説明

回転電機および回転電機の絶縁方法

【課題】油量を極力抑えつつ部分放電の発生を防止することができると共に、設計上の制約を緩和することができる回転電機の固定子を提供する。
【解決手段】電動機10は、巻線部18u〜18wにおいて最も分担電圧が高くなる端子側コイルたる第1コイルU1〜W1’と中性点側コイルたる第4コイルU4〜W4’との接触部に対して、滴下装置22により油21を直接供給するように構成されている。このため、ケーシング内に油を貯留していた従来とは異なり、油量を極力抑えながらも部分放電の発生を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子鉄心とこの固定子鉄心に巻装される巻線部とを備えた回転電機および回転電機の絶縁方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転電機は、環状に配列されたティースを有する固定子鉄心と、このティースに周方向にずれた位置で夫々巻回された複数のコイルを有する巻線部とを備えて構成されている(例えば、特許文献1参照)。
この種の回転電機においては、その出力を高めるためにインバータを用いて駆動することが行われている。インバータの出力電圧はパルス状であり、電圧変化率が高いため、非常に高い周波数成分を含んでいる。このインバータの出力電圧は、電源ケーブルを介して回転電機に供給されることから、回転電機と電源ケーブルとの間における反射などが原因で、巻線部には、インバータの出力電圧以上のサージ電圧が印加されることが知られている。さらに、このサージ電圧は、巻線部を構成する複数のコイルに不平等に分担されることも知られている。
【0003】
そこで、特許文献1の回転電機では、回転子および固定子を収容するケーシング内に油を貯留し、前記複数のコイルのうち、分担電圧が最も高くなる第1巻コイルと第2コイルとの間を当該油で浸すことにより、これらコイル間で生じる虞のある部分放電を防止している。
【特許文献1】特開2008−35582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の回転電機では、各相つまりU相、V相、W相の夫々の巻線部において第1コイルと第2コイルとの間を、油中に浸すべく下方に配置する必要がある。即ち、上記構成において回転子がケーシング内の油に浸されると、当該回転子の回転に対する抵抗になり回転電機の駆動に影響を来たすことになる。このため、各相の巻線部の第1コイル及び第2コイルを、夫々固定子鉄心の下部に集中するように巻回すると共に、ケーシング内の油量を、各相の第1コイルと第2コイルとの間を油浸し且つ回転子を浸さないように設定しなければならない。これが、回転電機の設計上の大きな制約となっている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、油量を少なく抑えつつ部分放電の発生を防止することができると共に、設計上の制約を緩和することができる回転電機および回転電機の絶縁方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1の回転電機は、回転子と、この回転子と対向配置された固定子鉄心を有する固定子と、前記固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部と、前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルと、この端子側コイル以外のコイルとの接触部に対して油を直接供給する油供給手段とを具備していることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項3の回転電機は、回転子と、この回転子と対向配置された固定子鉄心を有する固定子と、この固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部と、前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルに対して油を直接供給する油供給手段とを具備していることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項6の回転電機は、回転子と、この回転子と対向配置された固定子鉄心を有する固定子と、前記固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部と、前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルと、この端子側コイル以外のコイルとの接触部に供給された