜数十μm程度のマージンが追加されてもよい。その一方で、前述の特許文献1に記載の技術では、スリーブはその両端の突部で回転軸に締め付けられる。その結果、スリーブと回転子部品との間の締め代による締結トルクが、2つの突部に分散したスリーブと回転軸との間の締め代に十分に伝達されない。こうして2つの突部での締め代が過度に大きくなり、回転軸の変形や歪みを引き起こすことがある。
【0048】
その一方で、例えば前述の特許文献1のビルトインモータでは、ロータがスリーブに一様の締め代で締まり嵌めによって装着される。その後、スリーブが所定の締め代で焼き嵌めによって回転主軸に装着される。スリーブは所定の凸部でのみ回転主軸に嵌合することから、スリーブと回転主軸との間の締め代は、ロータとスリーブとの間の締め代よりも大きく設定されなければならない。このとき、スリーブは特に回転軸線の方向の両端の凸部で膨張するので、スリーブの両端ではロータとスリーブとの間で所定の締め代よりも過度に大きな締め代となってしまう。その結果、回転主軸には特にスリーブの両端から大きな締め付け力が作用することになり、回転主軸の変形や歪みを引き起こし、回転バランスの悪化、振動の発生などの不都合が生じる。
【0049】
また、特許文献1では、ロータとスリーブとの締め代から予め過度の締め代の分だけ差し引いた締め代が設定されると、スリーブの両端で過度の締め代の生成が緩和されるものの、スリーブの両端同士の間の中間位置の凹部で締め代が不足してしまう。その結果、締結トルクが不足することによってロータの変形や遠心力による隙間が生じ、振動や異音、最悪の場合はロータの空転といったトラブルの原因となってしまう。その一方で、スリーブと回転主軸との間の締め代から予め過度の締め代の分だけ差し引かれると、単純に締結トルクが不足してしまい、ロータの空転につながる。また、ロータとスリーブとの間の締め代を部分的に変化させることも考えられるが、正確に締め代を変化、分布させることは現実的に困難である。
【0050】
図3は、本発明の一実施形態の変形例に係る電動機11を概略的に示す部分縦断面図である。この電動機11では、環状通路28が、前述のスリーブ13の内周面22に形成される溝に代えて、回転軸12の外周面21に形成される溝によって確立される。また、図4は、本発明の第1実施形態の他の変形例に係る電動機11を概略的に示す部分縦断面図である。この電動機11では、環状通路28が、前述のスリーブ13の内周面22に形成される溝と、回転軸12の外周面21に形成される溝とによって確立される。いずれの場合にも、環状通路28の深さや幅は前述と同様に設定されてよい。
【0051】
図5は、本発明の一実施形態のさらに他の変形例に係る電動機11のスリーブ13及び回転子部品14を概略的に示す縦断面図である。図1のスリーブ13において、その内周面22には、回転軸線Xの軸線方向に環状通路28からスリーブ13の前端すなわち回転軸12の大径位置17に向かって直線的に延びる1対の軸線方向通路35が形成される。この軸線方向通路35は、スリーブ13の内周面22に形成される溝によって確立される。軸線方向通路35同士は回転軸線Xに対して回転対称の位置に配置される。軸線方向通路35の先端はスリーブ13の前端よりも後端側に配置される。すなわち、軸線方向通路35はスリーブ13の前端の手前で途切れる。軸線方向通路35の深さや幅は例えば環状通路28と同様に設定される。
【0052】
図6は、本発明の一実施形態のさらに他の変形例に係る電動機11の回転軸12を概略的に示す部分縦断面図である。図6では、回転軸線Xを境界にして回転軸線Xの下側に回転軸12の外周面21が示されている。この変形例では、1対の軸線方向通路35が図3の回転軸12の外周面21に形成される。軸線方向通路35同士は回転軸線Xに対して回転対称の位置に配置される。こうした軸線方向通路35によれば、環状通路28に注入された作動油が環状通路28から軸線方向通路35を通ってスリーブ13の大径位置17に向かって流れる。その結果、回転軸12の外周面21とスリーブ13の内周面22との間に満遍なく作動油を行き渡らせることができる。
【0053】
