説明

固体電池システム

【課題】安全性を向上させることが可能な固体電池システムを提供する。
【解決手段】固体の硫化物を含有する固体電解質層と、該固体電解質層を狭持する一対の正極層及び負極層と、を備えた固体電池を収容する筐体と、固体電池を冷却可能な第1温度調整手段及び第2温度調整手段と、筐体の内側の温度を検出可能な温度検出手段と、該温度検出手段による温度検出結果に基づいて固体電池の温度を制御する制御手段と、を具備し、筐体の内側の温度がT1以下になるように第1温度調整手段を用いて固体電池が冷却され、筐体の内側の温度がT1よりも高温であるT2を超えた場合に第1温度調整手段よりも冷却性能が高い第2温度調整手段を用いて固体電池が冷却される、固体電池システムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、他の二次電池よりもエネルギー密度が高く、高電圧での動作が可能という特徴を有している。そのため、小型軽量化を図りやすい二次電池として携帯電話等の情報機器に使用されており、近年、電気自動車やハイブリッド自動車用等、大型の動力用としての需要も高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、正極層及び負極層と、これらの間に配置される電解質とが備えられ、電解質は、非水系の液体又は固体によって構成される。電解質に非水系の液体(以下において、「電解液」という。)が用いられる場合には、電解液が正極層の内部へと浸透する。そのため、正極層を構成する正極活物質と電解質との界面が形成されやすく、性能を向上させやすい。ところが、広く用いられている電解液は可燃性であるため、安全性を確保するためのシステムを搭載する必要がある。一方、固体の電解質は不燃性であるため、上記システムを簡素化できる。それゆえ、不燃性である固体の電解質を含有する層(以下において、「固体電解質層」ということがある。)が備えられる形態のリチウムイオン二次電池(以下において、「固体電池」という。)が提案されている。
【0004】
このような固体電池に関する技術として、例えば特許文献1には、分解により硫化水素ガスを発生する硫黄化合物を電池セル内に含み、硫化水素ガスをトラップし無毒化する物質で、電池セルの外周部が覆われている硫化物系二次電池が開示されている。また、車両に搭載された組電池(バッテリ)の温度調節に関する技術として、例えば特許文献2には、車両走行用のエンジンの冷却水を熱源とする温水加熱手段を組電池に設けることにより、車載の組電池を素早く且つ充分に昇温可能にした、車載組電池の温度調節装置が開示されている。また、特許文献3には、エンジン又は電池の温度制御に用いられる温度制御装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−103245号公報
【特許文献2】特開2009−73430号公報
【特許文献3】特開平9−130917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術によれば、硫黄化合物を含む無機固体電解質を用い、電池セルの外周部を硫化水素ガスをトラップし無毒化する物質(以下において、「無毒化物質」という。)で覆うため、安全性を向上させることが可能になると考えられる。しかしながら、特許文献1では、硫化水素ガスの発生自体を抑制する対策が講じられていないため、安全対策が不十分であるという問題があった。かかる問題は、特許文献1〜特許文献3に開示されている技術を単に組み合わせたとしても、解決することが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、安全性を向上させることが可能な固体電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明は、固体の硫化物を含有する固体電解質層と、該固体電解質層を狭持する一対の正極層及び負極層と、を備えた固体電池を収容する筐体と、固体電池を冷却可能な第1温度調整手段及び第2温度調整手段と、筐体の内側の温度を検出可能な温度検出手段と、該温度検出手段による温度検出結果に基づいて固体電池の温度を制御する制御手段と、を具備し、筐体の内側の温度がT1以下になるように、第1温度調整手段を用いて固体電池が冷却され、筐体の内側の温度がT1よりも高温であるT2を超えた場合に、第1温度調整手段よりも冷却性能が高い第2温度調整手段を用いて固体電池が冷却されることを特徴とする、固体電池システムである。
【0009】
