説明

固体高分子電解質膜の製造方法及び固体高分子電解質膜並びに燃料電池

【解決手段】フッ素系樹脂からなる薄膜に放射線を照射して、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーとをグラフト重合させた後、アルコキシシリル基を反応させ、イオン伝導性基を導入する燃料電池用の固体高分子電解質膜の製造であって、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーの配合比率を90/10〜60/40(モル比)でグラフト重合を行うことを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法。
【効果】本発明によれば、溶液のゲル化を起こすことなく、化学的安定性及び寸法安定性に優れ、メタノール透過度を低減し、しかも脆性の改善した固体高分子電解質膜を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートPC、PDA、携帯電話等の携帯情報機器の高性能化に伴い、小型高容量の電源が求められている。その有力な候補としてダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)への期待が高まっている。DMFCはメタノールと酸素の化学反応から直接電気エネルギを取り出す燃料電池であり、理論上の体積エネルギ密度が高く、燃料補給により連続的に使用できるという特長がある。
【0003】
初期の固体高分子電解質膜型燃料電池では、スチレンとジビニルベンゼンとを共重合させて製造した炭化水素系樹脂のイオン交換膜が電解質膜として使用されていた。しかし、この電解質膜は、耐久性が低く、工程も複雑であること等から、放射線グラフト重合法により製造することが行われている(例えば、特許文献1:特開2001−348439号公報、特許文献2:特開2002−313364号公報、特許文献3:特開2003−82129号公報参照)。この放射線グラフト重合法による固体高分子電解質膜は、化学的安定性向上(長寿命)、寸法安定性向上(低膨潤)、メタノール透過度低減に有利であるものの、架橋剤にジビニルベンゼンやビスアクリルアミド等の多官能重合性モノマーを使うと、グラフト反応時に溶液がゲル化するという問題がある。実験室スケールではゲル除去は容易であるが、工場スケールの連続生産ではかなりの困難が生じる可能性がある。
【0004】
また、パーフルオロ系電解質膜にアルコキシシランを含浸させ、加水分解・脱水縮合させてイオンチャンネル中にシリカを析出させることで、メタノール透過度を低減することが検討されている(例えば、非特許文献1:Journal of Applied Polymer Science, Vol.68, 747−763 (1998)参照)。しかし、シリカと電解質膜の間に化学結合がないため、安定性に問題が生じる可能性がある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−348439号公報
【特許文献2】特開2002−313364号公報
【特許文献3】特開2003−82129号公報
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science, Vol.68, 747−763(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、溶液のゲル化を起こすことなく、化学的安定性及び寸法安定性に優れ、メタノール透過度を低減し、しかも脆性の改善した固体高分子電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、先に放射線グラフト重合法により、溶液のゲル化を起こすことなく、化学的安定性及び寸法安定性に優れ、メタノール透過度を低減した固体高分子電解質膜を提供するために、フッ素系樹脂からなる薄膜に放射線を照射して、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーとをグラフト重合させた後、アルコキシシリル基を反応、イオン伝導性基を導入する燃料電池用の固体高分子電解質膜を提案した(特願2005−135056号)。
【0008】
しかしながら、上記イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーとをグラフト重合させた後、アルコキシシリル基を反応させ、イオン伝導性基を導入する燃料電池用の固体高分子電解質膜は、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーの配合比率が50/50(モル比)と多量のアルコキシシリル基を配合してグラフト重合を行っているため、アルコキシシリル基を反応させた後、脆性が悪くなり、燃料電池として使用する場合に、取り扱いが難しくなるという問題があった。
【0009】
本発明者らは、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーとをグラフト重合させた後、アルコキシシリル基を反応させ、イオン伝導性基を導入する燃料電池用の固体高分子電解質膜の脆性を改善する方法を検討した結果、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーの配合比率とアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーを90/10〜60/40(モル比)でグラフト重合させることにより、脆性が改善し、溶液のゲル化がなく、メタノール透過性が良好な電解質膜となることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は下記固体高分子電解質膜及びその製造方法並びに燃料電池を提供する。
