説明

回転電機

【課題】コイルエンドを効率よく均一に冷却し得るようにした回転電機を提供する。
【解決手段】回転電機1は、回転自在な回転子30と、回転子30と径方向に対向して配置され、周方向に配列された複数のスロット51を有する固定子コア50と、周方向の異なるスロット51に収容されるスロット収容部71とスロット51の外部でスロット収容部71同士を接続しているターン部72とを有する複数のコイル素線70を固定子コア50に巻装してなる固定子コイル60とを備えている。固定子コイル60は、固定子コア50の軸方向両端面からそれぞれ軸方向外方へ突出した複数のターン部72が径方向に重ねられてなるコイルエンド61を有する。固定子コイル60の軸方向両側には、コイルエンド61の軸方向端面61aのみにそれぞれ対向して配置された熱交換器(冷却部材)81が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されて電動機や発電機として使用される回転電機に関し、特に固定子コイルの温度上昇を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車載用の回転電機は、回転軸心を中心に回転自在な回転子と、該回転子と径方向に対向して配置され、周方向に配列された複数のスロットを有する固定子コアと、該固定子コアのスロットに対して複数のコイル素線を巻装してなる固定子コイルとを備えている。そして、コイル素線は、周方向の異なるスロットに収容されるスロット収容部と、スロットの外部でスロット収容部同士を接続しているターン部とを有する。これにより、固定子コイルの軸方向両側には、固定子コアの端面から軸方向外方へ突出したターン部によりコイルエンドが形成されている。
【0003】
上記のように構成される回転電機は、運転によって固定子コイルの温度が上昇することから、その対策について種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、ステータコイル(固定子コイル)のコイルエンドの径方向最外側または径方向最内側の細板状導体の平坦な主面に電気絶縁されつつ直接に密着する平坦な冷却面を有してコイルエンドを冷却する良熱伝導性の冷却部材を備えた回転電機が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、チューブと循環ポンプとラジエータとを備え、冷却材の循環系をなす冷却回路に対して、開閉弁を介してリザーブタンクを接続してなる電動機の冷却装置が開示されている。この冷却装置では、ステータコイルの外周面にチューブを密着させた状態に配置し、チューブの内部を流通する冷却材の圧力によってチューブが体膨張および体収縮可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−125512号公報
【特許文献2】特開2003−18796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1では、コイルエンドの径方向外側のみに冷却部材を配設した場合(特許文献1の図11参照)には、コイルエンドの内周側と外周側とで温度分布が発生してしまい、コイルエンドを均一的に冷却することができない。また、コイルエンドの径方向外側および内側の両側に冷却部材を配設した場合(特許文献1の図13参照)には、固定子コアの内側に配設された回転子とコイルエンドの径方向内側に配設された冷却部材との間に渦損が発生してしまうという問題がある。また、コイルエンドの径方向両側および軸方向端面側に断面コ字形状の冷却部材を配設した場合(特許文献1の図14参照)には、コイルエンドの略全域が冷却部材で覆われているため、冷却部材の内部を流通する冷却液の流量が必要以上に多くなってしまうという問題や、冷却部材の構造上の理由から作製が容易ではないという問題がある。
【0007】
一方、上記特許文献2に記載されているステータコイルは、所謂、集中巻きによってステータのティースに巻装されたものであり、集中巻きのステータコイルの場合には、コイルエンドで折り返されるコイル(ターン部)のうち、コイルエンドの表面に露出しない(内部に位置する)コイルが存在する。