図7は、本発明の一実施形態のさらに他の変形例に係る電動機11を概略的に示す部分縦断面図である。この電動機11では、回転軸12の外周面21とスリーブ13の内周面22との間に例えば1対の流体封止部材36が挟み込まれる。流体封止部材36は、例えば回転軸線X回りに環状に延びるOリングから形成される。流体封止部材36は、例えばスリーブ13の前端及び後端にそれぞれ隣接しつつその内側で回転軸12の外周面21に形成される環状の溝37、38内にそれぞれ配置される。溝38は、スリーブ13の内周面22における流路27の開口部よりもスリーブ13の後端側に配置される。
【0054】
流体封止部材36は例えばゴムなどの弾性材料から形成される。その結果、スリーブ13が回転軸12の外周面21に固定された状態では、流体封止部材36は弾性変形に基づき回転軸12の外周面21とスリーブ13の内周面22とに押し付けられる。その結果、回転軸12とスリーブ13との間には1対の流体封止部材36によって密閉空間が確立される。こうした流体封止部材36によれば、回転軸12とスリーブ13との間に注入される作動油が流体封止部材36、36の間の密閉空間に閉じ込められる。スリーブ13から回転軸12の外周面21に沿ってスリーブ13の外側に作動油が漏れ出すことを防止することができる。その一方で、例えばスリーブ13の内周面22に形成される環状の溝内に例えばOリングを配置した場合、スリーブ13に所定の厚さを必要とするので、スリーブ13の内径の減少を招く。その結果、回転軸12の外径を減少させてしまうため好ましくない。
【0055】
図8は、本発明の他の実施形態に係る電動機11を概略的に示す部分縦断面図である。この電動機11では、回転軸線Xの軸線方向に回転子部品14の外側でスリーブ13の外周面23に例えば1対の環状部材39、41が固定される。環状部材39、41はスリーブ13の外周面23に例えば締まり嵌めによって固定される。環状部材39、41はスリーブ13の前端及び後端に隣接する領域でスリーブ13に所定の締結トルクを作用させる。なお、環状部材41はフランジ24上に配置される。こうした環状部材39、41によれば、回転軸12とスリーブ13との間に注入される作動油がスリーブ13から回転軸12の外周面21に沿って外側に漏れ出すことを防止することができる。
【0056】
なお、流体封止部材36はスリーブ13の前端及び後端のいずれか一方の端部に隣接する位置のみに配置されてもよい。同様に、環状部材39、41は、スリーブ13の前端及び後端のいずれか一方の端部に隣接する位置のみに配置されてもよい。また、例えばスリーブ13の前端及び後端のいずれか一方に流体封止部材36が配置される一方で、スリーブ13の前端及び後端のいずれか他方に環状部材が配置されてもよい。なお、スリーブ13すなわち回転軸12に対する環状部材39、41の締結トルクは、スリーブ13の取り外しを妨げない程度の大きさに設定されることが好ましい。
【0057】
図9は、本発明のさらに他の実施形態に係る電動機11を概略的に示す部分縦断面図である。この電動機11では、流体通路25a、25bの形成が省略されている。また、回転軸12の外周面21には、回転軸線Xの軸線方向の外側でスリーブ13の後端に隣接して環状の規制部材42が固定される。ここでは、規制部材42は、スリーブ13の後端に規定される後端面を受け止める。こうして規制部材42は、回転軸線Xの軸線方向にスリーブ13の抜けを規制する。規制部材42は例えば焼き嵌めやねじによって回転軸12に固定される。こうした構成は、例えば比較的に低い回転数が設定される電動機11や、締め代が比較的に小さい電動機11に好適に適用される。回転子部品14の取り外しにあたって、規制部材42の取り外し後、プレスなどで軸線方向にスリーブ13が押されることによって回転軸12からスリーブ13を取り外すことが可能である。このとき、作動油の注入は不要である。
【0058】
以上のような電動機11では、スリーブ13はフランジ24で厚みを増大させる。こうしてスリーブ13の厚さに変化がある場合に一定の締め代でスリーブ13が回転軸12に締まり嵌めされると、フランジ24以外の部分に比べて大きな厚みを有するフランジ24の部分で回転軸12に対して相対的に大きな面圧力が作用する。その結果、スリーブ13はフランジ24の部分で、過度に大きな締結トルクで回転軸12に固定されてしまう。こうして回転軸線Xの軸線方向にスリーブ13の締め代が変化する場合には、回転軸12の歪みや変形に基づいて回転精度が悪化する、又は、スリーブ13の取り外し時に余計に高い圧力で作動油が注入されなければならない、などの問題や無駄が生じる原因となる。