(1)フッ素系樹脂からなる薄膜に放射線を照射して、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーとをグラフト重合させた後、アルコキシシリル基を反応させ、イオン伝導性基を導入する燃料電池用の固体高分子電解質膜の製造であって、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーの配合比率を90/10〜60/40(モル比)でグラフト重合を行うことを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法。
(2)グラフト重合後にグラフト膜を加熱処理することによりアルコキシシリル基を反応させることを特徴とする(1)記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(3)フッ素系樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種である(1)又は(2)記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(4)アルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーが、同分子中にスチリル基を有する重合性モノマーであることを特徴とする(1),(2)又は(3)記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(5)(1)〜(4)のいずれか1項記載の製造方法で製造されたことを特徴とする固体高分子電解質膜。
(6)(5)記載の固体高分子電解質膜が燃料極と空気極との間に設けられていることを特徴とする燃料電池。
(7)メタノールを燃料とするダイレクトメタノール型であることを特徴とする(6)記載の燃料電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶液のゲル化を起こすことなく、化学的安定性及び寸法安定性に優れ、メタノール透過度を低減し、しかも脆性の改善した固体高分子電解質膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る固体高分子電解質膜の製造方法は、フッ素系樹脂からなる薄膜に放射線を照射して、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーとをグラフト重合させた後、アルコキシシリル基を反応させ、イオン伝導性基を導入するものである。
【0013】
更に詳述すると、上記放射線を照射したフッ素系樹脂膜に重合性モノマーをグラフト重合させて固体高分子電解質膜を製造する方法としては、
樹脂膜に放射線を照射する工程と、
放射線を照射した樹脂膜に、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有する重合性モノマーを併用して、又はこれら重合性モノマーと他の重合性モノマーをグラフト重合する工程と、
アルコキシシリル基の反応により架橋する工程と、
重合性モノマーがイオン伝導性基を持たないモノマーの場合は、イオン伝導性基を導入する工程と
を採用することが好ましい。
【0014】
ここで、フッ素系樹脂膜としては、フッ素系樹脂からなるフィルムやシートを用いることが好ましい。フッ素系樹脂の中でも、膜物性に優れ、更に放射線グラフト重合法に適することから、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体が好ましい。これらの樹脂はそれぞれ単独で使用してもよく、適宜組み合わせて使用してもよい。
【0015】
また、樹脂膜の膜厚は10〜200μmが好ましく、20〜100μmがより好ましい。
【0016】
上記の樹脂膜には、まず、例えば室温にて放射線が照射される。放射線としては、電子線、γ線、X線が好ましく、電子線が特に好ましい。照射量は、放射線の種類、更には樹脂膜の種類及び膜厚にもよるが、例えば、上記のフッ素系樹脂膜に電子線を照射する場合1〜200kGyが好ましく、1〜100kGyがより好ましい。
【0017】
更に、放射線の照射は、ヘリウム、窒素、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行うのが好ましく、該ガス中の酸素濃度は100ppm以下、特に50ppm以下が好ましいが、必ずしも酸素不在下で行う必要はない。
【0018】
次いで、上記の放射線照射された樹脂膜は、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有する重合性モノマー又はこれらを含む重合性モノマーによりグラフト化される。
【0019】
この場合、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、トリフルオロスチレン等のスチレンモノマー等が挙げられる。またイオン伝導性基を付与可能な前駆体を有する化合物、例えばp−クロロスルホニルスチレン、アリルグリシジルエーテル、臭化アリル、2−アリロキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルホニルフロライド等であってもよい。
