説明

回転電機制御装置

【課題】複数の交流回転電機のパルス幅変調のキャリアの波形を個別に変動させると共に、各キャリアと電流フィードバック制御の実行タイミングとを同期させ、且つ、所定の制御周期内で全ての交流回転電機の電流フィードバック制御を完了させる。
【解決手段】N個の交流回転電機の電流フィードバック制御は、重複することなく順次実行されて所定の制御周期TC内で完了される。各交流回転電機に対応するN個のキャリアCW1,CW2が、各基準区間TR1,TR2の長さを変動幅FRの範囲内でランダムに変動させて生成される。各キャリアCW1,CW2には、それぞれがN個の基準区間TR1,TR2を含むと共に、互いに開始タイミングが一致することがないように管理区間TM1,TM2が設定される。各キャリアCW1,CW2は、管理区間TM1,TM2のそれぞれの長さが制御周期TCに一致するように生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N個(Nは2以上の自然数)の交流回転電機のそれぞれに対応付けられたN個のインバータを、キャリアを用いたパルス幅変調方式により生成されたスイッチング制御信号により制御して、当該N個の交流回転電機の電流フィードバック制御を行う回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、走行用の回転電機と発電用の回転電機とを備えたハイブリッド自動車など、複数の回転電機のそれぞれに対応づけて複数備えられたインバータを介して、当該複数の回転電機の電流フィードバック制御を行う回転電機制御装置が知られている。特開2002−272184号公報(特許文献1)には、1つのディジタル演算手段を用いて2個の回転電機の電流フィードバック制御を共通に行う制御装置が開示されている。この制御装置は、ディジタル演算手段による電流フィードバックの演算周期をディジタル演算手段の出力周期のn倍とし、且つ、各回転電機に対する電流フィードバック演算を互いに重ならないタイミングで実施する。演算負荷の重い電流フィードバック演算をパルス幅変調などの出力周期のn倍の長い演算周期で行うことによって演算負荷を大幅に軽減すると共に、演算負荷の分散も可能となる(特許文献1:要約、図5等)。
【0003】
ところで、インバータをパルス幅変調により駆動する場合、パルス幅変調の出力周期に応じた高調波のノイズ(インバータノイズ)が生じることが知られている。パルス幅変調は、例えば三角波状のキャリアに基づいて実施される。従って、この高調波のノイズは、キャリアの周波数に応じたものとなる。このような高調波のノイズを低減するため、三角波状のキャリアの周波数を所定の範囲内で変動させたり、三角波状のキャリアの変化点(ピーク又はボトム)のタイミングを所定の範囲内で変動させたりするなど、キャリアの波形を変動させることによって、高調波のノイズの基本周波数を分散させ、高調波ノイズの周波数も分散させる手法が知られている。つまり、ノイズが特定の周波数に集中しないようにして、各周波数のノイズの最高エネルギーを抑制する手法が知られている。特許文献1のように、複数の回転電機を制御する場合には、それぞれの回転電機に対応するインバータのパルス幅変調に用いられるキャリアの波形を個別に変動させることによって、さらにノイズの周波数を分散させることが可能となる。
【0004】
ところで、回転電機に対する電流フィードバック制御は、キャリアに同期して実施することが好ましい。例えば、三角波状のキャリアの波形がピークやボトムのタイミングでは、変調により生成されるパルスが変化する可能性が低く、インバータノイズの発生も少ない。従って、安定した制御を実現するために、実際に回転電機を流れる電流を検出して電流フィードバック制御を開始するタイミングを、キャリアのピークやボトムのタイミングに同期させる構成がしばしば採用される。また、変調の周期に応じて、キャリアに対する変調指令(電圧指令)が演算されると演算効率も高くなるため、この観点からもキャリアと、電流フィードバック制御の実行タイミングとが同期していることが好ましい。特許文献1のように、1つのディジタル演算手段を用いて複数の回転電機を制御する場合には、それぞれの回転電機に対応するキャリアに、それぞれの回転電機の電流フィードバック制御の実行タイミングが同期していると共に、全ての回転電機の電流フィードバック制御が演算周期内で完了することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−272184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景に鑑みて、複数の交流回転電機の電流フィードバック制御を順次実施する際に、各交流回転電機に対応するパルス幅変調のキャリアの波形を個別に変動させると共に、各交流回転電機に対応する当該キャリアと各交流回転電機に対する電流フィードバック制御の実行タイミングとを同期させ、且つ、所定の制御周期内で全ての交流回転電機の電流フィードバック制御を完了させる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機制御装置の特徴構成は、
N個(Nは2以上の自然数)の交流回転電機のそれぞれに対応付けられたN個のインバータを、キャリアを用いたパルス幅変調方式により生成されたスイッチング制御信号により制御して、前記N個の交流回転電機の電流フィードバック制御を行う回転電機制御装置であって、
前記N個の交流回転電機のそれぞれに対する前記電流フィードバック制御を重複することなく順次実行させると共に、前記N個の交流回転電機の前記電流フィードバック制御を所定の制御周期内で完了させるタスク管理部と、
前記N個のインバータのそれぞれに対応する前記キャリアの基準区間の長さを所定の変動幅の範囲内でランダムに変動させて、N個の前記キャリアを生成するキャリア生成部と、を備え、
前記キャリア生成部は、前記N個のキャリアのそれぞれに対して互いに開始タイミングが一致することがないように管理区間を設定し、当該管理区間のそれぞれがN個の前記基準区間を含むと共に、前記管理区間のそれぞれの長さが前記制御周期に一致するように、それぞれの前記キャリアを生成する点にある。
【0008】
