説明

固体電解質、固体電解質の製造方法、電極膜接合体および燃料電池

【課題】高いイオン伝導性能、低いメタノール透過性を有する固体電解質を提供する。
【解決手段】主鎖が炭素-炭素結合からなり、酸残基を含む基がカルボニル基を介して主鎖に結合しており、炭素−酸素結合および炭素−炭素結合を含む架橋構造を含み、イオン伝導度が3x10-3S/cm以上であり、メタノール透過係数が7x10-7cm2/s以下である、固体電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質、特にプロトン伝導能を持つ固体電解質膜、アルコール類を燃料とする燃料電池用電極膜接合体、燃料電池、固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器等の電源として利用できるリチウムイオン電池、燃料電池等が活発に研究されており、その部材であるリチウムイオン伝導材料、プロトン伝導材料といった固体電解質についても活発な研究が行われている。
【0003】
携帯機器電源は同一出力であれば小型であることが極めて好ましい。中でもダイレクトメタノール型燃料電池は、改質型燃料電池における改質機、水素燃料の燃料電池における高圧水素タンク等の補機が不要なため、小型化が容易であり、さらに、リチウムイオン電池を上回る小型化の可能性があることから、活発に検討されている。
従来から、プロトン伝導材料として、ナフィオン(登録商標)に代表されるスルホン酸基含有パーフルオロカーボン重合体が用いられている。ナフィオンは、イオン伝導度は高いものの、メタノールのような高極性有機溶媒も透過させるため、ダイレクトメタノール型燃料電池では低出力となってしまう。また、メタノールの透過を抑制するため、燃料として数%程度の低い濃度のメタノール水溶液しか使用することができず、単位重量あるいは単位体積当たりのエネルギー密度が低くなってしまい、小型携帯機器用途に適用できないなどの課題があった。さらに、電極膜接合体の作製についても、容易ではなく、容易に作製できるものが求められている。
【0004】
一方、特許文献1には、ポリスチレンおよびポリアクリル酸誘導体からなり、強酸性基、配向基を含む固体電解質が記載されている。しかしながら、該固体電解質は、イオン伝導性、メタノール透過性については、殆ど開示されていない。また、主鎖の重合と架橋重合が同時に起こるため、製膜製を付与するために架橋密度を充分に高めることは困難であり、さらに製膜製付与に由来する形態自由度を有することからメタノール透過を充分に抑止することは困難である。
【0005】
【特許文献1】特開2000−119420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであって、高いイオン伝導性能、低いメタノール透過性を有する固体電解質を提供することである。さらにこのような固体電解質を用いた電極膜接合体(特に、燃料電池用膜電極接合体)、および燃料電池(特にアルコール系燃料電池)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
具体的には、本発明の目的は下記の構成により達成される。
(1)酸残基を含む基がカルボニル基を介して炭素-炭素結合からなる主鎖に結合しており、且つ炭素−酸素結合および炭素−炭素結合を含む架橋構造を含む、固体電解質。
(1−2)前記酸残基がアルケニル基を含む基を介して主鎖に結合している、(1)に記載の固体電解質。
(2)下記一般式(1−1)で表される繰り返し単位および一般式(1−2)で表される繰り返し単位を、それぞれ、10以上含む、固体電解質。
一般式(1−1)
【化1】

(一般式(1−1)中、R11は、水素原子またはアルキル基を表し、R12は、2価の連結基を表し、R13は、酸残基を表す。)
一般式(1−2)
【化2】

(一般式(1−2)中、R14は、水素原子またはアルキル基を表し、R15は、2価の連結基を表し、R16は、3価の飽和炭化水素基を表す。)
(2−2)前記一般式(1−1)中、R12は、アルケニル基を含む2価の連結基を表す、(2)に記載の固体電解質。
(2−3)前記一般式(1−2)中、R15は、アルケニル基を含む2価の連結基を表す、(2)に記載の固体電解質。
(3)メソゲン基を含む、(1)または(2)に記載の固体電解質。
(4)前記酸残基がスルホ基である、(1)〜(3)のいずれかに記載の固体電解質。
(5)膜状である、(1)〜(4)のいずれかに記載の固体電解質。
(6)下記一般式(2)で表される化合物および一般式(3)で表される化合物を重合する工程を含む、(1)〜(5)のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
一般式(2)
【化3】

(一般式(2)中、R21は、水素原子またはアルキル基を表し、R22は、2価の連結基を表し、R23は、酸残基に誘導できる基を表す。)
一般式(3)
【化4】

(一般式(3)中、R31は、水素原子またはアルキル基を表し、R32は、2価の連結基を表し、R33は、炭素−酸素結合を形成できる重合性基またはその前駆体である基を表す。)
(7)膜状で、架橋反応を進行させる、(6)に記載の固体電解質の製造方法。
(8)(1)〜(5)のいずれかに記載の固体電解質を有する、電極膜接合体。
(8−1)対向する一対の電極と、該電極間に狭持された(5)に記載の固体電解質を有する、電極膜接合体。
(9)(8)に記載の電極膜接合体を有する燃料電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明の固体電解質は、高いイオン伝導性能、低いメタノール透過性を両立することができ、さらに電極膜接合体が容易に作製でき、アルコール系燃料を使用した場合にも経時電圧降下が小さい燃料電池の作製が可能になった。特に、一般式(1−1)および(1−2)で表される繰り返し単位を含む固体電解質を採用することにより、固体電解質膜の結合強度が増強されることとなった。その結果、メタノールの透過(拡散)を効果的に抑制でき、燃料電池での経時電圧降下を抑制することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明の固体電解質はイオン交換体、イオン伝導体を含む趣旨である。
また、本発明でいう「重合」には、1種類のモノマーからなる重合のほか、2種類以上のモノマーからなるいわゆる共重合も含む趣旨である。
【0010】
以下、本発明の固体電解質について詳細に説明する。
本発明の固体電解質は、本発明の固体電解質は、酸残基を含む基がカルボニル基を介して炭素-炭素結合からなる主鎖に結合しており、且つ炭素−酸素結合および炭素−炭素結合を含む架橋構造を含む。
本発明の固体電解質は、ランダム重合体、ブロック重合体、グラフト重合体のいずれであってもよいが、ランダム重合体であることが好ましい。
上記炭素-炭素結合からなる主鎖は無置換のメチレン基を含むものが好ましく、無置換のメチレン基と、カルボニル基を介して酸残基を含む基が結合したメチレン基の両方のメチレン基を含むものがさらに好ましく、ポリアクリル酸誘導体であることが特に好ましい。
本発明の主鎖を形成するポリアクリル酸誘導体は、ポリアクリル酸エステルおよび/またはポリアクリル酸アミドが好ましく、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミドがより好ましく、ポリアクリレート、ポリメタクリレートがさらに好ましい。ポリアクリル酸エステルおよび/またはポリアクリル酸アミドは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、置換基を有していてもよい。置換基としては、後述する置換基群Tが挙げられる。
本発明の固体電解質に含まれる酸残基は、pKaが5以下の酸残基が好ましく、pkaが2以下の酸残基がさらに好ましい。具体的には、スルホン酸残基(スルホ基)、ホスホン酸残基、カルボン酸残基が好ましく、スルホン酸残基がより好ましい。
本発明では、酸残基を含む基が共有結合によって主鎖に結合しており、好ましくは、酸残基が、連結基を介して、主鎖に共有結合しているものである。この酸残基と主鎖の間を結合する連結基は、総炭素数1〜40の基が好ましく、総炭素数1〜20の基がより好ましい。この連結基は、主鎖側に近い部分にアクリル酸誘導体に由来する−COO−、−CONH−を有するものが好ましい。また、この連結基は、酸残基に近い側の部分に、芳香族基および/または脂肪族基を有することが好ましく、脂肪族基を有することがより好ましく、アルキレン基がさらに好ましい。より具体的には、連結基は、メソゲン基または、メソゲン基とアルキレン基とからなる基が好ましい。ここで、メソゲン基としては、後述するメソゲン基が好ましく、アルキレン基は、直鎖であることが好ましく、直鎖かつ炭素数2〜8のものがさらに好ましい。
連結基はさらに置換基を有していてもよく、この場合の置換基としては、例えば、後述する置換基群Tが挙げられる。
炭素−酸素結合および炭素−炭素結合を含む架橋構造は、炭素−酸素結合および炭素−炭素結合のみから架橋構造がより好ましく、ポリエーテル鎖を形成するものがさらに好ましい。