油と、前記接触部にて前記油を保持し、且つ前記油を前記接触部ごと覆うように形成された被覆部とを具備していることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項8の回転電機は、回転子と、この回転子と対向配置された固定子鉄心を有する固定子と、この固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部と、前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルに供給された油と、前記端子側コイルにて前記油を保持し、且つ前記油を前記端子側コイルごと覆うように形成された被覆部とを具備していることを特徴とする。
【0010】
請求項11の発明は、回転子と対向配置される固定子において当該固定子の固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部に絶縁処理を行う方法であって、前記固定子鉄心に前記複数のコイルを巻装して巻線部を形成する工程と、前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルと、この端子側コイル以外のコイルとの接触部に対して油を供給する工程と、前記接触部にて前記油を保持し且つ前記油を前記接触部ごと覆う被覆部を形成する工程とを具備することを特徴とする回転電機の絶縁方法。
【0011】
請求項13の発明は、回転子と対向配置される固定子において当該固定子の固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部に絶縁処理を行う方法であって、前記固定子鉄心に前記複数のコイルを巻装して巻線部を形成する工程と、前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルに対して油を供給する工程と、前記端子側コイルにて前記油を保持し且つ前記油を前記端子側コイルごと覆う被覆部を形成する工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1或は3の回転電機によれば、巻線部において最も分担電圧が高くなる端子側コイルと当該端子側コイル以外のコイルとの接触部、或は端子側コイルに対し、油供給手段によって油を直接供給することができる。このため、ケーシング内に油を貯留していた従来とは異なり、油量を極力抑えることができると共に回転子を油浸することなく部分放電の発生を防止することができる。また、端子側コイルを含む複数のコイルを固定子鉄心の任意の位置に巻回することができ、設計上の制約を緩和することができる。
【0013】
請求項6或は8の回転電機によれば、前記の接触部、或は端子側コイルに対して供給された油は被覆部で保持されるので、最も分担電圧が高くなるコイルの部位に油を無駄なく配することができる。また、回転子に油が接触することがないので、油により回転子の回転に影響を来たすことがない。更に上記のように、端子側コイルを固定子鉄心の下部に巻回する必要がないので、設計上の制約を緩和することができる。
【0014】
請求項11或は13の絶縁方法によれば、最も分担電圧が高くなる前記の接触部或は端子側コイルに対して供給された油は被覆部で保持されるため、製造工程に必要な油量を極力抑えることができる。また、上記と同様に、回転子と油の接触を防止することができると共に設計上の制約を緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について図1〜図4を参照しながら説明する。ここで、図2はインバータにより駆動される回転電機の概略構成を示す縦断面図である。尚、この回転電機は、例えばハイブリッド車両に搭載され、電動機或は発電機として機能するものとする。
【0016】
図2に示すように、回転電機(以下、電動機10と称する)は、回転子11と、この回転子11の外周に対向配置された固定子鉄心12を有する固定子13と、回転子11及び固定子13を収納するケーシング14とを備えている。回転子11は、積層鋼板からなり略円柱状をなす回転子鉄心15と、この回転子鉄心15の中央部に貫通するように装着されると共にケーシング14の軸受け部14aに回転自在に軸支された回転軸16と、回転子鉄心15の外周部に設けられた磁極形成用の永久磁石17とから構成されている。
【0017】