この構成によれば、N個の交流回転電機のそれぞれに対する電流フィードバック制御が重複することなく順次実行される。また、N個の交流回転電機の電流フィードバック制御は、所定の制御周期内で完了される。従って、N個よりも少ない数、例えば単一の演算装置を用いてN個の交流回転電機を制御することができる。つまり、回転電機制御装置を小規模な構成で実現することができる。また、N個のインバータのそれぞれに対応するパルス幅変調に用いられるN個のキャリアは、各キャリアの基準区間の長さを所定の変動幅の範囲内でランダムに変動させて生成される。この基準区間は、例えば、キャリアが三角波の場合のピークとボトムとの相互の間隔や、ピーク・トゥ・ピーク(ボトム・トゥ・ボトム)の間隔とすることができる。基準区間の変動により、キャリアを用いてパルス幅変調により生成されるスイッチング制御信号のパルスに起因するノイズの基本周波数が分散される。これにより、この基本周波数の高調波の周波数も分散するので、特定の周波数へのノイズの集中が緩和され、ノイズの最大エネルギーを小さくすることができる。さらに、各キャリアには、N個のキャリアのそれぞれに対して互いに開始タイミングが一致することがないように管理区間が設定されている。また、この管理区間は、管理区間のそれぞれがN個の基準区間を含むように設定されている。従って、N個の交流回転電機に対応して、効率よくキャリアを生成することができ、スイッチング制御信号を生成することができるので、円滑な回転電機制御が可能となる。また、管理区間は、それぞれの長さが制御周期に一致するように設定されており、各管理区間と制御周期とは互いに同期する。従って、キャリアの基準区間の長さがランダムに変動しても、各キャリアと制御周期との同期が保たれ、安定した回転電機制御が可能となる。このように、本構成によれば、複数の交流回転電機の電流フィードバック制御を順次実施する際に、各交流回転電機に対応するパルス幅変調のキャリアの波形を個別に変動させると共に、各交流回転電機に対応する当該キャリアと各交流回転電機に対する電流フィードバック制御の実行タイミングとを同期させ、且つ、所定の制御周期内で全ての交流回転電機の電流フィードバック制御を完了させることが可能となる。
【0009】
互いに開始タイミングが一致することがないように設定される管理区間の開始タイミングの間隔は、例えば、1つの交流回転電機に対して1回の電流フィードバック制御を実行可能な演算区間の長さ以上であるとよい。各管理区間が順次開始される間に、各管理区間の始めにおいて各交流回転電機の1回の電流フィードバック制御を実行することができるのでタスク管理も容易である。更に、管理区間の間隔を一定にすれば、複数の交流回転電機に対応する複数のキャリアの生成やタスク管理が容易となる。即ち、1つの態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記N個の交流回転電機のそれぞれに対応するN個の前記管理区間が、互いに等間隔ずらして設定されていると好適である。
【0010】
電流フィードバック制御は、実際に交流回転電機を流れる電流の検出結果を用いて実施される。従って、管理区間の開始タイミングを基準とした一定のタイミングで当該電流が検出されると、安定した電流フィードバックが実現できて好ましい。1つの態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記タスク管理部が、前記N個の交流回転電機のそれぞれに流れる電流を検出する電流検出タスクを、当該それぞれの交流回転電機に対応する前記管理区間の開始を基準とする所定のタイミングで実行させると好適である。
【0011】
例えば、キャリアが三角波の場合、管理区間の開始タイミングを三角波のピークやボトムと一致させることが可能である。キャリアの波形がピーク又はボトムであるタイミングでは、パルス幅変調の原理から、スイッチング制御信号のパルスの変化点と重なる可能性が低い。従って、インバータがスイッチングして交流回転電機に流れる電流が変化する過渡状態となる可能性が低く、当該電流が安定している可能性が高くなる。従って、管理区間の最初に電流検出タスクが実行されると、高い精度で交流回転電機に流れる電流を検出できて好適である。また、電流フィードバック制御の演算時間を有効に活用する観点からも、できるだけ初期に、実際に交流回転電機を流れる電流が検出されることが好ましい。即ち、1つの態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記タスク管理部が、前記電流検出タスクを、前記それぞれの交流回転電機に対応する前記管理区間の最初に実行させると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】回転電機制御装置を含むシステム構成の一例を模式的に示すブロック図
【図2】本発明の回転電機制御装置の構成の一例を模式的に示すブロック図
【図3】キャリアを用いたパルス幅変調の原理を示す波形図
【図4】キャリアに同期させて複数のモータをタイムシェアリング制御する原理を示すタイムチャート
【図5】変化点を変動させたキャリアに同期させて2つのモータをタイムシェアリング制御する例(比較例)を示すタイムチャート
【図6】各モータ個別のキャリアに同期させて2つのモータをタイムシェアリング制御する一例を示すタイムチャート
【図7】各モータ個別のキャリアに同期させて2つのモータをタイムシェアリング制御する他の例を示すタイムチャート
【図8】各モータ個別のキャリアに同期させて3つのモータをタイムシェアリング制御する例を示すタイムチャート
【図9】タスクの実行タイミングのバリエーションを示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、ハイブリッド自動車や電気自動車などの車両の駆動源及び当該車両の直流電源への回生源となる回転電機を制御する回転電機制御装置を例として、図面に基づいて説明する。本実施形態では、回転電機制御装置が、内燃機関と回転電機とが協働するハイブリッド自動車に搭載される2つの回転電機を制御する場合を例として説明する。2つの回転電機は、共に状況に応じて、電動機及び発電機として機能する。以下、回転電機を適宜、モータと称して説明するが、これは、電動機及び発電機として機能する回転電機を指す。
【0014】
図1のブロック図は、そのようなモータMの制御装置100(回転電機制御装置)を含む車両のシステム構成の一例を模式的に示している。図1に示すように、本実施形態では、交流回転電機として2つの3相同期モータMG1、MG2が備えられている。両モータを区別する場合には、第1モータMG1、第2モータMG2と称する。例えば、第1モータMG1は、主として発電機として機能し、第2モータMG2は主として電動機として機能する。1つの好適な形態として、第1モータMG1は、遊星歯車機構を有して構成される動力分配機構のサンギヤを介して入力された内燃機関からの駆動力により発電を行い、直流電源部56に備えられたバッテリを充電すると共に、第2モータMG2に電力を供給可能である。また、第2モータMG2は、直流電源部56や第1モータMG1から供給されて電動機として機能し、車両の走行用の駆動力を補助することが可能である。尚、車両が高速走行する際には、第1モータMG1が車両の駆動源となる電動機として機能することもある。また、第2モータMG2は、車両の減速時には車両の慣性力を電気エネルギーとして回生する発電機として機能するともある。この他、2つのモータMG1,MG2がそれぞれ異なる駆動輪に対して駆動連結される構成を採用することも可能である。
【0015】
