説明

固体電解質型燃料電池セル、固体電解質型燃料電池スタック、及び固体電解質型燃料電池セルの製造方法

【課題】 固体電解質層をより薄膜化した場合でも、固体電解質層に穴があくことを防止し、燃料電池の発電効率を高めることができる固体電解質型燃料電池セル、固体電解質型燃料電池スタック、及び固体電解質型燃料電池セルの製造方法を提供すること。
【解決手段】 空気極7と、燃料極1と、固体電解質層5とを備えるとともに、燃料極1と固体電解質層5との間に活性層3を備え、燃料極1を支持基体とする支持膜型の固体電解質型燃料電池セルにおいて、 燃料極1の空孔の平均気孔径が、活性層3の空孔の平均気孔径より大であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質の特性を利用して発電を行う支持膜型の固体電解質型燃料電池セル、固体電解質型燃料電池スタック、及び固体電解質型燃料電池セルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池として、固体電解質(固体酸化物)を用いた固体電解質型燃料電池(以下SOFCとも記す)が知られている。
このSOFCでは、通常、固体電解質膜(層)の各面に燃料極と空気極とを備えた固体電解質型燃料電池セル(単セル)を、複数個使用している。つまり、固体電解質型燃料電池セルを多数積層してスタックを形成し、燃料極に燃料ガスを供給するとともに、空気極に空気を供給し、燃料(例えば水素)と空気中の酸素とを固体電解質層を介して化学反応させることによって電力を発生させる。
【0003】
前記固体電解質型燃料電池セルは、自立膜型セルと支持膜型セルとに大別される。このうち、支持膜型セルとしては、燃料極基体の上に固体電解質層が形成された、いわゆるアノードサポート型セルが一般的である。
【0004】
前記燃料極基体は、セルの機械的強度を保つために、厚膜(例えば500〜2000μm厚)にする必要があり、同時にまた、燃料極本来の機能である電気化学的に反応効率を上げる必要がある。
【0005】
前記2つの機能を満たすために、燃料極基体を多孔化して燃料ガスの通気性を上げ(特許文献1参照)、更に、燃料極基体と固体電解質層との間に、活性層として電気化学的活性の高い燃料極活性層を設ける手法(特許文献2参照)等が知られている。
【特許文献1】特開平7−262819号公報
【特許文献2】特開2001−283876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した支持膜型セルは、固体電解質層を薄膜化し易く、近年、燃料電池の高効率化、低温動作化を図るため、20μm以下に薄膜化することが検討されているが、固体電解質層をより薄膜化した場合(例えば10μm以下にした場合)には、固体電解質膜に穴があいてしまい、燃料電池の発電効率を逆に低下させてしまうという問題があった。
【0007】
この固体電解質層の穴は、例えばNiO粉末とセラミックス粉末と造孔材とからなる燃料極基体用成形体と、固体電解質粉末からなる固体電解質層用成形体の薄膜とを積層し、同時焼成によって作製する際に発生することが観察されており、その対策が必要となっている。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、固体電解質層をより薄膜化した場合でも、固体電解質層に穴があくことを防止し、燃料電池の発電効率を高めることができる固体電解質型燃料電池セル、固体電解質型燃料電池スタック、及び固体電解質型燃料電池セルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した様に、支持膜型セルにおいては、薄膜の固体電解質層は、多孔体である燃料極基体(燃料極多孔体)に支持されることで機械的強度を保っている。しかし、支持体である燃料極多孔体の表面に欠陥があると、その欠陥部分では、局所的に固体電解質層を支持できず、固体電解質層が局所的に弱くなると考えられる。
【0010】
つまり、支持体となる燃料極多孔体は、燃料ガスの通気性を確保するために気孔率を大きくするように設計されており、造孔材による多孔化が一般的であるが、造孔材によって形成された気孔は、ある程度の気孔径分布をもっており、気孔径の大きなものでは10μm以上となってしまう。このような大きな気孔を含有する燃料極多孔体では、ある確率で固体電解質界面にも大きな気孔が発生する。
【0011】
すなわち、燃料極多孔体の大径の気孔の存在により、局所的に固体電解質層が支持されず、焼成時に、支持体である燃料極基体の気孔が基点となって、固体電解質層に穴があいてしまうと考えられる。
【0012】
