説明

回転電機およびその製造方法

【課題】回転電機の効率を向上させるために、電機子コイルエンドの電線重なりによる凹凸をなくして風損を低減する方法が提案されているが、生産タクトの低下や整流子側のコイルエンドの風損を低減できないなどの課題があった。
【解決手段】電機子巻線固着用に用いる塗布材として、無機充填材を添加した低粘度樹脂液を用いることにより、スロット内電線固着とコイルエンド凹凸を滑らかにできるほど厚く塗布することを両立でき、高効率化した回転電機を提供できる。積層コア1に形成されたスロット内部に、絶縁紙をはさんで、電線がコイル状に巻回してある。その電線はファン側コイルエンド2と整流子側コイルエンド3で重なり合い、その表面は電線による凹凸が存在している。その凹凸を覆ってコイルエンドを滑らかにするように塗布材4が塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機充填材を添加した低粘度樹脂液を、電機子の巻線に塗布したことを特徴とする回転電機、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機のステータ、あるいはロータのコイルを固着するために、所謂ワニスを塗布することは一般的に行われている。ワニスを塗布する主な目的は、電動機回転時において電線が動くことによる振動や音を抑制したり、電線同士が擦れることによる絶縁皮膜劣化に起因する絶縁性低下を防止したりすることである。そのため、ワニス塗布はスロット内の電線同士およびスロットと電線を十分に固着させることが重要であった。
【0003】
一方、回転電機には高効率化が求められている。回転電機では、鉄損、銅損、軸受損やブラシ摩耗損などの機械的損失、風損などが生じるため、効率向上のためには、これらの損失を低減することが重要となる。また、回転電機の回転速度には高速化が要求され、特に掃除機用ブロワモータなどでは4万回転/分以上の高速回転で駆動しているのが現状である。このような高速回転下では風損が大きくなり、約10%程度にも達する。そのため、この風損を低減することが回転電機の効率向上に大きく寄与することになる。
【0004】
一般的に電機子巻線を有する電機子のコイルエンドでは、上記ワニス塗布を施していてもワニスは電線同士を固着する程度しか塗布されていないため、電線の重なりによる凹凸があった。この凹凸によって乱流が発生して風損が増大していた。
【0005】
この風損を低減するための方法として、例えば特許文献1〜4が提案されている。
【0006】
特許文献1では、粘度の異なる電気絶縁性を有する塗布材を2回以上、複数回塗布することで塗布材の厚みを増加させて、上記コイルエンドの電線による凹凸を滑らかにする技術が開示されている。特に、粘度の低い塗布材を先に塗布して、塗布材を電線間に浸透させて、スロット内の電線同士やスロットと電線を固着させておき、次に粘度の高い塗布材を塗布することでコイルエンドに厚く塗布する技術である。
【0007】
特許文献2では、絶縁モールド材でコイルエンドを平坦化すると同時にバランス調整部材も一体化して成形する技術が開示されている。
【0008】
特許文献3では、電機子のファン側巻線部の外周を絶縁材からなる風損低減カバーで覆う技術が開示されている。
【0009】
特許文献4では、塗布する電気絶縁性樹脂の流れを抑制する樹脂移動抑制部材をコイルエンドの回転軸外周部に設けて、樹脂をコイルエンドに滑らかに塗布する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−304612号公報
【特許文献2】特開平6−233510号公報
【特許文献3】特開2001−8425号公報
【特許文献4】特開2009−303440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した特許文献1では、粘度の異なる2種以上の塗布材を必要とし、かつ2回以上、複数回塗布するため、塗布材の交換や複数回塗布による生産性の向上が要点となりやすく、粘度の異なる塗布材毎に塗布装置が必要になるなどの工夫を要する。
【0012】
特許文献2では、回転バランス調整材も兼ねた絶縁モールド材を一体成形するため、複雑な構造の金型が必要であり、また成形時の圧力などで電線の絶縁性能の維持に工夫を要し、あるいは断線等にも工夫を要する。さらに、回転バランス調整材としても使用するためには密度の大きなモールド材を用いる必要があるため、電機子自体の重量が大きく増加する傾向が強く、軸受損の増大に対しても何らかの工夫を要する。
