説明

固体除去加工方法、固体除去加工装置

【課題】切削加工された被加工物の加工面に発生した虹目等の凹凸を、切削加工で創成した形状の悪化や損傷を生じることなく、一様に除去できる固体除去技術を提供する。
【解決手段】ガスクラスターイオンビーム10の照射経路上に、被加工物11が載置される回転ステージ12、この回転ステージ12が載置されたX軸ステージ13およびY軸ステージ14、Y軸ステージ14が載置されるブラケット15、ブラケット15が載置される揺動ステージ16、揺動ステージ16を支持するベース17を備える加工ステージ30を設け、被加工物11の加工面の加工後の表面荒さを加工前の表面粗さよりも悪化させない範囲に、被加工物11の加工面に対するガスクラスターイオンビーム10の照射角度が保たれるように被加工物11の姿勢を制御しつつ、被加工物11の加工面に存在する条痕による虹目を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体除去加工技術に関し、荷電粒子ビームの照射による被加工物の加工面の平坦化等に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、たとえば、プラスチックレンズの成形においては、成形用金型の成形面に、超精密切削が可能なNi(ニッケル)とP(リン)からなる無電解ニッケルメッキの層を必要な厚さ形成し、このメッキ層のダイヤモンドバイトによる切削加工によって光学鏡面を得ることが一般的である。
【0003】
また、プラスチックの素材から直接に、上述のような切削加工方法により光学素子の光学機能面を製作することもある。
以上の加工方法においては、例えば加工物が球面、非球面形状のように回転軸対象形状の場合には、刃先輪郭精度の良いダイヤモンドバイトを用い、切り込み量を数マイクロメートル、送り速度を数ミリメートル毎分の条件で旋削加工を行うことで、粗さ(Ra)が数ナノメートルの光学鏡面を得ることができる。
【0004】
又、加工物が自由曲面形状等の場合には、刃先がダイヤモンドからなる回転工具を用いてフライカットを呼ばれる加工を行うことによって同様に光学鏡面を得ることができる。
このように、切削加工された光学素子又は光学素子成形用金型の加工面には、切削工具によって創成された規則的な切削条痕が存在している。この加工面に白色光が入射すると、反射光は光の干渉により、いわゆる虹目と呼ばれる虹色の干渉色を呈する。この虹目は、光学素子の用途によっては製品機能上の問題となることがあるため、虹目が問題となるような場合には切削加工後に遊離砥粒を用いた研磨加工を行って切削条痕を除去し、加工面を平滑にすることもある。
【0005】
一方、特許文献1(特許第3451140号公報)に示す従来技術には、ガスクラスターイオンビームを被加工物に照射して固体表面を超精密研磨する方法が開示されている。
すなわち、被加工物へ照射されたガスクラスターイオンビームは被加工物との衝突で壊れ、その際クラスター構成原子または分子および被加工物構成原子または分子とに多体衝突が生じ、被加工物表面に対して水平方向への運動が顕著になり、被加工物の表面の凸部が主に削られ原子サイズでの平坦な超精密研磨を実現しようとするものである。
【0006】
上述した虹目は、加工面に創成された規則的な切削条痕に入射した光が反射するときに干渉して発生するため、研磨加工を行って、平滑面にすることによって、虹目は発生しなくなる。
【0007】
しかるに、遊離砥粒を用いた研磨加工では、切削加工で創成した形状を維持しつつ、光学鏡面に研磨キズを付けないようにすることが求められるため、技能作業者による手作業によりなされることが多く、歩留まりが悪い、加工工数が大きく部品がコスト高になる、手作業による加工のため品質がばらつく、加工作業者が技能者に限られる等の技術的課題を抱えている。また、研磨工具と被加工物は接触した状態で加工がなされるため、遊離砥粒径のばらつきや塵などの異物の混入、加工圧の変動によって光学鏡面にキズを付けてしまうことがあり、外観品質を損なうこともある。
【0008】
また、上述の特許文献1の技術では、ガスクラスターイオンビームを被加工物に一様に照射して研磨加工を行っているが、ガスクラスターイオンビームの照射範囲内におけるエネルギー分布(ビームプロファイル)は一様ではないため、これを切削加工した加工面に照射した場合、照射ドーズ量(単位面積当りのイオン数)が、切削条痕を完全に除去しない程度に少ない場合には、部分的に切削条痕が残存した加工面となり、虹目が発生している部分と虹目が発生していない部分、又は虹光の強弱を伴った色ムラのある外観となってしまう。
【0009】
