説明

固体酸化物型燃料電池システム

【課題】低コストで、セル積層方向における温度差による劣化を含むスタックの高温劣化を低減することが可能な固体酸化物型燃料電池システムを提供する。
【解決手段】固体酸化物型燃料電池システムは、燃料ガスを改質する改質器1と、前記改質器1から改質された前記燃料ガスと酸化剤ガスとを酸化還元反応させることにより発電する燃料電池スタック2と、前記燃料電池スタック2に前記酸化剤ガスを送り込む酸化剤ガス供給器3と、前記燃料電池スタック2に供給される前記燃料ガスの流量を調整する流量調整器4aと、前記燃料電池スタック2の一方の端部、中央部および他方の端部のそれぞれの温度を検出する温度検出器5と、前記燃料電池スタック2の温度を前記燃料ガスの流量の調整により制御する制御部6とを備え、前記制御部6は、前記燃料電池スタック2の一方の端部、中央部および他方の端部の平均温度を発電開始温度から段階的に上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池システムに関し、特に、燃料電池スタックの作動温度を制御する機能を有する固体酸化物型燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体酸化物型燃料電池(以下、「SOFC」と言う。)は、作動温度が高い。このため、電解質における電気抵抗および電極反応抵抗などのスタックの内部抵抗が小さくなるので、発電効率が高い長所がある。一方、高温による構成部材の変形や変質により、SOFCの寿命が短くなるという問題がある。
【0003】
このような熱による構成部材の変形および変質を抑制する方法が提案されている。
【0004】
たとえば、構成部材に耐熱性を有する材料を使用すれば、構成部材の熱的劣化は軽減される。しかしながら、構成部材のコストが高くなってしまう。
【0005】
これに対し、SOFCの累積稼働時間が長くなるにつれて、SOFCの制限温度を高くなるように制御する方法が提案されている。この方法では、制限温度を制御することによりSOFCの劣化の進行を防いでいるため、コストの増加が抑えられる。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−114000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来技術は、SOFCのスタックの全体的な温度が高いことによる劣化を防止するだけである。しかしながら、スタックのセル積層方向における端部(以下、単に「スタックの端部」という。)はスタックのセル積層方向における中央部(以下、単に「スタックの中央部」という。)に比べて放熱しやすいこと等に起因して、その温度がスタックの中部に比べて低い。つまり、スタックの温度は、セル積層方向において異なり、このセル積層方向における温度差が大きくなるとスタックの劣化が生じやすい。このため、上記従来技術は、セル積層方向における温度差による劣化を防止することが困難であった。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、低コストで、セル積層方向における温度差による劣化を含むスタックの高温劣化を低減することが可能な固体酸化物型燃料電池システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある形態に係る、固体酸化物型燃料電池システムは、原料ガスを改質して燃料ガスを生成する改質器と、前記改質器から改質された前記燃料ガスと酸化剤ガスとを酸化還元反応させることにより発電する燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給器と、前記燃料電池スタックに前記原料ガスを供給する原料ガス供給器と、前記燃料電池スタックの一方の端部、中央部および他方の端部のそれぞれの温度を検出する温度検出器と、前記燃料電池スタックの温度を前記原料ガス供給器による前記原料ガスの供給量および前記酸化剤ガス供給器による前記酸化剤ガスの供給量を調整することにより制御するよう構成された制御部とを備える。ここで、前記制御部は、前記燃料電池スタックの一方の端部、中央部および他方の端部の平均温度を発電開始から時間が経過するに連れて段階的に上昇させるよう構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以上に説明した構成を有し、低コストで、セル積層方向における温度差による劣化を含むスタックの高温劣化を低減することが可能な固体酸化物型燃料電池システムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る固体酸化物型燃料電池システムの要部構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図2】図1に示す固体酸化物型燃料電池システムにおける制御の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第2実施形態に係る固体酸化物型燃料電池システムにおける制御の一例を示すフローチャートである。
