説明

回転電機

【課題】液体冷媒が巻線のより多くの部分に行き渡るように構成された液冷機構を備える回転電機を提供する。
【解決手段】モータ1のステータ3が、ステータ鉄心33と、ボビン(34A、34B)と、巻線35とを具備する。ボビンは、ステータ鉄心33を挟むように装着されたボビン部材34A、34Bを備えている。ボビン部材34Aは、ボビンセンター51と内側羽根部52と外側羽根部53とを備えている。外側羽根部53は、モータ1の半径方向に貫通する供給孔50を有している。ステータ2は、外側羽根部52の供給孔50に液体冷媒を供給するように構成されている。ボビン部材34Aには、巻線35のステータ鉄心33と反対側を覆う巻線カバー34Cが外側羽根部53の供給孔50が巻線カバー34Cとボビンセンター51の間に位置するように装着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関し、特に、液冷式回転電機において液体冷媒を循環させるための液冷機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータには、運転時の発熱を除去する為に、液体冷媒を用いる液冷機構が設けられることがある。最も典型的には、ラジエータからクーラントを供給する水冷機構が設けられ、この水冷機構により駆動モータからの発熱が除去される。更に近年では、車両の小型化・軽量化に伴う冷却機構の小型化の要求を満足するために、冷媒として冷却油を使用することも検討されている。
【0003】
モータの液冷技術としては、様々なものが公知である。例えば、特開平4−364343号公報は、ステータの前端と後端にOリングを介してカバー部材が取り付けられ、このカバー部材により液体冷媒の流路を形成する技術が開示されている。また、特開2004−112856号公報は、スロットの開口部分を閉塞してスロットを冷媒が通流可能な通路にする冷却構造を開示している。この公報に開示されたモータでは、ケース固定部材によってステータがケースに固定されている。
【0004】
液冷機構の設計における一つの要求は、冷却効率の向上、特に、巻線の冷却効率の向上である。モータの主たる発熱源は巻線であり、巻線の冷却は、モータの信頼性の向上のために重要な要素の一つである。このためには、液体冷媒が巻線の全体に行き渡るように液冷機構が構成されることが望ましい。更に、冷却効率の向上の要求は、少ない工数で組み立て可能である構造で実現されることが望ましい。このような要求は、モータ及び発電機のいずれについても、即ち、回転電機に共通して当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−364343号公報
【特許文献2】特開2004−112856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、液体冷媒が巻線のより多くの部分に行き渡るように構成された液冷機構を備える回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下に述べられる手段を採用する。その手段の記述には、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための形態]の記載との対応関係を明らかにするために、[発明を実施するための形態]で使用される番号・符号が付記されている。但し、付記された番号・符号は、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲を限定的に解釈するために用いてはならない。
【0008】
本発明の液冷式回転電機(1)は、ロータ(2)と、ステータ(3)とを具備する。ステータ(3)は、ステータ鉄心(33)と、ステータ鉄心(33)のそれぞれに設けられたボビン(34A、34B)と、ボビン(34A、34B)のそれぞれに巻かれる巻線(35)とを具備する。ボビン(34A、34B)は、ステータ鉄心(33)を挟むように装着された第1ボビン部材(34A)及び第2ボビン部材(34B)を備えている。第1ボビン部材(34A)は、ステータ鉄心(33)のステータ歯(33b)に沿って配置される第1ボビンセンター(51)と、第1ボビンセンター(51)に接合され、ロータ(2)に対向する第1内側羽根部(52)と、第1内側羽根部(52)よりも回転電機(1)の半径方向外側の位置で第1ボビンセンター(51)に接合される第1外側羽根部(53)とを備えている。