【0013】
特許文献3では、風損低減カバーとコイルエンド間の空気層により巻線温度が上昇して銅損が増加する傾向が強い。また、掃除機用モータとして使用するためには、高速で回転する電機子の遠心力に耐える風損低減カバーを別途必要となる。その場合には、厚く大きなカバーとなる傾向が強く、実用性についても何らかの工夫を要する。
【0014】
特許文献4では、樹脂移動抑制部材を設けていることにより、低粘度のワニスもある程度厚く塗布することは可能であるが、電線間隙間やスロット内に十分なワニスを塗布し難い傾向が強く、かつ、コイルエンドの電線凹凸を滑らかにできるほどのワニスを塗布するためには、大きな樹脂移動抑制部材を別途必要となる。また、この樹脂抑制部材は、電機子の整流子側のコイルエンドには設置できないため、整流子側の風損は抑制には寄与しない。
【0015】
以上のことから、本発明では、低粘度樹脂液に無機充填材を添加した塗布材を電機子コイルエンド部分に塗布することで、電線同士およびスロットと電線を十分に固着させるとともに、コイルエンド部の電線の重なりによる凹凸を覆い滑らかにして風損を低減して高効率化可能な回転電機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
少なくとも界磁巻線を有する界磁と、電気絶縁性を有する塗布材を塗布した電機子巻線を有する電機子から構成される回転電機において、前記塗布材として無機充填材を添加した低粘度樹脂液を用いることを特徴とする回転電機により、かかる従来の課題を解決できる。
【0017】
なお、低粘度樹脂液が不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ変性不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂の少なくとも1種の熱硬化性樹脂であることが好ましい。また、低粘度樹脂液の25℃における粘度が1Pa・S以下であることが好ましい。
【0018】
また、無機充填材が炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ガラスパウダー、酸化チタンなどの金属酸化物、あるいはガラス繊維やチタン酸カリウム繊維などの繊維状物質から選択される少なくとも1種であることが好ましく、無機充填材の最大寸法が300μm以下であり、かつ最小寸法が1μm以上であることが好ましい。
【0019】
なお、塗布材中の無機充填材の割合が30〜70重量%であることが好ましい。
【0020】
また、塗布材を塗布する前の電機子を加熱する予熱工程と、シャフトを中心に電機子を自転させながら、塗布材を滴下塗布あるいは押出塗布する工程と、塗布後の電機子をさらに加熱して塗布材を硬化させる工程を有することを特徴とする回転電機の製造方法により、かかる従来の課題を解決できる。
【0021】
なお、電機子の予熱温度を、塗布材のゲル化開始温度以下に制御した状態で、塗布材を塗布することが好ましい。
【0022】
第1の発明は、少なくとも界磁巻線を有する界磁と、電気絶縁性を有する塗布材を塗布した電機子巻線を有する電機子から構成される回転電機において、前記塗布材として無機充填材を添加した低粘度樹脂液を塗布する。
【0023】
第2の発明は、第1の発明の回転電機において、低粘度樹脂液が不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ変性不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂のうち、少なくともいずれか一種を含む熱硬化性樹脂である。
【0024】
第3の発明は、第1の発明又は第2の発明の回転電機おいて、低粘度樹脂液の25℃における粘度の上限値が1Pa・Sである。
【0025】
第4の発明は、第1の発明の回転電機において、無機充填材が炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ガラスパウダー、酸化チタンなどの金属酸化物、あるいはガラス繊維やチタン酸カリウム繊維などの繊維状物質のうち、少なくともいずれか一種を含む熱硬化性樹脂である。
【0026】
第5の発明は、第1の発明又は第4の発明の回転電機において、無機充填材の寸法の上限値が300μmであり、無機充填材の寸法の下限値が1μmである。
