説明

固体成分濃縮手段を備えた測定用具

本発明は、固体成分(B1)を含んだ試料液(BL)を移動させ、かつ液相反応場を提供するための流路(60)と、液相反応場に対して電圧を印加するために利用される第1および第2の電極(31,32)と、を備えた測定用具(1)に関する。第1の電極(31)は、第1および第2の電極(31,32)を介して液相反応場に対して電圧を印加したときに、液相反応場との間で電子授受を行うための電子授受界面(31a)を有している。測定用具(1)は、液相反応場における電子授受界面(31a)と接触する部分での固体成分の濃度を高めるための濃縮手段(51)を備えている。濃縮手段(51)は、吸水性高分子材料を含んだ吸水層により構成するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、血液などの試料液中の特定成分(たとえばグルコースやコレステロール)の濃度を測定するために使用される測定用具に関する。
【背景技術】
試料液中の特定成分の濃度を測定する方法としては、たとえば電気化学的手法を利用したものがある。この方法では、たとえば試料液、酸化還元酵素および電子伝達物質により反応系を構築する一方で、この反応系に対して電極を利用して電圧を印加し、そのときの応答電流値に基づいて特定成分の濃度が演算される。このような反応系は、たとえば酸化還元酵素や電子伝達物質を含む試薬部が設けられたバイオセンサにおいて構築される。反応系では、酸化還元酵素の触媒作用により、特定成分と電子伝達物質との酸化還元反応が生じるため、還元型(あるいは酸化型)とされた電子伝達物質の量は特定成分の濃度を反映したものとなる。一方、応答電流は、反応系において生じた還元型(あるいは酸化型)の電子伝達物質と、電極との間での電子移動量に相関するものとして得られる。したがって、応答電流値の測定精度は、濃度測定の精度に大きく影響を与えることとなる。
このような手法では、たとえば試料液として全血(血球を含んだ状態の血液)を使用した場合には、電極の表面に存在する血球によって電極と電子伝達物質との間の電子移動が阻害されてしまう。その結果、測定される応答電流値は、血球数の増加に伴い低値となり、測定誤差を生じてしまう。また、血液における血球の割合(ヘマトクリット値)が異なれば、グルコース濃度が同じであっても測定される応答電流値が異なったものとなってしまう。
このような不具合を解消すべく、測定用具において血液中の血球を分離する方法が提案されている。血球を分離する方法としては、たとえば測定用具における血液などの試料液を導入する部分に分離膜を設ける方法(たとえば日本国特開平8−114539号公報および日本国特表2002−508698号公報参照)、あるいは電極の表面を高分子膜により覆う方法がある(たとえば日本国特開平6−130023号公報、日本国特開平9−243591号公報および日本国特開2000−338076号公報参照)。
しかしながら、測定用具において血球を濾過する方法では、血漿成分を分離膜に透過させる必要があるために血漿が電極の表面に到達するまでの時間が長くなるために測定時間が長くなる。このような不具合を解消するためには、使用すべき全血の量を多く確保すればよいが、この場合には使用者の採血の負担が大きくなる。
【発明の開示】
本発明は、試料液中の固体成分の影響を抑制し、測定時間を短く維持しつつも、少ない試料液によって精度良く濃度測定を行うことを目的としている。
本発明においては、固体成分を含んだ試料液を移動させ、かつ液相反応場を提供するための流路と、上記液相反応場に対して電圧を印加するために利用される第1および第2の電極と、を備え、上記第1の電極が、上記第1および第2の電極を介して上記液相反応場に対して電圧を印加したときに、上記液相反応場に対して電子を供給し、あるいは上記液相反応場から電子を受け取るための電子授受界面を有する分析用具であって、上記液相反応場における上記電子授受界面と接触する部分での固体成分の濃度を高めるための濃縮手段を備えている、測定用具が提供される。