第1外側羽根部(53)は、回転電機(1)の半径方向に貫通して巻線(35)に通じる供給孔(50)を有している。ステータ(2)は、第1外側羽根部(52)の供給孔(50)に液体冷媒を供給するように構成されている。ボビン(34A、34B)のそれぞれの第1ボビン部材(34A)には、巻線(35)のステータ鉄心(33)と反対側を覆う巻線カバー(34C)が、第1内側羽根部(52)と第1外側羽根部(53)との間に装着されている。巻線カバー(34C)は、第1外側羽根部(53)の供給孔(50)が巻線カバー(34C)と第1ボビンセンター(51)の間に位置するように第1ボビン部材(34A)に装着される。
【0009】
このような構成では、ボビン(34A、34B)に装着された巻線カバー(34C)が供給孔(50)に供給された液体冷媒の流れを巻線(35)に向かわせ、液体冷媒が巻線のより多くの部分に行き渡る。これにより、冷却効率が有効に向上される。
【0010】
液体冷媒を巻線(35)のより多くの部分に行き渡らせるためには、巻線カバー(34C)が巻線(35)にそって湾曲されていることが望ましい。
【0011】
ステータ(3)が、ステータ鉄心(33)とボビン(34A、34B)と巻線(35)を収容するハウジング(31)と、ハウジング(31)の開口を覆うカバー(32)とを更に備え、第2ボビン部材(34B)が、ステータ鉄心(33)のステータ歯(33b)に沿って配置される第2ボビンセンター(54)と、第2ボビンセンター(54)に接合され、ロータ(2)に対向する第2内側羽根部(55)と、第2内側羽根部(55)よりも回転電機(1)の半径方向外側の位置で第2ボビンセンター(54)に接合される第2外側羽根部(56)とを備える場合、ハウジング(31)とカバー(32)と第1及び第2内側羽根部(52、55)とが、液体冷媒が第1及び第2内側羽根部(52、55)の内側に侵入しないように構成された環状の密液構造の空間を形成していることが好ましい。このような構成は、冷却冷媒の流路を少ない工数で形成可能である。
【0012】
第1ボビン部材(34A)の第1外側羽根部(52)の供給孔(50)がステータ鉄心よりもハウジング(31)の側に位置しており、巻線(35)の引出線(35a)が前記ステータ鉄心(33)よりもカバー(32)の側に配置されている場合、弾性材料で形成された堰部材(40)が、巻線(35)のカバー(32)の側を覆うように配置されることが好ましい。このような構成は、液体冷媒を巻線のより多くの部分に行き渡らせることを可能にする。
【0013】
一実施形態では、ハウジング(31)の内部にノズルリング(36)が設けられ、ハウジング(31)には液体冷媒が供給される供給口(31a)が設けられる。この場合、ノズルリング(36)は、供給口(31a)から供給された液体冷媒を回転電機の周方向に分配し、第1ボビン部材(34A)の供給孔(50)に半径方向に供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液体冷媒が巻線のより多くの部分に行き渡り、回転電機の液冷機構の冷却効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態のモータの構造を示す断面図である。
【図2】図2は、図1のモータの拡大断面図である。
【図3A】図3Aは、図1のモータのノズルリング及びボビンの構造を示す断面図である。
【図3B】図3Bは、ノズルリングの構造を示す断面図である。
【図4A】図4Aは、堰部材を軸方向から見た正面図である。
【図4B】図4Bは、堰部材の構造を示す断面図である。
【図5】図5は、ステータ鉄心を、軸方向に見た正面図である。
【図6A】図6Aは、ステータ鉄心とボビンの構造を示す斜視図である。
【図6B】図6Bは、ステータ鉄心とボビンの構造を示す斜視図である。
【図6C】図6Cは、ステータ鉄心とボビンの構造を示す斜視図である。
【図6D】図6Dは、ステータ鉄心とボビンの構造を示す斜視図である。
【図7A】図7Aは、ボビンをハウジングの側から軸方向に見た正面図である。
【図7B】図7Bは、ボビンをカバーの側から軸方向に見た背面図である。
【図7C】図7Cは、ボビンを周方向にみた側面図である。
【図7D】図7Dは、ボビンの外側羽根部をボビンセンターを切断した上でボビンセンターの側から見た図である。