そのため、チューブの内部を流通する冷却材によりコイルエンドの表面に露出しないコイルまで冷却し難いという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、コイルエンドを効率よく均一に冷却し得るようにした回転電機を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、回転自在な回転子と、該回転子と径方向に対向して配置され、周方向に配列された複数のスロットを有する固定子コアと、周方向の異なる前記スロットに収容されるスロット収容部と前記スロットの外部で前記スロット収容部同士を接続しているターン部とを有する複数のコイル素線を前記固定子コアに巻装してなる固定子コイルと、を備えた回転電機において、前記固定子コイルは、前記固定子コアの軸方向両端面からそれぞれ軸方向外方へ突出した複数の前記ターン部が径方向に重ねられてなるコイルエンドを有し、前記固定子コイルの軸方向両側には、前記コイルエンドの軸方向端面のみにそれぞれ対向して配置された冷却部材が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、固定子コイルの軸方向両側に、複数のターン部が径方向に重ねられてなるコイルエンドの軸方向端面のみにそれぞれ対向して配置された冷却部材が設けられている。即ち、本発明では、コイルエンドを構成している全てのターン部が、コイルエンドの軸方向端面で折り返されており、この折り返し部のみに対向して配置された冷却部材により、コイルエンドを冷却するようにしている。そのため、コイルエンドに存在する全てのターン部を冷却部材で同時に冷却することができるので、コイルエンド全体を効率よく均一に冷却することができる。
【0011】
なお、コイルエンドの軸方向端面は、最も温度が高くなる部位であることから、コイルエンドを冷却する冷却部材を設ける位置としては最適である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記冷却部材の表面には絶縁部材が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、冷却部材の表面には絶縁部材が設けられているので、固定子コイルに対する冷却部材の電気絶縁性をより確実に確保することができる。
【0014】
なお、絶縁部材は、セラミックスや樹脂などの電気絶縁性を有する材料で形成することができる。セラミックス材料としては、例えば、AlN(窒化アルミニウム)やAl(アルミナ)などを挙げることができ、特に、AlNは、熱伝導性や絶縁性に優れているので好適に採用することができる。また、樹脂材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、PPSなどを挙げることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記冷却部材は、前記コイルエンドの軸方向端面に対して接合部材で取り付けられており、該接合部材は、空気よりも熱伝導性の高い材料で形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、冷却部材をコイルエンドの軸方向端面に、接合部材で簡単且つ容易に取り付けることができる。また、接合部材が空気よりも熱伝導性の高い材料で形成されていることで、冷却部材の冷却性能の低下を回避することができる。なお、接合部材の形成材料としては、例えば、セラミックスの粒子が含有された接着剤を挙げることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記冷却部材は、周方向に複数回周回する冷却液の流路を有し、該流路の内周側に冷却液導入口が設けられ、前記流路の外周側に冷却液導出口が設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、冷却部材は、周方向に複数回周回する冷却液の流路を有するため、周方向に複数回周回する流路を流動する冷却液により、コイルエンドを周方向に均一に冷却することができる。また、本発明に係る回転電機においては、通常、漏れ磁束による渦損が固定子の内周側ほど多く発生することから、固定子の外周側よりも内周側の方が高温になり易い。そのため、請求項4に記載の発明によれば、流路の内周側に冷却液導入口が設けられ、流路の外周側に冷却液導出口が設けられているので、冷却液導入口から導入された最も低温の冷却液により、コイルエンドの内周側から外周側へと順に冷却することができる。これにより、コイルエンド全体を、更に効率よく且つ径方向に均一に冷却することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記流路は、前記冷却液導入口から周方向に1周する毎にターンして、時計回り方向と反時計回り方向への周回を交互に繰り返した後、前記冷却液導出口に到達するように構成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、流路は、冷却液導入口から周方向に1周する毎にターンして、時計回り方向と反時計回り方向への周回を交互に繰り返した後、冷却液導出口に到達するように構成されていることから、コイルエンド全体を周方向に均一に冷却することができる。