本発明は、上述した知見に基づいてなされたものである。以下、各請求項毎に説明する。
(1)請求項1の発明は、空気極と、燃料極と、固体電解質層とを備えるとともに、前記燃料極と固体電解質層との間に活性層を備え、前記燃料極を支持基体とする支持膜型の固体電解質型燃料電池セルにおいて、前記燃料極の空孔の平均気孔径NAが、前記活性層の空孔の平均気孔径KAより大であることを特徴とする。
【0013】
本発明の固体電解質型燃料電池セルでは、図1に模式的に示す様に、大きな平均気孔径を有する燃料極(1)の表面に、それより小さな平均気孔径を有する活性層(3)が積層され、その活性層(3)の表面に固体電解質層(5)が積層された構成を有している。尚、空気極(7)は、通常、固体電解質層(5)に積層されている。
【0014】
従って、(固体電解質層に接する)活性層の空孔の平均気孔径を燃料極より小さく設定することにより、燃料極の平均気孔径(或いは気孔率)を増加させて通気性を増加させた場合でも、空孔に起因する固体電解質層の穴の発生を防止できる。
【0015】
これにより、(活性層及び燃料極の構成である)燃料極側構成全体の通気性を上げて、電気化学的反応効率を向上できるとともに、固体電解質層を薄膜化して、例えば20μm以下(特に10μm以下)にして、燃料電池の高効率化及び低温動作化を実現できる。しかも、活性層の空孔の平均気孔径を小さくすることにより、固体電解質層に穴が発生することを防止できるので、発電効率の低下を防ぐことができる。
【0016】
尚、ここで活性層とは、燃料極における電気化学的反応効率を高めるための層のことであり、通常、燃料極以上の導電性を有している。従って、この活性層により、固体電解質層と燃料極との間の電気抵抗を低減できるので、発電性能を向上することができる。また、活性層の材料を適宜選択することにより、固体電解質層と燃料極との接合性を改善することができるので、両部材間の剥離を防止することができる。
【0017】
(2)請求項2の発明は、前記燃料極の空孔の平均気孔径NAが、1.0μm<NA≦10μmであり、前記活性層の空孔の平均気孔径KAが、0.1μm≦KA≦1.0μmであることを特徴とする。
【0018】
本発明は、燃料極及び活性層の空孔の好ましい平均気孔径を例示したものであり、この範囲であれば、効果的に固体電解質層に穴が発生することを防止できる。
(3)請求項3の発明は、前記燃料極の開気孔率NBが、25%<NB≦60%であり、前記活性層の開気孔率KBが、10%≦KB≦25%であることを特徴とする。
【0019】
この燃料極の開気孔率が、25〜60%であると、発電性能に優れたセルとなり望ましい。燃料極の開気孔率が25%を下回ると、燃料極の通気性が悪くなり、発電性能が低下する恐れがあり、60%を上回ると、セルに十分な強度が得られず、発電中に故障してしまう恐れがある。
【0020】
尚、燃料極の開気孔率は、造孔材の添加量で制御することができる。造孔材としては、カーボン、有機ビーズ等の公知のものを使用できる。
一方、活性層の開気孔率が、10〜25%であると、発電性能に優れたセルになり望ましい。活性層の空孔の開気孔率が10%を下回ると、燃料極の通気性が悪くなり、発電性能が低下する恐れがあり、25%を上回ると、固体電解質層に穴があいてしまう恐れがある。
【0021】
尚、活性層の開気孔率は、造孔材で制御しないことが望ましく、例えばNiO成分を還元してNiとした時の体積収縮によって気孔を形成することが望ましい。つまり、体積収縮によって形成された気孔は微細な構造となるため、固体電解質層に穴が発生することを防止することができる。
【0022】
ここで、前記燃料極の気孔率としては、30%以上60%以下を採用でき、活性層の気孔率としては、15%以上30%未満を採用できる。この気孔率とは、開気孔と閉気孔とを合わせたものであり、JIS R 1600−4112に規定されている。尚、この気孔率は、走査型電子顕微鏡の試料断面の画像処理から求めることが可能である。
【0023】
(4)請求項4の発明は、空気極と、燃料極と、固体電解質層とを備えるとともに、前記燃料極と固体電解質層との間に活性層を備え、前記燃料極を支持基体とする支持膜型の固体電解質型燃料電池セルにおいて、前記活性層は、還元による体積収縮によって気孔を形成する酸化物を主成分とする還元前の層であり、前記還元前の前記活性層の気孔率KCが、5%以下であることを特徴とする。
【0024】
本発明は、還元前の固体電解質型燃料電池セルの構成を規定している。つまり、固体電解質型燃料電池セルの活性層は、例えばNiO等の酸化物が還元されてNi等に変化する際に、体積収縮が発生し、その結果、微細な空孔が生じるが、この還元による体積収縮前の構成を規定している。