濃縮手段は、たとえば吸水性高分子材料を含んだ吸水層により構成される。吸水性高分子材料は、本発明の目的を達成できる程度に液体成分を吸水することができ、またその吸水量は測定結果に影響を与えない量でなければならない。このため、吸水性高分子材料としては、10〜500g/gの吸水能力を有するものを使用するのが好ましい。
上記測定用具は、たとえば第1および第2の電極が形成された基板と、この基板に積層されたカバーと、を備えたものとして構成される。
吸水層は、たとえば上記カバーにおける少なくとも上記電子授受界面と対面する部分に膜形成される。この場合、吸水層は、非吸水時および吸水時における基板の厚み方向の寸法が、それぞれ流路における厚み方向の寸法の1/30〜1/10および1/5〜3/5となるように形成するのが好ましい。吸水層は、水溶性に形成してもよい。
吸水層は、流路の全長または略全長にわたって形成してもよい。このような吸水層は、吸水性高分子材料を含むものとしてカバーを形成することにより、カバーにより構成することができる。
吸水層は、カバーに対して吸水性高分子を含む粉末を担持させた構成とすることもできる。上記粉末は、非吸水時における重量平均粒子径が、たとえば100〜1000μmとされる。これは、平均粒子径が不当に小さい場合には、目的を達成できる程度に十分な量の水分を吸水できるように吸水層を形成するのが困難である一方、平均粒子径が不当に大きい場合には、流路における水分の移動を必要以上に妨げてしまう虞があるからである。
吸水層は、電子授受界面よりも流路における試料液の流れ方向の下流側に設けてもよい。この吸水層は、たとえば基板およびカバーのうちの少なくとも一方に設けられる。この場合に吸水層は、固体成分を目的通りに濃縮できるように、試料液の流れ方向の寸法を、流路の入り口から上記電子授受界面における試料液の流れ方向の最下流点までの距離に対して、1/4〜1/2とするのが好ましい。同様な理由から、吸水層は、吸水時において、流路における吸水層が形成された部分の厚み寸法が0〜15μmとなるように形成するのが好ましい。
吸水層は、電子授受界面に対して、上流側において隣接する位置および下流側において隣接する位置のうちの少なくとも一方の位置に形成された部分を有するように形成することもできる。この場合の吸水層は、電子授受界面に対して、上流側において隣接する位置に形成された部分および下流側において隣接する位置に形成された部分の双方を有するように形成するのが好ましく、たとえば電子授受界面の周囲を囲むように形成される。
濃縮手段は、電子授受界面よりも流路における試料液の移動方向の下流側に設けられ、かつ固体成分の移動を阻害するための難吸水性のダム部により構成することもできる。
ダム部は、固体成分を目的通りに濃縮できるように、流路におけるダム部が形成された部分における流路の厚み寸法が、たとえば5〜15μmとなるように形成される。
本発明の測定用具において測定対象となる試料液としては、典型的には、固体成分としての血球を含む血液が挙げられる。もちろん、本発明の測定用具は、固体成分を含む試料液に広く使用でき、測定対象となる試料液は血液には限定されない。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るバイオセンサの全体斜視図である。
図2は、図1に示したバイオセンサの分解斜視図である。
図3は、図1のIII−III線に沿う断面図である。
図4Aおよび図4Bは、バイオセンサの内部流路での血液の移動状態を説明するための図3に相当する断面図である。
図5は、図1に示したバイオセンサを濃度測定装置に装着した状態を示す模式図である。
図6は、本発明の第2の実施の形態に係るバイオセンサを示す図3に相当する断面図である。
図7は、本発明の第3の実施の形態に係るバイオセンサを示す図3に相当する断面図である。
図8Aおよび図8Bは、本発明の第4の実施の形態に係るバイオセンサを示す図3に相当する断面図である。
図9は、本発明の第5の実施の形態に係るバイオセンサを示す図3に相当する断面図である。
図10Aおよび図10Bは、図9に示したバイオセンサからカバーおよびスペーサを取り除いた状態を示す斜視図である。
図11は、実施例1のバイオセンサにおける応答電流値のタイムコースを示すグラフである。