【0011】
本発明の固体電解質は、上記酸残基と主鎖の間を結合する連結基として、また、他の部分において、メソゲン基を含むことが好ましい。好ましいメソゲン基としては、Dietrich Demusおよび Horst Zaschkeによる 「Flussige Kristalle in Tabellen II」, 1984年, p.7−18に記載されているものが挙げられる。中でも、下記一般式(4)で表されるものが好ましい。
【0012】
一般式(4)
【化5】

【0013】
一般式(4)中、R41およびR43は、それぞれ、2価の連結基または単結合を表す。2価の連結基としては、−CH=CH−、−CH=N−、−N=N−、−N(O)=N−、−COO−、−COS−、−CONH−、−COCH2−、−CH2CH2−、−OCH2−、−CH2NH−、−CH2−、−CO−、−O−、−S−、−NH−、−(CH213−、−CH=CH−COO−、−CH=CH−CO−および−(C≡C)13−、ならびに、これらの組合せが好ましく、−NH−、−CH2−、−CO−、−O−、−CH=CH−、−CH=N−および−N=N−、ならびに、これらの組合せがより好ましい。これらの2価の連結基は水素原子が他の置換基で置換された基であってもよい。この場合の置換基としては、例えば、後述する置換基群Tが挙げられる。
【0014】
42は2価の4〜7員環基、またはそれらから構成される縮合環基を表し、6員環の芳香族基、4〜6員環の飽和若しくは不飽和脂肪族基、5若しくは6員環の複素環基、またはそれらの縮合環基である。R42としては、以下に示す(Y−1)〜(Y−28)で表される基、およびこれらの組合せ(縮環したものを含む)が好ましい例として挙げられる。これらの置換基の中でより好ましくは(Y−1)、(Y−2)、(Y−19)、(Y−25)ならびに、これらの組み合わせであり(縮環したものを含む)、さらに好ましくは(Y−1)、(Y−2)および(Y−19)ならびに、これらの組み合わせ(縮環したものを含む)である。
【0015】
【化6】

【0016】
n4は1〜3の整数を表し、1または2がより好ましい。
【0017】
本発明の固体電解質は、一般式(1−1)で表される繰り返し単位および一般式(1−2)で表される繰り返し単位を、それぞれ、10以上含むものが好ましい。ここで、本発明の固体電解質は、一般式(1−1)で表される繰り返し単位に相当する繰り返し単位を10以上含んでいればよく、それぞれの繰り返し単位が同一であることは、必須の要件ではない。一般式(1−2)で表される繰り返し単位についても同様である。
一般式(1−1)中、R11は、水素原子またはアルキル基を表し、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基またはブチル基がより好ましく、水素原子またはメチル基がさらに好ましい。さらに、R11は、後述するR14と同一であることが好ましい。
12は、2価の連結基を表し、上記酸残基と主鎖との間の連結基として説明したものが好ましく、好ましい範囲も同義である。R12は、後述するR15と異なっているものが好ましい。
13は、酸残基を表し、上記酸残基として説明したものが好ましい例として挙げられる。
【0018】
一般式(1−2)中、R14は、水素原子またはアルキル基を表し、R11と同義であり、好ましい範囲も同義である。
15は、2価の連結基を表し、R12と同義であって、好ましい範囲も同義である。
16は、3価の飽和炭化水素基を表し、総炭素数2〜18のものが好ましく、3〜12のものがより好ましい。3価の飽和炭化水素基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、分岐鎖であるものが好ましい。
本発明の固体電解質に含まれる重合体は、一般式(1−1)で表される繰り返し単位と、一般式(1−2)で表される繰り返し単位の重合度を、それぞれ、m、nとすると、m、nのいずれも10以上の整数となることが好ましく、20以上となることがさらに好ましく、30以上となることがさらに好ましい。本発明の固体電解質は架橋により主鎖が結合しているため、m、nの上限は特に定められない。m/nの比率は10/1〜1/10が好ましく、5/1〜1/5がより好ましい。
【0019】
本発明の固体電解質は膜状であることが好ましく、その厚さは10〜400μmが好ましく、25〜300μmがより好ましく、50〜200μmがさらに好ましい。尚、本発明でいう膜状には、平板状等も含む趣旨である。
【0020】
本発明の固体電解質は、後述する一般式(2)で表される化合物および一般式(3)で表される化合物を重合し、架橋して得られるものが特に好ましい。
以下に、一般式(2)で表される化合物および一般式(3)で表される化合物について説明する。
【0021】
一般式(2)中、R21は、水素原子またはアルキル基を表し、一般式(1−1)におけるR11と同義であり、好ましい範囲も同義である。
22は、2価の連結基を表し、一般式(1−1)におけるR12と同義であり、好ましい範囲も同義である。
23は、酸残基に誘導できる基を表す。好ましくは、スルホン酸残基、ホスホン酸残基またはカルボン酸残基に誘導できる基であり、特にスルホン酸残基に誘導できる基が好ましい。R23は塩である場合がさらに好ましく、そのアニオン成分は前記酸残基のアニオン成分と同義でありその好ましい例も同様である。塩のカチオン成分はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、遷移金属イオンが好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、銀イオン、タリウムイオンが特に好ましい。従って、R23はスルホン酸ナトリウム、スルホン酸リチウム、スルホン酸リチウム、スルホン酸銀、スルホン酸タリウムが特に好ましい。
【0022】
一般式(3)中、R31は、水素原子またはアルキル基を表し、一般式(1−2)におけるR14と同義であり、好ましい範囲も同義である。
32は、2価の連結基を表し、一般式(1−2)におけるR15と同義であり、好ましい範囲も同義である。
33は、炭素−酸素結合を形成できる重合性基またはその前駆体である基を表し、重合性基の前駆体である基であるものが好ましい。重合性基である場合、開環重合できる基または水酸基であることが好ましく、水酸基がより好ましい。開環重合できる基である場合、環状エーテルであることがさらに好ましく、エポキシ構造を有する基がより好ましく、オキシラニル基、オキセタニル基、オキソラニル基がさらに好ましい。これらの置換基はさらに置換基(好ましくはメチル基、エチル基)を有していてもよい。重合性基の前駆体である基の場合、酸化、加水分解、還元、置換、付加、脱離等の反応によって重合性基に誘導できるものが好ましい。この中でも、反応による副生成物の除去が容易なものが実用的に好ましく、酸化反応または加水分解反応によって重合性基に誘導できるものがより好ましく、加水分解できるものがさらに好ましい。加水分解後は水酸基に変換されるものが好ましく、水酸基の数は1〜4が好ましく、2〜3がさらに好ましい。従って、加水分解されるR33の構造にはエーテル性酸素原子を複数持つ炭素原子が含まれるものが好ましい。
33としてはケタール、アセタールを含む環状構造を持つものがさらに好ましく、1,3−ジオキサン、1,3−ジオキソランが特に好ましい。これらの置換基はさらに置換基(好ましくはメチル基、エチル基)を有していてもよい。
【0023】
一般式(2)で表される化合物および一般式(3)で表される化合物は、それぞれ、総炭素数が、3〜50のものが好ましく、4〜40のものがより好ましく、5〜30のものがさらに好ましい。
【0024】
以下に、一般式(2)で表される化合物を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
【化7】

【0026】
以下に、一般式(3)で表される化合物を例示するが、本発明はこれらに限定されない。
【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
本発明の固体電解質は、一般式(2)で表される化合物および一般式(3)で表される化合物の他、他の化合物を含んで重合してもよい。このような化合物としては、スチレン類(スチレン、クロロスチレン、アセトキシスチレン、ブロモスチレン、ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、メチルスチレン、メトキシスチレン、オクチルスチレン)、アクリレート類(メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートエチレングリコールジアクリレート)、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリルが好ましい例として挙げられる。
【0030】
以下に置換基群Tの例を挙げる。
置換基群T
1.アルキル基