【図7E】図7Eは、ボビンの内側羽根部をボビンセンターを切断した上でボビンセンターの側から見た図である。
【図7F】図7Fは、ボビンの外側羽根部に設けられた供給孔の構造を示す図である。
【図8】図8は、ボビンと巻線カバーの構造を示す斜視図である。
【図9A】図9Aは、巻線カバーをモータの半径方向外側から見た上面図である。
【図9B】図9Bは、巻線カバーをハウジングの側から軸方向に見た正面図である。
【図10】図10は、巻線カバーがボビンに挿入された状態を示す図である。
【図11A】図11Aは、ボビンをハウジングの側から軸方向に見た正面図である。
【図11B】図11Bは、ボビンをカバーの側から軸方向に見た背面図である。
【図11C】図11Cは、ボビンを周方向に見た側面図である。
【図12】図12は、本実施形態のモータの組み立て工程を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態におけるモータ1の構造を示す断面図であり、図2は、その拡大図である。図1、図2は、モータ1の中心軸1aを含む断面を図示している。本明細書においては、中心軸1aに平行な方向が軸方向と記載され、中心軸1aに垂直な方向が半径方向と記載され、中心軸1aの周りの方向は周方向と記載される。図1、図2において、矢印6は、鉛直方向上向きを示している。本実施形態では、中心軸1aは、鉛直方向と垂直である。
【0017】
本実施形態のモータ1は、概略的には、ロータ2とステータ3とから構成される。
【0018】
ロータ2は、シャフト21と、リテーナ22と、ロータ鉄心23と、界磁磁石24とを備えている。リテーナ22は、ロータ鉄心23をシャフト21に固定する。ロータ鉄心23は、軸方向に延伸する開口を有しており、界磁磁石24は、その開口に挿入されている。本実施形態では、界磁磁石24として永久磁石が使用される。
【0019】
ステータ3は、ハウジング31と、カバー32と、ステータ鉄心33と、ボビン部材34A、34Bと、巻線35とを備えている。
【0020】
ハウジング31とカバー32とは、モータ1の各機構を支持するための構造部材である。ハウジング31は、ステータ鉄心33と、ボビン部材34A、34Bと、巻線35とを収容し、これらの部材を所望の位置に保持する。更に、ハウジング31には軸受4が設けられ、カバー32には軸受5が設けられ、ロータ2のシャフト21は、軸受4、5によって回転可能に保持される。カバー32は、ハウジング31の開口を覆うように配置される。カバー32は、ボルト37によってハウジング31に固定される。図1には、ボルト37は1つしか図示されていないが、実際には、適宜の数のボルト37がカバー32をハウジング31に固定する為に使用される。
【0021】
ハウジング31には、外部から冷却油が供給される供給口31aと、冷却油を排出するための排出口31bとが設けられる。冷却油としては、例えば、ATF(automatic transmission fluid:ATFは出光興産の登録商標)が好適に使用される。なお、冷却油以外の他の液体冷媒も使用可能である。後述されるように、供給口31aに供給された冷却油は、巻線35を通るように形成された冷媒通路を通過して排出口31bから排出される。本実施形態では、供給口31aは、ハウジング31の最も高い位置に設けられ、排出口31bは、ハウジング31の最も低い位置に設けられている。
【0022】
図2に図示されているように、ハウジング31には、ノズルリング36がはめ込まれている。このノズルリング36は、図3Aに図示されているように、モータ1の中心軸1aを中心とする環状形状を有している。ノズルリング36には、図3Bに図示されているように外側面に環状の溝36aが設けられていると共に、図3Aに図示されているように、溝36aから半径方向に延伸してノズルリング36を貫通して内側面に到達する供給孔36bが設けられている。後述のように、ノズルリング36の溝36aは、巻線35を冷却する冷却油を周方向に流通させる役割をしており、供給孔36bは、冷却油を巻線35に半径方向に供給する役割をする。本実施形態では、ノズルリング36の溝36aとハウジング31とで冷却油を周方向に流通させる流路が形成されているが、ノズルリング36それ自体を周方向に貫通する流路が形成されてもよい。
【0023】
