説明

固体レーザ装置

【課題】導波路型レーザの利得係数が非常に高い場合に、ASEが発生するが、このASEの発生を抑え、一方で、レーザ光の発振、増幅には損失を与えない、固体レーザ装置を得る。
【解決手段】導波路型固体レーザ装置の励起媒質1の対向する2辺に施された全反射膜4,5に、レーザ光路2を伝播するレーザ光の入射角に対する反射率依存性を持たせて、レーザ光の最大入射角α以下の範囲の入射角においては、全反射膜4,5の反射率を高い反射率とし、レーザ光の最大入射角αよりも大きい範囲の入射角においては、全反射膜4,5の反射率を低下させることにより、反射時のASE光の損失を高くしてASEの発生を抑制し、一方で、レーザ光には大きな損失を与えることなく、発振、増幅させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は固体レーザ装置に関し、特に、固体を励起媒質とする固体レーザ装置において、励起媒質内で発生する増幅自然放出光(ASE)を抑制することを図る固体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体レーザ装置は、レーザ発振器またはレーザ増幅器として用いられ、半導体レーザなどの光源により励起媒質を励起し、レーザ光を励起媒質内で増幅するように構成されている。
【0003】
導波路型レーザでは励起素子の対向する2辺に全反射膜を施し、2辺間でレーザ光を多重反射させてジグザグに進行させ、レーザ光が励起媒質内を伝播する増幅光路長を長くして高い増幅利得を得ている。(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−236022号公報
【特許文献2】特開2003−152252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の導波路型レーザでは、励起素子の対向する2辺に全反射膜を施し、2辺間でレーザ光を多重反射させてジグザグに進行させ、レーザ光の増幅光路長を長くして増幅利得を高くしている。
【0006】
しかしながら、導波路型レーザの利得係数が非常に高い場合、増幅光路長が短くても自然放出光は高い増幅を受ける。このような増幅光は、自然放出の単一パス増幅である増幅自然放出光(以下、ASEとする。)となり、レーザ発振光およびレーザ増幅光とは別に高い出力で発生される。このようなASEの発生により、レーザ光増幅に使われるべき反転分布が消費され、その結果、レーザ光発振出力およびレーザ光増幅出力が低下するという問題点があった。
【0007】
この発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、導波路素子内で発生するASEを抑制し、反転分布の消費をなくすことによって、効率的にレーザ光を発振および増幅させることが可能な固体レーザ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、励起光およびレーザ光が入射される薄板状の固体の励起媒質を備え、前記励起媒質は、全反射膜が施された非平行な2辺を有し、前記レーザ光は、前記非平行な2辺を多重反射してジグザグに進行し、前記全反射膜は、入射するレーザ光の入射角が、前記非平行な2辺に入射するレーザ光の最大入射角以下の場合は全反射し、前記最大入射角より大きい場合は反射率が全反射時よりも低下するように設計された反射膜であることを特徴とする固体レーザ装置である。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、励起光およびレーザ光が入射される薄板状の固体の励起媒質を備え、前記励起媒質は、全反射膜が施された非平行な2辺を有し、前記レーザ光は、前記非平行な2辺を多重反射してジグザグに進行し、前記全反射膜は、入射するレーザ光の入射角が、前記非平行な2辺に入射するレーザ光の最大入射角以下の場合は全反射し、前記最大入射角より大きい場合は反射率が全反射時よりも低下するように設計された反射膜であることを特徴とする固体レーザ装置であるので、導波路素子内で発生するASEを抑制し、反転分布の消費をなくすことによって、効率的にレーザ光を発振および増幅させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る固体レーザ装置(レーザ増幅器)の構成を示す(a)側面図および(b)平面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る固体レーザ装置(レーザ発振器)の構成を示す(a)側面図および(b)平面図である。