なお、冷却液導入口から周方向に周回を開始する方向は、時計回り方向であっても反時計回り方向であってもよい。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記流路は、前記冷却液導入口から分岐して周方向両側に延び、それぞれ半周する毎にターンして、時計回り方向と反時計回り方向への周回を交互に繰り返した後、前記冷却液導出口で合流するように構成されていることを特徴とする。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、流路は、冷却液導入口から分岐して周方向両側に延び、それぞれ半周する毎にターンして、時計回り方向と反時計回り方向への周回を交互に繰り返した後、冷却液導出口で合流するように構成されている。これにより、流路の冷却液導入口から冷却液導出口までの距離が、請求項5の場合に比べて略半分になり、圧損が少なくなるので、冷却部材に冷却液を供給する駆動力源を小さくすることができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、前記流路は、前記冷却液導入口から周方向に1周する毎に外周側へ順に周移りして周回し、前記冷却液導出口に到達するように構成されていることを特徴とする。
【0024】
請求項7に記載の発明によれば、流路は、冷却液導入口から周方向に1周する毎に外周側へ順に周移りして周回し、冷却液導出口に到達するように構成されていることから、請求項5の場合と同様に、コイルエンド全体を周方向に均一に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態1の回転電機の軸方向に沿う模式断面図である。
【図2】実施形態1の回転電機において用いられる固定子を示す図であって、(a)は固定子の外観を示す斜視図であり、(b)はその固定子を側方から見た側面図である。
【図3】実施形態1の回転電機において固定子に用いられる固定子コアの正面図である。
【図4】実施形態1の回転電機において固定子コアを形成する分割コアの平面図である。
【図5】実施形態1の回転電機において固定子コイルに用いられるコイル素線の全体形状を示す正面図である。
【図6】実施形態1の回転電機において固定子コイルに用いられるコイル素線の断面図である。
【図7】実施形態1の回転電機において固定子コイルに用いられるコイル素線のターン部の形状を示す斜視図である。
【図8】実施形態1の回転電機において用いられる固定子の一部を示す部分斜視図である。
【図9】実施形態1の回転電機において用いられる冷却部材を含む冷却装置を示す模式図である。
【図10】実施形態1の回転電機において用いられる冷却部材の径方向に沿う断面図である。
【図11】実施形態1の回転電機において用いられる冷却部材の流路を示す模式図である。
【図12】変形例1に係る冷却部材の流路を示す模式図である。
【図13】変形例2に係る冷却部材の流路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る回転電機の実施形態について図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1に係る回転電機の軸方向に沿う模式断面図である。本実施形態に係る回転電機1は、車両用電動機として使用されるものであって、図1に示すように、略筒状の本体部11および該本体部11の両端開口を閉塞する蓋部12、13とからなるハウジング10と、ハウジング10に軸受け21、22を介して回転自在に支承される回転軸20と、回転軸20に固定された回転子30と、ハウジング10の内部で回転子30を包囲する位置でハウジング10に固定された固定子コア50および固定子コイル60からなる固定子40と、固定子コイル60のコイルエンド61を冷却する冷却装置80と、を備えている。なお、本実施形態に係る回転電機1は、通常使用状態では回転軸20の回転軸心が略水平方向となるように設置される。
【0028】
回転子30は、固定子コア50の内周側と向き合う外周側に、永久磁石31により周方向に交互に異なる磁極を複数形成している。回転子30の磁極の数は、回転電機により異なるため限定されるものではない。本実施形態では、8極(N極:4、S極:4)の回転子が用いられている。
【0029】
次に、図2〜図8を参照して固定子40の詳細について説明する。図2は、実施形態1の回転電機において用いられる固定子を示す図であって、(a)は固定子の外観を示す斜視図であり、(b)はその固定子を側方から見た側面図である。図3は、実施形態1の回転電機において固定子に用いられる固定子コアの正面図である。図4は、実施形態1の回転電機において固定子コアを形成する分割コアの平面図である。図5は、実施形態1の回転電機において固定子コイルに用いられるコイル素線の全体形状を示す正面図である。図6は、実施形態1の回転電機において固定子コイルに用いられるコイル素線の断面図である。図7は、実施形態1の回転電機において固定子コイルに用いられるコイル素線のターン部の形状を示す斜視図である。図8は、実施形態1の回転電機において用いられる固定子の一部を示す部分斜視図である。