ここに、「第1温度調整手段」は、筐体に収容されている固体電池を冷却可能であれば、その形態は特に限定されるものではない。例えば、本発明の固体電池システムがハイブリッド自動車に搭載された場合には、車両の車室外又は車室内の空気を筐体内へと流入させる吸気ダクトを第1温度調整手段として用いることができる。また、「第2温度調整手段」は、筐体に収容されている固体電池を冷却可能であり、且つ、第1温度調整手段よりも冷却性能が高ければ、その形態は特に限定されるものではない。例えば、本発明の固体電池システムがハイブリッド自動車に搭載された場合には、エアコンディショナー等の車両冷却装置を第2温度調整手段として用いることができる。
【0010】
また、上記本発明において、さらに、筐体の内側の温度がT1よりも低温であるT3以下の場合に固体電池を加温可能な、第3温度調整手段が備えられることが好ましい。
【0011】
ここに、「第3温度調整手段」は、筐体に収容されている固体電池を加温可能であれば、その形態は特に限定されるものではない。例えば、本発明の固体電池システムがハイブリッド自動車に搭載された場合には、エンジンルームの空気を筐体へと流入させる手段を第3温度調整手段として用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の固体電池システムでは、温度がT1以下になるように第1温度調整手段を用いて固体電池が冷却され、温度がT2を超えた場合には第1温度調整手段よりも冷却性能が高い第2温度調整手段を用いて固体電池が冷却される。そのため、固体電池の過度の温度上昇を抑制することが可能になる。ここで、本発明の固体電池システムでは、固体の硫化物(以下において、「硫化物無機固体電解質」ということがある。)が用いられているので、高温環境(例えば、150℃程度の環境。以下において同じ。)下で固体の硫化物と水とが反応すると硫化水素ガスが発生しやすい。ところが、本発明の固体電池システムでは、第1温度調整手段及び第2温度調整手段を用いて、筐体内が高温環境に曝されないように制御される。固体電池の過度の温度上昇を抑制することにより、多量の硫化水素ガスが発生し難い環境にすることが可能になり、硫化水素ガスの発生を抑制することにより、安全性を向上させることが可能になる。したがって、本発明によれば、安全性を向上させることが可能な、固体電池システムを提供することができる。
【0013】
また、本発明の固体電池システムにおいて、温度がT3以下の場合に固体電池を加温可能な第3温度調整手段が備えられることにより、固体電池の過度の温度低下を抑制することが可能になる。固体電池の過度の温度低下を抑制することにより、固体電池の出力低下を抑制することが可能になる。したがって、かかる形態とすることにより、上記効果に加えて、性能を向上させることが可能な、固体電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】固体電池システム10を説明する図である。
【図2】固体電池システム10の制御方法を説明する図である。
【図3】固体電池システム10に備えられる電池モジュールを説明する図である。
【図4】積層型の固体電池を示す断面図である。
【図5】捲回型の固体電池の構成要素を示す上面図である。
【図6】100℃における固体電池の充放電結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の固体電池システム10を説明する図であり、固体電池システム10がハイブリッド自動車に適用された場合の形態を簡略化して示している。図1に示すように、固体電池システム10は、固体電池を収容する筐体1と、車両の熱源と筐体1とを繋ぐダクト2と、車両の冷却源と筐体1とを繋ぐダクト3と、車内又は社外の空気を筐体1へと導くダクト4と、エンジン冷却水が流通する配管の周囲に存在する空気を筐体1へと導くダクト5と、筐体1へと接続されるダクト2、ダクト3、ダクト4、及び、ダクト5を切り替える切り替え手段6と、切り替え手段6の動作を制御することによって筐体1に収容された固体電池の温度制御形態を決定する制御装置7と、筐体1の内側の温度を検出する温度検出手段8と、外気の温度を検出する温度検出手段9と、を備えている。制御装置7は、切り替え手段6の動作制御を実行するCPU7aと、該CPU7aに対する記憶装置とが設けられている。CPU7aは、マイクロプロセッサユニット及びその動作に必要な各種周辺回路を組み合わせて構成され、CPU7aに対する記憶装置は、例えば、切り替え手段6の動作制御に必要なプログラムや各種データを記憶するROM7bと、CPU7aの作業領域として機能するRAM7c等を組み合わせて構成される。当該構成に加えて、さらに、CPU7aが、ROM7bに記憶されたソフトウエアと組み合わされることにより、固体電池システム10における制御装置7が機能する。温度検出手段8及び温度検出手段9によって検出された温度に関する情報(出力信号)は、制御装置7の入力ポート7dを介して、入力信号としてCPU7aへと到達する。CPU7aは、入力信号及びROM7bに記憶されたプログラムに基づいて、出力ポート7eを介して、切り替え手段6に対する動作指令を制御する。切り替え手段6は、CPU7aから与えられた動作指令に応じて、筐体1へと接続すべき温度調整手段(ダクト2、ダクト3、ダクト4、及び、ダクト5)を決定する。固体電池システム10において、筐体1には、ダクト2、ダクト3、ダクト4、及び、ダクト5から筐体1の内側へと導かれた空気を外へ排出可能な開口部(不図示)が備えられている。