【0027】
第6の発明は、第1の発明の回転電機において、塗布材中の無機充填材の割合が30〜70重量%である。
【0028】
第7の発明は、第1の発明の回転電機を製造する回転電機の製造方法において、塗布材を塗布する前の電機子を加熱する予熱工程と、シャフトを中心に電機子を自転させながら、塗布材を滴下塗布あるいは押出塗布する工程と、塗布後の電機子をさらに加熱して塗布材を硬化させる工程を有する。
【0029】
第8の発明は、第7の発明の回転電機の製造方法において、電機子の予熱温度を、塗布材のゲル化開始温度以下に制御した状態で、塗布材を塗布することを特徴とする回転電機の製造方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明では、無機充填材を添加した低粘度樹脂液を塗布材として用いることで、スロット内の電線同士およびスロットと電線を十分に固着させることと、コイルエンド部の電線の重なりによる凹凸を覆い滑らかに塗布することを両立できる。
【0031】
低粘度樹脂液のみでは、電線間の小さな隙間にも浸透してスロット内の電線同士およびスロットと電線を十分に固着させることは可能であるが、コイルエンド部の電線の重なりによる凹凸を覆うほど厚く塗布することは困難である。そのため、無機充填材を添加して塗布材自体の粘度を上昇させることで、厚く塗布することが可能となる。
【0032】
なお、粘度が上昇したことで小さな隙間への浸透性が低下すると考えられるが、鋭意検討した結果、無機充填材の種類、大きさ、添加割合を調整することや、塗布方法および条件を本発明記載の方法とすることで、十分な浸透性を有するものとすることができる新たな効果が得られる。
【0033】
そのため、電機子のファン側のみならず、整流子側のコイルエンド部にも、容易に塗布できるため、風損を一層低減でき、回転電機の高効率化を図ることが可能である。
【0034】
また、本発明の製造方法は、従来のワニス塗布装置も使用可能なため、容易に実現、工業化可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の回転電機の電機子部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態及び実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0037】
以下、本発明を更に詳しく説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0038】
本発明に用いられる低粘度樹脂液は、通常、電機子コイル固着用に用いられる液状ワニスであればよく、特に不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ変性不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が好ましい。
【0039】
なお、この液状樹脂に無機充填材を添加して粘度を上昇・調整するため、樹脂自体の粘度は小さい樹脂が好ましい。その粘度は、25℃において1Pa・S以下であることが好ましく、0.7Pa・S以下が、より好ましい。これ以上粘度の大きな樹脂を用いると、電機子スロット内への樹脂の浸透性が低下して、電線固着が不十分になる場合もあり、塗布時間に長時間を要する可能性がある。
【0040】
また、本発明に用いられる無機充填材は、一般的に粘度調整などに用いられる無機物質を使用することができ、増粘効果や粒度の多様性、価格等を考慮すると、例えば、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ガラスパウダー、酸化チタンなどの金属酸化物、あるいはガラス繊維やチタン酸カリウム繊維などの繊維状物質が好ましい。塗布材を塗布した後の電線の状態などを観察するためには透明の塗布材の方がよいため、ガラスパウダーが最も好ましい。なお、これらの無機充填材は複数種類混合して使用しても勿論かまわない。
【0041】
また、スロット内の電線同士およびスロットと電線を十分に固着させることと、コイルエンド部の電線の重なりによる凹凸を覆い滑らかに塗布することを両立するために、添加する無機充填材の寸法は1〜300μmの範囲で、樹脂液への添加割合は30〜70重量%であることが好ましい。特に、寸法は5〜100μm、添加割合は40〜60重量%の範囲が、適度な粘度を得られやすいため、より好ましい。