【0030】
固定子40は、図2に示すように、固定子コア50と、固定子コア50に複数のコイル素線70を巻装してなる三相の固定子コイル60と、を備えている。固定子コア50は、図3に示すように、内周に複数のスロット51が形成された円環状を呈している。複数のスロット51は、その深さ方向が径方向と一致するように形成されている。固定子コア50に形成されたスロット51の数は、回転子30の磁極数に対し、固定子コイル60の一相あたり2個の割合で形成されている。本実施形態では、8×3×2=48より、スロット数は48個とされている。
【0031】
固定子コア50は、図4に示す分割コア52を周方向に所定の数(本実施形態では24個)連結して形成されている。この分割コア52は、複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層させて形成されている。分割コア52は、一つのスロット51を区画するとともに、周方向に隣接する分割コア52との間で一つのスロット51を区画する形状を呈している。具体的には、分割コア52は、径方向内方に伸びる一対のティース部52aと、ティース部52aを径方向外方で連結するバックコア部52bとを有している。これら連結された分割コア52は、外周側に嵌合された外筒53により円環状に保形されている。
【0032】
固定子コイル60は、波形に成形した複数のコイル素線70(図5参照)を所定の方法で編み込んで帯状の導線集積体を形成した後、その導線集積体を渦巻き状に巻くことにより円筒状に形成されている。
【0033】
固定子コイル60を構成するコイル素線70は、図6に示すように、銅製の導体77と、導体77の外周を覆い導体77を絶縁する内層78aおよび外層78bからなる絶縁被膜78とから形成されており、断面形状が矩形のものである。内層78aおよび外層78bを合わせた絶縁被膜78の厚みは、100μm〜200μmの間に設定されている。このように、内層78aおよび外層78bからなる絶縁被膜78の厚みが厚いので、コイル素線70同士を絶縁するためにコイル素線70同士の間に絶縁紙等を挟み込む必要がなくなっているが、コイル素線70同士の間あるいは固定子コア50と固定子コイル60との間に絶縁紙を配設してもよい。
【0034】
外層78bはナイロン等の絶縁材、内層78aは外層78bよりもガラス転移温度の高い熱可塑性樹脂またはポリアミドイミド等の絶縁材で形成されている。これにより、回転電機1に発生する熱により外層78bは内層78aよりも早く結晶化するため、外層78bの表面硬度が高くなり、コイル素線70に傷がつきにくくなる。このため、コイル素線70の絶縁を確保できる。
【0035】
コイル素線70は、図5に示すように、長手方向に沿って並列配置され固定子コア50のスロット51に収容される複数のスロット収容部71と、隣り合うスロット収容部71同士をスロット収容部71の一端側と他端側とで交互に連結する複数のターン部72とを有する波形に形成されている。このコイル素線70は、固定子コア50に波巻されることにより固定子コイル60を形成している。
【0036】
ターン部72の中央部には、図7に示すように、固定子コア60の端面から軸方向外方へ最も離れた部位となる頂部73が形成されている。この頂部73は、固定子コアの端面と平行な方向に延びるクランク形状に形成されている。この頂部73のクランク形状によるずれ量は、コイル素線70の略幅分である。これにより、径方向に隣接しているコイル素線70のターン部72同士を密に巻回できる。その結果、コイルエンド61の径方向の幅が小さくなるので、固定子コイル60が径方向外側に張り出すことを防止する。
【0037】
また、固定子コア50のスロット51から外部に突出するターン部72の突出箇所に、コイル素線70がまたがって収容されているスロット51同士に向けて固定子コア50の軸方向両側の端面に沿って段部75が形成されている。これにより、スロット51から突出しているコイル素線70のターン部72の突出箇所の間隔、言い換えればターン部72が形成する三角形状部分の底辺の長さは、コイル素線70がまたがって設置されているスロット51同士の間隔よりも狭くなっている。その結果、コイルエンド61の高さ(軸方向長さ)が低くなる。
【0038】