アルキル基は置換基を有していてもよく、より好ましくは炭素数1〜24、さらに好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、i−プロピル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、tert−オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、2−ヘキシルデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシルメチル基、オクチルシクロヘキシル基等である。
【0031】
2.アリール基
アリール基は置換基を有していても縮環していてもよく、より好ましくは炭素数6〜24のアリール基であり、例えばフェニル基、4−メチルフェニル基、3−シアノフェニル基、2−クロロフェニル基、2−ナフチル基等である。
【0032】
3.複素環基
複素環基は置換基を有していても縮環していてもよく、含窒素複素環基のときは環中の窒素が4級化していてもよい。より好ましくは炭素数2〜24の複素環基であり、例えば4−ピリジル基、2−ピリジル基、1−オクチルピリジニウム−4−イル基、2−ピリミジル基、2−イミダゾリル基、2−チアゾリル基等である。
【0033】
4.アルコキシ基
より好ましくは炭素数1〜24のアルコキシ基であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、オクチルオキシ基、メトキシエトキシ基、メトキシペンタ(エチルオキシ)基、アクリロイルオキシエトキシ基、ペンタフルオロプロポキシ基等である。
【0034】
5.アシルオキシ基
より好ましくは炭素数1〜24のアシルオキシ基であり、例えばアセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等である。
【0035】
6.アルコキシカルボニル基
より好ましくは炭素数2〜24のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等である。
【0036】
7.シアノ基
8.フルオロ基
9.アルコキシカルボニル基
【0037】
固体電解質の他の成分
本発明の固体電解質には、例えば、膜としたときの膜特性を向上させるため、必要に応じて、酸化防止剤、繊維、微粒子、吸水剤、可塑剤、相溶剤等を添加してもよい。これら添加剤の含有量は固体電解質の全体量に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0038】
酸化防止剤としては、(ヒンダード)フェノール系、一価ないし二価のイオウ系、三価のリン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、サリチレート系、オキザリックアシッドアニリド系の各化合物が好ましい例として挙げられる。具体的には特開平8−53614号公報、特開平10−101873号公報、特開平11−114430号公報、特開2003−151346号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0039】
繊維としては、パーフルオロカーボン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等が好ましい例として挙げられ、具体的には特開平10−312815号公報、特開2000−231928号公報、特開2001−307545号公報、特開2003−317748号公報、特開2004−63430号公報、特開2004−107461号公報に記載の繊維が挙げられる。
【0040】
微粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等からなる微粒子が好ましい例として挙げられ、具体的には特開平6−111834号公報、特開2003−178777号公報、特開2004−217921号公報に記載の微粒子が挙げられる。
【0041】
吸水剤(親水性物質)としては、架橋ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸塩、ポバール、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリグリコールジアルキルエーテル、ポリグリコールジアルキルエステル、シリカゲル、合成ゼオライト、アルミナゲル、チタニアゲル、ジルコニアゲル、イットリアゲルが好ましい例として挙げられ、具体的には特開平7−135003号公報、特開平8−20716号公報、特開平9−251857号公報に記載の吸水剤が挙げられる。
【0042】
可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、脂肪族一塩基酸エステル系化合物、脂肪族二塩基酸エステル系化合物、二価アルコールエステル系化合物、オキシ酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、アルキルナフタレン系化合物、スルホンアルキルアミド系化合物、オリゴエーテル類、カーボネート類、芳香族ニトリル類が好ましい例として挙げられ、具体的には特開2003−197030号公報、特開2003−288916号公報、特開2003−317539号公報に記載の可塑剤が挙げられる。
【0043】
さらに本発明の固体電解質には、(1)膜の機械的強度を高める目的、および(2)膜中の酸濃度を高める目的で種々の高分子化合物を含有させてもよい。
(1)機械的強度を高める目的には、分子量10,000〜1,000,000程度で本発明の固体電解質と相溶性のよい高分子化合物が適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリ、およびこれらの2以上の重合体が好ましく、含有量としては全体に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上のものが好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。具体的には、後述する固体電解質の製造方法の第一の反応工程の溶媒で説明するものを好ましく用いることができる。
(2)酸濃度を高める目的には、ナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子のスルホン化物などのプトロン酸部位を有する高分子化合物などが好ましく、含有量としては全体に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0044】
さらに、本発明の固体電解質を燃料電池に用いる場合、アノード燃料とカソード燃料の酸化還元反応を促進させる活性金属触媒を添加してもよい。これにより、固体電解質中に浸透した燃料が他方極に到達すること無く固体電解質中で消費され、クロスオーバーを防ぐことができる。用いられる活性金属種は、電極触媒として機能するものであれば制限は無いが、白金または白金を基にした合金が適している。
【0045】
以下に本発明の固体電解質の好ましい製造方法を述べる。本発明の固体電解質は、例えば、重合反応工程、製膜工程、架橋工程、酸への誘導反応工程の四段階を経て作製できる。これらの工程は順序を変更しても良い。以下、これらの工程について詳細に説明する。
【0046】
(重合反応工程)
重合反応工程では、一般式(2)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物を重合反応によって高分子化する。
反応様式は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合等いずれであってもよい。各々の重合法の詳細は一般的な方法(例えば、「新実験科学講座」19−1巻、p.27−115、(1978)丸善株式会社、に記載のもの)を適用することができる。本発明ではラジカル重合を用いることが好ましい。
【0047】
重合反応工程における重合開始剤は重合様式によって適宜選択できる。
ラジカル重合であれば、熱重合開始剤や光重合開始剤を採用することができる。熱重合開始剤の好ましい例としては、2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物系開始剤等が挙げられ、光重合開始剤の好ましい例としては、α−カルボニル化合物、アシロインエーテル、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物、多核キノン化合物、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ、アクリジン化合物、フェナジン化合物およびオキサジアゾール化合物が挙げられ、(アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤)等がより好ましい。