両モータMG1,MG2は、同じ性能のモータであってもよいし、異なる性能のモータであってもよい。また、モータMG1,MG2をそれぞれ制御するインバータ57a,57bなどの制御回路も、同じ構成であってもよいし、モータの性能や仕様に応じて異なる構成であってもよい。本実施形態では、説明を容易にするために、特に、第1モータMG1と第2モータMG2とを区別する必要がない場合には、適宜モータMとして説明する。同様に、制御回路などについても区別する必要がない場合には、例えば、適宜インバータ57などとして説明する。
【0016】
図1に示すように、第1モータMG1及び第2モータMG2は、それぞれ、インバータ57a,57bを介して、直流電源部56と電気的に接続される。この直流電源部56は、バッテリであっても良いし、バッテリ及びバッテリの出力電圧を昇圧するコンバータを含むものであってもよい。インバータ57(57a,57b)は、直流電源部56から出力される直流電力を3相交流電力に変換する。変換された3相交流電力によって、電動機として機能するモータM(MG1,MG2)が駆動される。インバータ57は、モータMが発電機として機能する場合には、発電された3相交流電力を直流電力に変換して直流電源部56に回生する。
【0017】
インバータ57は、よく知られているようにスイッチング素子を用いた3相のブリッジ回路により構成される。スイッチング素子には、IGBT(insulated gate bipolar transistor)やMOSFET(metal oxide semiconductor field effect transistor)を適用すると好適である。以下、スイッチング素子としてIGBTを用いる場合を例として説明する。
【0018】
インバータ57の直流の正極側と直流の負極側との間には、2つのIGBTが直列に接続された1相分のレッグが構成され、このレッグが3回線並列接続される。つまり、モータMのu,v,w各相に対応するステータコイルのそれぞれに一組のレッグが対応したブリッジ回路が構成される。各レッグの上段側のIGBTのコレクタはインバータ57の直流の正極側に接続され、エミッタは各レッグの下段側のIGBTのコレクタに接続される。また、各レッグの下段側のIGBTのエミッタは、インバータ57の直流の負極側(例えば、グラウンド)に接続される。各レッグにおいて対となるIGBTの中間点、つまり、IGBTの接続点は、モータMの3相のステータコイルにそれぞれ接続される。IGBTには、それぞれ、カソード端子がIGBTのコレクタ端子に接続され、アノード端子がIGBTのエミッタ端子に接続される形でフリーホイールダイオード(回生ダイオード)が並列に接続される。各IGBTのゲートは、後述するドライバ回路55を介してECU(electronic control unit)50に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。本実施形態では、他のECUと区別するために、ECU50をTCU(trans-axle control unit)50と称する。
【0019】
TCU50は、マイクロコンピュータなどの論理回路を中核として構成される。本実施形態では、TCU50は、シングルタスクのマイクロコンピュータであるCPU(central processing unit)51と、インターフェース回路52と、その他の周辺回路等とを有して構成される。CPU51は、回転電機制御プログラムをシリアルに実行するコンピュータである。インターフェース回路52は、EMI(electro-magnetic interference)対策部品やバッファ回路などにより構成される。CPU51は、本発明の回転電機制御装置に相当する制御装置100の中核となる。高電圧をスイッチングするIGBTやMOSFETのゲートに入力される駆動信号は、マイクロコンピュータなどの一般的な電子回路の電源電圧よりも高い電圧を必要とするため、ドライバ回路55を介して電圧変換(例えば昇圧)された後、インバータ57に入力される。
【0020】
CPU51は、少なくとも、CPUコア11と、プログラムメモリ12と、パラメータメモリ13と、ワークメモリ14と、通信制御部15と、A/Dコンバータ16と、タイマ17と、ポート18とを有して構成される。CPUコア11は、CPU51の中核であり、命令レジスタや命令デコーダ、種々の演算の実行主体となるALU(arithmetic logic unit)、フラグレジスタ、汎用レジスタ、割り込みコントローラなどを有して構成される。CPUコア11は、単一の演算処理ユニットにより、シリアルにプログラムを実行するシングルタスクのコンピュータの中核を担う。
【0021】
プログラムメモリ12は、モータ制御プログラム(回転電機制御プログラム)が格納された不揮発性のメモリである。パラメータメモリ13は、プログラムの実行の際に参照される種々のパラメータが格納された不揮発性のメモリである。パラメータメモリ13は、プログラムメモリ12と区別することなく構築されてもよい。プログラムメモリ12やパラメータメモリ13は、例えばフラッシュメモリなどによって構成されると好適である。ワークメモリ14は、プログラム実行中の一時データを一時記憶するメモリである。ワークメモリ14は、揮発性で問題なく、高速にデータの読み書きが可能なDRAM(dynamic RAM)やSRAM(static RAM)により構成される。
【0022】
通信制御部15は、車両内の他のシステムとの通信を制御する。例えば、車両内のCAN(controller area network)などのネットワークを介して、走行制御システム60や、その他のシステム、センサ等との通信を制御する。本実施形態では、CPU51は、通信制御部15を介して、走行制御システム60から、モータ制御指令Hrを受け取り、これに基づいて、モータMを制御する。
【0023】
A/Dコンバータ16は、アナログの電気信号をデジタルデータに変換する。本実施形態では、モータMの各ステータコイルに流れるモータ電流の検出結果を電流センサ58(58a,58b)から受け取り、デジタルデータに変換する。尚、u,v,w相の3相電流は平衡しており、その瞬時値はゼロであるので、2相分のみの電流を検出し、残る1相はCPU51において演算により求めてもよい。本実施形態では、3相の全てが非接触型の電流センサ58により検出される場合を例示している。また、本例では、A/Dコンバータ16が6つのアナログ入力を有しているように図示しているが、これは3相2回線の合計6つの電流値を計測していることを明示するためである。従って、必ずしも6つの入力を有する必要はない。例えば、インターフェース回路52にマルチプレクサを備えて、時分割により6つ未満のアナログ入力からアナログの電流値を取得してもよい。
【0024】