【0042】
この範囲よりも寸法が小さな場合や添加割合が大きな場合は、添加剤としての粘度が大きくなり過ぎ、スロットへの浸透性が低下したり、塗布自体が困難になったりする可能性がある。また、この範囲よりも寸法が大きな場合や添加割合が小さな場合は、添加剤としての粘度が小さくなり過ぎ、コイルエンド部の電線の凹凸を滑らかに覆うほど厚く塗布できず、電機子シャフトやコア、整流子銅子片間などへの塗布材の流れ込みなどが発生して不具合の原因となる可能性がある。
【0043】
ただし、無機充填材の寸法や添加割合は、樹脂液の粘度や無機充填材の形状に大きく左右されるため、必ずしもこの範囲に限定されるものではなく、塗布材としての浸透性と厚塗り性のバランスで決定される。
【0044】
上記樹脂液と無機充填材については、塗布時の温度や電機子回転数、塗布速度、塗布時間などの塗布条件や、予熱・硬化条件、さらには塗布される電機子の形状・寸法、電線寸法・巻数など、様々な要因で最適な塗布材が存在するため、上記範囲は一例であり、この範囲に限定されるものではない。
【0045】
なお、低粘度樹脂液と無機充填材の混合には、塗布材の粘度によって適当な混合方法を用いればよい。例えば、羽根式撹拌混合機、バンバリーミキサー、ロール、遊星型混合機など、どのような混合機を用いても良い。
【0046】
また、塗布材には、ステアリン酸アミドやオレイン酸アミドなどの滑剤や、酸化防止剤、難燃剤、耐候剤なども添加してもかまわない。
【0047】
本発明の回転電機の製造方法では、予熱しておいた電機子を、シャフトを中心にして自転させながら、塗布材を滴下塗布あるいは押出塗布した後、電機子をさらに加熱して塗布材を硬化させる方法である。予熱された電機子のコイルエンド部に塗布された塗布材は、その熱により一旦急激に粘度が低下して、電機子スロット内や電線間の隙間に浸透する。
【0048】
さらに、ゲル化開始温度以上まで加熱されると、急激に粘度が上昇し始め、コイルエンド部の電線上に厚く堆積して、電線の重なりによる凹凸を覆って滑らかな状態になる。その状態なってから硬化温度まで加熱して、最終的に塗布材を硬化させる。
【0049】
塗布時に、電機子を自転させることにより、塗布した塗布材がゲル化開始前に垂れることを抑制するとともに、均一に塗布材を浸透させ、かつコイルエンド部に塗布された塗布材表面を滑らかにすることができる。また、シャフトを自転軸としているため、シャフトを中心に対称型円錐状に塗布できるため、軸荷重のアンバランスが生じにくいという特徴もある。この自転速度は、塗布材が垂れない程度であればよい。
【0050】
なお、塗布終了後、硬化加熱時も自転させていても、勿論かまわない。また、塗布材を効率的に浸透させ、整流子銅子片間など塗布しない部分への塗布材の流れ込みを抑制するために、電機子の自転軸を傾斜させて塗布させても、勿論かまわない。
【0051】
なお、電機子の予熱温度を、塗布材のゲル化開始温度以下に制御した状態で、塗布材を塗布することで、塗布材を十分浸透させることが好ましい。ただし、ゲル化が比較的ゆっくりと進む樹脂の場合は、ゲル化開始温度以上に予熱しておいてもかまわず、生産効率を向上させることができる。
【0052】
また、塗布時にコイルエンド部に熱風を照射するなどの方法で、内部の塗布材は未だ粘度が低い状態で浸透性を保ちつつ、滴下した塗布材の表面のみを早くゲル化させ厚く塗布できるようにさせて、塗布時間の短縮を図ることも可能である。
【0053】
なお、電機子の大きさやコイルエンド部の凹凸を無くすために必要とされる塗布量によっては、複数回塗布しても、勿論かまわない。その場合は、以前の塗布材が完全に硬化する前、少なくともゲル化した状態で次の塗布材を塗布してもかまわないし、完全に硬化した後に塗布してもかまわない。
【0054】
塗布方法は、塗布材の粘度によって、滴下塗布あるいは押出塗布が選択できる。粘度が大きく滴下塗布が困難な場合は、押出塗布することが好ましい。
また、粘度が大きな場合は、塗布材を予めゲル化開始温度以下に加温して粘度を低下させた状態で塗布してもかまわない。
【0055】
なお、コイルエンド部の電線凹凸を無くすための塗布材厚塗りは、ファン側コイルエンド、整流子側コイルエンドの少なくとも一方であればよく、もちろん両側に厚く塗布してもかまわない。
【0056】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0057】
