説明

回転電機の固定子および回転電機

【課題】コイル表面と鉄心との熱伝導性および電気的な接続を良好にして、コイル表面を確実に接地できる回転電機の固定子を提供する。
【解決手段】回転電機の固定子は、内周に沿って複数のスロット11aが配置された環状の鋼板を軸方向に積層した固定子鉄心と、複数のスロット11aそれぞれ内に挿入されて、少なくとも一つの導体束15とこの導体束15を囲む絶縁層16とその絶縁層16を囲む半導電層17とを備えて軸方向に延びる固定子コイル12と、を有する。半導電層17は、帯状の半導電シートと帯状の弾性熱伝導性部材とを幅方向に互いに部分的に重ねて絶縁層16の外側に螺旋状に巻き付けたものである。半導電シートはたとえば繊維性材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水車発電機やタービン発電機等に代表される回転電機において、特に、固定子コイルを固定子鉄心のスロットに介挿して構成する回転電機の固定子の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の発電機などの回転電機の固定子の一般的な構造について、図を用いて説明する(特許文献1参照)。
【0003】
図5は、従来の回転電機の固定子における固定子鉄心の1スロット分の構成を示す横断面図である。
【0004】
図において、固定子は、固定子鉄心11のスロット11a内に、固定子コイル12が配置されてなる。このとき、スロット11aと固定子コイル12、あるいは、各固定子コイル12の間に、横方向スペーサ材27や縦方向スペーサ材13を配置することにより、スロット11aの片側面へ固定子コイル12を押さえつけて固定させ、運転時の振動などを抑制するとともに、コイル表面の熱を固定子鉄心11へ伝達させ放散する。
【0005】
この場合、発電機運転中における熱源は導体束15に大電流が流れることで生じるジュール発熱である。このジュール発熱は、例えば間接冷却型発電機においては、導体束15を包むように配置された絶縁層16を経て、固定子鉄心11に伝達されることになる。
【特許文献1】特開2003−304662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、コンパクトで高出力の発電機が求められているが、発電機の固定子に着目すると、固定子コイルを形成する導体の高電流密度化及び高電圧化が必要である。
【0007】
しかしながら、熱放散性の観点からは、導体から固定子鉄心への熱伝達の向上、電気的な観点からは、固定子コイル12表面と固定子鉄心11との間にアークの発生を防止するために固定子コイル表面の確実な接地が必要である。
【0008】
上述の横方向スペーサ材27を用いた場合において、横方向スペーサ材27においては波型のFRP(繊維強化プラスチック)板が用いられることがある。この場合、コイル表面と固定子鉄心との間には、ある程度の空気層が介在する。即ち、コイル表面と固定子鉄心は、ミクロ的にみれば点接触であり、熱伝導性および電気的な接続は必ずしも良くない。つまり、熱放散の観点からは熱的な接続が要求され、コイル表面を確実に接地するためには電気的な接続が要求される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る回転電機の固定子は、内周に沿って複数のスロットが配置された環状の鋼板を軸方向に積層した固定子鉄心と、前記複数のスロットそれぞれ内に挿入されて、少なくとも一つの導体束とこの導体束を囲む絶縁層とその絶縁層を囲む半導電層とを備えて軸方向に延びる固定子コイルと、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る回転電機は、内周に沿って複数のスロットが配置された環状の鋼板を軸方向に積層した固定子鉄心と、前記複数のスロットそれぞれ内に挿入されて、少なくとも一つの導体束とこの導体束を囲む絶縁層とその絶縁層を囲む半導電層とを備えて軸方向に延びる固定子コイルと、を有する固定子を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の回転電機の固定子は、上記のように構成したことにより、固定子コイルと鉄心の間の良好な面接触を得ることができる。この面接触の改善により、熱伝達および電気的な接続が良好となり、電気絶縁特性を損なうことなくコイルの放熱性を高めることができ、回転電機の効率向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について、図1および図2を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る回転電機の固定子鉄心の1スロット分の横断面図を示しており、図2は、図1における半導電層の構成を示す横断面図である。
【0014】