また、固定子コア50の端面に沿った段部75の長さをd1、周方向に隣接するスロット同士の間隔をd2とすると、d1≦d2になっている。これにより、コイル素線70の段部75が周方向に隣り合うスロットから突出するコイル素線70と干渉することを防止できる。これにより、周方向に隣接するスロット51から突出するコイル素線70同士が互いに干渉することを避けるために、コイルエンド61の高さが高くなったり、あるいはコイルエンド61の径方向の幅が大きくなったりすることを防止できる。その結果、コイルエンド61の高さが低くなる。さらに、コイルエンド61の径方向の幅が小さくなるので、固定子巻線70が径方向外側に張り出すことを防止する。
【0039】
さらに、コイル素線70には、ターン部72の中央部の頂部73と、ターン部72の突出箇所に形成した段部75との間に、それぞれ2個の段部76が形成されている。つまり、各ターン部72には、合計6個の段部75、76と1個の頂部73が形成されている。これにより、段部を形成しない三角形状のターン部の高さに比べ、ターン部72の高さが低くなる。段部76の形状も、段部75と同様に、固定子コア50の端面に平行に形成されている。したがって、コイル素線70の各ターン部72は、中央部の頂部73から両側に向かって下降するように階段状に形成されている。
【0040】
このように階段状に形成されたターン部72を有するコイル素線70は、スロット収容部71が固定子コア50の所定のスロット数(例えば、3相×2個=6個)ごとのスロット51に収容され、ターン部72が固定子コア50の軸方向の両端面からそれぞれ突出している。これにより、固定子コイル60の軸方向両側には、固定子コア50の端面から軸方向外方へ突出した複数のターン部72が径方向に重ねられてなるコイルエンド61がそれぞれ形成されている(図1参照)。これら一対のコイルエンド61は、略平面状の軸方向端面61aと円弧曲面状の内周面61bおよび外周面61cとを有する円筒状に形成されている。
【0041】
この場合、図8に示すように、各コイル素線70の全てのターン部72がコイルエンド61の軸方向端面61aに露出している。そして、中央部に頂部73を有するターン部72は、ターン部72が延びる方向において凹凸状になっている。また、径方向に隣接するターン部72の頂部73は、固定子コア50の隣り合うスロット51間の距離だけ周方向に離間している。これにより、コイルエンド61の軸方向端面61aには、隣り合う頂部73の間に、網状に拡がりコイルエンド61の内周端と外周端とを連通する凹溝62が、軸方向端面61aの全面に亘って形成されている。なお、各ターン部72の軸方向外方に最も突出している頂部73は、固定子コア50の軸線と直角に交わる同一平面(軸方向端面61a)上に位置している。
【0042】
次に、図1および図9〜図11を参照して固定子コイル60を冷却する冷却装置80について説明する。図9は、実施形態1の回転電機において用いられる冷却部材を含む冷却装置を示す模式図である。図10は、実施形態1の回転電機において用いられる冷却部材の径方向に沿う断面図である。図11は、実施形態1の回転電機において用いられる冷却部材の流路を示す模式図である。
【0043】
冷却装置80は、冷却液で固定子コイル60を冷却する冷却部材としての一対の熱交換器81と、熱交換器81に冷却液を供給するポンプ82と、冷却液の熱を放出する放熱器83とを備えている。これら熱交換器81、ポンプ82および放熱器83は、冷却液搬送用の配管で接続され、冷却液の循環回路上に設置されている。本実施形態では、ポンプ82から吐出された冷却液が、放熱器83を経由して一対の熱交換器81に分岐して供給された後ポンプ82に戻され、再びポンプ82から吐出されるように循環回路が形成されている。
【0044】
一対の熱交換器81は、図1および図9に示すように、コイルエンド61の軸方向端面61aと略同じ大きさの円環状に形成されており、両コイルエンド61の軸方向端面61aのみにそれぞれ軸方向に対向して配置されている。熱交換器81の表面には、図10に示すように、例えば、AlN(窒化アルミニウム)などのセラミックスよりなる絶縁部材84がコーティングされている。この熱交換器81は、コイルエンド61の軸方向端面61aに対して接合部材85(図1参照)により取り付けられている。なお、接合部材85は、例えば、エポキシ系の接着剤などの空気よりも熱伝導性の高い材料で形成されている。
【0045】
熱交換器81の内部には、隔壁81dにより画成されて周方向に複数回周回する冷却液の流路81aが設けられている。流路81aの内周側端部には冷却液導入口81bが設けられ、流路81aの外周側端部には冷却液導出口81cが設けられている。この流路81aは、図11に示すように、冷却液導入口81bから周方向に1周する毎にターンして、反時計回り方向と時計回り方向への周回を交互に繰り返した後、冷却液導出口81cに到達するように形成されている。即ち、本実施形態の流路81aは、内周側から外周側に向かって周移りしながら周方向に2往復(合計4回)周回するように形成されている。