【図4】燃料電池スタックにおける温度分布を説明するための図である。
【図5】図3に示す固体酸化物型燃料電池システムにおける電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図6】電圧と作動時間との関係を示すグラフである。
【図7】作動温度と劣化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0013】
なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、固体酸化物型燃料電池システムの要部構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0015】
[構成]
固体酸化物型燃料電池システム(以下、「SOFCシステム」と言う。)100は、原料ガスを改質して燃料ガスを生成する改質器1と、改質器1から改質された燃料ガスと酸化剤ガスとを酸化還元反応させることにより発電する燃料電池スタック2と、燃料電池スタック2に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給器3と、燃料電池スタック2に原料ガスを供給する原料ガス供給器4と、燃料電池スタック2の一方の端部、中央部および他方の端部のそれぞれの温度を検出する温度検出器5と、燃料電池スタック2の温度を原料ガス供給器4による原料ガスの供給量および酸化剤ガス供給器3による酸化剤ガスの供給量を調整することにより制御するよう構成された制御部6とを備える。以下では、燃料電池スタック2が、セルの積層方向が鉛直方向に一致するよう設置される場合を例示する。これには合わせて、燃料電池スタック2の「一方の端部」および「他方の端部」を、それぞれ、「上端部」および「下端部」と表す。しかし、燃料電池スタック2は、セルの積層方向が任意の方向に一致するように設置されてもよい。
【0016】
詳しく説明すると、SOFCシステム100は、燃料ガス供給ライン7、酸化剤ガス供給ライン8、ヒータ9およびガス排出ライン10を備えている。
【0017】
原料ガス供給器4は流量(flow rate)を調整しながら原料を供給する機能を有する。原料ガス供給器4は、原料ガス源が都市ガス(天然ガス)等のガスインフラストラクチャ(gas infrastructure)である場合には、たとえば、流量調整機能を有するブースタ(たとえばプランジャーポンプ)、流量調整弁、開閉弁及び流量調整器等で構成することができる。また、原料ガス源が原料ガスを貯蔵するボンベ等である場合には、流量調整機能付きのボンベ、流量調整弁等で構成することができる。原料ガスとしては、たとえば、天然ガス等の炭化水素系ガス、プロパンガス等の他の炭化水素系ガス、灯油等の常温で液体の炭化水素系燃料、メタノールなどの炭化水素以外の有機系燃料が挙げられる。原料ガス供給器4は、ここでは、開閉部(図示せず)および流量調整器4aを有する。開閉部は、燃料ガス供給ライン7に対して原料ガス供給器4を開閉したり、遮断したりする。
【0018】
流量調整器4aは、原料ガス供給器4に含まれる。燃料調整器4aは、制御部6からの信号に応じて原料ガス供給器4から供給される原料ガスの流量を調整する。この流量が調整されることにより、スタック2に供給される単位時間当たりの原料ガスの体積または重量などの量が定められる。
【0019】
燃料ガス供給ライン7は、原料ガス供給器4とスタック2とを接続し、原料ガス供給器4からスタック2に原料ガスを導く。
【0020】
改質器1は、燃料ガス供給ライン7に設けられる。改質器1には、燃料ガス供給ライン7を通して原料ガスが供給されると共に、必要に応じて空気などの酸素含有ガスや水蒸気も供給される。また、改質器1は、スタック2およびヒータ9の近傍に配置され、スタック2およびヒータ9の熱により加熱される。加熱により高温になった改質器1は、原料ガスを改質して、水素や一酸化炭素を含む燃料ガスを生成する。改質器1で改質された燃料ガスは燃料ガス供給ライン7を通りスタック2に供給される。
【0021】