一方、図1に示すように、固定子13は、固定子鉄心12に複数相、例えば三相(U相、V相、W相)の巻線部18u〜18wが巻装された構成である。固定子鉄心12は、複数枚の鋼板を積層して一体的に結着することで形成され円環状をなしている。固定子鉄心12の内周には、各相の巻線部18u〜18wを配設するための例えば48個のスロット12aが等角度で形成されている。各スロット12aの内部には夫々スロット絶縁紙(図示せず)が配置されており、これにより、固定子鉄心12とスロット12a内に配設される各相の巻線部18u〜18wとの間が絶縁されるようになっている。
【0018】
図3は三相の巻線部18u〜18wの等価回路であり、同図のPu,Pv,Pwは、U相、V相、W相の電源が供給される三相の電源入力端子を夫々示している。
U相の巻線部18uは、電源入力端子Pu側から順に、第1コイルU1〜第4コイルU4が直列に接続されてなる第1コイル群18u1と、第1コイルU1’〜第4コイルU4’が直列に接続されてなる第2コイル群18u2との並列回路により構成されている。V相の巻線部18vは、電源入力端子Pv側から順に、第1コイルV1〜第4コイルV4が直列に接続されてなる第1コイル群18v1と、第1コイルV1’〜第4コイルV4’が直列に接続されてなる第2コイル群18v2との並列回路により構成されている。W相の巻線部18wは、電源入力端子Pw側から順に、第1コイルW1〜第4コイルW4が直列に接続されてなる第1コイル群18w1と、第1コイルW1’〜第4コイルW4’が直列に接続されてなる第2コイル群18w2との並列回路により構成されている。
【0019】
第1コイル群18u1,18v1及び18w1は、中性点N1を介してスター結線されている。また、第2コイル群18u2,18v2及び18w2は、中性点N2を介してスター結線されている。そして、これらスター結線された第1コイル群18u1,18v1,18w1と第2コイル群18u2,18v2,18w2とが、電源入力端子Pu,Pv,Pw間に並列接続されている。
【0020】
ここで、図4は固定子13の概略構成を示す側面図(コイルエンド側から見た図)であり、上記複数のコイルつまり第1コイルU1〜第4コイルW4’は、各々が磁極を形成するように固定子鉄心12に巻装される。図5はU相の巻線部18uのみを示しており、第1コイル群18u1は、同図に示すように自身の各コイルU1〜U4により形成される磁極が隣接せずに1つ置きとなる隔極巻線の接続形態で固定子鉄心12に巻装されている。また、第2コイル群18u2も同様に巻装されることで、第1コイル群18u1及び第2コイル群18u2が、周方向に互い違いに連なるようスロット12aの底部側に配設され、所謂2並列隔極巻線を構成する。
【0021】
V相の巻線部18v及びW相の巻線部18wについても、U相の巻線部18uと同様の接続形態で固定子鉄心12に巻装されている。このうちV相の巻線部18vは、図4に示すようにU相の巻線部18uに対して4スロットずらして同様に配設され、W相の巻線部18wは、V相の巻線部18vに対して更に4スロットずらして同様に配設されている。これにより、スロット12a内にはその底部側から順に(換言すれば固定子鉄心12の外周側から順に)、U相の巻線部18u、V相の巻線部18v、W相の巻線部18wが配設されている。また、各コイル間は、渡り線19を介して接続されている。尚、図4、図5では渡り線19を模式的に示しており、図1では渡り線19の図示を省略している。
【0022】
固定子鉄心12の軸方向の両端面において、U相の巻線部18uの各コイルU1〜U4’におけるコイルエンドとV相の巻線部18vの各コイルV1〜V4’におけるコイルエンドとの異相間には、図1に示すように相間絶縁紙20が配設されている。同様に、V相の巻線部18vの各コイルV1〜V4’におけるコイルエンドとW相の巻線部18wの各コイルW1〜W4’におけるコイルエンドとの異相間にも相間絶縁紙20が配設されている。この相間絶縁紙20は、例えば、カレンダー処理を行わないアラミド紙(商品名:ノーメックス(登録商標)#411)からなり、後述する油21が浸透し易いように構成され、異相間(U相−V相間、V相−W相間およびW相−U相間)を絶縁する。これに対し、同相間(第1コイル群18u1−第2コイル群18u2間、第1コイル群18v1−第2コイル群18v2間および第1コイル群18w1−第2コイル群18w2間)は、各コイルを構成する導線の絶縁被膜(例えばエナメル被膜)により絶縁される。
【0023】
そして、最も高い電圧が分担される第1コイルU1〜W1’と、第4コイルU4〜W4’との間に油21が直接供給されることで、絶縁性能を向上させている。図1はこの油21の供給状態を説明するための簡略図であり、油21の供給位置及び供給手段について、同図も参照しながら詳述する。
【0024】