【図3】図1,2に示す全反射膜の反射率の角度依存性をグラフで示す説明図である。
【図4】固体レーザ装置でASEの発生を示す(a)側面図および(b)平面図である。
【図5】この発明の実施の形態1、2に係る固体レーザ装置の全反射膜の反射率の角度依存性を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る固体レーザ装置を示す(a)側面図および(b)平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
まず、この発明の実施の形態1に係る固体レーザ装置として、導波路型固体レーザ装置を、それぞれ、図1および図2のように、レーザ増幅器およびレーザ発振器に適用した場合について説明する。
【0012】
図1は、固体レーザ装置において、薄板状の励起媒質1を増幅器として用いた場合の(a)側面図と(b)平面図であり、励起媒質1内でのレーザ光の増幅動作を示している。
【0013】
図1において、固体レーザ装置は、レーザ光路2上に位置し、平面形状が略々台形の薄板状の励起媒質1と、励起媒質1のレーザ光入出力面に設けられた反射防止膜3と、励起媒質1の非平行な対向面に形成された全反射膜4,5と、レーザ光路2の入射側に配列された、入射角調整ミラー16,17、λ/2板6、ファラデーローテータ7、偏光プリズム8、および、シード光発振器9と、励起光路14の両側に配置された励起用半導体レーザ10と、励起媒質1の上下面に設けられたクラッド膜12と、を備えている。
【0014】
図1に示すように、励起媒質1は、3対の対向面を有する薄板形状で構成されている。励起媒質1の3対の対向面のうち、面積の最も大きい上下面は、図1(a)に示すように、略々平行であるが、側面を構成する一方の対向面は非平行で、同じく側面を構成するもう一方の対向面は略々平行となっている。したがって、励起媒質1の形状は、図1(b)に示すような平面形状が略々台形の薄板形状となっている。
【0015】
シード光発振器9から出射されたシードレーザ光(以下、単に「レーザ光」という)は、まず、偏光プリズム8を通過し、偏光プリズム8を透過できる方向の偏光成分を有するレーザ光のみがファラデーローテータ7に到達し、ファラデーローテータ7において偏光方向が45°回転される。さらに、ファラデーローテータ7を通過したレーザ光は、λ/2板6において、励起媒質1に対して適切な偏光方向となるように偏光方向が回転調整され、入射角調整ミラー17,16により励起媒質1に対する入射角度を調整され、励起媒質1のレーザ入出力面に設けられた反射防止膜3を通過して励起媒質1に入射する。
【0016】
励起媒質1の材質は固体であり、一般的なレーザ媒質(レーザ遷移媒質が添加され、励起用半導体レーザ10からの励起光を吸収する材質)を使用することができる。
励起媒質1としては、たとえば、Nd:YAG、Yb:YAG、Er:YAG、Tm:YAG、Ho:YAG、Nd:YLF、Yb:YLF、Er:YLF、Tm:YLF、Ho:YLF、Nd:Glass、Cr:LiSAF、Ti:Sapphireなどが用いられる。
【0017】
励起媒質1の上下面は、レーザ光の閉じ込めを行うために、クラッド膜12として、励起媒質1の屈折率nよりも低い屈折率n,nの媒質(n>n,n)から構成されたクラッド材からなる膜で全面コーティングされている。屈折率の低い媒質にはSiO、Al3、MgFなどを用いることができる。
【0018】
励起媒質1は、励起用半導体レーザ10から出射され、励起媒質1の側面より入力される励起光によって励起されている。
【0019】
励起媒質1に入射したレーザ光は、クラッド膜12で挟まれた導波方向については、励起媒質1の屈折率nとクラッド膜12の屈折率n,nとの差によって、図1(a)に図示したように、励起媒質1とクラッド膜12との境界で全反射され、励起媒質1内に閉じ込められる。
【0020】
一方、導波方向と垂直な方向では、励起媒質1の全反射膜5と全反射膜4との間で反射を繰り返しながら、図1(b)に図示したように、ジグザグに進行し、励起用半導体レーザ10によって励起媒質1内に誘起されるレーザ利得により増幅される。
【0021】
このとき、全反射膜4,5が施された対向面は平行ではないので、レーザ光は、全反射膜4,5の各面での反射ごとに反射角を狭めながら反射を繰り返す。