図2を再度に参照して、ステータ鉄心33は、ボビン部材34A、34Bによって挟まれている。一対のボビン部材34A、34Bにより、巻線35が巻きつけられるボビンが形成される。ボビン部材34A、34Bは、ステータ鉄心33と巻線35との間の絶縁性を確保しつつ、ステータ鉄心33に巻線35を巻きつける工程を容易にするために使用される構造体である。ボビン部材34A、34Bは、絶縁性の樹脂、例えば、エンジニアプラスチックで形成可能である。図3Aに図示されているように、ステータ鉄心33、ボビン部材34A、34B、及び巻線35の組は、モータ1の周方向に並んで配置されている。
【0024】
再び図1を参照して、巻線35に電流を供給する為の引出線35aは、巻線35のカバー32の側からハウジング31に設けられた穴を介して外部に引き出されている。ボビン部材34Aには、モータ1の半径方向に貫通する供給穴50が設けられている。供給孔50は、ノズルリング36の供給孔36bから供給される冷却油を、巻線35に供給する役割を果たしている。
【0025】
ボビン部材34A、34Bは、ハウジング31とカバー32とによって挟まれて保持される。詳細には、ハウジング31に溝が設けられ、その溝にボビン部材34Aの端部が挿入されている。同様に、カバー32にも溝が設けられ、その溝にボビン部材34Bの端部が挿入されている。シール性を向上させる為に、ハウジング31とボビン部材34Aの間にパッキン38aが挿入され、同様に、カバー32とボビン部材34Bの間にパッキン38bが挿入されている。もしシール性の問題が無ければ、パッキン38a、38bが挿入されないことも可能である。
【0026】
ボビン部材34Aには、絶縁性の樹脂で形成された巻線カバー34Cがはめ込まれる。巻線カバー34Cは、巻線35のステータ鉄心33と反対側の面において巻線35と対向するように設けられる。後述のように、巻線カバー34Cは、ボビン部材34Aの供給孔50に供給された冷却油が流れる経路を制御し、巻線35の冷却効率を高めるために使用される。ボビン部材34A、34B、巻線カバー34Cの構造及び機能については、後に詳細に説明する。
【0027】
ステータ鉄心33を一層に強固に固定するために、ハウジング31にはリテーナ39がはめ込まれている。ノズルリング36とリテーナ39とでステータ鉄心33が挟まれ、これにより、ステータ鉄心33が固定されている。
【0028】
更に、ボビン34Bとリテーナ39の間にパッキン38cが挿入されている。このパッキン38cは、周方向に隣接するボビン34Bの重ね合わせ面から軸方向への冷却油の漏れを防ぐ為のものである。パッキン38cにより、ボビン34Bとリテーナ39の間がシールされ、密液構造が形成されている。
【0029】
巻線35の引出線35aが引き出されている側には堰部材40が設けられる。堰部材40は、絶縁性の弾性材料で形成される。図4A、図4Bは、堰部材40の構造を示す図である。ここで、図4Aは、堰部材40をステータ鉄心33から軸方向に見た図であり、図4Bは、堰部材40の断面図である。図4Aに図示されているように、堰部材40は、環状の形状を有していると共に、その断面形状はL字型である。堰部材40は、基部40aと側面部40bとで構成されている。側面部40bは、基部40aの半径方向外側の端部から、モータ1の軸方向に延伸するように設けられている。堰部材40は、基部40aが巻線35の引出線35aの側に対向して位置し、且つ、側面部40bが基部40aからステータ鉄心33に向かって延伸するように配置される。後述のように、堰部材40は、冷却油の流れを制御し、巻線35の冷却効率を向上させるために用いられている。堰部材40の作用については、後に詳細に説明する。
【0030】
続いて、ステータ鉄心33、ボビン部材34A、34B及び巻線カバー34Cの構造を詳細に説明する。
【0031】
図5は、一のステータ鉄心33を、軸方向からみた正面図である。ステータ鉄心33は、概略的には、外周部33aとステータ歯33bとで構成されている。複数のステータ鉄心33が周方向に並べられると、外周部33aによって環状の磁気経路が形成される。隣接するステータ鉄心33のステータ歯33bの間に形成される空間33cが、スロットになる。ステータ鉄心33は、典型的には、所望の形状に打ち抜かれた電磁鋼板を積層することによって構成される。
【0032】