逆に、照射ドーズ量が切削条痕を完全に除去する程度に多い場合には、ガスクラスターイオンビームの照射範囲内における除去量分布が一様でないから、当該除去量分布のばらつきを反映した状態に被加工物の輪郭形状が悪化してしまう。
【0010】
さらに、ガスクラスターイオンビームの入射方向に対して被加工面が傾斜している場合、その傾斜角度によっては逆に面粗さが悪化することがある。
図14は、この出願の発明者らがガスクラスターイオンビームをNi−Pの被加工物に照射実験した際の、被加工面に対する照射角度と、面粗さの変化を示している。この図14から、照射角度が30°辺りから大きくなると、面粗さが悪化していくのがわかる。
【0011】
また、非特許文献1においては、イニシャル面の表面粗さ(Ra)が6nmの銅製の被加工物へのガスクラスターイオンビーム照射実験報告の記述があり、照射角度が0°,15°,30°のときは照射後の表面粗さ(Ra)がそれぞれ1nm,1.9nm,4.4nmと向上したのに対して、照射角度が45°,60°のときには照射後の表面粗さ(Ra)がそれぞれ7.1nm,11.3nmと悪化したとの報告がなされている。
【0012】
これより、傾斜角度が概ね30°〜40°を超える曲面に従来技術を用いた場合、面粗さが悪化し、被加工物が光学素子又は光学素子成形用の金型である場合には光学性能を悪化させてしまうことが知られる。
【特許文献1】特許第3451140号公報
【非特許文献1】2001年発行、「MATERIAL SCIENCE & ENGINEERING」(VOL.R34 NO.6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、切削加工された被加工物の加工面に発生した虹目等の凹凸を、切削加工で創成した形状の悪化や損傷を生じることなく、一様に除去できる固体除去技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の観点は、被加工物の加工面に対し、荷電粒子ビームを照射して、前記加工面に存在する条痕の山部を、当該山部の高さを超えない範囲で除去する固体除去加工方法を提供する。
【0015】
本発明の第2の観点は、被加工物の加工面に対して荷電粒子ビームを照射する第1工程と、
前記被加工物の前記加工面を観察する第2工程と、
前記第2工程における前記加工面の観察結果に基づいて、前記第1工程を継続するか否かを判別する第3工程と、
を含む固体除去加工方法を提供する。
【0016】
本発明の第3の観点は、被加工物に荷電粒子ビームを照射する照射手段と、
前記被加工物に対して、自転変位、および前記荷電粒子ビームの照射方向と垂直な面内での平行移動変位、および前記荷電粒子ビームの照射方向と前記被加工物の照射面との角度が可変となる揺動変位のうちの少なくとも一つ変位を相対的に与える変位制御手段と、
を含む固体除去加工装置を提供する。
【0017】
本発明の第4の観点は、被加工物の加工面に荷電粒子ビームを照射する照射手段と、
前記加工面を観察する観察手段と、
前記観察手段における前記加工面の観察結果に基づいて、前記照射手段から前記加工面に対する前記荷電粒子ビームの照射を制御する判定手段と、
を含む固体除去加工装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、切削加工された被加工物の加工面に発生した虹目等の凹凸を、切削加工で創成した形状の悪化や損傷を生じることなく、一様に除去できる固体除去技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態である固体除去加工方法を実施する固体除去加工装置の構成の一例を示す概念図であり、図2および図3は、加工の前後における被加工物の表面状態の一例を示す断面図である。
【0020】
図4、図5および図6は、本実施の形態の固体除去加工装置の作用の一例を示す説明図である。
本実施の形態では、固体除去加工装置M1として、荷電粒子ビームとして、ガスクラスターイオンビームを用いるガスクラスターイオンビーム加工装置に適用した場合を例にとって説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態の固体除去加工装置M1は、スキマー6によって仕切られたソースチャンバー1とメインチャンバー2によって構成されている。
ソースチャンバー1の側には、排気ポンプ3、ノズル5(照射手段)、ガスボンベ18が設けられている。
【0022】
メインチャンバー2の側には、タングステンフィラメント7(照射手段)、電極8(照射手段)、加速電極9(照射手段)、回転ステージ12、X軸ステージ13、Y軸ステージ14、ブラケット15、揺動ステージ16、ベース17が設けられている。