【0025】
つまり、本発明の固体電解質型燃料電池セルを、実施に発電に使用する等により還元雰囲気に晒すと、前記請求項1〜3の発明の様な(燃料極の空孔の平均気孔径が活性層の空孔の平均気孔径より大である)固体電解質型燃料電池セルが得られる。従って、この還元前の固体電解質型燃料電池セルを用いることによって、前記請求項1〜3の発明と同様な効果を奏する。
【0026】
尚、請求項1〜3の発明は、この請求項4、5の還元前の固体電解質型燃料電池セルに対して、還元後の固体電解質型燃料電池セルと言うことができる。
(5)請求項5の発明は、前記燃料極の気孔率NCが、15%<NC≦30%であることを特徴とする。
【0027】
燃料極は、通常、上述した還元の前後でその気孔率が変化する。従って、ここでは、還元前の燃料極の気孔率を規定している。
(6)請求項6の発明は、前記燃料極の気孔の形状が、略球状であることを特徴とする。
【0028】
本発明は、気孔の好ましい形状を例示したものである。ここで、気孔の形状が略球状の場合は、燃料極組織全体において、気孔が均一に分布されやすく、燃料極内部のガス流れに偏りがなくなるという利点がある。尚、略球状とは、試料断面を鏡面研磨して観察したときに、鋭角の凸部を有しない気孔形状となっていればよい。
【0029】
(7)請求項7の発明では、前記活性層が、サーメットからなることを特徴とする。
本発明は、活性層の好ましい材料を例示したものである。
(8)請求項8の発明では、前記サーメットが、Ni粒子及びセラミックス粒子からなることを特徴とする。
【0030】
本発明は、サーメットの好ましい構成を例示したものである。
(9)請求項9の発明では、前記活性層の厚みが、5〜50μmであることを特徴とする。
【0031】
本発明は、活性層の好ましい厚みを例示したものである。この活性層の膜厚が、5〜50μmであると、発電性能に優れたセルとなるので望ましい。つまり、活性層の膜厚が、5μmを下回ると、固体電解質層に穴が発生し易くなり、50μmを上回ると、燃料極の通気性が悪くなって、発電性能が低下してしまうからである。
【0032】
(10)請求項10の発明は、前記請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解質型燃料電池セルを、複数個備えたことを特徴とする。
本発明は、(還元後の)複数の固体電解質型燃料電池セルからなる固体電解質型燃料電池スタックを例示したものである。
【0033】
(11)請求項11の発明は、前記請求項4〜6のいずれかに記載の固体電解質型燃料電池セルを、複数個備えたことを特徴とする。
本発明は、(還元前の)複数の固体電解質型燃料電池セルからなる固体電解質型燃料電池スタックを例示したものである。
【0034】
(12)請求項12の発明は、空気極と、燃料極と、固体電解質層とを備えるとともに、前記燃料極と固体電解質層との間に活性層を備え、前記燃料極を支持基体とする支持膜型の固体電解質型燃料電池セルの製造方法において、NiO粉末とセラミックス粉末と造孔材とを主成分とする燃料極用成形体と、NiO粉末とセラミックス粉末とを主成分とし造孔材を含まない活性層用成形体と、固体電解質粉末を主成分とする固体電解質層用成形体とを積層し、同時焼成して、固体電解質型燃料電池セルを形成することを特徴とする。
【0035】
本発明は、還元前の固体電解質型燃料電池セルの製造方法を例示している。従って、この固体電解質型燃料電池セルを、例えば実際に発電に供する等により、還元雰囲気に晒すことによって、前記請求項1〜3の(燃料極と活性層とで異なる空孔を有する)固体電解質型燃料電池セルを形成することができる。
【0036】
以下に、各成形体の形成方法について説明する。
・前記燃料極用成形体は、プレス成形、シート成形等の公知の方法で成形できる。特にシート成形法、つまり、スラリーをドクターブレード法等によりPETフィルム等の支持体上に塗布し、その後、スラリー中の溶剤成分を蒸発させることで作製されるグリーンシートを積層して成形する方法が望ましい。上記方法であると、容易に均質なサンプルが得られるからである。
【0037】
・前記活性層用成形体は、シート成形で作製した薄膜成形体を、上記燃料極成形体に圧着積層して成形することが望ましい。上記方法により、均質で欠陥が少なくかつ表面粗度の小さい活性層が得られるからである。活性層用成形体は、その表面粗度は小さいことが望ましい。表面粗度が大きくなると、その上に形成する固体電解質層に欠陥が発生し易いからである。
【0038】