タイマ17は、CPU51のクロック周期を最小分解能として、時間を計測する。例えば、タイマ17は、プログラムの実行周期を監視する。また、タイマ17は、インバータ57のIGBTを駆動するスイッチング制御信号の有効時間を計測して、当該スイッチング制御信号を生成する。また、タイマ17は、後述するように、管理区間TMや基準区間TRを計測して、パルス幅変調のキャリアCWを生成する。ポート18は、インバータ57のIGBTのスイッチング制御信号などをCPU51の端子を介して出力したり、CPU51に入力される回転検出センサ59(59a,59b)からの回転検出信号R(R1,R2)を受け取ったりする端子制御部である。回転検出センサ59は、モータMの近傍に設置されてモータMのロータの回転位置や回転速度を検出センサであり、例えば、レゾルバなどを用いて構成される。
【0025】
レジスタ91〜98は、CPU51のCPUコア11内の汎用レジスタや、ワークメモリ14により構成される。レジスタ91〜98は、CPUコア11によって実行されるプログラムの進行に応じて、適宜、一定期間データを一時記憶する。当然ながら、CPUコア11によって実行されるプログラムに応じて、一時記憶することなく、レジスタへのデータの入力と同時に出力させてもよい。尚、このようなレジスタ構成は一例であり、本発明を限定するものではない。
【0026】
本実施形態において、モータMの制御装置100は、上述したようなCPU51を中核として構成される。つまり、CPUコア11を主として、ワークメモリ14やタイマ17なども含むハードウェアと、プログラムメモリ12やパラメータメモリ13に格納されたプログラムやパラメータなどのソフトウェアとの協働により、制御装置100が構成される。図2に示すように、制御装置100は、トルク制御部10と、電流制御部3(3a,3b)と、電圧制御部6(6a,6b)と、キャリア生成部5と、回転状態演算部9(9a,9b)と、タスク管理部1とを有して構成される。尚、直流電源部56にコンバータが含まれる場合には、制御装置100に昇圧制御部が含まれると好適である。図2において、第1モータMG1を制御する機能部は末尾に「a」を付した符号で示され、第2モータMG2を制御する機能部は末尾に「b」を付した符号で示されている。以下、特に断らない限り、第1モータMG1を制御する機能部と第2モータMG2を制御する機能部とを区別することなく、適宜、電流制御部3などと称して説明する。
【0027】
交流モータを制御する方法として、ベクトル制御と呼ばれる制御方法が知られている。ベクトル制御では、交流モータの3相各相のステータコイルに流れるコイル電流を、回転子に配置された永久磁石が発生する磁界の方向に準じた第1軸(例えば、磁界の方向に沿ったd軸)と、第1軸に直交する第2軸(例えばq軸)との2相のベクトル成分に座標変換してフィードバック制御を行う。本実施形態においては、このd−q軸ベクトル空間におけるベクトル制御を採用した場合を例として説明する。
【0028】
ベクトル制御における座標変換に際しては、モータMの回転状態をリアルタイムで知る必要がある。従って、図1に示すように、モータMの近傍にレゾルバなどの回転検出センサ59が備えられる。その検出結果は、上述したように、CPU51のポート18を介して、CPUコア11内のレジスタやワークメモリ14に伝達される。制御装置100に設けられた回転状態演算部9は、回転検出センサ59の回転検出信号R(R1,R2)に基づいて、ロータ位置(電気角θ)や、回転速度(角速度ω)を求める。求められた電気角θや角速度ωは、トルク制御部10や電流制御部3や電圧制御部6において用いられる。
【0029】
トルク制御部10は、走行制御システム60から与えられるモータ制御指令(走行制御指令)Hrに基づいて、各モータMを制御するための要求トルク(トルク指令)Trを演算し、それぞれの要求トルクTrに応じて電流フィードバック制御のための2相の目標電流(電流指令)id,iqを設定する機能部である。目標電流id,iqは、上述したd軸及びq軸に対応して設定される。このため、トルク制御部10は、回転状態演算部9により求められた電気角θ(θ1,θ2)に基づいて要求トルクTrをd軸の目標電流id及びq軸の目標電流iqに座標変換する2相変換部2(2a,2b)を有して構成される。2相変換部2aは、第1モータMG1の要求トルクTr1に応じて、第1モータMG1の目標電流id,iqを演算する。2相変換部2bは、第2モータMG2の要求トルクTr2に応じて、第2モータMG2の目標電流id,iqを演算する。
【0030】
電流制御部3は、目標電流id,iqと、フィードバックされたモータ電流との偏差に基づいて、例えば比例積分制御(PI制御)や、比例微積分制御(PID制御)を行い、目標電圧(電圧指令)vd,vqを設定する機能部である。ここでは、比例微積分制御(PID制御)が行われる場合を例示しており、電流制御部3は、2相変換部31とPID制御部32とを有して構成される。電流センサ58により検出された電流値は、3相電流であるから、2相変換部31は、回転状態演算部9により求められた電気角θ(θ1,θ2)に基づいて、2相電流Id,Iqに座標変換する。PID制御部32は、目標電流id,iqと、2相モータ電流Id,Iqとの偏差、及び、回転状態演算部9により求められた角速度ω(ω1,ω2)に基づいて、PID制御を行い、目標電圧vd,vqを設定する。
【0031】
電圧制御部6は、目標電圧vd,vqに基づいて、インバータ57の3相のIGBTを駆動するスイッチング制御信号を生成する。電圧制御部6は、3相変換部61とPWM制御部62とを有して構成される。上述したように、インバータ57は、モータMの3相のステータコイルに対応して3相分設けられている。従って、3相変換部61により、2相の目標電圧(電圧指令)vd,vqは、回転状態演算部9により求められた電気角θ(θ1,θ2)に基づいて、3相の目標電圧vu,vv,vw(3相電圧指令v)に座標変換される。PWM制御部62は、インバータ57をパルス幅変調(PWM)により制御する機能部であり、インバータ57を構成する各IGBTのスイッチング制御信号PWを生成する。
【0032】
1つの態様として、図3に示すように、3相それぞれの電圧指令vと、パルス幅変調のためのキャリアCWとに基づいて各スイッチング制御信号PWの有効時間が求められる。そして、CPU51のタイマ17により各スイッチング制御信号PWの有効時間が計測され、ポート18を介してパルス状のスイッチング制御信号PWが出力される。ここで、キャリアCWが、対称な波形を有する三角波であるとする。つまり、キャリアCWの1周期TPは、ピーク・トゥ・ピーク(ボトム・トゥ・ボトム)であり、ピーク・トゥ・ボトム及びボトム・トゥ・ピークはそれぞれ等しく、キャリアCWの1周期TPの1/2である半周期HTPである。キャリア生成部5は、各モータMの各インバータに対応するキャリアCWを生成する機能部である。
【0033】