図12は、比較例1のバイオセンサにおける応答電流値のタイムコースを示すグラフである。
図13は、実施例1のバイオセンサにおけるヘマトクリット値(Hct)の影響を示すグラフである。
図14は、比較例1のバイオセンサにおけるヘマトクリット値(Hct)の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下においては、本発明の第1ないし第5の実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
まず、本発明の第1の実施の形態について、図1ないし図5を参照しつつ、血糖値を測定する場合を例にとって説明する。
図1および図2に示したバイオセンサ1は、血液中のグルコース濃度を測定するために使用されるものであり、濃度測定装置2(図5参照)に装着して使用するものである。このバイオセンサ1は、長矩形状の基板3に対して、一対のスペーサ40,41を介してカバー5を積層した構成を有しており、図3に示したように、これらの要素3,40,41,5によってキャピラリ6が形成されている。
キャピラリ6は、毛細管現象を利用して血液を移動させ、かつ血液を保持するための内部流路60を有している。この内部流路60は、基板3の短手方向に延びており、端部開口61,62を介して外部と連通している。端部開口61は内部流路60に血液を導入するために利用されるものであり、端部開口62は内部流路60において血液を進行させる際に、内部流路60の気体を排出するために利用されるものである。
図1ないし図3に示したように、一対のスペーサ40,41は、基板3に対してカバー5を接合するとともに、キャピラリ6の内部流路60の寸法を規定するためのものである。一対のスペーサ40,41は、基板3の短手方向に延びるようにして、かつ基板3の長手方向に間隔を隔てて配置されている。
基板3の上面30には、基板3の長手方向に延びる作用極31および対極32が形成されている。基板3の上面30にはさらに、作用極31および対極32を一連に横断するようにして試薬部33が設けられている。作用極31における試薬部33と接触する部分は、電子授受部31aを構成している。
試薬部33は、たとえば酸化還元酵素および電子伝達物質を含む固体状に形成されている。酸化還元酵素としては、たとえばグルコースオキシターゼやグルコースデヒドロゲナーゼが使用される。電子伝達物質は、電圧の印加や反応により酸化あるいは還元されるものであり、血糖値の測定においては、電子伝達物質として、たとえばフェリシアン化カリウムが使用される。本実施の形態では、電子伝達物質は、血液を供給する前の段階では酸化型として含有されているものとする。
図2および図3に示したように、カバー5の片面50には、吸水層51が形成されている。この吸水層51は、カバー5の片面50において、作用極31における内部流路60に位置する電子授受部分31aと対面するように形成されている。このような吸水層51は、吸水性高分子材料を含んだ吸水シートをカバー5に貼着することにより形成することができる。この吸水層51は、たとえば非吸水時における厚み寸法が内部流路60の高さ寸法Hの1/30〜1/10、吸水時における厚み寸法が内部流路60の高さ寸法Hの1/5〜3/5となるように形成される。
吸水性高分子材料としては、たとえば吸水能力が10〜500g/gのものが使用される。より具体的には、吸水性高分子材料としては、たとえばアクリル酸塩重合体架橋物、ビニルアルコール−アクリル酸塩共重合体の架橋物、無水マレイン酸グラフトポリビニルアルコール架橋物、架橋イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、カルボキシメチルセルロースのアルカリ塩架橋物、ポリアクリル酸部分中和物架橋体を使用することができる。吸水層51は、全体が吸水性高分子材料により形成されていてもよいし、吸水性高分子材料と他の非吸水性高分子材料とを混合した層として形成してもよい。吸水層51は、たとえば吸水性高分子材料を溶剤に溶かした溶液をカバー5に塗布した後に、これを乾燥させることにより形成することができる。