【0017】
図2は、固体電池システム10の動作制御方法を説明するフローチャートである。固体電池システム10の動作は、温度検出手段8によって検出された筐体1の内側の温度(以下において、「温度T1」又は「T1」という。)、及び、温度検出手段9によって検出された外気の温度(以下において、「温度T2」又は「T2」という。)に基づいて制御される。以下、図1及び図2を参照しつつ、温度T1及び温度T2が検出された後の固体電池システム10の動作制御方法について、具体的に説明する。
【0018】
図2に示すように、固体電池システム10の動作制御方法では、まず、温度T1が温度x1(x1は25℃未満の任意の温度。例えば0℃。)よりも高温であるか否かが判断される(工程S1)。工程S1で肯定判断がなされた場合(x1<T1である場合)には、引き続き、温度T1が温度x2(x2は25℃<x2<150℃の任意の温度。例えば100℃。)よりも高温であるか否かが判断され(工程S2)、工程S1で否定判断がなされた場合(T1≦x1である場合)には、温度T1が温度T2よりも高温であるか否かが判断される(工程S16)。工程S2で否定判断がなされた場合(x1<T1≦x2である場合)には、かかる温度環境を維持するためにダクト5と筐体1とを接続すべく、CPU7aから切り替え手段6へ向けて動作指令が出力され(工程S11)、工程S2で肯定判断がなされた場合(x2<T1である場合)には、引き続き、温度T1が温度x3(x3は150℃<x3の任意の温度。例えば、250℃。)よりも高温であるか否かが判断される(工程S3)。
【0019】
工程S3で否定判断がなされた場合(x2<T1≦x3である場合)、x2<T1であるため、筐体1に収容された固体電池は高温になっている。そのため、固体電池が破損した場合に硫化水素ガスの生成が懸念される。そこで、ダクト4と筐体1とを接続し固体電池を冷却してその温度をx2以下へと低減することにより、多量の硫化水素ガスが生成され難い温度環境にすべく、CPU7aから切り替え手段6へ向けて動作指令が出力される(工程S12)。これに対し、工程S3で肯定判断がなされた場合(x3<T1である場合)には、筐体1に収容された固体電池の温度が過度に上昇しており、固体電池が破損すると多量の硫化水素ガスの生成されやすい温度環境になっていると考えられる。そのため、ダクト3と筐体1とを接続し固体電池を急冷してその温度をx2以下へと低減すべく、CPU7aから切り替え手段6へ向けて動作指令が出力される(工程S4)。
【0020】
工程S4によりダクト3と筐体1とが接続されたら、筐体1の内側の温度がどの程度低下したかを確認すべく、温度検出手段8によって筐体1の内側の温度T1が検出され(工程S5)、温度T1がx3以下に低下したか否かが判断される(工程S6)。工程S6で肯定判断がなされた場合(x3<T1である場合)には、固体電池の温度が充分に低下していないと考えられるので、処理が工程S4へと戻され、ダクト3と筐体1との接続が継続される。これに対し、工程S6で否定判断がなされた場合(x2<T1≦x3である場合)には、固体電池の温度が過度に上昇している事態は解消されたと考えられる。かかる場合には、固体電池の急冷を継続する必要性は低下したと考えられるものの、x2<T1であり、依然として硫化水素ガスの発生が懸念される温度環境であるため、固体電池の冷却は継続する必要があると考えられる。そこで、工程S6で否定判断がなされた場合には、ダクト3と筐体1との接続に代えて、ダクト3よりも冷却性能が低いダクト4と筐体1とを接続させるように切り替えるべく、CPU7aから切り替え手段6へ向けて動作指令が出力される(工程S7)。
【0021】