【0023】
ソースチャンバー1は排気ポンプ3によって排気され、メインチャンバー2は排気ポンプ4によって排気されることにより、それぞれ差動排気された真空室となっている。
ノズル5にはガスボンベ18より、0.6〜1.0MPa程度の高圧ガスを供給する。このガスは、例えばアルゴンガス、酸素ガス、窒素ガス、SF6ガス、ヘリウムガスの他、化合物の炭酸ガスあるいは2種以上のガスを混合することも可能である。
【0024】
このような高圧ガスが超音速でノズル5から噴出する瞬間に断熱膨張によってガスクラスターが生成され、次にスキマー6を通過してビーム径を整えられた後にメインチャンバー2に入射する。
【0025】
このときのガスクラスターイオンビーム10は中性ビームであるが、タングステンフィラメント7の熱電子の衝突によってイオン化され、荷電粒子ビームとして引出し電極8にて引き出される。
【0026】
次にガスクラスターイオンビーム10は加速電極9にて加速される。加速電極9の先には、被加工物11が、その表面がガスクラスターイオンビーム10の入射方向に対して垂直になるように加工ステージ30に配設されている。
【0027】
本実施の形態の場合、加工ステージ30は、被加工物11が載置される回転ステージ12、この回転ステージ12が載置されたX軸ステージ13およびY軸ステージ14、Y軸ステージ14が載置されるブラケット15、ブラケット15が載置される揺動ステージ16、揺動ステージ16を支持するベース17を備えている。
【0028】
加工ステージ30の動作は、制御部101を介して、パーソナルコンピュータ等で構成される制御端末100によって制御される。
すなわち、この被加工物11はガスクラスターイオンビーム10の入射方向と平行な回転軸を中心として回転可能な回転手段としての回転ステージ12に搭載されていて、回転ステージ12の回転軸に対して垂直で紙面に対して前後方向に移動可能なX軸ステージ13に搭載されている。さらにX軸ステージ13は、回転ステージ12の回転軸に垂直で紙面上下方向に移動可能なY軸ステージ14に搭載されている。
【0029】
回転ステージ12、X軸ステージ13及びY軸ステージ14は不図示のサーボモータあるいはステッピングモータにより駆動され、制御端末100からの指令に基づいて、制御手段としての制御部101にて自在に制御が可能である。
【0030】
上述の回転ステージ12とX軸ステージ13とY軸ステージ14は、ブラケット15に搭載されており、このブラケット15の底面には、揺動ステージ16が配設され、ガスクラスターイオンビームの入射方向と平行で紙面に垂直な面内での揺動が可能である。この揺動ステージ16は、ベース17を介して、この固体除去加工装置M1の筐体の一部に固設されている。
【0031】
また、制御端末100は、加工ステージ30以外の排気ポンプ3、排気ポンプ4、タングステンフィラメント7、電極8、ガスボンベ18、等の固体除去加工装置M1の全体の動作も制御する。
【0032】
以上のような構成の本実施の形態の固体除去加工装置M1の作用を説明する。
本実施の形態では、表面に条痕が存在する被加工物11の例として、被加工物11が切削加工されている例について説明する。
【0033】
すなわち、被加工物11の表面は無電解ニッケルメッキの層をダイヤモンドバイトにて超精密切削されており、加工時の送り動作によって、図2に例示されるように、加工面には規則的な切削条痕20が形成されている。
【0034】
また、被加工物11の輪郭形状であるが、ガスクラスターイオンビーム10を照射した際に被加工物11表面の粗さが悪化しない最大の照射角度をαとしたときに、被加工物11の加工面の最大傾斜角度θmaxがαを越えないものとする。照射角度αとは、ガスクラスターイオンビーム10の入射方向と垂直な方向を0度としたときの、被加工物11の表面の各位置における接線の角度(当該接線とガスクラスターイオンビーム10の中心軸10aに直交する平面とのなす角度)を指し、例えば加工物が図6のように回転軸対称形状の場合、加工点Pの傾斜角度θで表される。
【0035】
なお、本実施の形態の場合には、照射角度αは、たとえば、40°以下、より望ましくは30°以下に設定される。
この被加工物11を保持した回転ステージ12を毎分数回〜数10回程度の回転数で回転させ、X軸ステージ13及びY軸ステージ14を制御して、ガスクラスターイオンビームの入射方向に垂直な平面内で、ガスクラスターイオンビーム10のビーム径21の範囲内で被加工物11を移動させる。
【0036】
