説明

回転電機の冷却構造

【課題】既存の構造を大幅に変更することなく、安定した冷却効果を得られる冷却構造を提供する。
【解決手段】回転電機に冷媒を供給して、当該回転電機を冷却する回転電機の冷却構造は、前記冷媒が通るパイプであって、回転電機の上方に設置され、前記回転電機に冷媒を吐出する吐出孔が形成された冷媒供給パイプ26と、前記冷媒供給パイプの内部に挿入され、前記冷媒冷却パイプの内径より小さい断面積の冷媒流路を構成する棒体と、を備える。棒体の外表面には、螺旋状溝が形成されており、冷媒供給パイプの内周面との間に螺旋状の冷媒流路を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に冷媒を供給して、当該回転電機を冷却する回転電機の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、自動車等の車両に搭載されるモータやジェネレータとして機能する回転電機は、ロータと、その周囲に配設されステータコイルが巻回されたステータコアとを有する。モータはステータコイルに通電して回転力を得て、ジェネレータはロータの回転によりステータコイルに流れる電流を取り出す。そして、ロータ回転時にステータコイルに電流が流れると、ステータコアやステータコイルが発熱する。これらの発熱は、モータやジェネレータの内部を貫通する磁束に影響を与え、運転効率(回転効率、発電効率)を低下させる。運転効率を維持するため、回転電機を冷却する必要がある。そのため、従来から、種々の回転電機の冷却構造が提案されている。
【0003】
例えば下記特許文献1−4には、コイルエンドに向かって冷媒(例えば冷却油)を吐出することで回転電機の冷却を図る構造が開示されている。これらの技術では、回転電機の上方に、冷媒が流れるパイプを設置し、このパイプのうちコイルエンドの真上付近に、冷媒を吐出する吐出孔を形成している。そして、当該吐出孔からコイルエンドに冷媒を吐出することで、コイルエンドを冷却している。こうした技術によれば、発熱するコイルに冷媒を直接かけることができるため、ある程度は、効率的に回転電機を冷却できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−253263号公報
【特許文献2】特開2011−091956号公報
【特許文献3】特開2006−115652号公報
【特許文献4】特開2011−078148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の冷却構造では、パイプに流れる冷媒量、ひいては、パイプ内の冷媒圧力によって、吐出される冷媒の挙動が大きく変動していた。その結果、所望の箇所(冷却したい箇所)を確実に冷却するためには、パイプ(吐出孔)を所望の箇所の極近傍に設置する必要があり、パイプの設置位置が制限されるという問題があった。
【0006】
かかる問題を避けるためには、冷媒量を増加することにより、あるいは、小径のパイプを用いることにより、冷媒圧力を常に高く保ち、これにより、吐出される冷媒の挙動を安定化することが考えられる。しかし、冷媒量の増加は、必要以上の冷媒を使うことになり無駄が多い。また、小径のパイプを使用するためは、既存の冷却構造を大幅に設計変更する必要があり、コストや設計の手間の増加を招く。
【0007】
そこで、本発明では、既存の構造を大幅に変更することなく、安定した冷却効果を得られる冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の冷却構造は、回転電機に冷媒を供給して、当該回転電機を冷却する回転電機の冷却構造であって、前記冷媒が通るパイプであって、回転電機の上方に設置され、前記回転電機に冷媒を吐出する吐出孔が形成された冷媒供給パイプと、前記冷媒供給パイプの内部に挿入され、前記冷媒冷却パイプの内径より小さい断面積の冷媒流路を構成する棒体と、を備えることを特徴とする。
【0009】
他の好適な態様では、前記棒体は、その外径が前記冷媒供給パイプの内径と同じ、または、僅かに小さくなっており、その外周面に冷媒流路を構成する溝が形成されている。この場合、前記棒体は、その外周面に螺旋状の溝が形成されており、前記冷媒供給パイプの内周面との間に、螺旋状の流路を形成する、ことが望ましい。また、前記螺旋状の溝の溝幅は、前記吐出孔の直径より小さい、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、冷媒供給パイプに棒体を挿入することにより、冷媒流路の断面積を大幅に低減でき、少量の冷媒でも高い圧力を保つことができる。その結果、冷媒の挙動が安定するため、既存の構造を大幅に変更することなく、安定した冷却効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態で冷却構造の概略側面図である。
