説明

固形バイオマスの可溶化方法及び処理方法

【課題】本発明の目的は、固形バイオマスを含む廃棄物を、低コストで、効率的かつ簡便に可溶化、及び処理する技術を提供することである。
【解決手段】固形バイオマスを含む廃棄物の可溶化処理において、メタン発酵汚泥又はその液体画分の存在下で当該廃棄物を70〜90℃の温度で加熱処理することにより得られた可溶化処理物から液体画分を抜き取った残余を可溶化汚泥として使用して、当該廃棄物を当該可溶化汚泥70〜90℃の温度で加熱処理することによって、当該廃棄物の可溶化効率が格段に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形バイオマスを含む廃棄物を、効率的且つ簡便に可溶化又はバイオガス化するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機性廃棄物の処理方法として、廃棄物を可溶化し、その後、可溶化物をメタン発酵させる手法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。このような処理方法は、廃棄物からのエネルギー(メタンガス)の回収および廃棄物量の軽減が可能となるため、地球環境保全の重要性や省エネルギーの観点から今日注目されている技術である。
【0003】
しかしながら、有機性廃棄物に、固形バイオマス、特にバガス等のセルロース系有機物が含まれている場合には、これまでに知られているような通常の可溶化・メタン発酵方法では、可溶化処理が十分に行われず、結果としてバイオガスへの変換効率も低くなることがあり、更なる改良が求められている。
【0004】
また、有機性廃棄物を可溶化する技術として、メタン発酵汚泥を利用することにより、効率的な可溶化が実現できることも知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、メタン発酵汚泥は、メタン発酵能が優れ、本来、有機物の可溶化能自体は卓越した状態にないと考えられるところ、これまで、メタン発酵汚泥を利用して有機物を可溶化する技術については、更なる改良技術の検討が十分になされていないのが現状である。
【0005】
昨今、石油資源の枯渇や石油資源の利用による環境破壊が深刻な社会問題となっており、グリーン技術やバイオマスの有効利用が注目を浴びている状況の下、有機性廃棄物をバイオガスに変換する従来技術を改良し、エネルギー変換効率を更に向上させる技術の確立が強く要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−229550号公報
【特許文献2】特開2006−15331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、固形バイオマスを含む廃棄物を、低コストで、効率的かつ簡便に可溶化、及び処理する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、固形バイオマスを含む廃棄物の可溶化処理において、メタン発酵汚泥の存在下で当該廃棄物を70〜90℃の温度で加熱処理することにより得られた可溶化処理物から液体画分を抜き取った残余を可溶化汚泥として使用して、当該廃棄物を当該可溶化汚泥70〜90℃の温度で加熱処理することにより、当該廃棄物の可溶化効率が格段に向上することを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる処理方法である:
項1. 固形バイオマスを含む廃棄物を可溶化する方法であって、
可溶化汚泥の存在下で前記廃棄物を70〜90℃の温度で加熱処理する可溶化工程を含み、
可溶化汚泥として、メタン発酵汚泥又はその液体画分の存在下で前記廃棄物を70〜90℃の温度で加熱処理することにより得られた可溶化処理物から液体画分を抜き取った残余を使用する、
廃棄物の可溶化方法。
項2. 可溶化工程の後に、得られた可溶化処理物の液体画分を抜き取る抜取工程を含む、項1に記載の可溶化方法。