被加工物11の移動の軌跡は特に限定しないが、たとえば、図4に示すようにY軸方向に往復しながらX軸方向に同ピッチずつ進む軌跡23や、図5に示すように、X軸及びY軸を同時制御しながらスパイラルを描くように進む軌跡24など、ガスクラスターイオンビーム10のビーム径21の範囲内を被加工物11が満遍なく移動する軌跡が好ましい。
【0037】
このようなビーム径21の範囲内における被加工物11の移動を加工時間内で複数サイクル以上行うことでガスクラスターイオンビーム10のエネルギー分布(ビームプロファイル)が一様でなくても被加工物11の表面の切削条痕20は均一に除去されることになる。
【0038】
さらに、本実施の形態の場合、必要に応じて、さらに、上述の軌跡23や軌跡24による被加工物11の移動中に、揺動ステージ16を制御して被加工物11に対するガスクラスターイオンビーム10の照射角度が相対的に変化するように被加工物11を等速度にて揺動させる。
【0039】
被加工物11を揺動させる角度は0°(被加工物11の中心軸11aとガスクラスターイオンビーム10の中心軸10aが平行である状態)を中心に正負方向に揺動させる。揺動の大きさは、±(α−θmax)を超えない範囲とし、前記平行移動の1サイクル内で複数回揺動を行う。この揺動範囲においては、被加工物11の全ての部位で、ガスクラスターイオンビーム10の照射角度がαを超えることはないので、被加工物11表面の面粗さを悪化させることなく、均一な除去加工を行うことができる。
【0040】
以上の作用によってガスクラスターイオンビーム10が照射された被加工物11の表面は、ガスクラスターイオンビーム10のラテラルスパッタリング効果(被加工物11の照射表面に平行な方向におけるスパッタリング効果)によって、図2に例示されたような切削条痕20の凸部から優先的に除去され、図3に例示されたような平滑面22となる。
【0041】
このときの切削条痕20の除去量ΔLは、切削条痕20の山部頂点から谷部底面までの垂線の長さL(すなわち、切削条痕20の山部の高さL)を超えない範囲で除去すれば良く、その量(除去量ΔL)は、被加工物11に求められる外観品質によって決定すれば良い。勿論、除去量ΔLがLに等しいときは、すなわち、L−ΔL≒0の場合には、完全な平滑面22となり、被加工物11の表面に虹目が全く認められない外観となる。
【0042】
以上のように、本実施の形態の固体除去加工装置M1の場合には、本来、エネルギー分布(ビームプロファイル)が一様でないガスクラスターイオンビーム10を、たとえば、被加工物11のような凸の半球形の輪郭形状を呈する、平面以外の加工物に照射した場合でも、切削加工にて創成された本来の輪郭形状の精度を悪化させることなく、被加工物11の表面の切削条痕20を均一に除去して、虹目等の表面欠陥を除去することができる。
【0043】
図7は、表面の無電解ニッケルメッキ層を切削加工した被加工物11の表面を、たとえば原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)にて測定した結果を鳥瞰図にて示したものである。被加工物11の表面に高さが5〜7ナノメートル程度の切削条痕20が存在し、目視にて虹目が認められた。
【0044】
この被加工物11に、本実施の形態の固体除去加工装置M1において、電流値が120μA、加速電圧が20kV、照射ドーズ量が6×1017ions/cmの条件でガスクラスターイオンビーム10を照射したところ、図8のように切削条痕が除去され、平滑な表面(平滑面22)となった。もちろん、この被加工物11の表面には虹目は認められなかった。
【0045】
このように、本実施の形態によれば、切削加工された被加工物11の加工面に発生した虹目等の凹凸(切削条痕20)を、切削加工で創成した形状の悪化や損傷を生じることなく、一様に除去することができる。
(実施の形態2)
図9は、本発明の他の実施の形態である固体除去加工装置の構成例を示す概念図である。
【0046】
この実施の形態2に例示される固体除去加工装置M2の構成は、上述の図1に例示された実施の形態1の固体除去加工装置M1の構成に対して、加速電極9の後方にアパーチャ19を配置した点が異なっており、他の構成は同様である。
【0047】
加速電極9を通過したガスクラスターイオンビーム10は、アパーチャ19を通過することによってアパーチャ19の口径19aのサイズに絞られる。
このアパーチャ19は、たとえば、金属板に貫通穴を開けたものであるので、容易に製作できるため、口径19aの異なる複数のアパーチャ19を準備して交換するだけで、ガスクラスターイオンビーム10のビーム径を、所望のサイズに任意に設定できる利点がある。
【0048】
以下、本実施の形態2の作用を説明する。
