説明

固定床多管式反応器

【課題】反応器内部における温度差を充分に小さくできる上に、反応器の内部空間を充分に利用でき、また、反応管の本数と太さが制限されない固定床多管式反応器を提供する。
【解決手段】本発明の固定床多管式反応器は、シェル部10の内部に、シェル部10の内径より直径が小さい円板の一部が欠けた形状の欠円型邪魔板20aが設けられた固定床多管式反応器であって、欠円型邪魔板20aの円周端部22とシェル部10の内壁10aとの間の空隙Aの面積をS、円板の一部が欠けることによって形成された欠円型邪魔板20aの端部21とシェル部10の内壁10aとの間の空隙Bの面積をSとした際に、面積比S/Sが0.001〜0.2の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体状の触媒を用いた気相接触酸化反応が行われる固定床多管式反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
固体状の触媒を用いた気相接触酸化反応においては、固定床多管式反応器が広く使用されている。
固定床多管式反応器は、流動する熱媒体を収容する円筒状のシェル部と、該シェル部の内部に設置された多数本の反応管と、シェル部の内部に設けられ、熱媒体が水平に移動した後に上昇するように熱媒体の流動を規制する邪魔板とを具備し、発熱反応によって生じた反応熱を、前記反応管の外側を流動する熱媒体によって除去する。
ところで、固定床多管式反応器を使用して発熱反応を行う際には、熱媒体の偏流、局所的な反応の進行により、反応器の内部で大きな温度差が生じる場合がある。反応器の内部で大きな温度差が生じると、反応管ごとの反応量、触媒劣化速度に大きな差が生じるため、目的の収率を得るための運転条件、触媒を交換する時期の決定が困難となった。さらに、局所的な高温帯が発生すると、暴走反応を起こし、触媒が失活して交換を余儀なくされたり、反応器が損傷して修繕が必要になることがあった。そのため、生産性が低下し、コストが増大した。
【0003】
そこで、特許文献1〜3では、反応器の内部での温度差を小さくする方法が提案されている。
すなわち、特許文献1には、シェル部の内部の反応管よりも外側に、反応管と平行に整流棒群を設けた固定床多管式反応器が提案されている。
特許文献2には、邪魔板として、円板の一部が欠けた形状の欠円型邪魔板を使用し、一部の反応管を邪魔板のない欠円部を通るように配置し、残りの反応管を邪魔板を貫通するように配置した固定床多管式反応器が提案されている。さらに、特許文献2では、シェル部の内径、欠円部における邪魔板端部とシェル部内壁との最大幅、欠円部を通る反応管が配置される領域の最大幅を特定範囲としている。
特許文献3には、邪魔板に反応管より大きい複数の孔を設け、孔のそれぞれに反応管を貫通させ、反応管の外周部と邪魔板の孔との間の空隙部分を熱媒体の流路とする固定床多管式反応器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−296921号公報
【特許文献2】特開2006−212629号公報
【特許文献3】特開平2−213696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、反応器内に設置する反応管の本数が減少し、反応に関与しない空間が増大するため、反応器の内部空間を充分に利用しているとはいえなかった。そのため、反応器の規模に対して反応生成物の量が少ない傾向にあった。
特許文献2では、反応器内部における温度差を必ずしも小さくできなかった。
特許文献3では、邪魔板に反応管径より大きい径の孔を形成するため、反応管の本数と太さが制限される傾向にあった。
本発明は、反応器内部における温度差を充分に小さくできる上に、反応器の内部空間を充分に利用でき、また、反応管の本数と太さが制限されない固定床多管式反応器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の固定床多管式反応器は、内部に熱媒体が流動する円筒状のシェル部と、該シェル部の内部にシェル部の軸方向に対して垂直に設置され、シェル部の内径より直径が小さい円板の一部が欠けた形状の欠円型邪魔板と、前記シェル部の内部にシェル部の軸方向に沿って設置された多数本の反応管とを具備する固定床多管式反応器であって、前記欠円型邪魔板の円周端部とシェル部の内壁との間の空隙の面積をS、円板の一部が欠けることによって形成された欠円型邪魔板の端部とシェル部の内壁との間の空隙の面積をSとした際に、面積比S/Sが0.001〜0.2の範囲にある。
本発明の固定床多管式反応器においては、前記欠円型邪魔板がシェル部の内部に複数設置され、各欠円型邪魔板ごとに面積比S/Sが異なることが好ましい。