酸化剤ガス供給器3には、たとえば、空気などの酸化剤ガスを送風するファンやブロアなどの送風機、酸素ボンベなどが用いられる。酸化剤ガス供給器3は、制御部6からの信号に応じて送風量(酸化剤ガスの流量)を調整しながら、酸化剤ガスを送り出す。酸化剤ガス供給器3から送られる酸化剤ガスは酸化剤ガス供給ライン8を通りスタック2に供給される。
【0022】
スタック2は、複数のセル(図示せず)がセルの厚み方向に積層されて構成されている。セルは、電解質(図示せず)と、電解質を挟むアノード極(図示せず)およびカソード極(図示せず)とを有する。電解質には、酸化ジルコニウムなどの固体酸化物が用いられる。アノード極に改質器1からの燃料ガスが供給され、カソード極に酸化剤ガス供給器3からの酸化剤ガスが供される。この燃料ガスおよび酸化剤ガスが700〜1000(℃)の高温下において酸化還元反応することにより、スタック2は発電する。
【0023】
温度検出器5には、熱電対、抵抗体などの温度検出素子などが用いられる。温度検出器5は、複数、たとえば、3つの測定部を有する。3つの測定部は、スタック2の上端部、中央部および下端部にそれぞれ装着され、各装着位置の温度を測定する。このスタック2の上端部の温度Tu、中央部の温度Tcおよび下端部の温度Tbは制御部6へ出力される。
【0024】
ヒータ9は、スタック2および改質器1の近傍に配置され、ガス排出ライン10によりスタック2に接続される。ヒータ9には、たとえば、スタック2において酸化還元反応に用いられなかった燃料ガスおよび酸化剤ガスが供給される。ヒータ9は、この燃料ガスと酸化剤ガスとを燃焼することにより、スタック2および改質器1を加熱する。
【0025】
制御部6は、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサなどから構成される。制御部6は、温度検出器5からのスタック2の上端部の温度Tu、中央部の温度Tcおよび下端部の温度Tbに基づいてスタック2での燃料利用率および酸化剤利用率を定め、流量調整器4aおよび酸化剤ガス供給器3を制御し、スタック2の温度を調整する。
【0026】
なお、上記のとおり、スタック2に供給された燃料ガスは、酸化還元反応に利用される。残った燃料ガスは、ヒータ9で燃焼されて、スタック2や改質器1の加熱に利用される。このスタック2に供給される量に対する、酸化還元反応に利用される燃料ガスの割合が、燃料利用率である。
【0027】
また、スタック2に供給された酸化剤ガスは、酸化還元反応に利用される。残った酸化剤ガスは、ヒータ9で燃焼されて、スタック2や改質器1の加熱に利用される。このスタック2に供給される量に対する、酸化還元反応に利用される酸化剤ガスの割合が、酸化剤利用率である。
【0028】
[制御]
図2は、SOFCシステム100における制御部6によるスタック2の温度制御の一例を示すフローチャートである。
【0029】
制御部6は、燃料電池スタック2の一方の端部、中央部および他方の端部の平均温度を発電開始から時間が経過するに連れて段階的に上昇させるよう構成されている。
【0030】
具体的には、SOFCシステム100が起動されると、原料ガス供給器4からの原料ガスおよび酸化剤ガス供給器3からの酸化剤ガスがヒータ9で燃焼される。ヒータ9は、燃焼による熱をスタック2および改質器1に供給し、これらを加熱する。加熱された改質器1で燃料ガスが改質されて、改質された燃料ガスがスタック2に供給される。そして、スタック2の温度が発電開始温度:たとえば700(℃)に達すると、発電が開始される。なお、改質器1が燃料ガスを生成するようになった後は、ヒータ9は燃料ガスおよび酸化剤ガスを燃焼する。
【0031】
制御部6は、電力効率を定格電力効率より低く設定する。たとえば、定格電力効率:55(%)から10〜15(%)、この実施形態では、15(%)を引いた値:40(%)が電力効率として設定される(S100)。この差し引く値が大きいと、スタック2の発電初期の電圧が低くなりすぎてしまう。一方、差し引き値が小さいと、スタック2の発電初期の温度が高くなる。このスタック2の劣化は発電初期に大きいため、スタック2の初期温度が高いと、スタック2は著しく劣化してしまう。
【0032】
制御部6は、設定された電力効率に基づいて、燃料ガスの流量および空気の送風量を定める(S101)。たとえば、発電効率:40(%)、スタック2の発電開始温度:700(℃)の場合、燃料利用率は90(%)に、空気利用率は60(%)に定められる。このため、制御部6は、流量調整器4aへ制御信号を出力し、スタック2に供給される燃料ガスの流量を調整し、燃料利用率を制御する。また、制御部6は、酸化剤ガス供給器3へ制御信号を出力し、スタック2に供給される酸化剤ガスの送風量を調整し、空気利用率を制御する。