図5に示したように、濃度測定装置2は、第1および第2端子20a,20b、電圧印加部21、電流値測定部22、検知部23、制御部24、演算部25および表示部26を備えている。
第1および第2端子20a,20bは、濃度測定装置2に対してバイオセンサ1を装着した場合に、バイオセンサ1における作用極31および対極32の端部31b,32bに接触させるためのものである。
電圧印加部21は、第1および第2の端子20a,20bを介して、バイオセンサ1の作用極31と対極32との間に電圧を印加するためのものである。電圧印加部21は、第1および第2端子20a,20bと電気的に繋げられている。電圧印加部21は、たとえば乾電池あるいは充電池などの直流電源を備えたものとして構成される。
電流値測定部22は、電圧印加部21によって作用極31および対極32の端部31b,32bの間に電圧を印加したときの電流値を測定するためのものである。
検知部23は、濃度測定装置2にバイオセンサ1が装着された後において、電流値測定部22によって測定された電流値に基づいて試薬部33(図1ないし図3参照)に試料液が供給されたか否かを検知するためのものである。
制御部24は、電圧印加部21を制御し、作用極31および対極32の間に電圧が印加される状態と印加されない状態とを選択するためのものである。
演算部25は、電流値測定部22において測定された電流値に応じて、血糖値を演算するためのものである。演算部25は、たとえば血糖値をアンペロメトリックな手法に基づいて演算できるように構成されている。
検知部23、制御部24および演算部25は、たとえば1つのCPUに対して複数のメモリ(たとえばROMやRAM)を接続することにより構成することができる。
表示部26は、演算部25による演算結果の他、たとえばエラーである旨や操作手順などを表示するためのものであり、たとえば液晶表示装置により構成されている。
次に、バイオセンサ1および濃度測定装置2を用いた血糖値の測定の手順について説明する。
図5に良く表れているように、まず濃度測定装置2にバイオセンサ1をセットする。そうすると、バイオセンサ1の作用極31および対極32の端部31b,32bが濃度測定装置2の第1および第2端子20a,20bと接触する。この状態では、第1および第2端子20a,20bを介して、作用極31と対極32の間への電圧の印加が可能とされている。実際の測定においては、濃度測定装置2にバイオセンサ1を装着した時点から、作用極31と対極32との間に定電圧が印加される。作用極31と対極32との間に印加する定電圧は、たとえば100〜1000mVの範囲に設定される。本実施の形態では、作用極31と対極32との間への定電圧の印加は、血糖値を演算するための応答電流が測定されるまでは継続して行われているものとする。
次いで、バイオセンサ1の端部開口61を介して血液を供給する。図4Aおよび図4Bに示したように、血液BLは、毛細管現象により、キャピラリ6の端部開口61から端部開口62に向けて内部流路60を進行する。血液BLの導入は、図4Bに良く表れて入るように、血液BLが端部開口62に至り、キャピラリ6の内部流路60が血液BLによって充填されるまで行われる。その過程においては、血液BLによって試薬部33(図4A参照)が溶解させられ、内部流路60には、液相反応系が構築される。このとき、吸水層51において血液BL中の血漿成分が吸水されて吸水層51の厚みが大きくなる。これにより、血球B1の移動が吸水層51によって阻害され、作用極31における電子授受部31aの表面や周囲における血球B1の濃度が高くなる。
液相反応系では、酸化還元酵素により血液BL中のグルコースが酸化されるとともに電子伝達物質が還元型とされる。電圧印加状態では、還元型とされた電子伝達物質は、作用極31における電子授受部31aの表面に移動し、電子授受部31aに電子を供給して酸化型の電子伝達物質に戻る。電子授受部31aに供給された電子の量は、第1および第2端子20a,20bを介して電流値測定部22において応答電流として測定される。