工程S7によりダクト4と筐体1とが接続されたら、筐体1の内側の温度がどの程度低下したかを確認すべく、温度検出手段8によって筐体1の内側の温度T1が再び検出され(工程S8)、温度T1がx2よりも高温であるか否かが判断される(工程S9)。工程S9で肯定判断がなされた場合(x2<T1≦x3である場合)には、依然として硫化水素ガスの発生が懸念される温度環境であるため、処理がS7へと戻され、ダクト4と筐体1との接続が継続される。これに対し、工程S9で否定判断がなされた場合(x1<T1≦x2である場合)には、硫化水素ガスが多量に発生することはない温度にまで筐体1の内側の温度が低下したと考えられるので、かかる温度環境を維持するために、ダクト4と筐体1との接続に代えて、ダクト5と筐体1とを接続させるように切り替えるべく、CPU7aから切り替え手段6へ向けて動作指令が出力される(工程S10)。
【0022】
一方、上記工程S3で否定判断がなされ、上記工程S12によりダクト4と筐体1とが接続されたら、筐体1の内側の温度がどの程度低下したかを確認すべく、温度検出手段8によって筐体1の内側の温度T1が再び検出され(工程S13)、温度T1がx2よりも高温であるか否かが判断される(工程S14)。工程S14で肯定判断がなされた場合(x2<T1≦x3である場合)には、依然として硫化水素ガスの発生が懸念される温度環境であるため、処理が工程S12へと戻され、ダクト4と筐体1との接続が継続される。これに対し、工程S14で否定判断がなされた場合(x1<T1≦x2である場合)には、硫化水素ガスが多量に発生することはない温度にまで筐体1の内側の温度が低下したと考えられるので、かかる温度環境を維持するために、ダクト4と筐体1との接続に代えて、ダクト5と筐体1とを接続させるように切り替えるべく、CPU7aから切り替え手段6へ向けて動作指令が出力される(工程S15)。
【0023】
このように、硫化水素ガスの発生が懸念されるx2<T1≦x3の場合にはダクト3よりも冷却性能が低いダクト4と筐体1とを接続して固体電池の温度がx2以下となるように固体電池を冷却し、硫化水素ガスの発生がより一層懸念されるx3<T1の場合には冷却性能の高いダクト3と筐体1とを接続して固体電池の温度がx3以下となるように固体電池を急冷することにより、固体電池が、硫化水素ガスの発生が懸念される温度環境に長時間に亘って曝される事態を防止することが可能になる。したがって、ダクト3、ダクト4、切り替え手段6、制御装置7、及び、温度検出手段8を備える固体電池システム10によれば、筐体1に収容された固体電池が、硫化水素ガスの発生が懸念される高温環境に曝される事態を抑制することができるので、安全性を向上させることが可能になる。また、固体電池システム10をこのように制御することにより、固体電池システム10の安全性を向上させることが可能になる。
【0024】
他方、上記工程S1で否定判断がなされた場合(T1≦x1である場合)には、筐体1の内側の温度T1が低温(x1=0℃である場合には零度以下の温度)であるため、硫化水素ガスの発生はそれほど懸念されない。しかしながら、固体電池は温度が低下すると出力が低下しやすい。そこで、固体電池の出力低下を抑制すべく、工程S1で否定判断がなされた場合には、ダクト2と筐体1とを接続することにより、固体電池を加温する。以下、T1≦x1である場合における固体電池システム10の制御方法について説明する。
【0025】
上記工程S1で否定判断がなされたら、引き続き、温度T1が温度T2よりも高温であるか否かが判断される(工程S16)。工程S16で肯定判断がなされた場合(T2<T1≦x1である場合)には、筐体1に収容された固体電池を加温するためにダクト2及びダクト5と筐体1とを接続すべく、CPU7aから切り替え手段6へ向けて動作指令が出力される(工程S17)。ここで、工程S17でダクト2及びダクト5と筐体1とを接続するのは、電池を加温し出力を向上させるためである。これに対し、工程S16で否定判断がなされた場合(T1≦T2である場合)には、筐体1に収容された固体電池を加温するためにダクト2、ダクト4、及び、ダクト5と筐体1とを接続すべく、CPU7aから切り替え手段6へ向けて動作指令が出力される(工程S21)。ここで、上記工程S17とは異なり、工程S21でダクト2、ダクト4、及び、ダクト5と筐体1とを接続するのは、外気温が電池温よりも高く、ダクト4による加温が有効だからである。
【0026】
工程S17によりダクト2及びダクト5と筐体1とが接続されたら、筐体1の内側の温度がどの程度上昇したかを確認すべく、温度検出手段8によって筐体1の内側の温度T1が検出され(工程S18)、温度T1が温度x1よりも高温になったか否かが判断される(工程S19)。工程S19で否定判断がなされた場合(T2<T1≦x1である場合)には、固体電池の加温が充分ではないと考えられるため、処理が工程S17へと戻され、ダクト2及びダクト5と筐体1との接続が継続される。これに対し、工程S19で肯定判断がなされた場合(x1<T1である場合)には、性能の低下が懸念されない程度に固体電池が加温されたと考えられるので、かかる温度環境を維持するために、ダクト2及びダクト5と筐体1との接続に代えて、ダクト5と筐体1とを接続させるように切り替えるべく、CPU7aから切り替え手段6へ向けて動作指令が出力される(工程S20)。