【0022】
反射角を狭めながらこうして反射を繰り返し、反射角が0°になったら、すなわち、全反射膜4または全反射膜5に垂直入射した後、レーザ光は、今度は、反転して元のパスを反対に進行し、反射防止膜3を透過して、励起媒質1の外に出射される。このような光路をここでは自己帰還型レーザ光路と呼ぶ。
【0023】
このとき、全反射膜4,5が施された対向面は平行ではないので、レーザ光は、全反射膜4,5の各面での反射ごとに反射角を広めながら反射を繰り返す。
【0024】
励起媒質1から出射されたレーザ光は、ファラデーローテータ7において偏光方向がさらに45°回転する。
【0025】
よって、励起媒質1への入射時に偏光プリズム8を透過したときの偏光方向に比べて、励起媒質1から出射してファラデーローテータ7を再通過したときのレーザ光は、偏光方向が90°回転しているので、偏光プリズム8で反射され、図1の破線矢印で示されるように、元のパスとは別の経路をたどり、レーザシステム外部に増幅後のレーザ出力として取り出されて利用される。
【0026】
図2は、固体レーザ装置において、励起媒質1を発振器として用いた場合の(a)側面図と(b)平面図であり、励起媒質1内でのレーザ光の発振動作を示している。
【0027】
図2において、レーザ発振器に適用される固体レーザ装置は、前述の図1と同様の、励起媒質1、反射防止膜3、全反射膜4,5、クラッド膜12、および、励起用半導体レーザ10に加えて、レーザ光路2上の部分反射鏡11を備えている。図1に示した他の構成は、図2では設けられていない。なお、図1と同じ構成については、図1と同一の符号を付し、上記の図1に関する説明を参照することとし、ここでは、それらについての詳細な説明は省略する。
【0028】
励起媒質1内におけるレーザ光路2の形成については、前述と同様であり、クラッド膜12で挟まれた導波方向については励起媒質1の屈折率nとクラッド膜12の屈折率n,nとの差によって、励起媒質1とクラッド膜12との境界で全反射され、励起媒質1内に閉じ込められる。
【0029】
一方、導波方向と垂直な方向では、励起用半導体レーザ10によって励起媒質1内に誘起されるレーザ利得により発生したレーザ光が、全反射膜4,5の間で反射を繰り返しながらジグザグに進行する。
【0030】
このとき、全反射膜4,5が施された対向面は平行ではないので、レーザ光は、全反射膜4,5の各面での反射ごとに反射角を狭めながら反射を繰り返す。こうして、反射角を狭めながら反射を繰り返し、反射角が0°になったら、すなわち、全反射膜4または全反射膜5に垂直入射した後、レーザ光は、今度は、反転して元のパスを反対に進行する。このとき、全反射膜4,5が施された対向面は平行ではないので、レーザ光は、全反射膜4,5の各面での反射ごとに反射角を広めながら反射を繰り返す。従って、図2の光路も自己帰還型レーザ光路である。
【0031】
レーザ光路2が垂直反射する全反射膜4または全反射膜5を有する励起媒質1の面は、レーザのファブリペロー共振器における全反射ミラーの役割を果たす。
【0032】
こうして、励起媒質1内で増幅されたレーザ光は、反射防止膜3を透過して励起媒質1の外に出射され、一部が部分反射鏡11を通過して共振器外部に取り出されて利用される。
【0033】
また、励起媒質1から出射されたレーザ光の他の一部は、レーザ光路2上に配置された部分反射鏡11で反射し、再び反射防止膜3を透過して、励起媒質1に入射する。
【0034】
図3は、導波路レーザに施される一般的な全反射膜の反射率のレーザ入射角依存性を示したグラフである。図3の全反射膜は、入射角0°から25°までは高い反射率を有する設計となっているが、25°を過ぎると反射率は急激に低下する。図1,2のレーザ光路2の全反射膜4,5も同じ性質を有しているので、このことを考慮して、図1,2のレーザ光路2の全反射膜4,5に対する最大入射角は、反射率が急激に低下する角度(図3では25°)以下になるように設計され、レーザ光路2を伝播するレーザ光が大きな損失を受けないようになっている。
【0035】