【図2】本発明の実施形態で冷却構造の概略正面図である。
【図3】冷媒供給パイプに棒体を組み込んだ様子を示す概略図である。
【図4】他の棒体の一例を示す図である。
【図5】他の棒体の一例を示す図である。
【図6】他の棒体の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1、図2は、本発明の実施形態である回転電機10の冷却構造を示す図である。この冷却構造は、回転電機10、特に、車両に搭載される回転電機10を冷却するものである。冷却対象となる回転電機10は、ハイブリッド車両や電気自動車に搭載され、駆動輪を駆動するモータとして機能するとともに、車両の回生制動動作時には駆動輪の回転力によって発電するジェネレータとしても機能するモータジェネレータを想定している。ただし、当然ながら、モータまたはジェネレータとして機能するのであれば、他の用途で用いられる回転電機10を冷却対象としてもよい。
【0013】
回転電機10は、ステータ14とロータ12、および、これらを収容する筐体16に大別される。ロータ12は、略円環状のロータコア13に複数の永久磁石(図示せず)を埋め込んで構成される。ロータコア13の中心には、回転軸18が固着されている。この回転軸18は、ベアリングを介して筐体16に軸支されており、ロータ12とともに回転する。
【0014】
ステータ14は、ステータコア20およびステータコイル22を有する。ステータコア20は、積層鋼板やダストコアからなる略円環状部材で、その内周側には複数のティースが形成されている。ティースには、ステータコイル22が巻回される。ティースに巻回されたステータコイル22のうち、ステータコア20の軸方向端面から突出する部分がコイルエンド部24を構成する。
【0015】
かかる構成の回転電機10は、モータとして機能させる際には、ステータコイル22に通電してロータ12を回転させ、ジェネレータとして機能させる際には、ロータ12の回転に伴いステータコイル22に流れる電流を取り出す。つまり、モータ、ジェネレータのいずれとして機能させる場合であっても、ステータコイル22には電流が流れることになる。通常、ステータコイル22に電流が流れると、ステータコア20やステータコイル22が発熱する。そして、これらの発熱に伴い回転電機10の温度が上昇すると、モータやジェネレータの内部を貫通する磁束が悪影響を受け、運転効率(回転効率、発電効率)が低下する。
【0016】
そこで、本実施形態では、回転電機10の温度上昇を防止し、運転効率を維持するため、冷却構造を設けている。冷却構造は、冷媒(例えば冷却オイル)が流れる冷媒供給パイプ26と当該冷媒供給パイプ26に冷媒を送るポンプ28を備えている。冷媒供給パイプ26は、少なくとも、その一部が、回転電機10の上方において、回転軸18と平行になるように配置されている。また、冷媒供給パイプ26には、内部に流れる冷媒を吐出するための吐出孔30が1以上形成されている。この吐出孔30は、回転電機10のうち冷却対象部位(例えばコイルエンド部24など)に、冷媒が吐出できるような位置に設けられている。この吐出孔30から吐出された冷媒が、冷却対象部位に接触して下方に流れていく過程で、冷却対象部位から熱を奪い冷却する。そして、冷却対象部位にかかった吐出孔30は、重力に従って流れていき、最終的には、筐体16の底部に貯留する。ポンプ28は、この貯留された冷媒を汲み上げ、再度、冷媒供給パイプ26に送り出す。この冷媒の循環を繰り返すことで、継続的な回転電機の冷却が図られる。
【0017】
なお、図示例では、冷媒供給パイプ26を一本のみ図示しているが、冷却対象部位の位置や個数、予想される発熱量などに応じて、冷媒供給パイプ26を複数本設けるようにしてもよい。また、図示例では、コイルエンド部24に冷媒を吐出することを目的として、吐出孔30を各コイルエンド部24の上方に一つずつ、合計二つ設けている。しかし、この吐出孔30の形成位置や個数も、冷却対象部位の位置や個数、発熱量に応じて適宜、変更されてよい。また、吐出孔30の形状も特に限定されず、円形孔としてもよいし、特許文献1に開示されているように、径の異なる円形孔を複数配設してもよいし、二つの円が繋がったピーナッツのような形状の孔にしてもよい。