【0059】
従って、こうした点を回避すべく、例えばフランジ24の厚さの大きさに応じて、締め代が適宜調整されることが好ましい。締め代の調整にあたって、フランジ24の部分でスリーブ13の内周面22のテーパ比がフランジ24以外の部分のテーパ比から変更されてよく、又は、フランジ24の部分の内周面22が回転軸線X周りに円筒状の内周面22に変更されてもよい。同様に、回転軸12の外周面21のテーパ比が変更されてもよい。また、フランジ24の部分のスリーブ13の内周面22や対応の回転軸12の外周面21に例えば溝などのいわゆる逃げ加工が実施されてもよい。ただし、こうした締め代の調整は、スリーブ13から外側に作動油が漏れない程度の大きさに設定されることが好ましい。
【0060】
以上のような電動機11は、前述の磁石埋込型の同期電動機に代えて、図10に示されるように、例えばかご型の誘導電動機を構成してもよい。この電動機11では回転子部品14は、例えば回転軸線Xに沿って積層される複数の電磁鋼板の積層体から形成される鉄心51と、鉄心51内に配置される複数の導体バー52と、を備える。導体バー52は、回転軸線X周りに例えば等間隔に配置されるとともに鉄心51の外周面に隣接して配置される。回転子部品14は、回転軸線Xの軸線方向の鉄心51の両端に配置される1対の環状の導体エンドリング(図示せず)を備える。この導体エンドリングは、導体バー52の両端を電気的に短絡させる。導体バー52及び導体エンドリングは例えばアルミニウムといった導電金属材料から形成される。
【0061】
以上のようなかご型の誘導電動機を構成する電動機11では、図11に示されるように、回転子部品14は、回転軸線Xに直交する径方向の外側から導体エンドリング53、53をそれぞれ囲む補強リング54、54をさらに備えてもよい。この補強リング54は例えばチタン合金等の金属材料から形成される。補強リング54の外径は鉄心51の外径に一致するとともに補強リング54の内径は鉄心51の内径に一致する。こうした補強リング54の働きで例えば遠心力による導体エンドリング53の破壊を防止することができる。図12に示されるように、補強リング54には前述の導体バー52をそれぞれ受け入れる複数の貫通孔55が形成される。こうして導体バー52と導体エンドリング53との短絡が実現される。なお、こうした電動機11は、例えば毎分20000回転を超える高速回転の場合に利用される。
【0062】
このかご型の誘導電動機で、例えばスリーブ13を介さずに回転子部品14を焼き嵌めで取り付ける場合を想定する。回転子部品14の内径が60mmで、締め代が例えば直径で0.1mmの時、鉄心51を形成する鉄の線膨張係数は12×10-6であるので、回転軸12の温度が20℃であるとすると、回転子部品14が約250℃まで加熱されると、焼き嵌め時の隙間は約65μmとなる。回転子部品14はチタン合金製の補強リング54を有しており、チタン合金の線膨張係数は8.4×10-6で鉄の0.7倍程度であるので、補強リング54の部分の隙間は15μm程度にしかならない。その結果、例えば300℃などのより高温まで回転子部品14が加熱されないと、十分な隙間が確保されない。しかしながら、温度が高温になるにつれて焼き嵌め後の回転子部品14の歪みが増大し、焼き嵌めが失敗するリスクが増大するとともに安全上も好ましくない。
【0063】
その一方で、本発明の電動機11では、例えば0.02mmの締め代でスリーブ13に回転子部品14を焼き嵌めで装着する。このとき、締め代が0.02mmの場合には、スリーブ13と回転子部品14との温度差は、補強リング54がチタン合金製であることを考慮しても、例えば120℃程度あれば足りる。このとき、30μm程度の隙間が確保されればよい。その後、スリーブ13と回転軸12との間で80μmの締め代を確保しつつスリーブ13を回転軸12に圧入すれば、トータルで100μmすなわち0.1mmの締め代で締まり嵌めを実現することができる。こうして本発明によれば、チタン合金などの線膨張係数が小さい部材を有する回転子部品14を回転軸12に装着する際に、従来に比べて簡略化することができる。また、過度の加熱が必要とされないことから、回転軸12の歪みや変形を抑制することができる。