図4は、図1,2に示す固体レーザ装置において、導波路素子内部で発生するASEを表した図である。図4において、15はASE光路であり、破線で示した2は、図1,2で示したレーザ光路である。励起媒質1の一方(図中左)から発生した自然放出光は非平行な全反射膜4,5の間で多重反射しながら増幅される。このとき、全反射膜4,5が施された対向面は平行ではないので、自然放出光は、全反射膜4,5の各面での反射ごとに反射角を広めながら反射を繰り返す。導波路レーザの利得が非常に高いと、自然放出光は高い出力となって増幅されてASEとなり、反射防止膜3を透過して導波路素子外部に放出される。このとき、ASE光路15の全反射膜4,5に対する最大入射角βが、反射率が急激に低下する角度(図3では25°)以下であれば、ASEは大きな損失を受けることなく成長し高出力のASEが発生する。従って、全反射膜4,5の反射率が急激に低下する角度を、このβよりも小さな角度に設定すれば、図4のASE光路15を伝播するASE光は大きな損失を受け、ASE出力は低くなり、あるいは、ASEの発生を抑制することができる。
【0036】
ASE光路15は導波路平面内で図1及び図2のレーザ光路2(図中破線)と多数の箇所で重なりあっている。ASE光路15とレーザ光路2が重なる部分においては、高出力のASEの発生によりレーザ増幅に利用されるべき反転分布がASE増幅のために消費され、レーザ発振、レーザ増幅の妨げとなる。
【0037】
全反射膜で反射率が急激に低下する角度は、全反射膜を構成する材料の材質と厚みを調整することによって、任意に変更することができる。図5は反射率が急激に低下する入射角を5°に設計したものである。
【0038】
図1,2に示すように、レーザ光路2が全反射膜4,5に入射する最大角αは、非平行に設置された全反射膜4と全反射膜5とがなす角度θと、レーザ光路2の反射回数Nとから、以下の式のように決まる。
【0039】
α=Nθ (N:偶数)
α=(N−1)θ (N:奇数)
【0040】
全反射膜4,5の反射率が急激に低下する角度を、このαよりも大きな角度に設定すれば、図1,2のレーザ光路2を伝播するレーザ光は大きな損失を受けることなくレーザ増幅される。
【0041】
一方、図4に示すように、ASE光路15が全反射膜4,5に入射する最大角をβとすると、上記で説明したように、全反射膜4,5の反射率が急激に低下する角度を、このβよりも小さな角度に設定すれば、図4のASE光路15を伝播するASE光は大きな損失を受け、ASE出力は低くなり、あるいは、ASEの発生を抑制することができる。
【0042】
従って、全反射膜の反射率が急激に低下する角度を、レーザ光路2の最大入射角αよりも大きく、ASE光路15の最大入射角βよりも小さな角度になるように設計した、全反射膜を、図1,2の全反射膜4あるいは全反射膜5として、励起媒質1の非平行な対向面にコーティングすれば、ASE光路15を伝播するASE光は大きな損失を受けて抑制されるので、レーザ増幅に利用される反転分布を消費することがなく、一方、レーザ光路2を伝播するレーザ光には大きな損失を与えることなく増幅することができる。
【0043】
以上のように、この発明の実施の形態1に係る固体レーザ装置は、励起用半導体レーザ10からの励起光およびシード光発振器9から出射されるレーザ光が入射される薄板状の固体の励起媒質1を備え、励起媒質1は、全反射膜4,5が施された非平行な対向する2面を有し、レーザ光は、非平行な対向する2面を多重反射してジグザグに進行するものであって、全反射膜4,5にレーザ光の入射角に対して反射率依存性を持たせて、全反射膜4,5の反射率が急激に低下する角度を、レーザ光路2の最大入射角αよりも大きく、ASE光路15の最大入射角βよりも小さな角度になるように設計し、レーザ光の最大入射角α以下の範囲の入射角においては、高い反射率で、前記レーザ光を全反射し、レーザ光の最大入射角αよりも大きい範囲の入射角においては、反射率が低くなるようにしたので、ASE光の反射時の損失を高くして、ASEの発生を抑制することができるため、レーザ増幅に利用される反転分布を消費することがなく、一方、レーザ光路2を伝播するレーザ光には大きな損失を与えることなく増幅することができる。これにより、レーザ光の発振、増幅には損失を与えず、ASEの発生のみを抑制し、レーザ発振、レーザ増幅に寄与する反転分布のASEによる消費をなくして、効率的にレーザ光を発振、増幅させることが可能となる。また、レーザ光への光−光変換効率を高めることによって、同じレーザ出力を得る場合でも必要な励起光出力を少なくできるので、システムの電力効率を高めることができる。さらに、光−光変換効率が高まることにより、レーザ光に変換されず励起媒質から排熱される余分な熱が少なくなり、励起媒質の冷却能力を低く抑えることができる。
【0044】
実施の形態2.