本実施形態のようにモータMが2つである場合、図4に示すように、キャリアCWの1周期TPを2個のモータMの1回の電流フィードバック制御を完了させる制御周期TCとすることができる。つまり、キャリアCWに同期させて、複数のモータMの電流フィードバック制御を実施することができる。図4に示すように、対称な波形を有するキャリアCWの1周期TPにおいて、2つのモータMの1回の電流フィードバック制御を完了させる場合、第1モータMG1、第2モータMG2のそれぞれの電流フィードバック制御は、キャリアCWの1周期TPの1/2である半周期HTPで完了させれば良い。ここで、第1モータMG1、第2モータMG2のそれぞれの1回の電流フィードバック制御の演算を実施可能な時間を演算区間TUと称する。例えば図4に示すように、第1モータMG1の演算区間TU1をキャリアCWのピーク・トゥ・ボトムの区間に設定し、第2モータMG2の演算区間TU2をキャリアCWのボトム・トゥ・ピークの区間に設定することによって、キャリアCWに同期させて、2つのモータMの電流フィードバック制御を実施することが可能である。図3及び図4に示すように、キャリアCWが対称な波形である場合には、両演算区間TU1,TU2は、共にキャリアCWの1周期TPの1/2である半周期HTPとなる。尚、後述するように、キャリアCWのピーク・トゥ・ボトムの区間やボトム・トゥ・ピークの区間は、キャリアCWの波形を変動させる際の基準区間TRとして設定可能である。
【0034】
各演算区間TUにおいては、例えば図4に示すようなタスクが実行される。即ち、制御周期TCに含まれる一方の演算区間TU1において、第1モータMG1に流れる電流を検出する第1電流検出タスクTS11、第1モータMG1に対する電流制御演算を行う第1電流制御タスクTS21、第1モータMG1のインバータ57aを駆動するスイッチング制御信号PWを生成する第1電圧制御タスクTS31が実行され、完了される。同様に、制御周期TCに含まれる他方の演算区間TU2において、第2モータMG2に流れる電流を検出する第2電流検出タスクTS12、第2モータMG2に対する電流制御演算を行う第2電流制御タスクTS22、第2モータMG2のインバータ57bを駆動するスイッチング制御信号PWを生成する第2電圧制御タスクTS32が実行され、完了される。タスク管理部10は、これら各タスクを管理し、適切なタイミングで各タスクを実行させる機能部である。
【0035】
尚、タスクは各モータMについて3種類ではなく、他のタスクも存在するが、ここでは、説明を容易にするために、上記3種類を例示している。例えば、トルク制御部10を中核として実施される目標トルクの演算や、回転状態演算部9を中核として実施される角速度ωや電気角θの演算などは省略している。また、以下の説明においては、第1モータMG1と第2モータMG2とを区別する必要が無い限り、各タスクを共通して、電流検出タスクTS1、電流制御タスクTS2、電圧制御タスクTS3と称する。
【0036】
上述したように、制御周期TCと基準区間TRとを適切に設定することによって、1つのマイクロコンピュータなど、単一の演算装置をタイムシェアリングして、複数のモータMを制御することが可能である。つまり、タスク管理部1は、N個(ここでは2個)のモータMのそれぞれに対する電流フィードバック制御を重複することなく順次実行させると共に、N個のモータMの電流フィードバック制御を所定の制御周期TC内で完了させる。
【0037】
ところで、第1モータMG1及び第2モータMG2が、同一のキャリアCW(又は同一波形のキャリアCW)を基準として制御されると、同一のキャリアCWを用いてスイッチング制御信号PWが生成されることになる。このため、スイッチング制御信号PWの基本周波数がほぼ同一の周波数となる。パルス波形であるスイッチング制御信号PWに起因して生じる高周波数のノイズ(インバータノイズ)は、この基本周波数の高調波成分である。従って、複数のモータMのスイッチング制御信号PWの基本周波数がほぼ同一の周波数であると、高周波数のノイズが特定の周波数に集中することになり、ノイズのエネルギーが高くなってしまう。本実施形態においては、このように特定の周波数にノイズが集中することがないように、スイッチング制御信号PWの基本周波数を所定の範囲内で変動させ、高調波成分の周波数も分散するようにキャリアCWを変動させる。
【0038】
図5は、スイッチング制御信号PWの基本周波数を所定の範囲内で変動させるためにキャリアCWの変化点(ピーク又はボトム)を所定の範囲内で変動させると共に、このキャリアCWに同期させて2つのモータをタイムシェアリング制御する比較例を示している。図5において、二点鎖線で示すキャリアCWは、図3と同様に対称な波形を示しており、実線で示すキャリアCWは、変化点を所定の変動幅FRの範囲内で変動させた非対称な波形を示している。ここでは、キャリアCWの1周期TPは、ピーク・トゥ・ピークで規定されて変動しない。キャリアCWのボトムのタイミングが変動することによって、キャリアCWの波形が変動する。つまり、キャリアCWのピーク・トゥ・ボトムの区間やボトム・トゥ・ピークの区間が、キャリアCWの波形を変動させる際の基準区間TRとして設定される。そして、この基準区間TRが所定の範囲内で変動されることによって、キャリアCWの波形が変動する。
【0039】
例えば、図5の左側の波形に示すようにボトムの変化タイミングを変動させることによって、基準区間TRの長さが変動する。この長さは、所定の変動幅FRの範囲内でランダムに設定される。例えば、CPU51にリミッタ付きの乱数発生器を備えることによって、ランダムに変動幅FRを設定可能なキャリア生成部5を容易に実現可能である。キャリアCWの1周期TPがピーク・トゥ・ピークで規定される場合、ピーク・トゥ・ボトムの区間の変動幅を、ボトム・トゥ・ピークの区間において逆に変動させることによってキャリアCWの1周期TPの長さを維持することができる。
【0040】
例えば、キャリアCWの1周期TPの長さが200μsの場合に、ランダムな変動幅FRを与えられて設定されるピーク・トゥ・ボトムの区間の長さが120μsであったとする。つまり、半周期HTPに対して+20μsの増分があった場合、この区間に続くボトム・トゥ・ピークの区間の長さは、半周期HTPに対して−20μsの増分を与えて(20μsの減少分を与えて)80μsとされる。これによって、キャリアCWの1周期TPの長さを固定値の200μsに維持しつつ、キャリアCWの波形を変動させることができる。あるいは、ランダムな変動幅FRを与えられて設定されるピーク・トゥ・ボトムの区間の長さが120μsであった場合、固定値の200μsからこの120μsを減算して当該の区間に続くボトム・トゥ・ピークの区間の長さ80μsを設定してもよい。このように、キャリア生成部5は、キャリアCWの周期を維持しながら、スイッチング制御信号PWの基本周波数を所定の範囲内で変動させてキャリアCWを生成することができる。
【0041】