【0033】
制御部6は、k=Uft×{120(℃)/90000(h)}×t(h)に従い、スタック2の温度を時間が経過するに連れて上昇する(S102)。ここで、kは定数であり、tは発電開始からの作動時間であり、Uftは作動時間:tにおける燃料利用率である。{120(℃)/90000(h)}は昇温率を表す。つまり、上記式により、発電開始時から90000時間後にスタック2の温度が発電開始温度から120(℃)上昇するように、燃料利用率が低下させられる。燃料利用率が低下すると、スタック2において発電に消費される燃料ガスの割合が減少するため、ヒータ9に供給される燃料ガスの量が増大する。これにより、ヒータ9の燃焼によりスタック2に与えられる熱量が増え、スタック2の温度が上昇する。
【0034】
制御部6は、温度検出器5によりスタック2の上端部の温度Tu、中央部の温度Tc、下端部の温度Tbを測定する(S103)。
【0035】
制御部6は、測定された温度Tu、Tc、Tbに基づき、各部分における発電開始温度:700(℃)からの上昇温度ΔTu=Tu−700(℃)、ΔTc=Tc−700(℃)、ΔTb=Tb−700(℃)を求める。そして、各部分の上昇温度の平均値:(ΔTu+ΔTc+ΔTb)/3を求める。この平均値が、作動時間tにおける上昇温度:{120(℃)/90000(h)}×t(h)に達したか否かが判定される(S104)。
【0036】
ここで、燃料利用率が下げられ、ヒータ9で燃焼される燃料ガスの量が増え、加熱強度が強められても、すぐにスタック2の温度が作動時間tにおける上昇温度にならない(S104:NO)。このため、各部分の上昇温度の平均値が作動時間tにおける上昇温度になるまで、スタック2の各部分の温度Tu、Tc、Tbが測定される(S103)。
【0037】
ヒータ9からの熱量が増えてから時間が経つにつれて、スタック2の温度が上がり、各部分の上昇温度の平均値が作動時間tにおける上昇温度に至る(S104:YES)。そこで、さらに、k=Uft×{120(℃)/90000(h)}×t(h)に従い、スタック2が昇温される(S102)。
【0038】
このように、S102〜S104の処理が繰り返されることにより、スタック2の平均温度が発電開始温度から段階的に上昇する。そして、スタック2の温度が高くなるため、スタック2における内部抵抗が低下し、発電効率が上昇する。この発電効率の上昇が、熱的劣化によりスタック2の発電効率が下がる分を補う。よって、スタック2における発電効率は低下が抑えられる。
【0039】
なお、S102〜S104の処理において、燃料利用率を下げることによりスタック2を昇温している間にも、スタック2の劣化による発熱が増大し、スタック2の温度が上がる。ただし、S102の処理において、燃料利用率の低下に伴い酸化剤利用率も低下し、スタック2の冷却に利用される酸化剤ガスの量が増えている。よって、劣化によるスタック2の温度上昇は小さいため、送風量が増えた酸化剤ガスにより劣化によるスタック2の発熱は打ち消される。しかし、このように酸化剤ガスの送風量が増えても、劣化によるスタック2の発熱が冷却されない場合、制御部6は酸化剤ガスの送風量を増やしてもよい。
【0040】
以上の構成によれば、初期の発電効率を下げることにより、発電開始温度が低くなるため、初期の著しいスタック2の劣化を抑えられる。よって、SOFCシステム100の長寿命化が図られる。
【0041】
また、初期の発電効率は定格発電効率に比べて低いが、時間の経過に伴うスタック2の劣化が低減され、発電効率の低下も抑えられる。よって、SOFCシステム100の発電期間全体を通して、発電効率が平均化され、安定した発電効率が得られる。
【0042】
さらに、燃料利用率を低下することにより、ヒータ9に供給される燃料ガスが増え、ヒータ9からスタック2に与えられる熱量が増加し、スタック2の温度が上昇する。この上昇温度は燃料利用率によりほぼ決まる。このため、SOFCの劣化による発電電圧の低下を補うことができるだけの、温度上昇による発電電圧の増加を確実に行うことができる。安定した発電効率を維持することができる。
【0043】
また、スタック2の上端部、中央部、下端部のそれぞれの温度の平均温度に基づいてスタック2の温度が制御されているため、スタック2の一箇所の温度に基づいた温度制御に比べて、スタック2の温度分布が考慮されている。よって、温度分布の拡大によりスタック2が破損する割合が低減され、SOFCの信頼性の向上が図られる。
【0044】