U相の巻線部18uの一端つまり電源入力端子Puに接続された第1コイルU1,U1’は端子側コイルに相当し、従来技術で述べたように最も高い電圧が印加される。他方、中性点N1、N2に接続された第4コイルU4、U4’は中性点側コイルに相当し、夫々第1コイルU1,U1’と周方向に隣り合う。このため、第1コイルU1と第4コイルU4’との接触部、及び第1コイルU1’と第4コイルU4との接触部において、最も高い電圧が分担され部分放電が生じる虞がある。ここで、図1では説明の都合上、第1コイルU1(U1’)と第4コイルU4’(U4)とは、周方向に隙間があるように図示しているが、実際には接触ないし近接しており、本発明の接触部とは、この接触状態のみならず近接状態をも包含する。
【0025】
これと同様に、V相の巻線部18vでは、端子側コイルたる第1コイルV1(V1’)と中性点側コイルたる第4コイルU4’(U4)との接触部で、W相の巻線部18wでは、端子側コイルたる第1コイルW1(W1’)と、中性点側コイルたる第4コイルW4’(W4)との接触部で部分放電が生じる虞がある。
【0026】
このため、前記ケーシング14には、これらの接触部に対して油21を直接供給する油供給手段としての滴下装置22が設けられている。図2に示すように、滴下装置22は、ケーシング14に固定された装置本体22aと、この装置本体22aから前記の接触部に延びるノズル22bを有する。また、滴下装置22は、当該油21を循環させるべく、装置本体22aとケーシング14の底部との間に連通接続された循環経路23と、この循環経路23の途中部に配設された循環ポンプ23aとを備えている。
【0027】
この滴下装置22のノズル22bは、前述した部分放電の虞のある全ての接触部の数(乃至位置)に対応した本数が用意されており(図示せず)、夫々の接触部に油21を直接供給して浸透させるようになっている。これにより、滴下装置22は、循環ポンプ23aの駆動によってノズル22bから滴下した油21を、第1コイルU1〜W1’と第4コイルU4〜W4’との夫々の接触部に浸透させると共に、これらの接触部を伝ってケーシング14の底部に流下した油21を、循環経路23及び循環ポンプ23aを介して再びノズル22bから滴下するというように循環させる。
【0028】
油21は、例えば鉱油系のATF(automatic transmission fluid)であって、硫黄含有量は1重量%以下に設定されている。即ち、電動機10のコイルに供給される油の性質如何によっては、コイルが油に侵食される事態が生じうる。そこで、発明者らは実験を行い、硫黄含有量が1重量%以下に設定された油21を用いることでコイル(導体)の浸食を極力抑制することができるという結果を得たのである。
【0029】
電源入力端子Pu,Pv,Pwには、図2に示すように例えばバッテリ(電源)25からの直流電力を交流電力に変換して電動機10を駆動するインバータ(制御装置)26が接続されている。このインバータ26は、エネルギーの収支を改善する観点から、減速トルクによる回生電力をバッテリ25に充電するように構成されている。
【0030】
次に、上記構成の作用および効果について説明する。
従来技術で述べたように、回転電機をインバータ駆動する場合において各相の巻線部にサージ電圧が印加されるとその電圧が複数のコイルに不平等に分担されるため、端子側コイルたる第1コイルとこの端子側コイル以外のコイルとの接触部に大きな電圧が印加される。そこで、本実施形態では、インバータ26により電動機10が駆動される場合に循環ポンプ23aを駆動させ、滴下装置22のノズル22bから前記接触部に対して油21を直接供給する。この接触部に浸透した油21によって、当該接触部における部分放電の発生が抑制され、巻線部18u〜18wにおける絶縁劣化が防止される。
【0031】
上記構成によれば、従来とは異なり、ケーシング内の油中に端子側コイルを浸す必要がないので、油21の量を極力少なく抑えながらも前記接触部に油21を効果的に供給することができる。従って、油21によって回転子11が油浸されることがなく、電動機10の駆動(回転子11の回転)に支障を来たすこともないので、車載用の電動機10に好適なものとすることができる。また、第1コイルU1〜W1’を含め複数のコイルを固定子鉄心12の任意の位置に巻回することができ、設計上の制約を緩和することができる。
【0032】
端子側コイルたる第1コイルU1〜W1’と、中性点側コイルたる第4コイルU4〜W4’との夫々の接触部は、最も分担電圧が高くなりサージ電圧の影響を特に受け易い。本実施形態の電動機10は、これらの接触部に夫々直接油21を供給するように構成されているので、より効果的な給油を行うことができる。
滴下装置22は、油21を滴下する構成であることから、前記接触部に油21を無駄なく正確に供給することができる。また、循環経路23と循環ポンプ23aにより油21を循環させることで、巻線部18u〜18wに対する油21の冷却効果も期待することができる。