カチオン重合であれば、プロトン酸(好ましくは過塩素酸、フロオロ硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リンモリブデン酸、タングストリン酸等)、超強酸エステル(トリフルオロメタンスルホン酸メチルエステル、フルオロ硫酸メチルエステル等)、超強酸無水物(トリフルオロメタンスルホン酸無水物、フルオロ硫酸無水物等)、ルイス酸(三フッ化ホウ素(エーテル錯体を含む)、五フッ化アンチモン、5フッ化リン、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等)、オキソニウム塩(トリエチルオキソニウムテトラフルオロボレート等)、ヨードニウム塩(フェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート等)、スルホニウム塩(ジフェニルメチルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等)を用いることができる。
アニオン重合あれば、アルキルリチウム、ナトリウムナフタレン、グリニャール試薬、アルカリ金属アルコキシド等の有機金属化合物が好ましい。
配位重合であれば、チーグラー―ナッタ触媒が好ましく、特に塩化チタン、塩化バナジウム、臭化チタン、塩化コバルトから選ばれる1種の塩と、ハロゲン化ジエチルアルミニウム、とりエチルアルミニウムから選ばれる1種のアルキルアルミニウムとの組み合わせがさらに好ましい。
【0048】
重合反応工程における溶媒としては重合を禁止するものでなければ特に制限はないが、好ましくはカーボネート化合物(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、複素環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン、N−メチルピロリドン等)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、エステル類(カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル等)、非プロトン極性物質(ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、非極性溶媒(トルエン、キシレン等)、塩素系溶媒(メチレンクロリド、エチレンクロリド等)、水等を用いることができる。中でも、アルコール類、ニトリル化合物、非プロトン極性物質が特に好ましい。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
重合反応工程の反応温度は重合様式に応じて適切な温度を選択することが好ましい。ラジカル重合であれば、好ましくは20℃〜200℃であり、より好ましくは40℃〜150℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。カチオン重合およびアニオン重合であれば、好ましくは−200℃〜150℃であり、より好ましくは−150℃〜100℃であり、さらに好ましくは−100℃〜50℃である。配位重合であれば、好ましくは−50℃〜200℃であり、より好ましくは0℃〜120℃であり、さらに好ましくは20℃〜80℃である。
反応時間は、ラジカル重合であれば、0.5〜24時間であり、カチオン重合およびアニオン重合であれば、好ましくは0.02〜12時間であり、配位重合であれば、好ましくは0.5〜24時間である。
【0050】
重合反応工程では停止操作を行なうことが好ましく、これは冷却、希釈、重合禁止剤(フェノール類、アルコール類、水、酸素、アミン類、塩基性化合物、酸性化合物)の添加によって行なうことができる。重合反応工程の後に生成した高分子を取り出すことが好ましく、さらに精製工程を追加することが好ましい。精製は再沈殿によるものが好ましい。
【0051】
(製膜工程)
製膜工程では、これ以前の工程で得られた高分子の溶液あるいは分散液を流延または塗布して行なう。さらに、溶媒を除去、乾燥する操作を含んでいてもよい。
【0052】
高分子溶液を塗布する際の支持体は特に限定されないが、好ましい例としてはガラス基板、金属基板、高分子フィルム、反射板等を挙げることができる。高分子フィルムとしては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系高分子フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のエステル系高分子フィルム、ポリトリフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系高分子フィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。塗布方式は公知の方法でよく、例えばカーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等を用いることができる。
【0053】
塗布工程の溶媒は重合反応工程で生じた高分子が溶解するものが好ましく、例えば、重合反応工程に用いる溶媒として例示したものから選択することができる。具体的には、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、非プロトン極性物質(ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、水がより好ましく、アルコール類、非プロトン極性物質がより好ましい。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0054】
塗布工程の乾燥温度は乾燥速度に関連し、材料の性質に応じて選択することができる。好ましくは−20℃〜150℃であり、より好ましくは20℃〜120℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。乾燥時間は短時間であるほうが生産性の観点から好ましいが、ある程度の時間を設けることにより、気泡、表面の凹凸等の欠陥をより効果的に防ぐことができる。このため、乾燥時間は1分〜48時間が好ましく、5分〜10時間がさらに好ましく、10分〜5時間が特に好ましい。
【0055】
塗布工程後に得られる架橋処理を行なっていない固体電解質の形状は、膜状が好ましく、厚さは10〜500μmが好ましく、25〜150μmがより好ましい。成形した時点で膜状であってもよいし、バルク体に成形した後に、切断して膜状に加工してもよい。
【0056】
上記製膜工程においては、原料となる高分子化合物を融点より高い温度に保持した液体または溶媒を用いて溶解した液体を用いて、押し出し成型によって製膜してもよいし、これらの液体をキャストまたは塗布して製膜してもよい。これらの操作はカレンダーロール、キャストロール等のロールまたはTダイを用いたフィルム成形機で行なうことができ、プレス機器を用いたプレス成形とすることもできる。さらに延伸工程を追加し、膜厚制御、膜特性改良を行ってもよい。
【0057】
(保護基の脱保護反応)
保護基(例えば、一般式(3)で表される化合物のR33に由来する保護基)がある場合、重合反応工程、塗布工程では、さらにこの保護基の脱保護反応を行うことが好ましい。この反応では除去が容易な触媒化合物および脱保護反応剤を用いることが好ましく、触媒化合物としては酸性化合物が好ましく、脱保護反応剤としては水が好ましい。
【0058】
酸性化合物としては無機または有機のプロトン酸が好ましい。無機プロトン酸としては、塩酸、硫酸、リン酸類(H3PO4、H3PO3、H427、H5310、メタリン酸、ヘキサフルオロリン酸等)、硼酸、硝酸、過塩素酸、テトラフルオロ硼酸、ヘキサフルオロ砒素酸、臭化水素酸、固体酸(タングストリン酸、タングステンペルオキソ錯体等)等が挙げられる。有機プロトン酸としては、リン酸エステル類(炭素数1〜30のリン酸エステル類であり、リン酸メチルエステル、リン酸プロピルエステル、リン酸ドデシルエステル、リン酸フェニルエステル、リン酸ジメチルエステル、リン酸ジドデシルエステル等)、亜リン酸エステル類(炭素数1〜30の亜リン酸エステル類であり、亜リン酸メチルエステル、亜リン酸ドデシルエステル、亜リン酸ジエチルエステル、亜リン酸ジイソプロピル、亜リン酸ジドデシルエステル等)、スルホン酸類(炭素数1〜15のスルホン酸類であり、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ヘキサフルオロベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等)、カルボン酸類(炭素数1〜15のカルボン酸類であり、酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸、置換安息香酸等)、イミド類(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸、トリフルオロメタンスルホニルトリフルオロアセトアミド等)、ホスホン酸類(炭素数1〜30のホスホン酸類であり、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジフェニルホスホン酸、1,5−ナフタレンビスホスホン酸等)等の低分子化合物が挙げられる。これらを2種以上併用することも可能である。塩酸、硫酸、スルホン酸類(例えば炭素数1〜15のスルホン酸類であり、具体的には、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ヘキサフルオロベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等)等の強酸が特に好ましい。