一方、電流値測定部22において測定された応答電流値は、検知部23においてモニタリングされており、応答電流値が閾値を超えた時点で、検知部23は試薬部33に血液が供給され、試薬部33が溶解したことを検知する。検知部23において血液が供給されたことが検知された場合には、この検知から一定時間経過したか否かが検知部23において判断される。
検知部23において一定時間が経過したと判断された場合には、電流値測定部22において応答電流値を測定し、この応答電流値に基づいて、演算部25において血糖値を演算する。血糖値の演算は、応答電流値を電圧値に換算した後に、この電圧値を、予め作成しておいた電圧値と血糖値との関係を示す検量線に当てはめることにより演算される。演算部25における演算結果は、たとえば表示部26において表示される。
本実施の形態においては、キャピラリ6の内部流路60に血液BLが供給された場合には、吸水層51において血液BLの血漿成分が吸水され、作用極31の電子授受部31aの表面や周りにおける血球B1の濃度が高まる。これにより、電子授受部31aの表面や周りは、擬似的に高ヘマトクリット値の血液BLを供給したのと同様な状態とされる。また、吸水性高分子材料として、たとえば吸水能力が10〜500g/gのものを使用すれば、低ヘマトクリット値な血液BLほど、吸水層51がより多くの血漿を吸水することとなる。その結果、吸水層51の周りにおいては、ヘマトクリット値の高低に拘わらず、同程度の高ヘマトクリット状態を達成することができる。
バイオセンサ1ではさらに、測定用具において血液中の血球を分離する際の不具合を解消することができる。すなわち、血球を分離する方法では、血漿成分を分離膜に通過させる必要があるが、これが測定時間を長くし、また供給量に対して反応に使用できる血液の量が少なくなっていた。これに対してバイオセンサ1では、血液BLがキャピラリ6の内部流路60を進行する際に分離膜のような障害はないため、分離膜を使用する場合のように測定時間が長くなることもない。また、バイオセンサ1では、キャピラリ6の内部流路60に供給された血液BLの大部分を試薬部33の酸化還元酵素と反応させることができるため、微量な血液BLであっても適切に濃度測定を行うことができるようになる。
次に、本発明の第2の実施の形態に係るバイオセンサについて、図6を参照しつつ説明する。
図6に示したバイオセンサ1Aでは、吸水層51Aがキャピラリ6の全長に亘って形成されている。この吸水層51Aは、たとえば吸水性高分子材料を用いて吸水シートを形成し、この吸水シートをカバーに貼着することにより形成することができる。吸水層51Aは、吸水性高分子材料を接着成分とともに溶剤に溶かした溶液をカバーに塗布し、これを乾燥させることによっても形成することができる。
キャピラリ6の全長に亘って吸水層を形成するためには、カバー5の全体が吸水性を有するものとして、カバー5の全体を吸水層として構成してもよい。このような吸水層(カバー)は、たとえば吸水性高分子材料を他の樹脂材料と混練して成形材料とし、この成形材料を用いて樹脂成形を行うことにより形成することができる。
次に、本発明の第3の実施の形態に係るバイオセンサについて、図7を参照しつつ説明する。
図7に示したバイオセンサ1Bでは、吸水層51Bが吸水性高分子の粒を備えたものとして構成されている。この吸水層51Bは、両面テープ51Baの片面に吸水性高分子の粒51Bbを担持させた構成を有しており、両面テープのもう一方の面の粘着性を利用してカバーに貼着されている。吸水性高分子としては、重量平均粒子径が100〜1000μmのものを使用するのが好ましい。
次に、本発明の第4の実施の形態に係るバイオセンサについて、図8Aおよび図8Bを参照しつつ説明する。
図8Aに示したバイオセンサ1Cでは、吸水層51Cが作用極31の電子授受部31aよりも、血液の流れ方向の下流側において基板3上に形成されている。ただし、吸水層51Cは、カバー5に形成してもよい。
このバイオセンサ1Cでは、図8Bに示したように、キャピラリ6内に血液BLが導入されれば、吸水層51Cが膨張し、キャピラリ6における吸水層51Cが形成された部分の空間断面積が小さくなる。その結果、血球B1の移動が吸水層51Cにより阻害され、血球B1が電子授受部31aの付近に滞留して電子授受部31aの周りでの血球B1の濃度が高められる。