また、スタック2の劣化の抑制は制御により行われているため、構成部材の耐熱性向上による場合に比べて製品コストの上昇は抑えられている。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態では、スタック2の温度制御にスタック2の温度分布がさらに考慮される。
【0046】
制御部6は、スタック2の一方端部と中央部との温度差:Tc−Tu、およびスタック2の他方の端部Tbと中央部との温度差:Tc−Tbの少なくともいずれか一方が、平均温度の発電開始温度からの上昇温度に応じた制限温度に達すると、平均温度の上昇を停止させる。
【0047】
たとえば、制限温度は、発電開始からの上昇温度の半分である。
【0048】
(制御)
図3は、SOFCシステム100における制御部6によるスタック2の温度制御の一例を示すフローチャートである。
【0049】
なお、図3のS200〜S203の処理は、図2のS100〜S103の処理と同様であるため、説明は省略される。
【0050】
制御部6は、スタック2の上昇温度の平均値:(ΔTu+ΔTc+ΔTb)/3が、作動時間tにおける上昇温度:{120(℃)/90000(h)}×t(h)に達したか否かが判定される(S204)。
【0051】
スタック2の上昇温度の平均値が作動時間tにおける上昇温度に至るまでの間(S204:NO)、温度Tu、Tc、Tbが測定され(S203)、スタック2の上昇温度の平均値が作動時間tにおける上昇温度に達するか否かが判断される(S204)。
【0052】
スタック2の上昇温度の平均値が作動時間tにおける上昇温度に等しくなると(S204:YES)、制御部6はスタック2の温度分布を判断する。つまり、スタック2の中央部と上端部との温度差:Tc−Tu、およびスタック2の中央部と下端部との温度差:Tc−Tbが求められる。これらの温度差の両方またはいずれか一方が作動時間tにおける上昇温度に応じた制限温度、たとえば、[{120(℃)/90000(h)}×t(h)]/2に等しくなるか否かが判断される(S205)。
【0053】
このとき、たとえば、図4に示すように、矢印Aの方向からスタック2に酸化剤ガスが供給され、両端部に向けて分流させる(矢印B、Cで示す)の構成のものがある。このような構成では、スタック2の上端部および下端部は放熱され易く、この温度TuおよびTbは低くなる。一方、スタック2の中央部は放熱しにくいので、この温度TcはTuおよびTbに比べて高くなる。このため、スタック2の中央部が両端部に比べて相対的に多く劣化し、中央部の抵抗が両端部に比べて相対的に多く増加し、発熱量も増え、中央部の温度がさらに上昇し、両端部に比べて相対的に多く劣化が進行する。
【0054】
このようにして、発電開始からの作動時間tが長くなるほど、スタック2の中央部と上端部、下端部との温度差が拡大していき、温度差:Tc−Tu、Tc−Tbが制限温度に達する。この場合、制御部6は、流量調整器4aにより原料ガスの流量を調整し、燃料利用率を一定にする。また、必要に応じて、制御部6は、酸化剤ガス供給器3による酸化剤ガスの送風量を増やし、スタック2を冷却する。こうして、スタック2の温度上昇が停止される(S206)。これにより、スタック2の温度分布が拡大することが防がれ、スタック2の部位間の温度差による劣化(極端な場合には破損)が防止される。
【0055】
ただし、燃料利用率の低下は止められるが、燃料ガスおよび酸化剤ガスのスタック2への供給は継続され、スタック2は発電を続ける。
【0056】
一方、Tc−Tu、Tc−Tbが制限温度に達するまでは(S205:NO)、S202〜S204の処理が繰り返される。これにより、スタック2が昇温される。
【0057】
以上の構成によれば、スタック2の温度差が制限温度を超えると、スタック2の昇温が停止され、温度差の拡大が防止される。このため、スタック2の温度差による劣化が防がれ、SOFCの耐久性が向上する。
【0058】
(実施例)
図6は、SOFCシステムの電圧と作動時間との関係を示すグラフである。横軸は作動時間を示し、縦軸は電圧を示す。実線は実施例の電圧−作動時間の特性を表し、破線は比較例の電圧−作動時間の特性を表す。
【0059】
実施例では、10セルのSOFCシステム100が用いられた。定格発電効率:55(%)から15(%)引いた40(%)に発電効率が設定される。これにより、発電開始温度を700(℃)とし、電流密度を0.5(A/cm)とした場合、定格電力では電圧値が0.7(V)に設定される。また、燃料利用率が90(%)に、空気利用率が60(%)に設定される。これに基づいた燃料ガスの流量および空気の送風量でスタック2に燃料ガスおよび空気が供給され、発電が開始される。このときの電圧と電流密度との関係は、図5(a)に示される。