尚、図5に示す例では、キャリアCWのピーク・トゥ・ボトムの区間に第1モータMG1の演算区間TU1(第1演算区間)が設定され、キャリアCWのボトム・トゥ・ピークの区間に第2モータMG2の演算区間TU2(第1演算区間)が設定されている。上述したように、ピーク・トゥ・ピークで規定されるキャリアCWの1周期TPの周期中のボトムのタイミングを変動させてキャリアCWの波形を変動させている。このため、演算区間TU1,TU2の長さもキャリアCWの波形に伴って変動することになる。従って、キャリアCWの半周期HTPと、各モータMにおける最大の演算時間との差によって規定される余裕時間を基準として基準区間TRを変動させる所定の変動幅FRが設定されると好ましい。具体的には、図5において「FR/2」で示される増減幅が余裕時間以下となるように基準区間TRを変動させる所定の変動幅FRが設定されると好ましい。これにより、基準区間TRの変動により、演算区間TUが変動しても、各モータMの電流フィードバック制御に必要な演算時間が確実に確保される。
【0042】
しかしながら、この余裕時間が少ない場合には、設定可能な変動幅FRも小さくなり、ノイズの抑制効果も小さくなってしまう。従って、第1モータMG1と第2モータMG2とにおいて、それぞれ個別のキャリアCWを用いることによって、各モータMの演算区間TUの長さを固定して、より高いノイズの抑制効果を奏しつつ、安定した制御を実現することが可能である。図6及び図7は、そのような個別のキャリアCWを用いることによって、各モータMの演算区間TU1,TU2の長さをそれぞれ固定した場合の例を示している。特に、図6では、各モータMの演算区間TU1,TU2の長さを同一の長さとした場合を例示している。
【0043】
図6に示すように、第1モータMG1のキャリアCW1(第1キャリア)の1周期TPは、ピーク・トゥ・ピークであり、ボトムの変化点が変動することによって基準区間TR1の長さが変化する。第2モータMG2のキャリアCW2(第2キャリア)の1周期TPは、ボトム・トゥ・ボトムであり、ピークの変化点が変動することによって基準区間TR1の長さが変化する。両キャリアCW1及びCW2の1周期TPは同一の長さである。両キャリアCW1及びCW2は、第1モータMG1のキャリアCW1のピークと第2モータMG2のキャリアCW2のボトムとは、互いに半周期HTPずれた状態で同期している。つまり、第1モータMG1のキャリアCW1のピークと第2モータMG2のキャリアCW2のボトムとは、等間隔に現れる。
【0044】
第1モータMG1の演算区間TU1(第1演算区間)は、第1モータMG1のキャリアCW1のピークに同期して設定されており、第2モータMG2の演算区間TU2(第2演算区間)は、第2モータMG2のキャリアCW2のボトムに同期して設定されている。より具体的には、第1モータMG1の演算区間TU1は、第1モータMG1のキャリアCW1のピークから第2モータMG2のキャリアCW2のボトムまでの区間に設定されている。また、第2モータMG2の演算区間TU2は、第2モータMG2のキャリアCW2のピークから第2モータMG2のキャリアCW2のボトムまでの区間に設定されている。両キャリアCW1及びCW2は上述したように同期しており、第1モータMG1のキャリアCW1のピークと第2モータMG2のキャリアCW2のボトムとは等間隔であるから、両演算区間TU1,TU2は、同じ長さとなる。つまり、各キャリアCW1,CW2の基準区間TR1,TR2が変動しても、両演算区間TU1,TU2は、固定された長さとなり、本例では共に同じ長さとなる。
【0045】
例えば、キャリアCW1,CW2の1周期TPの長さを200μsとする。キャリア生成部5は、ランダムな変動幅FRを与えられて設定されるキャリアCW1のピーク・トゥ・ボトムの区間の長さを例えば120μsに設定し、120μsかけてキャリアCW1をピークからボトムへ変移させる。キャリア生成部5は、ランダムな変動幅FRを与えられて設定されるキャリアCW2のボトム・トゥ・ピークの区間の長さを例えば130μsに設定し、キャリアCW1のピークから100μs後に、キャリアCW2をボトムからピークへ、130μsかけて変移させる。図5を参照して上述したように、キャリアCW1のボトム・トゥ・ピークの区間の長さは、80μs(=200−120)に設定される。キャリア生成部5は、キャリアCW1のピークから120μs後に、キャリアCW1をボトムからピークへ、80μsかけて変移させる。同様に、キャリアCW2のピーク・トゥ・ボトムの区間の長さは70μs(=200−130)となる。キャリア生成部5は、キャリアCW2のボトムから130μs後(キャリアCW1のピークから230μs後)に、キャリアCW2をピークからボトムへ、70μsかけて変移させる。
【0046】
ここで、各キャリアCW1,CW2において、それぞれ基準区間TR1,TR2をモータMの個数分(ここでは2個分)含む区間を管理区間TMと規定する。後述するように、図6に例示する形態では、キャリアCWの1周期TPと、管理区間TMとの長さが一致している。従って、上述した具体例では、キャリア生成部5によるランダムな波形の変動が、キャリアCWの1周期TPの長さを基準として管理される形態をもって説明した。しかし、キャリア生成部5によるランダムな波形の変動は、基準区間TRをモータMの個数分含む管理区間TMの長さを基準として管理される。例えば、図8を参照して後述するように、モータMが3個の場合には、キャリアCWの1周期TPの長さと、管理区間TMの長さとが異なる。ランダムに変動する基準区間TRの長さが、管理区間TMを基準として規定されることの意義は、図8を参照して後述する説明により明らかとなるので、ここでは詳細な例示は省略する。
【0047】
第1モータMG1のキャリアCW1の管理区間TM1(第1管理区間)は、2つの基準区間TR1(第1基準区間)を含むピーク・トゥ・ピークの区間に設定される。また、第2モータMG2のキャリアCW2の管理区間TM2(第2管理区間)は、2つの基準区間TR2(第2基準区間)を含むボトム・トゥ・ボトムの区間に設定される。上述したように、キャリアCW1の1周期TPは、ピーク・トゥ・ピークの区間において規定され、キャリアCW2の1周期TPは、ボトム・トゥ・ボトムの区間において規定されている。従って、各管理区間TM1,TM2と、各キャリアCW1,CW2の1周期TPとは同じ長さとなる。当然ながら、両管理区間TM1,TM2の長さは同一である。また、両管理区間TM1,TM2は、互いに開始タイミングが一致することがないように設定されている。図6に示す例では、両管理区間TM1,TM2は、開始タイミングを互いに等間隔ずらして設定されている。
【0048】
図6に示すように、管理区間TM1,TM2には、両モータMG1,MG2のそれぞれの演算区間TU1,TU2が含まれている。より具体的には、第1モータMG1の管理区間TM1は、先頭の第1モータMG1の演算区間TU1に続いて第2モータMG2の演算区間TU2を含んで設定されている。また、第2モータMG2の管理区間TM2は、先頭の第2モータMG2の演算区間TU2に続いて第1モータMG1の演算区間TU1を含んで設定されている。つまり、両管理区間TM1,TM2は、N個(ここでは2個)のモータMのそれぞれに対応する電流フィードバック制御が重複することなく順次実行され、当該N個のモータMの電流フィードバック制御が完了される区間に相当する。つまり、両管理区間TM1,TM2の長さは、タスク管理部1により、複数のモータMの電流フィードバック制御が完了させられる制御周期TCの長さに一致するように設定されている。