【0027】
一方、上記工程S16で否定判断がなされ、上記工程S21でダクト2、ダクト4、及び、ダクト5と筐体1とが接続されたら、筐体1の内側の温度がどの程度上昇したかを確認すべく、温度検出手段8によって筐体1の内側の温度T1が検出され(工程S22)、温度T1が温度T2よりも高温になったか否かが判断される(工程S23)。工程S23で否定判断がなされた場合(T1≦T2である場合)には、上記工程S16で否定判断がなされた時と状況があまり変わっていないと考えられるので、処理が工程S21へと戻され、ダクト2、ダクト4、及び、ダクト5と筐体1との接続が継続される。これに対し、工程S23で肯定判断がなされた場合(T2<T1≦x1である場合)には、外気を用いて電池を加温することができず、電池を逆に冷却してしまうため、ダクト2、ダクト4、及び、ダクト5と筐体1との接続に代えて、ダクト2及びダクト5と筐体1とを接続させるように切り替えるべく、CPU7aから切り替え手段6へ向けて動作指令が出力される(工程S24)。
【0028】
工程S24によりダクト2及びダクト5と筐体1とが接続されたら、筐体1の内側の温度がどの程度上昇したかを確認すべく、温度検出手段8によって筐体1の内側の温度T1が検出され(工程S25)、温度T1が温度x1よりも高温になったか否かが判断される(工程S26)。工程S26で否定判断がなされた場合(T2<T1≦x1である場合)には、上記工程S23で肯定判断がなされた時と状況があまり変わっていないと考えられるので、処理が工程S24へと戻され、ダクト2及びダクト5と筐体1との接続が継続される。これに対し、工程S26で肯定判断がなされた場合(x1<T1である場合)には、性能の低下が懸念されない程度に固体電池が加温されたと考えられるので、かかる温度環境を維持するために、ダクト2及びダクト5と筐体1との接続に代えて、ダクト5と筐体1とを接続させるように切り替えるべく、CPU7aから切り替え手段6へ向けて動作指令が出力される(工程S27)。
【0029】
このように、性能の低下が懸念されるT1≦x1の場合には、ダクト2と筐体1とを接続して固体電池の温度がx1よりも高温となるように固体電池を加温することにより、固体電池が、性能の低下が懸念される温度環境に曝される事態を抑制することができる。したがって、ダクト2、切り替え手段6、制御装置7、温度検出手段8、及び、温度検出手段9を備える固体電池システム10によれば、筐体1に収容された固体電池が、性能の低下が懸念される低温環境に曝される事態を抑制することができるので、性能を向上させることが可能になる。また、固体電池システム10をこのように制御することにより、固体電池システム10の性能を向上させることが可能になる。
【0030】
加えて、固体電池システム10によれば、固体電池の温度変化を低減することが可能になるので、界面抵抗を低減する等の目的で固体電池へと付与される拘束圧の変化を抑制することが可能になる。さらに、無毒化物質の使用を必須の構成としない本発明の固体電池システムによれば、単位容量・質量当たりのエネルギー密度を向上させること及び車両搭載性を向上させることが可能になるほか、製造コストを抑制することも可能になる。
【0031】
図3は、筐体1に収容される電池モジュールの形態例を説明する図である。図3に示すように、筐体1には、複数の電池モジュール20、20、…が収容されており、これら複数の電池モジュール20、20、…は要求される出力を得られるように、適宜、電気的に直列・並列に接続されている。電池モジュール20には複数の固体電池が収容されており、当該複数の固体電池が採り得る形態に、積層型及び捲回型がある。そこで、積層型の固体電池の形態例を図4に、捲回型の固体電池の形態例を図5にそれぞれ示す。
【0032】
図4は、複数の固体電池31、31、31を積層することによって構成される積層型の固体電池(以下において、「積層型固体電池30」という。)の形態例を示す断面図である。積層型固体電池30の構成の理解を容易にするため、図4では、3つの固体電池31、31、31を積層することによって構成した積層型固体電池30を示している。図4に示すように、積層型固体電池30では、固体電池31、31、31と集電箔32、32、32、32とが交互に積層されており、積層方向の一端側に配設されている集電箔32に負極端子33が、積層方向の他端側に配設されている集電箔32に正極端子34が、それぞれ接続されている。すなわち、積層型固体電池30では、固体電池31、31、31が電気的に直列に接続されている。積層型固体電池30において、集電箔32に接続される固体電池31は、正極層31aと、硫化物無機固体電解質を含有する電解質層31bと、負極層31cとを有しており、電解質層31bが正極層31a及び負極層31cによって狭持されている。