図6A〜図6Dは、ステータ鉄心33と、ボビン部材34A、34Bとの構造を図示する斜視図である。詳細には、図6Aは、ボビン部材34A、34Bがステータ鉄心33に途中まで装着された状態で、ステータ鉄心33とボビン部材34A、34Bをモータ1の内側から見た斜視図であり、図6Bは、ボビン部材34A、34Bがステータ鉄心33に完全に装着された状態でステータ鉄心33とボビン部材34A、34Bをモータ1の内側から見た斜視図である。また、図6Cは、ボビン部材34A、34Bがステータ鉄心33に途中まで装着された状態で、ステータ鉄心33とボビン部材34A、34Bをモータ1の外側から見た斜視図であり、図6Dは、ボビン部材34A、34Bがステータ鉄心33に完全に装着された状態でステータ鉄心33とボビン部材34A、34Bをモータ1の外側から見た斜視図である。
【0033】
図6A〜図6Dに図示されているように、ボビン部材34Aは、概略的には、ボビンセンター51と内側羽根部52と外側羽根部53とで構成されており、内側羽根部52と外側羽根部53とがボビンセンター51によって連結されている。同様に、ボビン部材34Bは、概略的には、ボビンセンター54と内側羽根部55と外側羽根部56とで構成され、内側羽根部55と外側羽根部56とがボビンセンター54によって連結されている。図6B、図6Dに図示されているように、ボビン部材34A、34Bがステータ鉄心33に完全に装着されると、ステータ歯33bの周囲がボビンセンター51、54によって取り囲まれる。巻線35は、ステータ歯33bの周りに設けられたボビンセンター51、54の外側に接して巻かれる。ボビン部材34A、34Bの内側羽根部52、55と外側羽根部53、56は、ボビンセンター51、54の端部から、ステータ鉄心33と反対側に突出するように設けられており、巻線35をガイドして巻線35を巻く作業を容易にする役割を果たしている。
【0034】
図7A〜図7Fは、ボビン部材34Aの構造を詳細に示す図である。詳細には、図7Aは、ボビン部材34Aをハウジング31の側から軸方向に見た正面図であり、図7Bは、ボビン部材34Aをカバー32の側から軸方向に見た背面図であり、図7Cは、ボビン部材34Aをモータ1の周方向から見た図である。更に、図7Dは、ボビン部材34Aをボビンセンター51で切断し、ボビンセンター51の側から外側羽根部53を見た図であり、図7Eは、ボビン部材34Aをボビンセンター51で切断し、ボビンセンター51の側から内側羽根部52を見た図である。最後に、図7Fは、外側羽根部53の一部分をモータ1の外側から見た図である。
【0035】
図7Aに図示されているように、ボビン部材34Aの外側羽根部53には供給孔50が設けられている。この供給孔50は、外側羽根部53をモータ1の半径方向に貫通しており、前述の通り、ボビン部材34Aに巻き付けられた巻線35にノズルリング36から冷却油を半径方向に供給する役割を果たしている。供給孔50の断面形状は、外側羽根部53の内部で切り換えられている。図7A、図7Fに示されているように、供給孔50の断面形状は、外側羽根部53の外側面において円形である一方、外側羽根部53の内側面では長円形である。
【0036】
ボビン部材34Aの外側羽根部53の外側面は、その断面が円弧をなす形状を有している。このような形状を有する外側羽根部53の外側面は、ボビン部材34Aがモータ1のハウジング31に組み込まれたときにノズルリング36の内側に押し当てられる。加えて、ボビン部材34Aの供給孔50は、ノズルリング36の供給孔36bに対応する位置に設けられている。このような構造により、冷却油は、ノズルリング36の供給孔36bからボビン部材34Aに供給孔50に供給される。
【0037】
図2及び図8に示されているように、ボビン部材34Aは、巻線カバー34Cがハウジング31の側から内側羽根部52と外側羽根部53との間に挿入可能であるような構造を有している。図9A、図9Bは、巻線カバー34Cの形状を示す図である。詳細には、図9Aは、巻線カバー34Cをモータ1の外側から半径方向に見た図であり、図9Bは、巻線カバー34Cをハウジング31の側から軸方向に見た図である。巻線カバー34Cは、概ね、正面部61と側部62、63とで構成される。側部62、63と正面部61との接続部分は丸められており、側部62、63は、正面部61に滑らかに接続されている。また、巻線カバー34Cは、側部62、63において、モータ1の半径方向内側に向かって細くなるような形状を有している。
【0038】