【0046】
以上のように構成された本実施形態の回転電機1は、固定子コイル60への通電により運転が開始されると同時に冷却装置80も作動を開始し、ポンプ82から放熱器83に向けて冷却液が吐出される。放熱器83を経由して低温化された冷却液は、各熱交換器81の内周側端部に設けられた冷却液導入口81bから流路81aに導入され、流路81aに沿って周方向に2往復(合計4周回)流動し、各熱交換器81の外周側端部に設けられた冷却液導出口81cから各熱交換器81の外部へ導出される。
【0047】
このとき、回転電機1の運転に伴って発熱した固定子コイル60は、各熱交換器81の流路81aをそれぞれ流動する冷却液によって両コイルエンド61の軸方向端面61aが良好に冷却される。本実施形態の場合、複数のターン部72が径方向に重ねられてなる両コイルエンド61の軸方向端面61aに、一対の熱交換器81がそれぞれ対向して配置されているので、コイルエンド61全体が効率よく均一に冷却される。
【0048】
その後、熱交換器81の冷却液導出口81cから外部へ導出された高温となった冷却液は、ポンプ82に戻された後、再びポンプ82から放熱器83に向けて吐出されることにより循環回路上を循環する。これにより、循環回路上に設置された熱交換器81の流路81aを流動する冷却液によって、固定子コイル60の両コイルエンド61が継続して冷却される。
【0049】
以上のように、本実施形態の回転電機1によれば、固定子コイル60の軸方向両側に、複数のターン部72が径方向に重ねられてなるコイルエンド61の軸方向端面61aのみにそれぞれ対向して配置された熱交換器81が設けられているため、コイルエンド61全体を効率よく均一に冷却することができる。
【0050】
特に、本実施形態の熱交換器81は、周方向に複数回(2往復(合計4回))周回する冷却液の流路81aを有するため、周方向に複数回周回する流路81aを流動する冷却液により、コイルエンド61を周方向に均一に冷却することができる。また、流路81aの内周側に冷却液導入口81bが設けられ、流路81aの外周側に冷却液導出口81cが設けられているので、冷却液導入口81bから導入された最も低温の冷却液により、コイルエンド61の内周側から外周側へと順に冷却することができる。これにより、コイルエンド61全体を、更に効率よく且つ径方向に均一に冷却することができる。
【0051】
そして、本実施形態では、熱交換器81の表面には絶縁部材84が設けられているので、固定子コイル60に対する熱交換器81の電気絶縁性をより確実に確保することができる。
【0052】
また、本実施形態では、熱交換器81は、コイルエンド61の軸方向端面61aに対して接合部材85で取り付けられているため、熱交換器81をコイルエンド61の軸方向端面61aに簡単且つ容易に取り付けることができる。さらに、接合部材85は、空気よりも熱伝導性の高い材料で形成されているので、熱交換器81の冷却性能の低下を回避することができる。
【0053】
〔変形例1〕
図12は、変形例1に係る冷却部材の流路を示す模式図である。変形例1は、固定子コイル60のコイルエンド61を冷却する冷却部材としての熱交換器181の構成のみが実施形態1と異なる。よって、実施形態1と異なる点について説明する。
【0054】
変形例1の熱交換器181は、周方向に複数回周回する冷却液の流路181aを有し、流路181aの内周側に冷却液導入口181bが設けられ、流路181aの外周側に冷却液導出口181cが設けられている点で、実施形態1の熱交換器81と同じであるが、流路181aの構造が実施形態1と異なる。
【0055】
即ち、変形例1の熱交換器181の流路181aは、図12に示すように、冷却液導入口181bから分岐して周方向両側に延び、それぞれ半周する毎にターンして、時計回り方向と反時計回り方向への周回を交互に繰り返した後、冷却液導出口181cで合流するように構成されている。
【0056】
変形例1の熱交換器181の場合には、流路181aの冷却液導入口181bから冷却液導出口181cまでの距離が、実施形態1の熱交換器81の場合に比べて略半分になり、圧損が少なくなる。そのため、熱交換器181に冷却液を供給する駆動力源(ポンプ等)を小さくすることができる。
【0057】
〔変形例2〕
図13は、変形例2に係る冷却部材の流路を示す模式図である。変形例2は、固定子コイル60のコイルエンド61を冷却する冷却部材としての熱交換器281の構成のみが実施形態1と異なる。よって、実施形態1と異なる点について説明する。
【0058】