この実施の形態2では、被加工物11は回転軸対称の曲面(曲率半径R)で、アパーチャ19のない自然状態におけるガスクラスターイオンビーム10のビーム径21のままでは、加工面の最大傾斜角度θmaxがαを越えるものとして作用を説明する。
【0049】
図10および図11は、本実施の形態2における加工方法の作用を説明する被加工物の側面図および正面図である。なお、図11は、図10における矢印A−Aの方向より見た図である。
【0050】
この実施の形態2の固体除去加工装置M2では、図10および図11図に示すように、被加工物11上に照射されたガスクラスターイオンビーム10の中心を加工点Qとした場合に、加工点Qが被加工物11の母線11b(輪郭線)上を、走査軌跡26のように走査しながら、かつ加工点Qでの法線がガスクラスターイオンビーム10の中心軸10aと一致するようにX軸ステージ13、Y軸ステージ14、揺動ステージ16を同時制御して被加工物11の姿勢を制御する。
【0051】
このとき被加工物11の任意の加工点Qでガスクラスターイオンビーム10の照射ドーズ量が一定となるように、回転ステージ12の回転数又は、X軸ステージ13、Y軸ステージ14等によるガスクラスターイオンビーム10の走査速度を制御する。
【0052】
この際のアパーチャ19の口径19aは被加工物11の任意の加工点において、ガスクラスターイオンビーム10の照射範囲D内で照射角度がαを超えないように設定する。例えば図10の例ではθ1,θ2がαを超えないように照射範囲Dが設定されている。
【0053】
換言すれば、たとえば、加工点Qを含む曲面での曲率半径Rが小さいほど、アパーチャ19の口径19aのサイズを小さくして、ビーム径21の外縁部におけるθ1,θ2がαを超えないように照射範囲Dを小さく制御する。
【0054】
このように被加工物11を姿勢制御しつつ、ガスクラスターイオンビーム10を相対的に走査しながら照射することで、加工中いかなる場合でも、被加工物11上のガスクラスターイオンビーム10の照射部位での照射角度がαを超えることはないため、被加工物11の表面の面粗さを悪化させることなく、切削条痕20の除去加工が行え、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0055】
なお、アパーチャ19としては、たとえばカメラの絞り機構のように、複数枚の可動な羽根を組み合わせることで、中央の口径19aの開口サイズを連続的に無段階に制御できる構成としてもよい。
【0056】
この場合には、アパーチャ19の交換が不要になるとともに、制御端末100がアパーチャ19を制御することにより、照射範囲Dにおける既知の被加工物11の加工面の曲率半径Rの変化に追従して、口径19aを連続して最適なサイズに変化させることができる。
【0057】
この結果、ビーム径21の外縁部におけるθ1,θ2がαを超えないように照射範囲Dのサイズを動的に最適に制御でき、たとえば、最小の曲率半径Rに合わせて口径19aを一律に小さく設定する場合に比較して、加工時間を短縮できる。
(実施の形態3)
図12は、本発明のさらに他の実施の形態である固体除去加工装置の構成例を示す概念図である。
【0058】
この実施の形態3における固体除去加工装置M3の構成例では、図12に示すように、上述の実施の形態1(または実施の形態2)の構成に加えて、被加工物11の表面を撮影する撮影装置27(観察手段)をメインチャンバー2の内部に配置した構成となっている。
【0059】
また、撮影装置27の光軸は、ガスクラスターイオンビーム10の照射経路と平行に配置され、加工ステージ30の全体を、ガスクラスターイオンビーム10の照射位置と、撮影装置27による撮影位置との間で移動させるための移送ステージ31(移動手段)が設けられている。
【0060】
また、制御端末100の側には、撮影装置27において撮影された被加工物11の画像を処理する画像処理プログラム100aと、被加工物11の画像に応じてガスクラスターイオンビーム10の照射による加工を制御する判定論理100b(判定手段)が実装されている。
【0061】
この判定論理100bは、たとえば、制御端末100で実行されるプログラムで構成することができる。
以下、本実施の形態3における固体除去加工装置M3の作用を説明する。
【0062】
図13は、本実施の形態の固体除去加工装置M3の作用を説明するフローチャートである。
この固体除去加工装置M3の基本的な加工動作は上述の固体除去加工装置M1および固体除去加工装置M2と同様であるが、加工の途中において適宜、撮影装置27によって被加工物11を観察し、観察結果によって加工を継続するか否かを判別する点が異なっている。
【0063】