(実施の形態1)
図1は、第1の実施の形態における回転電機の電機子部分断面図を示すものである。
積層コア1に形成されたスロット内部に、絶縁紙をはさんで、電線がコイル状に巻回してある。その電線はファン側コイルエンド2と整流子側コイルエンド3で重なり合い、その表面は電線による凹凸が存在している。その凹凸を覆ってコイルエンドを滑らかにするように塗布材4が塗布されている。なお、整流子5、シャフト6、軸受7については、特に説明は要しないため詳細な記述は割愛する。
【実施例1】
【0058】
以下に、具体的な実施例の一例を示す。低粘度樹脂液として不飽和ポリエステルである日立化成工業製WP2851と硬化剤CT48の混合樹脂液を用いた。なお、その混合重量比率は100:2で、この樹脂液の25℃での粘度は0.5Pa・Sである。
【0059】
無機充填材として、日東紡製ガラスパウダーであるPF E−301を用いて、上記低粘度樹脂液に添加量を変化させて添加・混合した。なお、このガラスパウダーは直径10μmのガラス繊維を長さ数μm〜100μm程度に砕いたものである。
【0060】
添加量は、0、20、30、50、70、80wt%の6種類を作成した。なお、混合には自転・公転する遊星型混合機を用いた。
【0061】
電機子は、厚み20mm、外径40mmで22スロットを有する積層鉄芯コアに、直径0.5mmの電線を巻回し、片側に直径20mm、高さ18mmの整流子を配した電機子を用いた。なお、コイルエンド部の高さは、整流子側で約10mm、ファン側で約7mmであった。
【0062】
この電機子を110℃に予熱して、シャフトを水平より5°傾けて整流子側を上に向けて回転治具に取付け、自転速度25回転/分で回転させながら、上記塗布材を塗布した。なお、無機充填材添加量0〜70%塗布材は、チュービングポンプを用いた滴下塗布を行い、無機充填材添加量80%はスクリューポンプを用いた押出塗布を行った。
【0063】
塗布は、ファン側、および整流子側のコイルエンド部に同時に行い、塗布量は無機充填材添加量にかかわらず、ほぼ同容積になる量を塗布した。
【0064】
この結果、無機充填材添加量が0および20%は塗布時に、塗布材が多く垂れ落ちてしまい、コイルエンド部に厚く塗布することができなかった。
【0065】
塗布後、自転させたまま140℃の恒温槽に入れて20分間硬化させた。塗布材の塗布状況(外観およびコア部を輪切りにしてスロット内の塗布材浸透状況を確認)と電機子を回転電機に組み付けて効率を測定した結果を(表1)に示す。なお、効率は、無機充填材添加量0%を基準にした増減で示している。
【0066】
【表1】

この結果より、無機充填材を30%以上添加した塗布材を塗布することで、コイルエンドの電線凹凸を殆どなくし滑らかにでき、効率を0.3〜0.4%程度向上させることができた。
【0067】
ただし、無機充填材を80%添加した場合は、スロット内への塗布材浸透が不十分で、電線同士およびスロットと電線を十分に固着させることができていなかった。そのため、回転電機の効率は向上できるものの、音や振動の発生や電線絶縁性に関する信頼性に問題が発生する可能性が高いと考えられる。
【0068】
以上の結果より、スロット内の電線同士およびスロットと電線を十分に固着させることと、コイルエンド部の電線の重なりによる凹凸を覆い滑らかに塗布することを両立でき、回転電機効率向上と信頼性を確保できる無機充填材添加割合は、30〜70重量%であることが判った。
【実施例2】
【0069】
実施例1の無機充填材を、粒度範囲を1〜60μm、平均粒径10μmの炭酸カルシウムに変更して、他は実施例1と同様の試験を行った。なお、無機充填材添加量80%では、安定した塗布が困難であり電機子が作成できなかった、その代わりに添加量25%の塗布材を作成して塗布した。
【0070】
この場合も実施例1と同様に、添加量0および20%は塗布時に、塗布材が多く垂れ落ちてしまい、コイルエンド部に厚く塗布することができなかった。
結果を(表2)に示す。
【0071】
【表2】

この結果、実施例1より粒径の細かい無機充填材の場合、無機充填材添加量は25〜70%で、コイルエンドの電線凹凸を殆どなくし滑らかにできることが判った。ただし、70%ではスロット内の塗布材浸透が少し不足気味であり、塗布条件をさらに最適化する必要がある。
【実施例3】
【0072】