・前記固体電解質層用成形体は、シート成形で作製した薄膜成形体を、活性層用成形体に圧着積層した燃料極用成形体に圧着積層して成形することが望ましい。上記方法により、均質で欠陥が少なくかつ表面粗度の小さい固体電解質層が得られるからである。固体電解質層用成形体の表面粗度は小さいことが望ましい。表面粗度が大きくなると、固体電解質を薄膜化した場合に、固体電解質に欠陥が発生し易いからである。
【0039】
尚、各成形体の製造に用いられる粉末の粒子径(平均粒子径)に関しては、活性層の粉末の粒子径としては、0.2〜0.8μm程度(例えば0.5μm)の粉末を使用でき、燃料極の粉末の粒子径としては、活性層の粉末の粒子径と同等(例えば0.5μm)かそれより大きな粒子径を採用できる。
【0040】
また、固体電解質型燃料電池セルの形状としては、以下に述べる様に、板状(平板形状)や筒状(円筒状)が挙げられる。
このうち、平板型セルについては、燃料極、活性層、固体電解質層等の各部の焼成時の収縮挙動(焼結挙動)ができるかぎり一致していることが望ましい。これは、焼成時の収縮挙動の相違は、平板型セルが反る要因となるためである。尚、収縮挙動とは、焼成時の温度変化に伴う収縮の状態(例えば収縮率)の変化のことである。
【0041】
一方、円筒形セルについては、焼成時の収縮の大きさ(収縮率)が、内側より、燃料極≧活性層≧固体電解質層の関係になっていると、固体電解質層が緻密で欠陥の無いものとなり易いので好適である。
【0042】
また、円筒形の固体電解質型燃料電池セルを製造する場合には、燃料極用成形体を押し出し成形により中空管形状とする方法を採用できる。押し出し成形は、中空管を形成する上で最も適した方法であり、大量生産にも適している。
【0043】
活性層用成形体を形成する場合は、造孔材を含まないスラリー中に燃料極成形体を浸漬し、一定速度で引き抜くことで、表面にディップコーティングすることが好ましい。ディップコーティングは、管状物に薄膜を欠陥なくコーティングするのに最も適している。
【0044】
固体電解質用成形体を形成する場合には、固体電解質用材料のスラリー中に、活性層成形体をコーティングした燃料極用成形体を浸漬し、一定速度で引き抜くことで、表面にディップコーティングすることが好ましい。
【0045】
尚、ここでは、燃料極と固体電解質層と活性層とに関して述べているが、通常は、焼成後の固体電解質層上に、空気極用成形体を形成し焼成して形成される。
(13)請求項13の発明は、前記造孔材として、前記燃料極成形体の材料粉末の製造工程でセラミックスより粉砕されにくい造孔材(例えば有機ビーズ)を用いることを特徴とする。
【0046】
例えば有機ビーズは、セラミックス等を含む材料粉末を粉砕する際に、殆ど粉砕されないため、セラミックス粒子の間隙に入り込まないことから、収縮挙動が乱されない。従って、同時焼成における収縮挙動を制御しやすいという効果がある。また、有機ビーズ等は粉砕されにくいため、焼成後に形成される気孔の径をコントロールし易いという利点がある。
【0047】
尚、有機ビーズとしては、ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンなどの高分子よりできた球状粒子を採用できる。また、造孔材の最大外径(球状の場合は直径)としては、例えば5〜10μmの範囲のものが、適度な寸法の気孔を形成できるので好適である。
【0048】
(14)請求項14の発明は、前記焼成後の固体電解質型燃料電池セルを、還元雰囲気中に配置し、前記活性層のNiO成分を還元させることによって体積収縮させて気孔を形成することを特徴とする。
【0049】
本発明では、還元後の固体電解質型燃料電池セルの製造方法を例示している。つまり、前記請求項12又は13の発明の方法で焼成された固体電解質型燃料電池セルを用い、発電中などに活性層の例えばNiOが還元されてNiになることによって、活性層に微細な気孔が形成される。
【0050】
この様に、前記請求項12〜14の発明では、造孔材で多孔化した燃料極多孔体と固体電解質層との間に、造孔材によって多孔化していない活性層を介在させている。この活性層は、NiOの還元収縮によって多孔化させるため、セル作製時(つまりNiOが還元されていない時点)は緻密膜である。このため、固体電解質層を完全に支持することができるので、固体電解質層に穴があくことがない。また、造孔材によって多孔化していない燃料極は通気性が悪くなるが、本発明では、活性層は、例えば50μm以下と極めて薄くできるため、十分なガス透過性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明の実施形態について説明する。
a)まず、固体電解質型燃料電池の基本構成である単セル(即ち固体電解質型燃料電池セル)について説明する。