【0020】
なお、上記イオン伝導性基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられるが、スルホン酸基であることが好ましく、また化学反応によりイオン伝導性基に転換される前駆体基としては、アシルオキシ基、エステル基(−COOR:Rは一価炭化水素基)、酸イミド基、ハロゲン化スルホニル基、グリシジル基等が挙げられる。この前駆体基は、例えば、水酸化ナトリウム、メタノール又は亜硫酸ナトリウムと化学反応してカルボン酸基又はスルホン酸基を形成するものである。これらの化合物は、単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0021】
アルコキシシリル基を有する重合性モノマーとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(アクリロキシエトキシ)プロピルトリメトキシシラン、γ−(アクリロキシエトキシ)プロピルトリエトキシシラン、γ−(メタクリロキシエトキシ)プロピルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシエトキシ)プロピルトリエトキシシラン、ヘキセニルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリエトキシシラン、デセニルトリメトキシシラン、デセニルトリエトキシシラン等を挙げることができる。中でも、分子中にビニルフェニル基を有するトリメトキシシリルスチレン、トリエトキシシリルスチレン、ビニルベンジルトリメトキシシラン、ビニルベンジルトリエトキシシラン、ビニルフェネチルトリメトキシシラン、ビニルフェネチルトリエトキシシラン等は、グラフト膜中のアルコキシシリル基の含有量を大幅に高めることができるため好ましく、特にスチリル基を有するラジカル重合性モノマーが好ましい。これらのアルコキシシリル基を有する重合性モノマーは、単独で使用してもよく、適宜組み合わせて使用することもできる。
【0022】
また、その他の重合性モノマーは、一官能重合性モノマーが好ましく、例えば、スルホン酸基、スルホン酸アミド基、カルボン酸基、リン酸基、四級アンモニウム塩基等のイオン伝導性基を持つモノマー(アクリル酸ナトリウム、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム等)を単独で、もしくは適宜組み合わせて使用できる。また、官能基の反応性の差を利用すれば多官能重合性モノマーを使用することも可能である。
【0023】
この場合、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマー(A)とアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマー(B)の配合比率(A)/(B)は、90/10〜60/40(モル比)、好ましくは90/10〜70/30であり、(A)/(B)が90/10より大きいと、シラン架橋による効果が得られず、60/40より小さいと、膜の脆性が悪くなる。
【0024】
なお、上記他の重合性モノマーは、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーの合計100モル%に対し0〜900モル%であることが好ましい。
【0025】
グラフト化の方法は、例えば、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーと、アルコキシシリル基を有する重合性モノマーと、必要によりその他の重合性モノマーとを含む溶液に、放射線照射された樹脂膜を浸漬し、窒素雰囲気下で50〜80℃に10〜20時間加熱すればよい。また、グラフト率は10〜100%が好ましい。
【0026】
ここで、放射線を照射した樹脂にグラフトする重合性モノマーの使用量は、樹脂フィルム100質量部に対して重合性モノマーを1,000〜100,000質量部、特に4,000〜20,000質量部使用することが好ましい。モノマーが少なすぎると接触が不十分になる場合があり、多すぎるとモノマーが効率的に使用できなくなるおそれがある。
【0027】
これら重合性モノマーをグラフト重合するに際しては、アゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤を本発明の目的を損なわない範囲で適宜用いてもよい。
【0028】
更に、グラフト反応時に溶媒を用いることができ、溶媒としては、モノマーを均一に溶解するものが好ましく、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環族炭化水素、あるいはこれらの混合溶媒を用いることができる。モノマー/溶媒(質量比)は0.01〜1が望ましい。モノマー/溶媒(質量比)が1より大きいとグラフト鎖のモノマーユニット数の調整が困難になり、0.01より小さいと、グラフト率が低くなりすぎる場合がある。更に望ましい範囲は0.03〜0.5である。
【0029】