【0049】
図6に例示した態様では、各モータMG1,MG2の管理区間TM1、TM2の先頭にそれぞれの演算区間TU1,TU2が含まれる例を示した。このように、各モータMの管理区間TMの先頭に各モータMの演算区間TUを含むようにすると、各モータMのキャリアCWに同期させたタスク管理も容易となり好適である。しかし、管理区間TMに含まれる演算区間TUの順序は、この例に限定されるものではない。
【0050】
上述したように、2つのモータM(MG1,MG2)のそれぞれに対応付けられた2個のインバータ57(57a,57b)を、キャリアCWを用いたパルス幅変調方式により生成されたスイッチング制御信号PWにより制御して、2つのモータM(MG1,MG2)の電流フィードバック制御を行う制御装置100は、以下のように構成することができる。タスク管理部1は、2個のモータM(MG1,MG2)のそれぞれに対する電流フィードバック制御をそれぞれの演算区間TU(TU1,TU2)を重複させることなく順次実行させると共に、2個のモータM(MG1,MG2)の電流フィードバック制御を所定の制御周期CP内で完了させるタスク管理を行う。キャリア生成部5は、2個のインバータ57(57a,57b)のそれぞれに対応するキャリアCW(CW1,CW2)の基準区間TR(TR1,TR2)の長さを所定の変動幅FRの範囲内でランダムに変動させて、2個のキャリアCW1,CW2を生成する。この際、キャリア生成部5は、2個のキャリアCW1,CW2のそれぞれに対して互いに開始タイミングが一致することがないように管理区間TM(TM1,TM2)を設定する。さらに、キャリア生成部5は、これら管理区間TM1,TM2のそれぞれが2個の基準区間TR1,TR2を含むと共に、管理区間TM1,TM2のそれぞれの長さが制御周期CPに一致するように、それぞれのキャリアCW1,CW2を生成する。
【0051】
図6に示した例においては、さらに、キャリア生成部5は、2個のモータM(MG1,MG2)のそれぞれに対応する2個の管理区間TM1,TM2のそれぞれを、互いに等間隔ずらして設定する。これによって、2個のモータM(MG1,MG2)の演算区間TU(TU1,TU2)が同一の長さとなるから、複数のモータMを1つの演算装置(CPUなど)を用いて制御する際の動作が安定し、また、プログラム等の設計も容易となる。
【0052】
尚、図5を参照して上述したように、各モータMの1回の電流フィードバック制御に必要な最大の演算時間が確保されるのであれば、必ずしも、2個の管理区間TM1,TM2が互いに等間隔ずらして設定され、2個のモータMG1,MG2の演算区間TU1,TU2が同一の長さに設定される必要はない。つまり、図7に例示するように、2個のモータMG1,MG2の演算区間TU1,TU2が異なる長さに設定されてもよい。例えば、2つのモータMが仕様の異なるモータであって、電流フィードバック制御に要する演算時間が異なるような場合に、演算時間の余裕時間が均等となるように演算区間TU1,TU2を異なる長さに設定することは好適な態様である。換言すれば、各キャリアCWの管理区間TMは、少なくとも演算区間TU以上の間隔を空けて設定されていればよい。当然ながら、2つのモータMの仕様が均等であって、電流フィードバック制御に要する演算時間も均等であっても、演算区間TU1,TU2が異なる長さに設定されることを妨げるものではない。少なくとも演算区間TU1,TU2の長さは固定されることによって、制御の安定性は担保される。
【0053】
上述した各態様では、モータMの個数Nが2の場合について説明した。しかし、モータMの個数Nは、3以上の任意の自然数であってもよい。図8は、モータMの個数Nが3の場合の各モータMの演算区間TU(TU1,TU2,TU3)、管理区間TM(TM1,TM2,TM3)、制御周期TC、及び各モータMの電流フィードバック制御のタスクTS1(TS11,TS12,TS13)、TS2(TS21,TS22,TS23)、TS3(TS31,TS32,TS33)を示している。キャリアCW1は第1モータMG1のキャリアを示しており、キャリアCW2は第2モータMG2のキャリアを示しており、キャリアCW3(第3キャリア)は第3モータ(不図示)のキャリアを示している。各キャリアCW1,CW2,CW3は、ピーク・トゥ・ボトム又はボトム・トゥ・ピークを基準区間TRとして、3つ分(N個分)の基準区間TRを含む区間が管理区間TM(TM1,TM2,TM3)となるように生成されている。本形態では、各管理区間TMは、それぞれ等間隔(半周期HTP)ずらして設定されているが、図7に例示したように、異なる間隔で設定されていてもよい。
【0054】
各キャリアCWの管理区間TMは、ピーク又はボトムを開始タイミングの基準として、3つ先の変化点までの区間(波形上の1.5周期)に設定されている。キャリア生成部5は、例えば、ピークが開始タイミングであった場合には、3つの基準区間TRのうちの最初の基準区間TRの長さを所定の変動幅の範囲内でランダムに変化させることによって次の変化点であるボトムの変化タイミングを変動させる。続いて、キャリア生成部5は、次の基準区間TRの長さを所定の変動幅の範囲内でランダムに変化させることによって次の変化点であるピークの変化タイミングを変動させる。最後に、キャリア生成部5は、これら2つの基準区間TRの変動幅の増減方向を加味した合計値を、当該合計値の増減方向とは逆方向に変動させて3つめの基準区間TRの長さを決定し、次の変化点であるボトムの変化タイミングを決定する。このボトムの変化タイミングは、次の管理区間TMの開始タイミングとなり、以降これを繰り返すことによって一定の長さの管理区間TMが設定される。
【0055】
具体例を挙げて補足する。例えば、キャリアCW(CW1,CW2,CW3)の管理区間TMの長さが300μsとする。上述したように、本形態では管理区間TMは、キャリア波形の1.5周期分に相当するから、管理区間TMの長さが固定されることによって、キャリアCWの周波数は、ほぼ一定の周波数に維持される。本形態では、モータMの個数が3つであるから、管理区間TMには、3つの基準区間TRが含まれる。最初の基準区間TR、及びこれに続く2つ目の基準区間TRの長さは所定の変動幅FRの範囲内で、ランダムに設定される。例えば、最初の基準区間TRの長さが120μsであり、2つ目の基準区間TRの長さが90μsであったとする。管理区間TMを3等分すれば、1つの基準区間TRの基準値は100μsであるから、最初の基準区間TRにおいて「+20μs」、2つ目の基準区間TRにおいて「−10μs」の変動があったことになり、増減方向を加味した変動幅の合計値は「+10μs」である。キャリア生成部5は、この合計値の増減方向とは逆方向の「−10μs」の変動を与えて、3つ目の基準区間TRを90μsと設定する。あるいは、キャリア生成部5は、管理区間TMの長さである300μsから、2つの基準区間TRの合計値「210μs」を減算して、3つ目の基準区間TRを90μsと設定する。キャリアCW同士の同期の取り方については、図6を参照して上述した説明より、容易に理解可能であるから詳細な説明は省略する。