【0033】
固定子鉄心12の端面において各相の巻線部18u〜18wにより形成される隣接する異相のコイルエンド間に、相間絶縁紙20としてカレンダー処理を行わないアラミド紙を夫々配設した。これによれば、油21が相間絶縁紙20に浸透し易いため、前記接触部を伝って相間絶縁紙20に到達した油21を当該絶縁紙20によって保持することができ、相間の絶縁性能を向上させることができる。
【0034】
また、油21は硫黄含有量が1重量%以下に設定されているため、油によるコイル(巻線部18u〜18w)の浸食を極力抑制することができる。
<第2実施形態>
図6〜図8は本発明の第2実施形態を示すものであり、本実施形態では、各コイルの巻装方法および油供給手段の構成を変更した場合について説明する。ここで、図6、図7及び図8は、夫々第1実施形態の図4、図5及び図1に相当する図であり、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0035】
本実施形態における三相の巻線部28u〜28wの等価回路につき図示は省略するが、第1実施形態と同様に構成されている。即ち、U相の巻線部28uは、電源入力端子Pu側から順に、第1コイルU1〜第4コイルU4が直列に接続されてなる第1コイル群28u1と、第1コイルU1’〜第4コイルU4’が直列に接続されてなる第2コイル群28u2との並列回路により構成されている。
【0036】
図7に示すように、第1コイルU1,U1’は電源入力端子Puに接続され、第4コイルU4,U4’は中性点N1、N2に接続されている。そして、本実施形態の第1コイル群28u1及び第2コイル群28u2は、所謂2並列隣極巻線の接続形態となるように固定子鉄心12に巻装されている。即ち、U相の巻線部28uのうち第1コイル群28u1は、その各コイルU1〜U4が周方向に等間隔に位置するように固定子鉄心12の略半周にわたって配置されている。また、第2コイル群28u2は、その各コイルU1’〜U4’が周方向に等間隔に位置するように固定子鉄心12の略半周にわたって且つ第1コイル群28u1と略対向して配置されることで、各コイルU1〜U4,U1’〜U4’が形成する磁極が夫々隣り合うように構成されている。
【0037】
詳しい説明は省略するが、図6に示すように、V相の巻線部28v及びW相の巻線部28wについても、U相の巻線部28uと同様の接続形態で固定子鉄心12に巻装されており、スロット12a内にはその底部側から順に、U相の巻線部28u、V相の巻線部28v(第1コイル群28v1、第2コイル群28v2)、W相の巻線部18w(第1コイル群28w1、第2コイル群28w2)が配設されている。
【0038】
本実施形態の油供給手段は、第1コイルU1〜W1’に対して油を吹き付ける噴霧装置29から構成されている。具体的には図8に示すように、噴霧装置29は、ケーシング14に固定された装置本体29aと、この装置本体29aから第1コイルU1側に延びるノズル29bを有する。この噴霧装置29のノズル29bは、端子側コイルたる第1コイルU1,U1’,V1,V1’,W1,W1’に対応した本数が用意されており(図示せず)、夫々の第1コイルU1〜W1’に油21を直接供給するようになっている。これにより、噴霧装置29は、前記循環ポンプ23aの駆動によってノズル29bから噴射した油21を、第1コイルU1〜W1’に直接供給すると共に、第1コイルU1〜W1’を伝ってケーシング14の底部に流下した油21を、循環経路23及び循環ポンプ23aを介して再びノズル29bから噴射するというように循環させる。
【0039】
次に、上記構成の作用および効果について説明する。
上記のように、回転電機をインバータ駆動する場合において、特に端子側コイルたる各第1コイルU1〜W1’に最も大きな電圧が印加される。そこで、本実施形態では、電動機10が駆動される場合に循環ポンプ23aを駆動させ、噴霧装置29のノズル29bから各第1コイルU1〜W1’に対して油21を噴射する。この第1コイルU1〜W1’に供給した油21により部分放電の発生を抑制することができ、巻線部18u〜18wにおける絶縁劣化を防止することができる。
【0040】
油供給手段たる噴霧装置29は、油21を吹き付ける構成であることから、所望の部位(第1コイルU1〜W1’)に油21を正確に供給することができる。即ち、油21を滴下するノズル22bの場合にはその滴下口を被供給部位の鉛直上方に設ける必要があるが(図2参照)、噴霧装置29は、ノズル29bから所望の部分に比較的広範囲にわたって油21を吹き付けることができるので、第1コイルU1〜W1’に対して外周側、内周側或は軸方向外側に適宜配置してもよく(図示せず)、このように噴霧装置29を配置した場合でも、各第1コイルU1〜W1’に満遍無く正確に給油することができるのである。