上述の実施の形態1では、自己帰還型レーザ光路を使った導波路型レーザによるこの発明の実施の形態について説明した。
【0045】
図6は、固体レーザ装置において、薄板状の励起媒質1を増幅器として用いた場合の(a)側面図と(b)平面図であり、自己帰還型レーザ光路を用いないレーザ光増幅動作を示している。
【0046】
図6に示すように、レーザ増幅器に適用される固体レーザ装置は、レーザ光路2上に位置する励起媒質1と、励起媒質1のレーザ入出力面に設けられた反射防止膜3と、励起媒質1の平行な対向面に形成された全反射膜4,5と、レーザ光路2の入射側に配列された入射角調整ミラー16,17及びシード光発振器9と、励起光路14の両側に配置された励起用半導体レーザ10と、励起媒質1の上下面に設けられたクラッド膜12と、を備えている。なお、図6において、15は、ASE光路である。
【0047】
励起媒質1は、3対の対向面を有する薄板形状を有している。本実施の形態2においては、励起媒質1の3対の対向面はすべて略々平行である。したがって、励起媒質1の形状は、図6(b)に示すような略々矩形(長方形)の薄板形状となっている。なお、図1の実施の形態1の構成においては、自己帰還型レーザ光路で、励起媒質1のレーザ入力面と出力面とが同じであるため、反射防止膜3は1つだけ設けられていた。一方、図6に示す本実施の形態2の構成においては、自己帰還型レーザ光路を用いない構成であるため、励起媒質1のレーザ入力面と出力面とが異なるため、反射防止膜3はレーザ入力面と出力面とにそれぞれ1つずつ設けられている。これらの2つの反射防止膜3は、図6(b)に示すように、対向する面の反対側の端に設けられている(すなわち、点対象の位置に設けられている。)。
【0048】
シード光発振器9から出射されたシードレーザ光(以下、単に「レーザ光」という)は、入射角調整ミラー17,16により励起媒質1に対する入射角度を調整され、レーザ入力面に設けられた反射防止膜3を透過して励起媒質1に入射される。
【0049】
励起媒質1に入射したレーザ光は、導波方向(屈折率の低い媒質で挟まれた方向)については励起媒質1の屈折率とクラッド膜12の屈折率との差によって、励起媒質1とクラッド膜12の境界で全反射され、励起媒質1内に閉じ込められる。
【0050】
一方、導波方向と垂直な方向では、励起媒質1の全反射膜5と全反射膜4との間で反射を繰り返しながら、図示したようにジグザグに進行し、励起用半導体レーザ10によって励起媒質1内に誘起されるレーザ利得により増幅される。
【0051】
このとき、全反射膜4,5が施された対向面は平行であり、レーザ光は、全反射膜4,5の各面での反射角を一定に保ちながら反射を繰り返し進行し、レーザ出力面に設けられた反射防止膜3を透過して励起媒質1の外に出射される。図3に示した全反射膜4,5の反射率が急激に低下する角度を、このレーザ光の入射角よりも大きな角度に設定すれば、図1,2のレーザ光路2を伝播するレーザ光は大きな損失を受けることなくレーザ増幅される。
【0052】
図6におけるASEの発生光路(ASE光路)を図中破線(符号15)で図示する。励起媒質1の一方(図中左)から発生した自然放出光は平行な全反射膜4,5の間で多重反射しながら増幅される。導波路レーザの利得が非常に高いと、自然放出光は少ない反射回数でも高い出力となって増幅されてASEとなり、反射防止膜3を透過して導波路素子外部に放出される。このとき、全反射膜4,5が施された対向面は平行なので、ASE光は、全反射膜4,5の各面での反射角を一定に保ちながら反射を繰り返す。
【0053】
ASE光路15は導波路平面内で図6のレーザ光路2(図中実線)と多数の箇所で重なりあっている。ASE光路15とレーザ光路2が重なる部分においては高出力のASEの発生によりレーザ増幅に利用されるべき反転分布がASE増幅のために消費され、レーザ増幅の妨げとなる。ASE光路15の全反射膜4,5に対する入射角が、図3の反射率が急激に低下する角度(図3では25°)以下であれば、ASEは大きな損失を受けることなく成長し高出力のASEが発生する。従って、全反射膜4,5の反射率が急激に低下する角度を、このASE光路15の入射角よりも小さな角度に設定すれば、ASE光路15を伝播するASE光は大きな損失を受け、ASE出力は低くなり、あるいは、ASEの発生を抑制することができる。
【0054】
全反射膜で反射率が急激に低下する角度は、全反射膜を構成する材料の材質と厚みを調整することによって、任意に変更することができる。図5は反射率が急激に低下する入射角を5°に設計したものである。
【0055】
このように、レーザ光路2が全反射膜4,5に入射する角をαとすると、全反射膜4,5の反射率が急激に低下する角度を、このαよりも大きな角度に設定すれば、図6のレーザ光路2を伝播するレーザ光は大きな損失を受けることなくレーザ増幅される。
【0056】
一方、ASE光路15が全反射膜4,5に入射する角をβとすると、全反射膜4,5の反射率が急激に低下する角度を、このβよりも小さな角度に設定すれば、図6のASE光路15を伝播するASE光は大きな損失を受け、ASE出力は低くなり、あるいは、ASEの発生を抑制することができる。