【0018】
いずれにしても、本実施形態では、吐出孔30から冷媒を吐出し、冷却対象部位に冷媒をかけることで、冷却対象部位の冷却、ひいては、回転電機10全体の冷却を図っている。
【0019】
ところで、こうした冷媒を供給して、回転電機10を冷却する構造は、従来からいくつか提案されている。しかし、従来の冷却構造は、いずれも、冷媒供給パイプ26に、ある程度、多量の冷媒を流さないと、吐出される冷媒の挙動が安定しないという問題があった。すなわち、冷媒供給パイプ26に流れる冷媒量が少ないと、冷媒圧力が低下し、吐出孔30から吐出される冷媒の挙動が不安定となる。その結果、狙ったところに冷媒をかけることができないという問題があった。
【0020】
また、従来の冷却構造では、冷媒の吐出圧力を高く保つことが困難で、結果として、吐出孔30(冷媒供給パイプ26)の設置位置が制限されるという問題もあった。すなわち、冷媒の吐出圧力が高い場合には、当該圧力により吐出先をある程度調整することができるため、吐出孔30(ひいては冷媒冷却パイプ)の設置範囲が自由に調整できる。しかし、冷媒の吐出圧力が低い場合には、吐出孔30から吐出された冷媒は、重力により落下するだけとなる。そのため、この場合、吐出孔30は、冷却対象部位の近傍かつ真上に設置する必要があり、冷媒供給パイプ26の設置位置が制限されるという問題があった。
【0021】
こうした問題は、冷媒供給パイプ26に流す冷媒量を多くする、あるいは、冷媒供給パイプ26を小径にすることにより解決できる。しかし、必要以上に多量の冷媒を流すのは無駄であるばかりでなく、冷媒量の増加に伴い冷却構造を備えた回転電機10システムの重量増加などの問題も招く。また、冷媒供給パイプ26を小径にすれば、冷媒流路の断面積が小さくなり、少量の冷媒でも高い吐出圧力を保つことができる。しかし、この場合、冷媒供給パイプ26を小径のものに変更する必要があり、既存の冷却システムからの設計変更が必要となり手間がかかる。また、既存の部品(冷媒供給パイプ26)をそのまま用いることが出来ないという問題も生じる。
【0022】
本実施形態では、冷媒量を増加させず、また、既存の冷却構造を利用しつつ、吐出される冷媒の挙動を安定させるために、冷媒供給パイプ26の内部に、冷媒の流路の断面積を低減するための棒体32を設けている。すなわち、従来の冷却構造では、冷媒供給パイプ26の内部全体が、冷媒の流路として機能していた。一方、本実施形態では、冷媒供給パイプ26の内部に、棒体32を挿入することで、当該棒体32と冷媒供給パイプ26の内周面との間に、断面積が小さい冷媒流路を形成する。
【0023】
図3は、冷媒供給パイプ26に棒体32を組み込んだ様子を示す概略図である。図3において、冷媒供給パイプ26は縦断面図の状態で、棒体は側面図の状態で図示している。図3に示すように、本実施形態の棒体32は、細長い丸棒部材で、その外周面には、螺旋状の溝34が形成されている。この螺旋状溝34の溝幅dは、吐出孔30の孔径D以下となっている(d≦D)。かかる構成とすることで、棒体32と冷媒供給パイプ26の内周面との間に、螺旋状の流路が形成される。
【0024】
また、本実施形態では、棒体32の外径は、冷媒供給パイプ26の内径φaとほぼ同じ、または、僅かに小さくなっている。かかる構成とすることで、冷媒供給パイプ26に挿入された棒体32を、常に、冷媒供給パイプ26と同心円状に位置させることができる。
【0025】
ここで、当然ながら、この螺旋状の流路の断面積は、冷媒供給パイプ26の断面積よりも十分に小さい。そのため、棒体32を有さない従来の冷却構造に比べ、冷媒流路の断面積は、大幅に低減することになる。冷媒流路の断面積が低下することにより、冷媒の流量が比較的少なくても、高い圧力を保つことができる。そして、その結果、比較的少量の冷媒であっても、吐出される冷媒の挙動を安定させることができる。この場合、吐出孔30の形状などを調整することで、狙った部位に冷媒を吐出することが可能(吐出される冷媒の挙動を制御可能)となるため、冷却対象部位(高温部位)をより確実に冷却できる。また、吐出圧力で冷媒を所望の位置に飛ばすことができるため、吐出孔30を、冷却対象部位とは離れた位置、特に、水平方向に離れた位置に設けることが可能となる。その結果、冷媒供給パイプ26の設置位置に関する自由度が向上し、ひいては、回転電機10の設計の自由度が向上する。
【0026】