このような作用を有効に得るためには、吸水層51Cは、キャピラリ6が血液により満たされたときに、吸水層51Cとキャピラリの上面との距離Lが0〜15μmとなるように形成するのが好ましい。また、電子授受部31aの周りにおける血球B1の濃度をより確実に高めるためには、吸水層51Cにおける血液BLの流れ方向の寸法W1を比較的に大きく設定するのが好ましい。この場合の寸法W1は、キャピラリ6の入口端68から電子授受部31aの下流側端31a’までの距離W2の1/4〜1/2程度に設定するのが好ましい。
図8Aおよび図8Bに示した吸水層51Cと同様な機能は、非(難)水溶性のダム部を設けることにより達成することもできる。つまり、血漿成分を吸水することにより膨張させて血球を滞留させるのではなく、キャピラリ6における電子授受部31aの下流側の断面寸法を、ダム部を形成することによって、血液が供給される以前から予め小さくしておいてもよい。このダム部は、ダム部と基板(あるいはカバー)との距離(図8BのLに相当するもの)が、5〜15μmとなるように形成するのが好ましい。ダム部は、基板およびカバーのいずれに形成してもよい。
次に、本発明の第5の実施の形態に係るバイオセンサについて、図9、図10Aおよび図10Bを参照しつつ説明する。
図9に示したバイオセンサ1Dでは、吸水層51Dが、作用極31の電子授受部31aに隣接した部分を有するものとして形成されている。吸水層51Dは、図10Aに示したように電子授受部31a(図9参照)に対して上流側および下流側の2箇所に配置してもよいし、図10Bに示したように矩形枠状に形成してもよい。図10Aに示した形態においては、2つの吸水層51Dのうちの一方の吸水層51Dを省略してもよい。
以上においては、血液中のグルコースの濃度を測定する場合を例にとって説明したが、本発明は血液中の他の成分、たとえばコレスレロール、乳酸、ビリルビンなどを測定する場合にも適用でき、また血液以外の試料液に対しても適用できる。
【実施例】
以下においては、本発明に係るバイオセンサが、応答電流値の測定において血液中に含まれる血球の影響が低減されていることについて実証する。
【実施例1】
(グルコースセンサの作成)
本実施例においては、図1ないし図4に示したのと同様な構成にバイオセンサを形成した。このバイオセンサでは、キャピラリ6の内部流路60の長さ寸法L、幅寸法W、および高さ寸法Hを、それぞれ3mm、1mm、および40μm(図1および図3参照)とした。作用極31および対極32は、カーボンインキ(日本アチソン製「Electrodag 423SS」)を用いたスクリーン印刷により形成した。試薬部33は、電子伝達層および酵素含有層からなる2層構造とした。電子伝達層は、基板3上に電子伝達物質を含む第1材料液0.4μLを塗布した後に第1材料液を送風乾燥(30℃、10%Rh)することにより形成した。酵素含有層は、電子伝達層上に、酸化還元酵素を含む第2材料液0.3μLを塗布した後に第2材料液を送風乾燥(30℃、10%Rh)することにより形成した。
第1材料液は、下記表1の▲1▼〜▲4▼で示した液成分を番号通りの順序で混合した混合液を1〜3日放置した後、この混合液に電子伝達物質を添加することにより調製した。第2材料液は、酸化還元酵素を0.1%CHAPSに溶解させることにより調製した。
電子伝達物質としては、[Ru(NH]Cl(同仁化学研究所製「LM722」)を使用し、酸化還元酵素としては、PGGGDH(グルコース脱水素活性が800U/mg)を使用した。

表1などにおいて、SWNはルーセントタイトSWNの略号であり、CHAPSは3−[(3−cholamidopropyl)dimethylammonio]propanesulfonic acidの略号であり、ACESはN−(2−acetamido)−2−aminoethanesulfonic acidの略号である。SWNとしてはコープケミカル(株)製「3150」を使用し、CHAPSとしては同仁化学研究所製「KC062」を使用し、ACESとしては同仁化学研究所製「ED067」を使用した。なお、ACES溶液はpHが7.5となるように調製した。