本発明の固定床多管式反応器は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の固定床多管式反応器は、反応器内部における温度差を充分に小さくできる上に、反応器の内部空間を充分に利用でき、また、反応管の本数と太さが制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の固定床多管式反応器の一実施形態例を示す縦断面図である。
【図2】図1のI’−I’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の固定床多管式反応器(以下、「反応器」と略す。)の一実施形態例について説明する。
図1に、本実施形態例の反応器の縦断面図を示す。本実施形態例の反応器1は、円筒状のシェル部10と、シェル部10に3枚設置された欠円型邪魔板20a,20b,20cと、シェル部10の内部に設置された多数本の反応管30とを具備する。
また、反応器1は、全反応管30の下端を固定すると共にシェル部10の床部になる下側固定板40と、全反応管30の上端を固定すると共にシェル部10の天井部になる上側固定板50と、下側固定板40の下方に設けられた原料導入部60と、上側固定板50の上方に設けられた反応生成物排出部70と、下側固定板40よりも上方に設置され、シェル部10に熱媒体を導入する熱媒体導入管80と、上側固定板50よりも下方かつ熱媒体導入管80よりも上方に設置され、シェル部10から熱媒体を排出する熱媒体排出管90とを具備する。
【0010】
シェル部10は、内部に熱媒体が流動するものであり、本実施形態例においては、長手方向が鉛直方向に沿っている。
熱媒体としては特に限定はなく、通常、硝酸カリウムおよび亜硝酸ナトリウムを含む塩溶融物や、ビフェニルとジフェニルエーテルの3:7混合物(例えば、ダウケミカル社製ダウサム)等の有機熱媒体などが使用される。
【0011】
欠円型邪魔板20a,20b,20cは、図2に示すように、シェル部の内径より直径が小さい円板の一部が欠けた形状のものである。本実施形態例における欠円型邪魔板20a,20b,20cは、円板の一部が直線的に切除されたように欠けている。本明細書では、円板の一部が直線的に切除されたように欠けて形成された欠円型邪魔板20a,20b,20cの直線状の端部21のことを、「直線状端部21」という。
また、欠円型邪魔板20a,20b,20cは、シェル部10の軸方向に対して垂直に設置されている。本実施形態例では、シェル部10の軸方向が鉛直方向に沿っているから、欠円型邪魔板20a,20b,20cは水平に設置されている。
シェル部10の内壁10aと、欠円型邪魔板20a,20b,20cの直線状端部21との間には空隙Bが形成される。また、シェル部10の内壁10aと、欠円型邪魔板20a,20b,20cの直線状端部21以外の端部である円周端部22との間には空隙Aが形成される。
本実施形態例では、上段の欠円型邪魔板20aおよび下段の欠円型邪魔板20cについては、シェル部10の内部にて、空隙Bが熱媒体導入管80および熱媒体排出管90側と反対側に配置されるように、直線状端部21が配置されている。中段の欠円型邪魔板20bについては、シェル部10の内部にて、空隙Bが熱媒体導入管80および熱媒体排出管90側に配置されるように、直線状端部21が配置されている。また、欠円型邪魔板20a,20b,20cは間隔が一定になるように配置されている。
欠円型邪魔板20a,20b,20cは、シェル部10に取り付けられたサポートリングやサポートビーム(図示せず)によって固定されている。
また、欠円型邪魔板20a,20b,20cには、反応管30を貫通させるための孔23が形成されている。
【0012】
上記のように欠円型邪魔板20a,20b,20cを配置することにより、シェル部10の内部は、下側固定板40と下段の欠円型邪魔板20cの間の第1室11、下段の欠円型邪魔板20cと中段の欠円型邪魔板20bの間の第2室12、中段の欠円型邪魔板20bと上段の欠円型邪魔板20aの間の第3室13、上段の欠円型邪魔板20aと上側固定板50との間の第4室14に分割される。
第1室11と第2室12とは、主に、下段の欠円型邪魔板20cの直線状端部21とシェル部10の内壁10aとの間に生じる空隙Bにより連通状態にされている。また、第1室11と第2室12とは、欠円型邪魔板20cの円周端部22とシェル部10の内壁10aの間に生じる空隙Aによっても連通状態にされている。
第2室12と第3室13とは、主に、中段の欠円型邪魔板20bの直線状端部21とシェル部10の内壁10aとの間に生じる空隙Bにより連通状態にされている。また、第2室12と第3室13とは、欠円型邪魔板20bの円周端部22とシェル部10の内壁10aの間に生じる空隙Aによっても連通状態にされている。