【0060】
スタック2の昇温率が{120(℃)/90000(h)}に設定されると、k=Uft(%)×{120(℃)/90000(h)}×tで燃料利用率が減少される。
【0061】
発電開始から500時間後の燃料利用率Uftは89.4(%)に、空気利用率は60(%)に、電圧は7(V)に、発電効率は40(%)になった。次に、2000時間後の電圧も、ほぼ7(V)であり、劣化はほとんどみられなかった。1万時間後の電圧は、6.9(V)となり、劣化率は0.14(%)/1000(h)であった。
【0062】
6万時間後の電圧は6.55(V)で、劣化率は0.13(%)/1000(h)となった。このとき、温度検出器5の平均温度は767(℃)で、初期作動温度から67(℃)上昇した。スタック2の各温度Tu、Tc、Tbは、758(℃)、788(℃)、754(℃)となった。スタック2の温度差Tc−Tbが昇温温度の半分:33.5(℃)以上の34(℃)になったので、燃料利用率が一定にされ、スタック2の昇温が停止された。
【0063】
この実際に測定した劣化率を元に、9万時間後をシミュレーションした。この結果、9万時間後に作動温度が820(℃)となる。定格運転では、図5(b)に示すように、電流密度が0.5(A/cm)で、電圧が0.7(V)になり、発電効率は40(%)となった。この劣化率は、0.15(%)/1000(h)である。
【0064】
なお、作動時間:9万時間の劣化率は、実施系1の6万時間までの劣化率と、図7に示す劣化率となどに基づいて求められる。図7には、作動温度:850(℃)の劣化率が□で、800(℃)の劣化率が△で、750(℃)の劣化率が×で、700(℃)の劣化率が○で表される。いずれの作動温度の劣化率についても、劣化率は初期に大きく低下する。そして、時間の経過とともに、劣化率の低下は、小さくなり、直線状になる。また、作動温度が上がるにつれて、劣化率が増えている。また、各作動時間において、温度上昇と共に劣化率が上昇している。このような関係を利用して、9万時間の劣化率が得られた。
【0065】
(比較例)
比較例では、10セルのSOFCシステム100が用いられた。初期作動温度が800(℃)に、電流密度が0.4(A/cm)に設定されると、電圧が8.7(V)になった。燃料利用率が92(%)に、空気利用率が60(%)に設定されると、発電効率が40(%)であった。この条件の下、負荷電流が一定で、作動温度が一定の状態で発電が行われた。
【0066】
発電開始から500時間後の燃料利用率Uftは89.4(%)で、空気利用率は60(%)で、電圧は8.6(V)で、発電効率は40(%)となった。この劣化率は2.2(%)/1000(h)であった。次に、2000時間後の電圧は、8.5(V)であり、劣化率は1.1(%)/1000(h)であった。1万時間後の電圧は、8.3(V)であり、劣化率は0.46(%)/1000(h)となった。5万時間後の電圧は、7.8(V)であり、劣化率は0.2(%)/1000(h)となった。
【0067】
6万時間後のスタック2平均温度は、780(℃)、スタック2の下端部と中央部との温度差は45(℃)以上であった。このときの電圧は6.3(V)であり、劣化率は0.17(%)/1000(h)となった。
【0068】
図6に示すように、比較例では、発電開始時の電圧が大きいが、初期の間に電圧は急激に低下する。そして、作動時間が長くなるにつれて、電圧が下がり続けた。これに対し、実施例では、初期の電圧は比較例より低いが、作動時間が長くなっても、電圧の減少は非常に小さい。このように、劣化による電圧の低下がスタック2の昇温により補われるため、実施例は安定した電圧を得ることができる。
【0069】
また、発電開始から6万時間後では、比較例の劣化率は0.17(%)/1000(h)であるのに対し、実施例の劣化率が0.13(%)/1000(h)であった。このように、初期温度を下げることにより初期の急激な劣化が防止されるため、長期間の発電後も実施例の劣化は比較例に比べて抑えられる。
【0070】
この時の比較例の温度差は45(℃)であるのに対し、実施例の温度差は34(℃)である。このように、実施例の温度差が小さいことにより、温度差によるスタック2の劣化(極端な場合には破損)が防止され、SOFCシステム100の耐久性が向上される。
【0071】
さらに、このような制御方法により、コストを上げることなく、耐久性の向上が図られる。
【0072】