【0059】
(メソゲンの配向工程)
本発明では、架橋工程の前に、メソゲンの配向工程を追加してもよい。配向を促進させるためには、様々な手法を採用することができる。例えば、前述の支持体等に事前に配向処理を施すことができる。配向処理としては種々の一般的な方法を採用できるが、好ましくは各種ポリイミド系配向膜、ポリビニルアルコール系配向膜等の液晶配向層を支持体等の上に設け、ラビング等の配向処理行う方法、支持体上のゾル−ゲル組成物に磁場や電場等を印加する方法、加熱する方法等を用いることができる。
【0060】
本発明の材料の配向状態は、偏光顕微鏡により光学異方性を観察することにより確認することができる。観察方向は任意でよいが、クロスニコル下でサンプルを回転させ、明暗が切り替わる部分があれば異方性があるといえる。配向状態は異方性を示す状態であれば特に制限はない。液晶相と認識できるテクスチャーが観察される場合は相を特定することができ、リオトロピック液晶相でもサーモトロピック液晶相でもよい。配向状態はリオトロピック液晶相の場合はヘキサゴナル相、キュービック相、ラメラ相、スポンジ相、ミセル相が好ましく、特に室温でラメラ相もしくはスポンジ相を示すことが好ましい。サーモトロピック液晶相ではネマチック相、スメクチック相、クリスタル相、カラムナー相およびコレステリック相が好ましく、特に室温でスメクチック相、クリスタル相を示すことが好ましい。また、これらの相における配向が固体状態で保持されている配向状態も好ましい。ここでいう異方性とは分子の方向ベクトルが等方的ではない状態をいう。
【0061】
(架橋工程)
架橋工程では製膜工程で得られた膜を、加熱処理および/または放射線(可視光、紫外線、γ線、電子線等)照射処理を行い、架橋反応を進行させる。さらに、架橋反応は、必要に応じて調湿した環境で行なう。
【0062】
加熱処理によって架橋を行なう場合、処理温度は材料の性質に応じて選択することができるが、好ましくは40℃〜300℃であり、より好ましくは80℃〜250℃であり、さらに好ましくは100℃〜200℃である。このような温度範囲とすることにより、生産性を高く保ちつつ、材料が分解してしまうのをより効果的に防ぐことが可能になる。
処理時間は1分〜24時間が好ましく、5分〜10時間がさらに好ましく、10分〜5時間が特に好ましい。このような処理時間とすることにより、生産性を高く保ちつつ、架橋反応を十分に進行させることができる。
【0063】
放射線処理によって架橋を行なう場合、好ましくは1000W/cm2〜0.1W/cm2であり、より好ましくは100W/cm2〜0.5W/cm2であり、さらに好ましくは30W/cm2〜1W/cm2である。このような照射エネルギー量とすることにより、生産性を高く保ちつつ、照射設備がコスト高になってしまうのを防ぐことができる。
処理時間は0.01分〜10時間が好ましく、0.1分〜5時間がさらに好ましく、1分〜2時間が特に好ましい。このような処理時間とすることにより、生産性を高く保ちつつ、架橋反応を十分に進行させることができる。
上記加熱処理および放射線処理は両方を同時に行なってもよいし、両方を逐次行なっても良い。
【0064】
架橋工程では、重合反応、光反応、熱反応のいずれの反応様式を用いてもよい。容易に架橋できることから重合反応、熱反応が好ましい。
重合反応を用いる場合には、上記重合反応工程で説明した反応様式のいずれも採用することができる。さらに、重合反応工程で記述した重合開始剤をあらかじめ添加しておくことが好ましい。
熱反応としては以下の原子団(水酸基、マレイミド誘導体、ディールス−アルダー反応に用いることができるジエンおよびジエノファイルの組み合わせ等)を用いることができる。
特に水酸基の縮合を用いる方法は水酸記事新の導入容易性、耐薬品性の観点から特に好ましい。
【0065】
(酸への誘導反応工程)
酸への誘導反応工程では、酸残基を形成しうる基、例えば、一般式(2)で表される化合物のR23を酸残基に誘導する。この反応は置換基R23の構造に応じて適宜選択することができ、酸化反応であっても、置換反応であっても、加水分解反応であっても、塩交換反応であってもよい。本発明では塩交換反応が好ましい。
【0066】
塩交換反応を適用する場合、ブレンステッド酸を用いることが好ましく、さらに有機あるいは無機のプロトン型の強酸を用いることが好ましい。プロトン型の強酸としては塩酸、硫酸、ヘキサフルオロリン酸、過塩素酸、テトラフルオロ硼酸、ヘキサフルオロ砒素酸、臭化水素酸、スルホン酸類(例えば炭素数1〜15のスルホン酸類であり、具体的には、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ヘキサフルオロベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等)、フッ化カルボン酸(トリフルオロ酢酸等)、またはナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、ポリスチレンスルホン酸等のプロトン酸部位を有する高分子化合物が挙げられる。これらの中でも、塩酸、硫酸が特に好ましい。これらは2種以上併用することも可能である。
【0067】
ブレンステッド酸を用いる場合、液体、気体、溶液の形態で用いることもできるが、水等の溶媒に溶解または分散して用いることが好ましい。また、樹脂状の酸を溶媒に分散して塩交換を行なうこともできる。この場合にはイオンを輸送するための電解質が必要であり、上記ブレンステッド酸がその役割を果たす。
【0068】
酸への誘導反応工程の溶媒はブレンステッド酸が溶解するものが好ましく、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)が好ましく、水が特に好ましい。これらを2種以上併用することも可能である。
【0069】
酸への誘導反応工程の反応温度は反応速度に関連し、前駆体の反応性と選択した酸の種類および量に応じて選択することができる。好ましくは−20℃〜150℃であり、より好ましくは20℃〜120℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。
【0070】
酸への誘導反応工程の後に不要な成分を除去することを目的に、水、有機溶媒等による洗浄工程および乾燥工程を追加してもよい。
【0071】
(表面処理工程)
架橋工程または酸への誘導反応工程を経た後に表面処理を行なってもよい。表面処理としては、粗面処理、表面切削、除去、コーティング処理等が挙げられる。これらは電極との密着を改良できることがある。
【0072】
本発明の固体電解質の特性としては、以下の諸性能を持つものが好ましい。
イオン伝導度は、例えば25℃95%RHにおいて、5×10-3S/cm以上であることが好ましく、1×10-2S/cm以上であるものがより好ましく、2.3×10-2S/cm以上であることがさらに好ましい。
メタノール透過係数は、例えば25℃において、7x10-7cm2/s以下であることが好ましく、4x10-7cm2/s以下であることがより好ましく、2x10-7cm2/s以下であるものがさらに好ましい。
強度としては、例えば25℃において、引っ張り強度が10MPa以上であることが好ましく、20MPa以上であるものがより好ましい。
性能指数(後述にて定義する性能指数)は、2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。
耐久性については水中で一定温度(例えば、25℃)での経時前後で、重量、イオン交換容量、メタノール透過係数の変化率が20%以下であることが好ましく、10%以下であることが特に好ましい。さらに過酸化水素中における経時前後でも同様に変化率が20%以下であることが好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
本発明の固体電解質は安定した吸水率(含水率)を持つものが好ましい。具体的には、例えば25℃において水に浸漬した場合、吸水率は1〜50%が好ましく、2〜30%がさらに好ましく、3〜20%がさらに好ましい。また、アルコール類、水およびこれらの混合溶媒に対し、溶解度は実質的に無視できる程度である物が好ましい。また上記溶媒に浸漬した時の重量減少、形態変化も実質的に無視できる程度である物が好ましい。特に重量減少は10%以下が好ましく、5%以下がさらに好ましく、2%以下がさらに好ましい。
【0073】