【0056】
このように、モータMの個数Nが3であっても、個数Nが2の場合と同様に各モータMに対して個別にキャリアCWを設定することが可能である。また、N=4,6,8・・・と、モータMの個数が偶数の場合には、当業者であれば、上述したN=2の場合の態様を参考にして容易に個別のキャリアCWを生成可能であるから詳細な説明は省略する。また、N=5,7,9・・・と、モータMの個数が奇数の場合も、当業者であれば、上述したN=3の場合の態様を参考にして容易に個別のキャリアCWを生成可能であるから詳細な説明は省略する。これらの説明により、Nが2以上の自然数であるN個のモータMのそれぞれに対応づけられたN個のインバータ57を、キャリアCWを用いたパルス幅変調方式により生成されたスイッチング制御信号により制御して、当該N個のモータMの電流フィードバック制御を行う制御装置100を実現可能であることが明らかである。
【0057】
図9は、タスクの実行タイミングのバリエーションを示している。図9(a)は、図4〜図8と同様に、各モータMの演算区間TUの開始と共に電流検出タスクTS1が実行される例を示している。後続の電流制御タスクTS2の実行には実際にモータMを流れる電流の検出が必要であり、演算区間TUを有効に活用するためには、演算区間TUの始めに電流検出タスクTS1が実行されることが好ましい。しかし、電流検出タスクTS1の実行タイミングは、演算区間TUの開始に限定されるものではない。図9(b)は、タスク管理部1が、電流検出タスクTS1を、それぞれのモータMに対応する演算区間TUの開始を基準とする所定のタイミングで実行させる、つまり、開始から所定の期間T1後に実行させる。このように、所定の期間T1をおいて電流検出タスクTS1が実行される場合には、当該期間において図9(c)に示すように、他のタスクTS0が実行されてもよい。ここで、他のタスクTS0とは、例えば、トルク制御部10を中核として実施される目標トルクの演算や、回転状態演算部9を中核として実施される角速度ωや電気角θの演算などとすることができる。
【0058】
尚、上述したように、各モータMに対応する演算区間TUは、各管理区間TMの先頭に設定されていると好適である。この場合には、電流検出タスクTS1は、それぞれのモータMに対応する管理区間TMの開始を基準とする所定のタイミングで実行される。図6〜図8に例示したように、管理区間TMの開始タイミングは、キャリアCWの波形がピーク又はボトムとなるタイミングであると、波形の生成が容易でもあり好適である。そして、キャリアCWの波形がピーク又はボトムであるタイミングでは、PWMの原理から、スイッチング制御信号PWのパルスの変化点と重なる可能性が低い。従って、インバータ57がスイッチングしてモータMに流れる電流が変化する過渡状態となる可能性が低く、当該電流が安定している可能性が高くなる。従って、管理区間TMの最初に電流検出タスクTS1が実行されると、高い精度でモータMに流れる電流を検出できて好適である。
【0059】
以上説明したように、本発明によって、複数の交流回転電機の電流フィードバック制御を順次実施する際に、各交流回転電機に対応するパルス幅変調のキャリアの波形を個別に変動させると共に、各交流回転電機に対応する当該キャリアと各交流回転電機に対する電流フィードバック制御の実行タイミングとを同期させ、且つ、所定の制御周期内で全ての交流回転電機の電流フィードバック制御を完了させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、N個(Nは2以上の自然数)の交流回転電機のそれぞれに対応付けられたN個のインバータを、キャリアを用いたパルス幅変調方式により生成されたスイッチング制御信号により制御して、当該N個の交流回転電機の電流フィードバック制御を行う回転電機制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1:タスク管理部
5:キャリア生成部
57,57a,57b:インバータ
100:制御装置(回転電機制御装置)
CP:制御周期
CW、CW1,CW2,CW3:キャリア
FR:所定の変動幅
M:モータ(交流回転電機)
MG1:第1モータ
MG2:第2モータ
PW:スイッチング制御信号
TC:制御周期
TM,TM1,TM2:管理区間
TP:キャリアの1周期
TR,TR1,TR2:基準区間
TS1:電流検出タスク
TS11:第1電流検出タスク(電流検出タスク)
TS12:第2電流検出タスク(電流検出タスク)
TU、TU1,TU2:演算区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N個(Nは2以上の自然数)の交流回転電機のそれぞれに対応付けられたN個のインバータを、キャリアを用いたパルス幅変調方式により生成されたスイッチング制御信号により制御して、前記N個の交流回転電機の電流フィードバック制御を行う回転電機制御装置であって、
前記N個の交流回転電機のそれぞれに対する前記電流フィードバック制御を重複することなく順次実行させると共に、前記N個の交流回転電機の前記電流フィードバック制御を所定の制御周期内で完了させるタスク管理部と、
前記N個のインバータのそれぞれに対応する前記キャリアの基準区間の長さを所定の変動幅の範囲内でランダムに変動させて、N個の前記キャリアを生成するキャリア生成部と、を備え、
前記キャリア生成部は、前記N個のキャリアのそれぞれに対して互いに開始タイミングが一致することがないように管理区間を設定し、当該管理区間のそれぞれがN個の前記基準区間を含むと共に、前記管理区間のそれぞれの長さが前記制御周期に一致するように、それぞれの前記キャリアを生成する回転電機制御装置。
【請求項2】
前記N個の交流回転電機のそれぞれに対応するN個の前記管理区間が、互いに等間隔ずらして設定されている請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記タスク管理部は、前記N個の交流回転電機のそれぞれに流れる電流を検出する電流検出タスクを、当該それぞれの交流回転電機に対応する前記管理区間の開始を基準とする所定のタイミングで実行させる請求項1又は2に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
前記タスク管理部は、前記電流検出タスクを、前記それぞれの交流回転電機に対応する前記管理区間の最初に実行させる請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−244774(P2012−244774A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112562(P2011−112562)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】