項3. 抜取工程によって液体画分を抜き取られた可溶化処理物の残余を可溶化汚泥として使用して、前記可溶化工程を繰り返し行う、項2に記載の可溶化方法。
項4. 固形バイオマスを含む廃棄物の処理方法であって、
項2又は3に記載の可溶化方法によって、前記廃棄物を可溶化処理して、可溶化処理物の液体画分を得る第I工程、及び
前記I工程で得られた液体画分をメタン発酵処理する第II工程、
を含む、処理方法。
項5. 第II工程のメタン発酵が、上向流式嫌気性汚泥床法により行われる、項4に記載の処理方法。
【発明の効果】
【0010】
固形バイオマスを含む廃棄物をメタン発酵汚泥の存在下で70〜90℃の温度で加熱処理することにより得られた可溶化処理物から液体画分を抜き取った残余は、可溶化能が高い微生物が高濃度で蓄積されており、前記廃棄物の可溶化能が格段に向上している。そのため、当該残余を可溶化汚泥として使用して、固形バイオマスを含む廃棄物の可溶化を70〜90℃の温度条件で行うことによって、当該廃棄物の可溶化効率を顕著に向上させることができる。このように、本発明の可溶化方法では、メタン発酵汚泥よりも可溶化能が優れた汚泥を利用して可溶化するため、メタン発酵汚泥を利用する従来の可溶化方法よりも、優れた可溶化率を実現することが可能になる。
【0011】
また、本発明の可溶化方法は、固形バイオマスを含む廃棄物を高い可溶化率で可溶化するため、得られた可溶化処理物をメタン発酵処理に供すると、高効率でバイオガス(メタンガス)への変換が可能になる。とりわけ、本発明の可溶化方法で得られた可溶化処理物の液体画分は、微生物によって利用可能な低分子有機物が豊富に含まれているため、メタン発酵によってバイオガス化するのに特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の可溶化処理における可溶化率の変化を経時的に測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.可溶化方法
本発明の可溶化方法は、固形バイオマスを含む廃棄物を可溶化する方法であって、可溶化汚泥の存在下で前記廃棄物を70〜90℃の温度で加熱処理する可溶化工程を含み、可溶化汚泥として、メタン発酵汚泥又はその液体画分の存在下で前記廃棄物を70〜90℃の温度で加熱処理することにより得られた可溶化処理物から液体画分を抜き取った残余を使用することを特徴とする。以下、本発明の可溶化方法について、詳細に説明する。
【0014】
<固形バイオマスを含む廃棄物>
本発明の可溶化方法に供される廃棄物とは固形バイオマスを含むものであれば特に制限されないが、例えば、動物又は植物由来のものが挙げられる。具体的な例としては、木質系バイオマス、セルロース系廃棄物、厨芥、生ゴミ、生ゴミの乾燥物、食品工場廃棄物、家畜糞尿・下水汚泥・し尿汚泥等のバイオマス、畜産廃棄物(家畜のし尿と、わら、おがくず等との混合物)等、固形バイオマスを多く含む廃棄物である。なかでも本発明の可溶化方法は、特に、バガス、キャッサバ、トウモロコシ等の作物から食糧、飼料、もしくはバイオ燃料として炭水化物を利用した後のセルロース系廃棄物を含むバイオマスを処理する場合に有効である。
【0015】
なお、本発明の可溶化方法に供される廃棄物には、固形バイオマス以外に、可溶性の有機物や水分が含まれていてもよいが、本発明の処理方法は、特に固形バイオマスを含む廃棄物に対して効率的な処理を行うことができるので、これら廃棄物中の固形物の割合は、30〜90重量%程度であることが好ましい。
【0016】
<可溶化汚泥>
本発明の可溶化方法では、メタン発酵汚泥又はその液体画分の存在下で前記廃棄物が可溶化処理された可溶化処理物(以下、可溶化汚泥原料と表記することもある)から液体画分を全部又は一部抜き取った残余部分(以下、可溶化汚泥と表記することもある)を利用して、前記廃棄物の可溶化を行う。
【0017】