第3室13と第4室14とは、主に、上段の欠円型邪魔板20aの直線状端部21とシェル部10の内壁10aとの間に生じる空隙Bにより連通状態にされている。また、第3室13と第4室14とは、欠円型邪魔板20cの円周端部22とシェル部10の内壁10aの間に生じる空隙Aによっても連通状態にされている。
したがって、熱媒体導入管80からシェル部10に導入された殆どの熱媒体は、第1室11、第2室12、第3室13、第4室14を経てシェル部10内をジグザグに上昇し、一部の熱媒体はシェル部10の内壁10aに沿って上昇し、熱媒体排出管90から排出されるようになっている。このように、欠円型邪魔板20a,20b,20cによって、殆どの熱媒体を上記のように流動させることにより、シェル部10の内部全体に熱媒体を流動させることができ、一部の熱媒体をシェル部10の内壁10aに沿って流動させることにより、熱媒体の利用効率を向上させることができる。
【0013】
本発明では、欠円型邪魔板20a,20b,20cの円周端部22とシェル部10の内壁10aとの間の空隙Aの面積をS、欠円型邪魔板20a,20b,20cの直線状端部21とシェル部10の内壁10aとの間の空隙Bの面積をSとした際に、面積比S/Sが0.001〜0.2の範囲にあり、0.005〜0.1の範囲にあることが好ましい。面積比S/Sが0.001未満であると、空隙Aを通過する熱媒体量が過少となり、この場合、空隙Bを通過する熱媒体の流れの一部に淀みが生じるため、淀みの箇所の除熱が不十分となり高温部が生じる。一方、面積比S/Sが0.2を超えると、空隙Aを通過する熱媒体量が過剰となり、第1室11、第2室12、第3室13、第4室14を通過する熱媒体量が減少するため、第1室11、第2室12、第3室13、第4室14における除熱が不十分となり高温部が生じる。
欠円型邪魔板20a,20b,20cの半径、欠けた部分の大きさは、上記面積比を満たす限りは特に限定されない。
面積比S/Sは、後述する理由により、各欠円型邪魔板20a,20b,20cごとに異なることが好ましい。
なお、反応器1は、熱媒体の熱や反応熱によって膨張を起こすため、目的の面積比S/Sにするためには、あらかじめ熱膨張の影響を考慮して反応器1を設計することが好ましい。
【0014】
本実施形態では、反応管30は、シェル部10の内部にて鉛直方向に沿って設置されている。
反応管30の断面形状は特に限定されず、円形状、楕円形状、多角形状や、それ以外の形状であってもよい。
反応管30の本数は特に制限はなく、反応生成物の必要量に応じて適宜選択される。上限については、反応器1を作製する際の加工機械によっても異なり、通常、数千本から数万本である。
反応管30の内径と長さには特に制限はないが、通常、内径が10〜50mm、長さが300〜10000mmの範囲である。
反応管30の材質としては、炭素鋼、ステンレス鋼などを使用することができる。
【0015】
反応管30には触媒が充填される。触媒としては、反応を目的通りに進行させる触媒であれば特に限定はされない。例えば、エステル化反応、エステル交換反応、付加反応によって(メタ)アクリル酸エステルを得る場合、または、イソブチレンの水和反応よってターシャリーブチルアルコールを得る場合には、強酸性カチオン交換樹脂などのイオン交換樹脂が固体触媒として使用することができる。
触媒の形状としては特に限定されず、球状、円柱状、リング状、星形状等が挙げられる。触媒の大きさは特に限定されないが、触媒径が過度に大きくなると活性が低下する傾向にあり、触媒径が過度に小さくなると、反応管内の圧力損失が大きくなる。このようなことから、通常、触媒径は0.1〜10mmの範囲にされる。
触媒は無担体であってもよく、担体に触媒を担持した担持触媒であってもよい。前記担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、シリコンカーバイト等の不活性担体が挙げられる。また、前記担体の形状としては、球状、円柱状、リング状、星形状等が挙げられる。
また、触媒を反応管30に充填する際には、触媒を、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリコンカーバイト、チタニア、マグネシア、セラミックボールやステンレス鋼等の不活性充填材で希釈してもよい。不活性充填材の形状としては、球形粒状、円柱形ペレット状、リング形状、星型状、鞍型状などが挙げられる。
また、触媒を複数の触媒層に分けて反応管30内に充填してもよく、その場合には触媒層同士の間に不活性充填材層を介在させてもよい。