【0033】
図5は、捲回型の固体電池(以下において、「捲回型固体電池40」という。)の形態例を示す断面図である。捲回型固体電池40の構成の理解を容易にするため、図5では、捲回型固体電池40の一部を抽出し、捲回される前の各層の位置を上下にずらして示している。また、図5では、一部符号の記載を省略している。図5に示すように、捲回型固体電池40は、複数の固体電池41、41、…を備えており、隣接する固体電池41、41が集電箔42を介して接続されることにより、複数の固体電池41、41、…が電気的に直列に接続されている。捲回型固体電池40において、集電箔42に接続される固体電池41は、正極層41aと、硫化物無機固体電解質を含有する電解質層41bと、負極層41cとを有しており、電解質層41bが正極層41a及び負極層41cによって狭持されている。
【0034】
固体電池システム10において、電解質層31b、41bは、例えば、LiS:P=50:50〜100:0(質量比)でLiS及びP(以下において、「LiS−P」という。)を混合し、10MPa〜500MPaの圧力でプレスすることにより作製することができる。
【0035】
また、固体電池システム10において、正極層31a、41aは、例えば、正極材と電解質層31b、41bに含有させたLiS−Pとを混合し、98MPaの圧力でプレスすることにより作製することができる。正極層31a、41aに含有させる正極材としては、リチウム遷移金属酸化物及びカルコゲン化物を例示することができる。正極層31a、41aに含有させるリチウム遷移金属酸化物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、鉄オリビン(LiFePO)、コバルトオリビン(LiCoPO)、マンガンオリビン(LiMnPO)、及び、チタン酸リチウム(LiTi12)等を例示することができる。また、正極層31a、41aに含有させるカルコゲン化物としては、銅シュブレル(CuMo)、硫化鉄(FeS)、及び、硫化コバルト(CoS)、及び、硫化ニッケル(NiS)等を例示することができる。
【0036】
また、固体電池システム10において、負極層31c、41cは、例えば、負極材と電解質層31b、41bに含有させたLiS−Pとを混合し、392MPaの圧力でプレスすることにより作製することができる。負極層31c、41cに含有させる負極材としては、カーボン、リチウム遷移金属酸化物、及び、合金を例示することができる。負極層31c、41cに含有させるリチウム遷移金属酸化物としては、チタン酸リチウム(LiTi12)を例示することができる。また、負極層31c、41cに含有させる合金としては、LaNiSnを例示することができる。
【0037】
また、固体電池システム10において、集電箔32、42は、固体電池で使用可能な公知の導電性材料によって構成することができる。
【0038】
筐体1に積層型固体電池30が収容される場合、この積層型固体電池30は、上記材料・方法によって作製した正極層31a、電解質層31b、及び、負極層31cをこの順で積層することにより構成される固体電池31と集電箔32とを交互に積層した後、プレス機を用いて98MPa〜490MPaの圧力でプレスする工程を経て作製することができる。
【0039】
また、筐体1に捲回型固体電池40が収容される場合、この捲回型固体電池40は、上記材料・方法によって作製した電解質層41b、正極層41a、電解質層41b、及び、負極層41cをこの順で(又は、電解質層41b、負極層41c、電解質層41b、及び、正極層41aをこの順で)積層することにより構成される複数の固体電池41、41、…を、集電箔42を介して直列に接続することによって形成した構造体を、公知の捲回機を用いて捲回した後、プレス機を用いて98MPa〜490MPaの圧力でプレスする工程を経て作製することができる。
【0040】
上記工程を経て作製した固体電池システム10を、上記動作制御方法によって制御することにより、筐体1に収容されている固体電池の温度を、電解質層に電解液が充填されるリチウムイオン二次電池と比較して高温域である100℃前後に制御した。100℃における固体電池の充放電結果を図6に示す。図6の縦軸は電圧[V]、横軸は比容量[mAh/g]である。図6に示すように、100℃で充放電することにより、良好な性能を発現させることができた。したがって、上記動作制御方法によって動作を制御することにより、固体電池システム10の安全性及び性能を向上させることが可能であった。