図7Cに図示されているように、ボビン部材34Aに嵌められた巻線カバー34Cをボビン部材34Aに固定するために、ボビン部材34Aの外側羽根部53のボビンセンター51側の面(中心軸1aの側の面)には突起部57と段差58とが設けられ、内側羽根部52の外側面(中心軸1aと反対側の面)には突起部59と段差60とが設けられる。図7Dに図示されているように、突起部57は、外側羽根部53の段差58に沿った位置に設けられる。同様に、図7Eに図示されているように、突起部59は、内側羽根部52の段差60に沿った位置に設けられる。
【0039】
図10は、巻線カバー34Cがボビン部材34Aに嵌められた状態で、ボビン部材34Aのボビンセンター51及び巻線カバー34Cを切断しボビンセンター51の側から外側羽根部53を見た図である。巻線カバー34Cがボビン部材34Aに嵌められると、巻線カバー34Cの外側羽根部53の側の端が外側羽根部53の段差58に押し当てられ、巻線カバー34Cの内側羽根部52の側の端が内側羽根部52の段差60に押し当てられる。外側羽根部53の突起部57及び内側羽根部52の突起部59は、巻線カバー34Cがボビン部材34Aに嵌められた後、巻線カバー34Cがボビン部材34Aから離脱することを防ぐ役割をする。
【0040】
一方、図11A〜図11Cは、ボビン部材34Bの構造を示す図である。詳細には、図11Aは、ボビン部材34Bをハウジング31の側から軸方向に見た正面図であり、図11Bは、ボビン部材34Aをカバー32の側から軸方向に見た背面図であり、図11Cは、ボビン部材34Bをモータ1の周方向から見た図である。ボビン部材34Bは、概ね、ボビン部材34Aと同様の形状を有している。ただし、内側羽根部55、外側羽根部56には、段差及び突起部は設けられない。
【0041】
以上のような構成を有する本実施形態のモータ1は、概略的には、下記の手順で組み立てられる。
まず、各ステータ鉄心33にボビン部材34A、34Bが嵌めこまれ、更に、ボビン部材34A、34Bの周りに巻線35が巻きつけられる。一方、ハウジング31には、ノズルリング36がはめ込まれる。
【0042】
続いて、ボビン部材34Aがハウジング31に設けられた溝に差し込まれ、巻線35が巻きつけられたステータ鉄心33、ボビン部材34A、34Bがハウジング31にはめ込まれる。このとき、ボビン部材34A、34Bが周方向に並んで配置される。隣接する2つのボビン部材34Aの内側羽根部52は、冷却油が漏れないように密接して並べられ、同様に、隣接する2つのボビン部材34Bの内側羽根部55は、冷却油が漏れないように密接して並べられる。各ステータ鉄心33に装着されるボビン部材34A、34Bの内側羽根部52、55も、冷却油が漏れないように密接して並べられる。このとき、巻線35の引出線35aは、ハウジング31の開口の側に位置していることに留意されたい。更に、リテーナ39が嵌めこまれ、ステータ鉄心33がハウジング31に固定される。ハウジング31のカバー32が取り付けられる側を上にしてハウジング31を作業台に置けば、以上の作業は容易になる。更に、引出線35aがハウジング31に設けられた穴から外部に引き出され、その穴が密封される。更に、堰部材40が巻線35の引出線35aの側を覆うように置かれる。図12は、この状態を図示している。
【0043】
続いて、軸受4とロータ2とがハウジング31に嵌めこまれ、更に、軸受5がロータ2に嵌めこまれた後にカバー32がハウジング31にボルト37によって固定される。以上の工程で図1のモータ1が完成する。
【0044】
上記のモータ1の構造の一つの利点は、巻線35が巻き付けられるボビン部材34A、34Bがハウジング31及びカバー32に挟まれるだけで、冷却油の流路が形成されることである。詳細には、本実施形態のモータでは、各ボビン部材34Aの内側羽根部52がハウジング31に嵌めこまれ、各ボビン部材34Bの内側羽根部55がパッキン38を挟んでカバー32に押し当てられる。これにより、ハウジング31、カバー32、及びボビン部材34A、34Bの内側羽根部52、55によって環状の空間が形成される。即ち、冷却油の流路が、冷却油が内側羽根部52、55の内側に侵入しないように構成された環状に形成される。ボビン部材34A、34Bを流路の形成と兼用する構造は、少ない工数で冷却油の流路を形成することを可能にする点で好ましい。以下では、本実施形態のモータ1において冷却油が流れる流路について詳細に説明する。
【0045】