【0052】
例えば図2に模式的に示す様に、固体電解質型燃料電池の基本構成である固体電解質型燃料電池セル11では、燃料ガス(例えば水素)に接する燃料極13と、燃料極より導電性に優れた活性層15と、酸素イオン導電性を有する固体電解質層17と、反応防止層19と、支燃性ガス(例えば空気中の酸素)に接触する空気極21とが、この順に積層されている。
【0053】
尚、この固体電解質型燃料電池セル11は、燃料極13が支持基体となるいわゆる支持膜式の固体電解質型燃料電池セル11である。
b)次に、単セルを複数備えた固体電解質型燃料電池のスタック(即ち固体電解質型燃料電池スタック)について説明する。
【0054】
例えば図3及び図4に示す様に、固体電解質型燃料電池スタック31は、上述した構成を有する固体電解質型燃料電池セル11が、複数個積層されたものである。
詳しくは、図4に示す様に、固体電解質型燃料電池スタック31では、固体電解質型燃料電池セル11を主要部とする発電層33が、金属製のセル間セパレータ35を介して、同図の上下方向に複数積層されている。尚、同図では、活性層15及び反応防止層19の記載は省略されてさいる。
【0055】
また、各固体電解質型燃料電池セル11の燃料極13は、燃料極側集電体37によりセル間セパレータ35(下端部では底体45)に電気的に接続されるとともに、各空気極21は、空気極側集電体39によりろう材41を介して他のセル間セパレータ35(上端部では蓋体43)に電気的に接続されている。
【0056】
更に、各発電層33は、燃料ガスの流路47と、支燃性ガスである空気の流路49とを隔離するための隔離セパレータ51を備える。また、それぞれの発電層33間を電気的に絶縁するため、セラミック等の絶縁体からなる枠体53が、積層方向の所定部分に配設されている。
【0057】
c)以下、固体電解質型燃料電池スタック31の各構成について詳細に説明する。
・「固体電解質層17」としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリアをドープしたセリア)、GDC(ガドリアをドープしたセリア)、ペロブスカイト系酸化物等が挙げられる。これらは、単一膜でもよいし、2種以上の組成が積層構造となっている多層膜でもよい。多層膜としては、例えばYSZ+SDC膜、YSZ+GDC膜などが挙げられる。
【0058】
この固体電解質層は、固体電解質型燃料電池の動作時に燃料極に導入される燃料ガス又は空気極に導入される支燃性ガスのうち一方の少なくとも一部をイオンとして移動させることができるイオン伝導性を有する。どのようなイオンを伝導することができるかは特に限定されないが、イオンとしては、例えば、酸素イオン及び水素イオン等が挙げられる。
【0059】
尚、固体電解質層の膜厚は、3〜20μmが好ましい。3μmを下回ると、薄膜化が難しく、欠陥のないセルが得られないからであり、20μmを上回ると、20μm以上であると、発電効率が悪くなるからである。
【0060】
・「燃料極13」は、水素源となる燃料ガスと接触し、単セルにおける負電極として機能する。
この燃料極としては、金属(特にNi)粒子とセラミックス粒子からなるサーメットを採用できる。
【0061】
金属としては、Ni以外に、Cu、Fe、Co、Ag、Pt、Pd、W、Mo、及びこれらの合金等を採用できる。
セラミックスとしては、ジルコニア、YSZ、ScSZ、SDC、GDC、アルミナ、シリカ、チタニアなどが挙げられる。特に、YSZ、ScSZ、SDC、GDCが望ましい。これらは、酸素イオン導電性があり、燃料極の電気化学的活性を高めるからである。
【0062】
また、前記サーメットにおける金属(特にNi)の含有量としては、サーメット全体量を100体積%としたとき、20〜45体積%(特に30〜35体積%)が望ましい。20体積%を下回ると、導電率が低下し、45体積%を上回ると、通気性のある組織が得られないからである。
【0063】
燃料極の厚みは、500〜2000μmであることが好ましい。500μmを下回ると、セルに十分な強度が得られず、発電中に破壊してしまう恐れがあるからであり、2000μmを上回ると、燃料の通気性が悪くなり、発電効率が低下する恐れがあるからである。
【0064】
・「活性層15」は、燃料極に接して配置されて、電気化学的活性を高める機能を有する。
この活性層としては、前記燃料極と同様に、金属(Ni)粒子とセラミックス粒子からなるサーメットを採用できる。
【0065】