膜状に形成した場合のイオン伝導方向は表面から裏面の方向が、それ以外の方向に対し高い方が好ましいが、本質的にはメタノール透過性との比で決まるため、ランダムであっても良い。
イオン伝導度のメタノール透過係数に対する比を性能指数として表現することができ、この値は大きいほど高い性能を持つことになる。性能指数が同じ材料は厚みの調整によって同一のイオン抵抗とメタノール透過性をもつ材料とすることができる。
本発明の固体電解質の耐熱温度は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。耐熱温度は例えば1℃/分の測度で加熱したときの重量減少5%に達した時間として定義できる。この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
【0074】
本発明の固体電解質は燃料電池用プロトン伝導膜、特に直接メタノール型燃料電池用として有用な他に、一般の燃料電池電極用固体電解質にも用いることができる。さらに、各種電池電解質(レドックスフロー電池、リチウム電池等)、表示素子、電気化学センサー、信号伝達媒体、コンデンサー、電気透析、電気分解用電解質膜、ゲルアクチュエーター、合成用固体酸触媒、塩電解膜、カチオン交換樹脂としても用いることができる。カチオン交換樹脂の一般的な用途としては水処理(脱塩、軟化)、廃水処理(重金属捕集、鍍金浴処理、貴金属の回収、有機物の捕集)、薬液処理(インク精製、塗料精製、鍍金浴精製、グリセリン精製、ホルマリン精製)が挙げられる。
【0075】
(燃料電池)
本発明の固体電解質は、電極膜接合体(Membrane and Electrode Assembly)(以下「MEA」という)および、該電極膜接合体を用いた燃料電池に用いることができる。
図1は本発明の電極膜接合体の断面概略図の一例を示したものである。MEA10は、膜状の固体電解質11と、それを挟んで対向するアノード電極12及カソード電極13を備える。
アノード電極12とカソード電極13は、多孔質導電シート(例えばカーボンペーパー)12a、13aと触媒層12b、13bからなる。触媒層12b、13bは、白金粒子等の触媒金属を担持したカーボン粒子(例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等)をプロトン伝導材料(例えばナフィオン等)に分散させた分散物からなる。触媒層12b、13bを固体電解質11に密着させるために、多孔質導電シート12a、13aに触媒層12b、13bを塗設したものを、固体電解質11にホットプレス法(好ましくは120〜130℃、2〜100 kg/cm2)で圧着するか、適当な支持体に触媒層12b、13bを塗設したものを、固体電解質11に転写しながら圧着した後、多孔質導電シート12a、13aで挟み込む方法を一般に用いる。
【0076】
図2は燃料電池構造の一例を示す。燃料電池はMEA10と、MEA10を挟持する一対のセパレータ21、22と、セパレータ21、22に取り付けられたステンレスネットからなる集電体17およびパッキン14とを有する。アノード極側のセパレータ21にはアノード極側開口部15が設けられ、カソード極側のセパレータ22にはカソード極側開口16設けられている。アノード極側開口部15からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード極側開口部16からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
アノード電極およびカソード電極には、カーボン材料に白金などの活性金属粒子を担持した触媒が用いられる。通常用いられる活性金属の粒子サイズは、2〜10nmの範囲であり、粒子サイズが小さい程単位質量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であるが、小さすぎると凝集させずに分散させることが難しくなり、2nm程度が限度といわれている。
水素−酸素系燃料電池における活性分極はアノード極(水素極)に比べ、カソード極(空気極)が大きい。これは、アノード極に比べ、カソード極の反応(酸素の還元)が遅いためである。酸素極の活性向上を目的として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元金属を用いることができる。アノード燃料にメタノール水溶液を用いる直接メタノール燃料電池においては、メタノールの酸化過程で生じるCOによる触媒被毒を抑制することが重要である。この目的のために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元金属、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元金属を用いることができる。
活性金属を担持させるカーボン材料としては、アセチレンブラック、Vulcan XC-72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
【0077】
触媒層の機能は、(1)燃料を活性金属に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを固体電解質に輸送すること、である。(1)のために触媒層は、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性であることが必要である。(2)は上記で述べた活性金属触媒が、(3)は同じく上記で述べたカーボン材料が担う。(4)の機能を果たすために、触媒層にプロトン伝導材料を混在させる。
触媒層のプロトン伝導材料としては、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、固体電解質に用いられる酸残基を有する高分子化合物(例えばナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱性芳香族高分子のスルホン化物など)が好ましく用いられる。本発明の固体電解質を触媒層に用いると、固体電解質と同種の材料となるため、固体電解質と触媒層との電気化学的密着性が高まりより有利である。
活性金属の使用量は、0.03〜10mg/cm2の範囲が電池出力と経済性の観点から適している。活性金属を担持するカーボン材料の量は、活性金属の質量に対して、1〜10倍が適している。プロトン伝導材料の量は、活性金属担持カーボンの質量に対して、0.1〜0.7倍が適している。
【0078】
電極基材、透過層、あるいは裏打ち材とも呼ばれ、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用し、撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
【0079】
MEAの作製には、次の4つの方法が好ましい。
(1)プロトン伝導材料塗布法:活性金属担持カーボン、プトロン伝導材料、溶媒を基本要素とする触媒ペースト(インク)を固体電解質の両側に直接塗布し、多孔質導電シートを(熱)圧着して5層構成のMEAを作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒ペーストを多孔質導電シート表面に塗布し、触媒層を形成させた後、固体電解質と圧着し、5層構成のMEAを作製する。
(3)Decal法:触媒ペーストをPTFE上に塗布し、触媒層を形成させた後、固体電解質に触媒層のみを転写させ3層のMEAを形成させ、多孔質導電シートを圧着し、5層構成のMEAを作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクを固体電解質、多孔質導電シートあるいはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを当該固体電解質に含浸させ、白金粒子を膜中で還元析出させて触媒層を形成させる。触媒層を形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEAを作製する。
【0080】
本発明のMEAは電池に組み込み、燃料を充填した状態での交流インピーダンス法による面積抵抗値が3Ωcm2以下のものが好ましく、1Ωcm2以下のものがさらに好ましく、0.5Ωcm2以下のものが最も好ましい。面積抵抗値は実測の抵抗値とサンプルの面積の積から得られる。
【0081】
本発明の固体電解質を用いる燃料電池の燃料として用いることのできるのは、アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
直接メタノール型燃料電池では、アノード燃料として、メタノール濃度3〜64質量%のメタノール水溶液が使用される。アノード反応式(CH3OH+H2O→CO2+6H++6e)により、1モルのメタノールに対し、1モルの水が必要であり、この時のメタノール濃度は64質量%に相当する。メタノール濃度が高い程、同エネルギー容量での燃料タンクを含めた電池の質量および体積が小さくできる利点がある。しかしながら、メタノール濃度が高い程、メタノールが固体電解質を透過しカソード側で酸素と反応し電圧を低下させる、いわゆるクロスオーバー現象が顕著となり、出力が低下する傾向にある。そこで、用いる固体電解質のメタノール透過性により、最適濃度が決められる。直接メタノール型燃料電池のカソード反応式は、(3/2O2+6H++6e→H2O)であり、燃料として酸素(通常は空気中の酸素)が用いられる。