なお、上記全ての実施形態では、初期作動温度が700(℃)に、電流密度が0.5(A/cm)に設定されたが、これらの値に限定されない。
【0073】
また、上記全ての実施形態では、発電開始時の燃料利用率が90(%)に、空気利用率が60(%)に、昇温率が120(℃)/90000(h)に設定されたが、これらの値に限定されない。燃料利用率、空気利用率および昇温率は、定格条件に合わせて決めることができる。
【0074】
さらに、上記全ての実施形態では、スタック2の上端部、中央部、下端部の各温度が検出された。ただし、温度の検出位置は、スタック2の同一平面上であれば、これらに限らない。
【0075】
また、上記実施形態では、流量調整器4aが原料ガス供給器4に含まれた。これに対し、流量調整器4aが原料ガス供給器4と別に設けられてもよい。
【0076】
さらに、上記第2実施形態では、温度差:Tc−Tu、Tc−Tbが上昇温度の半分:[{120(℃)/90000(h)}×t(h)]/2に等しくなると、作動温度の昇温が停止された。ただし、昇温の停止時はこれに限らない。たとえば、スタック2の構成材料の熱による体積変化に基づいて、温度差の判断基準が決められてもよい。この場合、構成材料の熱膨張率差は、アノード(Ni)が1200(K:絶対温度)で18.3×10−6(K−1)で、カソード(LaSrMnO3)が960(K)で11.1×10−6(K−1)で、電解質(8mol%YSZ)が10.5×10−6(K−1)で、インターコネクター(LaSrCrO3)が空気中で10.1×10−6(K−1)、水素中で16.9×10−6(K−1)である。熱膨張率差が最も大きいのは、アノードである。このアノードの体積変化は、たとえば、750(℃)から800(℃)への温度上昇において、(18.3×800×10−6−18.3×750×10−6)/18.3×750×10−6=6.67x10−2=6.67%である。このように、体積が約7%変化すると、スタック2の破損の可能性が大きくなる。すなわち、750(℃)から作業温度が昇温された場合、スタック2の温度差が、スタック2の破損の可能性が高まる上昇温度:50(℃)に達すると、昇温が停止される。
【0077】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の固体酸化物型燃料電池システムは、安定した発電効率が得られ、かつ信頼性が高く、低コストの固体酸化物型燃料電池システム等として有用である。
【符号の説明】
【0079】
1 改質器
2 燃料電池スタック
3 酸化剤ガス供給器
4 原料ガス供給器
5 温度検出器
6 制御部
100 固体酸化物型燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスを改質して燃料ガスを生成する改質器と、
前記改質器から改質された前記燃料ガスと酸化剤ガスとを酸化還元反応させることにより発電する燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給器と、
前記燃料電池スタックに前記原料ガスを供給する燃料ガス供給器と、
前記燃料電池スタックの一方の端部、中央部および他方の端部のそれぞれの温度を検出する温度検出器と、
前記燃料電池スタックの温度を前記原料ガス供給器による前記燃料ガスの供給量および前記酸化剤ガス供給器による前記酸化剤ガスの供給量を調整することにより制御するよう構成された制御部とを備え、
前記制御部は、前記燃料電池スタックの一方の端部、中央部および他方の端部の平均温度を発電開始から時間が経過するに連れて段階的に上昇させるよう構成されている、固体酸化物型燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記燃料電池スタックの一方の端部と中央部との温度差、および前記燃料電池スタックの他方の端部と中央部との温度差の少なくともいずれか一方が、前記平均温度の前記発電開始からの上昇温度に応じた制限温度に達すると、前記平均温度の上昇を停止させるよう構成されている、請求項1記載の固体酸化物型燃料電池システム。
【請求項3】
前記制限温度は、前記発電開始からの上昇温度の半分である、請求項2記載の固体酸化物型燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−114996(P2013−114996A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262283(P2011−262283)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】