【0041】
また、本実施形態では第1コイルU1〜W1’を含め複数のコイルを固定子鉄心12の任意の位置に巻回することができ、設計上の制約を緩和することができる等、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0042】
<第3実施形態>
図9は本発明の第3実施形態を示すものであり、本実施形態では、油供給手段の構成を変更した場合について説明する。尚、上記実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
図9に示す複数のコイルU1〜W4’は、第1実施形態と同様に、隔極巻線の接続形態で固定子鉄心12に巻装されており、三相の巻線部18u〜18wを構成する。他方、噴霧装置29のノズル30は、端子側コイルたる第1コイルU1〜W1’と、中性点側コイルたる第4コイルU4〜W4’との接触部に対応する数の噴霧口30aを有する。
【0043】
上記構成によれば、1つのノズル30に形成された複数の噴霧口30aから、第1コイルU1〜W1’と第4コイルU4〜W4’との夫々の接触部に対して油21を同時に直接供給することができ、簡単な構成にすることができる。本実施形態のように、各コイルU1〜W4’の巻装方法(隣極巻線接続、隔極巻線接続)と油供給手段(滴下装置22、噴霧装置29)の組み合わせや、ノズルの形状(数)、油供給手段の配置構成等、適宜変更してもよい。即ち、油供給手段は、部分放電の虞のある全ての接触部或は第1コイルU1〜W1’に対して油21を直接供給するものであればよく、例えばノズル30に形成された1つの噴霧口から第1コイルU1〜W1’と第4コイルU4〜W4’との全ての接触部に向かって油21を噴霧してもよい。また、滴下装置22の1つのノズルにおいて、接触部の数に対応した複数の滴下口(図示せず)を設けるようにしてもよい。
【0044】
<第4実施形態>
図10は本発明の第4実施形態を示すものであり、第1実施形態と異なるところを説明する。図10は、第1コイルU1と第4コイルU4’との接触部の近傍部を模式的に示す拡大断面図であり、第1実施形態と同一部分には同一符号を付している。
【0045】
本実施形態の電動機31は、第1実施形態の電動機10とは以下の点について相違する。即ち、図10に示すように、巻線部18uには予め供給された油21を前記接触部ごと覆う被覆部32が設けられており、電動機31は油供給手段(滴下装置22、噴霧装置29)が不要とされ、循環経路23及び循環ポンプ23aも省略されている。電動機31のその余の構成は第1実施形態と同じであるため、主として絶縁方法(製造工程)につき以下に説明する。
【0046】
固定子鉄心12には、例えば、複数のコイル(第1コイルU1〜第4コイルW4’)が隔極巻線の接続形態で巻装されることにより、三相の巻線部18u〜18wが形成される。次いで、巻線部18u〜18wには、固定子鉄心12に巻装された状態で、油21の供給処理が行われる。この場合、油21は、第1実施形態と同様、第1コイルU1〜第4コイルW4’のうち少なくとも端子側コイルたる第1コイルU1〜W1’と、中性点側コイルたる第4コイルU4〜W4’との夫々の接触部に浸透するように供給される。また、このとき、予め配設された相間絶縁紙20に、油21を浸透させる。
【0047】
この後、巻線部18u〜18wには、少なくとも油21を前記接触部ごと覆う被覆部32が施される。この被覆部32は、例えば、所謂含浸(ディップ)方式や滴下含浸(ドリップ)方式等の処理方法によって、絶縁ワニスにより形成されるワニス処理層からなる。この場合、被覆部32は、少なくとも夫々の接触部において油21を保持するように形成されていればよく、巻線部18u〜18w全体にわたって施すようにしてもよい。
【0048】
上記の電動機31は、第1コイルU1〜第4コイルW4’のうち、第1コイルU1〜W1’とこれらのコイルU1〜W1’以外のコイルとの接触部に供給された油21と、前記接触部にて油21を保持し、且つ油21を前記接触部ごと覆うように形成された被覆部32とを具備して構成される。従って、油21によって部分放電の発生を抑制することができると共に、被覆部32を構成するワニス処理層によって、より絶縁性能に優れたものとすることができる。また、上記実施形態とは異なり、油供給手段を不要とすることができ、電動機31の大型化を抑制し且つ簡単な構成で絶縁性能を向上させることができる。
【0049】