図1に示されているように、冷却油は、ハウジング31の供給口31aに供給される。供給口31aに供給された冷却油は、図3Aに図示されているように、ノズルリング36の溝36aとハウジング31とで形成された流路を通ってモータ1の周方向に流れ、ノズルリング36の各供給孔36bに到達する。供給孔36bに到達した冷却油は、モータ1の半径方向に流れてボビン部材34Aの供給孔50に供給される。図2に示されているように、供給孔50に供給された冷却油は、巻線35が巻きつけられている空間に流れ込み、更に、ステータ鉄心33に沿ってモータ1の軸方向に流れる。これにより、巻線35が直接に冷却油によって冷却される。このとき、ボビン部材34A、34Bの内側羽根部52、55と、ハウジング31とカバー32とが密液構造をなしていることにより、冷却油は、ロータ2が回転する空間には侵入しないことに留意されたい。ロータ2が回転する空間への冷却油の侵入を防ぐことは、モータ1の効率を上げるために重要である。
【0046】
ステータ鉄心33に沿って軸方向に流れて巻線35のカバー32の側に到達した冷却油は、その後、モータ1の周方向に流れ、ハウジング31とカバー32とボビン部材34A、34Bの内側羽根部52、55で囲まれた空間の最下部に到達する。最下部に到達した冷却油は、排出口31bから排出される。排出口31bから排出された冷却油は、オイルクーラ(図示されない)によって冷却され、更にオイルポンプ(図示されない)によって汲み上げられてハウジング31の供給口31aに戻される。
【0047】
上述の冷却油の流路について留意すべきことの一つは、冷却油がノズルリング36の溝36aによって周方向に分散された後、各ボビン部材34Aの供給孔50に半径方向に注入されることである。このような構造は、モータ1の軸方向の長さを短縮するために有効である。特開平4−364343号公報、特開2004−112856号公報に開示されているような、冷却油が軸方向に供給される構造では、モータ1の軸方向の長さが増大してしまう。本実施形態では、冷却油が半径方向に注入されるため、モータ1の軸方向の長さを短縮することができる。
【0048】
本実施形態のモータ1の一つの特徴は、ボビン部材34Aに嵌めこまれた巻線カバー34Cにより、巻線35に効率よく冷却油が供給されるように冷却油の流れが制御されていることである。図10に図示されているように、巻線カバー34Cは、供給孔50に近接した位置で巻線35のハウジング31の側を覆っているため、冷却油が巻線35から離れてハウジング31に向かうことを防ぐ。これにより、巻線35が冷却油によって濡れ易くなり、冷却効率が向上する。加えて、巻線カバー34Cが巻線35に沿って湾曲されているので、供給孔50から流入した冷却油は、巻線35に沿って流れる(図10の矢印参照)。これも、冷却効率を向上させる為に有効である。このように、本実施形態では、巻線カバー34Cによって冷却油の流れが制御され、冷却効率が向上する。これは、モータ1の運転の信頼性を向上させる為に有効である。
【0049】
本実施形態のモータ1では、更に、堰部材40によって巻線35の引出線35aの側の冷却油の流れが制御され、これにより、冷却効率が有効に向上されている。巻線35の引出線35aの側において巻線35の線間の隙間から冷却油が軸方向に抜けると、巻線35の全面が冷却油によって濡れ難くなり、冷却効率が低下する。堰部材40は、軸方向に流れてきた冷却油の流れを周方向に変え、これにより、巻線35の全体を冷却油によって濡れ易くする。これは、冷却効率の向上に有効である。
【0050】
ここで、堰部材40が弾性材料(弾性変形可能な材料)で形成されることは、巻線35の引出線側の複雑な構造に応じて冷却油の流れを制御するために重要であることに留意されたい。巻線35の引出線側では、引出線35aや信号線が配線されるため、不規則に凹凸する構造が現れる。堰部材40が弾性材料で構成されることにより、巻線35の引出線側が不規則性な構造を有していても、それにそって堰部材40を配置することができる。これは、冷却効率の向上に有効である。
【0051】
なお、本実施形態のモータ1において、堰部材40は、冷却油による冷却効率の向上の為に必須の構成要素ではないことに留意されたい。本実施形態のモータ1においては、巻線カバー34Cが使用される一方で堰部材40が使用されないことも可能である。
【0052】
また、上述では本発明がモータに適用されている実施形態が記述されているが、本発明が、モータ及び発電機のいずれの回転電機にも適用可能であることに留意されたい。
【符号の説明】