吸水層51は、吸水性高分子を含む塗布材をカバー5の目的部位に0.1μL塗布した後に塗布材を送風乾燥(30℃、10%Rh)することにより、膜厚が2μmとなるように形成した。塗布材としては、メタノール100重量部に対して吸水性高分子(住友精化(株)製「アクアコーク」)7重量部を溶解させたものを使用した。
(応答電流の測定)
応答電流は、上記した構成のバイオセンサを用いて、グルコース濃度が447mg/dLで、ヘマトクリット値(以下「Hct」という)の異なる3種類の血液(Hct20%、Hct42%、Hct69%)について、タイムコースとして測定した。各Hctの血液については、5回ずつ応答電流を測定した。このとき、バイオセンサ1の内部流路60に対する血液供給量は0.5μLとし、作用極31と対極32との間への印加電圧は、500mVとした。その結果を図11に示した。
一方、血液の供給から5秒後の応答電流値に基づいて、Hctの影響を検討した。その結果を図13に示した。図13においては、横軸はHct(%)、縦軸はHct42%のときの応答電流値からのずれ量(Bias(%))として示した。図13においては、Bias(%)は、5回の測定の平均値として示してある。
比較例1
本比較例においては、実施例1のバイオセンサにおいて吸水層を省略した形態のバイオセンサを使用し、実施例1と同様にしてHctの異なる3種類の血液について応答電流値のタイムコースを測定した。各Hctの血液については、5回ずつ応答電流値を測定した。その結果を図12に示した。一方、血液の供給開始から5秒後の応答電流値に基づいて、実施例1と同様にしてHctの影響を検討した。その結果を図14に示した。
実験結果の考察
図11および図12を参照すれば分かるように、Hctの異なる血液を測定した場合、実施例1のバイオセンサは、比較例1のバイオセンサに比べてより速く応答電流値が収束する傾向がある。具体的には、第1に、たとえば応答電流値の5秒値に着目すれば分かるように、実施例1のバイオセンサでは、比較例1のバイオセンサに比べてHct20%の場合とHct69%の場合との応答電流値の差が小さくなっており、第2に、実施例1のバイオセンサでは、8秒程度で各サンプルの応答電流値が均一化している。これに対して、比較例1のバイオセンサでは、各サンプル応答電流値が均一化するのに15秒程度必要となっている。
この結果は、実施例1のバイオセンサは、比較例1のバイオセンサに比べて短い測定時間においても適切に濃度測定を行えることを意味している。また、実施例1および比較例1のバイオセンサは、キャピラリ6の内部流路60の容積が0.5μLと小さいため、実施例1のバイオセンサは微量な血液を精度良く測定できるといえる。
なお、実施例1のバイオセンサは、比較例1のバイオセンサに比べて再現性が低くなっているが、これは、吸水層51の形成時に塗布材の塗布を手操作によって行ったため、吸水層51に形成状態にバラツキがあったためであると思われる。したがって、均質な吸水層51を形成すれば、再現性は改善されるものと思われる。
図13および図14から分かるように、Hctが20〜69%の範囲では、血液の供給開始から5秒後の応答電流値に関して、実施例1のバイオセンサではBiasが+5%程度なっているのに対して、比較例1のバイオセンサではBiasが±20%程度なっている。すなわち、実施例1のバイオセンサは、比較例1のバイオセンサに比べてHctが応答電流値に与える影響が小さくなっている。この結果からは、実施例1のバイオセンサのように吸水層51を設ければ血液のHctの影響が低減されることが分かる。
以上に説明したように、本発明に係る測定用具では、試料液中の固体成分の影響を抑制し、測定時間を短く維持しつつも、少ない試料液によって精度良く濃度測定を行うことができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【図5】

【図6】

【図7】


【図9】


【図11】

【図12】

【図13】

【図14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体成分を含んだ試料液を移動させ、かつ液相反応場を提供するための流路と、上記液相反応場に対して電圧を印加するために利用される第1および第2の電極と、を備え、