上記のグラフト化された樹脂膜は、次いで、アルコキシシリル基の反応、例えば加水分解及び脱水縮合による架橋が施される。加水分解は、例えば、グラフト化された樹脂膜を、塩酸とジメチルホルムアミド(DMF)との混合溶液に、室温で10〜20時間浸漬すればよい。また、脱水縮合は、加水分解後の樹脂膜を、減圧(通常、1〜10Torr)中もしくは大気圧下、不活性ガス雰囲気中で100〜200℃で数時間(通常、2〜8時間)加熱すればよい。この際、反応を温和な条件で進めるため、ジラウリン酸ジブチル錫等の錫系触媒を使用することもできる。
【0030】
更に、イオン伝導性基を持たないモノマー(例えば、上記スチレンモノマー)の場合はグラフト鎖にスルホン酸基、カルボン酸基、四級アンモニウム塩基等のイオン伝導性基を導入することで、本発明の固体高分子電解質膜が得られる。スルホン酸基の導入方法は、従来と同様であり、例えば、クロルスルホン酸やフルオロスルホン酸と接触させてスルホン化すればよい。なお、脱水縮合の前にスルホン化を行い、加水分解を省略することもできる。
【0031】
また、グラフト化された樹脂膜をアルコキシシランに浸漬し、グラフト鎖のアルコキシシリル基と共加水分解及び共脱水縮合することにより、更に架橋密度を高めることができる。アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等を挙げることができる。この場合、アルコキシシランの使用量は、樹脂膜100質量部に対しアルコキシシランを1,000〜10,000質量部使用し、樹脂膜中にアルコキシシランを0.1〜20質量%含浸させることが好ましい。
【0032】
このようにして得られた固体高分子電解質膜は、架橋密度が高まり、水膨潤度及びメタノール透過度が大幅に低減したものとなる。この場合、上述したように、水透過係数がメタノール透過係数より大きく、通常、水透過係数がメタノール透過係数の3倍以上、特に3〜30倍である。
【0033】
本発明においては、上記固体高分子電解質膜に常法により燃料極及び空気極となる触媒電極を接合し、燃料電池を得ることができる。この場合、触媒電極は、多孔質電極基材と触媒層とから形成される。多孔質電極基材としては、カーボンペーパー、カーボンクロス等が好適に用いられる。また、触媒層は、白金族金属系触媒粒子及び固体高分子電解質を含むものが好ましい。
【0034】
燃料電池の種類は特に制限されないが、メタノール透過度が低いため、ダイレクトメタノール型燃料電池とする構成が好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0036】
[実施例1]スチレン(St)/トリメトキシシリルスチレン(MOSS)共グラフト(60/40)
縦5cm、横6cm、厚さ25μmのエチレン−テトラフルオロエチレン共重合膜(ETFE膜,ノートン社製)に、低電圧電子線照射装置(岩崎電気社製ライトビームL)で窒素雰囲気中30kGy電子線を照射した(加速電圧100kV)。そして、三方コックを付けた25mL試験管に、電子線を照射したETFE膜、並びにSt 4.93g、MOSS 7.07g、開始剤(アゾビスイソブチロニトリル,AIBN)0.003g、トルエン12gを入れ、室温で1時間窒素バブリングした後、三方コックを閉じ、63℃オイルバス中で16時間グラフト重合した。
【0037】
一方、2モル塩酸(HCl)3gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)22gを混合し、HCl/H2O+DMF溶液を調製した。
500mLビーカーに、St/MOSS共グラフト膜と、HCl/H2O+DMF溶液とを入れ、室温で12時間浸漬した。次に、各St/MOSS共グラフト膜を減圧(5Torr)中200℃で6時間加熱させて架橋し、St/MOSS共グラフト架橋膜を得た。
クロロスルホン酸とジクロロエタンを混合して0.2モルのクロロスルホン酸/ジクロロエタン溶液を調製した。そして、ジムロート冷却管を付けた500mLセパラブルフラスコに、St/MOSS共グラフト架橋膜と、0.2モルのクロロスルホン酸/ジクロロエタン溶液を入れ、50℃オイルバス中で6時間クロロスルホン化した後、ジクロロエタンと純水で洗浄し、100℃で2時間減圧乾燥した。次いで、クロロスルホン化したSt/MOSS共グラフト架橋膜を純水中、50℃で24時間浸漬してH型電解質膜を得た。
【0038】
[実施例2]St/MOSS共グラフト(70/30)
グラフト重合の際に電子線を3kGy、グラフト液配合比率をSt 6.24g、MOSS 5.76g、開始剤(AIBN)0.003g、トルエン12gとした以外は実施例1と同じ製造方法で固体高分子電解質膜を作製した。
【0039】
[実施例3]St/MOSS共グラフト(80/20)
グラフト重合の際に電子線を2kGy、グラフト液配合比率をSt 7.8g、MOSS 4.2g、開始剤(AIBN)0.003g、トルエン12gとした以外は実施例1と同じ製造方法で固体高分子電解質膜を作製した。
【0040】
[実施例4]St/MOSS共グラフト(90/10)
グラフト重合の際に電子線を1.5kGy、グラフト液配合比率をSt 9.68g、MOSS 2.32g、開始剤(AIBN)0.003g、トルエン12gとした以外は実施例1と同じ製造方法で固体高分子電解質膜を作製した。
【0041】
[比較例1]St単独グラフト