可溶化汚泥原料は、具体的には、メタン発酵汚泥又はその液体画分の存在下で前記廃棄物を70〜90℃の温度で加熱処理することによって作製される。メタン発酵汚泥とは、メタン発酵中又メタン発酵後の汚泥であり、通常のメタン発酵を行っているメタン発酵槽内から得ることができる。また、メタン発酵汚泥の液体画分とは、メタン発酵汚泥を固液分離することにより得られる液体画分であり、メタン発酵汚泥を膜濾過処理や遠心分離等の公知の固液分離処理することにより得ることができる。
【0018】
可溶化汚泥原料の調製において、前記廃棄物とメタン発酵汚泥又はその液体画分との混合比については、特に制限されるものではないが、前記廃棄物の乾燥重量100重量部当たり、メタン発酵汚泥又はその液体画分を10〜1000重量部、好ましくは100〜500重量部が挙げられる。
【0019】
また、可溶化汚泥原料の調製時の加熱条件としては、70〜90℃の範囲内であればよいが、可溶化能がより優れた可溶化汚泥を作製するためには、好ましくは75〜85℃、更に好ましくは78〜83℃が挙げられる。一般的に、60℃以上の温度条件ではメタン細菌は生育できないため、70〜90℃の温度条件によって作製される可溶化汚泥原料には、メタン細菌以外の微生物が馴化されて残存すると考えられる。
【0020】
また、可溶化汚泥原料の調製時の加熱時間としては、前記廃棄物とメタン発酵汚泥又はその液体画分との混合比、加熱条件等に応じて適宜設定されるが、例えば、1〜96時間、好ましくは12〜72時間、更に好ましくは24〜48時間が例示される。
【0021】
可溶化汚泥原料の調製は、嫌気雰囲気又は好気雰囲気のいずれで行ってもよいが、好ましくは嫌気雰囲気である。
【0022】
斯くして調製された可溶化汚泥原料から、液体画分を抜き取ることにより可溶化汚泥が作製される。可溶化汚泥原料から液体画分の抜き取りは、スクリーン分離、沈殿分離、膜分離、遠心分離等の公知の固液分離方法によって行うことができる。可溶化能が優れた微生物を効率的に可溶化汚泥中に高濃度化するという観点から、好ましくは膜分離が挙げられる。膜分離により可溶化汚泥を調製する好適な一態様として、可溶化処理槽内に、液体画分を透過し且つ固体画分を透過しない膜を備えた膜分離手段を設け、当該膜分離手段を介して可溶化槽内の可溶化汚泥原料から液体画分を排出する方法が例示される。
【0023】
また、可溶化汚泥は、可溶化汚泥原料から液体画分を抜き取ることにより作製されるが、その液体画分の抜き取り量については、可溶化汚泥原料に含まれる液体画分の全部又は一部のいずれであってもよい。つまり、可溶化汚泥とは、液体画分を含まない場合及び液体画分を含む場合の双方を意味する。具体的には、液体画分の抜き取り量として、可溶化汚泥原料100重量部当たり、1〜50重量部、好ましくは1〜10重量部が例示される。
【0024】
斯くして調製された可溶化汚泥は、可溶化能が高い微生物が高濃度で蓄積されており、前記廃棄物の可溶化能が格段に向上している。
【0025】
<可溶化工程>
可溶化汚泥の存在下で前記廃棄物を70〜90℃の温度で加熱処理することにより、前記廃棄物の可溶化が行われる。本可溶化処理では、上記可溶化汚泥のみを利用し、メタン発酵汚泥又はその液体画分を別段添加しないため、可溶化汚泥が前記廃棄物以外で希釈されることなく高濃度に維持でき、可溶化効率を格段に高めることが可能になる。
【0026】
本可溶化処理において、前記廃棄物と可溶化汚泥の混合比については、特に制限されるものではないが、前記廃棄物の乾燥重量100重量部当たり、可溶化汚泥が10〜10000重量部、好ましくは100〜500重量部となる範囲が挙げられる。
【0027】
本可溶化処理時の加熱条件としては、70〜90℃の範囲内であればよいが、前記廃棄物を一層効率的に可溶化するためには、好ましくは75〜85℃、更に好ましくは78〜83℃が挙げられる。
【0028】
また、本可溶化処理時の加熱時間としては、前記廃棄物と可溶化汚泥との混合比、加熱条件等に応じて適宜設定されるが、例えば、1〜96時間、好ましくは12〜72時間、更に好ましくは24〜48時間が例示される。
【0029】