上記第1の電極が、上記第1および第2の電極を介して上記液相反応場に対して電圧を印加したときに、上記液相反応場に対して電子を供給し、あるいは上記液相反応場から電子を受け取るための電子授受界面を有する分析用具であって、
上記液相反応場における上記電子授受界面と接触する部分での固体成分の濃度を高めるための濃縮手段を備えている、測定用具。
【請求項2】
上記濃縮手段は、吸水性高分子材料を含んだ吸水層により構成されている、請求項1に記載の測定用具。
【請求項3】
上記吸水性高分子材料は、10〜500g/gの吸水能力を有している、請求項2に記載の測定用具。
【請求項4】
上記第1および第2の電極が形成された基板と、この基板に積層されたカバーと、を備えている、請求項2に記載の測定用具。
【請求項5】
上記吸水層は、上記カバーにおける少なくとも上記電子授受界面と対面する部分に膜形成されている、請求項4に記載の測定用具。
【請求項6】
上記吸水層は、非吸水時および吸水時における上記基板の厚み方向の寸法が、それぞれ上記流路における上記厚み方向の寸法の1/30〜1/10および1/5〜3/5に形成されている、請求項5に記載の測定用具。
【請求項7】
上記吸水層は、上記流路の全長または略全長にわたって形成されている、請求項4に記載の測定用具。
【請求項8】
上記吸水層は、上記吸水性高分子材料を含むものとして上記カバーを形成することにより、上記カバーにより構成されている、請求項7に記載の測定用具。
【請求項9】
上記吸水層は、上記カバーに対して上記吸水性高分子を含む粉末を担持させた構成とされている、請求項4に記載の測定用具。
【請求項10】
上記粉末は、非吸水時において、重量平均粒子径が100〜1000μmである、請求項9の記載に測定用具。
【請求項11】
上記吸水層は、上記電子授受界面よりも上記流路における上記試料液の流れ方向の下流側に設けられている、請求項2に記載の測定用具。
【請求項12】
上記吸水層は、試料液の流れ方向の寸法が、流路の入り口から上記電子授受界面における試料液の流れ方向の最下流点までの距離に対して、1/4〜1/2に設定されている、請求項11に記載の測定用具。
【請求項13】
上記吸水層は、吸水時において、上記流路における上記吸水層が形成された部分の厚み寸法が0〜15μmとなるように形成されている、請求項11に記載の測定用具。
【請求項14】
上記吸水層は、上記電子授受界面に対して、上流側において隣接する位置および下流側において隣接する位置のうちの少なくとも一方の位置に形成された部分を有している、請求項4に記載の測定用具。
【請求項15】
上記吸水層は、上記電子授受界面に対して、上流側において隣接する位置に形成された部分および下流側において隣接する位置に形成された部分を有している、請求項14に記載の測定用具。
【請求項16】
上記吸水層は、上記電子授受界面の周囲を囲んでいる、請求項15に記載の測定用具。
【請求項17】
上記濃縮手段は、上記電子授受界面よりも上記流路における上記試料液の移動方向の下流側に設けられ、かつ上記固体成分の移動を阻害するための難吸水性のダム部により構成されている、請求項1に記載の測定用具。
【請求項18】
上記ダム部は、上記流路における上記ダム部が形成された部分における上記流路の厚み寸法が5〜15μmとなるように形成されている、請求項17に記載の測定用具。
【請求項19】
上記試料液は、血球を含む血液である、請求項1に記載の測定用具。

【国際公開番号】WO2004/040289
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【発行日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−548094(P2004−548094)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013963
【国際出願日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】