金属としては、Ni以外に、Cu、Fe、Co等を採用できる。つまり、この金属の酸化物が還元収縮によって気孔を形成することができる材料を使用する。具体的には、金属酸化物として、NiO、CuO、Cu2O、FeO、Fe23、Fe34、CoO、Co34等を採用できる。
【0066】
セラミックスとしては、ジルコニア、YSZ、ScSZ、SDC、GDC、アルミナ、シリカ、チタニアなどが挙げられる。特に、YSZ、ScSZ、SDC、GDCが望ましい。
【0067】
また、前記サーメットにおける金属(特にNi)の含有量としては、サーメット全体量を100体積%としたとき、20〜45体積%(特に30〜35体積%)が望ましい。20体積%を下回ると、導電率が低下し、45体積%を上回ると、通気性のある組織が得られないからである。
【0068】
特に、活性層の導電性(従って活性)を燃料極より高めるために、サーメットにおけるNi等の金属の含有量を、燃料極よりも活性層の方を多くすることが好ましい。
また、活性層の厚みは、5〜50μmである、これは、上述した様に、活性層の厚みが、5μmを下回ると、固体電解質層に穴が発生し易くなり、50μmを上回ると、燃料極の通気性が悪くなって、発電性能が低下してしまうからである。
【0069】
・「空気極21」は、酸素源となる支燃性ガスと接触し、単セルにおける正電極として機能する。
空気極の材料としては、固体電解質形燃料電池の使用条件等により適宜選択することができる。この材料としては、例えば金属、金属の酸化物、金属の複合酸化物等を用いることができる。金属としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Ru等の金属又は2種以上の金属を含有する合金が挙げられる。
【0070】
更に、金属の酸化物としては、例えば、La、Sr、Ce、Co、Mn、Fe等の酸化物(例えば、La23、SrO、Ce23、Co23、MnO2、FeO等)が挙げられる。また、複酸化物としては、La、Pr、Sm、Sr、Ba、Co、Fe、Mn等のうちの少なくとも1種を含有する各種の複合酸化物(例えば、La1-xSrxCoO3系複合酸化物、La1-xSrxFeO3系複合酸化物、La1-xSrxCo1-yFey3系複合酸化物、La1-xSrxMnO3系複合酸化物、Pr1-xBaxCoO3系複合酸化物、Sm1-xSrxCoO3系複合酸化物等)が挙げられる。
【0071】
・「反応防止層19」としては、CeO及び希土類元素を主成分とする材料を採用できる。尚、材料全体がCeO及び希土類元素で構成されていてもよい。
・「燃料極側集電体37」の材質は、金属が好ましく、例えばNi又はNi基合金等により形成することができる。
【0072】
・「空気極側集電体39」の材質は、金属及び導電性セラミックを用いることができる。
空気極側集電体は一面で空気極と接触し、他面でセル間セパレータと接触するように設けることができる。また、セル間セパレータと接触する面の少なくとも一部において、空気極側集電体及びセル間セパレータをろう材等の接合材を用いて接合することができる。
【0073】
・「隔離セパレータ51」は、発電層に供給する燃料ガス及び支燃性ガスが混合しないように隔離するための平板状のセパレータである。この材質としては、鉄などの金属が挙げられる。
【0074】
・「セル間セパレータ35」の材質は、金属、特に、ステンレス鋼、ニッケル基合金、クロム基合金等の耐熱合金により形成される。
・「燃料ガス」は、水素、水素源となる炭化水素、水素と炭化水素との混合ガス、及びこれらのガスを所定温度の水中を通過させ加湿した燃料ガス、これらのガスに水蒸気を混合させた燃料ガス等が挙げられる。
【0075】
炭化水素は特に限定されず、例えば、天然ガス、ナフサ、石炭ガス化ガス等が挙げられる。更に、メタン、エタン、プロパン、ブタン及びペンタン等の炭素数が1〜10、好ましくは1〜7、より好ましくは1〜4の飽和炭化水素、並びにエチレン及びプロピレン等の不飽和炭化水素を主成分とするものが好ましく、飽和炭化水素を主成分とするものが更に好ましい。これらの燃料ガスは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用することもできる。また、窒素及びアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。
【0076】
・「支燃性ガス」は、酸素と他の気体との混合ガス等が挙げられる。また、この混合ガスには80体積%以下の窒素及びアルゴン等の不活性ガスが含有されていてもよい。これらの支燃性ガスのうちでは安全であって、且つ安価であるため空気(約80体積%の窒素が含まれている。)が好ましい。
【実施例】
【0077】
次に、本発明の効果を確認するための試験に用いた実施例及び(本発明の範囲外の)比較例について説明する。