図1において、固定子コイル12は、導体束15を絶縁層16で覆い、その周りを半導電層17で覆って構成されている。固定子コイル12は、固定子鉄心11に設けられたスロット11a内に上下2段に収納され、スロット11aの開口部に楔14が介挿されてスロット11a内に固定されている。固定子コイル12の上下間、固定子コイル12とスロット11aの底面との間、および、固定子コイル12と楔14の間には、それぞれスペーサ材13が介挿されている。
【0015】
半導電層17は、図2に示すように、繊維性材料から成る半導電シート31と弾性熱伝導性部材32を部分的に重ねてなるテープを、固定子コイル12の長手方向に亘って螺旋状に巻き付けて形成したものである。ここで、弾性熱伝導性部材32は、半導電シート31の幅Wに対して(1/4)W乃至(3/4)Wの範囲で配設するのが好ましい。
【0016】
本実施形態においては、半導電シート31として、ポリエステルの不織布にカーボンブラックを塗布したものを使用した。なお、半導電シート31の表面抵抗は500Ωであった。また、弾性熱伝導性部材32としては、シリコーンゴムを使用した。
【0017】
このような構成で、スロット11aに固定子コイル12を挿入後、固定子コイル12と固定子鉄心11間の抵抗を測定したところ1,000Ωであった。また、半導電層17の熱伝導率を測定したところ0.3W/m・Kであった。これに対し、図5に示した従来の固定子についてスペーサ材27の部位における熱伝導率を測定したところ、0.13W/m・Kであった。
【0018】
このように、本実施形態の構成においては、繊維性材料と弾性熱伝導性部材の表面の接触が良くなり熱接触性が向上する。
【0019】
なお、本実施形態においては、半導電性シートとして、表面抵抗が500Ωのものを用いたが、100Ω以上、10,000Ω以下のものであれば他の材料であっても良い。また、弾性熱伝導性部材としてシリコーンゴムを使用したが、ゴム硬度が数十以下であれば他の材料を用いても良い。弾性熱伝導性部材は、好ましくは熱伝導率が0.5W/m・K以上である。
【0020】
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。
【0021】
図1に示した半導電層17を形成する半導電シート31として、上記第1の実施形態ではポリエステルの不織布にカーボンブラックを塗布したものを使用したが、本変形例においては、ガラス布にカーボンブラックを塗布したものを使用し、弾性熱伝導性部材32としてゲル状材料であるシリコーンゲルを用いた。
【0022】
この構成において、半導電層17の熱伝導率を測定したところ、0.33W/m・Kであった。
【0023】
また、弾性熱伝導性部材32として、コイル挿入前には液状の光硬化性の旭ワッカーシリコーン製RTV−M4601を使用した。この場合、コイル挿入時において、熱伝導性部材32が半導電層17の隙間へ流動することによって、固定子コイル12と固定子鉄心11の隙間が狭い部位において、液状の熱伝導性部材32が流動して隙間をうめたのち硬化して全体に亘り容易に充填することができた。
【0024】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、図3を用いて説明する。ただし、図1に示す構成については第1の実施形態と共通であり、ここでは重複説明を省略する。
【0025】
本実施形態においては、半導電シート31として、ガラス布にカーボンブラックを塗布したものを使用し、熱伝導性部材32として液状の旭ワッカーシリコーン製RTV−M4601を使用して半導電層17を形成し、さらに、半導電シート31の合わせ目にチューブ材43を配置して半導電シート31の合わせ目を覆うように形成した。
【0026】
固定子コイル12と固定子鉄心11との隙間が大きい場合は、液状材である熱伝導性部材32の塗布厚を大きくする必要がある。しかし、塗布厚を大きくした場合には、熱伝導性部材32が、コイル挿入前に漏れ出してしまい、作業性を損ねる上に、固定子コイル12を挿入してから熱伝導性部材32が硬化する前にさらに漏れ出してしまい、スロット11aとの接触性を損ねるおそれがある。
【0027】
本実施形態においては、柔軟性材料からなるチューブ材43を半導電シート31の合わせ目に配置した構成とし、半導電シート31の合わせ目をチューブ材43で塞いでいる。そのため、液状の熱伝導性部材32の漏れ出しが抑制されるので、良好な特性を維持することができる。
【0028】
この構成において、チューブ材43を半導電シート31の合わせ目に巻き付ける際に、巻き付けのテンションを調整している。
【0029】
すなわち、固定子コイル12と固定子鉄心11の隙間の大きさが各コイルによって異なる場合があるので、隙間の小さな場所においては、チューブ材43のテンション力を大きくすることで、巻き付け個所におけるチューブ材43の径を減じてやり、チューブ材43と半導電シート31の隙間からの液状の熱伝導性材料の流出を容易に抑制できる。
【0030】
また、固定子コイル12と固定子鉄心11隙間の大きな場所においては、チューブ材43のテンション力を小さくして、チューブ材43の径を、無負荷(テンション力が0)のものとほぼ同じにしてやることで、隙間から液状の熱伝導性部材32の流出を抑制するようにしている。