本可溶化処理において、加熱温度の維持には、重油、都市ガス、電力等をエネルギー源として利用してもよいが、後述するメタン発酵処理を行う場合には、当該メタン発酵処理で発生するメタンガスを用いて、熱と電力を得るコジェネレーション手段(ガスエンジン、燃料電池等)により得られる排熱を利用することが望ましい。
【0030】
本可溶化処理は、嫌気雰囲気又は好気雰囲気のいずれで行ってもよいが、好ましくは嫌気雰囲気である。
【0031】
なお、本発明において、「可溶化」とは、廃棄物に含まれる固形バイオマスの全てが水中に可溶化している程度に低分子化されていることに限らず、前記廃棄物に含まれる不溶化有機物の内、好ましくは20重量%以上程度、より好ましくは25重量%以上程度が水に溶ける程度まで低分子化されることを意味する。
【0032】
<抜取工程、及びその後の可溶化工程>
斯くして得られた可溶化処理物は、そのままメタン発酵処理等の生物処理に供してもよいが、可溶化処理物から液体画分を抜き取る抜取工程に供した後、その液体画分をメタン発酵処理等の生物処理に供し、液体画分が抜き取られた可溶化処理物の残余を可溶化汚泥として再度可溶化処理に利用することが好ましい。上記抜取工程によって液体画分が抜き取られた可溶化処理物の残余は、可溶化能が一層高まっており、上記可溶化工程における可溶化汚泥として好適に利用される。上記抜取工程において、可溶化処理物から液体画分を抜き取る方法や量については、前記可溶化汚泥原料から液体画分を抜き取る場合と同様である。なお、液体画分が抜き取られた可溶化処理物の残余を可溶化汚泥として使用する場合、当該残余の全量を可溶化汚泥として使用しても、またその一部を可溶化汚泥として使用してもよい。可溶化汚泥として使用される当該残余の量は、可溶化処理に供される前記廃棄物の量に応じて適宜設定される。
【0033】
本発明の可溶化方法では、上記抜取工程、及び液体画分が抜き取られた可溶化処理物の残余を可溶化汚泥として使用する可溶化工程を1回若しくは複数回繰り返し行うことができる。このように、上記抜取工程及び可溶化工程を繰り返し行う程、可溶化汚泥の可溶化能が高まり、一層効率的な可溶化が実現される。特に、上記抜取工程と可溶化工程を1回以上、好ましくは2回以上繰り返し行うことによって、可溶化処理時の可溶化効率を格段に向上させることが可能になる。
【0034】
2.メタン発酵による処理
上記可溶化処理によって得られた液体画分又は可溶化処理物は、メタン発酵処理に供して処理することができる。本メタン発酵処理によって、上記可溶化処理によって得られた液体画分又は可溶化処理物中の有機物の内、メタン発酵菌により利用可能な有機物が、メタンと二酸化炭素に分解される。なお、本工程におけるメタン醗酵は、従来公知のメタン発酵菌及びメタン発酵槽を用いて嫌気性雰囲気で行うことができる。
【0035】
上記可溶化処理によって得られた液体画分をメタン醗酵に供する場合、メタン発酵の方式については特に制限されず、例えば、上向流式嫌気性汚泥床法(UASB)、嫌気性流動床法(AFBR)、上向流式嫌気性濾床法(UAFP)、下向流式嫌気性嫌気性濾床法(AFFP)等の液体画分のメタン発酵処理に適用される方式のいずれであってもよいが、好ましくは上向流嫌気性汚泥床法が挙げられる。液体画分のメタン発酵処理における温度条件については、使用するメタン発酵菌発酵菌の種類に応じて広い温度範囲から適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、一般には20〜60℃程度であればよく、例えば、30〜35℃程度のいわゆる中温でも、50〜55℃程度のいわゆる高温でもよい。また、液体画分のメタン発酵処理における処理時間についても、処理対象物の量、使用するメタン発酵菌の種類、発酵温度、発酵形態等によって異なり、一律に規定することはできないが、滞留時間が通常1〜24時間、好ましくは4〜8時間となる範囲が例示される。このようにしてメタン発酵処理された後に排出される排水は、必要に応じて活性汚泥処理などの水処理に供してもよい。
【0036】