a)まず、試験に用いるサンプルのグリーンシートの作製方法について説明する。
【0078】
・燃料極基体用グリーンシートの作製
NiO粉末(60重量部)とYSZ粉末(40重量部)との混合粉末(100重量部)に対して、造孔材である有機ビーズ(混合粉末に対して10重量%)と、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整した。得られたスラリーをドクターブレード法により、厚さ250μmの燃料極基体用グリーンシートを作製した。
【0079】
・活性層用グリーンシートの作製
NiO粉末(60重量部)とYSZ粉末(40重量部)との混合粉末(100重量部)に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整した。得られたスラリーをドクターブレード法により、厚さ10μmの活性層用グリーンシートを作製した。
【0080】
・固体電解質層用グリーンシートの作製
YSZ粉末(100重量部)に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整した。得られたスラリーをドクターブレード法により、厚さ10μmの固体電解質層用グリーンシートを作製した。
【0081】
b)次に、前記グリーンシートによって作製されたサンプルを用いて行う試験について説明する。
<固体電解質層の穴発生評価>
・サンプル作製
燃料極基体用グリーンシート6枚と、活性層用グリーンシート所定枚数(下記表1に示す)と、固体電解質層用グリーンシート1枚とを積層し、150×150mm角に切り出して積層成形体を作製した。この積層成形体を、250℃で脱脂した後、1350℃で焼成して、固体電解質層の穴発生評価用サンプルを作製した。
【0082】
尚、比較例1のサンプルは、活性層が無いものであり、比較例2は、燃料極の気孔率が小さくなる様に、燃料極用グリーンシートに加える造孔材の量を設定したもの(実施例の造孔材0重量%に設定)である(以下同様)。
【0083】
・穴発生評価
得られた評価用サンプルの固体電解質層上に、レッドチェック液を塗布し、5分放置した後に、洗浄して、レッドチェック液の染み込み目視観察した。その結果を、下記表1に記す。
【0084】
<燃料極の通気性評価>
・サンプル作製
燃料極基体用グリーンシート6枚と、活性層用グリーンシート所定枚数(下記表1に示す)とを積層し30×30mm角に切り出して、積層成形体を作製した。この積層成形体を、250℃で脱脂した後、1350℃で焼成して、燃料極の通気性評価用サンプルを作製した。
【0085】
・通気性評価
得られた評価用サンプルを、JIS K 7126の気体透過度の試験方法に準じて、通気率(=気体透過度)を測定した。その結果を、下記表1に記す。
【0086】
<平均気孔径評価>
・サンプル作製
前記通気性評価で用いるサンプルと同様なサンプルを作成した。
【0087】
具体的には、前記焼成体を、還元前の平均気孔径評価用サンプルとした。また、この焼結体を、700℃のH2雰囲気に1時間晒して活性層を還元し、還元後の平均気孔径評価用サンプルとした。
【0088】
・平均気孔径評価
得られた還元前及び還元後の評価用サンプルの表面を鏡面研磨し、その表面を走査型電子電子顕微鏡(SEM:2000倍)で観察し、その画像(SEM画像)に基づいて、空孔の平均気孔径を求めた。その結果を、下記表2に記す。
【0089】
<開気孔率評価>
・サンプル作製
燃料極基体用グリーンシート6枚積層品と、活性層用グリーンシート30枚積層品とを、それぞれ30×30mm角に切り出して、積層成形体を作製した。それぞれの積層成形体を、250℃で脱脂した後、1350℃で焼成した。
【0090】
この焼成体を、還元前の開気孔率評価用サンプルとした。また、この焼結体を、700℃のH2雰囲気に1時間晒して活性層を還元し、還元後の開気孔率評価用サンプルとした。
【0091】
・開気孔率評価
得られた還元前及び還元後の評価用サンプルを、JIS C 2141の見かけ気孔率の試験方法に従い、開気孔率を測定した。その結果を、下記表2に記す。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
この表1、2から明かな様に、本実施例1〜4では、燃料極の空孔の平均気孔率が活性層の空孔の平均気孔径より大であるので、固体電解質層に穴は発生しなかった。それに対して、比較例1は、活性層が無いので、固体電解質層に穴が発生し好ましくない。また、比較例2は、燃料極及び活性層の平均気孔径(及び開気孔率)は、同程度に小さいので、固体電解質層に穴があかなかったものの、通気性が悪く好ましくない。