実施例1の低粘度樹脂液を、日東シンコー製NV270と硬化剤No.5(t−ブチルパーオキシベンゾエート) に変更して、他は実施例1と同様の試験を行った。なお、NV270と硬化剤の混合重量比率は100:2として、25℃での粘度は0.25Pa・Sであった。その結果を(表3)に示す。
【0073】
【表3】

この結果、低粘度樹脂液を変更しても実施例1とほぼ同様の効果が得られることが判った。
【実施例4】
【0074】
実施例1と同様の塗布材(無機充填材添加量50%)を用いて、電機子予熱温度を、90、110、120、130、140℃に変化させて塗布を行った。なお、他の条件は実施例1と同様である。
各条件における塗布状況(外観およびコア部を輪切りにしてスロット内の塗布材浸透状況を確認)を(表4)に示す。
【0075】
【表4】

この結果、電機子予熱温度が高温になると、塗布材がスロット内に十分浸透する前に、ゲル化あるいは硬化が開始して、スロット内の電線同士やスロットと電線を十分に固着させることができないことが判った。そのため、電機子予熱温度はゲル化温度以下とすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、風損を低減して効率を向上させた回転電機を簡便な方法で提供でき、省エネルギーが実現でき、地球環境負荷低減に貢献できる。
【0077】
また、本発明の回転電機の製造方法は、従来の塗布材の滴下塗布装置などをそのまま、あるいはポンプ変更などの少しの変更で使用することができるため、装置コストを抑制でき、製造条件なども大きな変更・調整する必要がなく、容易に導入可能であり、産業上有効である。
【符号の説明】
【0078】
1 積層コア
2 ファン側コイルエンド
3 整流子側コイルエンド
4 塗布材
5 整流子
6 シャフト
7 軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも界磁巻線を有する界磁と、電気絶縁性を有する塗布材を塗布した電機子巻線を有する電機子から構成される回転電機において、前記塗布材として無機充填材を添加した低粘度樹脂液を塗布する回転電機。
【請求項2】
請求項1記載の回転電機において、低粘度樹脂液が不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ変性不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂のうち、少なくともいずれか一種を含む熱硬化性樹脂である回転電機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の回転電機おいて、低粘度樹脂液の25℃における粘度の上限値が1Pa・Sである回転電機。
【請求項4】
請求項1記載の回転電機において、無機充填材が炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ガラスパウダー、酸化チタンなどの金属酸化物、あるいはガラス繊維やチタン酸カリウム繊維などの繊維状物質のうち、少なくともいずれか一種を含む熱硬化性樹脂である回転電機。
【請求項5】
請求項1又は請求項4のいずれかに記載の回転電機において、無機充填材の寸法の上限値が300μmであり、無機充填材の寸法の下限値が1μmである回転電機。
【請求項6】
請求項1記載の回転電機において、塗布材中の無機充填材の割合が30〜70重量%である回転電機。
【請求項7】
請求項1記載の回転電機を製造する回転電機の製造方法において、塗布材を塗布する前の電機子を加熱する予熱工程と、シャフトを中心に電機子を自転させながら、塗布材を滴下塗布あるいは押出塗布する工程と、塗布後の電機子をさらに加熱して塗布材を硬化させる工程を有する回転電機の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の回転電機の製造方法において、電機子の予熱温度を、塗布材のゲル化開始温度以下に制御した状態で、塗布材を塗布することを特徴とする回転電機の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−66323(P2013−66323A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204080(P2011−204080)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】