【0082】
上記アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層に供給する方法には、(1)ポンプ等の補機を用いて強制循環させる方法(アクティブ型)と、(2)補機を用いない方法(例えば、液体の場合には毛管現象や自然落下により、気体の場合には大気に触媒層を晒し供給するパッシブ型)の2通りがあり、これらを組み合わせることも可能である。前者は、カソード側で生成する水を循環させることにより燃料として高濃度のメタノールが使用することができ、空気供給による高出力化ができる等の利点がある反面、燃料供給系を備える事により小型化がし難い欠点がある。後者は、小型化が可能な利点がある反面、燃料供給が律速となり易く高い出力が出にくい欠点がある。
【0083】
燃料電池の単セル電圧は一般的に1V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路の形成されたセパレーターを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
【0084】
燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用など様々な利用が考えられているが、特に、直接メタノール型燃料電池は、小型、軽量化が可能であり充電が不要である利点を活かし、様々な携帯機器やポータブル機器用エネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラ、PDA、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、モバイルサーバー、ウエラブルパソコン、モバイルディスプレイなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器、懐中電灯、電動(アシスト)自転車などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0086】
以下にサンプル(本発明で得られる固体電解質)の物性値の測定方法を示す。
[イオン伝導度]
サンプルを直径5mmの円形に打ち抜き、2枚のステンレス板に挟み、ソーラトロン社1470および1255Bを用いて交流インピーダンス法により、25℃、相対湿度95%におけるイオン伝導度を測定した。この値は大きいほど抵抗が小さくなり好ましい。
【0087】
[メタノール透過係数]
サンプル(固体電解質)を1cmx1cmに切り抜き、図3に示すようなセルにセットした。図3中、31はサンプル(固体電解質)を、32はテフロンテープ補強材を、33はメタノール水溶液注入部分を、34はキャリアガス導入口を、35は検出器をそれぞれ示している。メタノール水溶液として50容量%メタノール水溶液を注入し、キャリアガス中に含まれるメタノールをガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製GC−14B)にて検出した。得られた検出量から以下の式を用いてメタノール透過係数DMeOHを計算した。この値は小さいほど燃料電池としたときの燃料の漏れが小さくなり好ましい。
MeOH=(NxT)/(AxCMeOH
メタノール透過係数:DMeOH(cm2/s)
透過検出量:N(mol/s)
固体電解質の膜厚: T(cm)
固体電解質がメタノール水溶液に接触している面積:A(cm2
メタノール濃度:CMeOH(mol/cm3
尚、本発明で述べるメタノール透過係数は、特記しない限り、上記式で表される値を意味する。
[性能指数]
イオン抵抗はサンプル厚に比例し、イオン伝導度に反比例する。メタノール透過量はメタノール透過係数に比例し、サンプル厚に反比例する。従ってサンプル厚を小さくすると、これに比例してイオン抵抗は小さくなるが、メタノール透過量も大きくなる。従ってサンプル間の差は同じメタノール透過量を示すサンプル厚でのイオン伝導度を比較することで初めて可能になるが、これを簡単に行なうためには、下記式2に従い、基準となる物質に対するイオン伝導度、メタノール透過係数の比を比較すればよい。基準となる物質はイオン伝導度および、メタノール透過係数が測定できる物であればよく、ナフィオン117(DuPont社)を用いる。
(性能指数)=[(イオン伝導度)/(基準物質のイオン伝導度)]/[(メタノール透過係数)/(基準物質のメタノール透過係数)]
性能指数が2であればメタノール透過性能が同じ場合、2倍のイオン伝導性能を示すことになる。この値は大きいほど高い性能を示す。
【0088】
[実施例1]
3−アクリルオキシプロパンスルホン酸カリウム(A−2)2.3g、3−ヒドロキシプロピルアクリレート(B−2)1.3g、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)40mlを混合し、窒素気流下70℃で1時間攪拌した。これにアゾビスイソブチロニトリル20mgを添加し、さらに12時間攪拌した。反応液を酢酸エチル中に注ぎ、得られた沈殿をろ過、洗浄、乾燥し、ポリマー2.3gを得た。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量は19,000であった。
このポリマー240mgにメタノール1.4ml、10%メタンスルホン酸水溶液50μlを加え、超音波を照射しながら溶解した。得られた溶液をミクロフィルター(FLSP20 1.3CMD:富士写真フイルム(株)製)にて濾過した。その800μLを、ポリイミド膜(ユーピレックス#75S:宇部興産(株)製)上に、180μm厚のテプロンテープで作製した3cm×3cmの正方形の枠内に流し込んだ。室温から50℃に昇温しながら約2時間溶媒を蒸発させ、さらに150℃で4時間加熱した。ポリイミド膜から膜状に固化した塗布物を剥離し、濃塩酸、イオン交換水にて洗浄、乾燥して、透明、微褐色で厚さ100μmの固体電解質を得た。このサンプルのイオン伝導度は2.8x10-2S/cm、メタノール透過係数は0.35X10-6cm2/s、性能指数は4.7であった。
【0089】
[実施例2]
化合物B−8を合成した。すなわち、1,1,1−トリス(ヒドロキシエチル)エタン100gと2,2−ジメトキシプロパン100gをクロロホルム750mlに溶解し、1gのp−トルエンスルホン酸水和物を加え、モレキュラーシーブス3Aを備えたソックスレイ抽出器を用いて7時間加熱還流した。反応混合物に炭酸カリウム4gを添加し、室温で20分攪拌した後、反応混合物をろ過し、濃縮、減圧下蒸留して(5−エチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキサン−5−イル)−メタノール125gを得た。この100gにジメチルアニリン70g、テトラヒドロフラン200mlを加え、氷冷下攪拌しながら塩化アクリロイル52gを滴下した。室温で8時間反応させた後、食塩水を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を濃縮後、減圧下蒸留し化合物B−8を75g得た。
上記実施例1において、3−ヒドロキシプロピルアクリレートを化合物B−8に置き換えた他は同様行い、透明、微褐色、厚さ110μmの固体電解質を得た。このサンプルのイオン伝導度は2.4x10-2S/cm、メタノール透過係数は0.25X10-6cm2/s、性能指数は5.6であった。
【0090】
[実施例3]
化合物B−16を合成した。すなわち、(5−エチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキサン−5−イル)−メタノール135gをテトラヒドロフラン(THF)400mlに溶解し、トリエチルアミン143ml、及びジメチルアミノピリジン5gを加え、室温で塩化パラトルエンスルホニル178gを添加した。反応混合物を6時間加熱還流した後、反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、濃縮後得られた残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製し、p−トルエンスルホン酸 5−エチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキサン−5−イル)−メチルエステル225gを得た。この201gをアセトニトリル700mlに溶解し、ヨウ化ナトリウム290gを加え2時間加熱還流した。反応混合物をろ過し、無機物を除去した後水を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を濃縮し、残渣を減圧蒸留し、0.5mmHg、75〜85℃の留分を捕集し、129gの2,2−ジメチル−5−エチル−5−ヨードメチル−1,3−ジオキサンを得た。