【0095】
尚、本発明は前記実施例等になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】固体電解質型燃料電池セルの各層の状態を破断して示す模式図である。
【図2】固体電解質型燃料電池セルを破断して示す模式図である。
【図3】固体電解質型燃料電池スタックを示す斜視図である。
【図4】図2のA−A断面図である。
【符号の説明】
【0097】
11…固体電解質型燃料電池セル
1、13…燃料極
3、15…活性層
5、17…固体電解質層
7、21…空気極
33…固体電解質型燃料電池スタック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極と、燃料極と、固体電解質層とを備えるとともに、前記燃料極と固体電解質層との間に活性層を備え、前記燃料極を支持基体とする支持膜型の固体電解質型燃料電池セルにおいて、
前記燃料極の空孔の平均気孔径NAが、前記活性層の空孔の平均気孔径KAより大であることを特徴とする固体電解質型燃料電池セル。
【請求項2】
前記燃料極の空孔の平均気孔径NAが、1.0μm<NA≦10μmであり、前記活性層の空孔の平均気孔径KAが、0.1μm≦KA≦1.0であることを特徴とする前記請求項1に記載の固体電解質型燃料電池セル。
【請求項3】
前記燃料極の開気孔率NBが、25%<NB≦60%であり、前記活性層の開気孔率KBが、10%≦KB≦25%であることを特徴とする前記請求項1又は2に記載の固体電解質型燃料電池セル。
【請求項4】
空気極と、燃料極と、固体電解質層とを備えるとともに、前記燃料極と固体電解質層との間に活性層を備え、前記燃料極を支持基体とする支持膜型の固体電解質型燃料電池セルにおいて、
前記活性層は、還元による体積収縮によって気孔を形成する酸化物を主成分とする還元前の層であり、前記還元前の前記活性層の気孔率KCが、5%以下であることを特徴とする固体電解質型燃料電池セル。
【請求項5】
前記燃料極の気孔率NCが、15%<NC≦40%であることを特徴とする前記請求項4に記載の固体電解質型燃料電池セル。
【請求項6】
前記燃料極の気孔の形状が、略球状であることを特徴とする前記請求項4又は5に記載の固体電解質型燃料電池セル。
【請求項7】
前記活性層が、サーメットからなることを特徴とする前記請求項1〜6に記載の固体電解質型燃料電池セル。
【請求項8】
前記サーメットが、Ni粒子及びセラミックス粒子からなることを特徴とする前記請求項7に記載の固体電解質型燃料電池セル。
【請求項9】
前記活性層の厚みが、5〜50μmであることを特徴とする前記請求項1〜8のいずれかに記載の固体電解質型燃料電池セル。
【請求項10】
前記請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解質型燃料電池セルを、複数個備えたことを特徴とする固体電解質型燃料電池スタック。
【請求項11】
前記請求項4〜6のいずれかに記載の固体電解質型燃料電池セルを、複数個備えたことを特徴とする固体電解質型燃料電池スタック。
【請求項12】
空気極と、燃料極と、固体電解質層とを備えるとともに、前記燃料極と固体電解質層との間に活性層を備え、前記燃料極を支持基体とする支持膜型の固体電解質型燃料電池セルの製造方法において、
NiO粉末とセラミックス粉末と造孔材とを主成分とする燃料極用成形体と、NiO粉末とセラミックス粉末とを主成分とし造孔材を含まない活性層用成形体と、固体電解質粉末を主成分とする固体電解質層用成形体とを積層し、同時焼成して、固体電解質型燃料電池セルを形成することを特徴とする固体電解質型燃料電池セルの製造方法。
【請求項13】
前記造孔材として、前記燃料極成形体の材料粉末の製造工程でセラミックスより粉砕されにくい造孔材を用いることを特徴とする前記請求項12に記載の固体電解質型燃料電池セルの製造方法。
【請求項14】
前記焼成後の固体電解質型燃料電池セルを、還元雰囲気中に配置し、前記活性層のNiO成分を還元させることによって体積収縮させて気孔を形成することを特徴とする前記請求項12又は13に記載の固体電解質型燃料電池セルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−165143(P2007−165143A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360516(P2005−360516)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】