【0064】
また、電動機11は、前述の磁石埋込型の同期電動機に代えて、図13に示されるように、例えば磁石表面貼付型の同期電動機を構成してもよい。この電動機11では回転子部品14は、例えば回転軸線Xに沿って積層される複数の電磁鋼板の積層体から形成される鉄心56と、回転軸線X周りに例えば等間隔に配置されて鉄心56の外周面に貼り付けられる複数の永久磁石57と、を備える。永久磁石57は例えば接着剤によって鉄心56の外周面に貼り付けられる。永久磁石57は、例えば鉄心56の外周面に形成される溝内に嵌め込まれる。なお、鉄心56は例えばS45Cなどの炭素鋼を含む磁性体から形成されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
11 電動機
12 回転軸
13 スリーブ
14 回転子部品
17 大径位置
18 小径位置
21 外周面
22 内周面
23 外周面
25 流体通路
28 環状通路
35 軸線方向通路
36 流体封止部材
39 環状部材
41 環状部材
42 規制部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1径を有する大径位置から前記第1径よりも小さい第2径を有する小径位置に向かうにつれて減少する径を有する外周面を規定する回転軸と、
前記大径位置に隣接する前端から前記小径位置に隣接する後端に向かうにつれて減少する径を有する内周面で前記回転軸の外周面に嵌合して前記回転軸に締まり嵌めで装着されるスリーブと、
前記スリーブの外周面に締まり嵌めで装着される円筒状の回転子部品と、を備えることを特徴とする電動機。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機において、前記スリーブの外周面を含む前記スリーブの外側面から前記スリーブの内周面まで貫通する流体通路を備えることを特徴とする電動機。
【請求項3】
請求項2に記載の電動機において、前記スリーブの内周面と前記回転軸の外周面との間に形成されて前記回転軸の回転軸線回りに環状に延び、前記流体通路に接続される環状通路を備えることを特徴とする電動機。
【請求項4】
請求項3に記載の電動機において、前記スリーブの内周面と前記回転軸の外周面との間に形成されて、前記回転軸線の方向に前記環状通路から前記大径位置に向かって延びる軸線方向通路を備えることを特徴とする電動機。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の電動機において、前記スリーブの内周面と前記回転軸の外周面との間に挟み込まれて、前記流体通路よりも前記スリーブの前端側及び後端側の少なくともいずれか一方の側に配置される流体封止部材を備えることを特徴とする電動機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電動機において、前記スリーブの前端及び後端の少なくともいずれか一方の端部に隣接して前記スリーブに締まり嵌めで装着される環状部材を備えることを特徴とする電動機。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電動機において、前記スリーブの後端で前記回転軸の外周面に装着されて、前記スリーブの前記回転軸からの抜けを規制する規制部材を備えることを特徴とする電動機。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電動機を備えることを特徴とする工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−9528(P2013−9528A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140927(P2011−140927)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】