【0041】
本発明に関する上記説明では、温度x1として0℃を例示したが、本発明は温度x1が0℃である形態に限定されるものではない。温度x1は、固体電池の出力の観点から決定される温度であり、x1<25℃の任意の温度とすることが可能である。
【0042】
また、本発明に関する上記説明では、温度x2として100℃を例示したが、本発明は温度x2が100℃である形態に限定されるものではない。温度x2は、固体電池の劣化の観点から決定される温度であり、25℃<x2<150℃の任意の温度とすることが可能である。
【0043】
また、本発明に関する上記説明では、温度x3として250℃を例示したが、本発明は温度x3が250℃である形態に限定されるものではない。温度x3は、固体電池の硫化水素発生量の観点から決定される温度であり、150℃<x3の任意の温度とすることが可能である。
【0044】
また、本発明に関する上記説明では、第1温度調整手段として機能し得るダクト4、及び、第2温度調整手段として機能し得るダクト3に加えて、第3温度調整手段として機能し得るダクト2が備えられる固体電池システム10を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。ただし、低温環境に曝されることによる固体電池の性能低下を抑制可能な形態にする等の観点からは、第3温度調整手段が備えられる形態の固体電池システムとすることが好ましい。
【0045】
また、本発明において、切り替え手段6は、筐体1へと接続されるべき温度調整手段(ダクト2、ダクト3、ダクト4、及び、ダクト5)を切り替え可能であれば、その形態は特に限定されるものではなく、ハイブリッド自動車等で用いられる公知の切り替え手段を適宜用いることができる。
【0046】
また、本発明において、制御装置7は、温度検出手段8及び温度検出手段9によって検出された温度の結果に基づいて切り替え手段6の動作を制御可能であれば、その形態は特に限定されるものではなく、ハイブリッド自動車等で用いられる公知の制御装置を適宜用いることができる。
【0047】
また、本発明において、温度検出手段8及び温度検出手段9は、温度を検出してその結果を制御装置7へと出力可能であれば、その形態は特に限定されるものではなく、公知の温度センサー等を適宜用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の固体電池システムは、電気自動車やハイブリッド自動車用等に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…筐体
2…ダクト(第3温度調整手段)
3…ダクト(第2温度調整手段)
4…ダクト(第1温度調整手段)
5…ダクト
6…切り替え手段
7…制御装置(制御手段)
7a…CPU
7b…ROM
7c…RAM
7d…入力ポート
7e…出力ポート
8…温度検出手段
9…温度検出手段
10…固体電池システム
20…電池モジュール
30…積層型固体電池
31、41…固体電池
31a、41a…正極層
31b、41b…電解質層(固体電解質層)
31c、41c…負極層
32、42…集電箔
40…捲回型固体電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体の硫化物を含有する固体電解質層と、該固体電解質層を狭持する一対の正極層及び負極層と、を備えた固体電池を収容する筐体と、前記固体電池を冷却可能な第1温度調整手段及び第2温度調整手段と、前記筐体の内側の温度を検出可能な温度検出手段と、該温度検出手段による温度検出結果に基づいて前記固体電池の温度を制御する制御手段と、を具備し、
前記筐体の内側の温度がT1以下になるように、前記第1温度調整手段を用いて前記固体電池が冷却され、
前記筐体の内側の温度が前記T1よりも高温であるT2を超えた場合に、前記第1温度調整手段よりも冷却性能が高い前記第2温度調整手段を用いて前記固体電池が冷却されることを特徴とする、固体電池システム。
【請求項2】
さらに、前記筐体の内側の温度が前記T1よりも低温であるT3以下の場合に前記固体電池を加温可能な、第3温度調整手段が備えられることを特徴とする、請求項1に記載の固体電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−100622(P2011−100622A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254521(P2009−254521)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】