上記のように、第1コイルU1〜W1’と第4コイルU4〜W4’との接触部は、最も分担電圧が高くなりサージ電圧の影響を特に受け易いことから、これらの接触部にて油21を保持することで、より効果的な絶縁を行うことができる。
また、本実施形態の絶縁方法によれば、被覆部32によって前記接触部の油21が保持されるため、製造工程に必要な油21の量を極力抑えることができると共に、回転子11と油21の接触を確実に防止することができる。この他、本実施形態の絶縁方法によれば、第1コイルU1〜W1’を含め複数のコイルを固定子鉄心12の任意の位置に巻回することができ、設計上の制約を緩和することができる等、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0050】
<その他の実施形態>
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、次のような変形または拡張が可能である。
【0051】
第4実施形態では、被覆部32は、第1コイルU1〜第4コイルW4’のうち少なくとも第1コイルU1〜W1’と第4コイルU4〜W4’との夫々の接触部で油21を保持するように形成したが、端子側コイルたる第1コイルU1〜W1’で油21を保持するように形成してもよい(図示せず)。この巻線部18u〜18wに絶縁処理を行う方法において、固定子鉄心12に複数のコイルを巻装して巻線部18u〜18wを形成する工程と、複数のコイルのうち少なくとも第1コイルU1〜W1’に対して油21を供給する工程と、第1コイルU1〜W1’にて油21を保持し且つ少なくとも当該油21を第1コイルU1〜W1’ごと覆う被覆部を形成する工程とを具備していればよい。この絶縁方法によっても第4実施形態と同様の効果を奏する。
【0052】
上記実施形態のアラミド紙(相間絶縁紙20)に代えて、不織布を用いて異相間を絶縁するように構成してもよい。これによれば、不織布に油21が浸透し易いため、カレンダー処理を行わないアラミド紙と同様の効果を奏する。
【0053】
また、上記各実施形態では、三相の巻線部の構成としてスター結線された例を示したが、本発明は、デルタ結線された三相の巻線部についても適用可能である。上記各実施形態では、本発明を三相の巻線部を有する固定子に適用した場合について説明したが、本発明は、これに限らず、複数相の巻線部を有する固定子であれば適用可能である。巻線部により形成される磁極の数、固定子鉄心に設けられるスロットの数などは、回転電機の仕様に応じて適宜変更可能である。また、コイル群を構成するコイルの数については、上記磁極の数や回転電機の仕様に応じて適宜変更すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1実施形態を示すものであり、油の供給状態を説明するための簡略図
【図2】回転電機の概略構成を示す縦断面図
【図3】三相の巻線部の等価回路を示す図
【図4】回転電機の固定子の概略構成を示す側面図
【図5】U相の巻線部を簡略的に示す図
【図6】本発明の第2実施形態を示す図4相当図
【図7】図5相当図
【図8】図1相当図
【図9】本発明の第3実施形態を示す図1相当図
【図10】本発明の第4実施形態を示すものであり、コイル間の接触部近傍部を模式的に示す拡大断面図
【符号の説明】
【0055】
図面中、10は電動機(回転電機)、11は回転子、12は固定子鉄心、13は固定子、18u〜18wは巻線部、U1〜W4’は複数のコイル、U1〜W1’は第1コイル(端子側コイル)、U4〜W4’は第4コイル(中性点側コイル)、20は相間絶縁紙(アラミド紙)、21は油、22は滴下装置(油供給手段)、28u〜28wは巻線部、29は噴霧装置(油供給手段)、31は電動機(回転電機)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子と、
この回転子と対向配置された固定子鉄心を有する固定子と、
前記固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部と、
前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルと、この端子側コイル以外のコイルとの接触部に対して油を直接供給する油供給手段とを具備していることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記接触部は、前記端子側コイルと、前記複数のコイルのうち前記巻線部の中性点に接続された中性点側コイルとの接触部であることを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項3】
回転子と、
この回転子と対向配置された固定子鉄心を有する固定子と、