【0053】
1:モータ
1a:中心軸
2:ロータ
3:ステータ
4、5:軸受
6:矢印
21:シャフト
22:リテーナ
23:ロータ鉄心
24:界磁磁石
31:ハウジング
31a:供給口
31b:排出口
32:カバー
33:ステータ鉄心
33a:外周部
33b:ステータ歯
33c:空間
34A、34B:ボビン部材
34C:巻線カバー
35:巻線
35a:引出線
36:ノズルリング
36a:溝
36b:供給孔
37:ボルト
38a〜38c:パッキン
39:リテーナ
40:堰部材
40a:基部
40b:側面部
50:供給孔
51、54:ボビンセンター
52、55:内側羽根部
53、56:外側羽根部
57、59:突起部
58、60:段差
61:正面部
62、63:側部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
ステータ
とを具備する回転電機であって、
前記ステータは、
ステータ鉄心と、
前記ステータ鉄心のそれぞれに設けられたボビンと、
前記ボビンのそれぞれに巻かれる巻線
とを具備し、
前記ボビンは、前記ステータ鉄心を前記回転電機の軸方向に挟むように装着された第1及び第2ボビン部材を備え、
前記第1ボビン部材は、
前記ステータ鉄心のステータ歯に沿って配置される第1ボビンセンターと、
前記第1ボビンセンターに接合され、前記ロータに対向する第1内側羽根部と、
前記第1内側羽根部よりも前記回転電機の半径方向外側の位置で前記第1ボビンセンターに接合される第1外側羽根部
とを備え、
前記第1外側羽根部は、前記回転電機の半径方向に貫通して前記巻線に通じる供給孔を有しており、
前記ステータは、前記第1外側羽根部の前記供給孔に液体冷媒を供給するように構成されており、
前記ボビンのそれぞれの前記第1ボビン部材には、前記巻線の前記ステータ鉄心と反対側を覆う巻線カバーが、前記第1外側羽根部と前記第1内側羽根部の間に装着され、
前記巻線カバーは、前記第1外側羽根部の前記供給孔が前記巻線カバーと前記第1ボビンセンターの間に位置するように前記第1ボビン部材に装着される
回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記巻線カバーが前記巻線にそって湾曲されている
回転電機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転電機であって、
前記ステータは、
前記ステータ鉄心と前記ボビンと前記巻線を収容するハウジングと、
前記ハウジングの開口を覆うカバー
とを更に備え、
前記第2ボビン部材は、
前記ステータ鉄心のステータ歯に沿って配置される第2ボビンセンターと、
前記第2ボビンセンターに接合され、前記ロータに対向する第2内側羽根部と、
前記第2内側羽根部よりも前記回転電機の半径方向外側の位置で前記第2ボビンセンターに接合される第2外側羽根部
とを備え、
前記ハウジングと前記カバーと前記第1及び第2内側羽根部とは、前記液体冷媒が前記第1及び第2内側羽根部の内側に侵入しないように構成された環状の密液構造の空間を形成している
回転電機。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機であって、
更に、弾性材料で形成された堰部材を備えており、
前記第1ボビン部材の前記第1外側羽根部の前記供給孔は、前記ステータ鉄心よりも前記ハウジングの側に位置しており、
前記巻線の引出線は、前記ステータ鉄心よりも前記カバーの側に配置され、
前記堰部材は、前記巻線の前記カバーの側を覆うように配置された
回転電機。
【請求項5】
請求項3に記載の回転電機であって、
更に、前記ハウジングの内部に設けられるノズルリングを具備し、
前記ハウジングには前記液体冷媒が供給される供給口が設けられ、
前記ノズルリングは、前記供給口から供給された前記液体冷媒を前記回転電機の周方向に分配し、前記第1ボビン部材の前記供給孔に前記半径方向に供給する
回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−239775(P2010−239775A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85247(P2009−85247)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】