また、上記可溶化処理によって得られた可溶化処理物(液体画分を抜き取っていないもの)をメタン醗酵に供する場合、メタン発酵は、湿式または乾式のいずれで行ってもよく、また、浮遊床方式または固定床方式のいずれであってもよい。湿式または乾式によるメタン発酵の温度条件は、用いるメタン発酵菌の種類に応じて広い温度範囲から適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、一般には20〜60℃程度であればよく、例えば、35℃程度のいわゆる中温でも、55℃程度のいわゆる高温でもよい。湿式または乾式によるメタン発酵の処理時間としては、処理対象物の量、使用するメタン発酵菌の種類、発酵温度、発酵形態等によって異なり、一律に規定することはできないが、通常10〜30日、好ましくは10〜20日を挙げることができる。湿式または乾式によるメタン発酵で得られたメタン発酵処理物は、必要に応じて、そのまま、或いは固液分離をした後の液体分を、活性汚泥処理などの水処理に供してもよい。また、湿式または乾式によるメタン発酵で得られたメタン発酵処理物を固液分離した固形画分(汚泥)は、一部又は全部を、メタン発酵に再度供することもできる。この操作により、固形分が更に徹底的に分解されるので、廃棄固形分量が更に低減でき、メタンガス発生量も増大するというメリットが得られると共に、メタン細菌が系内に返送されるので、メタン発酵の安定度が向上するというメリットも得られる。但し、返送比を大とすると、メタン発酵槽内の固形分濃度が上昇するため、メタン発酵槽内の攪拌やポンプ輸送の面では不利となる面もあるので、これらを総合的に判断した上で、返送量を決めるとよい。
【0037】
本メタン発酵処理において、嫌気性雰囲気の調製・維持は、二酸化炭素、窒素、アルゴン、水素、天然ガス、メタン、都市ガス等を用いて行うことができる。また、必要に応じて、硫化ナトリウムなどの酸素除去剤を使用してもよい。
【0038】
本メタン発酵処理で発生するメタンガスをバイオガスとして回収することにより、発電して排熱エネルギーとして利用できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1 可溶化処理
本試験では、固形バイオマスとしてハードタイプのドッグフードを使用し、ドッグフードが4.5重量%となるように水を加え、これをモデル廃棄物として試験した。また、可溶化槽としては、その側面に、固体画分を透過させないが液体画分を透過させる平膜(膜面積1200m2)が設置されており、実効容積10Lのものを使用した。
【0041】
発酵温度が55℃で運転されているメタン発酵施設の発酵槽内から採取されたメタン発酵汚泥(固形分1重量%以上)5400gを予め可溶化槽に投入し、更にモデル廃棄物600gを可溶化槽に投入し、嫌気雰囲気で80℃で1日間加熱処理を行った。加熱処理1日後に、可溶化槽に設けられた平膜を介して、可溶化槽内の可溶化処理物から液体画分400gを抜き取り、更に可溶化槽内の液体画分抜き取り後の可溶化処理物の残余200gを抜き取った。次いで、可溶化槽内に新たにモデル廃棄物600gを投入して上記と同条件で加熱処理を行った。この抜き取り作業と加熱処理を合計30日間繰り返し実施した。
【0042】
試験に使用したモデル廃棄物のCODcr(重クロム酸カリウムを用いて測定した科学的酸素要求量)と、可溶化処理物から抜き取られた液体画分のCODcrを測定し、下記式に従って、可溶化率を測定した。
【0043】
【数1】

【0044】
得られた結果を図1に示す。この結果から、試験開始当初50%程度であった可溶化率が次第に上昇し、開始2週間後程度から73%程度で安定した。本結果から、高温で運転している可溶化槽内から、液体画分を抜き取った残余(可溶化汚泥)を高温での可溶化処理に利用することによって、可溶化汚泥の可溶化能が向上し、可溶化率が20%程度も程度向上することが明らかとなった。
【0045】
実施例2 メタン発酵処理
上記実施例1の試験最終日に可溶化処理物から抜き出した液体画分1gを、発酵温度が55℃で運転されているメタン発酵施設の発酵槽内から採取されたメタン発酵汚泥(固形分1重量%以上)19gと混合し、55℃で嫌気雰囲気で24時間保持して、メタン発酵を行った。24時間後のメタンガス発生量を測定したところ、メタン発酵に供した液体画分のCODcrの全てがメタンガスに変換されていることが確認された。