この固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部と、
前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルに対して油を直接供給する油供給手段とを具備していることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
前記油供給手段は、前記油を滴下する滴下装置であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の回転電機。
【請求項5】
前記油供給手段は、前記油を吹き付ける噴霧装置であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の回転電機。
【請求項6】
回転子と、
この回転子と対向配置された固定子鉄心を有する固定子と、
前記固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部と、
前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルと、この端子側コイル以外のコイルとの接触部に供給された油と、
前記接触部にて前記油を保持し、且つ前記油を前記接触部ごと覆うように形成された被覆部とを具備していることを特徴とする回転電機。
【請求項7】
前記接触部は、前記端子側コイルと、前記複数のコイルのうち前記巻線部の中性点に接続された中性点側コイルとの接触部であることを特徴とする請求項6記載の回転電機。
【請求項8】
回転子と、
この回転子と対向配置された固定子鉄心を有する固定子と、
この固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部と、
前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルに供給された油と、
前記端子側コイルにて前記油を保持し、且つ前記油を前記端子側コイルごと覆うように形成された被覆部とを具備していることを特徴とする回転電機。
【請求項9】
各相の前記巻線部を備え、
前記固定子鉄心の端面において前記各相の巻線部により形成される隣接する異相のコイルエンド間に、不織布またはカレンダー処理を行わないアラミド紙を配設したことを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の回転電機。
【請求項10】
前記油の硫黄含有量が1重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の回転電機。
【請求項11】
回転子と対向配置される固定子において当該固定子の固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部に絶縁処理を行う方法であって、
前記固定子鉄心に前記複数のコイルを巻装して巻線部を形成する工程と、
前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルと、この端子側コイル以外のコイルとの接触部に対して油を供給する工程と、
前記接触部にて前記油を保持し且つ前記油を前記接触部ごと覆う被覆部を形成する工程とを具備することを特徴とする回転電機の絶縁方法。
【請求項12】
前記接触部は、
前記端子側コイルと、前記複数のコイルのうち前記巻線部の中性点に接続された中性点側コイルとの接触部であることを特徴とする請求項11記載の回転電機の絶縁方法。
【請求項13】
回転子と対向配置される固定子において当該固定子の固定子鉄心に巻装され各々磁極を形成する複数のコイルを具えた巻線部に絶縁処理を行う方法であって、
前記固定子鉄心に前記複数のコイルを巻装して巻線部を形成する工程と、
前記複数のコイルのうち、外部から電源が供給される前記巻線部の一端に接続された端子側コイルに対して油を供給する工程と、
前記端子側コイルにて前記油を保持し且つ前記油を前記端子側コイルごと覆う被覆部を形成する工程とを具備することを特徴とする回転電機の絶縁方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−22082(P2010−22082A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177873(P2008−177873)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(500414800)東芝産業機器製造株式会社 (137)
【Fターム(参考)】