【0016】
反応管30に触媒を充填する際には、触媒を反応管30ごと、または充填回ごとに管理目標量を計量し、計量した触媒を上部開口部から反応管に充填する。ここで、管理目標量は体積でも質量でもよいが、精度が高くなるという点で、質量が好ましい。管理目標量が体積の場合には反応管30の容積から、質量の場合には反応管30の容積と別途予備的に測定される触媒充填密度とから、管理目標量を求めることができる。
また、触媒を計量する際には、反応管30に充填する触媒量と管理目標量との差が、触媒量の平均値の±10%以内にすることが好ましく、±5%以内にすることがより好ましい。反応管30に充填する触媒量と管理目標量との差が、この範囲でない場合には、反応管30の触媒負荷が不均一となる場合がある。また、計量した触媒を反応管30に全て充填し終わる前に、反応管30が満たされる場合には、反応管30内での触媒のブリッジ等による充填ミスが考えられるので、その反応管30については触媒の再充填を行う必要がある。
【0017】
反応器1においては、熱媒体を熱媒体導入管80からシェル部10の内部に導入し、第1室11、第2室12、第3室13、第4室14の順に経由させ、熱媒体排出管90から排出させる。このようにシェル部10の内部に熱媒体を流動させる際、殆どの熱媒体は、上記空隙Bを通過するが、一部の熱媒体は上記空隙Aを通過する。
このようにシェル部10の反応管30の外側に熱媒体を流動させた状態で、原料を、原料導入部60を介して反応管30に導入して反応させる。その際、熱媒体によって反応管30への熱の供給または反応管30内にて発生した反応熱の除去を行う。
そして、反応管30から流出した反応生成物を、反応生成物排出部70を介して反応器1から次の工程に供給する。
【0018】
上記反応器1は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に好適に用いられる。以下、反応器1を用いたメタクリル酸製造の具体例について説明する。
まず、上記反応器1を用いたメタクリル酸の製造では、反応管30の内部にメタクリル酸製造用触媒の触媒層をあらかじめ形成しておく。触媒層は1層であってもよいし、2層以上であってもよい。
【0019】
触媒層を構成するメタクリル酸製造用触媒としては、組成が下記式(1)で表される複合酸化物が好ましい。
MoCu (1)
(式中、Mo、P、Cu、VおよびOは、それぞれモリブデン、リン、銅、バナジウムおよび酸素であり、Xは鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタンおよびセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはカリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。a、b、c、d、e、fおよびgは、各元素の原子比率を表し、a=12のとき、b=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0〜3、f=0.01〜3であり、gは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
また、触媒層には、メタクリル酸製造用触媒の他に他の添加成分が混合されていてもよい。他の添加成分としては、上記不活性充填材担体が挙げられる。
【0020】
触媒層形成後、熱媒体を熱媒体導入管80からシェル部10の内部に導入し、欠円型邪魔板20a,20b,20cによって段状に分割された第1室11、第2室12、第3室13、第4室14を流動させ、熱媒体排出管90から排出させる。その際、殆どの熱媒体は、各欠円型邪魔板20a,20b,20cの直線状端部21とシェル部10の内壁10aとの空隙Bを通過するが、一部の熱媒体は、各欠円型邪魔板20a,20b,20cの円周端部22とシェル部10の内壁10aとの空隙Aを通過する。
それと共に、少なくともメタクロレインと分子状酸素とを含む原料ガスを、原料導入部60を介して反応管30に導入し、触媒層にてメタクロレインと分子状酸素とを反応させる。反応によって生じた反応熱は反応管30の外側を流動する熱媒体によって除熱する。反応管30から流出した反応生成物は、反応生成物排出部70を介して反応器1から次の工程に送られる。
【0021】
原料ガスに含まれるメタクロレインの濃度は適宜選択できるが、1〜20容量%が好ましく、3〜10容量%がより好ましい。
原料ガスは、メタクロレインに空気を混合し、空気に含まれる分子状酸素を利用することが経済的である点で好ましいが、メタクロレインに、純酸素を混合した空気を混合しても構わない。