なお、図示例では、螺旋状溝34のピッチPを、吐出孔30の孔径Dより大きくしているが、ピッチPを孔径D以下としてもよい。P≦Dとすることで、棒体32の位置や配置角度に関わらず、常に、螺旋状溝34の少なくとも一部を、吐出孔30に重複させる(すなわち、螺旋状の冷媒流路と吐出孔とを連通させる)ことができる。その結果、棒体32の設置に関して、厳密な位置決めが不要となり、棒体32の設置作業を簡易化できる。
【0027】
また、本実施形態では、外周面に螺旋状溝34が形成された棒体32を用いたが、冷媒供給パイプ26の内部に、断面積の小さい冷媒流路を形成し得る棒体32であれば、他の形態の棒体32であってもよい。
【0028】
例えば、図4に示すように、その外周面に、螺旋溝ではなく、軸方向に延びるストレート溝36が形成された棒体32を用いてもよい。この場合でも、棒体32の外径は、冷媒供給パイプ26の内径とほぼ同じか、僅かに小さいことが望ましい。また、ストレート溝36の溝幅は、吐出孔30の孔径以下であることが望ましい。
【0029】
また、別の形態として、図5に示すように、管状の棒体32、すなわち、棒体32の外周面には、溝等を形成せず、棒体32の中央に軸方向に延びる貫通孔38が形成されている棒体32を用いてもよい。この場合、この軸方向に延びる貫通孔38が冷媒流路となる。また、かかる棒体32を用いる場合、吐出孔30と重複する部位に、貫通孔38の内部と外部とを連通する連通孔40を設けておく。
【0030】
また、これまでは、その外径が冷媒供給パイプ26の内径とほぼ同じ、または、僅かに、小さい棒体32を例示してきたが、冷媒供給パイプ26の内径より十分に小さい外径の棒体32を用いてもよい。この場合、図6に示すように、棒体32の外周面に、外方向に突出する突出部40を設けることが望ましい。そして、この突出部40は、少なくとも2以上、かつ、その周方向位置が互いに異なることが望ましい。かかる突出部40を設けることにより、冷媒供給パイプ26の内周面と棒体32の外周面との間に、冷媒流路となる空間が常に確保される。また、全ての突出部40の高さhを、冷媒供給パイプ26の内径φaと棒体32の外径φbとの差のほぼ半分(h≒(φa−φb)/2)とすることが望ましい。かかる構成とすることで、棒体32を冷媒供給パイプ26と同心状に配置することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 回転電機、12 ロータ、14 ステータ、16 筐体、18 回転軸、20 ステータコア、22 ステータコイル、24 コイルエンド部、26 冷媒供給パイプ、28 ポンプ、30 吐出孔、32 棒体、34 螺旋状溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機に冷媒を供給して、当該回転電機を冷却する回転電機の冷却構造であって、
前記冷媒が通るパイプであって、回転電機の上方に設置され、前記回転電機に冷媒を吐出する吐出孔が形成された冷媒供給パイプと、
前記冷媒供給パイプの内部に挿入され、前記冷媒冷却パイプの内径より小さい断面積の冷媒流路を構成する棒体と、
を備えることを特徴とする回転電機の冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機の冷却構造であって、
前記棒体は、その外径が前記冷媒供給パイプの内径と同じ、または、僅かに小さくなっており、その外周面に冷媒流路を構成する溝が形成されている、ことを特徴とする回転電機の冷却構造。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機の冷却構造であって、
前記棒体は、その外周面に螺旋状の溝が形成されており、前記冷媒供給パイプの内周面との間に、螺旋状の流路を形成する、ことを特徴とする回転電機の冷却構造。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機の冷却構造であって、
前記螺旋状の溝の溝幅は、前記吐出孔の直径より小さい、
ことを特徴とする回転電機の冷却構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−66338(P2013−66338A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204551(P2011−204551)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】