【0057】
従って、レーザ光路2の入射角αよりも大きく、ASE光路15の入射角βよりも小さな角度になるように、全反射膜4,5の反射率が急激に低下する角度を設計し、図6の全反射膜4あるいは5として、励起媒質1にコーティングすれば、ASE光路15を伝播するASE光は大きな損失を受けて抑制されるので、レーザ増幅に利用される反転分布を消費することがなく、一方、レーザ光路2を伝播するレーザ光には大きな損失を与えることなく増幅することができる。
【0058】
以上のように、この発明の実施の形態2に係る固体レーザ装置は、励起用半導体レーザ10からの励起光およびシード光発振器9から出射されるレーザ光が入射される薄板状の固体の励起媒質1を備え、励起媒質1は、全反射膜4,5が施された平行な対向する2面を有し、レーザ光は、平行な対向する2面を多重反射してジグザグに進行するものであって、全反射膜4,5に、レーザ光の入射角に対して反射率依存性を持たせて、レーザ光の入射角以下の範囲の入射角においては、高い反射率で、前記レーザ光を全反射し、レーザ光の入射角よりも大きい範囲の入射角においては、反射率が低くなるように設計された全反射膜を用いるようにしたので、ASE光の反射時の損失を高くして、ASEの発生を抑制することができるため、レーザ増幅に利用される反転分布を消費することがなく、一方、レーザ光路2を伝播するレーザ光には大きな損失を与えることなく増幅することができる。これにより、レーザ光の発振、増幅には損失を与えず、ASEの発生のみを抑制し、レーザ発振、レーザ増幅に寄与する反転分布のASEによる消費をなくして、効率的にレーザ光を発振、増幅させることが可能となる。また、レーザ光への光−光変換効率を高めることによって、同じレーザ出力を得る場合でも必要な励起光出力を少なくできるので、システムの電力効率を高めることができる。さらに、光−光変換効率が高まることにより、レーザ光に変換されず励起媒質から排熱される余分な熱が少なくなり、励起媒質の冷却能力を低く抑えることができる。
【0059】
なお、本実施の形態2においては、本実施の形態2に係る固体レーザ装置をレーザ増幅器に適用した例について説明したが、その場合に限らず、図2に示すように、レーザ発振器に適用してもよいものとする。また、その場合においても、同様の効果が得られることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1 励起媒質、2 レーザ光路、3 反射防止膜、4,5 全反射膜、6 λ/2板、7 ファラデーローテータ、8 偏光プリズム、9 シード光発振器、10 励起用半導体レーザ、11 部分反射鏡、12 クラッド膜、14 励起光路、15 ASE光路、16,17 入射角調整ミラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光およびレーザ光が入射される薄板状の固体の励起媒質を備え、
前記励起媒質は、全反射膜が施された非平行な2辺を有し、
前記レーザ光は、前記非平行な2辺を多重反射してジグザグに進行し、
前記全反射膜は、入射するレーザ光の入射角が、前記非平行な2辺に入射するレーザ光の最大入射角以下の場合は全反射し、前記最大入射角より大きい場合は反射率が全反射時よりも低下するように設計された反射膜である
ことを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項2】
励起光およびレーザ光が入射される薄板状の固体の励起媒質を備え、
前記励起媒質は、全反射膜が施された平行な2辺を有し、
前記レーザ光は、前記平行な2辺を多重反射してジグザグに進行し、
前記全反射膜は、入射するレーザ光の入射角が、前記平行な2辺に入射するレーザ光の入射角以下の範囲の場合は全反射し、前記平行な2辺に入射するレーザ光の入射角より大きい場合は反射率が全反射時よりも低下するように設計された反射膜である
ことを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項3】
前記非平行な2辺の反射膜の反射率が低下しない角度に前記励起媒質の外部からレーザ光を入射する角度調整手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の固体レーザ装置。
【請求項4】
前記励起媒質をレーザ増幅器として用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の固体レーザ装置。
【請求項5】
前記励起媒質をレーザ発振器として用いることを特徴とする請求項1または2に記載の固体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−160645(P2012−160645A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20671(P2011−20671)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】