原料ガス中の酸素量は、メタクロレインに対して0.3〜4倍モルが好ましく、0.4〜2.5倍モルがより好ましい。
また、原料ガスは、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈されていることが好ましい。
【0022】
気相接触酸化における反応圧力は、常圧(0MPaG(ゲージ圧))から数気圧(例えば0.3MPa)の範囲内が好ましい。
反応温度は、230〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。
原料ガスの流量は特に限定されないが、通常、原料ガスをメタクリル製造用触媒との接触時間が1.5〜15秒となる流量が好ましく、該接触時間が2〜5秒となる流量がより好ましい。
【0023】
以上説明した反応器1では、直線状端部21とシェル部10の内壁10aとの間の空隙Bに殆どの熱媒体を流動させると共に、円周端部22とシェル部10の内壁10aとの間の空隙Aにも、ある程度の熱媒体を流動させておくことで、シェル部10の内部にて複雑な流れを形成できる。これにより、熱媒体が有する除熱能力を充分に利用できるため、局所的な発熱が生じた場合でも、温度上昇を抑えることができ、反応器1の内部における温度差を充分に小さくできる。また、面積比S/Sが各欠円型邪魔板20a,20b,20cごとに異なる場合には、空隙Aを流動する熱媒体量と空隙Bを流動する熱媒体量の比率が異なるようになるため、シェル部10の内部にてより複雑な流れを形成できる。これにより、反応器1の内部における温度差をより小さくできる。
また、反応器1では、特許文献1のように、シェル部10の内部に反応には寄与しない整流棒群を設ける必要はないから、反応器1の内部空間を充分に利用でき、また、特許文献3のように、邪魔板の、反応管30を貫通させる孔に熱媒体を通過させないから、反応管30の本数と太さは制限されない。
さらには、反応器1では、反応器1の内部での温度差を小さくするために、熱媒体の流動に要するエネルギーを増やす必要はなく、新たな設備の導入の必要もない。
【0024】
なお、本発明は上記実施形態例に限定されない。例えば、シェル部10内部における欠円型邪魔板の設置枚数は3枚でなくてもよく、1枚であってもよいし、2枚であってもよいし、4枚以上であってもよい。欠円型邪魔板の枚数が偶数である場合、熱媒体排出管のシェル部における取り付け位置は、熱媒体導入管に対して180°の位置とする。
また、本発明では、熱媒体をシェル部の上から下に向かって流動させてもよい。また、反応管の内部での反応原料ガスの通過方向は上から下に向かう方向であってもよい。
また、欠円型邪魔板は、円板の一部が曲線的に切除されたように欠けていてもよいし、円板の一部が楔形に切除されたように欠けていてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 反応器
10 シェル部
10a 内壁
11 第1室
12 第2室
13 第3室
14 第4室
20a,20b,20c 欠円型邪魔板
21 直線状端部
22 円周端部
30 反応管
40 下側固定板
50 上側固定板
60 原料導入部
70 反応生成物排出部
80 熱媒体導入管
90 熱媒体排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に熱媒体が流動する円筒状のシェル部と、該シェル部の内部にシェル部の軸方向に対して垂直に設置され、シェル部の内径より直径が小さい円板の一部が欠けた形状の欠円型邪魔板と、前記シェル部の内部にシェル部の軸方向に沿って設置された多数本の反応管とを具備する固定床多管式反応器であって、
前記欠円型邪魔板の円周端部とシェル部の内壁との間の空隙の面積をS、円板の一部が欠けることによって形成された欠円型邪魔板の端部とシェル部の内壁との間の空隙の面積をSとした際に、面積比S/Sが0.001〜0.2の範囲にある固定床多管式反応器。
【請求項2】
前記欠円型邪魔板がシェル部の内部に複数設置され、各欠円型邪魔板ごとに面積比S/Sが異なる、請求項1に記載の固定床多管式反応器。
【請求項3】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、請求項1または2に記載の固定床多管式反応器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−245394(P2011−245394A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119400(P2010−119400)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】