縦5cm、横6cm、厚さ25μmのETFE膜(ノートン社製)に、低電圧電子線照射装置(岩崎電気社製ライトビームL)で窒素雰囲気中1kGy電子線を照射した(加速電圧100kV)。そして、三方コックを付けた25mL試験管に、電子線を照射したETFE膜、並びにSt 12g、開始剤(AIBN)0.003g、トルエン12gを入れ、室温で1時間窒素バブリングした後、三方コックを閉じ、63℃オイルバス中で16時間グラフト重合してSt単独グラフト膜を得た。
クロロスルホン酸とジクロロエタンを混合して0.2モルのクロロスルホン酸/ジクロロエタン溶液を調製した。そして、ジムロート冷却管を付けた500mLセパラブルフラスコに、St単独グラフト膜と、0.2モルのクロロスルホン酸/ジクロロエタン溶液を入れ、50℃オイルバス中で6時間クロロスルホン化した後、ジクロロエタンと純水で洗浄し、100℃で2時間減圧乾燥した。次いで、クロロスルホン化したSt単独グラフト膜を純水中、50℃で24時間浸漬してH型電解質膜を得た。
【0042】
[比較例2]St/MOSS共グラフト(50/50)
グラフト重合の際に電子線を10kGy、グラフト液配合比率をSt 3.81g、MOSS 8.19g、開始剤(AIBN)0.003g、トルエン12gとした以外は実施例1と同じ製造方法で固体高分子電解質膜を作製した。
【0043】
[比較例3]St/MOSS共グラフト(95/5)
グラフト重合の際に電子線を1kGy、グラフト液配合比率をSt 10.78g、MOSS 1.22g、開始剤(AIBN)0.003g、トルエン12gとした以外は実施例1と同じ製造方法で固体高分子電解質膜を作製した。
【0044】
(特性評価)
実施例1〜4及び比較例1〜3の各電解質膜の特性を下記の方法により測定した。結果を表1に示す。
(1)グラフト率
グラフト前後の膜質量変化から次式によりグラフト率を求めた。
グラフト率(%)=(グラフト後膜質量−グラフト前膜質量)/グラフト前膜質量×100
(2)メタノール透過度
10モルメタノール水と純水とを電解質膜で隔離し、室温でメタノール水側から電解質膜を透過して純水側に出てきたメタノール量をガスクロマトグラフィーで定量して求めた。
(3)イオン伝導度
インピーダンスアナライザ(ソーラトロン社製1260)を使い、4端子交流インピーダンス法により室温で短冊状サンプル(幅1cm)の長手方向の抵抗を測定して求めた。
(4)引っ張り強度及び破断伸びの測定
電解質膜を純水中に浸漬した後、水浸漬状態で引っ張り速度50mm/minの条件で測定した。
【0045】
【表1】

【0046】
上記の実施例と比較例から、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーとをグラフト重合させた後、アルコキシシリル基を反応させ、イオン伝導性基を導入する燃料電池用の固体高分子電解質膜の製造において、アルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーとイオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーの配合比率が100/0、95/5(モル比)でグラフト重合を行なったグラフト膜はメタノール透過度が大きく、また、50/50でグラフト重合を行ったグラフト膜は伸びが非常に低いのに対して、60/40〜90/10でグラフト重合を行ったグラフト膜はメタノール透過度が小さく、取り扱いが容易な電解質膜となることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂からなる薄膜に放射線を照射して、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーとをグラフト重合させた後、アルコキシシリル基を反応させ、イオン伝導性基を導入する燃料電池用の固体高分子電解質膜の製造であって、イオン伝導性基を導入可能なラジカル重合性モノマーとアルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーの配合比率を90/10〜60/40(モル比)でグラフト重合を行うことを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
グラフト重合後にグラフト膜を加熱処理することによりアルコキシシリル基を反応させることを特徴とする請求項1記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
フッ素系樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項4】
アルコキシシリル基を有するラジカル重合性モノマーが、同分子中にスチリル基を有する重合性モノマーであることを特徴とする請求項1,2又は3記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の製造方法で製造されたことを特徴とする固体高分子電解質膜。
【請求項6】
請求項5記載の固体高分子電解質膜が燃料極と空気極との間に設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
メタノールを燃料とするダイレクトメタノール型であることを特徴とする請求項6記載の燃料電池。

【公開番号】特開2007−329066(P2007−329066A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160662(P2006−160662)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】