4,4'−ジヒドロキシビフェニル23.5gをジメチルアセトアミド9mlに溶解し、炭酸カリウム11.5gとヨウ化カリウム7.0gを加えたところに、8−クロロヘキサノール68.8gを添加した。反応液を110℃で9時間攪拌し室温に戻した後、反応液を水に注ぎ析出した結晶をろ過した。得られた粗結晶をアセトニトリルで再結晶し、15.3gの4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)−4'−ヒドロキシビフェニルを得た。
得られた4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)−4'−ヒドロキシビフェニル10gをジメチルアセトアミド50mlに溶解し、炭酸カリウム10.0g添加し、50℃で攪拌しながら2,2−ジメチル−5−エチル−5−ヨードメチル−1,3−ジオキサン10gを滴下した。100℃で4時間反応を行った後、反応混合物を水に注ぎ、得られた固形物をカラムクロマトグラフィーで精製し、5.7gの4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)−4'−(エチル−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキサン−5−イル))メトキシビフェニルを得た。この4.4gにジメチルアニリン1.2g、テトラヒドロフラン50mlを加え、氷冷下攪拌しながら塩化アクリロイル0.91gを滴下した。室温で8時間反応させた後、水を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し化合物B−16を1.7g得た。
上記実施例1において、3−ヒドロキシプロピルアクリレートを化合物B−16に置き換えた他は実施例1と同様に行い、透明、褐色、厚さ90μmの固体電解質を得た。このサンプルの薄膜切片を作製し、偏光顕微鏡で観察したところ、光学異方性のある微細なドメインが確認できた。これによりメソゲン部が一定方向に集積した集合体の集まりにより膜状の固体電解質が構成されていることがわかった。このサンプルのイオン伝導度は3.2x10-2S/cm、メタノール透過係数は0.26X10-6cm2/s、性能指数は7.2であった。
【0091】
[実施例4]
2−エチル−2−ヒドロキシメチルオキセタン12gにジメチルアニリン13g、テトラヒドロフラン100mlを加え、氷冷下攪拌しながら塩化アクリロイル9gを滴下した。室温で8時間反応させた後、食塩水を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を濃縮後、減圧下蒸留し化合物B−22を8g得た。
上記実施例1において、3−ヒドロキシプロピルアクリレートを化合物B−22に置き換え、10%メタンスルホン酸水溶液の代わりにジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート4.8mgを用いた他は同様に行い、透明、微褐色、厚さ100μmの固体電解質を得た。このサンプルのイオン伝導度は4.5x10-2S/cm、メタノール透過係数は0.63X10-6cm2/s、性能指数は4.2であった。
【0092】
[比較例1]
ナフィオン117(DuPont社)のイオン伝導度は2.4x10-2S/cm、メタノール透過係数は1.4X10-6cm2/s、性能指数は1.0であった。
[比較例2]
ナフィオン112(DuPont社)のイオン伝導度は2.2x10-2S/cm、メタノール透過係数は1.3X10-6cm2/s、性能指数は1.0であった。
【0093】
(結果)
本発明の固体電解質では高いイオン伝導度と低いメタノール透過係数を示し、両立できていることが認められた。
【0094】
[実施例5]
(燃料電池の作製)
白金担持カーボン(VulcanXC72に白金50wt%が担持)2gとナフィオン溶液(5%アルコール水溶液)15gを混合し、超音波分散器で30分間分散させた。分散物の平均粒子径は約500nmであった。得られた分散物をカーボンペーパー(厚さ350μm)上に塗設し、乾燥した後、直径9mmの円形に打ち抜き、触媒膜を作製した。
【0095】
実施例1〜3で作製した固体電解質及びナフィオン117の両面に上記で得られた触媒膜を塗布面が固体電解質に接するように張り合わせ、100℃、2MPa、1分間で熱圧着しMEAを作製した。
【0096】
上記で得られたMEAを図2に示す燃料電池にセットし、アノード側開口部15に50質量%のメタノール水溶液を注入した。この時カソード側開口部16は大気開放とした。アノード電極12とカソード電極13間に、ガルバノスタットで5mA/cm2の定電流を通電し、この時のセル電圧を測定した。結果を表1に示した。
【0097】
【表1】

【0098】
(結果)
ナフィオン膜を用いた電池の初期電圧は高いものの、経時的に電圧が低下した。この経時的な電圧低下は、アノード電極側に供給された燃料のメタノールが、ナフィオン膜を通過してカソード電極側に漏れる、いわゆるメタノールクロスオーバー現象による。それに対して、本発明の固体電解質を用いた電池は電圧が安定しており、より高い電圧を維持できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の固体電解質を用いた電極膜接合体の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の燃料電池の構造の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明のメタノール透過係数の測定に採用するステンレス製のセルの概略図を示す。
【符号の説明】
【0100】
10・・・燃料電池電極膜接合体(MEA)
11・・・固体電解質
12・・・アノード電極
12a・・・アノード極多孔質導電シート
12b・・・アノード極触媒層
13・・・カソード電極
13a・・・カソード極多孔質導電シート
13b・・・カソード極触媒層
14・・・パッキン
15・・・アノード極側開口部
16・・・カソード極側開口部
17・・・集電体
21,22・・・セパレータ
31 ・ ・ ・ 固体電解質
32 ・ ・ ・ テフロンテープ補強材
33 ・ ・ ・ メタノール水溶液注入部分
34 ・ ・ ・ キャリアガス導入口
35 ・ ・ ・ 検出口(ガスクロマトグラフィーに接続)
36 ・ ・ ・ ゴムパッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸残基を含む基がカルボニル基を介して炭素-炭素結合からなる主鎖に結合しており、且つ炭素−酸素結合および炭素−炭素結合を含む架橋構造を含む、固体電解質。
【請求項2】
下記一般式(1−1)で表される繰り返し単位および一般式(1−2)で表される繰り返し単位を、それぞれ、10以上含む、固体電解質。
一般式(1−1)
【化1】

(一般式(1−1)中、R11は、水素原子またはアルキル基を表し、R12は、2価の連結基を表し、R13は、酸残基を表す。)
一般式(1−2)
【化2】

(一般式(1−2)中、R14は、水素原子またはアルキル基を表し、R15は、2価の連結基を表し、R16は、3価の飽和炭化水素基を表す。)
【請求項3】
メソゲン基を含む、請求項1または2に記載の固体電解質。
【請求項4】
前記酸残基がスルホ基である、請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解質。
【請求項5】
膜状である、請求項1〜4のいずれかに記載の固体電解質。
【請求項6】
下記一般式(2)で表される化合物および一般式(3)で表される化合物を重合する工程を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
一般式(2)
【化3】

(一般式(2)中、R21は、水素原子またはアルキル基を表し、R22は、2価の連結基を表し、R23は、酸残基に誘導できる基を表す。)
一般式(3)
【化4】

(一般式(3)中、R31は、水素原子またはアルキル基を表し、R32は、2価の連結基を表し、R33は、炭素−酸素結合を形成できる重合性基またはその前駆体である基を表す。)
【請求項7】
膜状で、架橋反応を進行させる、請求項6に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の固体電解質を有する、電極膜接合体。
【請求項9】
請求項8に記載の電極膜接合体を有する燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−216261(P2006−216261A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25236(P2005−25236)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】