【0046】
また、上記実施例1の試験最終日に得られた可溶化処理物の液体画分抜き取り後の可溶化処理物の残余1gを用いて、上記と同条件でメタン発酵を行い、20日後のメタン発生量を測定したところ、メタン発酵に供した可溶化処理物のCODcrの70%がメタンガスに変換されていることが確認された。
【0047】
比較例1 可溶化処理
本試験では、固形バイオマスとしてハードタイプのドッグフードを使用し、ドッグフードが10重量%となるように水を加え、これをモデル廃棄物として試験した。
【0048】
上記モデル廃棄物600gを80℃で1日間加熱して可溶化処理を行った。可溶化処理によって、得られた可溶化処理物から、膜分離により液体画分400gを抜き取り、液体画分400gと、液体画分が抜き取られた可溶化処理物の残余200gに別けた。
【0049】
液体画分に含まれるCODcr(溶解性CODcr)と、可溶化処理物全体に含まれるCODcr(全CODcr)を測定した。
【0050】
その結果、全CODcrに対する溶解性CODcrの割合は45%であり、モデル廃棄物が十分に可溶化できていなかった。
【0051】
比較例2 メタン発酵処理
上記比較例1の可溶化処理後の可溶化処理物から分離された液体画分1gを、上記実施例2と同条件でメタン発酵処理に供した。24時間後にメタンガス発生量を測定したところ、メタン発酵に供した液体画分のCODcrの全てがメタンガスに変換されていることが確認された。
【0052】
また、上記比較例1の可溶化処理後に、液体画分が抜き取られた可溶化処理物の残余1gを、上記実施例2と同条件でメタン発酵処理に供した。24時間後のメタン発生量を測定したところ、メタン発酵に供したCODcr内、60%がメタンガスに変換されているに止まっていた。
【0053】
総合考察
上記実施例1−2と比較例1−2の可溶化処理及びメタン発酵処理後のCODcr換算のマスバランスを纏めた結果について、表1に示す。この結果から明らかなように、比較例1−2のプロセスでは、バイオガス化の効率が低く、バイオマスを有効利用できていなかったが、実施例1−2のプロセスを経ることによって、格段顕著にバイオガス化効率が向上していた。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形バイオマスを含む廃棄物を可溶化する方法であって、
可溶化汚泥又はその液体画分の存在下で前記廃棄物を70〜90℃の温度で加熱処理する可溶化工程を含み、
可溶化汚泥として、メタン発酵汚泥の存在下で前記廃棄物を70〜90℃の温度で加熱処理することにより得られた可溶化処理物から液体画分を抜き取った残余を使用する、
廃棄物の可溶化方法。
【請求項2】
可溶化工程の後に、得られた可溶化処理物の液体画分を抜き取る抜取工程を含む、請求項1に記載の可溶化方法。
【請求項3】
抜取工程によって液体画分を抜き取られた可溶化処理物の残余を可溶化汚泥として使用して、前記可溶化工程を繰り返し行う、請求項2に記載の可溶化方法。
【請求項4】
固形バイオマスを含む廃棄物の処理方法であって、
請求項2又は3に記載の可溶化方法によって、前記廃棄物を可溶化処理して、可溶化処理物の液体画分を得る第I工程、及び
前記I工程で得られた液体画分をメタン発酵処理する第II工程、
を含む、処理方法。
【請求項5】
第II工程のメタン発酵が、上向流式嫌気性汚泥床法により行われる、請求項4に記載の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−206738(P2011−206738A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79267(P2010−79267)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】