すなわち、上述の実施の形態1または実施の形態2と同様に、ガスクラスターイオンビーム10の照射位置に移動させて(ステップ201)、ガスクラスターイオンビーム10の照射による加工動作中に(ステップ202)、一定時間毎(または、被加工物11の加工面の全域に対する1回のガスクラスターイオンビーム10の照射の完了毎)等の加工の区切りを契機に(ステップ203)、移送ステージ31によって、被加工物11を搭載した加工ステージ30を、撮影装置27の光軸上の撮影位置に移動させる(ステップ204)。
【0064】
なお、本実施の形態3では、移動手段として加工ステージ30の全体を移動させる移送ステージ31を新たに設けているが、加工ステージ30の構成要素であるX軸ステージ13やY軸ステージ14等の移動範囲を撮影装置27の撮影位置まで拡大した構成としてもよい。
【0065】
上述の撮影装置27の光軸上の撮影位置にて被加工物11の表面を撮影し(ステップ205)、撮影された画像を制御端末100内の画像処理プログラム100aにて画像処理する。
【0066】
そして、制御端末100の判定論理100bは、画像処理結果に虹色(虹目)が検出された場合(ステップ206)、さらにガスクラスターイオンビーム10の照射による加工を継続し、一方、被加工物11の画像処理結果に虹色が検出されなかった場合には、加工を終了する。
【0067】
これによって、被加工物11を観察および評価する際のメインチャンバー2の開閉時に必要な吸気および排気のための待ち時間が削減できる。
また、切削後の被加工物11の表面状態(虹目の状態等)が異なる場合でも、加工中の被加工物11を観察しながら適切な加工終了のタイミングを判断できるので、虹目の状態等に応じて予め加工時間等の加工条件を設定する煩雑な準備作業が不要になるという利点もある。
【0068】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施の形態である固体除去加工方法を実施する固体除去加工装置の構成の一例を示す概念図である。
【図2】加工前の被加工物の表面状態の一例を示す断面図である。
【図3】加工後の被加工物の表面状態の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態である固体除去加工装置の作用の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態である固体除去加工装置の作用の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態である固体除去加工装置の作用の一例を示す説明図である。
【図7】表面の無電解ニッケルメッキ層を切削加工した被加工物の表面を、原子間力顕微鏡にて測定した結果を示す鳥瞰図である。
【図8】ガスクラスターイオンビームの照射によって加工された被加工物の表面を原子間力顕微鏡にて測定した結果を示す鳥瞰図である。
【図9】本発明の他の実施の形態である固体除去加工装置の構成例を示す概念図である。
【図10】その加工方法の作用を説明する被加工物の側面図である。
【図11】図10における矢印A−Aの方向より見た図である。
【図12】本発明のさらに他の実施の形態である固体除去加工装置の構成例を示す概念図である。
【図13】本発明の一実施の形態である固体除去加工装置M3の作用を説明するフローチャートである。
【図14】ガスクラスターイオンビームをNi−Pの被加工物に照射実験した際の、被加工面に対する照射角度と、面粗さの変化を示す説明図である。
【符号の説明】
【0070】
1 ソースチャンバー
2 メインチャンバー
3 排気ポンプ
4 排気ポンプ
5 ノズル
6 スキマー
7 タングステンフィラメント
8 電極
9 加速電極
10 ガスクラスターイオンビーム
10a 中心軸
11 被加工物
11a 中心軸
11b 母線
12 回転ステージ
13 X軸ステージ
14 Y軸ステージ
15 ブラケット
16 揺動ステージ
17 ベース
18 ガスボンベ
19 アパーチャ
19a 口径
20 切削条痕
21 ビーム径
22 平滑面
23 軌跡
24 軌跡
26 走査軌跡
27 撮影装置
30 加工ステージ
31 移送ステージ
100 制御端末
100a 画像処理プログラム
100b 判定論理
101 制御部
M1 固体除去加工装置
M2 固体除去加工装置
M3 固体除去加工装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工面に対し、荷電粒子ビームを照射して、前記加工面に存在する条痕の山部を、当該山部の高さを超えない範囲で除去することを特徴とする固体除去加工方法。
【請求項2】