【0031】
(第3の実施形態)
次に、本発明に係る回転電機の固定子の第3の実施形態について、図4を参照して説明する。ただし、図1に示す構成については第1の実施形態と共通であり、ここでは重複説明を省略する。
【0032】
本実施形態においては、半導電層17の構成は図3に示した第2の実施形態と同様であるが、半導電シート31の合わせ目に沿ってチューブ材43を巻き付ける替わりに、合わせ目をテープ状の封止材53で覆ったものである。
【0033】
半導電シート31の合わせ目への液状の熱伝導性部材32の塗布厚を大きくした場合には、図3の構成では、固定子コイル12を挿入してから液状の熱伝導性部材32が硬化する前に熱伝導性部材32がコイル挿入前に半導電シート31の隙間から漏れ出してしまい、接触効果が低下するおそれがある。それに対して、本実施形態のような構成にすることで、半導電シート31の合わせ目の間隔が大きい場合でも、液状の熱伝導性部材32の漏れ出しを抑制でき、さらに良好な特性を維持することができる。
【0034】
ここで、テープ状の封止材53を半導電性材料で構成すれば、液状の熱伝導性部材32の漏れ出しが抑制されるのに加えて、さらに、固定子鉄心との良好な特性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す回転電機の固定子の1スロット部分の構成を示す横断面図。
【図2】図1における半導電層の構成を示す部分拡大横断面図。
【図3】本発明の第2の実施形態における半導電層の構成を示す部分拡大横断面図。
【図4】本発明の第3の実施形態における半導電層の構成を示す部分拡大横断面図。
【図5】従来の回転電機の固定子の1スロット部分の構成を示す部分拡大横断面図。
【符号の説明】
【0036】
11 … 固定子鉄心
11a … スロット
12 … 固定子コイル
13 … スペーサ材
14 … 楔
15 … 導体束
16 … 絶縁層
17 … 半導電層
27 … スペーサ材
31 … 半導電シート
32 … 熱伝導性部材
43 … チューブ材
53 … 封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に沿って複数のスロットが配置された環状の鋼板を軸方向に積層した固定子鉄心と、
前記複数のスロットそれぞれ内に挿入されて、少なくとも一つの導体束とこの導体束を囲む絶縁層とその絶縁層を囲む半導電層とを備えて軸方向に延びる固定子コイルと、
を有することを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項2】
前記半導電層は、半導電シートと弾性熱伝導性部材とを有することを特徴とする請求項1記載の回転電機の固定子。
【請求項3】
前記半導電層は、帯状の半導電シートと帯状の弾性熱伝導性部材とを幅方向に互いに部分的に重ねて前記絶縁層の外側に螺旋状に巻き付けたものであることを特徴とする請求項2記載の回転電機の固定子。
【請求項4】
前記半導電シートが繊維性材料からなることを特徴とする請求項2または3記載の回転電機の固定子。
【請求項5】
前記弾性熱伝導性部材は、前記スロットへの固定子コイル挿入前はゲル状であり、スロットへの固定子コイル挿入後に硬化して弾性を有する経時硬化材料であることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか一項記載の回転電機の固定子。
【請求項6】
前記半導電シートを前記絶縁層の外側に巻き付けた後に、前記半導電シートの合わせ目に液漏れ抑制部材を介挿したことを特徴とする請求項5に記載の回転電機の固定子。
【請求項7】
前記液漏れ抑制部材は、柔軟性を有するチューブ材からなることを特徴とする請求項6に記載の回転電機の固定子。
【請求項8】
前記チューブの直径を、前記半導電シートの合わせ目の隙間に合うように前記チューブにテンションを加えながら、前記半導電シートの合わせ目の隙間に沿って巻いたことを特徴とする請求項7に記載の回転電機の固定子。
【請求項9】
前記液漏れ抑制部材は、柔軟性を有するテープ材からなることを特徴とする請求項6に記載の回転電機の固定子。
【請求項10】
前記テープ材は、半導電性繊維性材料からなることを特徴とする請求項9に記載の回転電機の固定子。
【請求項11】
内周に沿って複数のスロットが配置された環状の鋼板を軸方向に積層した固定子鉄心と、
前記複数のスロットそれぞれ内に挿入されて、少なくとも一つの導体束とこの導体束を囲む絶縁層とその絶縁層を囲む半導電層とを備えて軸方向に延びる固定子コイルと、
を有する固定子を備えたことを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−35344(P2010−35344A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195324(P2008−195324)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】