変形例2の熱交換器281は、周方向に複数回周回する冷却液の流路281aを有し、流路281aの内周側に冷却液導入口281bが設けられ、流路281aの外周側に冷却液導出口281cが設けられている点で、実施形態1の熱交換器81と同じであるが、流路281aの構造が実施形態1と異なる。
【0059】
即ち、変形例2の熱交換器281の流路281aは、図13に示すように、冷却液導入口281bから周方向に1周する毎に外周側へ順に周移りして周回し、冷却液導出口281cに到達するように構成されている。
【0060】
変形例2の熱交換器281の場合には、実施形態1の熱交換器81の場合と同様に、コイルエンド全体を周方向に均一に冷却することができる。
【0061】
〔他の実施形態〕
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。例えば、本発明は、車両に搭載される回転電機として、発電機、あるいは電動機、さらには両者を選択的に使用しうる回転電機にも適用することができる。また、本発明は、車両用の回転電機に限らず、汎用の回転電機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1…車両用電動機(回転電機)、 10…ハウジング、 20…回転軸、 30…回転子、 40…固定子、 50…固定子コア、 51…スロット、 60…固定子コイル、 61…コイルエンド、 61a…軸方向端面、 61b…内周面、 61c…外周面、 62…凹溝、 70…コイル素線、 71…スロット収容部、 72…ターン部、 73…頂部、 80…冷却装置、 81、181、281…熱交換器(冷却部材)、 81a、181a、281a…流路、 81b、181b、281b…冷却液導入口、 81c、181c、281c…冷却液導出口、 81d、181d、281d…隔壁、 82…ポンプ、 83…放熱器、 84…絶縁部材、 85…接合部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在な回転子と、該回転子と径方向に対向して配置され、周方向に配列された複数のスロットを有する固定子コアと、周方向の異なる前記スロットに収容されるスロット収容部と前記スロットの外部で前記スロット収容部同士を接続しているターン部とを有する複数のコイル素線を前記固定子コアに巻装してなる固定子コイルと、を備えた回転電機において、
前記固定子コイルは、前記固定子コアの軸方向両端面からそれぞれ軸方向外方へ突出した複数の前記ターン部が径方向に重ねられてなるコイルエンドを有し、
前記固定子コイルの軸方向両側には、前記コイルエンドの軸方向端面のみにそれぞれ対向して配置された冷却部材が設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記冷却部材の表面には絶縁部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記冷却部材は、前記コイルエンドの軸方向端面に対して接合部材で取り付けられており、該接合部材は、空気よりも熱伝導性の高い材料で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記冷却部材は、周方向に複数回周回する冷却液の流路を有し、該流路の内周側に冷却液導入口が設けられ、前記流路の外周側に冷却液導出口が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の回転電機。
【請求項5】
前記流路は、前記冷却液導入口から周方向に1周する毎にターンして、時計回り方向と反時計回り方向への周回を交互に繰り返した後、前記冷却液導出口に到達するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の回転電機。
【請求項6】
前記流路は、前記冷却液導入口から分岐して周方向両側に延び、それぞれ半周する毎にターンして、時計回り方向と反時計回り方向への周回を交互に繰り返した後、前記冷却液導出口で合流するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の回転電機。
【請求項7】
前記流路は、前記冷却液導入口から周方向に1周する毎に外周側へ順に周移りして周回し、前記冷却液導出口に到達するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−90391(P2013−90391A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227091(P2011−227091)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】