請求項1記載の固定除去加工方法において、
前記加工面の加工後の表面荒さを加工前の前記表面粗さよりも悪化させない範囲に、前記被加工物の前記加工面に対する前記荷電粒子ビームの照射角度を保ちながら加工することを特徴とする固体除去加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の固体除去加工方法において、
前記被加工物に対して、自転変位、および前記荷電粒子ビームの照射方向と垂直な面内での平行移動変位、および前記荷電粒子ビームの照射方向と前記被加工物の照射面との角度が可変となる揺動変位のうちの少なくとも一つ変位を相対的に与えながら行うことを特徴とする固体除去加工方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の固体除去加工方法において、
前記荷電粒子ビームは、ガスクラスターイオンビームであり、
前記被加工物は、前記加工面に切削加工の前記条痕を有する光学素子または前記光学素子を型成形するための成形型であることを特徴とする固体除去加工方法。
【請求項5】
被加工物の加工面に対して荷電粒子ビームを照射する第1工程と、
前記被加工物の前記加工面を観察する第2工程と、
前記第2工程における前記加工面の観察結果に基づいて、前記第1工程を継続するか否かを判別する第3工程と、
を含むことを特徴とする固体除去加工方法。
【請求項6】
請求項5記載の固体除去加工方法において、
前記荷電粒子ビームは、ガスクラスターイオンビームであり、
前記被加工物は、前記加工面に切削加工の条痕を有する光学素子、または前記光学素子を型成形するための成形型であり、
前記第2工程では、前記条痕に起因する前記加工面の虹色を観察し、
前記第3工程では、前記加工面における前記虹色の消失まで、前記第1工程を継続させることを特徴とする固体除去加工方法。
【請求項7】
被加工物に荷電粒子ビームを照射する照射手段と、
前記被加工物に対して、自転変位、および前記荷電粒子ビームの照射方向と垂直な面内での平行移動変位、および前記荷電粒子ビームの照射方向と前記被加工物の照射面との角度が可変となる揺動変位のうちの少なくとも一つ変位を相対的に与える変位制御手段と、
を含むことを特徴とする固体除去加工装置。
【請求項8】
請求項7記載の固体除去加工装置において、
さらに、前記被加工物に対する前記荷電粒子ビームの照射範囲の外縁部の各点における前記被加工物の接線と前記荷電粒子ビームに直交する平面とのなす傾斜角度θが所定の照射角度αを超えないように、前記荷電粒子ビームの前記照射範囲の大きさを設定するアパーチャを含むことを特徴とする固体除去加工装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の固体除去加工装置において、
前記荷電粒子ビームは、ガスクラスターイオンビームであり、
前記被加工物は、前記加工面に切削加工の条痕を有する光学素子、または前記光学素子を型成形するための成形型であることを特徴とする固体除去加工装置。
【請求項10】
被加工物の加工面に荷電粒子ビームを照射する照射手段と、
前記加工面を観察する観察手段と、
前記観察手段における前記加工面の観察結果に基づいて、前記照射手段から前記加工面に対する前記荷電粒子ビームの照射を制御する判定手段と、
を含むことを特徴とする固体除去加工装置。
【請求項11】
請求項10記載の固体除去加工装置において、
前記照射手段から前記被加工物に前記荷電粒子ビームを照射する第1の位置と、前記観察手段によって前記被加工物の前記加工面を観察する第2の位置との間で前記被加工物を移動させる移動手段をさらに含むことを特徴とする固体除去加工装置。
【請求項12】
請求項10記載の固体除去加工装置において、
前記荷電粒子ビームは、ガスクラスターイオンビームであり、
前記被加工物は、前記加工面に切削加工の条痕を有する光学素子、または前記光学素子を型成形するための成形型であり、
前記観察手段は、前記条痕に起因する前記加工面の虹色を検出し、
前記判定手段は、前記加工面における前記虹色の消失まで、前記第1工程を継続させることを特徴とする固体除去加工装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−108368(P2009−108368A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281460(P2007−281460)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(598067717)
【出願人】(502100345)
【Fターム(参考)】